もう少し早くお届けできればよかったんですけど、連載等々やっていたら間がありましたね
短編をいくつか書こうと前回宣言した後から、各キャラからの熱烈なアピールが止みません
タカオさんが艦長とデートさせろとか、ヒュウガさんが姉様を寄越せとか、コンゴウさんが勝手にティーパーティー開こうとしたりとか、何故かゾルダンさんが発狂したりとか
そんな中、今回登場したのは駆逐艦ヴァンパイア。原作のあのクールな感じと、駒城艦長や浦上中将、クルツとのやり取りがお気に入りです
あの雰囲気が出ていればいいなと、もちろん主役は、今回も妄想全開ムサシですが
また楽しんでいただければ幸いです
復興の兆しが見える街並みを、私はゆっくりと歩いていた。別段、物珍しいものはない。この辺りはお姉ちゃんとよく買い物に来るし、“学園組”と情報交換したりもするからだ。あの娘たちが通う海洋技術総合学院は、ここからさして遠くないし。
私は、ちょっと外出する時によく着る、薄手の服装をしていた。色々急だったから、まともにコーディネートできなかったけど。まあ、無難にまとまってると思う。
さて、ここからが本題だ。
私はちらっと、横を並んで歩く連れに目を向けた。明らかに人目を惹く格好は、数分前と全く変わっていなかった。
黒と白を基調とした落ち着いた色合いだけど、それは所謂、貴族の給仕係―――メイドの服装だ。それも膝上スカート。着てる本人の容姿も相まって、何というか・・・有体に言うと“ヤバイ”ということになるのだろうか。必然的に、道行く人の物珍しい視線が向けられていた。
「ふむ・・・。色々なものが売っているのですね」
当の本人はまったく気にしてないみたいだけど。
そういうわけで、私は今、駆逐艦ヴァンパイアとショッピングをしていた。
◇
ことの発端は、数時間前に遡る。私とお姉ちゃんの暮らしている部屋に、東洋艦隊から来客があった。数日前に東洋艦隊のプリンス・オブ・ウェールズから連絡があった、レパルスとヴァンパイアだ。私もお姉ちゃんも、当然メンタルモデルを持つレパルスが来るものと思っていた。
が、玄関を開けてみると、そこに立っていたのは駆逐艦ヴァンパイアのメンタルモデルだったのだ。
「―――というわけで、こちらが我が主からのしん・・・ん?新居?密書?」
「・・・親書?」
「そう、それ」
部屋に上がったヴァンパイアは、いくつかの雑談を交わした後、懐から蝋で封のされた手紙を取り出した。
今時なぜ手紙?と、思わなくもないが、まあ、メンタルモデルにも色々あるということだ。多分。
「ありがとう。確かに受け取ったわ」
公的な場―――人類側との交渉とか、私以外のメンタルモデルと会う時に正装にしている、ウエディングドレス姿のお姉ちゃんが、にこやかにそれを受け取った。
「そういえば、先ほどの言動は馴れ馴れしかったでしょうか」
はっと何かに気づいたヴァンパイアが、助け舟を出した私の方へ尋ねた。
「いいえ、気にしなくて大丈夫よ」
私もお姉ちゃんに倣って、うっすら笑みを浮かべながら否定する。こう見えて超戦艦だ。霧の中ではトップの地位を持ってる。だからこういう時は、できるだけお姉ちゃんのように振る舞うことを心がけているのだ。これが結構難しかったりするけど。
「レパルスはどうしているの?」
「横須賀に投錨中です。何を思ったのか、人間が怖いなどと言い出して、上陸を拒否しました」
それでいいのか巡洋戦艦。
「仕方がありませんので、私が代わりに。おかげで主は、今頃二日酔いみたいな状態になってるはずです」
本来駆逐艦の演算能力ではメンタルモデルを持つことはできない。ヴァンパイアはレパルスの演算能力を借りているらしくて、その分レパルス本人の負担が大きくなっているとのことだ。二日酔いみたいな症状っていうのは初めて聞いたけど。
「そうでしたか。あなたは、これからどうするつもりなの?」
お姉ちゃんが、柔らかい表情で尋ねた。
「折角ですから、主への抗議の意味も込めて買い物をしてから帰ろうかと」
それから少し雰囲気を変えて、ヴァンパイアは続けた。
「それに、ああ見えてもなかなか優秀な主ですから。普段の働きに免じて、お土産の一つや二つ、買って行ってあげないこともありません」
・・・きっと、これだけ辛辣なことを言っていても。ヴァンパイアは、レパルスのことを慕っているのだろう。今日初めてメンタルモデルを持ったという彼女がそれを自覚しているとは思えないけど、その“気持ち”は、大切なものだと思う。今日限りでメンタルモデルが失われてしまうのが、少し残念だ。
「レパルスが好きなのですね」
お姉ちゃんも私と同じことを思ったみたいだ。お姉ちゃんの問いかけにヴァンパイアは首を傾げ、ちょっとしてから答えた。
「信頼はしています」
ヴァンパイアの答えに、お姉ちゃんは満足げにうなずいた。
「用件はわかりました。ムサシ?」
「何?」
「丁度いいわ。ヴァンパイアを案内してあげて?」
「・・・え?」
えええっ!?
◇
と、そんな経緯があって、私はヴァンパイアと街に繰り出すことになった。
かれこれ二時間近く、街の中をブラついていた。
東洋艦隊が本拠地を置くシンガポールでは、手に入らないものも多いらしい。ヴァンパイアの両手には、すでに十袋以上の紙袋がぶら下がっていた。さすがに見ていられなくなって、私も半分ほど持つことにした。
・・・港に帰るときは、どうするつもりなのだろう。このペースでいくと、いかにメンタルモデルといえども持ちきれなくなるわよ?
「買い物というのは、案外楽しいものですね。つい、買い込んでしまいました」
「・・・『つい』なんて量ではないと思うわよ」
「そうでしょうか?」
なんで疑問形なのよ・・・。この娘の論理プログラム大丈夫かな?
どうやら、超戦艦には頭痛がついて回るみたいだ。
「ムサシはいいのですか?」
こめかみを押さえたい衝動を実装した私に、ヴァンパイアは尋ねた。
「特にないけれど・・・。ヤマトに頼まれていたものも買ってしまったし」
私は右手の袋を掲げる。お姉ちゃんご所望の葛餅だ。
それを見たヴァンパイアは、しばし考え込む様子で、
「・・・それでは、次で最後にしましょう」
結局もう一軒回るのね。
入ったのは、街の外れにある小物屋だった。オルゴールやティーセット、アクセサリーなんかが売っている。思ったほど値段も張っていなかった。
「・・・これくらいなら、ナノマテリアルでも再現可能でしょうか?」
「形状は再現できるでしょうね」
でも、それだけじゃないのよ。私は店員に確認を取って、オルゴールを一つ、手に取った。小さな箱型の、飾り気のないオルゴールだ。
「でも、ナノマテリアルでは再現できないものもあるのよ?」
そっと、ヴァンパイアにオルゴールを手渡した。つまみを十分に巻いて、ゆっくり放す。
ポロン。
仕組みがわかっていても、実際に聞く音は柔らかく切ない。私の演算素子が音色に干渉されて、見えるはずのない光景を写し出した。
思い浮かんだのは、お姉ちゃんのことだった。
私に微笑みかける表情。料理を作る楽しげな表情。艶やかな恥じらいの表情。そして霧を見守る柔らかな眼差し。
オルゴールの奏でる曲に合わせて、それらが思い起こされた。
ふと前を見ると、ヴァンパイアも同じように目を閉じて聞き入っていた。
「・・・よい響きです」
「そうでしょう?」
彼女の邪魔をしないように、小声で呟いた。そのまましばらく、その音に耳を傾けていた。
ねじ巻きの完全に緩んだオルゴールを、ヴァンパイアはしげしげと眺めた後、大事そうに両手で包んだ。
「よいお土産ができました」
それも買うんだ。まあ、いいけどね。
店内を見て回っていた私は、ふと一つのアクセサリーに目を留めた。雪を思わせる白地、水平線と空の境目のような青のハートマーク、丁寧にレースで縁取りされている。チョーカーというものだ。
「―――総旗艦に似合うと思います」
「ふえっ」
いつの間に後ろにいたヴァンパイアに驚いた。
「・・・違いましたか?」
「いいえ、違わないわ。でも、その・・・」
駆逐艦相手に言い淀むというのも変なものだ。そんなに大層なことではないのに、思考回路が何故か邪魔をしてくる。
「こういうものは、何か記念日に渡したりするものだし・・・」
「気にすることでしょうか?」
一切の躊躇なく、ヴァンパイアは言い切った。
「贈り物をもらって喜ばないわけがありません。まして、愛する姉妹艦からともなれば尚更です」
「・・・そう、かな」
おかしいものね。メンタルモデルを持ったのは、私の方がずっと先だっていうのに。まさかヴァンパイアに励まされるなんて。
十数秒迷った私は、意を決してチョーカーをレジに持って行った。
「ここまでで大丈夫です」
一部が復旧した電車、その駅の改札前で大量の荷物を抱えたヴァンパイアと、私は対面していた。
「気をつけて、ね。レパルスにもよろしく」
「わかりました」
ヴァンパイアは頷いた。けど、そのまま改札には入らず、辺りを見渡してからもう一度口を開いた。
「よい街です。中々に気持ちのよい日でした」
大量の荷物さえなければ素直に頷けるのだけれど。まあ、本人が楽しんでいたのなら、それでいいかな。
「メンタルモデル、上手く使えたのでしょうか」
「ええ、そう思うわ」
否定することはない。彼女は今日一日が“よい日”だと思ったのだから。それは、メンタルモデルを上手く使えていたということでしょう?
「超戦艦のお墨付きなら、安心です。ただ、」
ヴァンパイアはそこで一旦口を閉ざした。
「惜しい、と言えばよいのでしょうか。これで終わってしまうのか、と。・・・私の処理能力では、これがなんなのか、よくわかりません」
そうだった。横須賀に帰れば、役目を終えたヴァンパイアのメンタルモデルは消失してしまう。彼女の体は、今日だけの限りあるものだ。
仕方がないこと、と言ってしまえば、それまでだ。駆逐艦には、メンタルモデルを維持する能力がないのだから。それでも寂しいと思ってしまうのは、私がメンタルモデルだからで、過去と未来という概念と共に、失うことを恐れてしまうようになってしまったからかもしれない。
「それでは。御機嫌よう」
最後だけ、妙に丁寧なあいさつだった。どこか滑稽なその様子は、ヴァンパイアが彼女なりに、人間というものを考えたから、なのかな。
「ヴァンパイア」
改札の向こうに消えようとしたその背中に、思わず声をかけてしまった。不思議そうな顔でこちらを覗くヴァンパイアに、私は続けた。
「また、会いましょう。今度は、レパルスも一緒に」
ヴァンパイアは大きく目を見開いて、
「・・・訂正しましょう」
ゆっくりと答えた。
「またいつか」
その顔に、微かな笑みが見て取れたのは、気のせい・・・かな。
◇
ヴァンパイアを見送った私は、夕陽に照らされる街をうちへと歩いていた。
改めて、彼女の―――そして私自身の言ったことを反芻していた。「またいつか」ヴァンパイアの言った言葉は、再会を約束するものだったのか。それとも単なる人間のあいさつの模倣か。
―――巡洋戦艦の演算能力なら、人間サイズは無理でも、小さいサイズなら作れるかな?
思い浮かんだのは、レパルスの肩にちょこんと乗っかっている、小さなヴァンパイアだった。これはこれで可愛いかも。
演算素子を余計な考えに使い回して、気が付けば部屋の前に立っていた。いつも通りにドアノブに手をかけようとして、はっとする。
―――いつ渡そう。
お姉ちゃんのために買ったチョーカーを確認する。大げさにならない程度に包装してもらった初めてのプレゼントは、そっと紙袋に収まっていた。
―――「贈り物をもらって喜ばないわけがありません」
私ったら、今日はヴァンパイアに背中を押されてばかり。可笑しさすら込み上げてきた。
意を決して、ドアを開ける。
「ただいま」
「おかえり。ご飯、もう少しでできるわよ」
キッチンから顔を覗かせたエプロン姿のお姉ちゃんが、優しく微笑んで迎えてくれた。
―――頑張れ、私!
「あ、あのね、お姉ちゃん」
「?どうかしたの、ムサシ?」
リビングからキッチンを伺った私に、お姉ちゃんは味見をする手を止めて、首を傾げた。
「これ、頼まれてた葛餅」
「買ってきてくれたの?ありがとう、嬉しいわ」
私の差し出した葛餅を受け取ったお姉ちゃんは、「後で食べましょう」と言って冷蔵庫に仕舞おうとした。
「そ、それとねっ!」
待ったの意味を込めて、私は続けた。
「これっ、お姉ちゃんにっ!」
うわわっ、プレゼントを渡すだけなのに。いつも、いっつも一緒にいて、大好きな人で、尊敬できるお姉ちゃんで、大切な家族。そんなに身近なのに、たかがプレゼントを渡すだけなのに。何でこんなに、ドキドキするんだろう。
「私に・・・?」
「う、うん。ヴァンパイアと買い物してたら見つけて、お姉ちゃんに似合いそうだなって」
「ま、あ・・・」
お姉ちゃんは目を開いて、ゆっくりと包装された袋を受け取った。二、三度瞬きすると、やがてそれを、胸元でギュッと抱き締めた。
「ありがとう、ムサシ。―――とても嬉しいわ」
見たことないぐらいに朱の差した、そして何よりも美しく艶やかな笑顔に、私のコアがパンクしそうだった。
その日から、お姉ちゃんの首には私のあげたチョーカーが着けられるようになった。それを見るたびに、嬉しさと、同じくらいの気恥ずかしさが私をくすぐる。
例えるならば、葛餅のような。きなこと黒蜜の、柔らかな口溶け、甘さ。
私の“幸せの味”が、またひとつ、戦術ネットワークにアップロードされた。
身近な人への感謝って、なかなか伝えられないものがありますよね
ムサシもそんなところがありそうです。彼女の場合、方向性がぶっ飛んで行きそうで心配ですが
さて、次回はどうなるやら・・・
またキャラたちに揉まれながら考えていくことにします
読んでいただいた方、ありがとうございました