そんなわけで、覗きである。場所は変わって女湯の隣の男湯。この鎮守府の風呂は男湯と女湯を阻む壁は天井まで届いていない。提督さんが言うには、「温泉越しに女子と会話したいから」だそうだ。
「いやー、監獄学園みたいなノリ憧れてたんだよねー」
「どんなスクールですかそれ」
「えっ、何。もしかして見たことないのアレ」
「は?テレビですか?」
「アニメ」
「家事と勉強で忙しいのでそんな暇ありませんよ」
「あ、そう。まぁ早い話が覗きして監獄にぶち込まれた5人の男子高校生の話だよ」
「………監獄にぶち込まれたいんですか?」
「いや違くて、俺が憧れてんのは圧倒的女子率の中、数少ない男子が結託し、知恵を絞って天国を見ることだよ」
「いい風に言ってますけど覗きですよね結局」
「いいから行くぞ」
「ほ、本当にやるんですか……?はぁ……」
やだなぁ……でも夕立の件をバラされるわけにもいかないし。
「さて、じゃあ始めるか。NOZOKI」
「SASUKEみたいにカッコよく言わないでください」
だが、俺の言うことなどまるで聞かずに提督さんは双眼鏡を手に持った。そして、ボタンを押すと双眼鏡がギュンッと伸びて、梯子のようになった。
「えっ、何それ。ドラえもん?」
「行くぞ。裏切ったら許さんからな」
言われるがまま、2人でその双眼鏡を登った。先頭はなぜか俺。………ああ、いいのだらうか。俺はこの人としての一線を超えてしまっても……犯罪だよなこれ。あと、1mもないであろう壁の向こうにはビスマルクやプリンツの裸体が……いや、冷静になれ。犯罪を犯すのと夕立のことバラされるの……。
「あの、やっぱ俺やめます!」
「うえっ⁉︎」
俺はそのまま降りようとした。予想外の行動だったのか、提督さんも焦った表情を見せる。だが、
「てってめっ!裏切りは許さないっつったろ!」
「お、俺にこんなハードル高いのは無理です!」
「夕立のチクるぞ!」
「覗きバレるよりマシですよ!」
などと騒いだ結果、梯子が倒れた。
「「ああああああああッッッ‼︎‼︎‼︎」」
で、どういう偶然が起きたのか、この時ほど俺がこの世の物理法則を恨んだ日はないね。俺は女湯の方に落ちた。頭から落下は避けたものの、視界が朦朧としてる。頭の上に「☆〜☆〜」って感じで星が回ってる。
「ひ、ヒロ………?」
名前を呼ばれてようやく頭が回った。視界も段々とハッキリしていった。で、最初に捉えたのはビスマルクの全裸だった。
「っっ⁉︎」
「なっなっなっ……⁉︎」
慌てて身体を隠すビスマルク。俺は目を隠すことも出来ずにただビスマルクを眺めていた。
「な、なんですか今の音!って、ヒロ⁉︎」
プリンツの声もした。だめだ……頭が回らない。
「何やってんのよヒロ!どういう事なの⁉︎」
「………………」
「ヒロ!聞いてるの⁉︎」
「………………」
俺は鼻血を噴き出してぶっ倒れた。
*
目を覚ますと、またまた見知らぬ部屋。
「大丈夫ですか?」
プリンツに膝枕されていた。
「って、うわあっ!」
「ダメですよ動いちゃ。まったく……今日だけで気絶し過ぎです」
「や、でも……」
この状況は恥ずかしい……ていうか、下から服越しとはいえプリンツのおっぱいが間近に……イカンイカンいかん。消えろ煩悩。くたばれ煩悩。
「ていうか、女の子の裸見て鼻血なんて……今時そんな純情な子いるのね」
ビスマルクが言った。
「ビスマルク……そういやここどこ?」
「私達の部屋」
「ふーん………へっ⁉︎」
「いや遅いわよ」
こ、ここが2人の部屋か……思ってたより普通だな……。
「それで、ヒロ?」
「どうしてあんなところにいたんですか?」
「あんなところ………?あっ」
ヤベッ。忘れてた。
「や、それは……」
「何よ、言えない理由なの?」
うっ……この人、覗きだって分かってて聞いてるな……。ここは腹を括るしかないか……。
「そ、その……覗きです……。いろいろ事情はあるんだけど……多分、言い訳にしかならないから……」
「ふーん?中々、潔いのね」
うっ……視線が突き刺さる……。と、思ったらいった。
「なんてね、実はもう提督から事情は吐き出させ……聞いてるのよ」
今一瞬怖い言葉聞こえたな。
「そういや、提督さんは?」
「あそこですよ」
プリンツは窓の外を指さした。プリンツの膝から離れてそこを覗くと、全裸の提督さんが大勢の艦娘の前で磔にされていた。
「………………」
「ま、あれは置いといて、」
シャッとカーテンを閉めるプリンツ。
「まぁ、ヒロのことは特別に許してあげますよ。最後の最後で思いとどまったみたいだし」
「でも、正直男なら覗きなさいってのもあるわね。ヘタレ過ぎよ」
「ええっ⁉︎」
「見られたいわけじゃないけど……ねぇ?」
「うーん……姉様の言わんとしてることも分かります」
いや、俺もなんとなく分かる。分かるけども……。
「でも、本当にごめん。やめるっていうのが遅かったよな……」
それはつくづく思う。俺がこの鎮守府で社会的に死ぬからって、他の女の子たちが傷付いていい理由にはならない。思わずショボンとしてると、俺の頬をビスマルクが抓った。
「気にしなくていいですっ」
「わ、わふふぁったよ……」
離された。頬がヒリヒリする……。あっ、そうだ。
「な、ならさ……せめて、これやるよ」
「ん?」
「さっきもらった間宮さんのアイスの券。2人にやるよ」
「「間宮アイス!」」
えっ、なにそういう名称なの?
「い、いいの⁉︎」
「うん。俺は明日には帰るし。けど、一枚しかないぞ」
言うと、2人は睨み合った。そして、お互いに拳をコキコキと鳴らし始める。
「プリンツ………?」
「ええ、上等ですお姉様……」
ドッドッドッドッと音がしてる気がする。
「ま、待て落ち着け2人とも!」
だが、止まらなかった。2人は拳を引いた。
「「じゃんけんぽんっ!」」
「………あれっ?」
勝ったのはプリンツだった。
「やったーーー!」
「くうっ……!」
わーいわーいとはしゃぐプリンツ。そんなに喜んでくれると俺も嬉しい、と言いたいけどビスマルクが涙目なのでなんとも言えない。
「ううっ……あいすぅ………」
俺はため息をついた。
「ビスマルク」
「何?」
とりあえず、200円あれば足りるか。
「はい」
「へっ?」
「そのアイス、これで買えよ」
「い、いいの⁉︎」
「うん。不公平だしね」
言うと、なぜか若干顔を赤くしてそっぽを向き、小声で「ありがと……」と言った。
「どういたしまして」
笑顔で返すと、なぜかさらに顔を赤くした。この後、寝た。