とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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閑話・決闘前の日常

 朝。

 

 小鳥がさえずる爽やかな朝。カーテン越しに部屋を照らす暖かな日差しがマリーの目覚めを促す。

 

 今日も一日いい日になりそうだ。そう思いながらマリーは目をさまし、

 

「グッモーニング! マリーちゃん!!」

 

 マリーの部屋に勝手に侵入してきた、不審者を一人発見した……。

 

「俺様参上♡」

 

 赤い目元を隠すマスクに、超人的ヘヤセット。風もないのになびく真紅のマフラーには実は針金がとおされているらしい……。

 

 彼の名前はスパルタンⅥ。和が犬神アンダーグラウンドサーチのBOSS、犬神ゲルに何度となく挑戦し激闘を繰り広げ、

 

「…………」

 

 るたびにボコボコにされて泣きながら逃げていくということを繰り返す、自称天才怪盗を名乗る生粋のバカである。

 

 おまけにこの前は犬神に乗せられてまだ十歳のネギをタコなぐりにした経歴を持つ危険人物。現在はネギの体術の師匠として結構良好な関係を築いているらしいが、

 

「まぁ、今はそんなことよりも……」

 

「?」

 

 マリーの呟きに不思議そうに首をかしげるⅥ。マリーはそんな彼にカードから取り出したハリセンを使って、

 

「バッモーニング!!」

 

「レイトツッコミありがとう!!」

 

 正面を向いているⅥの顔が勢いよく横を向くぐらい、力いっぱい殴りつけた!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「お目覚めすっきり?」

 

「ドッキリや!! なに朝っぱらから人の部屋に不法侵入かましとんねんコソ泥!!」

 

「ふっ……泥棒に何とは愚問の極み……。といいたいところやけど、今日は泥棒としてやってきたわけやないからいわんとくわ」

 

「ほな、その悪趣味な格好は何でしてきたんや?」

 

「マリーちゃん。この格好結構気に入っているんやからけなすんはやめて。心に刺さる……」

 

 そんな会話をしながら、マリーはボッサボサに寝癖のついた金髪にブラシをかけいつものように後ろでまとめていく。Ⅵはだらだらと窓に座りながらその様子を見ていた。

 

 見られて気になるなどマリーは言わない。どうせまだ話があるのだろうから、何を言ってもこのバカが出ていくことがないことぐらい知っているのだ。

 

「ほんで、ホンマいったい何しに来たんよ。言っとくけど私の部屋に金目のもんはないで」

 

「うん。虫かごみたいにクソ狭いしね。二畳って……」

 

「殺すで?」

 

「そんなことは君がねとる間に調べたからしっとるよ。根こそぎ」

 

「根こそぎ!?」

 

「あと、君の胸にまだブラはいらんわ。それはチチとはよべへん」

 

「キシャ――――――――!!」

 

 コソ泥に好き勝手言われてしまい猫のようにブチギレるマリーを無視して、Ⅵは話を進めていく。

 

「今日やってきたんは他でもない……。うちの弟子がこまっとるようやったから力かしたろうおもてな」

 

「ああ……ネギ君のことかいな」

 

 Ⅵが明かした事情にようやく合点がいったのか、マリーはカードにハリセンを収めた。まぁ、といっても自分の部屋から不法侵入したことは納得できないが。

 

「そう!! うちの弟子が犬神君にいじめられて日々泣き寝入りしていると聞いた俺様はいても立ってもいられず、こうしてはるばると……」

 

「はいはい」

 

「ちょ、きいてぇや……」

 

 何やら語りだしたⅥを無視してマリーはいつものようにマラソンを開始するため、トレー二ングウェアを着こむ。そして、外にでるついでにネギを起こしといたろ。と思い、ネギに会いに来たとっているⅥをひきつれネギが寝ている部屋へと歩き出した。

 

 そういうたら……昨日明日菜とめとったな。ついでにバイトやって起こしたろ。と、マリーは思考しながらソコソコ上等な木材が使われた部屋の扉の前にたつ。

 

 結局昨日の訓練で疲労困憊した明日菜は、自力で寮に戻れるほどの体力を回復することができずクラレンスに担がれてこの事務所に泊まったのだった。

 

「ネギ君。あんたのバカ師匠がなんかきてんで~」

 

「マリーちゃん……俺になんか恨みでもあんの?」

 

 『バカ』というところをひどく強調しながら言い切ったマリーに顔を引きつらせるⅥ。その二人が見たものは、

 

「はふぅ~」

 

 なぜか明日菜の胸に顔をうずめるようにして満足げに眠っているネギと、 

 

「うちゅ~」

 

 寝ぼけているのかそれとも寝ぼけたふりをしているのかは定かではないが、ズボンを半分脱ぎ、パンツを露出した姿でネギの額にキスをかましかけている明日菜の姿だった。

 

「…………………………」

 

 マリーはその光景を見てしばらく無言になった後、

 

「よし異常なし」

 

「いや……マリーちゃん。現実逃避してんと早いこと起こしたったほうが二人のためやと思うけど」

 

 なぜか晴れやかな顔をしてその光景を無視したマリーに、珍しくⅥがそうツッコむのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「はぁ? おねぇちゃんににとったから、明日菜の布団にもぐりこんだん?」

 

「はい……。すいません」

 

「まったくよ。あんたのせいで最悪の目覚めだわ!!」

 

「でもせやったらなんで私のところにはこーへんかったんやろ?」

 

「あ、言われてみれば……」

 

「決まっているだろう。貴様の貧相な体ではネギの姉の代わりは務まるまい」

 

「殺すで?」

 

「マリー……私が代わりにやる」

 

「ヒメちゃんが言うとシャレにならへんな……。元暗殺組織の長の娘やし……」

 

「「そうだったの!?」」

 

「ゲル様……今日のご予定ですが」

 

 カオス……。今の犬神アンダーグラウンドサーチの食卓の様相のことである。みんな好き勝手しゃべりながら朝食を楽しんでいる。

 

「それで、貴様はどうしてここにいる?」

 

「はっ!! そんなもんきまっとるやろうが。弟子を助けるためや~」

 

「弟子?」

 

「あ、はい!! しばらく前から格闘術の訓練をしてくれている六重トウジ先生です」

 

「NO!! ネギ君、俺のことは師匠とよべゆーたやろ!!」

 

「あ、はい!! 師匠!!」

 

「ああ、ええなぁその響き! もっかいや!!」

 

「師匠!!」

 

「わんもあ!!」

 

「師匠!!」

 

 何か変なツボにはまってしまったらしいⅥとネギを見て明日菜は顔を引きつらせる。

 

「ねぇ……あの人って、もしかしてバカ?」

 

「もしかせんでもバカやで」

 

 かなりひどいことを言う二人に鼻を鳴らしながら、犬神はさっさと食卓から離れた。

 

「まぁ、そんなことはどうでもいいが……安川。依頼だ。ついてこい」

 

「へいへ~い」

 

 犬神に呼ばれてササッと朝食を掻き込み立ち上がるマリーに、ヒメは左手の袖口から取り出され『ジャキジャキ』物騒な音を立てて開閉する『首切りバサミ』を再びしまい、マリーの背中に飛びついた。どうやらついていくようだ。

 

「あ、だったら僕も」

 

「別についてきてもいいが……」

 

 今日は休日ということでついて来ようとするネギを一瞥して一言犬神はつぶやく。

 

「今回の依頼は……浮気調査だぞ?」

 

「行ってらっしゃい!!」

 

 ネギは即座に態度をひるがえし、食卓から断固として動こうとしなかったという……。浮気調査に何か嫌な思い出でもあるのだろうか?

 

 いやまぁ、十歳なら浮気調査に参加したがらないのは当然ではあるのだが……。

 

「ふふん。そんな余裕かましててええんかいなゲル君! 俺にはネギをお前に勝たせるための秘策があるんやで!!」

 

 しかし、そんな犬神たちをⅥは呼び止めた。

 

「秘策!?」

 

「ちょ、そんなのあんの?」

 

 今までゲルに負け続けたネギはもちろんのこと、昨日苦い敗北を味わった明日菜もⅥのその言葉に食いつく。しかし、

 

「いや、全然気にならないな」

 

 一番食いつくべき犬神はそういってⅥの言葉を切り捨てた。

 

「「「………………………………」」」

 

 もう唖然とした状態で固まる三人をしり目に、犬神はさっさと踵を返し部屋を出ていこうとする。

 

 それに慌てたⅥが慌てて言葉を重ねた。というか、かまってほしかったようだ。

 

「いやいや、もうこれが成功した君、俺に向かって『きゃーん』しか言えへん様なすっごい策なんやで! どうや、気になってきたやろ!! 教えたってもええんやけど!?」

 

「いや、結構」

 

「はっはは!! 犬神君、それ以上は俺が泣くさかいにやめたほうが身のためやで!!」

 

 そんな脅迫なのか懇願なのかよくわからない言葉を放ちつつ、Ⅵは話を進めていく。ちなみに彼は血の涙を流しており、明日菜とネギはⅥのことが非常にかわいそうに見えたらしい……。

 

「ふふふ!! 余裕かましてられるんも今のうちやで、犬神ゲル!! 新月の夜には気を付けることやな!!」

 

「師匠……それ捨て台詞」

 

「やっぱバカじゃない……」

 

 仮にもバカレンジャーと名高い明日菜にすらそんなことを言われるⅥに、もうネギは頭を抱えるしかなかった。

 

 ちなみに、Ⅵが先ほどにセリフを吐き振り返った時にはもうゲルの姿はなかったという落ちがつき、Ⅵがしばらく再起不能になったのだが、それは面倒なので割愛させていただく。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「弱点を探す?」

 

「そぉおおおおおおおおおおおおおおおおおや!!」

 

 再起動を果たしたⅥはそういいながら気焔を上げた。無視されたのがよっぽど悔しかったらしい。今までにないほどの燃えっぷりだ。

 

「犬神君の弱点を探してとっつかまえるんや!! ただの弱点やないで!! 致命的で、確実な、知られただけで思わず身代金払ってまうような、そんな秘密やら弱点を探すんや!!」

 

「あの……。それって、かなりひどいことなんじゃ……。しかもそれをするために家探しなんて」

 

 朝食を終えた明日菜、ネギ、Ⅵはそんな会話をしながらゲルの部屋へと向かっていた。先ほどの会話のようにゲルの弱点さがし、それをネタに脅迫し動きを封じて捕まえる。それこそがⅥの秘策であった。

 

 本当は犬神をおびき出して家の外に出させるという段取りもあったのだが、犬神はⅥのことをガン無視してさっさと仕事に行ってしまったので、その段取りはなかったことになる。

 

 都合がいいと喜ぶべきか、相手にされなかったことを悲しむべきか、いまいちよくわからないことになってしまっていたが、まぁそれは気にしないとⅥは自己完結。ずんずんと事務所の中を進む。

 

「や、やっぱりこんな非人道的なことはやめましょうよ」

 

「あほかネギ!! 勝つためやったら何してもええんや!!」

 

「ダメだ……。師匠頭に血が上って声が聞こえていない……。あ、明日菜さん止めるの手伝って……」

 

「さぁ、ネギ!! 手早く探すわよ!! 絶対あの外道ぎゃふんと言わせてやるんだから!!」

 

「あすなさぁぁああああああああああああああああああああん!?」

 

 明日菜のまさかの裏切り愕然とするネギを後目に、Ⅵと明日菜はゲルの部屋の前にたどり着いた。

 

「さて、ここやな!!」

 

「ええ、そのはずよ!! 昨日寝るときここに入ったのを見たもの!!」

 

 そういって、二人が前に立った扉は、

 

 

 

 

「「「………………………………」」」

 

 

 

 

 

 とってなし。鍵なし。何やら金属質な光沢をもつ、宇宙戦艦とかに使われていそうな自動ドア……。

 

「「って、なんでここだけSFチック!?」」

 

「だ、だいぶ前に家ごと事務所を吹き飛ばされたことがあるからその対策だって……」

 

「ほんと何してんのよあいつは!?」

 

 ネギから聞かされた何やら物騒な理由に明日菜は愕然とするが、Ⅵはそんなこと気にしない。

 

「ふふふ。ここが我が宿敵の巣……」

 

 そういってⅥはドアの切れ目をまたぐように両手を配置した後、気でめいいっぱい強化した両手を使い、力ずくでドアを開けようとする!!

 

「ふんがぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 五分後……。

 

 びくともしなかった扉の前で荒い息をしながらⅥは一言ツッコミを入れた。

 

「あかんがな!?」

 

「しらんがな!!」

 

 思わず関西弁になってツッコミを入れるネギをしり目に、明日菜は微妙に引きつった笑みを浮かべる。ネギから本気のⅥは、大陸弾道弾級の威力を持つ攻撃をしてくると聞いていたのに、その力でさえなお開かない扉にあきれているのだ。

 

「つーか俺の気を込めた力でも微動だにせぇへんってどういうことやねん!! 鉄でもないのにめっちゃ固いし!? なにこれ? アダマンチウム!?」

 

「も、もうあきらめましょうよ。犬神さんにばれたら確実に怒られますし……」

 

 扉をくまなく調べてとんでもない事実を知ってしまったⅥをしり目に、ネギはもうちょっと泣きそうになりながらⅥの袖を引っ張った。ばれたら間違いなくろくなことにならないことは目に見えているのだ。ネギがおびえるのもわかるというもの、

 

 しかし、Ⅵはあきらめなかった!!

 

「アホか!! あきらめたらそこで試合終了やで!! なぁに、ドアが開かへんのやったら違うところに道つくるのみや!!」

 

 Ⅵはそういった後、横に壁へと手を付けた。

 

「ま、まさか!?」

 

「ふはははは!! 甘いで犬神ゲル。ここの壁は普通の素材みたいヤシ、俺のパンチやったら一発や!!」

 

「やっぱり!? ダメですよ、ここ賃貸なんですから!! 明日菜さんも何か言ってくださいよ!!」

 

「やっちゃいなさい!!」

 

「明日菜さん!? あなたそんなキャラじゃないでしょう!! どうしたんですか!?」

 

 ネギのツッコミフィーバーが炸裂する中、明日菜はちょっと座った目でネギを見つめてこういった。

 

「ネギ……。外道にはね、人権はないのよ」

 

「しっかりしてください明日菜さん!! 今度人生相談に乗りますから!!」

 

 どうやら明日菜は真剣に犬神のことが嫌いになったようだった……。

 

「おっしゃいくでぇええええええええええええ!!」

 

「ああ、待って!!」

 

 ネギの制止も聞かず、Ⅵが振り上げたこぶしは容赦なく部屋の壁につきたち、そして……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「壁の中にも金属が……犬神さん。シェルターでも作ったんですか?」

 

 まるで建築物破壊用のハンマーで殴ったかのような巨大は穴が開いた壁からは、ドアと同じ材質の金属がのぞいていた……。その傍らには殴りつけた手が大変なことになっているⅥが……。

 

 そんな光景にもう言葉もない明日菜とネギだった。

 

「く、くそ。このままやったら犬神君の弱点は探れへん」

 

「い、いやもう、師匠いいですって。格闘技真剣に覚えて《戦いの歌》完璧にしますから、もういいですって……」

 

「でも、ネギ……」

 

「明日菜さん。あなたにはあとでお話があります!!」

 

 あくまで弱点を探ろうとするⅥに、ネギはフルフルと首を振りやめるように頼み込み、反論しようとする明日菜にくぎを刺した。

 

 これ以上家を粉砕されたら犬神がなんというかわからないかだ。

 

 三人がそんな風にもめている時だった。

 

「ネギ先生」

 

「「「!!」」」

 

 突如聞こえてきた呼びかけに、ネギたちは慌てて窓のほうを振り向いた。

 

その人物は二階に設置されている窓から、ヒョッコリという音が聞こえてきそうなほど気軽に顔をのぞかせていた。特徴的な緑色の髪と、能面のように動かないやけに整った顔をもっており、背中から凄まじい噴出音が聞こえるバーナーが出ている、

 

「茶々丸さん!?」

 

「え、その背中なに!?」

 

「え、ロボットやろ?」

 

 驚いたように固まるネギと明日菜の二人にⅥがツッコミを入れた。

 

「そ、そんな!! 茶々丸さんがロボットだったなんて!!」

 

「全然気づかなかったわ!!」

 

「いや、パッと見わかるやん!? 関節とか耳とかメッチャロボット臭いやん!!」

 

 今までとは立場を逆転させて漫才を始める三人をしり目に、茶々丸はある人物からの言葉を伝えた。

 

「マスターから伝言です。『ぼーや……ちょっとかわいそうすぎるから手を貸してやる。耳を貸せ』だそうです」

 

「ふぇ?」

 

「ちょっと、あんたネギを狙っているんじゃなかったの?」

 

「はい。ですがマスターは基本的に照れ屋なので本当のことをおっしゃりませんが、あれでかなり優しいお方です」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「あと、夜中にギャーギャーうるさいといっておられました」

 

「不通に安眠妨害が嫌だっただけですよね、それ。というか吸血鬼のくせに夜寝ているんですかあの人!?」

 

 あきれた声でツッコミを入れるネギを手招きし、茶々丸はネギに秘策を授けるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その夜。犬神と向かい合う明日菜とネギ。

 

 ネギの右手には茶色い封筒が握られていて、犬神はそれをじっと見ている。

 

「い、犬神さん!!」

 

「なんだ、野菜……」

 

 ネギが一歩足を踏み出し、犬神はそれを受けて立つといわんばかりに静かに気を解放していく。

 

 そして、

 

「お金払うから一撃入れさせてください!!」

 

「御意。クライアント」

 

 ゲルは即座に瞬動でネギが持っていた封筒を奪い取り、その中の金を数えた。中身は二十万。ネギが犬神の仕事を手伝い、手に入れた報酬の約半分である。

 

 そして、月明かりが照らすなか。ピタリと固まった犬神の背中にネギがポンとたたく。こうして、犬神の地獄の特訓は終了したのだった。

 

「なにかが……まちがってない?」

 

「明日菜……いまさらやで」

 

 そんな光景を見ていた二人の言葉を聞き流しながら……。

 

 

 

 

後日談。

 

「で? なんであんな面倒なことしたんよ犬神君。金で終わらしたんやったってことは、あんまり役にもたたへん修行やったんやろ?」

 

「バカを言うな安川。あのタイミングだったから僕は金を受け取ったんだ。もっと以前だったら絶対に受け取らなかったぞ?」

 

「へ?」

 

「考えてもみろ。ネギはまだ十歳だ。魔力うんぬん以前にまず体力が戦いを行うためには圧倒的に足りない。それを鍛えるために毎日追いかけっこをさせたに決まっているだろう」

 

「え?」

 

「それに《戦いの歌》をほとんど実践と同じ状況下で使えたんだぞ。Ⅵと修行するときと比べて格段に早く操作方法を習得できたはずだ」

 

「……」

 

「それに追いかけっこという遊びはなかなか頭を使うからな。追う側も追われる側も綿密に計画を立てて戦えばかなり有利に事が運べると学んだはずだ。ましてや、今回のエヴァンジェリン戦の戦場は麻帆良だ。追いかけっこで僕を探し回っただろうから、麻帆良に地理、環境にはかなり詳しくなったはず。これだけでもナギ・スプリングフィールドの呪いを解くこと以外自堕落に生きていたエヴァンジェリンとは大きな差が……。なんだ、安川?  その意外そうな顔は」

 

「いや……。意外ときちんと考えてたんやなぁって……」

 

「失敬だぞ、お前は」

 

 犬神はマリーにそういいながら紅茶を口に含んだ。

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「あのタイミングが一番、野菜から金を搾り取れる時期だっただろうからな。僕を絶対に捕まえられないと知ったら必ず、金を払って終わらせよう。と誰かが提案するはずだと……」

 

「私の感心、返せやボケ!!」

 

 犬神アンダーグラウンドサーチに軽快なハリセンの音が響き渡ったという。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それから数日たち……。ほとんど満月となりつつある、月を見上げ、美しき金色の鬼は不敵に笑う。

 

「フフフ。もうすぐだ。もうすぐこの封印を解くことが……」

 

 そういって、彼女は自分の体を見回す。まるで鎖が全身に巻きついているかのような魔力の檻。彼女(オニ)はそれを握りつぶさんとばかりに握りしめる。

 

「待っていろ……ボーヤ。決戦の日は……は、は、はんっくしょん!!」

 

 しかし、彼女がまとっていたシリアスな雰囲気は鼻水やら唾液やらをまき散らす盛大なくしゃみによって破られた。

 

 吸血鬼自身のくしゃみによってだ。

 

「マスター。おうちに入ってください。まだお風邪をひいておられるのですから」

 

「うん。そうする」

 

 熱のせいでちょっとだけうるんだ目をこすりながら、彼女は従者の言うことを素直に聞き、垂れた鼻水をティッシュでふき取りながらログハウスの中へと入った。

 

「申し訳ありませんマスター。私がもう少し気をつけていれば……」

 

「いうな、茶々丸。私の健康管理がずさんだったのがいけなかったのだ。は、は、はっくしょん!!!」

 

「マスター。花粉症のお薬です……」

 

「うう、死ぬ。鼻水で窒息死する……」

 

 お、鬼は不敵に笑いながら……自分の呪いを解くために戦う前に、自分の病気を治すために戦うのだった!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 早朝。麻帆良学園世界樹前にて。

 

 鋭い風切り音とともに、とんでもない速さで拳が振るわれていく。

 

「しっ!!」

 

 鋭い呼気とともに、打ち出されるⅥの拳にネギは必死に食らいつき、体をひねることでよける。しかし、

 

「アホ、フェイントや」

 

「!!」

 

 突きに隠れるようにして放たれていた、下回し蹴りがネギの顔面を容赦なく打ち抜きかける!!

 

 その時、誰かがネギの服の襟をつかみ無理やりその蹴りの軌道からネギの体を外した!!

 

「大丈夫ネギ!!」

 

「あ、ありがとうございます明日菜さん!!」

 

 ネギを引っ張った人物は片手に巨大且つ、きれいに装飾が施されたハリセンを持つツインテールの少女。神楽坂明日菜。

 

 彼女も犬神の訓練が終わった後、Ⅵを師事して格闘術の鍛錬にいそしんでいた。どうやら今回の吸血鬼戦に参戦するようである。

 

 彼女はネギを後ろに放り投げると同時に、ハリセンを振りかぶり、Ⅵへと殴りかかる。しかし、Ⅵはタカミチと同等の実力を持っている怪物である。訓練を始めて間もない少女の攻撃を喰らうわけもなく、あっさりとそのハリセン攻撃をよけ、伸ばされた彼女の手を取り、関節を決め、天高くぶん投げた。

 

「きゃぁあああああああああ!!」

 

「失点やで明日菜ちゃん。素人があんま大ぶりな攻撃したらスキつくるだけやゆーたやろ?」

 

 Ⅵがそういって、ネギのほうを振り返った時、

 

「来れ雷精 風の精!! 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐…… 」

 

 明日菜を投げたことにより若干のタイムロスをしたⅥ。その隙をついて完成させた今のネギが使える魔法で最強の威力を誇る魔法を、ネギは詠唱し終えていた。

 

「やば!?」

 

「いっけぇええええええええ!! 雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!!」

 

 巻き上がる、雷をまとった暴風。それがまるでレーザーのように一直線にⅥへと延び、彼の体を飲み込もうとする……だが!!

 

「はっ!! なーんて、いうと思ったんかいな!!」

 

 瞬間、彼の拳にすでに貯められていた気が解放され、ネギの魔法をあっさりと迎撃した!!

 

「ふきとべぇえええええ!! Ⅵインパクト!!」

 

 そして、相殺される魔法と気弾。凄まじい轟音。巻き上がる爆風。Ⅵはその中でも平然と仁王立ちしネギの様子を確認しようとした。その時!!

 

「『戦いの歌(カントゥス・ベラークス)』!! 」

 

「!?」

 

 爆風に紛れ込んだネギは、昨日までは完成させていなかった戦いの歌を完全に制御しながら、Ⅵへと強力な飛び蹴りを放ってきた!!

 

 しかし!!

 

「はぁ!! 不意打ちっていう選択肢はええけど!!」

 

 そういって、Ⅵは瞬時に身をかがめネギの足を回避。そして目標を失い泳ぐネギの足を捕まえた!

 

「モーションがでかすぎんで。正面からやのうて後ろからやるべきやったな」

 

 最後の攻撃をあっさり回避されてしまったネギ。しかし、その顔に焦りは見えない。

 

「いえ……これで!!」

 

 そして、体をひねったネギはⅥの体へと抱き着きその動きを阻害する!!

 

「なっ!?」

 

「チェックメイトです!!」

 

 そして、Ⅵの後ろから爆炎を切り裂いて飛び出してくる人物が一人。左右色違いの瞳に、なびくツインテール。手には巨大なハリセン!!

 

「でりゃああああああああああああ!!」

 

 女の子らしからぬ大きな気合いの声とともに、彼女のハリセンはⅥの頭をとらえ、パン!!という軽い音を立てた。

 

「私の脚力なめてんじゃないわよ!!」

 

「うわぁ……マジで? 本気で負けてもうたで……」

 

 素人コンビに負けたことでショックを受けたような、弟子の成長がうれしいような……。Ⅵをそんな複雑な気分にしながら、最後の訓練は終わりを告げた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 荒い息をして座り込むネギと明日菜。そんな彼らにⅥは苦笑を浮かべつつ、近くにあった自販機から買ってきたスポーツドリンクを投げ渡す。

 

「ほれ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「あんた……。こんなに強かったのね。普段あんなにバカなのに……」

 

「明日菜ちゃん。俺のことどう思ってんの?」

 

 自分の評価に低さに若干ショックを受けながら、Ⅵは肩をすくめる。

 

 もっとも今の彼をⅥと呼ぶのはいささか語弊があるだろう。彼の姿は怪盗用の悪目立ちする格好ではなく、ヘアバンドをつけてジャージを着た普通の少年の服装だったからだ。

 

 今の彼は六重トウジ。麻帆良学園中等部所属のただの学生である。

 

 まぁ、男子たちの間では女子中等部の武道四天王と対なす、麻帆良武道猛将などといわれているので、普通の学生というのはいささか語弊があるが……。

 

「ほんで、いちおう短い間で詰め込めるもんは全部詰め込んだつもりやけど……。お前としてはどうやねん、ネギ。あの吸血鬼に勝てそうか?」

 

 Ⅵ……トウジの珍しく真剣な声音での問いかけ。ネギはそれに少し驚きながらも頷いた。

 

「勝ちます。魔力量も経験値も……そして生物としての格も、何もかも勝てる要素がない勝負ですが……勝って見せます!!」

 

「……ええ覚悟や。見違えたでネギ」

 

 ネギのはっきりとした答えに、満足したのかトウジは嬉しそうにネギの頭をなでる。そこにはちゃんとした師弟関係が見て取れて、

 

「あんたたち、ちゃんと弟子と、師匠やってんのね……。そっちのほうが意外だったわ」

 

「「どういう意味や(ですか)!?」」

 

 明日菜にそんな失礼なことを言われてしまい二人のとも、若干のけぞりながらツッコミを入れた。

 

 準備は万端。気合は十分。あとは戦いのときがくるをの待つだけ……。

 

 

 

 

 

 

そのはずだったのだが。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 時間は流れて……。満月の夜……の前の夜。

 

 マリー、ネギ、明日菜は突然犬神に呼び出しをくらい事務所へと集合させられた。

 

「ちょっと……。いったいなんなのよ。私たちに用事って」

 

「あの犬神さん。明日の対決の準備で僕も少し忙しいんですが……」

 

 若干呼び出しに不機嫌そうな顔をするネギと明日菜。それはそうだろう。マリーから命の危険はないといわれてはいるが、明日の夜は間違いなく死闘となる。彼らも彼らなりの準備を行い万全の態勢で臨みたいはずだ……。だが、

 

「黙れ。叩き潰すぞ」

 

「「…………………!!」」

 

 二人は犬神の一睨みによって沈黙を余儀なくされた。不機嫌なのは犬神も同じだったらしい。

 

「あははははは……。ほんで犬神君。こんな時間に集合かけるなんてどないしたんや?」

 

 ガタガタ震えながら泣き始める二人を隅へと逃がし、マリーは冷や汗交じりに犬神に問いかける。さすがは長年の助手!! あの、犬神に話しかけるなんて!! そんな感じの表情で、二礼二拍手一礼する明日菜とネギ。

 

 私は神社か!? 安川大明神か!? マリーは激しくそうツッコミを入れたくなったが、さすがに不機嫌な犬神の目の前で漫才を繰り広げるのは気が引けたので、全力で本能を抑え込む。

 

「なんだ、ツッコまんのか? つまらんな」

 

「どないせぇっちゅうねん!!」

 

 しかし、犬神から自分の努力を全否定されてしまい結局は鋭いツッコミを入れることになってしまうのであった……。

 

 閑話休題。

 

 そんな騒ぎはなかったことにして、犬神はさらっと要件を言った。

 

「エターナルロリが風邪をひいたらしい。このままでは契約が履行できない。お前たち。ちょっと行って看病して来い」

 

「え? 風邪?」

 

「あの……私たちあの子の敵なんだけど?」

 

「何か文句でもあるのかジャリ二人?」

 

「「ありません……」」

 

 人殺しの視線を向けてくる犬神に敬礼する二人。いつか犬神を倒すといっていた明日菜だったが、彼女が犬神に逆らうことはもう不可能といっていいだろう。

 

 ちなみにマリーは?

 

「毎年毎年気をつけぇゆーとんのに……。またゲームで夜更かししよったな? あ、茶々丸? 悪いんやけどそっち行ってええ? あんた一人やったら看病大変やろ。私もそっち行くわ」

 

 意外と手際よくエヴァの看病の準備をしていた……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 学園都市のはずれにある森の中。そこにある小さなログハウスがエヴァンジェリンのすみかである。学園の魔法先生や魔法生徒からは吸血鬼のすみかとして敬遠され、だれも近づこうとしないのだが……。いま、この家の中は結構賑やかなことになっていた。

 

 珍しいことに、この家に三人もの客人が来たのだ。

 

「ホンマにもう!! あんたいっつもこの時期になると体調悪くなるんやから、体調管理には気をつけやって去年も一昨年もいったやろ!! 何してんの!!」

 

「うう……すまないマリー」

 

 そんなことをいながら、マリーが差し出したスプーンから弱弱しくおかゆをすするエヴァ。そんな光景を見た、ネギは、

 

「エヴァンジェリンさんって……結構子供みたいですよね」

 

 一生懸命看病をしたのだが、性別の違いからほとんど役立たずとなってしまったネギはそんなことを言いながら新しい氷嚢を作ってくる。

 

「見た目子供な分余計にね……」

 

 ひらひらと体温計をふるい、少しそれを冷やしてからエヴァンジェリンに渡す明日菜。先ほど汗をびっしょりかいていたエヴァンジェリンの服を変えたり汗を拭いたりしたのは彼女だったりするのだが、その間ものすごく暴れられたのでちょっとしたキズをいくつも作っていたりする。

 

「ほう……死にたいらしいな貴様ら!!」

 

「ほら、あばれたらアカン!!」

 

「うう~。明日覚えていろよ~」

 

 余計なことを呟いていた二人を目ざとく見つけたエヴァは、若干の怒りとともに立ち上がろうとするが、マリーの手によってあっさりベッドに戻されてしまい、恨みがましい視線を二人に送来るだけで終わった。

 

 どうやら本気で、風邪にかかってグロッキーになっているようだ。

 

「本当にありがとうございます、マリー様。私も少し用事があったので助かります……」

 

 今まで一人でエヴァの看病をしていた茶々丸はそういうと、制服を着こみペコリと一礼をした。

 

「つてのある大学病院に薬をもらいにいってきます……。本当なら昼間のうちに行っておくべきだったのですが、マスターのことが心配で離れることもできず……」

 

「ああ、ええよ。私もこの子に早いこと風邪治してほしいしな。いってき」

 

「了解しました。マリー様なら安心して任せられます」

 

「安心できないものも何人かいるがな……」

 

「マスター……そんな照れ隠しを」

 

「貴様、茶々丸!! なおったら、必ず博士に脳みその点検してもらうからな!!」

 

 無表情のまま頬を抑える茶々丸に、エヴァはちょっと泣きそうになりながら怒鳴り声を上げた。そんな主から逃げるように……しかし、かなり楽しそうにさっさと茶々丸は家を出ていく。なんやかんやで人間臭くなりつつある彼女だった。

 

「といってもやることほとんどないけどな~。服も変えたし、汗も拭いたし、体温は計ったし、おかゆも食べたし、あとは寝るだけやな、エヴァちゃん。どないする? 隣で子守歌でも歌ったろか?」

 

「さすがにそこまで子供ではないわ、馬鹿者……」

 

 熱の為か羞恥心の為か。とにかく若干顔を赤く染めて、文句を言ってくるエヴァにマリーは肩をすくめた。

 

「はいはい。ほな私ら下におるし、なんかあったら呼んでや」

 

 そういってひらひら手を振りながら、部屋を出ていくマリーたち。しかし、マリーは部屋を出てすぐに扉の前で待機した。

 

「どうしたんですか?」

 

「そんなところで、止まって」

 

「いや……なんかあったらすぐに助けられるようにな」

 

 平然とそんなことを言ってのけるマリーに、ネギと明日菜は感嘆のため息をついた。

 

「本当に友達思いね」

 

「マリーさんってすごいですよね……。エヴァンジェリンさんと友達っていうのもすごいですが、犬神さんの助手して、うちのクラスのツッコミ役して……」

 

 そこまで言ってネギはようやく気付く。もしかして、うちのクラスのメンバーで一番すごいのってエヴァンジェリンさんや明日菜さんじゃなくて、マリーさんなんじゃ……。

 

「マリーさんって……もしかして超人ですか?」

 

「筋肉バスターなんてうたれへんよ?」

 

「「え!?」」

 

「私を何やと思っとるんや、二人とも!?」

 

 そんなマリーの軽やかなツッコミを受けて、二人はなぜか恍惚とした表情になる。

 

「完成されたタイミング」

 

「ボケにあわせて調節された見事なツッコミの勢い」

 

「もう芸術ランクね」

 

「犬神さんが積極的にボケをかましてツッコミを受ける理由がわかります」

 

「二人とも、ずいぶんうちのボスに浸食されてる気がすんで……」

 

 もはや元のキャラが形も見受けられない二人の行動に、マリーはやや頬を引きつらせる。

 

 そんな感じに、エヴァンジェリンの看病は続いていく……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それからしばらく経ったとき、

 

 そろそろ氷嚢が解けてしまっただろうと思ったネギと明日菜は、二階に上がってきてマリーがドアの前にいないことに気づいた。

 

「あれ? マリーさんは?」

 

「中に入ったんじゃない?」

 

 二人はそういって、エヴァンジェリンの寝室に入った。そこで……。

 

「あ……」

 

「寝ちゃっていますね」

 

 二人が寝室を除いた時、マリーとエヴァの二人は安らかな寝息を立てて眠っていた。エヴァはいつの間にか先ほどとは違うパジャマを着て、布団で横になっている。マリーはそのベッドにもたれかかりすやすやと寝息を立てていた。

 

 あたりには、おそらく再び汗でグッショリになってしまったのだと思われる先ほど明日菜が着替えさせたパジャマや、ぬるくなった氷嚢。そして、汗を拭きとったと思われるタオルが散乱していた。

 

「うなされていたんでしょうね、エヴァンジェリンさん」

 

「私たちも呼べばよかったのに……」

 

 本当ならマリーもそうしたかったのだろうが、あいにくとエヴァがうなされながらうわごとで、《千の呪文(サウザンドマスター)》の名前をつぶやいたため、彼女たちを呼ぶのは控えたのだ。エヴァとネギの父親の間に何があったのかは知らないが、少なくともネギには聞かれたくないだろうな、と思ったマリーなりの配慮なのである。

 

「それにしてもこの二人本当に仲がいいですよね~。クラス担任としてはうれしい限りです」

 

「たまに長谷川さんと一緒に話している時もあるみたいよ? マリーはほら……賑やかで明るくて、裏表のない子だからね……」

 

「うちのクラス全員がそんな感じでは?」

 

「ま、マリーはさらに別格なのよ!!」

 

 勝手に別格扱いにされてしまったマリーは若干うなされている気がする。それもそうだろう……。ただでさえ能天気さは麻帆良一といわれている3-Aの中ですら別格といわれてしまったのだ。これで彼女が起きていたら、大いにツッコミを入れたことだろう。

 

「じゃ……氷嚢変えたら私たちもここにいよっか」

 

「はい!」

 

 そういって、エヴァの濡れタオルを回収し新しい氷嚢を彼女の頭に乗せるネギたち。その後、彼らはじっとエヴァがうなされないか見守っていたのだが、何分彼らは10歳と中学生。すぐに眠くなってしまい、マリーの隣で彼女と同じようにすやすやと眠りの世界に入り込んで行ってしまった。

 

 そして、それからしばらくして帰ってきた茶々丸はその光景を見て、

 

「………」

 

 無言で《ますたーの成長記録》に記録した後、優しく彼らの体に毛布を掛けるのだった。

 

 

 

 後日談というか今回のオチ。

 

「ああ……マスター。あんなにマリー様と仲良くして……。で、ですがもしかしたらそっち関連の関係を持っておられるのでしょうか? そうでないとあれほどの仲の良さの説明が……。マスター。それはいけません。私的にはありといえばありなのですが、やはり同性同士というのは非生産的ですし……。せめて、マリー様は本妻においてあとひとり、お婿様を取っていただかないと……」

 

「ちゃ~ちゃ~まる~?」

 

「あ、おはようございますマスター。どうされたのですか? そんなに憤られて?」

 

「きさまというやつは~!! いったいどんな経験をしたらそんな風になるのだ!! ええい、巻いてやる! 巻いてやる~!!」

 

「ああ、マスターそんなご無体な~」

 

「何やっとるん二人とも? はよ、いかな学校に遅刻すんで」

 

「「寝坊したぁああああああああああああああああ!!」」

 

 ガイドノイド。エヴァンジェリンの従者……絡繰茶々丸。最近へんな方向に人間臭くなりつつあるちょっと変わったロボットである。

 

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