EOS開発物語 作:????
「まったく、日咲さんは何処にいるんだ!!」
そこは警報が鳴り響き、辺りが警報灯の赤色に塗りつぶされた通路の中。
「電源を切っててよかったな……」
きっとここまでの道のりの中、EOSのパワーアシストをオンにしたまま来ていたならば、再び充電切れという自体に襲われたことだろう。
しかし、パワーアシストを点けないで、ここまで走ってきたのだから身体的な疲れはある。
その疲れは溜まりに溜まっていき、時期に表面に出てくることであろう。
轟音、それと共に目の前の廊下が崩れる。
「うおっ、やばかったな……もう少しで潰されるところだった」
「そうか。素直に潰されていればよかったものを」
「……!?」
その瓦礫の山の上から光とともに降りてきたのは先程のISだった。
「……お前らの目的は何だ?」
「なに、情報が入ってな。なんでもISに対抗しうる兵器が開発されたそうじゃないか。さっきの試合の様子から見て、あんたがつけているそれだろ?」
「……」
アリーナに襲撃されたってことは先程の試合を見られていたのだろう。
拙いことになったな……。この状況をどうくぐり抜けるか。
「あ、でもシールドバリアが無いんだってね。不良品かな?」
そう言って、彼女は右腕に持った銃を って
「パワーアシストオンッ!!」
パワーアシストを急遽起動して、身体を捻りながらのバックステップで距離を取る。
「この狭い空間の中で銃をぶっ放すバカがいるとはなっ!?」
「ほらほら、一発だけだと思ったかい? シールドバリアがあるからこっちは大丈夫なんだよ」
「クソッ!!」
死の恐怖に思わず身体が硬直する。
その一瞬の硬直が隙を作ってしまい、俺の左腕を弾き飛ばした。
「ハハハッ! その程度なのかい!?」
痛い痛い痛い痛いッ!! 左腕を失った痛みに思わず身を丸めてもがきたくなったが、相手がそれを許してはくれない。
腰に括りつけられている葵の鞘を剥ぎ取り、パワーアシストで出る限りの力でISに投擲する。
一度投擲を経験しているフィーアならば対応できるはずのその一撃、しかし、相手は今さっきあったばかりの者だ。更にISのパイロット。投擲などの手段など知らぬであろう。
故に、その攻撃は通った。怯んだのだ。
その隙に通路に入り込み、全力で逃亡する。
なぜ場所がバレたのかを考えず、いや、それすらも考えようとしないで。
◇◆◇◆◇
「ゴホッゴホッ」
「ああ、もう! 咳したらダメッ! 血が出ちゃうよ!」
「ゴホッ……置いていけ、私は長くは持たないぞ……」
そこは悲惨な状況だった。
通路に横たわる銀髪の少女、それに付きそう様に屈んでいる女性。
銀髪の少女、フィーアの腹部には真っ赤な箇所ができていた。
傍らには血で濡れた工具。
そう、先ほどの振動で棚が倒れて、道具があちらこちらに散乱したのだ。その中で、一本の工具が運悪く腹部に刺さってしまったのだ。
位置的には肺、もしくは胃だろうか。胸部に刺さっていた。
「ああ、もうっ!! こんなことなら医学の方にも手をつけてればよかった!!」
女性、月垣はそう叫びながら初心者レベルの止血作業をしていた。
そして、その作業が終わると、フィーアを背中に担ぎ、駆け出す。
「医務室は何処かな……」
「いいから……ゴホッ、置いて行けと言っただろう……」
「ああ、もう黙って!!」
駆ける、駆ける駆ける。駆けた先には血だまりがあった。
「……ん……? ああ、月垣か……」
「月垣か、じゃないよ……どうしたのさ、その傷は」
「いやぁ、ISに遭遇してな……もう痛みも感じないよ……」
その弾け飛んだ左腕の断面からは血は少量しか出ていなかった。
人間、危険なときな防衛本能が働くとされている。
その結果、血が止まったのであろうか。医学に携わっていない月垣では理解できないことであった。
「……それ、フィーアか……」
「……うん、避難中に怪我しちゃってね。もう意識も無いみたいだね」
フィーアは、気絶しているのか、それとも死んでいるのかは外見だけでは定かでは無いが、背負っている月垣にはわかる。まだ生きているのだ、戦っているのだ。
「……ねえ高月くん」
「……なんだ?」
「もし、もしだよ? 今、私が君を助けられると言ったらどうする?」
「……フィーアは助けられないのか?」
「ああ、君の代わりに助けることはできるだろうね」
高月の代わりに助けることができる。それはつまり、フィーアを助けるには、高月が死ななければならないのだ。
逆に、今、意識が無いフィーアを捨てて、自分が助かったらどうなるんだろう。
そんな無粋な考えが高月の頭に思い浮かぶ。
「……いや、そんなことできないよな」
「ん? どういうこと?」
「なに、俺はどうも、かっこ悪く生きていけないって気づいたんだ」
「……それってつまり」
「ああ、臓器移植でも何でもやってくれ」
「移植するのは臓器じゃなくてISコアだけどね」
「ああ、そうなのか……?」
少量の出血でも、出血は出血。少なからず高月の身体からは血液が出て行っているのだ。
そんな、出血がそろそろ危ない領域に達しつつある。
左腕を失ってどう生きていけばいいのか。少女を犠牲にして救われた命でどの面下げて生きていけばいいのか。
そんな人間よりも、言い方があれだが、未来を生きる、そんな少女を救ったほうがいいだろう。
それは自棄とも言えるモノだった。
「それでいいんだね?」
「ああ、と言っても、もう何も考えられないんだけどな……」
「……そこまで出血してたんだ」
「ああ。頭のなかが真っ白だ。視界もチカチカしてロクに見えやしない」
「……ねえ」
月垣は思案し、何かを発しようとしたところに、現れる影が一つ
「おお、篠ノ之博士!! こちらにいたのですか。我々について来てください」
「……どういうことなんだい?」
現れた男、
月垣がその男に向ける視線は、視線だけで人を殺せそうな勢いのものだった。
「僕は真竹慎吾、しがない研究者です」
「そんなことを聞いているんじゃない。この状況でなんで私の正体を知っているのか、ということを聞いているのさ。わかる? 頭大丈夫?」
「もちろん分かりますとも。あなたを迎えに来たのですよ」
「……はぁ、言葉が通じないみたいだね」
近づいて見えてくる、その男の目は血走っていて、狂気に取り憑かれたようなものだった。
「着いてこなければ、分かりますね?」
銃を高月へと向け、交渉しようとする真竹。
しかし、
「な!? こいつらの命が惜しくないのか!?」
「惜しいからこんな事をやってるんじゃないか。少しは考えなよ」
「……なぁ、隊長さんよ。あんたが裏切ったのか……?」
高月の意識が残っていたのか、声を発する。
その声音には半ば確信の色が含まれていた。
「ああ、そうさ。そうだよ! 元から潜入捜査をするつもりでこの研究所に来たのさ!」
「そうか。で、何処の、所属なんだ?」
「バカか貴様は! そんなもの教えるわけがないだろう!!」
「そう、なら死んで」
そう言って
「……なあ、月垣。さっきの、お前が篠ノ之束って話、本当か?」
「……本当だよ。ついでに言うと、この研究所に来た理由はEOSと人間関係、それに亡国機業も少しかな? それらに興味があったからなんだよ」
「……そうか、そうか。死ぬ前に面白い事を知れて良かったよ……」
「高月くん……?」
束は高月の右手を取って、体温を確かめる。
その手は、少しずつ、少しずつだが、確かに冷たくなっていった。
「……はぁ。とりあえずこの娘を助けなきゃね」
隣に瀕死の怪我人がいるからか、それとも生来の性格か。高月の遺体から目を背け、フィーアの方へ向く。
手に取り出すは剥き出しのISコア。
銘は『
フィーアの胸に刺さっている工具を引き抜き、隣に置く。
その際、血が微妙に固まって、不快な感触がしたが、それを我慢して作業を進める。
その次に、その胸の穴を広げ、穴の中にISコアを収める。
そして、ISコアを外部からの強制起動の準備に移る。
「ああもう! こんなことなら工具なんかを入れたISを作っておけばよかったよ!」
その作業はごくごく簡単で、しかし、難しい作業。
高月……黒斗との会話、真竹の乱入、などがあって時間が経ったフィーアの心臓は、血液不足によって動きを止めていた。
ISを起動すれば最低限の生命活動は維持される。
本来なら、とあるISコアを除いて、修復などはされないが、それは対価無しでの話。
ISコアが本来のその臓器の働きをすれば良いのだ。
「ああ、もう……動いてよぉ……せっかく黒斗が君を選んだのに……これで死にました、じゃ、合わせる顔が無いよぉ……」
心臓マッサージを何度も何度もする。
両手を重ね、胸の上を上下する動き。
何回しただろうか、百、もしかすると千の数まで達しているかもしれない。
奇跡は起こった、フィーアの心臓がやっと動き始めたのだ。
手に心臓の鼓動が弱々しく響いた途端に、束は胸から少しだけ出ている黒鍵に触れ、起動する。
「所有者権限譲渡、今後の所有者はこの娘だよ!」
そして束の元から黒鍵の所有者権限が失われる。
束の髪色は黒からマゼンタに変わり、そしてフィーアの顔色が心なしか良くなった。
「さて、こんなところからはもう脱出だ」
そして、束はまるで現実を直視したくない子供のように、その場から駆け足で離れた。
◇◆◇◆◇
「ふ、むぅ……ここは……?」
そこは、少し散らかった部屋の中。銀髪の少女は眠りから目覚めた。
部屋の広さは十畳程度で、散らかった、と言っても何に使うか分からない道具と、後は少しのゴミ。
「ここは、何処……?」
動こうにも身体に力が入らない少女は、ベッドの上でほんの少し、揺れるくらいしかできることはできることはない。
ガチャッ、と扉の開く音が少女の耳に届く。
「目覚めたんだね」
その声は無感情、空虚といったほうがいいのだろうか。とにかく、聞いていてこちらが悲しくなるような声だった。
「あの後、君が気絶してからのことは、話した方がいい?」
「……あの、気絶してからのことって……?」
「……。もしかして、覚えて、ないの……?」
「はい……?」
少し調子が戻ったのか、首を声の方へ傾ける。
「EOS、高月黒斗、月垣恵……このどれかに聞き覚えはある?」
「EOS……? あの」
「ああ、もういいよ」
束は投げやりにそう言う。
しかし
「いえ、あの、高月黒斗、という名前には聞き覚えがありませんけど……何か安心するような感じがするんですよね……」
「……ほんとに?」
「ええ、本当に」
「そっか」
束は安心したような顔つきになって、近くのソファーに腰を預けた。
「それで、聞きたいことはある?」
「ここはどこですか?」
「ここはね、束さんの専用秘密ラボの一つなんだ。場所的には太平洋のど真ん中にある無人島かな」
「無人島……」
銀髪の少女はありえないことを、無理だとわかりつつ、可能な限り理解しようと口の中で反芻する。
「他に聞きたいことは?」
「では、ここに来る前の私について。実はほとんど覚えてないんですよね」
「…………」
「どうしたんですか?」
少女、フィーアは、襲撃された時、胸から大量出血していた。
血は人間の活動の中で重要なもの。
大量に血を流し、血液不足になったフィーアの脳は、傷を負ってしまう。
結果、このように記憶喪失になってしまったのだ。
むしろ死ななかったほうが奇跡とも言えるため、何も言えないのだが。
「……いや、君はね、ドイツの違法研究所で生まれて育てられてきたんだ。研究所自体は元々潰そうって考えてたし、ついでとばかりに助けてあげたのさ」
束は酷く沈痛な顔でそう言う。
その表情に嘘、と現れているにも、フィーアは命の恩人の言葉を信じた。
「……そうですか。私の名前ってありましたか……?」
「いや、私は知らないよ」
「なら、付けてくれませんか? 私の名前を……」
「君の名前か……そうだね、
「クロエ、ですか……」
その名前は黒恵……黒斗が
どうやら少女は気に入った様で、その名前を覚えるように……身に刻んで忘れないように何回も何回も呟く。
「最後の質問なんですが、この後ってどうするんですか?」
「この後、ね……とりあえずは、クロエ……クーちゃんに世界を見せてあげよう。女性しか乗れない兵器が
束の顔には既に笑みが戻っていた。
しかし、心の傷は消えやしない。だが、それも時期に消えるだろう。黒斗が残した遺産、クロエによって……。
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