IS インフィニット・ストラトス ~未来をパラドックス~ 作:智明
校舎とアリーナを結ぶ通路にて一人の影があった。
その人は秋葉原夕霧。
夕霧は既に早足から走りに切り替えて通路を駆け抜けていた。
まだ初日ということもあり、人気が無くて通路が無駄に広く感じてしまう。
「到着!」
ザザッという効果音と共にピタッと止まる。
自動ドアを前にしたその場所は第一アリーナの第二整備室。
そこには夕霧の専用機・・・アーマメント・アームズがある。
夕霧が進むと自動ドアが開く、そして逸る気持ちを抑えながら整備室の中に入る。
格納庫はIS三十機も収納出来る広さを持ち、収納場は一箇所につきメンテが行える充分な広さのスペースがある。
「えっと・・・」
自分のISが収納されてる場所を探しながら歩いていると一番端にそれがあった・・・がその反対側に整備している一人の女生徒がいた。
近づいてみるとその娘はメガネをかけた可愛らしい少女だった。
内側に向いてる癖毛のセミロングも特徴の一つだ。
「・・・・・・」
何かの作業でもしているのかと夕霧は思ったが少女の手は動かず、ずっと目の前で丁寧に並べてある部品を睨んでいただけだった。
(・・・あ・・・あれって)
それらの部品に見覚えがあったのか、夕霧は更に近づこうとする。
少女は近づく気配に気づき、後ろへと振り返る。
「・・・」
「あ、えっと・・・」
「・・・誰?」
「あー・・・俺の名前は秋葉原夕霧で・・・」
「・・・そう」
先程まで明らかに警戒していた少女だが夕霧が名乗った途端にあっさりと警戒を解いた。
「・・・要件は?」
「あ、いや・・・要はないが少しそれが気になってな・・・」
夕霧は部品を指を指す。
「それ・・・打鉄弐式だろ?」
少女は目を見開く。
驚きを隠さず、彼女は夕霧の指摘に関心を示したのだ。
「・・・驚いた・・・この子のプレゼンテーションもまだ一回しかやっていないのに、しかも途中までしか組み立ての状態・・・よく分かったね」
「まぁ・・・これでもマニアだからな」
「何の?」
「メカマニア」
「・・・ふーん」
この国・・・日本の主力ISは打鉄である事は日本人なら誰もが知っている事だろう。
だがその後継機である打鉄弐式は未来では不幸な機体として語られている。
一夏の登場により、彼の専用機を組み立てる為に開発元である倉持技研の人員を全員白式に回した結果・・・打鉄弐式の開発が遅れる事になった。
その上・・・研究員の何名かが白式の量産を目論見、打鉄に代わり白式の量産型である『白鉄』が日本の主力機となる。
事実上打鉄シリーズは弐式で打ち止めされたのだ。
しかしその打ち止めの予定がある弐式だが何故かバラバラの状態でここIS学園の整備室にあった。
(俺の記憶だと弐式は誰かが引き取って以降、ずっと行方知らずだったがまさかここにあったとは・・・)
夕霧がマニアなのは事実なのだがより厳密に言えば完成する事がなかった幻の機体マニアである。
もしも一夏がいなかったら白式は組み立てられず、以前から計画されていたあの幻の打鉄参式の開発が実現していたかもしれないのだ。
打鉄参式とは何かについてはまた別の機会に語るとしよう。
(うーん・・・つまりここが分岐点って事なのか・・・)
夕霧はふと考える。
もしも弐式が早めに完成し、充分なデータを揃えば参式の開発の目処が立つかも知れない。
一夏がいる時点で参式の話はありえないが試すだけ只だ。
一人のマニアとして参式の実現の為にもここは何としても弐式を完成させたい。
(・・・未来はどの道変わるんだからこれぐらいはいいよな)
と自分に言い聞かせながら少女と面と向かって話す。
「あのさ・・・えっと・・・名前、聞いてもいいかな?」
「・・・更識簪」
「あのさ・・・更識さん、もし良かったら俺も手伝っていいかな?」
「イヤ」
「・・・おうふ」
あまりの即答ぷりに思わず凹む夕霧。
しかしここで諦めず更に食い下がる。
「一応力仕事とかもあるだろうしここは男子の俺がいた方がいいと思うぞ」
「必要ない」
「えっと・・・人数多い方が作業効率いいぞ」
「いい・・・それにどうしてもこれを一人でやらなきゃいけないから・・・」
「何で?」
「・・・言わない・・・それにISについて何も分からないでしょ・・・」
「そんな事はないぜ・・・これでも知識だけは豊富なつもりさ」
「・・・それでもイヤ」
一人で完成する事に妙なこだわりを持つ少女、更識簪。
夕霧もこれ以上の無理強いは流石に良くないと思い、大人しく引き下がることにした。
「うーん、そっか・・・じゃ何か困ったらいつでも声をかけてよ、必ず手伝うからさ」
「・・・うん・・・とりあえず考えとく」
「そっか、それじゃあ俺は反対側にいるからな」
「寮に行かないの?」
「えっと・・・俺の専用機、今日来てるんだ」
「専用機・・・」
「おう、アメリカ製のな・・・じゃ!」
夕霧は簪と別れてアーマメント・アームズがある反対側へと向かう。
△▼△
「よし、さっそく確認しようか」
夕霧の目の前には洗濯機の大きさ程の機械仕掛けの箱があった。
勝手を知る夕霧は箱の中心についてたボタンを押す。
そして箱は青白い光に包まれ、数秒後にISが姿を現した。
そして箱は夕霧の足の正面に小さく縮んでいた。
「ここ最近の技術って早いぐらいに進歩してるよなぁ・・・」
どんなに重くてデカイ物でも運びやすい様に作られたハイテク箱。
物質を量子化させて保存する拡張領域《バススロット》の応用である。
「・・・あれ?」
姿は現した夕霧の専用機・・・アーマメント・アームズだがその姿形に夕霧は違和感を覚えた。
「これってもしかして・・・ポーンフレームか?」
ここで夕霧は未来で知り得たアーマメント・アームズの詳細を思い出す。
アーマメント・アームズ・・・略してAAなのだがこの機体は他の第3世代と比べてあまり突出した機体性能がない。
パワー、装甲、スピード、etc・・・全てに置いて最弱のISと言える・・・かもしれない。
アメリカのISにしてはらしくない程の弱さと思われてるのだがそれはこの機体のワンオフ・アビリティーともう一つのギミックによって機体性能が大幅に下げられていたのである。
つまり、このISは性能よりも個性で戦う機体なのだ。
そして夕霧が言ったポーンフレームはAAのギミックである。
AAにはウェポンハンガーと呼ばれる複数の特殊な専用パッケージがあり、ポーンフレームはその一つである。
「と言ってもポーンフレームって実はパッケージじゃねぇんだよなぁ・・・」
ポーンフレームはAAのスタンダードでその上で他のフレームを付ける様になっている。
「えっと・・・他のフレームは・・・」
夕霧は早速AA専用の端末を開き、空中で映し出された光学ディスプレイを眺めながら目当てのフレームを探す・・・が無かった。
「あれ、ナンデ!?」
もう一度端末を一から見直すがやはり無かった。
何が原因かと一瞬考えるがとりあえずAAの開発元であるアメリカのライアン・エレクトロニクスに問い合わせる為に持ってきた資料に手を伸ばす。
電話番号を探していたが直ぐに手が止まる。
夕霧は資料にある注意事項に目を止めた。
完成したアーマメント・アームズなのだが実は夕霧の為に開発を急いだが充分な可動テストや戦闘テストもなされないまま日本に送ったとの事だ。
おまけにウェポンハンガーもポーンフレーム以外は完成しておらず、事実上未完成の状態てある。
安全面における点検は確認されているがそれでもやはりデータ不足。
今後夕霧にアーマメント・アームズのデータ集めを任せる、成果物次第でウェポン・ハンガーの開発が進む可能性があるのでなるべく早く良いデータを頼む・・・と。
「・・・マジでか」
夕霧は慌ててAAの専用端末を開き、AAの武装を確認する。
対IS用アサルトライフル『ハンセル』一丁と高性能RI型5連装対空ミサイル『トロン』x4のみ。
「え・・・武装ってこれだけ・・・マジすか・・・」
夕霧は思わず頭を抱えた。
それもその筈、第3世代であるにも関わらず武装が実弾ライフルとミサイルのみである、接近戦用の武装すら無い。
特殊武装が多い他国の第3世代と比べると明らかにパワー不足である。
「武装がこれだけとか何処のVF-0だよ・・・」
別にフェニックスをディスってる訳ではないが流石にこれではまずい。
このままの状態では第3世代どころかガチでラファールにも負ける可能性がある。
「・・・マクロス・・・知ってるの?」
「へ?」
後ろに振り返るとそこには先程の少女、更識簪がそこにいた。
「何でここに?」
「・・・見学」
とりあえず簪の登場によって夕霧は少しずつ落ち着きを取り戻した。
そして先の質問に気づき、素直に答える事にする。
「まぁ、アニメは見るよ・・・大体ロボットやメカにジャンルを絞ってるけど」
「ふ、ふぅん・・・そうなんだ・・・」
夕霧はとりあえず武装やギミックの事を一旦忘れて今日の目的であるフィッティング及びパーソナライズに取り掛かる。
AAをマニュアルで装着し、初期化と最適化を始める。
これが終わるまで実に30分も時間がかかるので暇になった夕霧は見学に来た簪に話しかける。
「更識さんも結構見てるの?」
「え」
「アニメ・・・マクロスとか知ってたからさ」
「あ、うん・・・ヒーロー物とかが気に入ってるけど」
「そっか・・・なんか親近感湧くなぁ、ここだと絶対話相手に困ると思ったからさ」
夕霧が過去に来てから沢山の趣味が出来、アニメを見るのもその一つだ。
「あの、秋葉原君・・・実はお願いがあるんだけど・・・」
「何の?」
「その・・・手伝って欲しくて・・・」
簪は恐る恐ると確認する。
実は一人でやると意地を張ったものの、途中まで組み立てていてもやはりどこから手を付けたらいいのか分からないのだ。
このままでは埒があかないので試しに夕霧に相談する事にした。
「一人だと、やっぱ難しくて・・・」
「え、じゃあ俺も手伝っていいの?」
「ダメ・・・かな?」
「やるやる、絶対やる!」
「本当?」
「ああ!あ、でもこれ終わるの30分後だしもう遅いから本格的に始めるのは明日からってことでいいかな?」
「う、うん・・・私はいいよ」
こうして夕霧は打鉄弐式を完成する為に作業を手伝う事となったのだ。
「うは、楽しみになってきた・・・今後ともよろしくな、更識さん」
「う、うん・・・こちらこそ・・・」
▼△▼
作業を終えて簪と別れて寮へと向かう夕霧。
簪と一緒に帰ろうと考えたが床で散らかったままの弐式をそのままにはできないのでその後片付けをしなければいけなかった。
夕霧も手伝おうとしたが簪は一人でやりたいと言ったので彼女のやりたい様にさせた。
寮への家路をゆるゆると進める夕霧だが手入れが整っている芝生にある樹の下で一人の女生徒が眠っていた。
「・・・あの人、大丈夫かな」
春とは言え夜は流石に冷える。
起こさずそのもままスルーすると風邪をひく恐れがあるので見ないふりは出来ない。
夕霧は女生徒がいる樹の下まで移動した。
声をかけて起こそうとするが女生徒を目の前にすると思わず声を引っ込めた。
「・・・」
夕霧はその女生徒に見惚れていた。
その人は長い髪を太い三つ編みにした小柄な女性だった。
一年生にしか見えないがそれより遥かに幼く見える。
夕霧は本来ロリコンではないがその女生徒から目を逸らす事が出来ないのだ。
しばらくして女生徒は人に見られてる気配に気づき、むくりと起き上がる。
「あぁー・・・よく寝たっス」
一際大きなあくびをし、目をこする仕草をする。
そして直ぐ近くに固まったままの夕霧に気づき、先程の視線は彼のものである事に納得する。
「えーっと・・・誰っスか」
女生徒からの質問に夕霧は慌てて答える。
「あ、えっと・・・俺、秋葉原夕霧っす・・・その、起こそうと思って・・・」
「そうだったんスか」
座ったままの体制から軽やかに起きる。
「起こしてくれて感謝するっス・・・じゃ」
それだけ言って女生徒は二年生の寮へと向かった。
夕霧は彼女が二年生である事を知り、そしてしばらくはその後ろ姿を眺めていた。
「ふむ、ゆうはああいう小柄な女性が好みなのか・・・」
いきなりの第三者の声に驚いた夕霧は声を上げる暇も無くその人物から距離を取る。
声の主は篠ノ之箒だった。
「む、こらゆう・・・そんなにびっくりする事はないだろう」
「気配を殺していきなり後ろから話しかけられたら誰だってびっくりするわ!」
「惚けていたゆうが悪い・・・で先程の方は誰なのだ?」
「あ?別に・・・こんな時間に寝てると風邪ひくかもしれないから起こそうとしただけだ」
「ふーん?その割に声をかけられない程膠着していたがな」
「うぐっ」
ニヤニヤしながら意地悪そうに夕霧を誂う箒。
「そては、ゆうはロリコンだな?」
「いやいやいやロリコン違ぇしさっきの人だって二年生じゃん!」
「そう大声をだすな、ゆうは貧乳などではなく巨乳が好きと言いたいのだろう」
「それも違う!」
「分かっている、冗談だ」
箒の冗談に流石に付き合いの長い夕霧でさえもだんだん付いて来れなくなっていた。
いつからこんなボケ属性がついたのか激しく問い詰めたいと夕霧は密かに考える。
「ていうか何でこんな遅く外にいるんだ」
「今日は部活に入部してな、軽く素振りをしてから帰ろうと思ったのだ」
「ふぅん・・・」
部活って事は剣道部なのだろうっと夕霧は諭す。
全国制覇した箒が入部した事によって剣道部の先輩らは大いに喜んでいる事だろう。
こうして夕霧と箒は肩を並べながら寮へと向かっていた。
「なぁ・・・箒」
「ん・・・何だ?」
「さっきの事さ・・・怒らないのか?」
さっきの事とは夕霧が名も知らない女生徒に見惚れていた事である。
「私としては怒る理由がないな」
「え、なんでさ・・・自分で言うのも何だけど、箒・・・俺の事好きじゃん、普通は怒るとか嫉妬とかするもんじゃないの?」
「私はとっくの昔に自分の思いを伝え終えているからな・・・後はゆう次第だ」
その言葉に夕霧は顔を落とす。
本当に子供の頃から何度も告白してきた箒。
理不尽な真実を知りながらもそれでも思いを変えようとしない幼馴染。
その気持ちに・・・なんと答えたら良いのだろうか。
「それでいい」
「・・・え」
悩む夕霧に対し箒は彼の頭を撫でる。
「最終的にゆうは誰と結ばれるかなんて私には分からない・・・」
「・・・」
「悩むという事は私の気持ちに対して少しでも考えてくれる・・・それが嬉しい・・・だが・・・」
「・・・」
「申し訳がないだなんて考えないで欲しい・・・私はこれでも、ゆうに自分の未来を自由に選んで欲しいのだ」
「箒さん」
それは幼馴染としての箒ではなく、先祖としての箒だった。
実らない恋である事だと分かっていても・・・藁にもすがりたい気持ちで夕霧と共にいたい。
「ま、彼女が出来るまでゆうは私の彼氏だがな!」
「ちょっ、色々台無しだ!って言うか誰が彼氏だ!」
星々が輝く夜空の下で走る夕霧と箒。
未来に対して使命感と不安感に挟まれながらも再度決意を固める。
「・・・箒」
「・・・何だ?」
「俺・・・絶対に未来を変えるからな」
その言葉に箒は満足げに笑った。
「ああ、お前はそれでいい」
オリジナルIS設定その1
アーマメント・アームズ/ポーンフレーム
アメリカのライアン・エレクトロニクスが開発した第3世代IS。
機体の全体を貫く基本的な概念は如何に時間をかける事無く戦闘の準備をする事である。
ISには戦闘状況に応じてパーツやフレームを変えるパッケージ等がある。
だがパーツ交換の際にインストールにかかる時間があまりにも長い為とてもじゃないが実戦的ではない。
そこで、凡庸性に長けた通常のパッケージよりも特定ISの専用となるパッケージを作る事でインストールにかかる時間を失くすと考えたのだ。
だが特定のISにしか使えないパッケージはコストがかかりすぎて運用が難しかったのだ。
後の第4世代IS『紅椿』の登場により、アーマメント・アームズの機体コンセップトは最早無駄である事が証明され、打鉄弐式とは別の意味で闇に葬られた幻の機体だったのである。
アーマメント・アームズにはウェポンハンガーと呼ばれる六つのスイッチフレームが存在するがポーンユニット以外のスイッチフレームはまだ完成していない。
ポーンフレームは厳密に言えば戦闘用などではない。
アッパーフレームが破損した際の脱出装置みたいなものである。
戦場から生きて帰る事を前提としている為最低限の装備しか付いていない。
和名:軍備武装
型式:AA-01
世代:第3世代
国家:アメリカ
分類:全状況対応特化型
装備:対IS用アサルトライフル『ハンセル』
高性能RI型5連装対空ミサイル『トロン』x4
装甲:エレメント・バキューム
マグネット・メタリカ
仕様:ウェポン・ハンガー