インスピレーションが沸きすぎてヤバい
執筆速度に追いつかん( i _ i )
「はあ…寒いですね…」
ボクの帝都帰還から3日。
今現在、ボクは帝都の住宅街の中にある時計塔の上にいる。
此処は住宅街の中では頭一つ抜けているので上から見るのにもってこいなんですよ。
馬鹿と煙は高いところが好きと言いますが、ボクは高い所は好きだけれども馬鹿でも煙でもありません。
セリューは邪魔なので置いてきた。今頃は帝都のメインストリート辺りをコロを引きずって駆けずり回っているでしょうね。
帝具使いには帝具使いを。単独で行動しているのはボクとセリューだけです。
帰ってきてからずっと夜間警備なので、生活リズムがもうひっくり返りつつあるので、早いところ解決したいのですが……。
書類仕事? そんなものは副隊長に丸投げですがなにか?
被害者は増える一方で、なかなか終わりそうに無いです…。
はあ、どっかでポロっとミスしてくれねぇですかね、首切りザンク…。
今日も会えそうにないし、そろそろ帰ろうかなぁと月を見上げて黄昏ていたその時、ボクの耳が甲高い金属同士が激しくぶつかる音を僅かに捉えた。
弾かれたようにその方向に顔を向けると、暗くてよく見えないがある程度開けた場所で、二つの人影が激突していた。
「もっと早く出てこいってんですよ…。帰りてぇです…」
溜息と共にぼやく。
こんな状況下でわざわざ外でやり合うような馬鹿は居ないだろうから、ほぼ首切りザンクとザンクの狙った獲物が戦っているとみて間違えないだろう。
故に、ボクは左目の眼帯を外した。
雷色の瞳が開き、世界が爆発的に広がる。
大きく見開かれた金眼の中で稲妻が迸り、自身の周囲を正確に知覚できるようになる。
半径10メートルほどの範囲で360度全てが視界に収まり、久方ぶりに脳みそに叩き込まれた情報量の多さに脳が悲鳴を上げる。
…っく! 久しぶりに使うですね、コレ。
そして、500メートル程先で繰り広げられる剣戟の音に視界を『収束』させる。
途端に、360度の視野は無くなり、500メートル先の対象を正確に捉える。対象のまつげの本数すら数えられるほどに鮮明に。
臣具、サウザンドアイ
それが、この左目の名だ。
セリューには、西の異民族にやられたと言いましたが、コレは西に行く前に大臣から貰った餞別です。
確か、殺害対象であるザンクの持つ五視万能スペクテッドを真似て作られたモノらしいです。
サウザンドアイとは、基本状態では最大半径15メートルの範囲を360度視覚することが出来、収束させれば、10キロメートル先まで見通すことが出来る瞳だ。スイッチのオンオフを切り替えることが出来る反面、眼球型の臣具の為に移植する必要がある。その為、スイッチのオフ状態では、左眼の視力は0である。
コイツの目ぼしいデメリットは左眼の失明と慣れるまでの激しい頭痛程度の、わりかしオトクな臣具なんですよコレ。
そして、もう一つ。
「クリティカル」
ボクはぼそりと囁くように口に出し、双刀の柄と柄を合わせる。
ガチリと何かが噛み合う様な音がして……ボクの持つ直剣『クリティカル』がその形を剣から弓へと変える。
帝具、百発百中クリティカル
それがこの
ボクが帝都に来て軍に入ってから手に入れた弓。
その性能は、5キロ以内であれば射る対象を
長年、使い手が居なかったらしく保管庫で埃をかぶっていた所をボなんとなしに気に入って使い始めたのである。
この刀弓に矢は無く、剣が変形した弓に実体を持つ光の弦が張られている。この弦を引けば視認した対象へと、剣の鍔でもあった部分が組み合わさり銃口のような形となった部位から光の矢が飛び出すのだ。矢とは言うが、形としては千本の様な大きな針の方が近いだろう。
使用させるのは対象の精神エネルギーで、精神の揺らぎで威力が変わってしまうパンプキンの後継機だそうだ。この弓は使用する精神エネルギーの量が常に均一だ。
だが、何故に後継機なのに銃から弓へとグレードダウンしているのかだけは甚だ不可思議です。
Dr.スタイリッシュによるサウザンドアイの適正テストをくぐり抜けたボクは大臣曰く、史上最高のクリティカルの使い手でかなり重宝するらしいです。暗殺とかもよく頼まれるですし。
あれ? Dr.のことを考えるとなんか寒気が…
頭を振りそんな思考を追い出すと、ザンクと思われる額に目の帝具を付けている男へと狙いー絞る。
キリリと光の弦が鳴き、そして……
直後に体を言いようのない悪寒が走り抜け、視野を拡散させる。
すると、ボクの背後から影のように迫る人影を捉えた!
「っく⁉︎」
咄嗟に横に跳ぶ。時計塔から真っ逆さまに落下するが即死よりは遥かにマシだ。数瞬前までボクがいた場所から空を切る音が聞こえた。
着地と同時に前に転がり、落下の衝撃と上からの追撃を躱す。
すると一瞬遅れて、その場所に刀が突き立てられる。
体の動きに逆らわずに体勢を立て直し、その襲撃者を見る。
「うへぇ」
思わず声が漏れた。
黒髪赤目の禍々しい刀を携えた少女。
そんな少女はボクが知る限り一人だけだ。
アカメ。ナイトレイドが誇る最強の暗殺者。
先程から『視』えてはいたが、直接に見ると更に気力ぎ削がれる。
暗殺者が相手とか…一番苦手です…。最悪です。
「や、やあ。アーちゃんじゃねえですか。元気してたかです?」
とりあえずは会話で隙を伺いつつ、逃げる算段を付ける。
今のボクの所属は暗殺部隊なんですよ。正式では無いですけどね。ですから、アーちゃんが帝国から抜けるまでの一時期、妹のクーちゃんーークロメと一緒に暗殺部隊で任務をした事もある仲だ。
確か、ボクとエスデス姉さんが共に帝具を手に入れて初めての任務。
暗殺部隊の選抜組と非選抜組がどっかの陵墓を荒らしまわった後に暗殺も経験だ、とか言われて押し込まれたんです。
だが、共に戦ったとはいえいきなり切り掛かってきた事を考えると見逃してもらえるとは思わない。
「やはりハツ兄ぃか。帝都に戻ってきていたのだな」
あら? 一応、返事はしてくれるみたいだ。少々意外に思うがこれに乗らない手は無い。最も、サウザンドアイを使い最大半径限界まで警戒しているが。
「あの狸ジジイに呼び戻されたです。全く、人遣いが荒いったらないです。はぁ、早く死なねぇですかね、アイツ」
これは本心だ。大臣の所業を知ってなお味方しているとはいえ、決して快く思っているわけでは無いのだ。死んだら死んだで諦めがつく。
だから帝都警備隊でも、オーガの様に賄賂を受け取ること無く、大臣に目をつけられない程度に悪人を取り締まっている。実際に検挙率も上がっている。まあ、ボクが居なくなればそれも元に戻るだろうが。
「っ! ならハツ兄ぃもーー」
「アーちゃん。それはむりです。やり方は気に喰わねぇですが、あいつ側に付くのが今の所の最適解なんです。アーちゃんは相変わらず甘めぇですね。一度敵と定めたのなら感情を殺し相手を殺す。暗殺者の基本です」
途端に嬉しそうにするアーちゃんに釘をさす。彼女は暗殺者としては超一流だが、身内に対する甘さを捨てきれない部分がある。
暗殺者としては御法度である、私怨によってクーちゃんを狙うのも早く妹を
愛する妹だからこそ、早く殺して救いたい。
それは、愛ゆえの行動なのだろう。やり方は正しく無くとも。
今が平和な世であるならばクーちゃんは病院にでも入れてゆっくりと回復するのを待つべきなのだろう。だが、そんな事は不可能だ。
仮に回復したとしても、今の世では力無き者は生き残れない。
だからこそ殺す、という事なのだろう。
だが、それですら今の世の中では致命的な隙となる。
そんな中途半端な考えではいつかアーちゃんは討たれるだろう。
ボクはアーちゃんには死んでほしくは無い。………なんだ結局のところボクも甘いって事じゃねーかです。
……だけど、ここで会った以上はいさようならってワケにはいかねぇですよね…。
「いいですか、アーちゃん。今の世の中ってーのは最低最悪のクソ野郎どもが平然と街を歩いている様なクソったれな状況です。…だからこそそのテメーの甘さや、クロメに対する執着。捨てきれなけりゃ、いつか殺されるぜ? お前」
「つ⁉︎」
口調が、雰囲気が、帝都に来てすぐの頃、エスデス姉さんの元にいた時や、暗殺部隊で殺しをしていた時のそれに戻る。
「テメーは自分から、国を、
アカメの表情が苦渋に歪む。
きっとボクーーオレは今、とても冷たい表情をしているのだろう。
でも、アカメの為にもここで止めるわけにはいかない。何よりも、オレが止めたくない。
自己満足? 結構だ。
「だがよ、それを口に出して言ったところでみんな仲良く大円団なんて終幕はありえねぇ。割り切れよ。テメーが選んだ道だろうが。今更迷ってんじゃねぇ、殺すぞ」
アカメの目が大きく見開かれる。
そんな泣きそうな顔をされると慰めて、冗談だよって笑って、一緒に飯を食いたくなってくる自分が嫌だ。
アカメの目指す、そんな夢みたいな幻想に逃げ込みたくなる自分が嫌で嫌で堪らない。
だから、せめてこれだけは伝えたい。
いつか、本当に皆が、民が笑いあえる世界を作りたいのなら。
通るのは茨の道だろう。
オレには、そんな志を掲げ続けることは出来ない。
「だからよ、アカメ。本当にその夢を叶えてぇってんなら、何を犠牲にしてでも叶えやがれ。そんでもって、お互いに生きていたのならクロメの事も含め、考えといてやるよ。まぁ、大臣は殺させねえけですけどね?」
最後はおちゃらけて、ニヤリと口を吊り上げて笑う。
それを見たアカメはーーアーちゃんはフッと微笑んだ。
「そうか、なら全力で殺す気でいく。……死ぬなよ、ハツ兄ぃ」
アーちゃんが村雨を腰だめに構える。
「クハッ。死ぬかよ、です。簡単に殺される程、ボクはお人好しじゃねぇですよ!」
そしてーー
「葬る!」
「やってみな!」
戦いの火蓋が、切って落とされた。
題名がザンクなのにほぼ出てこない(笑)