いつか平和な海で   作:瑞穂国

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はじめましての方ははじめまして

今回書かせていただいたヤマト、ムサシ姉妹は、原作でも特に好きなキャラクターです。最近あんまり出番ないけど

ですから映画に出るって聞いたとき、「ええっ・・・」って感じでした

最初に言います

スタッフさん本当にごめんなさい!映画だからって馬鹿にしてごめんなさい、今まで以上に二人が好きになりました!!

アニメ版独自の話ということで、十分すぎるほど楽しく見させてもらいました。後、結構久しぶりに映画でウルッと来ました

その気持ちが少しでも伝わるよう、頑張ります


いつか平和な海で

ピンポーン。

 

夕方、私が自室で読書に耽っていると、玄関のチャイムが鳴った。待ちわびた人の帰宅を知った私は、寝転んでいたベットから飛び起きると、ブーストモードで部屋を出て、玄関に向かった。

 

おっとと、その前に確認しないと。

 

インターホンの画面を起動する。思った通り、そこに立っていたのは、目当ての人物。私の勘は、何かと当たるのだ。

 

タッタッタッと駆けていく。勢いそのままに、ドアを開け放った。

 

ガチャッ

 

「お帰り、お姉ちゃん!」

 

「ただいま、お留守番ありがとう」

 

玄関前に立っていた絶世の美女が、私に優しく微笑みかけてきた。

 

 

 

私の名前はムサシ。こう見えて、霧の艦隊を統率する超戦艦だ。

 

・・・なんて、名乗ったのはいいんだけど。今の私には、かつて人類を圧倒した兵器を扱う力はない。ていうか必要がない。七年っていう時間(大して長くない気がするけど)がかかったけど、ついにお姉ちゃんの念願だった、人類との和平が成立したから。要は、戦う理由がなくなってしまった。

 

私の艦は兵装にロックがかけられ、今は横須賀のドックでモスポール保存されてる。解除コードはお姉ちゃんが持っていた。

 

とまあ、色々あって。私はお姉ちゃんと、陸で暮らしている。

 

 

 

「今日もおじ様のところ?」

 

夕飯の買い物をしてきたというお姉ちゃんから買い物袋を受け取って、私は尋ねた。おじ様―――千早翔像海将補は、再建中(和平条約内で規定された規模までだけど)の海上自衛隊のお偉いさんで、一部が活動を続ける霧の艦隊との折衝を担当している。つまり、霧の総旗艦であるお姉ちゃんと、色々と相談するのが仕事だ。

 

私も連れて行ってほしいんだけど、何かあったときにすぐ動けるようにって、最近はいつも取り残されてる気がする。まあ、交渉とかそういうのは苦手だから、ありがたいと言えばありがたいけど。おじ様とは、プライベートで会うことも多いし。

 

「ええ、“生徒会”から定時の連絡があったから」

 

お姉ちゃんは丁寧に靴を揃えた。

 

“生徒会”は、現在も活動を続ける霧の艦隊の一部だ。和平後の、統制の緩んだ時を狙って各地で活動を始めた海賊に対応する、遊撃部隊みたいなものだ。後、各地の霧の艦隊の残存が和平条約を遵守しているか、こうして陸にいる私たち姉妹に代わって見張る役目も負ってる。旗艦は大戦艦ヒエイ。

 

他には、コンゴウの率いる“ブラック・ティーパーティー”や、ビスマルクの“スカーレット・フリート”なんかが活動してる。

 

・・・霧の艦隊のネーミングセンスが、変な方向に向かい始めてる気がしないでもないけど、私は気にしないことにした。うん、気にしてないよ、ほんとだよ。

 

まあ、それもこれも、主に“学園組”のせいなんだけど。あの娘たちが、変な方向性の言葉(厨二とか言うらしい)を戦術ネットワークに上げてくるから。例えばズイカクとか、タカオとか。

 

はあ・・・。規律正しく、誇り高かった霧の艦隊は一体どこへ・・・。超戦艦は悲しいですよ?

 

「アシガラは大人しくしてるのかな・・・」

 

ふと思った心配を口にした。メンタルモデルを手に入れてからというもの、件の重巡洋艦はそれまで以上に突っ走るようになっていた。どうも戦闘がないのが不満みたいで、最近はナチとバトルシップゲームに興じているらしい。戦術ネットワークに上げている限り、全敗らしいけど。

 

ていうか、ボードゲームの結果をネットワークに上げるってどうなのだろうか。どんなバトルシップゲームをしているのか、心配になってしまう。ナノマテリアルで実物作ったりしてないわよね?

 

「ヒエイも苦労しているみたい。まあ、あの娘に我慢は似合いませんからね」

 

食品をキッチンの冷蔵庫にしまいながら、お姉ちゃんが答えた。

 

「今度、なにか暇つぶしになるようなものをあげましょうか」

 

「あ、それいいかも」

 

とは、言っても。アシガラは本なんて読みそうにないし、何を薦めたものだろうか。プラモデルでも渡してみるか。

 

思案するうちに、袋の中身を移しおわった。

 

「ありがとう。助かったわ」

 

顔を上げたお姉ちゃんが、惚れ惚れする笑顔を向けてくれた。

 

 

 

そうそう、お姉ちゃんの紹介がまだだった。

 

超戦艦ヤマト。霧の艦隊総旗艦を務める、私のお姉ちゃん。霧の中で初めてメンタルモデルを手にしたお姉ちゃんは、おじ様と共に人類との和平交渉に尽力した。今も、霧の窓口として、各国政府と霧の艦隊の間に立って働いている。

 

もちろん、私の自慢のお姉ちゃんだ。

 

 

 

「そうだ、洗濯物入れないと」

 

ふと窓を見たお姉ちゃんが、干しっぱなしにしてある洗濯物に気づいた。

 

「いいよお姉ちゃん、私がやるから」

 

夕飯の準備もあるお姉ちゃんを手伝う意味も込めて、私は引き受けた。

 

私たちの服は、もちろんナノマテリアルでも作れる。でも陸に住むにあたって、お姉ちゃんのリクエストで人類製の服を買って着ることにしてる。私の着てる部屋着も、再生生地とやらでできたものだ。触り心地はお世辞にもよくないけど、これはこれでいいと思ってる。私の演算処理も、大分人類の文化に侵されてきてるのかも。

 

「それじゃあ、お願いね。私は夕ご飯の準備をするから」

 

「はーい」

 

いいお返事をして、ベランダに向かった。マンションの割りに広めにとられたベランダは、洗濯物も干しやすいし、夏場なんかは涼しい風にあたって一杯(風呂上がりに飲み物を飲むことだ)やれる。人類は、こういうことに『風流』とやらを感じるらしい。

 

ここ二日間雨だったから、いつもより洗濯物が多い。乾燥機を使ってもいいけど、湿気の多い日本では生乾きになりがちだ。どっちにしろ、やっぱり太陽に当てるのが一番だ。

 

「♪~」

 

呑気に鼻歌なんて歌ってみる。イ四○二のメンタルモデルがネットワーク上に上げてきた行為だ。お姉ちゃん直属の潜水艦だった彼女は、現在“学園組”のタカオとズイカクと共に暮らしている。世話をしていると言うのかもしれないが。

 

テキパキ取り込んでいく。こう見ると、色々買ったものだ。ていうか半分以上お姉ちゃんの服な気がするけど。

 

と、あらかた取り込んだところで。私の目にそれが飛び込んできた。

 

外からは見えない位置。それでいて、昼あたりにはきっちり太陽光が当たる場所。

 

 

 

下着だ。

 

 

 

いや、私の下着はどうでもいい。その隣、お姉ちゃんの下着が一緒にぶら下がっている。

 

・・・。

 

・・・・・。

 

・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・。

 

・・・ゴクリ。

 

う、うん。私、今日頑張った。お留守番頑張ったよ、うん。ご褒美もらえるって。いや、もらうべきだって。

 

一枚、一枚だけだから・・・。

 

白地に赤いリボンのついたそれを手に取り、ポケットへ・・・

 

 

 

ポン、と肩に手が置かれた。

 

「ム・サ・シ?」

 

ギクッ。

 

「何してるの?」

 

ギクギクッ。

 

お姉ちゃんの(すごくいい)声が、背中から聞こえた。演算処理に失敗したロボットみたいに、ぎこちない動きで私は振り向いた。

 

「いやー、これはそのー」

 

ご丁寧にも、冷や汗まで流れ出てくる。まったく、いつも“学園組”は、余計なアップデートをしてくれる。

 

「お留守番のご褒美、かな?」

 

エヘッ。自分なりに最高の笑顔を作って見せる。

 

お姉ちゃんはいつも通りニコニコして、

 

「没収です」

 

お姉ちゃんのゲンコツは、超重力砲並みに痛かった。

 

 

 

「「いただきます」」

 

午後六時、太陽はまだ沈んでいない。けど、私たちはいつも通りの時間に、夕食を取り始めた。

 

メンタルモデルを手に入れてよかったと思えることの一つが、この食事だ。別に、私たちは食事などしなくても生きていけるのだが、それとは別にして、私はこの『家族とご飯を食べる』という行為が好きだ。

 

お姉ちゃんが初めて料理を作ったのは、三年くらい前だったかな?ヤマトを訪れていたおば様―――千早沙保里さんに教えてもらったのがきっかけだった。

 

―――「どう、ムサシ?おいしそうでしょ?」

 

四人分焼かれたパンケーキを、ニコニコ笑って私に見せてきた。私はそれを見て、飛び上がるほど喜んだものだ。

 

料理をしているときのお姉ちゃんは、とても楽しそう。トントンと小気味良く響く包丁の音。コトコト煮える鍋。そんな中で、おば様にもらったエプロンを着けるお姉ちゃんは、歌を口ずさんだりする。そして、私がキッチンの入口からニヨニヨして見ているのに気づくと、ポッと頬を染めたりするのだ。

 

私は、料理にはあまり興味はない。でも、お姉ちゃんを手伝えるくらいには、包丁の扱いには慣れたつもりだ。

 

「今日は、ラタトゥーユを作ってみたの」

 

早速サラダに手をつけ始めた私に、お姉ちゃんは新作料理の名前を教えてくれた。多分、お鍋に入っていた料理のことだ。

 

「ラタトゥーユ?」

 

「そう。四○二がネットワークにレシピを上げていたから、気になって」

 

さらっと言ってるお姉ちゃんに対して、私は絶句するしかなかった。

 

おかしいわね。戦術ネットワークって、お料理紹介コーナーか何かだっけ?

 

「ふふ、ムサシがそう思うのも無理はないわ」

 

お姉ちゃんには、私の思考回路なんてお見通しのようだ。

 

「でもね、ムサシ」

 

諭すように、お姉ちゃんは指を一本立てて、私の顔を見た。

 

「これから、戦術ネットワークがその本来の機能を果たすことは、多分ないわ。ないようにしなくちゃいけないの。私たちの手で」

 

サラダを口に運んでいた手を、ピタリと止める。

 

「確かに、あれは私たちが、人類と戦うために作り上げたもの。でも、だからこそ、これからは私たちと人類の、発展のために使わなければならないわ。私たちが何に触れ、何を感じたのか。これからは、それを記録していくの」

 

お姉ちゃんは、両手をそっと、胸元に添えた。言葉を探していたのか、しばらくして「そうね」と呟いた。

 

「交換日記・・・みたいなものかしら?」

 

「交換、日記・・・?」

 

「そう。霧のみんなで書いていく、交換日記。私たちが何者で、何をして“生きていく”のか。みんなで考えていかなくてわね。だから、ね。ムサシ」

 

「・・・何?」

 

「あなたも、感じたこと、大切だと思ったことを、書いていいの」

 

身を乗り出したお姉ちゃんが、そっと私の手を握って、そのまま私の胸元に添えた。祈るように瞼を閉じて、それから手が離れる。

 

「私はもっともっと、ムサシのことが知りたいわ」

 

胸元に残った右手に、私は左手を重ねた。戦術ネットワークに接続する。そこには、数多の言葉が溢れていた。

 

「私の、こと・・・?」

 

「そうよ。ムサシの大切なもの」

 

「私の大切なものは・・・」

 

大切なもの、か。正直、私はお姉ちゃんほど、この手の曖昧な感覚を理解しているわけじゃない。人類の言葉というのは、同時に多くの意味を持っているし、その定義も定かじゃないからだ。

 

“大切”という言葉には、確か『大いに愛する』という意味があった。お姉ちゃんが今言っていることに一番近いのは、きっとこの意味だ。

 

“愛”。

 

人類にとって、最も偉大な言葉。戦術ネットワークでは、そう定義づけられている。

 

そうだとするならば、私にとって“大切なもの”は―――

 

やっぱり、お姉ちゃん、かな。

 

いつかお姉ちゃんは、私のことを「大切な人」と言ってくれた。それと同じように、私の“大切な人”は、お姉ちゃんだ。

 

“ヤマトは、私の大切なもの”。

 

「まあ・・・。ふふふ」

 

その時、目の前でお姉ちゃんが笑いだした。口に手を当てて、くすぐったく恥じらうように、頬を朱に変えている。

 

・・・あっ。

 

そういえば、戦術ネットワークに接続していたままだった。つまり私の大切なものは、お姉ちゃん―――どころか霧の艦隊全体に知られてしまった。

 

うわあ・・・。う、うわああああああっ!!

 

は、恥ずかしいなんてものじゃない。感情シミュレーターを切っておけばよかった。

 

「あわ、はわわわ・・・っ!」

 

同じように赤くなっているであろう頬を覆い隠そうと、両の手で抑えて悶える。その様子を、お姉ちゃんは可笑しそうに微笑んで見ていた。

 

『ありがとう。私も大好きよ、ムサシ』

 

概念伝達で、お姉ちゃんの声が聞こえた。おずおずと顔を上げると、お姉ちゃんがいつも通りに、優しく笑っていた。

 

「さ、ご飯を食べましょう。ラタトゥーユも出すわね」

 

「・・・うん」

 

 

 

その日のご飯は、それまでと違った味がした。もちろんラタトゥーユも含めて、お姉ちゃんの料理はいつも通りにおいしかった。だから、私のコアがそう導き出したのは、多分、ラタトゥーユのせいじゃない。

 

これがきっと、“大切の味”なんだ。




いかがだったでしょうか

メンタルモデルの設定なんかは、原作版でもまだまだ謎が多いところですが、そういうのは一切気にすることなく書きました

本当に、書きたいことを書いただけ

短編をいくらか書くつもりですので、またの機会にお付き合いをお願いできればと思います

読んでいただいて、ありがとうございました
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