IS インフィニット・ストラトス ~未来をパラドックス~ 作:智明
春・・・それは雪や氷が溶け、植物が芽を出す時期である。
まぁ今年は別に雪が降ったという事実は無いんだが・・・とにかく今は春だという事だ。
そして春と言えば人生の再出発。
人はこの季節に入ると、新しい自分を造り発見し、あるいは新しい友人を造り、コムュ二ティを築く。
そうやって人間社会は回っているのだ。
つまり、この時期になると本来人間ならば新しい青春に向けてもっと燥いだり、浮かれたり、ワクワクしたり、ドキドキしたりしてもいい筈なんだ。
ところが・・・ある学園ではその浮かれた話が出来ない状況でいた。
(きつい・・・これは想像以上にきつい・・・)
そう頭の中で呟いたのは織斑一夏・・・とある理由でISを起動させた男子。
言うまでもないがISとは本来女性にしか扱えない代物なのだ。
そしてISを動かせた一夏は間違いなく世界の宝だ(ただし男性限定)。
研究と護衛の意味も含めて、彼がIS学園に入れられたのは自然の流れだろう。
そんな一夏なのだが現在多方面から注目を浴びている・・・勿論女子から。これは自意識過剰とか脳内妄想とかではなく、リアルに28人分の視線を感じる。
噂のもう一人の男性IS操縦者がいればここまで集中的に注目を集める事は無かったが残念な事に彼は別のクラスとのことだ。
(てっきり一緒のクラスかと思ってた・・・いや、普通は思うだろう・・・)
一夏としては同じクラスになると思って入学前は不安半分と嬉しさ半分だったのだがこれでは不安しかなくなった。
そうして時間が経つ内に自動ドアが開く、どうでもいいけどこの学園はハイテクすぎるよね。
そして現れたのは身長がやや低めで黒縁眼鏡をかけた女性。
背の低さの割にやたらと胸がでかい、俗で言うロリ巨乳と言う奴だろうか・・・一夏の悪友である五反田弾ならばその辺詳しいかも知れない。
「え、えっと・・・」
入って早々いきなりうろたえてしまった巨乳の人・・・おそらくこのクラスの先生なのだろう。
あまりの静けさと並々ならぬプレッシャーで思わず涙目になってしまう。
彼女の人生に置いてこれ程までに空気が重いクラスを請け負った経験は彼女にはない。
しかし、ビビってもIS学園の教員。
問題児クラスの一つや二つもまとめられないで何が教育か。
彼女は深呼吸をし、精一杯声を出して挨拶をした。
「お、おはようございます!私がこのクラスの副担任の山田真耶と言いますッ・・・上から読んでも下から読んでも山田真耶です!・・・なんちゃって・・・」
「「「・・・」」」
身を切った渾身のギャグも不発。
「えっと・・・そ、それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね!」
「「「・・・」」」
場の空気は相変わらずだった。
それに耐えられなかった真耶は慌てて名簿を取り出す。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします・・・えっと、出席番号順で・・・」
名簿を開きながら生徒の出席番号を確認する真耶。
さて、メンタルは割と強い方だと自負してる一夏なのだが既に顔色を悪くさせながらお腹を抑えてる。
別に一夏は女性恐怖症なのではないがこの状況はトラウマとして心に刻まれてもおかしくない。
特に深い理由はないが窓側の方に目をやる。
「・・・」
何かしらの救いを求めて視線を送ってみたが残念な事に一夏の視線に気づく事すらなかった。
篠ノ之箒・・・六年前に遠い場所へ引っ越した一夏の幼馴染。
幼い頃から剣道を嗜んでおり、さらにあれから成長して中学の全国大会で優勝する程の実力者。
基本無口で他人を寄せ付けようとしないが値はいい奴である事を一夏は知っている。
ちなみに誤解の無い様に付け足すと箒は別に一夏を無視してる訳ではなく、考え事をしているので一夏の視線に気づいてないだけである。
(俺って箒から忘れられてるのかな・・・いや、まぁ俺も小学の時の友達なんて殆ど覚えてないし・・・)
一夏が勝手に納得してウンウンと頷いてたその時だった。
「・・・織斑一夏くん!」
「は、はい!?」
真耶が大きな声で呼ぶもんだから反射的に席から立ち上がる。周りの女子がくすくすと笑い、一夏はますます居心地が悪くなる。
「あ、あの・・・お、大声出しちゃってごめんなさい・・・お、怒ってる?怒ってるかな?ゴメンね、ゴメンね!でもね、あのね・・・自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね・・・だからね・・・ご、ゴメンね?自己紹介してくれるかな?だ、ダメかな?」
気がつくと真耶が一夏に対してぺこぺこと頭を下げていた。
「いや、あの・・・そんなに謝らなくても・・・っていか自己紹介しますから落ち着いてください」
「ほ、本当?本当ですか?本当ですね?や、約束ですよ・・・絶対ですよ!」
本当に年上なのだろうかと一夏は疑いたくなってきた。
そして自己紹介をする為に後ろを振り向く。
(う・・・ッ・・・)
今まで背中に感じていただけの視線が一気に一夏に向けられる。
しかも対して興味もなかったあの箒までもが流し目で一夏を見ていた。
明らかに態度が悪い。
(いやいやいや、久しぶりの幼馴染に対してそれはないだろ・・・)
ともあれ、一夏は覚悟を決めて高校初の自己紹介に挑む。
△▼△
このIS学園の一年期は四つのクラスに分けられてる。
一夏がいる一組、クラスの半分が外人の二組、日本人しかいない四組・・・そしてIS学園に受かったものの、基本的に日本語が不自由な外国人がいる三組。
勿論現在も彼女達は勉強中である。
そして秋葉原夕霧は現在この一年三組に所属している。
「・・・」
特に緊張している様子はなく、女性だらけのクラスでも至って平然としていた。
そう、彼はいつも通りである。
しかし、場の空気は一組と同様で緊張感と静けさで包まれていた。
夕霧は何ともないがこのクラスの女子は違った様だ。
このクラスへ来る前に、ここの女子生徒は殆どが男性と接触した事がないお嬢様だと千冬から聞かされていた。
男性と遠距離となり、女性だけで暮らし、生活をする・・・まるでアマゾネスの様な生活で今の女尊男卑社会に置いては割と珍しいタイプである。
しかし、ここまで男性への免疫が無さすぎると逆に接し方に困る。
これでも夕霧は中学の頃は結構女子と仲良くしてる。
向こうは変に男を意識しないがここは違う。
そしてこれ以上は耐えられず、痺れを切らした夕霧はとりあえず隣の席にいる女子に話しかけてみる。
「あの・・・」
「ひ、ひゃい!?」
男子・・・それもメディアに取り上げられる程の有名人からいきなり声をかけられるとは思わなかった為思わず素っ頓狂な声を上げる女子生徒。
しかし、まるで悪いことをしたみたいで急に気まずくなった。
「・・・いや、やっぱ何でもない」
「あ・・・そうですか・・・」
せっかく話しかけられたチャンスを生かしきれずに思わず凹む女子生徒。何だか申し訳ないことをしたみたいで罪悪感に苛まれた夕霧は心の中で謝る。
(やばい・・・何だか俺まで何か気まずくなってきたぞ・・・)
あれだけ余裕だった夕霧も先程のやり取りですっかり緊張気味になった。考えなしに話しかけたのは失敗だったなぁ・・・と思っていたその時だった。
「ん~ナマステー!!」
自動ドアが開いたと同時にヘンテコな挨拶と共に現れたのは褐色肌のインド・・・いや美女。
「ニャハハハ!やー・・・おはようございます生徒諸君!アタシがこのクラスの担任であるネハ・メノン・マハラシュトラ先生ダヨー、出身はインドで好きな食べ物はおでんダヨー・・・って・・・」
「「「・・・」」」
まるで妖精の様な美貌と出る所が出てるグラマラスな肉体の持ち主、どこのミス・ユニバースだよ・・・しかし、そのキテレツな喋り方が全てを台無しにしているので残念という言葉しか思い浮かばない。
(それにしても好きな食べ物はおでんかよ・・・カレーじゃねぇのかよ・・・)
それはインド人に対する偏見だ。
「おやま・・・今年は随分とおとなしい生徒達が来ましたですねー」
彼女の登場によって先程までの気まずさは何処かへと吹っ飛んだが代わりにキャラが濃すぎるせいで若干コメントし辛い状況になっている。
笑えばいいのだろうか・・・。
「生徒がおとなしいのは先輩がやかましいからでしょ」
とそこで再び自動ドアが開き、今度は別の女性が登場する。
「えー・・・少しでも早く皆と仲良くなる為に色々と気を使ってやってるのに・・・」
「むしろ変人と思われて逆に距離が遠ざかっているんですけどね、はい名簿」
「おおー、流石後輩・・・戻るのが面倒くさかったからそのままにしたケド忘れ物をちゃんと届けてくれるなんて先輩として誇らしい!」
「忘れた自覚があるなら戻って取りに来てくださいよ」
ホロリと涙を拭く演技をするネハと呆れながらも丁寧にツッコミを入れる女性・・・おそらくこのクラスの副担任だろう。
何となくだがこの二人のやり取りが面白い。
「そんなことよりミホ、さっさと自己紹介したら?何か生徒達が妙にそわそわしてるケド・・・」
「それは大体貴方のせいです・・・コホン・・・ッ」
女性は生徒達に向き、改めて自己紹介をする。
「えー・・・申し遅れたが私がこのクラスの副担任の長谷部美穂だ、うちのクラスの担任は見ての通りのヘンテコなので基本的に私がこのクラスを仕切っている」
「ミホちゃんひどい!」
二人のやり取りに生徒達は思わずクスっと笑う。
「質問がある方は必ず私に聞く様にな・・・それじゃあ今度は皆が自己紹介する番だな・・・ほら先輩」
指摘されたネハは慌てて名簿を開く。
出席番号順で生徒を呼び、そして一人一人の自己紹介を済ませる。こうして一日目のショートホームルームは得に波乱もなく無事終えた。
遠くにいる一組がやたら騒がしいのを除けば・・・。
▼△▼
一時間目のIS基礎理論授業が終わって今はリセス・・・つまり休み時間である。
夕霧は特にする事も無く、次の授業を気長に待っていた。
ただ待っているだけというのも退屈なので自分が今いる三組を見渡してみる。
何人かの女子がグループを結成していて何かを話している様だ、ガールズトークをしてる雰囲気は得に無く・・・むしろ作戦会議をしてるみたいな感じだ。
次は廊下の方を見ると他クラスの女子や二、三年の先輩らまでもが詰めかけている。
しかしそれ以上は何もしない・・・いや、出来ないのだ。
仲良くしたいけど話しかける勇気がない。
男に免疫が無さすぎるとここまで不自由になるのか。
「・・・ん?」
廊下の方が急にざわついた事に気がついた。
何事かと目を向けて見るとそこに箒がいた・・・そして彼女の後ろには見知った男子がいた。
「おい、ゆう!早くこっち来い!」
「・・・」
呼ばれたものだから仕方なく席を経つ夕霧。
そして真っ直ぐ箒達の所へと向かう。
「遅い!」
「いちいち大声出すな、お前は近所のおばさんか」
「誰が年増だ!ゆうだからと言って言っていい事と悪い事ぐらいあるんだぞ!」
「そこまで言ってねぇ・・・それよりも流石に注目を浴びてるし、とりあえず場所を変えるぞ」
「む、そうだな、そうしよう・・・ほら、一夏も行くぞ」
「あ、ああ・・・」
夕霧と箒のやり取りに唖然としてしまった一夏。
夕霧は先に行ってしまったので二人はその後を追う。
「なぁゆう・・・誰にも邪魔されず、落ち着ける場所は知らないか」
「いやいやいや・・・俺ら今日入学したばかりだから知るわけないじゃん」
「あのさ・・・とりあえず屋上とかに行ってみない?」
埒があかないので一夏の方から提案してみる。
「屋上か・・・そういやそんなとこあったな・・・」
「なら行こう・・・先程からずっと見られてなかなか落ち着かん」
箒に言われて辺りを見回す、確かに周りの女子達から異様に見られてる・・・主に箒に対して。
(ああ、なるほど・・・そういうことか・・・)
そもそも男子が二人しかいないというのにその二人と親しそうな箒は周りから注目を浴びて当然なのだ・・・いわゆる嫉妬的な意味で。
こうして三人共は一夏の提案で屋上に向かう事となった。