〜ビスマルクside〜
鎮守府の私の部屋。私はぼんやりと窓の外を眺めていた。ヒロの顔が頭から離れねぇ……。最近、ずっとそればっか。演習中にまでそうなるのは本当にやめて欲しい。長門とかに心配されてるし……最近は他の鎮守府との演習でも活躍するどころか足引っ張っちゃってるし……、
「……姉様」
ん……?待てよ、そもそもなんでこんな事になってるんだっけ……。それは、私が地図の漢字読めなくてウロウロしてたら声掛けてくれたからで……そうよ、そもそもあそこで声を掛けられなければこんな事にならなかったのよ!
「………マルク姉様」
つまり、全部ヒロが悪いのよ!あの野郎、今度会ったら文句言って……!
「ビスマルク姉様!」
「ふえっ⁉︎な、何⁉︎」
突然、私の名前を叫ぶ声が聞こえた。慌てて振り返ると、プリンツが心配そうな顔をしていた。
「ぷ、プリンツ……?どうしたの?」
「あの、大丈夫ですかビスマルク姉様?先ほどから声を掛けていたのですが、全然反応なしでしたよ。演習中も調子悪いみたいですし」
「う、うるさいわよ!あなたの声が小さいのよ!」
「え、え〜……」
まったく……!あれもこれも全部ヒロの所為よ……!そうに決まってる……!
「………ヒロのバカ」
「へ?ヒロ?」
「え?」
もしかして、声に出てた?
「ヒロと喧嘩でもしたんですか?」
「ち、違うわよ。その……何というか……」
……まぁ、プリンツになら話してもいいわよね。というか、プリンツくらいにしか話せないわ。
「最近、ヒロの顔を思い出すと、その……動揺?というのかしら、とにかく、動揺しちゃって……砲撃とかも明後日の方向に飛んでっちゃって、顔赤いとも言われるし……とにかく変なのよ!」
「………それって」
「何、分かるのプリンツ⁉︎」
「………恋、とかじゃないですか?」
………いきなり何言ってんのこの子。思わず私はアイアンクローしてしまった。
「何言ってんのよ。あ、り、え、な、い、わ、よ!」
「いだだだだ!ご、ゴメンなさい!で、でもそれくらいしか考えられな」
「まだ言うかあんたぁああああ‼︎」
「ご、ごめんなさい!嘘です嘘です冗談です〜!」
謝られ、ようやく手を離してあげた。まったく、くだらない事言うからよ。
「この私が歳下の学生の男なんて相手にするわけないでしょ。ちょーっと優しくて勇気もあって面倒見も良くて家庭的でしっかりしてて頭が良くてイケメンでもあり得ないわよ」
「………そこまで長所上げてるとむしろ大好きと言ってるような……」
「…………」
「いだだだだ!ごめんなさいごめんなさい!」
「まったく……」
あり得ないわよ。ちょっと、優しくて勇気もあって面倒見も良くて家庭的でしっかりしてて頭が良くてイケメンでもありえないわよ。ありえ……うん、ありえない。ありえない……うん。ありえない……。ありえ……、なくはない、けど……。
「………ビスマルク姉様?」
「何?」
「顔、真っ赤ですよ?」
「ッッッ⁉︎」
指摘され、慌てて顔を隠す。……嘘、ありえない。ありえないわよ……。
「いや、そんな睨まれても……」
「ふ、ふん……!私をそんなハッタリで騙そうとしても……!」
「いやハッタリでもなんでもないですけど……」
それじゃあ、と顎に手を当ててプリンツは言った。
「じゃあ、例えばヒロが金剛さんに『HEY!ヒロー!』って感じで抱き着かれていたらどうです?」
………なんとなく不愉快ね。
「足柄さんに二重の意味で捕まってたらどうです?」
………かなり不愉快ね。
「第六駆逐のみんなに抱き着かれて鼻伸ばしてたりしたらどうです?」
………ぶっちぎりで不愉快ね。
「ほら」
「何が『ほら』なのよ!」
「ヒロが他の女性と一緒にいると不愉快なんでしょう?」
「ッ」
否定できない。畜生。
「で、でも違うわよ!」
「ふぅん?じゃあ私が取っちゃいますね。ヒロ、男性としてはかなり魅力的だと思いますし」
「ダメよ!………あっ」
ニヤニヤするプリンツ。この野郎、ハメやがったな。
「じゃあ、作戦会議を始めましょうか」
「はぁ?なんの会議よ!」
「ヒロ攻略のに決まってるじゃないですか。とりあえず、間宮さんの所にでも行きましょうか」
そんなわけで、部屋を出た。間宮に到着し、店の扉を開ける。
「間宮さん、いますか?」
「あら、ちょうどいいところに来てくれたわね」
プリンツが挨拶すると、間宮が出てきた。
「暁ちゃん達におつかいを頼んだんですけど……帰って来るのが少し遅くて。申し訳ないんですけど、ちょっと近くのスーパーまで見に行ってくれませんか?」
「暁ちゃん達が?……分かりました」
「まったく……世話を焼かせてくれるわね」
そんなわけで、私とプリンツは鎮守府を出た。
*
スーパーの前。
「うーん……暁ちゃん達見えませんね〜」
「レジが混んでるのかもしれないわ。中入りましょう」
「そうですね」
中に入ると、私の身体はピタッと止まった。
「ヒロさん。こっちのキャベツとあっちのキャベツはどっちがいいのです?」
「え?あー……左の方が若干重いかな」
「まったく、電はダメね!それくらい分かるようにならなきゃ」
「はらしょー」
「ち、ちょっと!暁にも選ばせなさいよーお姉さんなんだから!」
………聖戦の火蓋が切って落とされた。