いつものように決まった流れで行う作業が今日は少し違う形になるなどこの時の私たちは思ってもみなかった。
そう、これが私の子育ての始まりだった。
「紅、アスマ、これ終わったら飲みに行きましょうよ」
アカデミーの最上階にある火影執務室を目指す私たち。後ろから同僚のアンコが声をかけてくる。
「またか、お前も酒と甘いもんが好きだなぁ」
呆れたような口調で話すアスマ。私もそれに頷きながら口を開いた。
「そもそも昨日も飲みに行ったじゃないの。きょうはやめときましょう」
そう、ここ最近任務が終わるとアンコは毎日のように私たちを誘う。こいつの悪友であるカカシが最近誘っても忙しくなかなか付き合ってくれないからだそうだ。
それを私たちにぶつけてきているのである。少し迷惑な話だがかわいそうに思うあまりたまに付き合ってあげることにしている。
「ちぇーっ、じゃぁしょうがないから今日はイズモでも誘って飲みに行くかなー」
頭の後ろで手を組みながら話すアンコ。それはそれは寂しそうな表情だが毎日飲んでいたら体もお金も持たない。
そんなこんなで執務室に着いた私たち。
「失礼します」
ノックをし部屋に入るとそこにいたのは可愛い子供にヒゲを引っ張られる火影の姿。
「これ、ナルトやめんか、痛い痛いナルトや、やめんか」
ナルトをあやしながらにこやかに笑う火影のヒゲをまだ握りしめたままニコニコと笑顔を見せる子供。
この子はうずまきナルト。九尾襲来事件の時の犠牲者の1人。4代目火影により九尾を産まれながらに臍に封印されし子供。里を守った英雄の子である。
ナルトの両親はその時に戦死しており、今は火影に育てられていた。
「おぉ、お前たち、任務ご苦労であった。報告を訊こう」
火影様はナルトをあやし、自分の膝の上に乗せるとこちらに向き直る。
「は、山賊の討伐は完全に終了しました。この山賊の中に1人だけ忍がおりまして、その忍は殺さずに生け捕りにしただいま尋問にかけているところです。そして残りの山賊たちは全て指名手配中のお尋ね者達でしたのでその場で抹殺後暗部に引き渡し、換金所に連れて行かせています。これはかなりの額になるかと思うので、また後日報告させていただきます」
アスマが淡々と報告した。その報告に火影様は頷き答える。
「わかった。ご苦労であったな、3人とも。これで村の人々も安心して暮らせることだろう」
遠くを見据えるように言う火影様に私は問いかける。
「あの、ナルトを抱っこしていいですか??もう可愛くて可愛くて!」
机の前に詰め寄り火影様の目を見つめる。
すると火影様は目を細めてにっこりと笑う。
「おぉ、ナルトも喜ぶ。いつもありがとう」
火影様は立ち上がり私にナルトを受け渡した。
私はナルトの体を抱き寄せそのまま空いてる右手で頭を撫でてやる。
ナルトも私の体に小さい手で一生懸命捕まってくる。
あぁ、もう本当に可愛い子。
「紅はナルトが好きねぇ。私とナルトだったらどっちが好き?」
「ナルト」
私は即答する。その瞬間後ろから泣き声が聞こえる。
「即答された。いつも一緒に任務とか頑張ってるのに」
部屋の隅っこにいつのまにか移動し体育座りで膝に顔を埋め泣くアンコ。
だがそれが嘘泣きだということを私たちは知っている。
「アンコ、あんたナルトの教育に悪いから嘘泣きはやめなさい。ナルトが真似したらどうするの?ねー?ナルト」
後ろを冷ややかな目で見た後、ナルトに向けて笑顔で問いかける私。
「ねー!」
それに対しわかってはいないと思うが元気いっぱいに返してくるナルト。
それを見て私はまたナルトを抱きしめ、頭を撫でてあげる。
気持ちよさそうに目を細め、私の胸に顔から体から全て埋めるナルトはまさに可愛いの一言に尽きる。
「紅、そーしてるとお前は若い母親のようだな」
アスマは私の腕の中のナルトの頬を突く。それに反応を示すナルト。つつかれるのが面白いのかアスマの指に自分の頬をグリグリと擦り寄せる。
「お、俺に向かってくるのか?ナルトー」
その頬に優しく指で触れるように突き続けるアスマは顔が老けているからか父親のように見えなくもない。顔は似ていないけど。
「ほほほ、お前達にはよく懐いておる。ナルトは他のものだと抱っこされるのも嫌がることも多いのにのぅ」
火影様の言葉に私は嬉しくなってくる。
「ナルト〜、あんた本当に可愛いわ。もう持って帰りたいくらいに!」
ナルトを抱き上げ自分の頬をナルトの頬に擦り付ける。
ナルトも自分の頬を擦り寄せて来る。プニプニしていて気持ちがいい。
「お前達になら頼めるかのぅ」
火影様が少し口重く話し始める。
「明後日から五影会談があるのじゃがその時にナルトを連れて行こうと思っていたんじゃが、紅よ。その間お前にナルトを預かってもらいたいんじゃ。わしはもうすぐ出発する。その時にナルトに長距離の移動は苦痛じゃと思っておったのじゃ。どうじゃろう?引き受けてくれんか?」
火影様の言葉に私はすぐさま返事をする。
「構いませんよ?むしろこれから私が育ててあげたいくらいですよ!子供には父親や母親が絶対必要だと思っていますからね。ナルトは小さいのにもう両親がいません。だから私はいつもこの子を抱く時母親になった気分で抱っこしているんですもの」
ナルトを愛おしそうに見つめる紅。
「うむ、では紅、お前に任せるぞ。わしが帰ってからのことはまたゆっくり話し合おう。よいな?」
火影様は私に優しい微笑みを向けるとともに問いかけてきた。
私は頷きナルトの頭を撫でてやる。
「紅、ナルトのご飯じゃが、今は買い置きがないからのう。これで離乳食を買ってきて食べさせてやってもらえるかのぅ」
火影様から渡されたのは1枚のカード。
「これは?」
右手で受け取りながら聞く私に火影様は答える。
「それはわしがナルトの食費を出す時のカードじゃ。4代目やクシナは相当に貯金をしておった。その1部じゃ。なくすなよ?そのカード1枚でナルトが20歳になるまで暮らせるレベルのお金が入っておるからのう」
その言葉に私たちは固まる。
クシナさんと4代目は私たちと歳が10ほどしか変わらないはずなのだが、どうやって貯めたのか。それにこのカードでまだ一部ということは…考えるのはやめよう。
「わかりました。絶対に無くしません」
ナルトを一度机の上に降ろしカードをホルダーの中の財布に入れてナルトを抱き上げる。
「アスマ、紅の手伝いをしてやってくれ。これは父としての頼みじゃ」
アスマに声をかける火影様に対しアスマは黙って頷いた。
「ではわしもそろそろ出発しないといけないからな。頼んだぞ」
私たちは返事をし一礼して部屋を出る。アスマがアンコを引きずっているのがなんともシュールである。
「紅、俺は一度帰って風呂に入ってからお前の家に行く。その時に色々用意してから行くからナルトとゆっくりしててくれ」
アスマはアンコを引きずったまま歩いて行ってしまった。
「ふぅ、じゃぁナルト、行きましょうか!」
「あぁい!」
ナルトを抱きしめたまま歩き出す。
この日から紅の生活の中心はナルトに変わっていくことになるのをまだ誰も知らない。