ラスボスさんのこと脳筋とか書いてますが、アンチ・ヘイトのつもりは無いのです。
彼のキャラクター性の掘り下げが、ラスボス戦の前にもう少しあればより魅力的な敵になったんだろうなと個人的には思っています。今のままの彼が好きな人には大変申し訳ないです。
公式でこれ以上キャラの掘り下げが無さそうなので、色々と過去とか捏造してしまっています。すみません。
あとラスボスの人が、若干、キャラ崩壊してるかもしれないです。
俺には、幼馴染でありどうしようもなく手の掛かる友人であり仕えるべき主がいる。
大國ヤマトの中に位置するとある國で生まれたそいつと俺は、代々主従の関係にある家に生まれたばっかりに、生まれながらにして主とその従者という立場に据えられた。
あいつがそのことをどう思っていたかは知らない。だが、少なくとも俺は、生まれながらにして決められた相手の従者なんて生き方を決められていたことから、大変不満だった。
俺が仕える主は俺自身が決める。家の決まりで生き方を決められるなんて真っ平御免だ。
そう言って物心着く頃には真っ向から反発していた。それまではそれなりに仲良く遊んでいたそいつのことも避け始め、家にも寄り付かず、当時の俺は子供なりに荒れに荒れた。
まあ結局は、ちょっとした事件があって俺はあいつを自ら主と定めたのだが。
今更従者にしてくれなんて虫のいい話を言う俺を、あいつはそうか、とだけ言って受け入れてくれた。
時は巡り俺たちは大人になり、あいつは帝都で八柱将の位を手に入れた。従者として大将に着いてきた俺は共に帝都に在り、自分のできる最善を持ってあいつを支えてきたつもりだ。
初めてあいつを主と決めた時より、俺はあいつを主と仰いだことを後悔したことはない。…後悔したことはない、のだが…。
「いや大将、いくらなんでもこれは無いでしょう」
目の前に山のように盛られた書類の山。山。机の上に盛られたそれは、収まりきらずに床へとこぼれ落ちている。チラリと見えた提出期限は今日。…頭の痛い話である。
「…うむ」
「誤魔化さないで下さい大将。…どうしてこんなに貯まるまで放っておいたんですか」
問われて目を逸らす目の前の大男。帝都では大人の兵士も一瞬で泣き出すくらい恐れられているらしいが、この実情を知れば評価を改めるに違いない。勿論悪い意味で。
「…うむ」
「蛮族の対処に忙しかった?暇が無かったのだ?…いや、大将。あんたが忙しいのは知ってますけど、もういい歳こいた大人なんだから計画とか予定とか、そういうのあるでしょう?」
「……うむ」
「…なる程。全くないと。大将、あんたが所謂脳筋っていうのは知ってますけど、書類仕事くらい滞りなくこなすべきです。これらの仕事が滞るということはすなわち、ヤマトの行政の一部が滞ることになるのですから」
俺の吐き出す無礼な言葉の数々に、後ろに控えている兵士が声にならない悲鳴を挙げている。いつ俺がこの目の前の大男に殴り殺されるのかと戦々恐々しているようだ。
が、兵士達の予想に反し、男は眉を微かに動かした後は何も言わず沈黙している。
その鋭い視線は俺を真っ直ぐ貫き、こう訴えていた。
手伝ってくれ。
「申し訳ありませんが、それは不可能です」
「!!?」
予想外だったらしい一言に、男は目をカッと見開く。あまりの迫力に後ろの兵士が腰を抜かして後ずさった音がした。因みに俺は慣れているので特に何ともない。
「某には某の仕事がありますので」
にっこりと微笑んで伝える。勿論嘘ではない。俺は俺なりに仕事があるのだ。
「…!!」
男は俺の3周りくらい大きい体を微かに縮こませ項垂れた。美少女とか子供なら同情を誘うその姿も、生憎大男がすると憐憫の情すら湧いてこない。
「まあ頑張ってください。それでは某、これから人と会う予定がございますので失礼いたします」
丁寧に礼を取ると、さっさと部屋を出る。残された男の苦悶の声が聞こえた気がしたが、勿論構っている場合ではない。待ち人を待たせるわけには行かない。これから会うその人物はこのヤマトで帝の次に位の高い人物、姫殿下だからだ。
「おお!待っておったぞ、レオ!」
息せき切って姫殿下の待つ宮廷の中庭へと急ぐ。そこには俺の姿を見つけて顔を輝かせる幼い少女――姫殿下が居た。どうやら先に到着していたらしい。傍らには姫殿下の東宮傅であるムネチカ殿が控えている。
「御身をお待たせして申し訳ありません、姫殿下。この失態、どのような罰でもお受けします」
少女の数歩手前で歩みを止め、その場で平伏する。場合によっては刑を処されても仕方ない事態である。
貴族でもなんでもない自分と、帝の唯一の後継であらせられる少女では、その身分に雲泥の差があるのだ。
「うむ?そんなことはどうでもいいぞレオ!余は気にせぬ!それよりもいつもの冒険話が聞きたいぞ!」
「しかし、…」
「余が良いと言っておるのだ!ほら、そこに座るが良い。それと、その気持ちの悪い話し方を止めよ。いつもの口調でいい」
「……分かりました。それでは失礼して」
姫殿下の示した場所に座ると、初めて姫殿下と会った時のようににっと笑う。
「それで、嬢ちゃんは今日は一体どんな話しをお望みだ?」
姫殿下―――、アンジュは嬉しそうに顔を輝かせると両手を大きく広げた。
「全部だ!今レオが話せる全ての話を頼むぞ!」
「なる程そうきたか!いいぜ、時間のある限り話してみせようじゃないか!」
尻尾を嬉しそうに揺らすアンジュの頭をガシガシと撫でると、俺は仕事の関係上経験した様々な話を面白可笑しくして聞かせた。
途中、チラリとムネチカ殿を伺うが、アンジュを微笑ましそうに見つめているだけで特に何かを言ってくる様子はない。俺の、通常では考えられない無礼な態度を一応黙認してくれているらしい。
アンジュと出会ったのは宮廷内で、偶々だった。姫殿下の顔を一度も見たことなかった俺は、アンジュを高官や貴族の子供だろうと適当に推測し、迷子なのだろうかと話しかけたのだ。
つまらなさそうな顔をしていた子供は、俺を見て驚いたような顔をした後、無邪気に微笑んで一緒に遊ぼうと俺を誘った。普段なら断っていただろう。大将の従者としてここ帝都に存在する俺には果たすべき仕事があり、暇ではないのである。
しかし。
子供の浮かべるあまりにも退屈している、日々に倦みきっている表情が気がかりで、結局引き受けた。基本的に子供は嫌いじゃない。明らかに何かの問題を抱えてそうな子供なら、尚更放ってはおけなかった。
その後、子供に連れられて辺りを遊び周り、子供の正体を知ったのはムネチカ殿が子供を連れ戻しに来た時だった。子供の正体が姫殿下であるということを知り、平服をして非礼を詫びる俺にアンジュは言った。
『そのような侘びはいらぬ。また、遊んでくれ』
寂しそうに笑うアンジュに俺は頷き、それ以来この交友は続いている。勿論、会うときにはいつもムネチカ殿を伴ってだ。会う度に砕けた口調と態度をねだられる俺は、考えられない程無礼な行為を重ねているが、ムネチカ殿は見て見ぬふりをしてくれている。彼女もきっとアンジュの求めているものを分かっているのだろう。
「アンジュ様、そろそろ時間です」
「…むぅ、もうそんな時間か。つまらん」
「アンジュ様」
ムネチカ殿が、そっとこの時間の終わりを告げた。拗ねたように頬を膨らますアンジュに、彼女は眉根をぴくりと動かす。一見すると只の美人な女性であるムネチカ殿は、その見た目に反し八柱将の一人であり仮面の者の一人に選ばれた女傑である。溢れ出る威圧感は我が大将と引けを取らない。むしろ、俺にとっては慣れないムネチカ殿の威圧の方が怖い。
「また会おうぜ嬢ちゃん。その時はもっと面白い話でも聴かせるさ」
「むむむむむむむ…」
ムネチカ殿の威圧感に怯みながらも不満そうなアンジュの頭を撫でる。
「アンジュ様?またあれを受けたいのですか?」
すっと手を振り上げ何かを叩くような動きを取るムネチカ殿。俺にはさっぱり分からなかったが、アンジュには効果覿面であった様だ。ひぃと小さく悲鳴を上げ、急に立ち上がり帰り支度を始めた。
「な、名残惜しいが今日はここまでだレオ。また会おうぞ!絶対だぞ!」
顔を青くしながら告げるアンジュの目は完全に泳いでいる。何かは知らんが大変そうである。
俺が手を振って応えたのを見ると、アンジュとムネチカ殿は踵を返し、
「そういえば、レオ」
「ん?何だ?」
アンジュだけが徐に立ち止まり、こちらを振り返った。
「オシュトルが何処に行ったのか知らないか?最近会えなくてな」
落ち込んだようなアンジュの声に、俺ははてと首をかしげた。右近衛大将オシュトル。帝都ではその名を知らぬ者が居ない程の有名人である。清廉潔白でおまけに強い、民からの人気は絶大だ。
「いや、俺はよく知らないな。オシュトル殿が居ないことすら初めて知った」
俺の知る限り、オシュトル殿が何処かへ遠征へ行った、というような話は聞いたことがない。良くも悪くも目立つ男だ。何かの動きがあれば全く話にならないなんてことはありえないのだが。
「…そうか。いや、何でもないのだ。すまぬな」
尻尾と耳をしょげさせ、アンジュは今度こそ立ち去った。数歩先で待っていたムネチカ殿はこちらに会釈だけをするとその後を追って消える。
直接聞いたわけではないが、どうやらアンジュはオシュトル殿に恋をしているようだ。様子を見ていれば良く分かった。想い人である彼と会えなくて寂しいのだろう。全く、あんな幼い子供まで虜にするとは右近衛大将、侮れない男である。
しかし、オシュトル殿が居ないとは。単にアンジュがオシュトル殿と会えていない、もしくは避けられているという可能性は考えられるが、本当に帝都に居ないとしたら?
あれだけ目立つ男が表立って動いて何の話も聞かないとはありえない。ならば、裏でこっそり行動している可能性が考えられる。
個人的にはオシュトル殿には何の恨みも無い。ただ、俺の大将はあの御仁とは反りが合わないようだ。つまり、いつか敵対する可能性は否めない。
いつかの保険のためにオシュトル殿を探ってみても良いかもしれない。裏でこっそり行動するなんて、大抵の場合後暗いことをやっている時なのだ。あのオシュトル殿がそのようなことをやっているとはあまり思えないが、人とは見掛けに拠らないものである。ありえなくはない。清廉潔白で通っている右近衛大将の裏の側面を発見できれば、もし敵対した時にいくらかの手札になるだろう。
俺の大将は武勇こそ優れているものの、策略や交渉といった手回しを嫌う。よく言えば真っ直ぐ、悪く言えば愚直。つまり脳筋。
俺も別段策略や交渉を好むわけではない。どちらかといえば武芸の人間だ。しかし、大将がそういったことに全く頓着しない以上、俺が多少は気を回さなくてはいけないだろう。念には念をかけて不足はない。
俺は明日以降、オシュトル殿を探ることを決意しつつ、大将の居る屋敷へと戻った。
「…これはどういうことですか?大将」
屋敷に戻った俺を待っていたものは、出かける前と全く変わっていない書類の山である。宮廷からこの屋敷へ戻ってくる間、他の仕事にもいくつか手をつけてきたので、もうすっかり日は暮れている。
目の前には腕組みをして書類を睨みつける大男。視線だけで書類を燃やしそうだ。能力的にできなくもなさそうだが、流石にそれはしないだろう。…してないよな?
「…うむ」
「いや、稽古とかしてる場合じゃないですよね?鍛錬は大事ですけどそれ以上に種類を優先すべきですよ、今は」
流石に声が震えてくる。後ろの兵士が、何であれだけの言葉で意思疎通できんだよとか言っている声が聞こえるが無視である。生まれた時からの幼馴染を侮ってはいけない。どうせなら美少女と幼馴染になりたかったが、どうしようもないことである。
…たしか今日までの書類とかあったはずだ。目の前には山積みの書類、無為に過ぎていく時間、迫り来る締切。
ほとほと困りきった顔の大将は、何か言いたげにこちらを見た。
「…断る、といいたいところですが、そうも言ってられませんね。某も手伝いましょう」
深くため息をつきつつ、大将の前、机をはさんで反対側に座る。仕方ない。これも従者の勤め。
黙々と書類を処理し始めた俺の姿に、大将はほっとしたように息をつくと、ようやっと一枚の書類に取り掛かった。が、その速度はあまりにも遅く、書類処理には殆ど貢献できていない。
この山積みの書類、ほぼ全てを自分が処理することになるという予感とともに、俺は心底思った。
俺の大将―――八柱将ヴライは、武芸以外にはとことん脳筋であると。
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