とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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9話・深夜の激闘1

「杖持った?」

 

「持ちました!!」

 

「防具持った」

 

「ばっちりです!!」

 

「小細工ようの道具は?」

 

「ぬかりありません!!」

 

「ほかは……」

 

「いい加減にしろ」

 

 麻帆良の暗闇の中。大停電によって月の明かりしか光がなくなってしまった麻帆良に、一軒だけ電気がついた事務所があった。

 

 犬神アンダーグラウンドサーチ。人に厳しいエコ発電によってこの事務所にはいつでも明かりがともっている。

 

 そんな明るい玄関先では、何やら物々しい武装で身を固めたネギと、その少年をぺたぺた触りながら何やら心配そうにしている明日菜の姿があり……。

 

 いつまでも不安そうにしている明日菜に対して、いいかげんにエヴァとの待ち合わせ場所に行きたい犬神は、空手チョップを喰らわせ、明日菜の頭をまるで宇宙人のように平らにし、その眼を飛び出させた。

 

「って、あすなさぁああああああああああん!?」

 

「安心しろ。みねうちだ」

 

「どの辺が!?」

 

「死んで無いだろ?」

 

「漫画だから死にませんけど、通常の人間なら即死ですよ!!」

 

「あいにくここは小説だから漫画の原理は関係ないな」

 

「屁理屈コネないでください!!」

 

 結局いつもの漫才に戻る二人をしり目に、マリーは苦笑いを浮かべながら明日菜の頭を横から押し、元の形に戻した。

 

「こ、ここはどこ? 私は高畑明日菜?」

 

「明日菜しっかりして……。籍入れるどころか告白すらしてへんやろ?」

 

 記憶喪失ではなく都合のいいように記憶の改ざんをしている明日菜にツッコミを入れつつ、マリーはため息をついた。

 

「エヴァちゃんのことやからそんな無茶はしーひんとは思うけど、あんま危ないことになるんやったら決闘なんてすぐやめるんやで」

 

「何を言っている安川。そんなことをされたら僕が違約金を払わなくればならなくなるではないか!!」

 

「君はホンマそればっかりやな!?」

 

 まぁ、そんな風に騒がしい犬神アンダーグラウンドサーチ。今日はとうとう……エヴァンジェリンとの決闘の日である。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 世界樹広場前。そこに長い金髪をなびかせ空をふわふわ浮いている、怪異の王が佇んでいた。

 

 吸血鬼真祖。最強の種族の一角に数えられる彼女の名前は……エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)人形使い(ドールマスター)不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)悪しき音信(あしきおとずれ)禍音の使徒(かいんのしと)童姿の闇の魔王(わらべすがたのやみのまおう)。無数の異名を誇る……世界最強の吸血鬼である。

 

 そんな彼女はいま苛立っていた。

 

 今から始まる決闘に……ではない。あいにくと彼女は決闘の一つや二つ程度で精神状態に変化をきたすような柔い経験を積んでいない。では、決闘を挑んできた相手が宮本武蔵よろしく、遅れているのか? と、いわれるとそういわけでもない。現在は決闘が始まる時刻の三十分前であり、まだまだ時間的には余裕があるほうだろう。

 

 では、なぜ、彼女はここまで機嫌が悪いのか? その答えは彼女の周りにあった。

 

「なんで屋台が出とるんじゃああああああああああああああああああああああ!?」

 

「マスター。落ち着いてください。口調が変わっています……」

 

 煌々と照らされる自家発電による照明。もうもうと立ち込める焼きそばといった屋台料理の臭い。そして、騒がしく響き渡る客寄せの声。

 

「らっしゃいらっしゃい。焼きそばがおいしいよ」

 

 クラレンスが普段めったに聞けないような口調で客の呼び込みをやっている。

 

「ったく……なんで俺らがこんなことしなくちゃならねぇンだよ」

 

「仕方ないですよ……。エヴァンジェリンさんたちの戦いを監視するならこういう形状を取らない限り却下だって犬神君に言われたんですから……」

 

 やたら可愛らしいエプロンをつけたジョニーとレイジーが焼きトウモロコシを焼いている。

 

「まったく!! ネギ君にもし無茶をしてみろ!! このわにゃしがしぇいぎのてっちゅいを~」

 

「ガンドルフィーに先生飲みすぎです!! さっきまで職務中って言って飲んでいなかったのにいつの間に一升瓶開けたんですか!?」

 

 なにやら、カウンター席が作られた焼鳥屋の屋台では顔を真っ赤にしたガンドルフィーにと、瀬流彦が騒いでいる。

 

「私のどこがいけないっていうのよ~!! やっぱりこの年になったら私は年増なの!?」

 

「刀子……少し落ち着け……」

 

 その隣ではおそらく失恋したのだと思われる刀子に絡まれた若干困っている神多羅木がいて、

 

「ふぉふぉふぉふぉ……にぎやかでいいのぉ」

 

「そうですね~」

 

 世界樹広場に設置された、いくつかの長椅子の一つを占拠した近右衛門と高畑は二人とも浴衣を着こんでおり、うちわを片手に将棋を打っている。

 

「どこの夏祭りだ!?」

 

「ちなみにこれで上がった収益の80パーセントは犬神君の懐に入るわ」

 

「楽しそうだなぁ!! リリィ!?」

 

 にやにや笑いながら、リンゴアメを差し出し『食べる?』と聞いてくる元クラスメイトにエヴァンジェリンは怒声を上げた。この女の名前は前園リリィ。レイジーたちと同じく個性的な先生がそろっている(悪く言えば癖が強すぎる)初等部の国語教師だ。趣味は仕事をさぼって麻帆良を散歩すること。そのため彼女の授業の八割が自習である。エヴァとは同じ時期に麻帆良中等部で学生生活を送った一応の同級生だ。魔法先生に分類されているが、めったに働かないため実力は未知数。

 

「あら。私はあなたがからかわれる姿が大好きなのよ? 楽しいに決まっているじゃない」

 

「だから私は昔からお前が大嫌いだったよ!! それよりいったいこれはどういうことだ!?」

 

「やぁねぇ。いい加減気づきなさいよ。大体犬神君のせいよ?」

 

「わかっているよ!! でも聞かずにはいられないだろ!?」

 

 まぁ、つまりはそういうことだ。おそらく犬神は万が一の事態になった時、魔法先生と魔法生徒をエヴァとネギの戦いに介入させる気なのだろう。今回の犬神はエヴァとの契約によって戦いの参戦を禁じられている。もし万が一エヴァが勝っても、彼はネギを助けることができないのだ。

 

 だからこそ……祭りを装った姿で魔法先生を一点に集めた。そうすることによって即座に戦力が動かせるように。

 

「ふっ。まぁいい。どのような妨害をしてこようが、勝つのは私だ!!」

 

「……? 何を勘違いしているのかは知らないけど……まぁ頑張ってね?」

 

 何やら涙目でそんなことを言ってくるエヴァに首をかしげながらリリィはその場を離れた。

 

 

 

ちなみに、リンゴアメはエヴァの手にしっかりと握られていた……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「またせ……。なんだ、やはりエターナルロリではないか?」

 

「う、うるさい!! 待っているあいだ暇だったんだよ!!」

 

 決闘開始十分前にネギを連れてきた犬神は、いつの間にやら屋台料理を大量に買い込み、お面まで買っていたエヴァを見つめてやれやれとため息をついた。

 

 若干顔を赤くして、猫のように威嚇するエヴァにネギと明日菜は激しく脱力する。こんなのと戦うために自分たちは犬神とⅥから地獄の特訓を受けたのか? と……。

 

「おお、ネギやんけ! どうや、決闘まで時間もあるみたいやしお前もこっちで焼きそばくわへん?」

 

「決闘前の人物にかける言葉じゃないことに気づけ!!」

 

 そんな風に脱力していたネギたちに声をかけてきたのは、怪盗の姿ではなく学生の時の姿をしたⅥ=トウジである。そしてその後ろには見たことがない男子生徒が、三白眼になりながらⅥにツッコミを入れていた。

 

「あの、後ろのかたは?」

 

「ん? ああ、こいつは俺と犬神君のクラスメイトで……」

 

「魔法生徒兼少年探偵を務めさせてもらっている猫谷(ねこだに)コースケだよ。噂はかねがね先生に聞かせてもらっているよ、ネギ君。なかなか優秀な魔法使いだとね」

 

 そういってネギに握手を求めてきたのは、蝶ネクタイをしめた犬神よりよっぽど少年探偵らしい少年、猫谷コースケ。《燃える天空(ウーラニア・フロゴーシス)》を使いこなすことができる麻帆良の魔法生徒の中では最強とうたわれる天才である。

 

「ふん。イエダニ君ではないか? 普段図書館にこもって修行しているお前が出てくるとはな。おおかた司書に何か言われたか?」

 

「僕の名前は猫谷だがね!?」

 

 そして、犬神ゲルの永遠のライバル(自称)その二である……。つまりは全く相手にされていないかわいそうな人二号である。

 

「まて!? 今ものすごい失礼なこと言われた気がするぞ!?」

 

「薬はほどほどにしておけ」

 

「やってないぞ、そんなこと!!」

 

 ギャーギャーうるさく騒いでくる猫谷を完全に無視しながら、犬神はエヴァに歩み寄った。

 

「さて、セッティングは果たした。前金をもらおうか?」

 

「騙した……の間違いだろ? これほどの魔法生徒や先生を集めて……」

 

「……何を勘違いしているのかは知らないが、僕がこいつらを集めたのは、あくまで後々知らせなかったことであちらとの契約を反故にされるのを恐れたからだ。今回の決闘でこいつらに手を出すように言うことは絶対にしない」

 

「……信用できんな」

 

 不信感を隠そうともしないエヴァの視線に、犬神は少しため息をつきながら

 

「エヴァンジェリン……。確かに僕は外道で、金の亡者だ。だが……」

 

 いつものように眼鏡を輝かせる。

 

「僕はプロフェッショナルだ。依頼人に嘘をつくようなまねはしない」

 

 その言葉にある重みと真剣さを感じ取り、エヴァは少し目を丸くした後……ため息をついて警戒を解いた。

 

 最近平和ボケをしていたか? 私の目も曇ったものだ……。

 

 エヴァは少しだけ反省をし、そして茶々丸に指示をだし、金が入った封筒を犬神に渡させる。

 

「前金の50万だ。決闘が終わり次第報酬を払う」

 

「確かに。受け取った」

 

 封筒の中身を確認した犬神はそういうと、さっと踵を返しその場を離れた。どうやらもう彼女たちに用はないらしい。相変わらず態度がはっきりとした奴である。

 

 エヴァはマントをひるがえし、世界樹広場の中央に立った。

 

「さて時間だ。開戦と行こうか。ぼーや」

 

「エヴァンジェリンさん……。絶対に負けませんからね!!」

 

「マスターはこの日のために準備を重ねてこられました。負ける道理がありません」

 

「私たちだって準備は万全よ! 負ける気なんてこれっぽっちもないんだから!!」

 

 それぞれに鋭い視線を交わしつつ、エヴァとネギ・茶々丸と明日菜は向き合った。

 

 いま……決戦の火ぶたが切って落とされる!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「さぁ、始まりましたエヴァンジェリンVSネギ先生!! 実況はわたくし安川マリーがお送りします。そして解説は?」

 

「解説の龍宮真名です。ちなみに解説になったのはギャラがよかったからです」

 

「なおこの放送は有料です。聞きたい方は最寄りのATMから、犬神アンダーグラウンドサーチ口座に二千円ふりこんでください」

 

「「「「なんでだよ!?」」」」

 

 最終的にツッコミでしめられた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 満月の明かりが広場を照らす。

 

 向かい合うは二人の幼子。

 

 一人は、実年齢六百歳を超える、人類を超えた最強種『吸血鬼真祖(ハイ・デイライトウォーカー)』。数多の二つ名を持ちその性は凶悪といわれ、史上最高の賞金額を誇った人物。エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。

 

 対するは見た目通り、年齢は十歳。メルディアナ魔法学校を首席で卒業した天才児。魔法世界で起こった大戦終結の立役者として知られる、《英雄》ナギ・スプリングフィールドの息子。ネギ・スプリングフィールド。

 

 最古の賞金首と、次代の英雄の激突がいま……始まる!!

 

「まぁ、その割には周りに緊張感がなさすぎると思うのだがな……」

 

「あ、あはははは……。す、すいません。犬神さんがこんなことにしちゃって」

 

「いや。ボーヤが謝る必要はない。文句は後でちゃんと犬神にいっておく」

 

「よろしくお願いします」

 

 周りに展開する日本独特のお祭り風景のせいで、いまいち緊張感には欠けていたが……。

 

「さぁて始まってもうたね、たつみー。たつみーはこの戦いどう見る?」

 

「マリー。釘宮とかぶるからその呼び方はやめろといっただろう……。そうだな。魔力量から行ったらほぼ互角といったところだろう。エヴァンジェリンは満月により力がまし、学園結界のダウンによって電力に変換されていた魔力も戻ってきたとはいえ、所詮はいまだに封印状態。全快というわけではないだろうからな。まぁ、それでも一般魔法使いと比べたらお話にならないような強大な魔力を保有しているわけだが……。対するネギ先生は十歳とは思えないほど強大な魔力を持っている。流石は英雄の息子。『バカ魔力』と呼ばれたサウザンドマスターの息子だといっておこうか。しかし、それでも十歳の子供の魔力だ。きちんと成長すればサウザンドマスターに勝るとも劣らないものとなるのだろうが、まだ発展途上の彼ではせいぜい現在のエヴァンジェリンと同等の魔力程度しかないといったほうがいいだろう」

 

「ほな、互角の戦いになるってことかいな?」

 

「いや。経験値の差は明白だ。ネギ先生もここ最近はかなり頑張ってきたようだが、エヴァンジェリンにはそれを超える『600年』という規格外な時間をかけて積んできた経験値がある。熱くなりさえしなければ、ネギ先生など軽くひねることができるだろう」

 

 つまり、戦いの専門家の龍宮から見てもこの戦いは絶望的な戦いなのだろう。

 

「だがそれは……」

 

「うわ!? 犬神君!? いつの間にこっちきたんや!?」

 

 そんな辛気臭い雰囲気を醸し出す龍宮とマリーの中央に、いつの間にか犬神が出現していた。

 

 どうやら彼も解説席で試合を観戦するつもりらしい。

 

「エヴァンジェリンのペースさえ乱せればネギにもまだ勝機があるということだ」

 

「なんなんその自信? 勝算でもあるん犬神君?」

 

「ああ……とっておきを渡してある」

 

 フフフフフフフ……。ドス黒い笑みを浮かべてほくそえむ犬神。これには、マリーだけではなく会場で解説席を見ていたほかの魔法生徒や魔法先生たちもドン引きしたという。

 

「それにしてもなかなかいい体をしているな、龍宮とやら。僕の事務所で助手をしないか?」

 

「え……」

 

「フフ。私は高いよ?」

 

「あれ? 私の衣食住がいつの間にかピンチ迎えとる!?」

 

 ついでにマリーの雇用も危うくなっていたりするが、まぁそれはどうでもいい話だろう。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「周りがうるさいがそろそろ始めるとしよう。まずは小手調べだ……。茶々丸」

 

「はいマスター」

 

 解説席のうるさい声を完全に無視して(若干顔が引きつってはいるが)エヴァンジェリンは自分の従者に命令を下す。

 

 茶々丸はその命令に呼応し、足に内蔵されたモーターやら何やらをフル回転させ、とんでもない速さでネギを肉薄する!!

 

 だが……。

 

「私のこと忘れてもらっちゃ困るわね!!」

 

「!?」

 

 今まで三白眼で祭りの様子を見ながら『これ全部ネギとおんなじ魔法使いなの?』若干のカルチャーショック(あってる?)を受けていた明日菜がだったが、これでもちょっと前からネギと同じ訓練を積んできているのだ。茶々丸の攻撃にはしっかりと反応。カードから取り出したハリセンをもって茶々丸の攻撃を迎撃した!!

 

「流石です。明日菜さん……でも」

 

 振るわれるハリセンはかなりの速度。非殺傷どころか『マジでダメージはいんのこれ?』といわんばかりの武器ではあるが、振るわれた速度が速度である。魔力で強化された明日菜の膂力で発生した剛力によって振るわれたハリセンは、それなりの威力をもって茶々丸に襲い掛かった。

 

 しかし、魔力も気も使えない茶々丸はそれを補うための『超五感(ハイパーセンサー)』と『古今東西の格闘術格闘術・基礎~奥義編』のソフトがインプットされている猛者である。

 

 茶々丸は完全にノーマークだった明日菜からの攻撃にも、慌てず騒がず冷静に対処する。

 

 訓練したとはいえ所詮は素人。威力重視のため大振りかつ、横なぎになっていたハリセンを、身を低くすることで躱し、茶々丸は明日菜に向かってさらに距離を縮める。

 

 だが、

 

「フェイ……ントっ!!」

 

「!?」

 

 即座にハリセンを投げ出し、カードの戻した明日菜はそこから体に重心を器用に入れかえ、明日菜に近づいていた茶々丸に痛烈な蹴りを叩き込んだ!!

 

「確かに私はただの素人だったけど、教えてもらったのは六重君よ。弱いわけがないでしょ!!」

 

「……なるほど。申し訳ありません少し見くびっていました」

 

 身を低くしすぎていたせいで、明日菜の蹴りを物理的にかわすことが不可能になってしまった茶々丸は仕方なく明日菜の蹴りを受け止め、自分から後ろに跳ぶことで何とかその衝撃を回避した。

 

 しかし、これによってふたたびネギとの距離は開く。前衛の役割である『魔法使いの詠唱の阻害』ができない。

 

「マスター。申し訳ありません。少し時間がかかりそうです」

 

「構わない。もともと、そんな安い形で決着をつけようなどとは思っていない」

 

 エヴァはそういうと同時に無詠唱による魔法を発動、詠唱を開始していたネギに向かって魔法の射手を打ち込んだ!!

 

「 魔法の射手・連弾・氷の17矢!!」

 

「くっ!! 明日菜さん!!」

 

「任せなさい!!」

 

 しかし、ネギはいまだに詠唱を続け明日菜はそれを守るために答える。

 

 しかし、その回答は不正解。

 

「なんだ……もううわりか?」

 

「え?」

 

 エヴァンジェリンがそんなことを呟き、明日菜がそれに驚きの表情を見せる。そして、

 

「な!?」

 

「覚えておけ。魔法の射手はある程度コントロールが効く。私ほど熟練したものになればお前をよけてボーヤだけ狙うことなど造作ない」

 

 明日菜のところだけを大きく迂回し、そのすべてがネギへと直撃! あたり一帯を煙で覆い尽くした!!

 

「うそ!? ネギ!!」

 

「ふん。つまらん」

 

 慌てて着弾した方向へ走り出す明日菜を見て、エヴァは少しだけ鼻を鳴らす。

 

 奴の息子ということで少し期待をかけすぎたか……。所詮は十歳のガキということだな。

 

 エヴァンジェリンは内心の失望を隠そうともせず、頭を振った。とんだ茶番である。犬神が何を企んでいたのかは知らないが、その策を実行する前にネギが倒れてしまうようでは……。

 

 エヴァンジェリンがそんなことを考えながら、ネギが倒れているであろう方向に歩き始めようとした……その時!!

 

「戦いの歌!!」

 

「なっ!!」

 

 ネギがエヴァの真後ろに出現していたではないか!!

 

「まだ「入り」が不完全でしたから……ああいった爆風に紛れてしか使えないんですよね。あれ」

 

「瞬動術か!?」

 

 Ⅵが教えたのは格闘術のみではない。近接戦闘のスペシャリストを自負する彼はおそらくエヴァとの戦いに必要になるであろうすべての技術をネギに教え込んだ。

 

 時間がなく、ネギも彼も仕事と授業があるため、修行内容は薄い感じになってしまったが、犬神との追いかけっこによって基礎力がつけられていたネギはその修行のすべてを吸収し消化した。

 

 そこにはネギの天才性もかかわってくるのだろうが、まぁ今はそれは関係ない。

 

 とにかく、今のネギは近接戦闘においてはそれなりに戦えるようにはなっていたのだ!

 

「だからこそ、茶々丸さんを抜いてどうやってエヴァさんに近づくかが僕の課題でした。だから、非常に申し訳ないことしましたが、明日菜さんを囮にして少しスキを窺わせてもらいました」

 

「なるほど……。魔法の詠唱も完全なダミー……いや、わざと時間をかけて大呪文だと錯覚させた《戦いの歌》だな」

 

 勝つために……すべてを利用する。まるでⅥのような戦闘スタイルにエヴァは思わず笑みを浮かべた。これはなかなか楽しめそうじゃないか。と……。

 

「じゃぁ、エヴァンジェリンさん……いきます!!」

 

 ネギはそういうと同時に、左足を軸足に二連蹴りをエヴァに向かって放った!

 

「なめるな!!」

 

 しかし、エヴァも古強者。魔法使いの間合いに入られてからの対処法などごまんと持っている。

 

「ふんっ!!」

 

「うわっ!!」

 

 エヴァが取り出したのは一本の扇。エヴァはそれを緩やかに回転させながらネギの体を数か所強打し、その力を完全に掌握。最後にネギの体にやさしく手を添えて掌握した力を一気に上へと押し上げた!

 

「合気鉄扇術という。魔法がなくともこのくらいはできるようになってから近接戦闘を挑むべきだったなボーヤ」

 

 華奢に見えるエヴァの体から放たれた、魔法としか思えないような圧倒的技量。それによってネギの体は天高く打ち上げられ再びエヴァとの距離が開いてしまった!

 

「ネギ!!」

 

「させません」

 

 爆煙の中で実はこっそりと反転し茶々丸の足止めをしていた明日菜だったが、ネギがあっさりと吹き飛ばされるのを見て、慌ててネギに駆け寄ろうとした。

 

 しかし、今度は立場が逆転。ネギのもとへと向かいたい明日菜の目の前には茶々丸が立ちふさがり、明日菜の行動を阻害する。

 

「杖よ!!」

 

 しかし、ネギは空中でも慌てず冷静に呪文を詠唱し杖を呼び出した。というかⅥとの特訓中は時計塔よりも高くぶん投げられたこともあるのだ。この程度の高さではビビらない。 そして、その杖に乗って体勢を立て直し、一気に世界樹広場から離れていく。

 

「明日菜さん!! いったん体勢を立て直します。市街地に隠れてください!!」

 

「オッケー!!」

 

 ネギの指示を聞いた明日菜はハリセンをカードに戻し全力で世界樹広場から離れる。むろん茶々丸やエヴァも二人を追撃しようとしたのだが、そこは犬神との追いかけっこでかなり鍛えられた二人だ。茶々丸やエヴァの魔法をあっさりと振り切り、月明かりのみが光源の麻帆良へと消えて行ってしまった。

 

「ふん。いいだろう……。狩りを楽しむのもまた一興だ。いくぞ、茶々丸」

 

「はい、マスター」

 

 長い長い麻帆良の夜は、始まったばかりである。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 真っ暗な麻帆良の中を走り抜けながら、ネギ・スプリングフィールドと神楽坂明日菜はとある裏路地で合流。そのまま走り続けてエヴァンジェリンの感知魔法につかまらないようにしながら、今後の予定を話し合う。

 

「で、ネギ……。これからどうするのよ?」

 

「初戦で大体の実力差はわかりました。これは犬神さんが言うように相手のペースを乱したほうがいいですね」

 

「つまりこのままガチンコ勝負したらぼろ負けするってことね」

 

「オブラートに包んでほしかったですけど……まぁ、そういうことです」

 

 そう。原作とは違いネギはエヴァンジェリンとの実力差はきちんと理解している。

 

 何せ日頃から師事している人間があのタカミチと同格の怪物や、外道成分たっぷりのタカミチ越えの化け物である。

 

 そんな教師たちに教えを受けているのに相手の実力を測れないようなら、ネギは天才の看板を下ろさなければならないだろう。

 

 そんなわけで相手のとの戦力分析を滞りなく済ませたネギは、弱者なりの勝ちを拾うために自分の手持ちの手札を思い出しながら、そのルートを考えていく。

 

 詰将棋のように。複雑な迷路のように。難易度はかなり高いことには違いないが、犬神さんは必ず勝てるといったんだ。だったらそれに至る道がどこかにあるはずだ、と……。

 

「僕たちが勝つために必要な段階は二つ。そして、第一段階で取れる手段は二通りです。第一段階はエヴァンジェリンさんを弱体化させること。もともと封印によって15年間の学園生活を強いられていた彼女です。満月の夜+学園結界のダウンということが重なって擬似的に復活を果たしていますが、それも薄氷のような危うい状態での復活。何らかのイレギュラーによって、彼女の優位性が簡単に崩れる可能性があります」

 

「具体的な方法を上げるなら?」

 

「一つ目でベストなのは、学園結界の復活……ですが」

 

「無理ね。確かにそういうものがあるってことはゲルから教えてもらったけど、どうやって発動しているのかとかは秘密にされたし……」

 

「ええ。ですのでこれはひとまず置いておきます。二つ目で一番手っ取り早いのはエヴァさんの動揺を誘うこと……。犬神さんもこうなることは予測していたのか、僕に切り札を渡してくれました」

 

 ネギがそういって取り出したのは、プラチナの小さな指輪。そこには無数の文字が刻まれており、微弱な魔力を放っていた。

 

「……戦いに手は出さないんじゃなかったの、あのバカ」

 

「準備を手伝わないとは言っていない……。だそうです」

 

 なんという屁理屈。流石は外道の犬神ゲルである。

 

「で、これどうやって使うの?」

 

「さぁ? ゲルさんが言うにはこれをたたき割れば後は勝手にエヴァンジェリンさんが動揺してくれるといっていましたが……」

 

 まぁ、とりあえず今は犬神さんを信じてこれにかけることにしましょう。ネギの覚悟のこもった言葉に明日菜は笑いながら頷いた。もとより勝つ可能性のほうが低いのだ。多少危ない賭けでもそれに乗るしか彼らに勝ち目はない。

 

「続いて第二にですが、彼女たちが動揺し全力が出せないうちに何らかの方法で彼女たちを無力化する必要があります」

 

「そっちの用意は?」

 

「完璧です。理論上力ずくでは抜け出せない方法を取りますので、うまくひっかけることができれば僕たちの勝ちは決まります」

 

 目指すべきは麻帆良外れの湖にかけられた巨大鉄橋。そこにネギは、逆転の一手を仕組んでいた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ふん。私に捕捉させない気か。ガキの割に頭が回る」

 

 Ⅵやゲルの教育がよかったのか、いまだに自分の感知式に引っかからないネギに少しだけ感心しながら、麻帆良上空にたたずむエヴァンジェリンは凶悪な笑みを浮かべる。

 

 その傍らには、背中と足からバーナーを噴出させた茶々丸がハイパーセンサーなどを総動員してネギたちを捜索している。

 

「申し訳ありませんマスター。調査完了までしばらくかかりそうです」

 

「かまわん。獲物をじっくりと探すのも狩りの楽しみだ」

 

「ですが学園結界が……」

 

「あれは、あと一時間くらいはもつのだろう? 安心しろ。頭がいいとはいっても所詮は子供。それまでにはけりがつく」

 

「そうですか……」

 

 エヴァンジェリンがそういって、再び感知式を麻帆良に走らせたとき、それは起こった。

 

 パリン!! と、ガラスが砕けるようなおとともに麻帆良上空に巨大なスクリーンが出現。何かの景色を映し始めたではないか。

 

「なんだ?」

 

「おそらく犬神様の策ではないかと……」

 

「ふん。ボーヤに何か持たせたか。だが、ただの映像ごときで何が……」

 

 だが、この時エヴァンジェリンは知らなかった。覚悟が足りなかった……。いったい自分がどれほどの外道を相手取っているのか……自覚していなかったのだ。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「お、おや? なんや空中に出てきよったでたつみー」

 

「あの、だからその呼び名は……はぁ、もういい。なんだろうな? おそらくネギ先生の策だとは思うが……」

 

 その光景は観客席からもきちんととらえられていた。魔法先生たちが飛ばしている無数の人工精霊からも映像はきちんと送られてきており、魔法生徒・魔法教師はもれなくその映像を目撃している。

 

 そして始まるスクリーンの映像。最初はタイトルから。

 

『エヴァたんの……嬉恥ずかし初恋劇場でございます!!』

 

「「「「「「ぶふぁああああああああっ!?」」」」」」

 

 戦っているエヴァ、ネギを含め、その映像を見ていた魔法生徒魔法教師たちは一斉に噴き出した。

 

な、なんだこの腑抜けたタイトルは!? と。

 

 クランレスの声で挟まれる解説。最初のシーンはエヴァが崖から落ちるシーン!!

 

『ま、まさか!? 犬神ゲル……貴様これをどうやって!?』

 

 何やら見覚え……というか、やたらと体験したことがある光景に顔をひきつらせながら、顔を真っ赤にした画面の中のエヴァンジェリンが慌てて映像を止めようと発生源を探すが、

 

「フハハハハハハハ!! 無駄だ、エヴァンジェリン。僕が使ったのは壊れることによって発動する破壊型の魔法具。一度発動したら『タイムふろしき』で時間を巻き戻しでもしない限り止めることはきない!!」

 

 観客席でドス黒い笑みを浮かべエヴァンジェリンを嗤う犬神に、観客席にいた魔法生徒・魔法教師はドン引きする。しかし、その間にも映像は流れており、

 

『危なかったなーガキ』

 

 そういって、がけから落ちていたエヴァンジェリンを助けたのは長身の赤毛の男性。サウザンドマスター。

 

『父さんじゃないですかぁああああああああああああああああああああっ!!』

 

 そんなネギの叫びが遠くから聞こえた気がしたが、今はそんなことは関係ない。

 

 続く映像。変わるシーン。慌てて映像の発生源に飛んでいき、泣きかけながら指輪を何とかしようとするエヴァ。ポカンと口を開けたまま固まる麻帆良魔法関係者たち。その場に訪れたカオスに若干顔をひきつらせながら、マリーは改めて自分の雇用主の外道っぷりを再確認する。

 

『お前……誰だ。なぜ助けた』

 

『さぁな。くうか?』

 

 森の中での短い会話。それがどれほど少女の心を救っただろうか。麻帆良魔法関係者たちはいつの間にかその映像に見入り、感情移入していた。まぁ、もっともこの思い出を持っていた本人はいま泣きそうになっているが……。

 

主に羞恥心で……。

 

『おい、貴様……私のものにならんか?』

 

 再び変わるシーン。そこでエヴァンジェリンは顔を赤らめながら千の呪文の後ろを歩いそういっていた。その愛らしい姿に麻帆良魔法関係者から思わずため息が漏れ(なぜか主に女性)、こんな言葉が呟かれる。

 

「ああ、恋したんですね。エヴァンジェリンさん」

 

 その声がどういうわけか聞こえてしまったエヴァンジェリンは、「かはっ!?」と思わず血反吐を吐いて倒れこむ。

 

やめてくれ……。あれは一時の気の迷いだったんだ。私のキャラじゃないんだ。お願いだから許して……。これ以上悪の魔法使いとしてのプライドを傷つけないで……。と。

 

 しかし、映像は残酷に続いていく。

 

『おいおい……。もう一か月になるぜ? 俺についてきてもいいこたねーぞ。どっかいけ』

 

『やだ。お前がうんと言うまで、たとえ逃げても、地の果てまで追ってやるぞ』

 

 エヴァンジェリンの一途なセリフに悶える女性魔法関係者。男たちも一瞬ぼうっとしてしまったが、すぐに正気を取り戻しあわてて彼女は悪の魔法使いだと思い込みなおす。

 

「ま、まったく。悪の魔法使いが千の呪文に惚れるなんて……つりあっていないだろ?」

 

 そしてその意思を強固なものにするために、ボソリと男性魔法関係者の誰かが呟いた。しかし、

 

「何をおっしゃっているのですか!! 愛に善悪は関係ありませんわ!!」

 

「そのとおり。いまふざけたことを言ったのは誰だ? たたき切ってやろう」

 

 高音・D・グッドマンと葛葉 刀子を筆頭に、女子から猛烈な反発を受けその意見は封殺された。外野がそんな事態になっていることも無視して、映像は続いていく。

 

 シーンが変わり、舞台はどこかの砂浜。

 

『ついに追いつめたぞ、サウザンドマスター。この極東の島国でな』

 

 そう発言するエヴァンジェリンは幻術によって大人に姿を変えており、かなり色っぽい。男性の魔法関係者の好感度が上がる。興奮する男性たちを女性たちが白い目で見るのが印象的だった。

 

 そのご、二人の芝居がかった言葉の応酬が続いた後、

 

『従者もいない魔法使いに何ができる!! 行くぞ、チャチャゼロ』

 

『あいさーご主人』

 

 エヴァンジェリンはサウザンドマスターにとびかかった。

 

 しかし、

 

『えっと……この辺だっけ?』

 

 サウザンドマスターは二、三歩後退するだけに反撃をとどめ、あとは傍観にてっした。

 

あきらめたのか? 麻帆良魔法関係者たちの脳裏にそんな言葉がよぎる。あれだけ接近を許してしまってはたとえ無詠唱の魔法を使おうともできることは限られている。誰もがサウザンドマスターの敗北の姿を思い浮かべたが、それは意外な形で裏切られることになった。

 

ずぼっ!!

 

『うわぁ!?』

 

「「「「「「えええええええええええええええええええええええ!?」」」」」」

 

 なんと落とし穴。普通に落とし穴。中に水が張ってある落とし穴。にんにくやら何やらが浮かんでいる落とし穴!?

 

 魔法使いらしくない……どちらかというと悪ガキの悪戯といったほうがいい反撃方法に、麻帆良魔法関係者たちはそろって度肝を抜かれた。

 

 おまけに、

 

『ふははは!!』

 

 追い討ちとばかりにさらにニンニクを投下するサウザンドマスターに麻帆良魔法関係者たちはもうドン引きだった。

 

 これが、自分たちが英雄とたたえた男の本当の姿か……と。

 

『ひ、ひぃいいいい!? 私の嫌いなニンニクやネギ~!!』

 

 エヴァちゃんがネギ君目の敵にすんの、もしかしてネギが嫌いやからやろか? 一人的外れな予想を立てるマリーをしり目に、映像の中のサウザンドマスターは杖を使って落とし穴の中の水をかき混ぜながら高笑い。

 

『フフ……お前の苦手なものなどすでに調査済みよ』

 

 強い匂いによって弱ったエヴァンジェリン。彼女は力の制御を失い思わず幻術を解いてしまった。

 

『ああ、ご主人の幻術がとけた!?』

 

『わはははは!! 噂の吸血鬼の正体がチビのガキだと知ったらみんななんというかな?』

 

『やめろバカ~っ!!』

 

 しかし、その姿になってもいまだににんにくを増やし続けるサウザンドマスター。その姿はまさに鬼畜外道である。

 

「ふむ。さすがはサウザンドマスター。感動した」

 

「君はそうやろな」

 

 その映像に感銘を受けた犬神がそんなことを呟くのを耳ざとく聞きつけ、マリーは顔に縦線を入れる。

 

『ひ、卑怯者!! き、貴様サウザンドマスターだろう!? 魔法使いなら魔法で勝負しろ!!』

 

 ごもっとも。麻帆良魔法関係者が大きく頷く。しかし、ここでもサウザンドマスターの爆弾発言。

 

『――やなこった。俺は、本当は5、6個しか魔法を知らねーンだよ。勉強苦手でな。魔法学校も中退だ。恐れ入ったかこら!?』

 

 不良然とした声音で、そんな誰にも自慢できないことを堂々と言い切るサウザンドマスターに魔法関係者たちはカクンと口を開け絶句する。まぁひとりだけ、

 

「ぎゃははははは!! いいこと言うじゃねぇか!!」

 

「ちょ、先輩!? 何言ってんですか!?」

 

 と、笑い声をあげたものがいたが、それは誰なのかはいわなくてもわかるだろう。

 

『おいサウザンドマスター!! 私のなにが嫌なんだ!?』

 

『だから俺はガキには興味ないってば』

 

 どうやら匂いにやられて思考回路がマヒしてしまったらしい。普段は絶対言わない直球での求愛の言葉をぶつけてくるエヴァンジェリンに汗をかきながら、サウザンドマスターは断りの言葉を紡ぐ。

 

『歳なのか!? 歳なら百歳超えているぞ、私!!』

 

『じゃあオバハンだな』

 

『オバハンいうな――!!』

 

『落ちつけよご主人』

 

 なんかもう必死すぎるエヴァンジェリンの言葉に麻帆良魔法関係者の心が一つになる。『なんてかわいそうな……』と。ちなみに現代のエヴァンジェリンは映像を止めるのに必死すぎとこのことには気づいていない。

 

『なぁ、そろそろ俺を追うのはあきらめて、悪事からも足を洗ったらどうだ?』

 

『やだっ!!』

 

 子供が駄々をこねるようにそう叫ぶエヴァンジェリンに「そこは、はいっていえや」とマリーは思わずツッコミを入れる。

 

『そーかそーか。じゃあ仕方ない。変な呪いをかけて二度と悪さのできない体にしてやるぜ~』

 

『うっ!? なんだ、この強大な魔力は!!』

 

 ようやく発動されるサウザンドマスターの魔法。しかし、それはまともな魔法ではなく子供にオシオキとして使うような魔法で……。

 

『ば、バカやめろ!! そんな力で適当な呪文使うな!!』

 

『確か麻帆良の爺が警備員ほしがっていたんだよな~。え~っと。マンマンテロテロ……長いなコレ?』

 

 高まる魔力。上昇するバカすぎる雰囲気。露呈するのはサウザンドマスターのいいかげんな性格。

 

『あ、やめっ!? ひどいぞ、サウザンドマスター!!』

 

『ご主人ぴーんち』

 

 にんにくに囲まれ魔力も練れず、レジストができないエヴァンジェリンにサウザンドマスターは容赦なく呪いをかけた。

 

登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)!!』

 

『いや――ん!! 好きなのにぃいいいいい!!』

 

 最後に出た率直な告白に、全麻帆良が涙したという……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 映像が終わった。誰にとっても衝撃的だった映像はその場に大きな爪痕を残した。

 

 魔法関係者の涙とか……。

 

 ナギを知るがゆえにもう苦笑を浮かべるしかないタカミチと近右衛門とか……。

 

 真っ白に燃え尽きてしまったエヴァンジェリンとか……。

 

「マスターにこんな過去があったのですね!!」とかいいながら、その映像を永久保存する茶々丸とか……。

 

 すごく申し訳なさそうな顔で、気づかれない程度に物陰からエヴァンジェリンを見つめるネギと明日菜とか……。

 

 そんな中、高笑いをしている人間が一人。

 

 むろんこれを仕組んだ、犬神ゲルである。

 

「フハハハハハハ!! これで奴は怒りと羞恥心でまともな判断など下せまい!! さぁいまだネギ!! そこで固まっているエターナルロリをボコボコにしてやれ!!」

 

 鬼だ!? 鬼がいる!! 再び麻帆良魔法関係者の気持ちが一つになる。

 

 闇の福音とかよりもこいつのほうが危険じゃね!? とも……。

 

「なぁ、犬神君……。いつの間にあんなんとったん。というか私ですらあんな過去しらんかったんやけど?」

 

「愚問だな。ネギとの決闘が決まった時からあいつの弱みを握るために四六時中クラレンスに見張らせていたのだ。そして、貴様が看病していた時にあのエターナルロリがうなされているとクラレンスから報告を受けてな。うなされていた時の夢を採取させてみたのだが、案の定ビンゴだったというだけの話だ」

 

「犬神君。倫理観って言葉しっとる?」

 

「僕にとっては『=金』な言葉だな」

 

「さよか……」

 

 もう言葉も出ないマリーであった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「マスター?」

 

 それから約数分後。さすがにいつまでたっても動かない主が心配になったのか、茶々丸がその肩にポンと手を置いた。

 

「だ、大丈夫ですよ、マスター。きっと新しい、いい恋が見つかりますよ」

 

 そんな人間臭いことをいいながら不器用に主を慰める茶々丸。しかし、それは油である。火にそそぐと『爆発した!?』と錯覚させる感じのあれである。

 

 当然エヴァの頭あたりからは何かがプツンとキレるような音が響き渡り、

 

「くくくくくく……殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスゥウウウウウウうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」

 

「ま、マスター……」

 

 なんかもういろいろ壊れきった笑みを浮かべて、物騒な言葉を連呼するエヴァンジェリンに、命令に忠実だった茶々丸が初めて引いた。

 

「あの鬼畜外道が……。この恨み晴らさずおくべきか!! 遊びは終わりだ、茶々丸!! ボーヤを全力でぶち殺し、あのクサレ眼鏡を血祭りに上げるぞ!!」

 

「い、Yes my master……」

 

 にげて~。チョー逃げて~。内心でネギにそう祈りながら、天空を凄まじい速度で飛んでいく主に茶々丸は追従するのだった。

 

 当然、その光景をこっそり見ていたネギと明日菜もガクガクと震えており、

 

「「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわ……」」

 

 修行中にすら見せたことがない量の冷や汗を流し、この世界の人類ではちょっとありえない感じの顔色になりながら、真剣に命をつなぐために次の作戦へと移行するのだった。1

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