「次、ボクが出るヨ」
そう言ってチェスの兵隊の一人がフィールドへ降りローブを脱ぎ捨てる。現れたのは、凶悪な顔に長い鼻をした木彫り人形だった。
「っ…アイツは……!」
ドロシーの能力に昔の記憶が甦る。それは、昔姉が自分に造ってくれたマリオネット。
「ディアナの造った人形だって!?」
「そう、ディアナはよく私に人形を作ってくれた……だからアレは、私が破壊する」
そう言ってドロシーはフィールドへと降りて行った。
◆チェスの兵隊【ナイト】▼ピノキオン▼
◇メル▽ドロシー▽
「試合、開始!!」
対峙する二人は互いに動かず睨み合う。程なくして、ドロシーはピノキオンに話しかける。
「ディアナは元気?」
「ううん、病気で死にそうなんダ」
ピノキオンがそう答えると、彼の鼻が少し伸びた。
「アンタはディアナに造られたんだろ?」
「ううん、違うヨ」
また鼻が伸びる
「私に勝てると思ってるの?」
「とんでもない、負けると思ってるヨ」
更に伸びる。倍近くに伸びた鼻の先に、銃口が現れる。
「キヒッウソだヨ」
鼻先の銃口が火を吹きドロシーに襲いかかる。爆煙が晴れると、ドロシーは動くことなくそこに立っていた。額から血が垂れる。
「避けようともしないんダ。憎らしいヒトだヨ」
ピノキオンはそう言うと、体に隠した
「ウェポンARM『ノコギリギリ』」
自身の身の丈ほどもある巨大な刃のノコギリを三本の腕に持ち、ピノキオンはドロシーに襲い架かる。それに対し、ドロシーは『ゼピュロスブルーム』を展開し応戦する。
「うっとおしんだよ人形!!“
「うわあぁぁア!!?」
ドロシーが箒を振るうと圧縮された空気の塊がピノキオンに炸裂する。重い一撃の後解放され弾けた突風がピノキオンを吹き飛ばした。
「ふぅ、ディアナも凶悪なもんを造ったもんね……」
「違うよ、ボク凶悪じゃないヨ」
またピノキオンの鼻が伸びる
「ディアナはレスターヴァ城にいるのね?」
「いないヨ」
さらに伸びた鼻からは、再び銃口が現れ火を吹く。
「“
ドロシーが再び箒を振るうと、今度は彼女の正面に風の壁が現れ爆炎を防ぐ。
「ちっ、まともに会話も出来やしない。この嘘つき人形」
「そんな事言わないデ、近くでお話しようよお姉さン!“ワイヤーハンド”!!!」
ピノキオンはそう言うと三本の腕の肘から先を射出しドロシーを掴む。その名の通り射出した腕はワイヤーで繋がっていた。
「キヒヒッ、キレイなお姉さン。イイものあげるヨ」
ピノキオンの服のボタンが弾け飛ぶ。あらわになった腹部から、高速回転する丸ノコが飛び出した。ピノキオンは腕のワイヤーを巻き上げ、掴んだドロシーを引き寄せる。
「こっちへ、オイデ」
「冗談じゃないよ!!」
ドロシーは指にはめたゲーム直前に竜也から渡されたARMに魔力を込める。
『ドロシー、弟の礼の代わりと言っちゃ何だが、こいつを渡しておく。お前さん用に特別に調整したARMだ。……ちなみに、素材としてヴァーリの鎧の欠片を使ってたりする。』
(なんて言われたら、使わない訳ないじゃない!!)
「ネイチャーARM『
現れたのは、蒼白い光を放つ羽をもつ四つの風車。宙に浮かぶ風車は間もなくして回転を始め、四つの光の輪が灯る。それは何処か幻想的な光景でだった。
「やれ、月光の翼片車!!」
月光の翼片車は回転しながら一斉に動きだす。風を纏った羽は刃となり、ワイヤーを全て切り裂いて見せた。
「ニャッ!!?ボ、ボクの腕ガ!?」
「喰らえ、“
風を裂きながらドロシーのもとへ集った月光の翼片車は、それまでとは比べ物にならないほどの回転を始める。最高潮に達した回転は、鎌鼬を纏った竜巻を発生させ、四つの竜巻がピノキオンを吹き飛ばす。
大きく吹き飛ばされたピノキオンはよろよろと立ち上がるが、体のあちこちはひび割れ、片足は砕け散り、見るも無惨な姿と化していた。
「その体じゃもう無理ね。あと一撃でバラバラにしてあげる」
「……バラバラになんてされてたまるカ。ボクは…ボクは……
お前を倒してディアナ様に人間にしてもらうんダーーーーッ!!!!」
ピノキオンは体に隠し持った最後のARMを渾身の力で発動させる。全ては自分の夢。人間になって“イイ子”になるために。
「ガーディアンARM!!『ファスティトカロン』!!!」
『ブオオオオオオオオオン!!!』
現れたのは、山のように大きいクジラのガーディアン。ファスティトカロンは空気が震えるような鳴き声を上げると、その巨大な口を開けてドロシーに襲いかかる。
「き、キャーーーっ!!」
ファスティトカロンは、あまりの光景に呆気にとられたドロシーを、そのままを飲み込んでしまった。
「ど、ドロシーーー!!!」
「ケケケ……これでボクはもう人形なんかじゃなイ!人間になれるんダーーーッ!!」
◆◆◆◆◆◆◆
「うっわくっさ!参ったねこりゃ……」
ファスティトカロンの胃袋の中、ドロシーは胃液に浮かぶ廃材の上に佇んでいた。辺りには大クジラの飲み込んだであろう船の残骸が漂っていた。その中で、ドロシーは何者かの気配を感じる。
「ッ!!誰!!?」
そこには、頭に発光する提灯のような触角のある小人が、ちゃぶ台の置かれた座敷の上に座って茶をすすっていた。
「やあおじょーちゃん。君もファスティトカロンの中に入って来たんだね。」
「……あんた、何者?」
「ボクはファスティトカロンの住人。ポコっていうんだ、よろしく。」
「あんた……ずーーっとこのクジラの中に住んでるの?」
「そうだよ。普通の人間はこの中にいると、溶けてしまうんだ。ホラ、そこ見てみそ」
ポコの指差した先を見ると、そこには胃液で溶けた人骨が浮かんでいた。
「お生憎様、こんなところすぐ出てやるよ!溶けちゃうなんてドロシーちゃんまっぴら!」
ドロシーはそう言ってARMを取り出す。
「レインドッグ!!!」
しかし、何も起こらなかった。
「アレ?アレレ?どうなってんの!?『クレイジーキルト』!!!『月光の翼片車』!!!『ゼピュロスブルーム』!!!」
しかし、何も起こらなかった。
「ムリムリ、この中ではARMは発動できないんだ。ボクの許可なしでは、ね。」
ポコは茶をすすりながら淡々と説明する。
「なら許可しなさい!!」
「だ、ダメだよ~っ。こ、これはディアナの呪いなんだ……」
ポコは語る。かつて彼はディアナに使える召し使いだった。ところがある日、不注意でディアナのスカートを踏んでしまった。そして彼は、ディアナの呪いによってファスティトカロンの中に閉じ込められ、せめてもの情けで胃液で溶けない体にされた。それ以来、ずっとこな中にいるのだ、と。
「……あんた外に出たくない?」
「そりゃ出たいさ。もう何年もこんなところにいるからね。」
「じゃあARM使うの許可してよ。そしたらあんたも一緒に出してあげる。」
「ダメだよダメだよ!!ファスティトカロンか死なないとボクは外に出られないんだ!おじょーちゃんにファスティトカロンが殺せるわけないじゃないか!!それに、おじょーちゃんだけがそとに出たら、ボクはまたひとりぼっちだ!!」
ポコは必死に拒絶する。ファスティトカロンか強大なガーディアンだ。殺せる訳がない。上手いことをいって逃げるつもりに決まってる。長年一人でクジラの腹の中にいた彼は、これ以上の孤独は耐えられなかった。
そんな彼の触角に、ドロシーは優しく口づけする。
「ファスティトカロンは一撃で殺すわ。信用して」
「~~~~~~ッ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
「……もう15分は経つよ」
「あの中に、ドロシーが……!」
ギンタたちは悠々と宙を泳ぐファスティトカロンを、ずっと眺めていた。今はゲーム中、下手なことは出来ない。
「なあユウト!さっきのでっかい剣でアイツを真っ二つに出来ないのか!?」
「出来ないこともない。けど、あれは大きくする分威力もデカくなる。あの巨体を斬り裂けるだけの大きさともなれば、中のドロシーさんごと火だるまだ……!」
「……くそ!どうすりゃいいんだ!」
ギンタたちが歯噛みする中、ピノキオンは退屈そうにファスティトカロンを眺めていた。
「ねえポズン~。もう勝負は決まっただロ?ちゃっちゃと宣言しちゃってヨ!勝者ピノキオンってサ!」
「ふむ…これはもう終わりですね!勝者…」
「待って!様子が変よ!」
「「!!?」」
スノウの声に、全員がファスティトカロンを見上げる。見ると、ファスティトカロンは突然苦しみだし、うめき声を上げていた。
そして、ファスティトカロンの体を食い破り、レインドッグのトトが、ドロシーとポコを乗せて現れた。
「出られた……!!外に出られたよ~~~!!」
「ね、言ったでしょ?」
ポコは数年ぶりの外の世界に涙を流して喜ぶ。ファスティトカロンは断末魔の悲鳴を上げて消滅し、そのARMも砕け散った。
「ボ、ボクのファスティトカロンが……」
「あんたからはディアナの匂いがプンプンする。不快だよ、消えな。」
次の瞬間、トトがピノキオンの体を噛み砕いた。粉々になった体から、ピノキオンの頭が転がり落ちる。
「あ、あなたみたいなキレイなヒトにやられてうれしいヨ」
「………嘘つき」
ドロシーはピノキオンの鼻をへし折り、残った頭を無造作に投げ捨てた。
「ごめんねディアナ、また壊しちゃった。」