「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
沈黙が痛い。
なんとも言えない雰囲気に良い加減滅入ってきたボクは、自分が上体を起こした状態で座っているベットの脇に、しょぼくれた表情で座っているセリューにとうとう声をかけた。
「ねえ、セリュー」
「………なんですか」
「いや、なんですかって……。いつまでそんなとこでしょぼくれてんです?」
「……相変わらず変な言葉遣いですね」
「いや、そこは良いんですどうでも。んで? 何かボクに言う事はねぇですか?」
「……ごめんなさい」
「はぁ…。よろしい。ハイ、これで仲直り終了です!」
ボクはパンパンと手を叩きながらベットから立ち上がる。
その動きを追ってこちらを見上げる様に顔を上に向げたセリューの顔、というか雰囲気の様なものが捨てられた子犬の様でボクは思わずわらってしまう。
「な…なんで笑うんですか⁉︎」
「いや、なんつーんですかね? セリューが捨てられた子犬みてーでなんだか面白かったんですよ」
「ええ⁉︎ 犬って…ハツくん酷い……」
「ん? 愛らしくて良いと思うんですがねぇ…」
「あ、愛らしいってそんな…ごにょごにょ」
いや、そんな顔真っ赤にして言われても…こちらとしても反応に困るというか何というか…。
「ま、まぁ! そういうことです! さ、セリュー。一カ月とはいえ今日からボクはオメーの上司っつーことになるんですが…理解してるですか?」
ボクはセリューの顔を見ないように窓から見える帝都の街並みを眺めながら喋る。
うぅ…顔が熱い…。
今、絶対ボクの顔は真っ赤になっているんでしょうねぇ…。
はぁ、恥ずか死ぬ…。
「う、うん。昨日、宮殿の文官の人が来て教えてくれたんですけど…。まさかハツくんだったとは……。びっくりしたんですよ? 本当に。それにいきなり居なくなってさびしかったし…」
「まぁ、セリューとはボクが帝都に来た12の時からの付き合いでしたしねぇ」
「ホントですよ! ずっと一緒だと思ってたのに、2年前にいきなり『西に行ってくるですよ〜』って言ってどっかに行っちゃって…」
「いや、ボクが任務で帝都の外に行く事なんて結構ざらだったでしょ……」
思わず呆れた表情でセリューの方へ振り向きーーーそして後悔した。
「それでも! 2年も帝都から離れるなんて聞いませんでしたよ! 半年くらい前から手紙だって返ってこなくなりましたし…」
目に涙を溜めてこちらを睨んでくるのだ。それも上目遣いで。
いや、なんかもう破壊力抜群です。ブドーさんのアドラメレクと同じくらいのダメージを受けたです。
「…っ! いや! 半年前っつーと西の異民族がちょっと奮闘しててですね! それを叩き潰すのに必死っつーか、忙しかったっつーか、まぁそういう事だったんです!」
「それでも一切無視って酷くないですか⁉︎ 私もう20なんですけど⁉︎」
「いや、それがどーしたんです? ボクももう20ですよ?」
「そーゆー事じゃないんです!」
「え? じゃあまさかとは思うけど二十代はもうおばさんっていう世迷言を信じてる訳じゃあねぇですよね?」
ボクは恐る恐るセリューに訪ねる。
ボク個人の考えを言わせてもらえるのならロリコンのしこうならともかく女性は二十代になってからだって思いますし、セリューだってこれからどんどん大人っぽくなっていく筈ですしねぇ?
ホラ、女性特有のあそことかも成長の見込みは無きにしも非ずーーー
「ハツくん? なんか今、エッチな事考えていませんでした?」
「っ…⁉︎ い、いやぁ、このボクが! そんな事を考えるなんて本気で信じてるいやがるんですかセリューは?」
何故ばれたんですか⁉︎
ボクは必死に動揺を押し殺して聞き返す。
その反応を受けてセリューはーーー
「うん! そうですよ」! ハツくんがそんなエッチな事考える訳がないですよね!」
そう、まるで向日葵のような笑顔で、ボクの言葉を一切疑う事無く信じていた。
信じきっていた。
騙したと言えば過言かもしれないが、それでも疑いを向けた相手からの言葉をいとも簡単に、鵜呑みにしていた。
いや、こんな雰囲気から一転、なにをどシリアスな事を言っているんだって思われるかもしれねぇですが、これは結構異常な事なんですよ。
相手がボクだったからこそなのかもしれねぇですが、普通は嫌疑を向けた相手からの答えを馬鹿正直に信じますかねぇ?
セリューのお父さんが殺されたのは今から3年前の事で、ボクが知っているのはそれから1年間の、表面上は立ち直った様に見えるセリューまでです。
一体、この2年間の間にセリューに何があったのか、偽悪を装うーーいや大臣の手によって装わされている、正義の心を持った悪人たちーー名をナイトレイドと言ったか? を含めて、帝都で色々と調べなければならない様ですねぇ。
まあ、ナイトレイドだろうがなんだろうがどうでも良いし興味も無いんですし、別に大臣が何をしようと知ったこっちゃねぇんですけど。
ああ、嫌だ嫌だ。仕事なんてホントはいやなんですけどねぇ…。
幼馴染やより(ボクの過ごしやすく都合の)良い帝国を作る為にも、一肌脱ぐ必要がありそうですね。
「どうしたんですか?」
此方を見上げてくるセリューの頭に手を乗せながら、ボクは1人静かに決意した。
★
「あ、そうだハツくん。その眼帯、どうしたんですか? おしゃれ?」
その日の夕方、ボクがセリューと見回りという名の散歩をしている最中に、そう唐突に尋ねられた。
「眼帯? ああ、コレの事ですか。コイツはですねぇ、ちょっと西の
「え⁉︎ じゃあそっちの目、もう見えないんですか⁉︎」
「ん? いや、そんな事はねぇですよ。ちょっと特殊な処置が施されてんですよねー、コレ」
大丈夫なの⁉︎ なんて大袈裟に驚くセリューを宥めながらボクは眼帯を外す。
いやー、あんまり見てて気持ちの良いものじゃねぇんであんまり見せたくねぇんですよね…
その真紅の布眼帯の下にあったのはーーー
ーーーーーー
「……綺麗………」
「いや、綺麗って、セリューのセンスがイマイチわかんねぇですよ。こんなん見ても面白くもなんともねぇじゃねぇですか」
布眼帯で再び左眼を覆いながらぼやく。
相変わらずセリューのセンスはわからねぇです。
例えばそう、今この瞬間にもセリューがリードを付けて連れている(引き摺り回している…っつー方が妥当な表現ですね……)あの
名前はコロ、だそうで。
セリューに言わせれば可愛らしいんですが、ボクからすればぬいぐるみみてーなコイツはただのビックリモンスターでしかねぇんですよねぇ……。
「ううん、そんな事ないですよ。なんかね、ハツくんのイメージというか、容姿に合っているっていうんですか? すんごく違和感無く馴染んでるっていうか……。あーー! 帝国最強のエスデス将軍もそうだけど、なんで北国出身の人は綺麗な人が多いんですか⁉︎」
「いや、ボクの親父とか別にイケメンでも可愛くもなんともねぇですけど?」
「いやいや! ハツくんっていう息子がいる事がもう凄いんですよ!隔世遺伝ってやつなんでしょうか? きっとお父さんのお父さんあたりが凄いカッコよかったんですよ! ハツくんみたいに………っ! い、いや、今のは別にハツくんの事を意識してるとかそんなんじゃなくてですね…えっと、それでそれで…」
「あー、うん。ハイハイもぉ理解したですよ。でもジジィが格好良かったなんて話は特に聞いてねぇんですけどねぇ…」
ヒートアップし過ぎたセリューをどうどうとなだめる。
いやー、にしてもよく喋るですねー。こんなに喋る奴でしたか?
まぁ、久々の再会でテンションでも上がってんでしょうねぇ。
「そ、そうだ! 首斬りザンク! 今、首斬りザンクっていう人斬りを追ってるんですけどーーー」
「ああ、帝都の首斬り役人だったっつー、人斬りですか。あの狸ジジィのせいでトチ狂ったっつー」
「そうです! 流石ハツくん! 隊長の自覚がもう出てきましたね!」
よろしい! と、頷ききながらセリューは笑う。
「でも、大臣の悪口は悪と捉えられても可笑しくないので気を付けて下さいね? ハツくんでも悪ならば裁かなきゃいけないんですから!」
「ん…ああ、気をつける努力はしてみますよ」
セリュー…まさか、本気で大臣が悪じゃないとでも思ってんですかね? そうなら、結構重症ですね…。ヤバいですねぇコレは…。
いや、大臣の悪政を理解してなお自分が生きやすいように大臣側にいるボクが言えたことじゃあねえんですけども…。
セリューは昔から些か正義感が強すぎるきらいがあったんですけど、ここまでとは…。
「うん、よろしくね! あ、そうだ! 今晩、私の家でハツくんの帝都帰還パーティーをやりましょうよ! 今晩は非番だからいつもならパトロールに行くんですけど……ハツくんが帰ってきたんだから特別ですよ!」
なんと…セリューが思いの外社畜になっていてびっくりです。
「いや、ボクが言うのもなんですけどね? そーゆーのって首斬りザンクを引っ捕えてからにした方が良いんじゃねぇんですか?」
「(ハツくんのイケズ…)」
「え? なんか言いました?」
「なんでもありません! さ、一回帰って詰所でご飯食べましょう! そして今晩で首斬りザンクを捕まえましょう!」
「きゅーきゅー!」
「…ん、ですね。……はぁ」
そうと決まれば! と、ばかりに目の前に再び見えてきた警備隊の詰所に走り込んでいくセリューとコロ。
…ああ、なんでボクは自分から自分の仕事を増やすような事を言ったんでしょう…。働きたくねぇです…。
そう、心中で愚痴りながらボクはふと、ある事を思い出す。
……そぉいやあ、詰所を出たあたりからずっと感じていた視線は何だったんでしょうねぇ? 手を出してこない限りは何もするつもりはねえんですが、ずっと見続けられると流石のボクでも疲れますね…。
まぁ、良いか。そう呟きながらボクはゆっくりと警備隊の詰所へと向かって歩いて行った。
★
「っ………! やっぱりアイツだったか…」
ハツナが感じていた視線の正体。
その視線の主は警備隊の詰所がある大通りに面している建物の上に伏せる様にしてして隠れていた。
「厄介な奴が帰ってきたな…。早くボスに報告しないと……!」
美しい金髪と豊満な肢体をもつその女性は屋根伝いに裏路地へと降り立つと、常人とは思えぬスピードで走り出す。
(完全に勘づかれてたな…。噂話をロクに信じずに帝具使わずにいたのはミスったか?)
彼女が向かうは帝都の外れ。
岩壁の下に佇む、奴らのアジト。
帝国の腐敗した上層部
己の利のみを求める富裕層
人を人とも思わぬ外道共
天が裁けぬこの悪を
闇の中で始末する
終わり過ぎたこの国の民を
救済しようと血に塗れ
刀を振るう殺人集団。
その名はーーー
ーーーーーーーーーナイトレイド
ここのセリューちゃんはオーガ隊長の事は尊敬してますけど、原作ほど盲目的ではありません。
警備隊の隊長をやっていればこういう事もある、と割り切っています。
まあ、割り切っていても正義に対する執着はかわりませんけどね