「きゃ~!! 乱闘よぉ~!!」
その日の麻帆良は騒がしかった。
女子校エリアの大通りで、武道関係部活どうしの乱闘が発生していたからだ。
「古菲部長と戦うのは俺たち柔道部だ!!」
「フザケンナ!! 俺たちボクシング部のほうがずっと前から古菲部長と戦う約束していたんだよ!!」
喧嘩の理由は見ての通り、中国武術研究会の古菲と戦うため。
別段珍しくもない。このエリアではよく起きていたこと。古菲はありとあらゆる格闘家を相手取っても平然と叩き伏せる猛者であり、そんな彼女の強さにあこがれて、武道関係部活のメンバーがこぞって対戦を申し込むのだ。
当然彼女の体は一つしかないため、その部活の順番が巡ってくるまでにはかなりの時間がかかる。そのため、こうして順番争いを巡って部活同士の乱闘が常日頃から起こってしまっている……のだが、
「た、大変!! 広域指導員の先生を呼ばないと」
一人の女子生徒がそういって、駆け出しかけたときそれは現れた。
「かっ。バカガキどもが……。俺が久々にこっちに足を延ばした時に乱闘とは、思い知らせてほしいらしいな」
凶悪な笑みを口元に浮かべ、鳥のとさかのようにセットされた髪を揺らしながら現れたのは、二メートルはあるであろう巨大で細身な……しかし、鋼のような筋肉で包まれた男。
目には眼帯。片手に拳銃。着ている服は、前のあいた黒の皮ジャンとレザーパンツ。
明らかに『何処のヤンキー?』といわれかねない格好をした男。そんな彼の後ろには、髪を七三分けにした、メガネをかけている真面目そうな男が立っていて、
「あ、ちょっと……ジョニー先輩!?」
慌てて男に静止をかけようとしていたが、
「この俺の
男はそんなこと一切気にせずに、
「後悔……したくてもできないようにしてやる」
「ぐはっ!?」
物理的ダメージを伴った凶悪な言葉を吐いた。その言葉を聞いて、七三分けの男の胃に凄まじいダメージが入り『あ、また僕が命がけでとめないといけないんだ……』とちょっとだけ絶望する。
「そこまでだガキども」
「なんだこらぁあああああ!?」
そんな七三分けを微塵も気にすることもなく、眼帯男は乱闘に悠然と近づく。そんな彼に話しかけられ、乱闘をして気が立っていた少年(?)たちは殺気だった目を眼帯男に向けた!!
しかし、
「なんだとは、なんだこら? まったく見て分からんとは救いがたきバカどもめ」
眼帯男は凶悪な笑みを浮かべながら、何のためらいもなく、到底人間が扱いきれそうもない大口径拳銃を少年(?)達に向ける!!
「広域指導員だ。つーわけで、死ね!!」
「死!? はぁ!?」
「ちょっ!? 先輩ストぉおおおおおおおおップ!!」
「え? こ、広域指導員が『死ね』!?」
七三の静止の声もむなしく、近くで乱闘を見ていた生徒たちの驚愕の顔も気にせず、眼帯男は拳銃をぶっ放しその場を阿鼻叫喚の地獄に叩き込む。
これが、麻帆良学園名物、最恐の広域指導員……『クレイジージョニー』と『苦労人レイジー』の日常である。
…†…†…………†…†…
「車両火災2。重軽傷者20。器物・建築物破壊………………多数」
麻帆良学園初等部職員室。
そこには、グラサンをかけ、くわえ煙草をしたスキンヘッドの学年主任の前に立たされているジョニーとレイジーがいた。
今学園主任が読んでいるのは『今回の』ジョニーの指導活動によって発生した被害内容である。
「主犯格である乱闘をしていた生徒たちは、それぞれとりかえしのつかない精神的なトラウマを植え付けつつ無事確保か……ったく。また派手にやりやがったな。おかげでスクープだ。明日にも報道部の連中がお前らのことをすっぱ抜くだろうよ」
学園長がこの世の生物とは思えない顔色してたぞ? まぁ、もとより人間離れしているビジュアルではあるけど……。と、かなり失礼なことを言いつつ学年主任はレイジーたちを睨みつけた。
「で、始末書……書いてきたか」
「おうよ」
そんな状況であるのに、何故かふんぞりかえりながら懐に手を入れるジョニー。そんな彼を、レイジーはちょっと顔色を悪くしながら見つめていた。
「ほれ」
そして、ジョニーが取り出した始末書には、
『バカガキ複数……殺し損ねた。次は確実に殺す ジョニー&レイジー』
と、とんでもない内容が書かれた上に署名捺印が押されていて……。
学園主任は、しばらくの間、それを鋭い目で見つめた後、
「よし」
と、軽い声で自分の机にしまった。
「よし!? あれで!?」
愕然とするレイジーをしり目に、学園主任……通称・主任はにやりと笑いながらふんぞり返っているジョニーを見つめた。
「それにしても……お前は相変わらず大馬鹿野郎だな。流石はダイナマイト」
「あん?」
主任の言葉に、ジョニーが片眉を上げるが、
「だが……そんな馬鹿は嫌いじゃないぜ」
主任のその言葉を聞き、ジョニーは満足げに笑みを浮かべ、
「へっ……。いきなり何言ってやがるオッサン。禿るぞ」
「へへへ。何となくだ気にすんな。あと俺は剃ってるだけだ、殺すぞ」
と、恥ずかしそうに笑いながらお互いのことをけなしあう。
それはまるで、大勢に歯向かい、我が道を行き、犯人を捕まえようとする刑事たちのような……。そんないい空気を醸し出していて……
「え? 何この空気? 類友?」
思わずレイジーにそうつぶやかせた。ちなみに……彼らがやったことは、大勢に歯向かう以前にただの犯罪である。もう、麻帆良にいなかったら懲役うん十年といわれかねないほどの……。
「って、主任!! ここは思いっきり説教するところじゃないんですか!! なにわけのわからん物わかりのいい上司みたいな笑み浮かべてんですか!!」
「うっせぇな~レイジー。大声出すなよ」
「出しますよ!! 始末書とか何か根本的に間違っていますもの!!」
ギャンギャン噛みついてくるレイジーに、立ち上がった主任は彼の肩を抱き込み話しかける。
「まぁまぁ、落ち着けよレイジー。ここだけの話な……」
そして、グラサンを光らせながら一言。
「おれ『なぁなぁ』とか『グレーゾーン』とか『玉虫色』って言葉が大好きなのよ。適当に生きようぜ」
「尊敬させてくれません主任?」
レイジーの皮肉もなんのその。主任はにやにや笑いながらレイジーの肩をポンとたたく。
「まぁ、実際あいつと組んで三か月以上もった広域指導員はお前が初めてなんだ。今回は犯人グループに大した被害も出ていないみたいだし……」
「めちゃくちゃトラウマ植えつけていますけど、それは大した被害じゃないんですか?」
「まぁ、そんなことはさておきだ……頑張っているお前にご褒美をやろう。新しいニックネームだ!!」
「ニックネーム? いりませんよそんなもの」
何やらやたらとハイテンションにそんなことを言ってくる主任に、レイジーは少し警戒の表情を浮かべた。こういう主任は、たいてい、ろくでもないことを考えている。
「何警戒してんだよ。今回はマジだって。お前の新しいニックネームは……ゴクウだ!!」
「なんでそこでゴクウなんですか?」
「何言ってんだよ!! 超格好いいぜゴクウ!! 元気玉とか打てるかもよ? ほら、ともに叫ぼう!! 『オッス!! おらマチャアキ!!』」
「ま、まちゃ!?」
結局主任のペースに流されてしまったレイジーは、大きくため息をつきながら肩をすくめる。
「もういいですよ……色々このままで。呼び方とかも……」
「おっ? そうか? 悪いな!! じゃぁこれからも頼むぜ……」
そして、主任は再びレイジーと肩を組み、
「御供?」
「!?」
なにやらニュアンスを変えてレイジーのあだ名を呟いた。
それを目ざとく察知したレイジーは
「今あだ名違いました!!
と叫びながら主任を怒鳴りつけたが、
「はははははははは!!」
歩いているのだけにみえるのに、瞬動並みの速さで逃げていく主任に追いつくことなどできず、レイジーの怒声は職員室にむなしくこだまするだけなのであった。
…†…†…………†…†…
「はぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ……」
疲れ切った顔で自分の机に帰ってくるレイジーを、彼の隣の机に座っていた、鋭い瞳に黒髪の美女……リリィは一瞥し、
「大変そうね……レイジー君。見るに堪えないわよ」
「そう思うなら代わってくれませんか? リリィ先輩」
「やーよ。お肌が荒れたら責任とってくれるの?」
「ぼかぁ内臓に穴が開きそうですよ……」
話しかけてきたわりに冷たいリリィの反応に、レイジーはさらに大きなため息を漏らす。
「大体ジョニー先輩は無茶しすぎなんですよ。街中でもばかすか拳銃撃ちまくるし。今回だって一般人や犯人に直撃がなかったのは、奇跡みたいなもので……」
「そいつは違うぞレイジー」
そんな風に愚痴るレイジーに、向かい側の机に足を乗せながら行儀悪く座っていたジョニーは反論する。
「何が違うっていうんですか?」
「俺は……広域指導員だ」
「そうですね……残念なことに」
「つまり……俺が麻帆良での正義だ!!」
「あなたに関しては首肯しかねます」
「しろよてめ? ぶっとばすぞ?」
若干そんな感じにもめつつも、ジョニーは主張をやめない。
「つまり……俺の弾丸は正義の弾丸!! 悪人にしか当たらない正義の弾丸だ!! つまり……当たった奴はすべて悪人だ!!」
「はぁああああああああああああ……」
ジョニーの主張に、レイジーは大きくため息をつきながら一言、
「なわきゃないでしょうがぁあああああああああ!!」
ごもっとも……。
まぁ、ジョニーの主張もあながち間違ってはいないのだが……。確かに、ジョニーの拳銃にはジョニー我流の魔法が組み込まれており標的を、弾丸がホーミングする機能はついてる。まぁ、あくまで我流なので精密さにはやや欠けるうえに、悪人限定で飛んでいくなんて高度な機能は組み込まれてはいないが……。
「大体出てんじゃないですか被害者!! 無実の一般人に重軽傷者が20名!!」
「発覚していないだけで無実とは限らん。つーか直撃はしてなかっただろうが」
「巻き添え食らわせたらそんなこと関係ないでしょう!! 車両火災だって先輩が打った弾がタンクに引火して、ごほっ!? げほっ!!」
どうやら興奮しすぎたらしい。むせかえってしまうレイジーに、温かいお茶が差し出される。
「レイジーさん。落ち着いてください。まずお茶を飲んで。ジョニーさんに挑むなら体制を整えてからでないと」
「ああ、ありがとうございます。モモさん」
そこに立っていたのは金髪おさげの新任教師。レイジーが一目ぼれをし現在猛烈アタック中の可愛い系の女教師・モモだった。
「ああ……お茶おいしい。おちつく」
「いちいちじじむさいわね」
「リリィさん……。お茶ぐらいスキに飲ませてあげましょうよ」
「ありがとうモモちゃん!! 僕の味方は君だけだ!! というわけで、週末あいてる?」
「うん。あいてない♡」
しかし、意外と言うことははっきりと言う
「だせっ。ふられてやんの。『あいてる?』『開いてない♡』。ぷぷっ……かわいちょ~」
「ちょ、だまってください!!」
そんなレイジーにジョニーは明らかな嘲笑を浮かべ、
「記録更新22連敗(継続中)。状況と勢いに乗せてさりげなさを装ってみたものの、あえなく玉砕したことをここに記す」
「記さないでくださいよそんなこと!!」
リリィはノートを取出しレイジーの敗北記録に追記を加える。何とも性質の悪い先輩たちだった。
…†…†…………†…†…
「しゅに~ん。また怪盗スパルタンⅥから挑戦状だぞ~」
そんな風に仲良く(?)職員室の面々がもめていたときだった。
特徴的なアフロ部屋をした小太りの男……初等部数学教師・ボブが『S6』と角ばった字で書かれた手紙を持ってきたのは……。
その言葉を聞くのと同時に、職員室に緊張が、
「え~まじで~。めんどうな。学園長に丸投げしておけ」
「了解」
緊張が……
「次こそ殺してやるぜぇえええええええ!!」
「殺しちゃダメですって!!」
き、緊張が……
「私はまたⅥが勝つ方にかけるから、モモちゃんどう?」
「あ、あの……賭け事はよくないかと? 仕事しましょ?」
緊張が……走るわけもなかった。
こうして、麻帆良一の問題児たちが集まった初等部職員室の日常は、平和に騒がしく、過ぎていくのである。