if~城下町の転生者~   作:猫舌

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番外編 《櫻田刹那の崩壊》 第1話

三人称サイド

 

 

如月刹那が転生してから三年の月日が流れていた。彼は前世の影響か、自分に優しくしてくれる家族に疑心を抱き、常に警戒した毎日を送っていた。そんなある日の事だった・・・。

 

 

「刹那、公園行こうぜ」

 

「・・・行かない」

 

「お前何時も本読んでばっかじゃないか」

 

「こっちの方が為になる」

 

 

彼の兄である修に誘われても相手にせずただ王宮から借りてきた本を読み漁っていた。そんな刹那に姉である葵、奏、妹の茜が近づく。

 

 

「せっちゃん。偶には皆で遊ぼう?」

 

「早くしないと置いてきますわよ!」

 

「おにーちゃん・・・」

 

 

奏の当時の個性的な喋り方に毎回呆れを覚えながら刹那は本を勢い良く閉じて目の前の兄妹達を睨む。彼の周りには少しずつ風が吹き始めていた。それを見て、奏と茜は涙目で後ずさる。

 

 

「能力使ったらお父さんに怒られちゃうよ!?」

 

「うるさい。こんな力があるんだ。使わない方が損だよ。怪我したくなかったらどっか行け」

 

 

そう言うと修達は渋々と言った様子で家を出て行った。刹那は能力を解除してから読書を再開した。刹那は転生してから少し歪んだ性格になっていた。能力を創る能力と言うチート特典を手にした彼は前世での扱いを払拭するかの様に生きていた。外を歩いていて、不良が屯しているのを見つければ《風使い》で吹き飛ばしたり、転生者故の腕力で嬲ったり等、暴力に快感を感じていた。今まで立てなかった場所へ来た事で、自制が効かなくなっていた。

 

 

「せっちゃん、皆は?」

 

「公園」

 

「もう!私に何も言わないで出掛けて・・・」

 

「用はそれだけ?」

 

「心配だから皆の事見て来てあげて?お姉ちゃんもお兄ちゃんも抜けてる所があるから」

 

「・・・分かった」

 

 

五月の言葉に舌打ちしながら本を持って刹那は家を出る。その後ろで五月は悲しそうな表情をするが刹那は気付かない。暫く歩き、公園へ行くと修達はシーソーで遊んでいた。それを横目にベンチに座り、本を開く。内容はこの世界の歴史だった。前世とはかなり違った世界に戸惑いを覚えながらも時代背景を脳内に刻み込んで行く。そんな中、刹那に気づいた茜が刹那の元へと駆け寄る。刹那はそれを鬱陶しそうな顔で見た。

 

 

「おにーちゃん!あそぼっ!」

 

「嫌だ断るあっち行け」

 

「やだやだやだ!あそぶの!」

 

 

駄々を捏ねる茜に溜息を吐きながら刹那はベンチから降りて、林の方へと向かう。茜も後ろを付いて行こうとするが、刹那は言う。

 

 

「今から行く所は怖いお化けが出るよ」

 

「えっ・・・でもおにーちゃんは」

 

「僕は友達だから。茜達は・・・食べられちゃうよ」

 

「い、嫌だよ・・・」

 

「じゃあ、向こう行ってろ」

 

 

刹那は茜を追いやると、一人林の中へと歩いて行った。暫く進み、此処ならと木の根元に腰を下ろそうとすると、更に奥から耳障りな笑い声が響く。舌打ちをして奥へと進むと、近くの高校の制服を来た複数の男子がエアガンを撃って遊んでいた。その先には傷だらけの子犬が倒れている。全てを理解した瞬間、刹那は久しぶりにキレた。

 

 

「おい」

 

「あ?誰dガッ!?」

 

 

高校生の一人に飛び膝蹴りを叩き込んで、他のメンバーにも拾った石を投げつける。

 

 

「い、痛えよ・・・!」

 

「コイツやべえ・・・」

 

 

各々が恐怖する中、刹那は子犬を拾い上げて林を出て行く。公園に戻り、ベンチに座って子犬を本で得た知識で触診する。素人の刹那から見ても分かる程に子犬はボロボロだった。正直に言って助かりようが無い。

 

 

「・・・ごめん」

 

 

そう言って撫でていると、子犬の体から温もりが消えていった。顔を上げると、目の前で修達が子犬を泣きながら見ていた。

 

 

「コイツ・・・向こうで虐められてたんだ。それで、今死んだ」

 

「酷いな・・・」

 

「お墓・・・作ってあげy・・・え?」

 

 

葵が言葉を言いかけたその時、刹那は子犬をゴミ箱へと捨てていた。そしてベンチへ座り本を読み始める。暫く事態を理解できなかった四人だったが、いち早く飲み込んだ修が珍しく刹那に怒鳴った。

 

 

「お前今何やったか分かってるのか!?」

 

「何って・・・ああ、分別はした」

 

「そうじゃない!何で捨てたんだよ!可哀想だろ!?」

 

 

そう言って刹那の服の襟を掴んで睨む。それに対して刹那は何を起こっているのか分からないという表情をしてから、無表情に言った。

 

 

「何言ってるの?あれはもう犬じゃない。犬の形をしたただの肉だ」

 

「っ!この馬鹿野郎!」

 

「ぐっ!?・・・先に手を出したな」

 

「お前が悪いんdぶっ!?」

 

「修ちゃん!?」

 

 

殴った修を刹那が殴り返す。修はそのまま気絶した。それを見て葵は修に駆け寄り、奏と茜は遂に思いっきり泣き出した。刹那は心底不愉快そうな表情を浮かべて、家に帰ろうとする。

 

 

「貴方達!何やってるの!?」

 

「・・・別に」

 

 

様子を見にやって来た五月に刹那は面倒な事になったと溜息を吐く。すると、五月の後ろには総一郎の姿も見えた。刹那は舌打ちしながら五月の説教を聞き流して事態が終わるのを待った。

 

 

 

 

 

~夜~

 

 

「・・・アホらし」

 

 

刹那はあの後、五月に思いっきり叱られ、昼夜の食事を抜きにされて部屋に居た。ベッドに寝転がりながらずっと胸に抱えているナニカに苛立ちを覚えていた。前世では出来なかった事を出来ている。自分の思い通りに行っている筈なのに刹那は自分に苛立ちと虚しさを覚えていた。既に答えは出ている。彼は窓から家を抜け出して公園へと向かった。そこでは総一朗が先程の子犬の亡骸をタオルに包んでいた所だった。刹那は無言で近づく。

 

 

「お、やっぱり来たか」

 

「分かってたの・・・?」

 

「ああ。お前は優しい子だからな」

 

「僕は優しくなんて無い。力でねじ伏せて・・・この子にも酷い事をした」

 

「でもこうやって戻って来たじゃないか。それで今からこの子のお墓を作るんだけど・・・」

 

「・・・僕もやる」

 

「うん。さ、行こう」

 

 

そう言って総一郎は歩き出す。刹那もその後ろを何も言わずに付いて行った。暫く歩くと寺に着いた。更に進むと、住職さんが立っていて、総一朗に頭を下げる。

 

 

「お久しぶりです」

 

「お久しぶりでございます陛下。此方は・・・」

 

「息子の刹那です」

 

「・・・どうも」

 

「はい。では、此方に」

 

 

住職に案内されて進むと、そこには沢山の小さな墓があった。そこにはポチ等、動物に付けられた名前が掘られている。

 

 

「此処はペットでも野良でも構わずしっかりと埋葬してるんだ。此処ならこの子も安らかに眠れるだろう」

 

「・・・うん」

 

 

住職が用意した場所へ子犬を埋める。住職がお経を読んでいる間、刹那は涙を流しながら手を合わせていた。

 

 

「ごめんね・・・ごめんね」

 

「大丈夫だよ。きっと許してくれるさ」

 

 

お経が終わっても刹那は泣き続けていた。子犬にした事だけでなく、今までの自分の生き方にも後悔を感じていた。結局自分がして来ていた事はあの高校生達と変わらなかった。力を見せつけ、不用意に誰かを傷つける。そんな最低な行為を平気でしていた自分に恥を感じていた。総一郎はそんな刹那を優しく抱きしめて頭を撫でた。この時、始めて総一郎は刹那と本当の家族になれた気がした。刹那を泣き止ませ、手を繋いで二人は歩き出す。神社を出たその瞬間、刹那の耳に犬の鳴き声が聞こえた。

 

 

「えっ?」

 

「どうした刹那?」

 

「・・・ううん。何でもない」

 

 

振り向いてそのまま動かなくなった刹那に総一郎は疑問を抱いたが、刹那は直ぐに前を向いて総一郎と歩き出した。この世界で始めて見せた、優しい笑顔で・・・。

 

 

 

 

 

~櫻田家~

 

 

「今まで、すみませんでした」

 

 

帰宅した刹那はリビングで家族全員に土下座をしていた。齢三歳で土下座を繰り出す刹那に、先程まで不機嫌マックスだった櫻田家の面々は固まっていた。刹那は頭を下げたまま話し続ける。

 

 

「僕は自分の考えばかり周りに押し付けて最低な事ばかりして来ました。王家に生まれながら恥さらしな事ばかりして来ました。本当に申し訳ございません!」

 

「せ、せっちゃん顔を上げて!?もう皆怒ってないから!ね?」

 

「そ、そうだ。俺ももう平気だから気にすんな」

 

「おにーちゃん・・・」

 

「ふ、ふん!許してあげますわ・・・あの、本当に顔上げて」

 

「で、でも・・・」

 

 

刹那は恐る恐る顔を上げる。全員の表情に怒りは無く、刹那はどうして良いか分からなくなっていた。すると修が椅子から降りて刹那を抱きしめる。

 

 

「もう怒ってないからそんな謝んな。お前が自分の悪さを認めたってだけで俺は充分だ」

 

「・・・ごめんなさい」

 

「泣かなくてもいいだろ・・・全く」

 

 

そう言って修はずっと刹那を撫でていた。暫くして刹那は泣き止むと、修の腕にしがみついていた。修も鬱陶しがる事なくそれを受け入れる。無表情のままテレビを見る修は内心浮かれていた。それもそうだ。万年懐く事無く、尚且つ敵意しか向けてこなかった弟が改心した上に自分に最初に懐いたのだ。そんな彼を鬱陶しがる事が出来ようか。いや出来ない(反語)。

 

 

「ほ、ほらせっちゃん。お母さんの所においで~」

 

「・・・」

 

「行って来いよ。流石に見てて辛い」

 

「・・・うん。修兄」

 

「・・・今俺の事兄って」

 

 

修に言われ、三十分近く腕を広げるポーズを取っていた五月に刹那は近づき、大人しく抱きしめられた。五月は今までに無いふにゃっとした表情をしながら刹那を撫でる。刹那は大人しくそれを受け止めていた。この後、家族全員に可愛がられ、櫻田家マスコットの地位を獲得したのは余談だ。

だが、此処までは彼が元に戻るまでの話。本当の物語は、崩壊への足音は此処から聞こえ始めた・・・。

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