仮面ライダーシンフォギア   作:tubaki7

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第八話 嵐の後で

 香ばしいソースの薫りと鉄板の上でものを焼く音。嗅覚と聴覚だけで既に空腹感が頂点に達しているようで、先ほどから腹の虫が鳴き止まない。それは隣に座る親友も同じようで、顔を少し赤らめながらも視線は鉄板の上のもので固定されたまま動かない。

 

「よっと」

 

 二つのコテを器用に使い、クルリとひっくり返す。程よい焼き加減で返されたソレはもう食べごろのようで、最後にソース、マヨネーズと鰹節をふりかけて完成した。その鮮やかな手際に思わず「おお・・・」と声が零れた。食べやすいよう切り分け、個々の皿に取り分ける。

 

「ほい、おまちど」

 

 奏太のその一言を皮切りに響がまるで猛獣が如き食べっぷりを見せる。それを見て顔からみるみる血の気が引いていくのを感じながら、奏太は開いた口が塞がらなかった。もしあの時コイツにも同じ約束をしていたら・・・・そう考えるだけでゾッとする。

 

「話には聞いてたがすげぇな・・・」

「響ってば今朝から何も食べてなかったんですよ。いつもならしっかり朝ごはん食べるのに」

 

 朝食を抜いた程度でこの、さながら吸引力のもの凄い掃除機で吸ってるかのように見えてくる。その割にはちゃんと咀嚼しているのだから妙な所はキッチリしているというか、何というか。

 

「ほら、アンタも食えよ」

「う、うん。いただきます」

 

 熱々な為、恐る恐る口に運ぶ未来。ハフハフと口の中で冷ましながらも咀嚼し、飲みこむ。その美味しさに目を見開き、それまでの可愛らしい、小動物でも連想させるような小口での食べっぷりが変貌する。響とまではいかないが、それでもそれなりにガッツく未来の姿に奏太は満足そうに頷く。

 

「美味しいッ!」

 

 そう叫んだのは、二人同時だった。

 

「そうか、なら良かった」

「そのメニューね、ソウ君が考えたんだよ」

「ちょっ、おばちゃん!」

「へえ、ソウ君(・・・)って料理できたんだ?」

 

 ふと、響の呼び方にひっかかりを覚える未来。いつの間にかあだ名になっていて、その事にいつの間にと小首をかしげる。

 

「あのな、俺は一人暮らしだっつったろ。これぐらいはできて当然だ」

「ふーん、今度食べたい!」

「命がけでも拒否させてもらう」

「酷いっ!」

 

 その後も売り言葉に買い言葉で言い争いをする二人を見る。明らかに出逢った頃よりも二人の距離が近くなっている、そのことが嬉しいようで、どこか少し複雑な心境を抱く未来であった。暫くして漸く空腹も満たされた二人は店を出て行く。それを見送ってから奏太もシフト終わりで本部へと足を運んだ。相変わらず心臓に悪いエレベーターに乗り、リディアン音楽院の地下深くへと運ばれる。

 

「この絶叫マシンがエレベーターでってんだから設計者は絶対狂ってる・・・オエ」

 

愚痴を零し、こみあげるモノをなんとか堪えつつエレベーターという名の絶叫マシンから生還した奏太を出迎えたのは何かが破裂するような音が複数。直後にふわっと頭に何かが乗ったのでそれを手で掴んで見る。紙テープだ。

 

「改めてようこそ奏太君!特異災害対策機動部二課へ!」

「・・・・俺、協力するとは言ったけど所属するなんて一言も言ってないんだけど」

「まあまあそう言ってくれるな。この通り料理も色々用意したんだぞ?」

「アンタが話があるっていうから来ただけなんだけど。後、あの悪趣味なエレベーターのせいで今めちゃくちゃグロッキー」

 

 心底気怠そうに弦十郎をあしらう奏太。顔色を真っ青にしながら、「オエ」と吐きそうになっている姿を見かねた友里あおいが、温かいスープの入ったコップを持ってくる。中身はコンソメスープ程よい出汁と塩加減でホッと息をつく。少しは落ち着いたと礼を一言述べ、もう一度弦十郎を見た。

 

「ンで、俺に用って何?」

「うむ。それはだな」

 

 言いかけて、その先を櫻井了子が遮った。白衣をひらりと翻しながら登場してきたそのテンションの高さにウンザリしながらも溜息を零す。

 

「あら、そんな溜息ばかりついてたら幸せが逃げるわよ?」

「元からンな幸せなんてもの持ち合わせてないんで。俺を呼んだってことは、ベルトのこと?」

「そうねぇ、それ半分もう半分ってとこかしら。まずは・・・はい、これ」

 

 そう言って手渡されたのは三枚の真っ白なディスク。カノンに変身する時に使用するディスクと同じ大きさのそれはホルダーのようなものに入っており、ちょうどベルトを展開して腰からさげられるような仕様になっているようだ。

 

「以前調べさせてもらった時にちょっと閃いたのよ。システムの拡張を狙った新ディスクで、その能力はまだ未知数。そこで、奏太君の持ってる能力で役立てられないかなって」

「能力?」

「そう。ベルトに記憶されていた遺伝子データを解析してたら、どうやら貴方には他の人にはない特別な力があるみたいなの。ホラ、ノイズの出現を感知するのだって私達より遥かに速いでしょ?・・・って、難しい話になっちゃうわね。要するに、その第六感がこのディスクの真価を発揮させられるかもって思ったのよ。だから受け取ってちょうだい」

 

 そういうことなら、と素直に受け取る。

 

「もう一つは?」

「それについては、私が」

 

 そう言って現れたのは青い髪をサイドテールにした風鳴 翼だ。普段の髪型とは異なる為か、奏太の中での彼女の印象が「とっつきにくい女」であった為か。今の彼女は少々割り増しで可憐に見える。少しまじまじと見すぎた、と被りを振る。

 

「どうかした?」

「いや、別に・・・で、なんでアンタなの」

「ああ。口で説明するよりも見てもらった方が早いだろう。ついてきて」

 

 促されるまま、奏太は翼に続いて司令室を出る。向かったのは・・・格納庫のような場所。広さ的には車庫のような感じで、照明のスイッチを入れればその空間にあるモノがはっきりと見える。並ぶ二台のバイク。一台は青と白で塗装されたもの。もう一つはライトグレーの車体。各パーツのメタリックシルバーと相まって無骨な印象を受けるが、全体的なラインはシャープな印象を受ける。静かに佇む二台は己の主を待っているかのよう。そんな姿を、奏太は階段を降りながら息を呑みつつ見つめた。

 

「すっげぇな・・・あの青い奴、相当手入れされてる・・・モデルは、刀か?」

「わかるかッ!?」

 

 前を歩いていた翼が急に目を輝かせてこちらに振り返る。

 

「あ、ああまあ・・・」

「そうか・・・きみにはこのマシンの良さがわかるか・・・うんうん」

 

 満足そうに頷く翼。つい最近まで険悪だっただけに、その印象が強い奏太としては今の彼女に面を喰らう。日本のトップアーティストが、この反応。まさかバイクの趣味があったとは想像もしなかった。そこからテンションの上がりきった翼は聞いてもいないのに自分の愛車についてマシンガンのように喋り出す。目をキラキラと輝かせ、まるで子供のように。普段はノイズを倒す、人類守護の防人などと言っているが、こういう時は一人の女の子としての顔を見せるのが少しホッとする気持ちにもなる。別にファンという訳ではないが、こういうのを見ると得した気分になる。

 しかし彼女も多忙の身だ、これ以上は時間が許してくれないようでマネージャーモードと言われる、眼鏡をかけたスーツ姿の緒川慎二が翼に促す。

 

「翼さん、お楽しみのところ申し訳ありませんが、そろそろ歌番組の打ち合わせが」

「む、もうそんな時間でしたか・・・ではな、工藤。私はこれで失礼する」

「トップアーティストも大変だな」

「戦場ではなく、人の心に響く歌・・・それが歌えるというだけでもこの身に余るほどの幸せだ。無下にするなど、歌女としてのプライドが許さんさ」

 

 相も変わらず回りくどい。素直に仕事が楽しいと言えばそれでいいものをと思ったが、これが翼らしいと奏太は去りゆく背を見送る。

 

「それじゃ、説明すると長くなるから・・・いっそ動かしちゃいましょうか」

「てっきり説明されるのかと思ってた」

「これ、色々と詰め込んだから話すと長くなりそうなのよ」

「自覚あったのか」

「できる女は引き際をきっちりと見極めるものよん。ささ、乗って乗って」

 

 何故か楽し気に催促する了子にいぶかし気な視線を向けつつも、渡されたヘルメットをかぶってまたがる。ハンドル部分のモニタに光が灯れば、何やら英数字の羅列がズラッと流れた後に紋章のような物が浮かび上がる。特異災害対策機動部、その腕章にも同じものが描かれていたが、それと同じものだ。

 

「車体のベースは現在流通されている型から、開発コンセプトに合わせて製作されているの。いわば、貴方の為のマシンね」

「・・・いいのか?」

「いいも何も、もう貴方は私達の仲間よ。その仲間が大きな功績をあげたとなれば、それに見合ったご褒美もあげなくちゃね」

 

 なんだか子ども扱いされているようで気に入らない。そうムスッとした顔になるも、そもそもここの大人達からみたら奏太は充分子どもと言って差し支えない。しかしながら、達観している・・・というより、他人より少し大人びているからなのか、それが受け入れられないのだろう。アクセルを蒸した。「ひゃん!」と了子の悲鳴。似つかわしくない。

 

「さて、お喋りはここまでにしておきましょう。今上に続く道を開けるから、そこから外へ行きなさい。それじゃ、いってらっしゃーい」

 

 階段を上がり、上にあるモニターからコンソールを操作する。何かが駆動する音と共に目の前のシャッターがゆっくりと開いていく。

れをヘルメットのバイザー越しに見つめながら、奏太は再度アクセルを蒸した。低い音を立ててシャッターが開き切ると、ギアを踏んでついていた左足で地面を蹴る。すると車体はすぐに自らバランスを取り、奏太の操作に従ってエンジン音を響かせながらスピードを出していく。後部から吐出しているマフラーから蒸気を時折蒸しつつ、奏太は風を切った。

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