IS インフィニット・ストラトス ~未来をパラドックス~ 作:智明
人が多い所を避ける為に立ち入りが少ない屋上にて三人の人影がそこにいた。
空は曇りで吹く風はまだ肌寒い。
「では改めて紹介するぞ・・・この人が秋葉原夕霧だ」
「あ、どうも・・・」
「それとゆう、既に知っていると思うがこの男が織斑一夏だ」
男子二人の間で紹介してるのは篠ノ之箒。
「小学四年半ばまで共に文武に励み、私にとっては・・・そうだな、いわゆるファースト幼馴染と言う奴だな」
「・・・色々とツッコミたい所だが何だ、そのファーストって言うのは」
「フフフ・・・私の周辺には幼馴染が多いからな、番付しておいた・・・ちなみにゆうはサードだぞ」
(・・・ふむ、てことはセカンドは鷹月さんか・・・)
箒の指摘に夕霧は黙って考え込んでいる。
特に意味はないがその視線の先に箒がいた。
そして箒が視線に気づき、彼女は思わず頬を赤らめながら顔を横で伏せる。
「ゆ、ゆう・・・そんなに見つめられると・・・は、恥ずかしいではないか・・・」
「いや別に見つめて無ぇしいい加減な事言うな!」
「ちっ・・・」
(舌打ちしやがったぞこのひと・・・)
「あ、あの・・・」
夕霧達が騒いでる所に一夏が声をかける。
ちなみに一夏は二人のやりとりについていけず、正直戸惑っていたのである。
「あー・・・えっとスマン、俺からの紹介が遅れたな・・・」
申し訳なさそうに頬を指でかく、そして置いてけぼりにされた一夏に姿勢を対し向き直る。
「脱線して悪かったな・・・俺の名前は秋葉原夕霧、この学園の君に次ぐ男性IS操縦者だ」
△▼△
お互いの自己紹介を終えて三人共は屋上にて軽く雑談する。
「なぁ、夕霧がISの事について詳しいって本当か?」
夕霧達はお互いの事を下の名前で呼び合う事になった。
堅苦しいのが苦手な夕霧からの提案だ。
「それ、箒から聞いたのか?」
「ああ、で実際どうなんだ?」
「まあ、知識程度なら一通り・・・」
「じゃあ授業とかは大丈夫なのか・・・」
「・・・まぁな」
「なんかスゲェな・・・俺何てさっぱり過ぎて・・・そうだ!なぁ、俺にも色々と教えてくれよ」
「・・・へ?」
いきなりの一夏の提案に夕霧は思わず目をパチクリさせる。
「実は授業に付いて行けなくて色々と困ってるんだ・・・そのせいで千冬姉、じゃなくて織斑先生に怒られて・・・なぁ頼む!」
手を合わせながら頭を下げる一夏。しかし、ここでの夕霧の答えは・・・。
「ゴメン、無理」
無慈悲な即答である。
「えぇー・・・」
「まぁ聞け・・・気持ちは分かるけど正直言って俺も自分の事で手一杯なのさ、だからその・・・悪いな」
「・・・いや・・・不躾で無理言ってたのはこちらだし・・・いいよ」
「なるべくフォローはするからさ」
一夏の肩にポンっと手を置く。
実際の所、夕霧には一夏の勉強の面倒を見る余裕はある。
だがこれから先の事を考えるとなるべく本来の歴史の流れに身を任せた方が得策だと判断した。
下手に歴史が変わると過去を知る未来人の強みが生かされないのだ。
つまり様子見である。
「・・・話変わるけど、箒は何でIS学園に入ったんだ?」
「何で・・・とは?」
「いや、その・・・束さんの事もあるし・・・てっきり来ないと思っていたからさ」
昔は箒と束の姉妹仲は良好だったのだが束がISを開発してから二人の関係が急に冷えた事は一夏は知ってる。
「・・・私だってあれから色々あったんだ・・・今は別に嫌ってなどいない」
「そ、そうか・・・」
箒は束が近い未来に死ぬという話を夕霧から聞かされている。
それを知って以来、姉である束に対する嫌悪が完全に毒気を抜かれている。
「そ、それにIS学園の方が政府に色々と融通が利かされるからな・・・つまり無条件の上只で入れてくれたんだ」
「・・・そっか」
その後・・・一夏と箒はお互いの空白時間を報告しあっていた、他愛ない話から大げさな話まで。
ちなみに箒は誘拐された話や引越し生活が辛かった事などを一夏には話さなかった。
そして三人が軽く雑談を続けてると二時間目を告げるチャイムが鳴った。
「どうやらここまでだな・・・後でまた話そうよ、多分寮の部屋も一緒だと思うし」
「ああ・・・わかった」
「じゃ、また後でな」
夕霧はそれだけ言って真っ先に屋上を後にする。
そして残ったのは一夏と箒だけになった。
「さて、我々も教室に戻るとしようか」
「あのさ・・・戻る前に一つだけ聞きたい事があるんだけど」
箒が屋上を出ようとすると一夏に呼び止められる。
「何だ?」
「ああー・・・箒と夕霧ってさ、もしかして中は良い?」
「・・・へ?」
「いや、二人を見ててそうかなって思って・・・」
夕霧といる時の箒は一夏が知る箒とかなり違う。
一夏がよく知る箒は質実剛健かつしっかりしている真面目な奴だが夕霧といる時はやたらテンションが高い。
一夏が戸惑っていたのはこれが理由である。
むしろ教室で見た箒の方がまだ
「・・・まぁ、中良いと言うより・・・そもそも私とゆうは恋人として付き合っているぞ」
「マジで!?」
「いや、冗談だ」
箒の切り返しに一夏が思わずズッコケた。
「まあ、付き合っているのは流石に冗談だが・・・片思い、かな・・・」
「えっと・・・片思い?」
一夏はその答えに少しだけ違和感を感じた。
「・・・箒と夕霧って昔から知り合ったろ、付き合わないのか?」
「まぁ、そうありたいが・・・これでも頑張って告白したが既に百回以上もふられている・・・」
「・・・お前ら実は中悪い?」
「そんな訳あるか阿呆・・・私達は・・・その、色々と事情が複雑なのだ・・・私は気にしないが・・・」
「ふーん・・・事情って何だ?」
「それはゆうに直接聞け・・・とにかく私とゆうは別に中が悪い訳ではない・・・今は無理でも、例えどんなにふられても、私はずっとゆうが好きだ・・・それだけは絶対だ」
この時の箒の顔は一夏が今まで見たことがない表情をしていた・・・如何にも惚れてると言わんばかりの柔らかくて怪しい表情、絶対に振れないという決意の眼差し・・・まさに恋に生きる乙女の顔そのものだった。
一夏は「そうか」と言うだけに留まった、そして考える・・・幼馴染として箒の気持ちを素直に応援したい。
たくさん笑う様になって、冗談も言える様になって、そして表情も豊かになった。
昔と比べて性格もかなり明るくなった・・・おそらく夕霧の影響だろう。
一夏にとって箒の変化は幼馴染として喜ばしい事である。
しかし、胸の奥に何とも言えないモヤモヤ感が芽生える。
それが何なのかは今の一夏には分からなかった。
▼△▼
午後夕方・・・一年三組にて全ての授業を終えた。
夕霧を含む生徒全員が帰り支度を済ませる。
(箒がいきなり一夏を連れてくるから一時はどうなるかと思ったがこれなら何とかいけそうだな)
支度をしながら屋上でのやりとりを思い出す。
本音を言えば夕霧は一夏とあまり接触はしたくなかった。
今後の未来への対応を考えるとなるべく史実通りに進めた方が都合がいい。
(・・・後でアーカイブで確認するか)
かなり遅れたがここで度々出てくるアーカイブについて説明しよう。
夕霧が言うアーカイブとは彼が使うISにインプットされた電子事典の事である。
内容は基本的に過去の出来事や事件が記されているがあくまでそれだけ。
例えば入学日で一夏が授業を受けた事は記されても具体的にどういう風に、どんな内容を受けたかまで記されていない。
つまり表立った内容やニュースに上がった表面上の情報だけが記されているのだ。
やたらと穴だらけだが無いよりマシなのである。
(・・・行くか)
支度を済ませ、夕霧が席を立とうとすると・・・。
「あ、アノ・・・ユウギリ」
後ろから発音が悪いカタカナで呼ばれる。
振り向けば三人のクラスメイト(美人)がそこにいた。
「えっと、確か・・・」
記憶力はかなりいい方だが流石に直ぐに思い出すのは難しい。
「・・・アミル・・・さん?」
ホームルームの時の自己紹介を懸命に思い出した。
「は、ハイ!」
名前を知ってもらえたのが嬉しかったのか、彼女は両手を合わせながら笑顔で返事した。
そう・・・彼女の名前はクエーラ・アミル。
フィンランドの代表候補生としてIS学園に入学したお嬢様。
「おお・・・もう覚えているんですか・・・」
「・・・私達の事も知っている?」
そしてクエーラの後ろにいた二人の女子が前に出る。
「も、勿論だよ・・・えと・・・確か・・・ホネスさんとネリーさん・・・かな?」
かなり自信なさげな回答だったが二人の表情が明るかったのでどうやら当たりの様だ。
ルナ・ホネスはメキシコからの入学。
そして隣にいる褐色肌の女の子・・・ネリーはインドの代表候補生なのである。
「ちょ、チョットマッテクダサイ!」
いきなりクエーラが割り込む。
「えと・・・なにかな?」
「わ、ワタシとルナはファミリーネイム!ネリー、ファーストネイム!」
かなり不自由すぎる日本語だがつまり「何でネリーだけ呼び捨て!?」って言いたかったのだろう。
「や、だってアミルさんとホネスさんと違ってネリーさんは名前が長いんだもん」
「いや、姫に対して恐れ多いってユウギリ」
ネリー・メノン・マハラシュトラ・・・それがネリーの名前。
インドに置いてその名は一般家庭で使われる名前なのではなくインド王家の名。
そう、王族・・・つまりリアルプリンセス。
余談だがこのクラスの担任であるネハも同じ苗字なのだがこれは同名なのではなく二人は姉妹だそうだ。
「気にしない、ネリーでいい」
「むぅ・・・ワタシもナマエ、クエーラ!」
「お、おう」
(外国人は苗字で呼ばれるのが苦手と聞いたがどうやら本当っぽいな・・・)
「あの・・・それで俺に何か用か?」
「あ、ハイ・・・エ・・・う、ウ~ン・・・」
先程の勢いが無くなり、すっかり大人しくなってしまったクエーラ。
クエーラがもじもじしてる所をよそにルナが代わりに要件を伝える。
「えっと・・・ユウギリはこれから一人?」
「あ、うん・・・多分」
特に予定はないので素直にそう答える。
「そか・・・ならよかったら一緒に帰らない?」
断る理由もないので肯定の返事をしようとしたその時だった。
「あ、ユウギリ君!言い忘れてたケドチフユ先生から職員室に来てっテ」
まだ教室に残っていた担任のネハ・メノン・マハラシュトラ(今度からネハ)先生だった。
「えっと・・・織斑先生ですか」
「ウン、大事な話ダって言ってタヨ」
「・・・あの、大事な話なら忘れず最初から言ってください」
「ゴメンゴメン、ウッかりしたっタ」
「はぁ・・・」
今日はゆっくり出来ると思ったがどうもそうは行かないらしい。
「あぁ、ゴメン・・・織斑先生に呼ばれてるから無理・・・かな」
申し訳なさそに断る夕霧。
「うーん、そっか・・・なら仕方ないな」
「・・・また、ね」
それだけ言って三人は教室を出る。
クエーラだけが名残惜しそうに何度もこちらを見ている。
笑顔で手を振るとそれを見て彼女は脱兎の如く自動ドアを通り抜ける。
「・・・さて、行くか」
三人を見送ったあと、夕霧はそのまま織斑千冬が待つ職員室へと向かう。
△▼△
「お前は一体いつまで私を待たせば気がすむんだ?」
千冬は呆れ顔で夕霧を睨む。
こういう時、下手に弁明すると返って長くなるので夕霧はひたすら無言だった。
「まぁ、担任とはいえマハラシュトラ先生に頼んだのは流石に失敗だったか・・・」
「あ、やっぱり自覚はあったんですね」
「うるさい」
「ぶく!」
名簿で頭を叩いた。
夕霧も思わず体が反射で避けようとしたが千冬がありえないスピードで振り下ろした為結局間に合わなかった。
「はぁ・・・時間が惜しいからとりあえずこれに目を通せ」
溜息しながら書類の束を夕霧に渡す。
「・・・・・・フム」
黙って受け取った直後、こちらもありえない速度で重要書類を一枚一枚を確認していた。
「・・・IS・・・それもアメリカ製ですか」
「ああ・・・本来ならば日本のIS技研が用意する手筈だったのだが織斑の専用機に手間取っていてな、間に合わないそうだ」
一夏のISに関しては今のところ歴史通りなのだろう、問題は夕霧のISだ。
「どこも余裕はない、なのでしばらくはお前の専用機はお預け・・・のつもりだったのだがアメリカが急に名乗りを上げてな・・・その理由、お前なら分かるだろう?」
「・・・はい」
二人しかいない男性IS操縦者。
データ集めが目的なら一人よりも二人の方が効率がいい。
「それに同盟国が相手なら断りにくいですもんね」
「全く・・・日本は要らん借りを作ってしまったな」
千冬のぼやきを聞き流しながら書類の続きを読む。
殆ど流していたが夕霧は気になる事が一点だけ見つけた。
「・・・アレ・・・IS・・・もう来てるんですか!?」
「ん?・・・ああ、昨日からずっとIS整備室で待機していぞ」
アメリカは仕事が早いと聞いていたがまさか本当に早いとは・・・。
しかも見覚えのある名前で夕霧の記憶によれば完成が今から半年後で稼動テストとかもその年で行い、正式にロールアウトするのは来年の夏の筈なのに・・・。
「なんでもお前の為に機体の完成を早めたらしいな」
「・・・マジすか」
千冬は嘆息しながら苦笑いを浮かべる。
「とりあえず向かいに行ってこい・・・フィッティングとかは一人で大丈夫か?」
「あ、はい・・・大丈夫です」
「そうか、さすがだな・・・なら後はそちらに任せたぞ・・・それと整備室は第一アリーナの第二整備室だ」
「はい、了解です」
そして職員室を出て、真っ直ぐ第一アリーナへと向かった。
(・・・ISの掛け持ちになるが多分大丈夫だろ)
この展開を予想し、夕霧は予め未来から共に来たISを体内から取り出し、この時代に合わせてアクセサリーでの待機状態に設定しておいた・・・なお見た目は指輪である。
夕霧を逸る気持ちを抑えられず、早足で歩いていた。
(待っていろよ、俺のIS・・・アーマメント・アームズ!)