とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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10話・深夜の激闘2

 「リク・ラク ラ・ラック ライラック!! 闇の精霊29柱!! 魔法の射手(サギタ・マギカ)!! 連弾・闇の29矢!!」

 

「あわわわわわわわわ……」

 

 一方的に放たれる闇夜に溶け込む漆黒の弾丸。それらは隠れているはずのネギたちをしっかりと発見・追尾し、あっさりとネギたちの居場所を使用者に告げる。ネギは魔法銃で、明日菜はハリセンで、それらの攻撃を撃ち落し、慌てて違う場所に隠れるために移動を開始した。

 

 状況は完全に優勢。少なくとも二人はちょっとずつ目的の場所に近づいているし、その間エヴァに完璧に姿を補足された回数は皆無である。しかし、二人の震えは止まらない。

 

目の前に圧倒的な恐怖の権化がいるから……。

 

「わるいごはいねぇ~がぁあああああああ!!」

 

「マスター……それは違う鬼です……」

 

 普段の愛らしさはどこへやら……。今や完全に悪鬼羅刹と化したエヴァンジェリンが、ネギたちのことを血眼で探している。

 

「どどどどどどどどどど……どうすんのよネギ!? 確かに冷静さは失っているみたいだけど、完全に違う種類の強化(狂化?)フラグ立てちゃったじゃない!?」

 

「そ、そんなこと僕に言われても!? 大体犬神さんがあんな切り札きるなんて思っていなかったですもん!? ふつう知っていてもきるのは躊躇いますよ、あんな手札!?」

 

 そんな風にもめながらも二人は足を止めることはない。この状況下で足を止めてしまえば、あの怪物につかまってしまうことを二人は本能的で察していた。

 

 それほどの殺気、それほどの狂気がエヴァンジェリンからは放たれている。

 

 ネギも明日菜も正直に言うと今すぐにでも契約を投げ捨てて、犬神の事務所にトンズラを決め込みたいところなのだが、家主の犬神がこの決闘を推奨している以上そんなことはできないことは明白だった。

 

 だから二人は死ぬ気で走る。あの金色の鬼神につかまらないように。

 

 そして、

 

「つきました!!」

 

「ここね!!」

 

 目の前にそびえたつのは巨大なレンガ造りの柱。車が通れるように設計されたそこは人が戦うには十分な広さを備えている。

 

 麻帆良の大鉄橋。

 

 学園都市の最端に位置するこの場所こそが、最後の決戦の場所である。

 

「行きますよ、明日菜さん。僕たちの持てる力のすべてをここで使います」

 

「ええ……」

 

 並々ならぬ覚悟を秘めた声でそう言ったネギに、明日菜はいつもの明るい雰囲気を殺し、静かに頷く。

 

「犬神さんのために……僕たちを鍛えてくれたⅥさんのために……そして」

 

 ネギがそこまで言ったとき、

 

「みつけたぞぉおおおおおおおおおおおおおお!! ネギ・スプリングフィールドォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 はるか遠くからエヴァンジェリンの絶叫が聞こえてきて、

 

「なにより……僕たちの命のために」

 

「ええ……」

 

 二人は神妙な表情を霧散させ、ちょっとだけ泣きそうな顔でそうつぶやいたという……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「さぁ、戦いもいよいよ佳境に入ってまいりました!!」

 

「佳境というか……いろいろ壊れていないかい?」

 

「それは言いっこなしやでたつみ~。いや、そのことに関してはホンマエヴァちゃんに詫びいれなアカンとは思ってるけどもな~」

 

 世界樹広場の解説席では顔に縦線を入れたマリーと、エヴァの壊れ具合にちょっとだけ引いている真名がそんな会話を交わしていた。

 

 そんな彼女たちの隣では、泰然自若とした表情のゲルが座っており、麻帆良の魔法関係者たちから恐怖の視線を一身に浴びている。

 

「何を言う安川。計画通りだ」

 

「いや、確かにエヴァちゃん冷静さを失っとるみたいやけど、でもあれはないやろ、犬神君……。明らかに怒りくるっとるやん。狂化(確定)されとるやん。あんなん、六重君でも勝てるかどうかわからへんで」

 

 マリーのツッコミを平然と流し、犬神は黒い笑みを浮かべる。

 

「なぁに。もし万が一ネギが負けるようなことになったとしても……」

 

 犬神はさきほどクランレスから渡された――髑髏マークがついたスイッチをいじりながら言葉を切った後、

 

「僕にはまだまだ奥の手がある」

 

 黒い……黒い、どす黒い笑み。見ているだけで精神汚染してしまうのではないか? と錯覚してしまうほど黒い犬神の笑みに、会場の人々は今すぐこの場から逃げ出したい衝動に駆られたという……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「 来たれ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を!! こおる大地(クリュスタリザティオー・テルストリス)!!」

 

 地面から無数の氷の槍が生え、橋の上を駆け、逃げ続けるネギたちを襲う。

 

 ネギは障壁をはり、明日菜はハリセンをふるい何とかそれを防ぎ切り、さらに後退。ちょうど橋の中央あたりで足の動きを止め、エヴァンジェリン達に向かい合った。

 

 エヴァがキレてから大体15分ほどたった。さすがに怒りそのものはまだ心の底でくすぶってはいるだろうが、彼女が戦闘に必要な最低限の冷静さを取り戻すには十分な時間がたっている。

 

 そのため、ネギたちが今までのように背中を向けて逃走するのではなく、こちらを向き戦意をむき出しにしてきたので、怒りに燃えるエヴァンジェリンも少し不審に思い足を止めた。

 

「なんだ? もう追いかけっこはおしまいか、ボーヤ?」

 

「あはははは……。そ、そろそろ体力も限界ですので……。それに、逃げ切っただけではあなたは完全に負けを認めることはないでしょう?」

 

「ふふふ……よくわかっているじゃないかボーヤ」

 

 だがそれだけではあるまい。

 

 600年の経験からくる圧倒的な戦略脳。それをフルに活用しエヴァンジェリンはネギたちがなぜここにきて戦う気になったのかを考えてみる。

 

 初戦の手合わせはお互いの実力がどの程度かを計るため。さすがにネギごときに底を計られたということはないだろうが、今回の戦いでどの程度の力を使うのかぐらいは見切られてしまったはずである。つまりこれは必要な戦闘。納得はできる。

 

 では今まで逃げていたのはなぜか? 考えるまでもなく彼我の差に気づいたからだ。初戦の場で戦いを続けていれば、まず間違いなく負けていた。だからネギたちは逃走した。これもまた納得がいく。

 

 では、ここで戦う姿勢を見せたのは?

 

 逃げ回っているだけで戦力が上がるわけでもないし、格闘術の切れが上がるわけでもない。むしろ麻帆良中を長時間逃げ回った彼らの体力は相当数減っているはずだ。初戦で戦ったときよりもむしろ優位性は減っているはず。

 

それでもここで事を構える気になったということは、

 

「茶々丸……。気を付けろ。何か罠が張ってあるかもしれん」

 

「はいマスター」

 

「「ちっ!!」」

 

 エヴァンジェリンの言葉を聞き、ネギと明日菜は舌打ちをしながら自身に強化の魔法をかけエヴァンジェリンと茶々丸に襲い掛かった!!

 

「やはりそうか!! だが甘かったな!! あると分かった罠など最早何の役にもたたん!!」

 

 試験管を飛ばし、あたり一帯に探知の魔法をかけたエヴァンジェリン。茶々丸はそれを守るために鋼の体を使い明日菜とネギを迎撃する!!

 

 しかし、

 

「なっ!?」

 

「マスター!!」

 

 エヴァンジェリンが試験管を放ったとき、突如として魔方陣が出現しエヴァンジェリンの体に無数の光の鎖を飛ばす。

 

 まさか自分の足元にすでに罠があったなどとは考えておらず、油断していたエヴァンジェリンはあっさりとそれにつかまり身動きを封じられてしまった!

 

「バカな!? いつの間に!!」

 

「事前に、ですよ……。もっとも速効性の罠ではなく僕が発動するタイミングを自由にできる形式の罠ですけど!!」

 

 ネギのその言葉と同時に茶々丸の足元にも魔方陣が浮かび上がり、彼女の動きを封じる。

 

「なっ!?」

 

「ちなみにこの橋に設置してある罠の数は約七百あります」

 

「魔法による地雷原か!? 貴様……いつの間にこれだけの魔方陣を!?」

 

「時間はたっぷりあったんですよ、エヴァンジェリンさん。僕が格上のあなたに勝つために準備をする期間は」

 

 言われてみればその通り。犬神と契約を結んだのはこの戦いのずいぶんと前。おまけに、その間ネギたちは修行にかこつけて麻帆良中を駆け回っていたのだ。小細工や罠を仕掛ける時間は確かに大量に用意されている!!

 

「だがボーヤ……。これだけで私に勝ったと思うのか?」

 

「思いませんよ。600年生きた吸血鬼にそんな甘ったれた希望を抱くような柔な修行はされていませんから。エヴァンジェリンさんのことです。おそらく結界を破る方法ぐらいいくらでも持っているんでしょう。たとえば……茶々丸さんに科学的技術から結界を破ってもらうとか?」

 

 ネギの予想にエヴァンジェリンと茶々丸は固まった。事実彼女たちの秘策はそれだったのだ。結界につかまった瞬間茶々丸は耳に内蔵されたアンテナをだし、結界をハッキング。それを数秒で打ち破ることができる。

 

「でも……それにしたって多少の時間はかかりますよね? だったら……」

 

 ネギはそういうと同時に右手を掲げてみせた。その手には膨大な魔力が収束されておりいつでも魔法の発動が可能な状態にスタンバイされている。

 

「な!?」

 

「雷の暴風……。さっき茶々丸さんと戦っている間に小声で詠唱させてもらっていました。これを発動させるのとエヴァンジェリンさんが結界から抜け出すの……どちらが早いか言わなくてもわかりますよね?」

 

 完璧な王手(チェックメイト)。誰が考えてもこの状況からの逆転は不可能だ。

 

 麻帆良中が、マリーが、真名が……Ⅵでさえもネギの勝利は確定したと思っていた。

 

 この状況から逆転できる存在などいない。

 

「くくくくく……。さすがだな、ボーヤ」

 

 もしそんなことができるならばそれは、

 

「だが……ボーヤは忘れているようだな?」

 

「?」

 

 本物の……

 

「私は」

 

 化物だ!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それは一瞬で起こった。

 

 ネギの脅しをものともせず茶々丸が耳からアンテナを伸ばし結界をハッキング。周囲に張られた魔法結界のすべてをまとめて破壊したのだ!!

 

「なっ!?」

 

 ネギはその行動に驚きを示す。それはそうだろう。自分の主人が捕まっており、なおかつ中級魔法に狙われているのだ。その状況でさらに反抗を示すバカがどこにいる!!

 

「ネギ!!」

 

「くっ!?」

 

 明日菜の悲鳴じみた叫びにネギは歯噛みしながら、魔法を打つかどうか迷った。彼はまだ10才。心優しい子供なのだ。だが、ここで撃たないとネギたちは負けエヴァンジェリン達に殺されてしまうかもしれない。だったら……。

 

「ためらいはしませんよ……エヴァンジェリンさん!!」

 

 ネギは覚悟を決めた表情で手に待機させていた《雷の暴風》を解き放つ。

 

 まるでレーザーのように伸びる雷と暴風の集合体。結界が壊れるころにはそれはエヴァンジェリンの目前へと迫っていた!! 一応ネギの手によってエヴァンジェリンを殺さないように加減されているとはいえ相手は対戦車ライフル級の威力を持つ中級呪文。食らって無事ですむはずがなかった。

 

 このままでは直撃する!!

 

 誰もがそう思ったその時だった、

 

闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!!!」

 

 エヴァンジェリンは無造作に手をふるうことで、そこから漆黒の暴風を出現させた!!

 

「えっ!?」

 

 ネギが唖然とした表情でそれを見て固まる中、エヴァンジェリンの発動した魔法は容赦なく加減された《雷の暴風》を食い散らかし、相殺。雲散霧消する!!

 

「確かに……私はこの戦いでは加減をするつもりだった。ガキは襲わんというプライドがあったし、発展途上のやつを事前に摘み取って悦に浸るような悪趣味な性癖も持っていないからな。だが、この戦い負けるわけにはいかないんだ」

 

 《闇の吹雪》……《雷の暴風》と同じ系統の中級魔法。それをエヴァンジェリンは無詠唱で発動しネギの詠唱月である雷の暴風と相殺して見せた。

 

 明らかに今まで出していた力とは違う別格の力。

 

 つまり……エヴァンジェリンの本気!!

 

「呪いを解くため……という理由では本気を出すのはいささか心苦しかったが、《復讐しなければならない相手ができた》というのなら話は別だ。私の前に立ちふさがるもの全てを叩き潰してでも、私は復讐を遂げて見せる」

 

 その相手は誰なのかは……いう必要はないだろう。

 

 エヴァンジェリンはおそらく麻帆良の世界樹広場にいるであろう、あの外道眼鏡の顔を思い浮かべながら凶悪に笑う。

 

「少しボーヤのことなめていたようだ。ここからは全力で行く」

 

 断罪の剣(エクスキューショナーソード)

 

 エヴァンジェリンの呼びかけに答え顕現した光の剣。

 

 敵に絶望を与える圧倒的な破壊力を持つその剣を見て、ネギと明日菜の顔が引きつる!!

 

「殺さないように加減はしてやる。下手に動くなよ……危ないからな!!」

 

 その言葉と同時に放たれる圧倒的な破壊に、ネギと明日菜は思わず目を閉じた!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ふむ。少しいじりすぎたか」

 

 広場でその様子を見ていた犬神は、最後にそうつぶやくと手元においてあったボタンを押した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「!? マスター!!」

 

 変化に気づいたのは茶々丸だった。結界から抜け出した彼女は主の攻撃から逃れるために、バーニアを使って橋の下にある湖の上へと退避していたのだが、それに気づいた彼女は切羽詰まった声で叫びながらエヴァンジェリンへと近づいて行った!!

 

「なんだ……」

 

 せっかく勝負を決めようとしているところに水を差され、若干不機嫌になるエヴァンジェリンだったが、

 

「なっ!?」

 

 彼女もすぐにそれに気づき思わず顔をゆがめてしまう!!

 

「バカな!? まだ復旧までの時間は三十分近くあるぞ!?」

 

 そう。麻帆良に電気が復活し、再びまぶしく光り輝き始めたのだ!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「僕は戦いに手を貸すことはないとはいったが、『メンテナンスを手伝わない』といった覚えはないぞ、闇の福音」

 

 そういって『フハハハハハハ』と高笑いする犬神を見て、真剣に犬神の抹殺計画を考える麻帆良魔法関係者たち。

 

 そう。犬神はネギとエヴァの戦いが始まった直後、メンテナンス部隊にクラレンスを送り込み、メンテナンス作業を急ピッチで終了させ、いつでも電気が復旧させることができるように細工をしておいたのだ。

 

 エヴァンジェリンが負けても納得できるところで電源の復旧ができるように。ネギが負けそうなときに復旧ができるように!!

 

作戦完了(ミッションコンプリート)

 

 最後にきらりと眼鏡を輝かせ『眠たい』といいながら事務所に帰っていく犬神を見送ったマリーたちは、

 

「このこと……エヴァちゃんには話せへんな」

 

「間違いなく戦争が起こるだろうからね……」

 

 ハハハ。と乾いた笑みを浮かべるしかないのであった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 とまぁ、そんなこんなで……麻帆良の電源復帰により、再度発動された学園結界によって再び魔力が封印されてしまったエヴァンジェリン。当然断罪の剣が維持できるわけもなく、手元に宿った膨大な光はプスプスと間抜けな音を立てて消えてしまい、あたり一帯に沈黙がおちた。

 

 固まる明日菜とネギに、呆然とするエヴァンジェリン。慌てて戻ってきて自分のマスターの手当をしに行く茶々丸。

 

 あまりにあっけない最後。というか、もはや最後といっていいのかわからないくらい気まずい最後に、明日菜とネギは顔を見合わせて、

 

「え、えっと……そういう時もありますよ」

 

「そ、そうそう。たまたま運が悪かっただけだって……。あのまま続いていたらエヴァちゃん絶対に勝っていたわよ」

 

 とりあえず、ショックのあまり固まっているエヴァンジェリンを励ましてみた。

 

 とうぜん敵にそんなことをされてしまい、プライドの高いエヴァンジェリンが耐えられるわけもなく、

 

「フフフフフ………………………………死のう」

 

「落ち着いてくださいマスター!!」

 

 橋の欄干へと駆け寄り湖に飛び降りようとするエヴァンジェリンを茶々丸は慌てて止め、それに気づいた明日菜とネギもそれに急いで協力する!!

 

「笑えよ、茶々丸!! あんなに自信たっぷりに勝利宣言をした私を笑えよ!! 最終的に制限時間忘れて無様に負けてしまった私を笑えよ!! そしてその手を離せ、バカども!! 私はもう生きていける自信がないんだ!!」

 

「大丈夫ですよ、マスター!! 生きていたらきっといいことありますって!!」

 

「そ、そうですよ、エヴァンジェリンさん!! 僕の血ぐらいなら死なない程度にあげますから!!」

 

「ほ、ほらネギもこういっているんだし!! それにエヴァちゃんさっきのかっこよかったって!!」

 

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああん!!」

 

 もう子供のように泣きじゃくるエヴァンジェリンに様子に、全麻帆良が涙したという……。

 

 こうして、麻帆良全体を騒がせた吸血鬼騒動は、最後の最後まである外道の少年探偵の手に踊らされる形で幕を下ろしたのだった。

 

 

 

《おまけ的な後日談》

 

 

 

 エヴァンジェリンとネギの決闘が終わった翌日。

 

「エヴァちゃーん!! 飴食べる?」

 

「エヴァンジェリン……たまには授業に出ろよ」

 

「エヴァンジェリンさん? お体大丈夫ですか?」

 

「昨日の決闘で疲れただろう? お菓子買ってあげよう」

 

「……」

 

 昨日の決闘についての清算を行うために麻帆良を歩いていたエヴァンジェリンに向かって、無数の好意的な声が飛ぶ。

 

 そのすべてが、今までエヴァンジェリンを毛嫌いしていた魔法先生・魔法生徒からだった。

 

「なんだ?」

 

 両手いっぱいに買い与えられたお菓子を茶々丸と分担して持ちつつ、エヴァンジェリンはそうつぶやく。

 

「なんで今日は麻帆良の連中が死ぬほどやさしい!?」

 

 な、何か裏があるのか!? 昨日以上の辱めを私に受けさせるための犬神の策か!?

 

 この時、生まれてこのかた感じたことがないほどの恐怖をエヴァンジェリンは感じていたという……。 

 

 ちなみにこの話を聞いたマリーが『犬神君の策が別のところでいい結果をもたらしとる!?』と愕然としつつ、「他人の好意は素直に受け取らなあかんよ」とエヴァをいさめている光景が犬神アンダーグラウンドサーチで見られた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「じゃ、じゃぁ……おねがいします!!」

 

「ああ、そう緊張するな、ぼーや。本当にちょっとだけだ。ちょっとだけだから~♪」

 

「え、エヴァちゃん!? なんか笑顔が怖いで!?」

 

 犬神アンダーグラウンドサーチで、ネギが突き出した腕をエヴァがかみついている。

 

 いわゆる献血。魔力補給。

 

 エヴァンジェリンがかけられた封印を解くために、死なない程度になら血ぐらいあげますよと了承したネギ。そして今日、この日、エヴァに血を吸わせる約束になっていたのだ。そして、

 

「では……ちゅぅ~」

 

 マリーと明日菜監視の下、それは行われる。

 

「うう……」

 

「ちゅぅ~」

 

「……」

 

「~~~~~~」

 

「ガタガタ!!」

 

「ちょ、エヴァンジェリンさん!? ネギがもの凄い顔しながら、真っ白になっていっているけど!?」

 

「はっ!? しまった!! あまりにおいしすぎてつい飲みすぎてしまった!!」

 

「ちょっとぉおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 その後、数分間……ネギは『献血怖い献血怖い献血怖い献血怖い』とぶるぶる震えていたらしい。ちなみに、この先一生涯、彼が献血を行うことはなかったという……。

 

 まぁ、封印は無事に少しだけ解け『今回卒業すれば解ける』『修学旅行には行ける』という嬉しい特典が付き、マリーとエヴァが笑いあったので彼の犠牲もあながち無駄ではなかったのだろう。

 

 

 

 

 ちなみに、ネギを看病している間にふと何かを思いついたといった表情になったマリーが一言、

 

「なぁ? 犬神君の血ってどんな味がする思う?」

 

 とエヴァに聞いたところ、

 

「あいつの血はたとえ極上の味だろうが、私が飢え死にしかけていようが、いらんし飲まん!!」

 

 と断言された。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「さて、今回の報酬についてですが……」

 

「あんなことをしておいて、まだ報酬がほしいというのかこの外道が!!」

 

 ネギの血によって、無事に封印が若干緩んだエヴァは犬神に払う報酬の相談をしていた。

 

「ほう? つまり払わないと?」

 

「あたりまえだ!! ひ、人の過去をあんなに大々的にばらしおって……恥を知れ!!」

 

 まぁ、その怒りはごもっともやけど、エヴァちゃん……犬神君に恥なんて言葉は通じひんよ。

 

 いろいろあきらめきっているマリーは、内心でそう考えながら犬神がどう出るのかと、そちらのほうを見つめる。

 

 すると彼は、視線に殺気を込めてひとこと、

 

「お前もうちのエコ発電に協力するか?」

 

 とだけつぶやいた。

 

「払わせていただきます!!」

 

「エヴァちゃん!? うちの電気関係ほんまどうなっとんの!?」

 

 マリーがこの事務所での生活に、初めて恐怖をもった瞬間であった。

 

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