三人称サイド
とある昼下がり、櫻田家の一室に二人は居た。双子の遥と岬は互いにベッドに座っている。少しの沈黙を超えて、遥が口を開いた。
「岬・・・僕、彼女が出来たんだ」
「へっ?そ、そうなんだ・・・おめでとう」
遥の言葉に一瞬驚きながらも何とか祝福する。置いていかれた気がしてならないが、何時かこうなると思っていた事だと頭の中身を整理する。
「ずっと一緒だった岬には言っておこうと思って・・・」
「そっか・・・兎に角、私は応援するよ。お幸せにね」
「僕達の交際を認めてくれるんだね!実は、彼女を呼んでるんだ!」
「ファッ!?」
遥の爆弾発言に岬は驚きが隠せなかった。遥はすぐに呼んでくると言って部屋を出て行ってしまう。もはや岬に落ち着く時間など無かった。10秒もしないうちに遥が戻って来る。ドアを半開きにし、ギリギリまで見せない魂胆なのだろう。
「ま、待って遥!私まだ心の準備が・・・!」
「大丈夫だよ。気さくな子だから」
そう言って彼はドアを開け、岬に見せた。
「僕の彼女《兄ヶ崎 百々》さんだよ」
『初めまして、百々です』
ゲーム画面に映った少女を・・・。
その日、櫻田家に一つの悲鳴が木霊した・・・。
三人称サイド終了
刹那サイド
~櫻田家[リビング]~
『現在、この国で人気の《愛チョリス》。この恋愛シミュレーションゲームは現実時間とリンクしており、リアルタイムで進行。朝にゲームを立ち上げればおはよう。夜はこんばんわしてくれるのは序の口。その、あまりの出来栄えゆえ、国中で小さな恋人と離れられない彼氏が増えており・・・』
テレビを見ながら遥は言う。そして次に隣へと視線が向けられた。
「困ったものだね。ゲームと現実の区別が付かなくなって生活まで浸蝕されたら・・・。本当に彼女なんて出来なくなっちゃうよ。ね?百々さん」
『えへへ♡』
「僕等の幸せを分けてあげたいね。はい、アーン♡」
『あーん』
二画面ゲーム機の片方の画面に映った美少女に語りかけながらケーキを差し出すソレを尻目に僕は立ち上がる。
「さてと、僕これから任務があるんだ。バイバイ」
「おい、何処に行くんじゃい!」
岬に捕まり逃げられなくなった。
「君の弟君こそ何処に行っちゃったんですかアレ。ゲームと現実の間に出来た異次元に飲み込まれちゃってるよ!」
「彼女を紹介したいって突然言われてアレを持って来て。以来、ずっとあんな感じなんだよ!」
「大丈夫だろ。ボルシチ(この前光が保護した猫)もこの前の発情期の間、ずっと人形相手に腰振ってたんだ。何れ終わりは来るって」
「ダメだよ!だって遥は一年中発情期だもん!」
「君達、遥の事一体なんだと思ってるんだ!?」
思わず突っ込む。お兄ちゃん悲しいよ!?て言うか今まさに悲しさの板挟みにあってるんですけど!
「恋愛ゲームって男の人をあんなにしてしまう物なの!?」
「さ、さあ?僕ゲームってパズドラかモンストかテトリス位しかしないし・・・」
「ギャルゲーと言うのはな岬。沢山の美少女達が登場し、それを落とす事を目的とするゲームだ」
修兄が諭す様に話し始める。
「つまり、モテない男達にとっては傷つかずに恋愛を楽しめる唯一のコンテンツなんだ」
「流石修ちゃん。今までの事があった為か説得力が違うね」
「茜、やめたげて。修兄涙目になってる」
「よ、要するにモテない男ほどハマる訳だ。遥の様なS級チェリーボーイとなるとそのハマり具合は最早予測不能だ」
「S級のシスコンが何言ってるのやら・・・」
「ねえ、かな姉。チェリーボーイって何?」
「ん?刹那が知らなくても良い事よ」
そう言ってかな姉は僕を撫でる。何かこの前の時以来凄く優しくなった気がする。相変わらず会社の事については批判気味だけど・・・。
「このギャルゲーに慣れ親しんだ俺さえドハマりしたんだ。その破壊力と言ったら相当の物だ。と、俺の彼女の《鞘花(さやか)》ちゃんも言っている」
「修兄も充分破壊されてるよ」
僕が言った瞬間、岬が修兄のゲーム機を泣きながら取り上げ、画面を閉じて庭先へ投げ付けた。
「そ、そんな!このままじゃ遥はあっちの世界から戻って来れないかもしれないの!?」
「あーーーーっ!?鞘花ちゃん!」
嫌な音を立てて修兄のゲーム機は庭に落下した。
「て言うか修兄には佐藤さんがいるでしょ!」
「俺は区別の付く人間だ。現実の彼女は佐藤。ゲームは鞘花だ」
「なんて言うかもう須らく死ねよバカ兄」
佐藤さんの勇気と愛を返せこの野郎。僕は溜息を吐きながら岬に聞く。
「接触はしてみたの?」
「うん。隙を付いてゲームを奪おうとしたんだけど・・・」
----何するのさ・・・百々さんに触るなぁ!
「って言われちゃって・・・」
「完全にゲームを恋人と思うまでに精神の奥深くまで浸蝕されている。アイツと接触するには同じ次元に立たないといけない」
修兄はゲーム機を大事そうに撫でながら言う。マジで壊してやろうかソレ。
「でも一体どうやって・・・」
「決まってるだろう」
『ようこそ、愛チョリスの世界へ!まずは主人公である貴方の名前を打ち込んでください』
----櫻田 刹那
「何で僕がこんな事しなきゃならないのさ!?」
何時の間にかファミレスに移動した修兄と僕は新しく買わされたゲームに愛チョリスのカセットを挿入して始めていた。
「遥を現実世界へ引き戻す為だ」
「まどろっこしいな!大体こんなゲームやった事無いんだからできるかぁ!」
「出来る出来ないの問題じゃねえ。同じ次元に立てと言っているんだ」
「修兄が遥を説得すれば良いじゃないか!」
「遥が俺の言う事を素直に聞くと思うか?この俺を・・・」
「あ、無理」
「さらっと言うなぁ!」
修兄は泣きながらコーヒーをがぶ飲みする。だからって僕にする事ないだろうに・・・。コーヒーを飲み終わると修兄が説明を続ける。
「まずは三人の中から攻略ヒロインを選べ。これはその一人を口説き、落とすゲームだ」
「・・・分かったよ」
画面には一人の女子と、その後ろに二人シルエットに包まれた人物が立っている。方向キーで入れ替えると、キャラの顔が出てくる様だ。取り敢えず最初に出ているメガネを掛けたヒロインを見る。
「まずは《御高井 鞘花》ちゃん。主人公の所属する鉄道部の主将で、文武両道の優等生で、櫻田 修君の彼女だ」
『えへ♡』
「何で修兄が設定の一部に食い込んでるのさ。アンタがこのキャラ選んだだけだろう」
僕のツッコミを無視して修兄が進めるので、諦めて次のヒロインを見る。それは遥の彼女(嘘)であった短髪の少女だった
「彼女は《兄ヶ崎 百々》さん。世話焼きのお姉さんタイプだ。遥の落としキャラだな」
「何あの子姉属性のキャラ選んでるの?ダメだからね?そう言うのマジ止めてね!?」
「・・・同じキャラは争いを招くから別キャラの方が良いな。となるとお前は・・・」
そう言って修兄は僕の画面を操作してもう一人のキャラを選ぶ。そのキャラは以上に背の高い女の人だった・・・って!?
「必然的に三人目のキャラ・・・《綿野 厚子(あつこ)》ちゃんだ」
「ちょっと待てぇ!?何かこのキャラだけタッチが違うんだけど!?」
僕は思わず叫ぶ。だってこの人あれだよね!?鐘を鳴らすのはあの人だよねぇ!?
「厚子ちゃんは主人公が追っかけをやってるアイドルで、実は裏社会を仕切ってる厚子組の組長なんだ。酒と煙草が大好きだ」
「もう完全にア○コさんじゃないか!この人だけ世界観違うよね!絶対世紀末から来たよねぇ!?僕も鞘花ちゃんか百々さんが良い!」
「・・・でもその二人は難易度が高いぞ」
修兄の言葉に僕は返す。
「良いよ別に。やり甲斐ある方が楽しいじゃん!」
「攻略云々じゃなくて、まずヒロインを選択するには落ちてくるヒロインのぷよを消さないといけないんだ」
「何で行き成りぷ○ぷ○!?」
「これに中々二人が出てこなくてさ」
そう言ってる間に画面に厚子一色に染まる。
「これ中々どころか厚子だけが進撃してるよね!?二人共一匹残らずKU☆TI☆KUされてるよ!」
「あー、やっちゃった。これでお前のヒロインは厚子ちゃん√確定だ」
「それ以外無いでしょコレ!君達よく普通のヒロインに行けたねコレ!もうこの人落とせば良いんでしょ!?」
「いや、その前に・・・厚子に戦わせる国を設定しないといけない」
「何でス○ファイみたいになってんの!?しかもⅡだろコレ!」
手に包帯を巻いた厚子のバックにドット絵風の世界地図と幾つかの国が表示されていた。これ恋愛ゲームだよね。可笑しいのは僕なのかい?
『故郷へ帰れ。アンタにも家族おるやろ』
「しかも関西弁風にガ○ルとか止めて!僕一番好きなキャラ!」
「必殺技は《ゴライオウ・ディバウレン》だ。敵は大体消し飛ぶぞ」
「それ違う世界の呪文じゃねえか!」
思わずメタ発言をかましてしまった・・・。ダメだ。全然できる気がしない・・・。
「もうやってられるかこんなの!」
僕は画面を消して机に置く。なんだこのゲーム。クソゲーでしょ!
「お前は女の扱いが全然分かってないな」
「いきなりストリートでファイトする様なキャラをどうしろと?」
「それは何とかしろ。それよりセーブもしないで電源なんか切ったら彼女との関係性が悪化しちまうぞ」
そう言うと修兄が先程スパーキングされたゲーム機を取り出して画面を起動する。
「例えばさっき俺のが緊急停止しただろう?コレを再開するとだな」
『もう、また乱暴に電源切ったでしょ!?』
「おお!反応してる!」
『あれほど優しくしてって言ったのに・・・もう許さないんだから!』
----彼女の態度がちょっぴり冷たくなってしまいました。
「この子プンプンしてるよ!」
「ゴメンな。お願い、許してくれよ♡」
修兄が突然画面に話し掛ける。どうやらボイス対応もしてる様だ。
『許してほしい?じゃあ・・・10回キスしてよ』
「なっ!?」
「ごめんねごめんねごめんね・・・」
そう言って修兄は画面に謝りながらキスの雨を降らせる。正直、ドン引きだ・・・。え、僕も厚子にアレやるの?
『えへへ。修君大好き♡』
「俺もだよ、鞘花ちゃん♡」
コミュニケーションを終えると、修兄は僕をドヤ顔で見る。何か腹立つから止めろソレ。顔面に風使い叩き込むぞ。
「見たか愛チョリスの機能性を。彼女達は本当に画面の中に生きているのさ」
「驚いたよ。ゲーム機の機能性と修兄の羞恥心の無さにね」
「意地張ってないで早く彼女に謝って関係を修復して来いよ」
「別に良いって。僕の彼女ア○コだし」
「攻略していけばヒロインはお前の好みに合わせて変わって行くぞ。頑張れば厚子はア○コからセ○ラ・マス位に化けるぞ」
「マジで!?それもう整形だよ!」
憂鬱な気持ちになりながらも僕はゲームを再び起動した。其処には後ろを向いた厚子が項垂れていた。
『急に乱暴に電源切ってからにアンタは・・・』
「本当に怒って外方向いてる。凄いなコレ」
『アンタの所為で・・・アンタの所為で・・・』
----あの鐘が壊れてしまいました。
『鐘が壊れたやないかあああああああああ!』
「関係に亀裂どころか鐘に罅入ったああああああああ!?」
弁償どころじゃ無いんですけど!?曲ができなくなるレベルだよ!壊れかけのラジオの方が可愛げあるわ!
「どうやら乱暴に切りすぎたみたいだな。取り敢えず謝れ」
「いやいやいや、謝るどころの騒ぎじゃ無いでしょコレ。有名曲潰しちゃったよ僕!」
『許してほしい?』
「す、すいません!許してください!」
『じゃあ・・・あの頃はを100回歌えやオラァ!』
「違ああああああああう!?」
僕は思わず画面を閉じる。これ以上は見てられなかった。
「何か僕の愛チョリスだけ違う!僕のだけ殺意の波動に目覚めてるよ!」
「あの鐘が壊れたんだ。落ち着くまで暫く間を置いた方が良い」
「リアルタイム対応だよねコレ!?絶対数十年待つレベルだよコレ!」
「まあ、兎に角今教えた要領でア○コちゃんを攻略しておけ。できるだけ理想の彼女に育て上げるんだ」
「もういいでしょコレ。これだけやれば遥との会話の一つや二つ・・・」
僕の言葉に修兄は動きを止めて僕を睨む。その目にはこの場には似合わない王者の風格が目覚めつつあった。
「お前、本当にそれで遥が元に戻ると思っていたのか?」
そう言って修兄はポケットから一枚の髪を出す。其処には愛チョリスのヒロイン達が写っており、こう書かれていた。
「《俺の嫁天下一武闘会》・・・?」
「お前にはこの大会に出てもらう」
「こ、これは・・・」
「全国の愛チョリスプレイヤーが集い、誰の彼女が最強かを決定する大会だ。この大会で遥を倒せ。でなければアイツが元に戻る術は無い。打ち砕くんだ。アイツの中の虚妄を・・・お前の虚妄で!」
いや無理だろコレ!?
刹那サイド終了