この小説は東方project様の二次創作です。
原作と異なる所が多々ありますので、あらかじめご了承ください。
九尾の狐伝説についてはその他書籍なども合わせ兼ねて設定しております。
この作品における藍の過去および歴史背景はかならずしも事実ではありません。
ご容赦おねがいします。
拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。ご感想、ご評価お願いいたします。
…テストで藤原って姓の人を書こうとすると、絶対「妹紅」って書きそうになる
(;´༎ຶД༎ຶ`)
陽春。
花々咲き乱れ、さくらの花がこの季節のおとずれを告げる。
さくら、桜、サクラ、と都はこの花のかもしだすやわらかい空気に酔っているようだ。
眠気を呼ぶあたたかな風に散った花びらはいたるところへと運ばれ、寝殿前にひろがる池にはうす桃色の小船がいくつも浮かび、地面も同じ色に染まる。
春の平安京はそんな華々しさに包まれていた。
宮中。
鳥羽上皇のすむ屋敷に仕える女官、玉藻前はだれもいない部屋でひとり楽しみにくれていた。
彼女の目はある一点のみにそそがれていた。
目の前で
一匹の黒猫だった。
「ほーれ、
すこし前に、道ばたで拾った猫である。玉藻はこの黒猫を「蜜柑」と名付け、溺愛しているのだ。
人間、上皇などと呼ばれたあれや、その他の者とふれあっているときよりも、この愛しい猫とふれあっているときのほうが断然楽しい。玉藻はこの時間が日ごろの楽しみとなっていた。
あれからどれぐらいたったのだろう、と玉藻は思う。
この国に来て、この国の一番の屋敷に「女官」としてここにいたるまで。
まあ、ここの人々も嫌いではないし今はこのわが子同然の黒猫が居るから、この御所に居てやってもいいだろう、と思う玉藻。
今だにえのころ草にじゃれあっている猫をなでようと、玉藻が手をのばした時だった。
「大変です、玉藻殿!上皇様が病に倒れてしまいました!」
いきなり公卿の男の一人が血相を変え、そう叫んで玉藻のもとへやって来た。
「すぐさま、上皇様のもとへいらしてください!」
それだけ伝えると飛ぶように部屋を出て行った。
しばらく玉藻はその場で呆然と立っていた。
やはり、自分に人間が恋するなど無理な話だったのだ。
なぜなら、自分は妖怪、それも名高きとある大妖怪なのだ。
そもそも、尋常な妖力にあれは近づきすぎた。自分の妖力に貧弱な人間が影響をうけない訳がない。
玉藻がなによりも恐れていること、
それは、自分の正体がばれてしまうこと。
そして、自分討伐のために血でそまった妖妖の犠牲がうまれることだった。
騒ぎは都全体へと広まった。
「上皇様が倒れたらしいぞ!」
その噂はとある者の耳にも届いた。
傘を片手に持ち、もう片手に椿餅をほおばる女性。
椿餅のおいしさに舌鼓を打っていた時に何事かと思い、尋ねてみると、紫はうすくため息をついた。
「やっぱり……ついに妖怪が化けの皮をぬいだか……」
「すみやすい都なのにねえ……………壊すのも壊されるのももったいくらいに」
餅をまたひとくち口に運んだ。
上皇が病に倒れてから数日経った。
急な出来事のきっかけ……このごろにはもう伝染病は流行ってなく、体を崩すようなたべものもこれといって思い当たる節はない。
公卿やがあれこれ原因を探るが進展はなく、医師もお手上げだった。
結果たどりついたひとつの結論。
何者かによる故意の暗殺計画、または上皇の位を望む者による妨害。
まっさきに疑いのかけられた人物。
ここのところ急に入ってきて上皇に寵愛されている女官。
素性も知らない謎の美女。
玉藻には冷たい視線がそそがれるようになり始めた。
そして玉藻の正体を探るべく、ある者が招かれた。
「……そういった訳で我々は玉藻前という奴が病の原因だと踏んでおりまして……彼奴が何者なのかを清明殿にたしかめてもらいたいのです」
「……………………………」
紫を主とした、唐衣裳装にながい金髪。妖しさにもにた雰囲気をかもしだす美しい女性。
天才と名高い陰陽師、安倍清明もとい八雲紫。
しばし紫は考えた。
この地の安泰を守るか、あくまで妖怪としての立場でことを傍観するか。
「……いいでしょう、この清明が上皇様の病、治して見せます。力づくでも」
「おお、感謝申し上げますぞ!清明殿、それでは明後日開かれる宴会に彼奴に会わせます。よろしく頼むぞ、天才陰陽師殿」
部下との会話もおわり、ふう、とため息をつく紫。
誰が怪しく、誰を討ってほしい、というのについてはそいつから聞いた。
後は宴の場で、化けの皮をはがせば事は片付く。
あちらは「正体を調べてほしい」ということだが、こちらはもう労の因由は把握している。どんな妖怪かだけを確かめ、時をうかがい誅するのみだ。
ただ、「妖怪が妖怪を討つ」その事実だけは心のなかで、黒いもやとなり重くのしかかっていた。
―果たして自分はどちらの味方なのだろうか。
寂しげに、自分を嗤うように笑みがうかんだ。
宴会当日。
上皇が床に伏せているというのに宴などとは何事か、としばし宮中は騒ぎとなったが、不予の犯人を見つけ出すため、となんとかおさめて今や屋敷全体がそれを戒めるために一丸となっていた。
みな、新入りの玉藻の奴なんぞが知る由もないと思っているのだろう。
そして、その宴に招かれたもの。安倍清明は玉藻前に隣で参加した。
笛の演奏、和歌などによりそのほかの者が盛り上がるなか、彼女たちはしずかにそれを観ていた。
「貴方の金のその髪、とても美しいですわね」
清明が思い切って玉藻に話しかけた。
「いえいえ、貴方の方がよっぽどお綺麗ですわ。その着物も」
「ありがとうございますわ。ところで貴方、名はなんとおっしゃるのかしら」
「私は玉藻前でございます。鳥羽上皇様の妻ですわ」
「私は八雲紫です。上皇様が惚れるのもなるほど無理はないですわ。ところで、貴方が撫でておられる猫、可愛いですわね」
「うふふ、可愛いでしょう、蜜柑というのよ。……しかしまあ、こんなときに宴会とは、不思議ですわね………なにか企みでもあるのかしら。ふふっ」
心なしか、玉藻の顔に影ができた気がした。紫が言う。
「ええ、そうですね。しかし、春もさながら。ここは楽しみましょう」
目の前の女の妖気、そして口ぶり。まちがいない、やはりこいつが紛れ込んだ妖怪
だった。
いまここで始末するべきか、もう少し話をしてうまくここから連れ出すか。
紫がそう考えていたとき、唐突に玉藻が立ち上がった。
「玉藻殿、どうされ………?」
玉藻のいきなりの行動に、ほかの者も目を向ける。
それを尻目に玉藻が言う。
「うふふ、今日ほど幸せな日はないわ……すばらしい方とお話できて」
「ねえ、こそこそ此処に紛れちゃって、なにしに来たのかしら、妖怪!」
いきなりの言葉に周りの者が唖然とするなか、そこに玉藻はあらわれた。
深く息を吸い、紫の方を向き、言う。
「妖怪よ!私とすこし、遊んでみな……」
玉藻がみていたい草の地面に、ひどく熱い炎のようなものが走った。
言い終わらないうちに、玉藻はいつのまにかしりもちをついていた。
紫の背後にうかぶ不気味なスキマ。自分の攻撃がなにかしらに目の前の妖怪によって打ち消されたのだと、直感的にわかった。
しばらく呆然とした後、玉藻は首をふる。
「い、いやあ、いきなり変なこといってわるかったわ。まあ、私も遊びたかっただけだし………これぐらいで引き上げ……」
言いおわらないうちに彼女の瞳はおおきく見開かれていた。
ところどころから煙をあげ、畳を赤く染めるモノ。
焼き焦げた体から、厭なにおいを放つそれ。
黒い毛皮がやぶれたところからはピンク色のなにかが覗いている。
そこには無惨な姿でただ転がる、黒猫がいた。
見る影もなくした愛するものの屍体があった。
「………………………………み、かん?」
立ち尽くす玉藻をみて、紫はまずいと思う。
「蜜柑………………………………………………………………よくも」
「よくも蜜柑をオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
空気がビリビリと震えた。
玉藻の絶叫。あらんかぎりの力でそう叫んだ。
その瞬間、玉藻のからだが青白い光につつまれた。
そこに現れた彼女の姿は、以前とは似つかぬものだった。
長かった金の髪は首もとまでに短くなり、白い化粧はなくなっていた。
整った顔は変わらずも、活発さがにじみ出ている。
そして、なによりも目に付く変化。
頭から覗く狐の耳。神々しくかがやく九つの狐の尾。
それは孔雀の羽のように、玉藻の背後でゆれる。
厳然な威圧感。大妖怪なるものの畏怖の念を抱きざる得ない姿。
瞳にうつる好戦欲と激昂の色は、化かしによってつくられた美貌よりもはるかに祖姿に似合っている。
「ついに姿を現したか!白面金毛九尾の狐よ!!ここで終わりだ!」
「………………………………………望むところだ」
玉藻は黙ったまま黒猫の残骸を拾い上げ、うでで抱く。
そしてゆっくりと紫の方にからだを向ける。
気づけば屋敷に人はいなかった。これも計画なのかもしれない。
―戦いの火蓋は切って落とされた。矛と矛のぶつかり合いが始まった。
「罔両『
紫がそう宣言すると同時に、青い弾が光線のように玉藻に襲い掛かってきた。
身を翻し、それをかわす。
「
紫の宣言を聞き、玉藻はとっさにそれに合わせ同じく宣言する。
白面金毛九尾の狐。大妖怪紫といえども、押されてきている。極東の最強妖怪の力を身にしみて実感した。
緑のワイヤーを切断しながら紫は怪訝な顔をする。
(………この狐、スペルカードルールを知っている!?)
九尾の狐が自分の戦法に模したのはわかった。しかしああいった技名の名前はとっさに思い浮かぶものではない。
この狐がそれほど聡明なのか。それとも自分のやりかたの適合者なのか。
「
壱拾弐個の使い魔を従え、新たに攻撃に入る玉藻。
自分への怒り憤慨、恨みのみで彩られた瞳が向けられる。
むしょうに紫は自分のしていることがひどく愚かでくだらなく見えた。
もう、このよくわからない戦いを終わりにしたいと思った。
深く息を吸い、叫ぶ。
「『
―その瞬間、視界を埋め尽くすほどの夥しい弾幕が、玉藻を容赦なく降りかかった。
いたるところから鮮やかな血を流し、床に横たわる少女をしばらく紫はながめていた。
狐の耳と九つの狐尾はボロボロになり、もとの神々しさを失っていた。
上皇の不予の元凶、白面金毛九尾の狐の討伐には成功した。
あとはとどめを刺せば朝廷も満足するだろう。
うめき声をもらす狐がずっと抱えていたモノ。
自分が殺めたも同然な黒い子猫の惨烈の亡骸が目に付いた。
気づけば、紫は目の前の狐を抱きしめていた。
傷だらけの彼女を、強く、わが子のように。
「………………ッ!?」
驚いた玉藻が身をよじるが、紫のうでから離れられない。紫がそれを拒んだのか、玉藻の心がそれを拒んだのか。
「八雲紫?……………………何を……」
黙ったまま紫はいっそう強く玉藻を抱きしめた。
たった一匹の儚くもろい猫の命に自己の身を傷つけてまで守り、仇を討とうとした妖怪の姿に胸が締め付けられた。
そんな妖怪を自分が殺めていいのか。そんな資格は自分には無い。
そして、目の前の狐が非常に愛しいものに見えた。
「…………………………玉藻」
自分の言葉に顔をあげる玉藻。
「………………さっきはごめんなさい」
「……………命あるものに終わりは必至、もうそのことは気にはしていない」
玉藻の瞋恚はもうないようだ。それを確かめ用意しておいたこの言葉を言う。
「玉藻、あなた、私の式神にならない?」
「えっ」
玉藻は困惑の声を上げる。それもそうだ、式神になるということは元の力を弱化させることになる。
構わず言葉を続ける。
「玉藻……あなたは虹をみたことはある?」
「虹?雨上がりにできる七色の……」
「そう、赤橙黄緑青藍紫、それが虹。そして私は境界の妖怪、八雲紫。紫にもっとも近い色、それが藍色。夕焼けの色の橙、夜の藍、そしてそれらの境界の紫」
ひとりごとのように、けれどしっかりと言葉を述べる。
「……………………?」
いっそう困った顔になる玉藻。それでいい。あとはこの言葉をいうのみ。
「今日よりあなたの名は、八雲藍」
しばらくして狐の返事があった。
「はい」
そう言った藍の瞳からキラリ、と何かが光った気がした。
―それは静かに紫の袖をぬらした。
―麦秋や 金の麦穂を みにまとふ
九尾の狐は 式にてわが子
八雲 紫
この作品に最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
お楽しみいただければ嬉しいです。
いやあ、恐ろしいほどに歴史と原作設定が捻じ曲がってしまいましたね。
自分でよんでも相当驚きました。
こんな筆者ではありますが、今後ともよろしくおねがいします。
拙い文章にここまで付き合っていただき、改めて皆様に感謝申し上げます。
ご評価、ご感想のほど、いただけたら嬉しいです。
よろしくおねがいいたします。