年末、大晦日、竜也、ヴァーリ、朱乃、黒歌の四人は、雷門家和室でこたつに入り、鍋をつつきながら紅白を見ていた。
「けど、本当によかったんですの?私までお呼ばれしてもらって…」
「いーのいーの、どーせ今うち俺らしかいないし……しっかしうちの両親にも困ったもんだねぇ。年末に子供残して旅行に行くか普通?あ、朱乃ちゃんポン酢頂戴。」
「うふふ、はいどうぞ。まぁいいじゃありませんか。ラブラブでうらやましいですわぁ。それに、みんなで年越しを迎えられるのですし……」
「ゲラゲラポー!ゲッラゲラポー!にゃん!」
「止めてくれ黒姉さん、鍋の汁が飛ぶ。というかあんまり歌詞載せるとやばい。」
「うふふ、黒歌ちゃん?いい加減にしなさい。鼻の穴にチョコボーぶっ刺しますわよ?」
画面の中で歌う腹巻きを着けた赤い猫と合わせて踊る黒歌と、こたつの台を押さえて止めるヴァーリと鍋の灰汁を取りながら笑顔で脅す朱乃。そんないつも通りの光景を眺めていた竜也は、ふと誰が足りないことに気づく。
「あれ、そういえばイッセーは?あいつも呼んでただろ?」
「ああ、なんか鍋にキムチ入れるつってコンビニ行った。」
「ふーん」
「く~も~が~♪おっど~れば~♪」
「だから止めろって黒姉さん。あんまり載せるとマジでやばいから。最悪追放されるからこの小説。」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ところ変わってコンビニ、イッセーはキムチを買うついでに鍋に入れるものやお菓子など色々買っていた。
「ありがとうございましたー」
コンビニのバイトからレジ袋を受け取ったイッセーは自動ドアへ向かうが、ふと窓際の雑誌コーナーに目が向く。
「あ、ついでにジャンプでも買っとくか。」
そう呟いてジャンプ合併号に手を伸ばす。
「「あ」」
しかし、もう一人の男もまたジャンプに手を伸ばしていた。漢服の上にコートを着たその男に、イッセーは何やら一般人とは違う何かを感じたが、その目線は直ぐにジャンプ合併号へ向く。
「……え?ジャンプ合併号?」
「うん、ジャンプ合併号。え?おたくもジャンプ合併号?」
「ジャンプ合併号。えっ、ほんとにジャンプ合併号!?」
「ジャンプ合併号……」
二人はくどいぐらいにジャンプ合併号を言い合った後に互いにジャンプを見つめる。
「いや~参ったねこりゃ。やっぱ合併号だと一週空くからどこももうないみたいっすわ。」
「いや本当に参ったなぁ。俺はもう7~8軒ぐらいコンビニ回ったんだが……」
「へぇ~、そうなんすか。あ、ちなみに俺ここで10軒っすよ?」
「あ、やっぱさっきの間違い。よくよく考えたらもう15軒は行ってるかも。」
どんどん回った軒数を上乗せしていく二人。ちなみに、イッセーはこのコンビニに雷門家から直行で来たのは言うまでもない。
「いやな、うちの五郎がどうしてもジャンプ読みたいって聞かなくてなぁ。あ、五郎って俺の弟なんだけど、今年五歳。」
「へぇ~、うちもさぁ、病院の母ちゃんがどうしてもジャンプ読みたいってさぁ。母ちゃんあれ新年迎えられるかなぁ~?無理だろうなぁ~……」
「あ、実はうちの五郎も死ぬんだよ」
「五郎死ぬの!?」
イッセーが驚くそばで男はジャンプを手に取る。
「じゃ、まぁ、そういうことだから」
「いやいや、待ちなさいって。五郎ほんとにジャンプ読みたがってるの?最近ジャンプ長期連載軒並み終わって落ち目だよ?こっちの方がいいんじゃない?」
そう言ってイッセーは男の手からジャンプを抜き取りエロ本を渡す。
「いや、五郎五歳だっていってんじゃん………いや、でももしかしたら五郎これ読むかもしんないな。いや、俺が読むんじゃなくて五郎が……」
「いらっしゃいませー」
「っておい!!そりゃないんじゃないのか!?」
男がエロ本の中身を見てぶつぶつ言っている間にイッセーはジャンプをレジへ持って行き、バイトの声で我に帰った男はダッシュでイッセーを取り押さえる。
「いやいや、五郎五歳でしょ?ジャンプはまだ早いって。だから代わりに」
「こっちの方が早いわボケェ!!?」
男はイッセーからジャンプを取り返そうとするが、イッセーはジャンプを離さすそのまま取っ組み合いになる。
「だいたいなぁ!俺弟とかいないから!あれ嘘だから!!!五郎なんてやつこの世に存在しないんだよ馬鹿め!!」
「はっ!馬鹿はてめぇだ!俺だって死にかけの母ちゃんなんていないもんね!バーカバーカ!!」
「「はい金ェ!!!」」
二人は取っ組み合いをしながらレジに金を叩き付ける。なにがなんでもジャンプを手に入れる気である。
「あんたいい加減にしろよ!!どんだけジャンプ読みたいんだよ!!いい年こいて恥ずかしくねぇのか!!?」
「ジャンプに年は関係ない!ジャンプには男の夢とロマンが詰まってるんだよ!!だいたいお前こそいい加減にしろ!!大晦日にジャンプなんか買いに来おって!!寂しいやつだなオイ!!」
「あのすみません……」
「「あ“あぁ!!?」」
「お金足りません」
「「え?」」
「いや、だからお金、足りません。」
「「えぇ………」」
「二人分合わせたらちょうど足りますけど……どうしますか?」
「「……………」」
◆◆コンビニ外にて◆◆
「いや、だからさぁ、俺今晩読んだらあんたに貸すからさぁ、いいじゃんそれで」
「貸すってなんだよ。俺だって金出したんだぞバカ野郎この野郎テメェ」
二人はなおもどちらがジャンプを得るかで言い争っていた。男は最初の威厳のある口調がもはや崩れている。道行く人々が奇異な目で見ているが二人は気づいていない。
「だいたいお前ジャンプって言っても何読んでるんだ?どうせ2、3本読んでポイだろ?俺は全部読んでるぞ?俺の方が絶対ジャンプ愛してるから」
「何言ってんだ?俺なんか漫画だけじゃなくて後ろの漫画家のコメントも読んでるぞ?編集のどうでもいいコメントまで読んでるから」
「俺なんかお前あのプレゼント当選者発表のとこあれも全部読んでる!アンケートも毎週出してる!」
「甘いんだよ!俺なんか背表紙裏の微妙なツーハンの広告のとこも目ぇ通してる!しかも時々買ってるぅ!!」
二人は睨みを効かせジャンプを引っ張り合いながら自分がいかにジャンプを愛しているか聞いてもいないのに語っている。やがて、ジャンプからミシミシと嫌な音が立ち始める。
「おい、いい加減にしないとジャンプ裂けるぞ?一旦放せ。俺絶対取らないから一旦放せ、な?」
「お前が先に放せ。そしたら俺も放すからよぉ」
二人が不毛な言い争いをするなか、一人の腰の曲がった老婆がコンビニに入ろうと歩いてきた。
「そうだ!一旦あのおばあさんに渡そう。一旦な」
「おい、あのブーメランばぁさんお前の回モンじゃねぇだろうな?ブーメランだけに」
「上手くないんだよ!!どんだけ疑り深いんだキサマはぁ!!?」
そんなこんなで、二人は老婆の元に向かう。
「あの、すみませんおばあちゃん。ちょっとこれ持っててくれませんか?」
「え?」
「ああいや、『え?』ってなる気持ちはわかりますが、おねがいします。」
二人はそう言って老婆にジャンプを差し出し、老婆は困惑しながらもジャンプを手に取る。しかし、二人は一向に手放さない。
「ちょっ、ちょっと、あんたら放す気あるのかい?」
「おい、いい加減にしろよキサマ。この頃に及んでまだ放さないつもりか?」
「何言ってんの?俺ぁもう虚脱状態なんですけど?お前だろ?力入れてんのは」
「ヌグググ……ぬぅおあああああああァァァァァァァァァァ!!!!!!」
やがて老婆は顔を真っ赤にし、背が反り返り悲鳴のような叫び声を上げてジャンプを引っ張る。
「ぉおい!!いい加減放せって!!ばぁさんマジで逝っちゃうって!!!」
「お前が放せっつてんだろうが!!!ばぁさんもういい!!もう放していいから!!」
「ぉぉぉぉぉぉぉオオオオオオ!!!せぇいやぁぁぁぁぁぁあああああああッッッ!!!!!!」
そして老婆は渾身の力でジャンプを引っ張り、 ついにジャンプは二人の手から離れ、そのまますっぽぬけて天高く舞い上がった。
「「あ!!?」」
ジャンプは弧を描きながらトラックの荷台に落下し、ジャンプを乗せたトラックはそのまま発車して行った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ジャンプを乗せたトラックは、現在夜間の道路を走っていた。その後ろを原チャリに乗ったイッセーが追跡する。
「こんな時の為に原チャリの免許取っておいて正解だったぜ!ってか待ちやがれ!!ジャンプは俺のもんだぁ!!!」
「いいや俺の物だ!!」
そう言い男は塀を飛び越えながらトラックの荷台の上に飛び乗った。
「野郎!化け物か!?あの身のこなしは!?」
「ふははははは!!悪いな少年!こう見えても俺はとある組織のトップに立つ男で《ガァン!!!》」
男はドヤ顔でイッセーに勝ち誇っていると、歩道橋に後頭部を激突し、荷台から投げ出されイッセーに向かってきりもみしながら落下していく。
「ちょっ!!?待て待て待て待て待て待て待てっつてッ!!!」
ギュルルルルルル!!ドガアアアアアアン!!!!!
イッセーはとっさにトラックの後ろに飛び乗り、男もまたイッセーの足を掴んで飛び付いていた。投げ出された原チャリはスピンしながらガードレールに激突し爆音を上げる。
「お前他人を巻き込む奴があるか!!もう駄目かと思っただろうが!!!」
「俺の方が駄目かと思ったわ!!!記憶が走馬灯のように目の前を駆け巡ったぞ!!て言うか今も駆け巡ってるんだけど!!?」
「うるせぇ!!テメェはそこで一生駆け巡ってろ!!!」
イッセーは男の頭を踏みつけ荷台に上がる。そしてその目の前にはジャンプがあった。
「よっしゃぁ!!もらっ「させるかぁ!!!」《ズガン!!》」
イッセーがジャンプに手を伸ばそうとすると、男はイッセーの頭を荷台に叩き付ける。
「キサマのような友情・努力・勝利のジャンプ三大原則も心得ないような輩にジャンプを読む資格はない!!!」
男はそう言ってジャンプへ駆け寄る。
「ッゴォ……させるかぁ!!」
「ぬがっ!!」
イッセーは叩き潰された鼻を押さえながら男に足払いをかけ、そのままヘッドロックに持ち込む。
「友情・努力・勝利?ジャンプを読んでそんなもん手にしたつもりになってんのか?悲しい奴だよお前は。お前は自分にない物をジャンプで埋めているだけだ!!慰めて貰おうとしてるだけなんだよ!!ジャンプはそんな事の為にあるんじゃねぇ!!!」
ブオン!!!
イッセーはとっさに身を翻し、イッセーがいた場所に鋭い光が一閃する。見ると、男の手には黄金に輝く一本の槍が握られていた。イッセーはそれを見て直ぐ様『赤龍帝の太陽手』を展開する。
「ほう、キサマ……ただ者ではないと思っていたら……神器所有者だったとは……」
「そっちこそ、妙な力を感じると思ったら、案の定か。」
二人はそのまま荷台の上で目にも止まらぬ激しい撃ち合いを繰り広げる。
「面白れぇ、男はやっぱこっちの方が早ぇよなぁ?後腐れもないし、ジャンプでもよくやってるし!」
「俺はバトル漫画よりラブコメの方が好きなんだが……まぁいい、愛を通すには戦わなければならないときもある!!」
二人は互いに向かい合い、ジリジリとにじりよる。
「兵藤一誠」
「曹操」
「「参る!!!」」
ドガン!!!
「「おげぁ!!?」」
二人は歩道橋に顔面から激突し、ジャンプもろとも近くを流れる川に投げ出された。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ゴォーン ゴォーン ゴォーン
「あ、除夜の鐘だ。」
「今年ももう終わりですわね。」
雷門家にて、竜也たちはこたつに入り年越しそばをすすっていた。
「ズルズルズル……そういえばさ、黒歌にヴァーリ、お前ら除夜の鐘聞いても平気なの?お前ら悪魔じゃん」
「ズズズズズズん?いや、俺ぁ一応ハーフだからそれほどでもないんだが……色欲の塊の黒姉さんはヤバいんじゃないのか?」
「ヴァーリちゃん?唐辛子絡めたそば鼻に流し込まれたいのかにゃ?」
「まぁまぁ。ま、とにかく、煩悩を否定する積もりはないがほどほどにってことだ。てめぇの欲望に囚われた奴ってのは大抵ろくな終わり方しないもんだ。」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
再び場所は変わる。川に落ちたイッセーと男は、川原に打ち上げられていた。
「「ジャ…ジャンプは…俺の物だぁ……!!」」
真冬の川に落ち、凍り付き悲鳴を上げる体に鞭打ち、二人は這いずりながらジャンプに手を伸ばす。もはやジャンプへの執念のみが、彼らを体を突き動かせていた。
そして、その手が遂にジャンプに届こうとした時……
「………………あれ、よく見たら……これ……」
二人はそこで力尽きた。
((赤マルじゃん……………))
◆◆◆◆◆◆◆◆
「そういやイッセー結局来なかったな」
「だな」
その後、体が凍り付いた状態で倒れ伏す二人を通行人が発見し、病院に運び込まれ一命をとりとめたことを竜也たちが知ったのは、正月の昼の事だった。
これにて今年最後の投稿になります。皆様、よいお年を