とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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11話・犬神の力

「前から思っていたんですけど……犬神さんってどの程度強いんですか?」

 

「ん? いきなりどうした野菜?」

 

 この物語は、ネギのちょっとした疑問から始まった。

 

 時刻は日曜の夕刻。黄昏時。夕日に染まった麻帆良の整った街並みの中、犬神アンダーグラウンドサーチの面々……犬神、マリー、ネギ、ヒメが猫の入ったケースをそれぞれ一個ずつ持ちながら家路についていた。

 

 いつものように大富豪の家から逃げ出した猫を捕獲し、犬神が黒い笑顔で今日の報酬のことを考えている時、マリー・ヒメと協力し、猫の捕獲に尽力したネギがそうつぶやいたのだ。

 

「犬神君のつよさ? めちゃくちゃ強いよ? 犬神君は」

 

「いや、それはよくわかっていますけど……。でも僕犬神さんが戦っているところ見たことないし、やっぱり強さの実感が少ないというか……」

 

 ネギ自身犬神がめちゃくちゃ強いのは十二分に承知している。あれだけ滅茶苦茶なことをやっていても、あのエヴァンジェリンが魔力復活まで手を出すことはないと明言し、麻帆良の優秀な魔法先生たちが手をこまねいているのだ。

 

 つまり、それだけの実力者であっても不用意に手を出すことは憚れる相手ということなのだろう。

 

 だが、ネギ自身その犬神の実際の強さを見たことがない。明日菜はいちど犬神とオカマ組長の戦闘を見ているが、ネギはその場にいなかった。しかも、あの時ですら犬神は本気を出していない。

 

 本気の犬神の強さはいまのところネギは知らない。

 

だが犬神とスパルタンⅥの戦闘を見ている面々は……。

 

「ふむ……お前の疑問に答えるのは甚だ面倒だな野菜。正直答える気すら失せる」

 

「え? どうしてですか?」

 

「だってそうだろう?」

 

 犬神はそういってメガネを光らせながら、諭すようにネギにいった。

 

「強さなんてものはいろいろある。賢さ、暴力、耐久力、魔力、気力、筋力、戦闘力、過負荷……。千差万別十人十色だ」

 

「犬神君……原作的にも雑誌的にも入ってたらアカンもんが入ってたような気がすんねんけど」

 

 ジャンプとガンガンに怒られんで?

 

 マリーのツッコミは綺麗に無視して、犬神は話を続ける。

 

「そんな中である一点の強さを計ろうだなんておこがましいことだとは思わんか? くだらないことだとは思わんか? 強さなんてものはその時の状況によって変動するものだ」

 

「犬神君は金がらみやと界王拳使えるさかいな」

 

「まぁつまりはそういうことだ。ということでお前みたいの僕の恒久的実力を聞こうとすることはひどく無意味ということだ。それに……」

 

 犬神はそこで言葉を切ると、メガネをきらりと輝かせて一言、

 

「僕は……お金さえ稼げればそれでいい!! 強さなんて知ったことか!!」

 

「「力強い明言!?」」

 

 くわっ!? っと、雰囲気を爆発させながらそう言い切る犬神のある意味名(迷)言にマリーとネギは同時にツッコミを入れた。何気に息の合ってきた二人。犬神のネギツッコミ化計画は着実に進行しているようだ。

 

「でも……」

 

「まぁ、どうしてもというのなら僕の強さを測ったなどとぬかしていたバカの言を借りて教えてやるが……」

 

 あくまで食い下がろうとするネギに、犬神はめんどくさそうにため息をつきながらそうつぶやき、犬神はさらっと自分の強さを吐き出した。

 

「イージス艦7隻分だそうだ」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「いやわからんて」

 

「ネギ君。関西弁になっとんで?」

 

 その翌日。授業が終わりお昼休みとなった教室でマリーと明日菜、ネギとエヴァンジェリンが屋上でシートを引きながら昼食をとっていた。

 

 話題は、昨日の犬神の強さについてである。

 

「た、確かにゲルが強いのは知っているけど……イージス艦7隻は信じがたいわね」

 

「そうか? 魔法世界のそこそこの猛者なら確かにイージス艦を単騎で複数沈めることぐらいはできるぞ?」

 

「「マジですか!?」」

 

 エヴァの信じられない発言にスワット驚くネギと明日菜。マリーは実際に父親がイージス艦を沈めるところを見たことがあるのでさほど驚くことはなかった。

 

「でも確かに気になるっちゃ気になるわな~。私も犬神君が強いのはしっとるけど、全力全開は見たことないし……。でも犬神君がそれなりの力を出して戦うことなんてそうあらへんし……」

 

「何を言っているマリー。今日あいつの強さの片鱗を見ることができるかもしれないぞ?」

 

 ネギの質問に答えてやりたいと思いながら、それがどれだけ難しいか知っているマリーは《う~ん》と腕を組んでうめき声を上げるが、エヴァはニヤッと笑いながらそれが存外簡単に解決することを教える。

 

「え? なんでよ?」

 

「昨日麻帆良に送りつけられたんだよ……」

 

 エヴァはそういいながら、一枚の封筒を取り出した。そこには角ばった文字で『S6』とかかれた特徴的なマークが刻み込まれており……。

 

 この麻帆良で――連敗中とはいえ――高畑やエヴァを除くイレギュラー以外で唯一犬神とガチンコ勝負ができる男、

 

「スパルタンⅥからの予告状が」

 

今宵の麻帆良は……嵐の到来が予想される。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ところでエヴァちゃん。魔法先生しか持ってへんはずのⅥの予告状をなんでエヴァちゃんが持っとるん?」

 

「……」

 

「エヴァちゃん?」

 

「マスターは学園長室からこれをパクってきたのです」

 

「ちょ、茶々丸!? 言うなと言ったろうが!! はっ!?」

 

「エ~ヴァ~チャ~ン?」

 

 

 

ちなみにⅥの強さは?

 

「え? イージス艦6・5隻ぐらいやけど?」

 

「……だからなんで、イージス艦なんですか」

 

「きさまの強さなど12000(コンブ)で十分だ」

 

「銀魂!? それもうただのコンブやんけ!?」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

『犬神君……キャーン言わせたるさかいな!! PS・今日図書館の魔導書適当にパクらさせてもらいます』

 

 何とも力強い文字で書かれたその予告状を読んだあと、ネギは大きく息をすいこんで、

 

「PSと本文、逆これ!!」

 

「いまさらやん」

 

「ね~」

 

 絶叫するネギの隣ではマリーとヒメがのんびりとお茶を飲んでいた。

 

 場所は犬神アンダーグラウンドサーチ。久しぶりに届けられたⅥからの予告状をネギが見聞していたところである。

 

「それにしても今回はえらい間が開いたな~」

 

「ふん……おおかた野菜の教育に夢中すぎて忘れていたんだろう」

 

「い、いくら師匠でもそんなことはないと思うんですけど……」

 

 鼻を鳴らしながら、興味がないといわんばかりに冷蔵庫に向かう犬神にひきつった笑みを浮かべてネギがフォローを入れるが、

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ふぇっくし!!」

 

「うわ、どうしたんだい六重!! 汚いな!!」

 

「いや……今誰かに図星つかれた気がしてん……」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そんな会話を帰宅途中の男子中学生たちが交わしているとはつゆ知らず、ネギはこの予告状どうしますといわんばかりに犬神に掲げてみる。

 

「まぁ、犬神さんのことでしょうから……こんなただ働きはしないとは思いますけど」

 

 ここ数か月ですっかりと犬神の性格になれたネギ。答えは聞くまでもないですね~。といわんばかりの表情になりながら、その予告状をシュレッダーにかけようとした。

 

 そのとき!!

 

「何を言っている野菜?」

 

「え?」

 

 瞬間。冷蔵庫の前から瞬間移動したとしか思えないような速さで移動したゲルが、いつの間にかネギの真横に立っていた!!

 

 その手には、二本の指に挟まれヒラヒラとはためく予告状。

 

「この僕を名指しにした挑戦状……」

 

 そして、犬神はいつになくクールな笑みを浮かべながら、ぎゅっと予告状を握りつぶしながら、不敵な笑みを浮かべて言い切った!

 

「受けなければ……失礼にあたるだろう!!」

 

「!?」

 

 久しぶりにかっこいい犬神の言葉。しかし、ネギはもう感動したりはしない!!

 

 だってありえないから。ゲルがただ働きとかありえないから!! いじめっ子に人形を取られて泣いていた女の子に、なけなしのお金を渡されて「人形を取り返して?」と涙目で依頼されても「断る。貧乏人」とか言っちゃうクサレ外道なのだから!!

 

 そんなゲルが……いくら挑戦状といってもただで動くことなんてないのだから!!

 

「きょ……今日は地球最後の日だったり……ヘブヒ!?」

 

 顔に縦線をいっぱい入れながら覚悟を決めた雰囲気で、恐れ戦くネギ。その脳天を拳骨で変形させたあと、犬神は平然とした表情で、

 

「依頼を受諾した。安川……野菜と助手の助手を連れていつものポイントで用意をしておけ」

 

「あいあいさ~」

 

 そういって部屋を出ていく、犬神を横目に見ながら、まるでどこかの怪獣映画に出てきそうな形に変形したネギの頭を元に戻しつつ、マリーはひきつった笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 時刻は午後1時。

 

 草木も眠る丑三つ時……というわけではないが、一般人なら大抵寝てんじゃねーの? といえるそれなりに遅い時間である。

 

 そんななか、やたらと派手にライトアップされている建物が一つ。

 

 麻帆良学園都市名物……図書館島。

 

 今夜スパルタンⅥが魔導書を盗みに来るということで、現在図書館島には魔法生徒・先生による厳戒態勢が敷かれているのだ。

 

 しかし、ネギやマリーはそこにはいない。

 

 彼らがいる場所は図書館島からはるか離れた、いつぞやの時計塔。

 

 彼らはそこの屋根に座りながら、厳戒態勢になっている図書館島を見下ろしているのだ。

 

「犬神さん……こんな離れたところにいて大丈夫なんですか? 師匠との決闘はうけられたんでしょう」

 

 ネギはⅥからの予告状をポイっとその辺に捨てながら、マリーたちに背を向けるように立っていた犬神にそう問いかける。

 

「問題ない」

 

「いや……でも」

 

「奴の目的は僕との決闘だ。魔導書の窃盗を防ぐのは学園の魔法使いたちの仕事。が、奴らは確実に逃げられるだろう。僕らは魔法先生や生徒たちから逃げてきたⅥを捕まえるだけでいい」

 

「逃げられるのは確定なんですね」

 

「基本バカの集まりだからな」

 

「きょ、教師をしている方もいるんですからそんなことはないと思い……」

 

 と、そこでネギの頭をよぎったのは初等部教師をしているというあのダイナマイトな危ない刑事(デカ)。もとい、教師(バカ)

 

 慌てて双眼鏡で図書館島のほうを見てみると、そこには安全装置を外した大口径銃を片手にうろつく、眼帯をつけた危ない男が立っていて……。

 

「ああ……納得しました」

 

「ネギ君。それ十歳の子がする顔とちゃうで?」

 

 色々と達観してしまった表情で目を細めるネギに、マリーは冷や汗をかきながらツッコミを入れた。

 

「でも……Ⅵがこっちにくる確率はかなり低い。私がパッと見ただけでも魔法先生たちから逃げきれる経路は738浮かぶよ?」

 

「うん? ヒメちゃんがⅥと犬神君との戦いみんのはじめてやった?」

 

「まともに戦っているのは見たことがない」

 

 ヒメの言葉に、そうやったか~と頷きながら、マリーは犬神の代わりに説明を開始した。

 

「あのな……Ⅵは犬神君のことを意識しすぎとるやんか?」

 

「「はい」」

 

 それは自他ともに認めるところだったのか、ヒメとネギは迷うことなく首肯する。それを見て『六重君ホンマわかりやすいもんな~』とちょっとだけうつろな笑みを浮かべながら、マリーは説明を続けた。

 

「せやからⅥは必ず私たちんところに来る」

 

「どうしてですか? 来たら負ける可能性があるのに……」

 

「そんな危ない橋を渡るの? 理解に苦しむ」

 

「そら~」

 

 マリーが二人の質問に答えようとした時だった。

 

「俺が怪盗やからにきまっとるやろ?」

 

 瞬間、何かがとんでもない勢いで時計塔前の広場に直撃した!!

 

 まるで大砲の直撃を受けたかのように、ひび割れ土煙を上げる石畳。その中央に立つのは、登場は本当にお久しぶりだった……

 

 流線型に逆立った金髪に、風もないのになびくマフラー。そして、素顔を隠す紅い仮面。

 

 明らかに悪目立ちしまくりな、悪趣味な格好をした麻帆良裏名物……怪盗スパルタンⅥ!!

 

「そこに壁あらば……あえて、挑まねばなるまい!!」

 

「ふん……。下らん。再び僕の糧となれ」

 

 麻帆良体術最強の化け物と、バグに育てられた次代の英雄の資質を持つ怪盗が、今……激突する!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「いや……というかさぁ少年探偵」

 

 そして、華麗に激しく登場を決めたスパルタンⅥは、額に手を当てた後一言、

 

「こいや現場に!! 教師と三つ巴とかこう……なんかそういうロマンみたいなんがあるやろうが!!」

 

 おっしゃる通りで……と、Ⅵの言葉にネギとマリーは顔を引きつらせる。

 

 怪盗本人がそういうこと言うのはなんだが、セオリーを破ったのは犬神なので何も言い返せないのだ。

 

「ところでわが弟子はなんでこんなところにおるんや? また単騎で俺と遣り合おうやなんて百年早いで?」

 

「いえ……今回は師匠と犬神さんの戦いを見学しようかなっと」

 

「ほう……」

 

 ネギのその言葉に、Ⅵは少しだけ目を細めて犬神に視線を戻す。

 

「こら……ええ加減な戦いはできひんな犬神君。チョイ今夜はガチでいくで?」

 

「かまわん。どちらにしろ結果は変わらんからな」

 

「はっは~ん。ゆうてくれるやんか? せやけど今夜の俺様は一味違うんやで犬神君。今夜勝つんはこの俺や」

 

 瞬間、Ⅵとゲルの姿がその場から幻のように掻き消えた!!

 

「え!? 師匠とゲルさんはどこに」

 

「どこを見ているボーヤ。むこうだ」

 

 突然二人が消えてしまったのを見て、慌てふためくネギに突然声がかけられる。

 

「あれ? エヴァちゃんも見に来たん?」

 

 突如として聞き覚えのある声が聞こえてきてさらに慌てるネギとちがい、マリーはその声の出どころを瞬時に聞き当て、空に目を向ける。

 

 そこには予想通り黒いマントを羽織った金髪エターナルロリ吸血鬼……エヴァンジェリンが茶々丸を伴って浮遊していた。

 

「私だけではないぞ?」

 

 エヴァンジェリンが指差した先には、長大な野太刀を伴った少女とライフルのスコープを覗きⅥとゲルの戦いを観戦している少女の二人組が近くの建物に立っていて、

 

「あ、あれ!! うちのクラスの出席番号15番と18番の桜咲きさんと龍宮さん!?」

 

「もとよりあいつらは裏の関係者兼実力者だからな。おおかたゲルとⅥという好カードの戦いの解析をして自分の血肉にしたいんだろう」

 

「あの二人が来たってことは古菲と楓も嗅ぎ付けとるんちゃうん?」

 

「古菲は何となく悟っているようだったが、あいつは一般人だからな。認識阻害の結界は越えられまいよ。楓は半分こっちに首を突っ込んでいるが、麻帆良の結界を抜くにはまだ至っていないからこっちに来るのは無理だろうな」

 

 マリーとエヴァンジェリンの口からポンポン明かされてしまう自分のクラスの重大機密に、『あわわわわわ……』恐れ戦きながらネギはエヴァンジェリンがさした方向を見つめてみる。

 

「あ!!」

 

「いた……」

 

 そして、ネギが驚きの声を上げると同時に同じタイミングで二人を補足したヒメがポツリとつぶやく。

 

 彼らが見た先では、さまざまな建物の屋根に出現と消失を繰り返しながらとんでもない勢いで移動をしているゲルとⅥ。

 

「瞬動術の連続使用……。あんなに近くにいたのに入りも抜きもまったくわからないなんて……」

 

「まぁ、あの二人は近接戦闘のエキスパートだからな。たかだか数日前に瞬動を完成させたボーヤでは捕捉は困難だろう」

 

 私が解説をしてやる。

 

 そういってエヴァンジェリンはマリーたちの隣に降りてきて、小さな魔法円を作り出した。

 

 そこには犬神とⅥの姿が鮮明に写しだされているが、速さだけは現実と全く同じという奇妙な映像が映っていて、

 

「ボーヤの足りない動体視力を補うように設定した遠視魔法だ。これで奴らの戦いを詳細に見ることができるだろう」

 

「あ、ありがとうございます!! あれ、でもマリーさんとヒメちゃんは見ないんですか?」

 

「ああ……わたしいっつもあの二人の戦闘みとるから慣れとんねん。クラレンスさんとの訓練もあのくらいでやるし、気ぃ使わんでええで?」

 

「帝国の模擬戦はあれの三倍で行う。暗殺者たるもの速さが命だから」

 

 二人が地味に自分よりも優秀であることを悟ったネギは、ちょっとだけへこみながら二人の戦いの観戦に戻るのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

『むぅ……いかん』

 

 内心そんなことを考えながら、どんどん近づいてくる犬神をちら見してⅥは冷や汗を流す。

 

 ネギには互角の速さで追っかけっこ(チェイス)しているかのように見えたのかもしれないが、実際は違う。実はⅥのほうが若干遅い。

 

 その理由は彼の背中にあって、

 

『荷物重っ……。調子に乗って盗みすぎた』

 

 もう『サンタクロースもびっくり』といわんばかりに膨れ上がった袋が、背中でピョンピョンとび跳ねるせいで、Ⅵがいつものスピードを出せていないのだ。当然その中は麻帆良学園図書館島からパクってきた分厚い魔導書の数々。

 

 その重さも伴っているせいか、現在Ⅵは大幅に速度を減少。正直逃げ切るにはかなり厳しい速度にまで自身の速度を落ち込ませているのだ。

 

「返すか? 土産が重そうだが?」

 

「!?」

 

 その時、Ⅵの内心を読み取りでもしたのか、Ⅵの横に並ぶまでに追いついた犬神がそんなことを囁く。

 

「あほか!! 獲物はゲットかつ君から逃げきってこその怪盗や!! この程度ハンデのうちやで!!」

 

 カソクソーチ!! えらく古い名前の技名を叫びながらさらなる加速をし、すぐに減速するⅥ。無理しまくっているのがスケスケだった。

 

「ふむ……。貴様に足りないもの、それは……」

 

 その時、犬神が信じられない言葉を呟いた!! 

 

 まさかあれを言うつもりか!? と、Ⅵが愕然としてふりむくと、

 

「情熱思想理念頭脳……」

 

 一息に言い切りながら瞬動でほんの少しずつ距離を詰める犬神。

 

「気品優雅さ勤勉さ……」

 

 さらに微瞬動を繰り返し、Ⅵとの距離をじりじりと詰める犬神。完全に遊んでいる。

 

「そしてなによりも……速さが足りない」

 

「えらいテンション低いなコルゥア!?」

 

 まぁ、そんな軽口をたたいたところでⅥがゲルに追いつかれそうな事実は変わらず、Ⅵは泣く泣く荷物を捨てることを選択した。

 

 もとより負けが込んでいるくせにハンデをつけようという考え自体が片腹痛いのだが、Ⅵにそれをツッコむ人間はこの場にはいない。

 

 だが、彼はスパルタンⅥ!! ただでは転ばない怪盗である!!

 

「シャーないわ!! 喰らえ!!」

 

 そして、突如として立ち止まり完璧に勢いを殺したⅥは自分に向かってツッコんでくる犬神に、持っていた袋をフルスイング!!

 

 Ⅵほどの実力者が重いと思ってしまうような重量を持った袋は、もはやそれ単体で凶悪な鈍器。ゲルの命を刈り取らんとする書籍のハンマーは、Ⅵの筋力補正も加わりとんでもない速さで振るわれた!!

 

「いま必殺!! 涙の……盗難文化財アターック!!」

 

 とんでもない轟音を伴い、振るわれた袋!! 

 

 しかし、犬神はマトリックスでもできねーんじゃねーの? とおもわれるほどほけぞりそれを回避する!!

 

 なんとひざをカクッと後ろ向きに曲げ地面すれすれのところで倒れかけた上体を止めたのだ!!

 

 尋常ではない筋力と、圧倒的な精密さをもって統御された気を使わないとできない所業。それを見ていたある神鳴流剣士が感嘆の息を漏らしたとか漏らしてないとか、

 

「にゃぁああああああああ!?」

 

 そして、Ⅵのほうも悲惨な目に合っていた。

 

 Ⅵのバカ力+とんでもない速さで振るわれた本たちの遠心力に本が入った袋が耐えきれなかったのだ。

 

 つまり何が言いたいのかというと、

 

 袋が見事に裂けてしまい、中に入っていた魔導書たちが流星のように夜空を飛行し麻帆良中に飛び散ってしまったのだ。

 

 Ⅵは獲物が根こそぎ消えてしまったことに勿論涙したが、『泣きたいのはこっちじゃ!!』とその光景を見ていた近右衛門が、叫んだことを彼らは知らない(後日大規模な認識阻害結界を張って魔導書を泣きながら回収する魔法先生たちが見られたらしい)。

 

 しかし、戦いはまだ終わっていない!!

 

「終わりだ」

 

「!?」

 

 泣きながら『さようなら……俺の獲物たち』と黄昏ているⅥに向かって、両手をポケットに入れたゲルから何かが飛来してくる!!

 

「っと!! デス眼鏡の技かいな!! 相変わらずやばいくらいの天才やな、犬神君!!」

 

 Ⅵはそう叫びながら全身に気を張り巡らせ、アッサリと犬神の見えない攻撃を受け止める!!

 

「師匠直伝!! 気合防御!!」

 

 吹き荒れる衝撃波!! 粉砕される屋根瓦!! ナミダを流す近右衛門(修理費は麻帆良の年間予算から出されました)!!

 

「はっ!! どうや!!」

 

 攻撃を完全に防ぎ切り、自慢げに胸をそらすⅥ。いつの間にか天高く跳躍をしていた犬神は、そんなⅥの様子などお構いなしに、再び見えない攻撃を放出する!!

 

「豪殺・居合拳。気ONLYver(バージョン)

 

「やば!?」

 

 瞬間!! 麻帆良に激震が走った!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 

 麻帆良の市街地に迸った激震と衝撃波。ふきとぶ建築物たち。

 

 それを見ていたネギはカクンと口を開けて固まった。

 

 あまりに威力がデカすぎる一撃に……。そしてもう魔法の隠匿とかどこ行っちゃったのと言わんばかりのあまりに桁外れな被害に!!

 

「ちょ、だいじょうぶなんですかあれぇええええええええ!? 今夜中に直るんですか!?」

 

「無理だろうな」

 

「隕石が落ちたとかそんな偽情報が流されるんやろ……」

 

「いつものこと」

 

「そんなこと言っている場合じゃないでしょう!? ハリウッド映画でもあり得ないくらいダイナミックな感じになっていますよ!?」

 

 錯乱しているのかネギの言葉に若干の不具合が見られるが、まぁ仕方ないかとマリーとエヴァはそれを流し、ヒメは落ち着けと言わんばかりにネギの頭をポンポンと叩く。

 

「ドウドウ……」

 

「あのヒメちゃん……僕動物じゃないんだけど」

 

 若干恥ずかしそうに頬を赤く染めながらそう反論するネギ。それでも少しは落ち着いたのか、先ほどよりだいぶテンションか下がった声で、エヴァたちに質問をぶつけた。

 

「それで……いったいなんなんですかあれ? ただの衝撃波ってわけじゃないんでしょ?」

 

「ほう……気づいたか」

 

「ええ……まぁ。龍宮さんたちの反応を見ていれば……」

 

 ネギがそう言って視線を動かす。その先には信じられないといった様子でゲルを見つめる二人の少女の姿が見て取れて……。

 

「まぁ、あいつら自身ゲルが本気で戦っているところを見るのは初めてだからな。あいつがあれを見せるのは本当に限られた相手だけだし……」

 

「だからあれはいったいなんなんですか?」

 

『へへへへ。それは俺っちが説明しますぜ、兄貴』

 

 そんな風にひきつった顔で黄昏れるエヴァにネギは『そんなにやばいものなの?』と言いたそうな顔で再び聞いたが、その答えは別のところからやってきた。

 

「え?」

 

「あ……」

 

「んあ?」

 

「なんだ?」

 

 ネギ、ヒメ、マリー、エヴァがそれぞれ今気づいたといわんばかりの表情でその声の方を振り向くとそこにはニタニタとへんな笑みを浮かべた小動物が一匹座っていて……。

 

「……」

 

『ヘヘヘ。兄貴ようやく帰ってきましたぜ……』

 

 得意満面といった顔でそう言った小動物に対して、ネギはさわやかな笑みを浮かべて一言、

 

「えっと……だれ?」

 

『ちょ!? 兄貴!! 出番久しぶりだからってその反応はひどくないっすか!?』

 

 以前登場したときはマリーによってメキメキ折りたたまれてしまいすぐに退場してしまった、ネギの使い魔(?)。アルベール・カモミールがようやく再登場したのだった!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

『うう……ひどいやひどいや……。俺っちマリーの姐さんにたたまれちまった後、ごみ箱に捨てられたから、必死こいて動物病院行って今まで療養してようやくここに戻ってきたっていうのに……兄貴俺っちのこと忘れているなんて』

 

「ご、ゴメン! カモくん!! いや、いまのは軽い冗談で!!」

 

 ダラダラ冷や汗を流しながら小動物に言い訳するネギを呆れた目で見ながら、エヴァはカモの話の続きを促す。

 

「どうでもいいから早く話を進めろ小動物。煮てくうぞ?」

 

『イエス・アイマム!! 誠心誠意説明させていただきますから食べないで!?』

 

 泣きながら懇願してくるカモに満足したのか、エヴァは無言で頷き二人の戦いの観戦に戻った。

 

 向こうではゲルが先ほど打った豪殺居合コブシとⅥの気合いパンチがぶつかっておりとんでもない衝撃波がまき散らされ麻帆良の街並みを粉砕しまくっていた。

 

「あれ……だれが修理費払うんやろ?」

 

「それはしらんが……もうⅥ逃がした方が安くつく気がしてきたな」

 

 そのあまりに悲惨すぎる戦いの様子に、マリーとエヴァは思わず顔をひきつらせた。

 

『あれは赤き翼(アラルブラ)のメンバーの一人が使っていたといわれる居合拳の強化版《豪殺・居合拳》でさぁ! 今はその英雄は死んじまって、使える人間はこの麻帆良にいる高畠・T・タカミチっておっさんだけで、これを使えたら魔法使いで言うところのAAランクは堅いとのことで……』

 

「そんなに!?」

 

「まぁ、あれはもとより究極技法と呼ばれる咸卦法というドーピングを使って筋力気力魔力をはね上げないと使えないものだからな。咸卦法が使えるだけでもAAは堅いという代物だ。そのランク付けもあながち間違ってはいない」

 

 カモの説明に補足を入れながら、エヴァはにやりと凶悪な笑みを浮かべる。

 

「だが、奴の異常さはそこではない」

 

「さようで」

 

 その時だった!! 突如彼らの後ろから声が聞こえてきたかと思うと、特徴的なひげをもつ紳士が忽然と彼らの前に姿を現したではないか!!

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 声の方向に振り向いたエヴァたちは見事に肩透かしを食らった状態になり、意地の悪い声で『ホホホホ』と笑うひげ紳士に若干三白眼になった瞳を向ける。

 

「クラレンスさん……からかわんとってーや」

 

「いやはや申し訳ありません。魔がさすとはまさしくこのこと」

 

 マリーの取りあえずといった様子のツッコミに美しく頭を下げながら、説明を再開するクラレンス。

 

「ゲルさまは魔力が全くありませんので『本来反発してしまう気と魔力を融合しそれを身の内と外にまとうことによって驚異的な身体能力を得る』咸卦法は一切使えません」

 

「え? でも居合拳はそれがないと使えないんじゃ」

 

「別にそれがないと使えないわけではないのです。圧倒的な燃費の悪さ、汎用性に低さを無視すれば身体能力を活性化させる『気』によって代用することも可能なのです。もっとも、それをしようとすれば咸卦法で使用する気の10倍の気力は必要です」

 

「まぁ、奴はそれを無視しても問題ないくらいの気を持っているということだ。その気になれば本気で某野菜人になれるんじゃないかあいつ?」

 

 エヴァの冗談交じりの言葉に、犬神たちの戦いを見ていたマリーは思わず顔を引きつらせる。

 

「いや……エヴァちゃん。それシャレにならへんわ」

 

「なにを……」

 

 その時!!

 

 某漫画のごとく光に柱がⅥに向かって伸び、とんでもない火力で通った場所を焼く!!

 

「「……」」

 

 思わず無言になるエヴァとマリーの視線の先にはあの特徴的な構えをとる犬神の姿があって……

 

「「カメハメ波かよ!?」」

 

 思わずそうツッコミを入れた二人は悪くないと思う。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 鼻先をかすめた気によって作られた熱線に、Ⅵは冷や汗を垂らしながらつぶやく。

 

「いやいやいやいやいやいやいやいやぁあああああああああああああああ!? なにさらしてくれてんの犬神君!? アウトやろ!? 版権的にアウトやろこれ!? ガンガンとマガジンどころかジャンプにも喧嘩うてもうたで!?」

 

「何をぬかしているのだ貴様。あれは僕のオリジナル必殺技《クワァメファメファ~》だ。妙な言いがかりはやめてもらおうか。ジャンプ? あいにく僕はジャンプSQ派だから何を言っているのかわからないな。某野菜人とかほんとに知らない。うちの居候のことか?」

 

「思いっきりしっとるやろ!? カメハメ波やろ? サイヤ人やろ!? あとあいつの名前確かにそれっぽいけど、死にかけるたびに強くなったりとかせーへんからあいつ!?」

 

 珍しくⅥがツッコミに回った会話のさなか、犬神はいつの間にか取り出した木刀を片手にⅥに向かって突っ込む。

 

「!?」

 

「もうそろそろいいだろう。決めるぞ」

 

 瞬間、犬神が振るった木刀からは雷が飛び出し、Ⅵに向かって襲い掛かる!!

 

「これは……神鳴流の雷鳴剣!?」

 

「刀子女史の物をみて真似たのだ。習得するのに一週間かかった」

 

「それでもたった一週間やろうが天才がぁあああああああああ!!」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「だが、奴の異常なところはそこではない」

 

『そうですぜ兄貴。問題なのはゲルの旦那が「どうして咸卦法を使わずに強殺居合コブシを打てるのか」ではなく、「どうしてゲルの旦那が居合コブシをうてるのか」でさぁ』

 

「!?」

 

 そこまで言われて、ネギはようやく犬神の異常性を理解した。

 

 使えればまず間違いなく英雄と肩を並べることができるほどの技術。通常なら習得には血反吐を吐くような努力を伴うであろうそれらを、犬神はいとも簡単に使って見せた。それも彼の教え子と同じ中学生なのに……だ。

 

「いったい……なんで?」

 

「刀語……というライトノベルをご存知ですかな? ネギ殿」

 

 クランレスの言葉に、ネギは首を振る。クランレスはその反応を見て予想通りといわんばかりに頷き、説明を開始した。

 

「そこのある特殊固有スキルに《見稽古》というものがあるのですがこれはありとあらゆる戦闘技術を見ただけで体得してしまうというスキルなのです。ゲルさまのあれ(・・)はまさしくそれの劣化版といったところなのですよ。ゲルさまは一度相手の技を見ただけでそれを体得するまでに必要な努力と方法を見抜かれます。そして圧倒的な集中力によってそれらの努力を通常の1000倍という短時間で終わらせ自分の技にしてしまわれるのです」

 

 文字通りの天才。その名にたがわぬ圧倒的な学習能力と、その学習能力に対応できるほどの化物じみた体。これが、犬神ゲルの強さの秘密。

 

「ゆえに……ゲルさまの本気を知っておられる方は、ゲルさまの才能をこう呼ばれます。《天才過ぎた秀才(アンリミテッド・アビリティ)》と」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 犬神ゲルは昔から強かったわけではなかった。当たり前だ。誰であろうと無力な子供時代というものはあるし、なければそれは人間ではない。

 

 しかし、彼が生まれた家はそれなりの金持ちのうえに、あくどい商売でもやっていたのか、それなり以上に人に恨まれており危険が多かった。

 

 そんな家に生まれた彼が強くないまま生き残れるわけもなく、仕方なく彼の両親は紛争地帯から帰ってきた腕利きの傭兵――マリーの父親である――をやといゲルの戦闘面での教育係にしたのだ。

 

 そして、一週間後のゲルをみた彼の両親は気づいた。

 

 

 

 あ、こいつ俺たちの手に負えないわ~。と

 

 

 

 この時……10歳にも満たなかった犬神ゲルは、わずか一週間でマリーの父親に技術のすべてを習得し、マリーの父親と互角に組み手を行っていたのだから。

 

 努力をしなかったわけではない。むしろ誰よりも努力する秀才と言っていいほど愚直な少年だった。だが、彼は天才すぎた。努力のすべてが報われてしまう天才だったのだ。

 

 そして、彼はこう呼ばれた……『化物』と。

 

 そしてそう呼んだバカどもを少年がタコ殴りにしたあげく、トラウマになるような拷問を二、三時間与えたのち少年の呼ばれ方はこう変化した。

 

天才過ぎた秀才(アンリミテッド・アビリティ)」と……。このころから犬神は金欲に取りつかれてしまい今の外道になってしまうのだが、それはまた別の話。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 ビルの壁面に足に貯めた気を使い張り付いた犬神は、全速力で逃げ回るⅥの背中をロックオンする。

 

 そして、彼の足元が爆発し、まるで砲弾のように犬神が飛び出した!!

 

 神速を謳う気力使いが最初にたどり着く音速縮地……縮地・无彊!!

 

 しかし、それは今までの高等すぎる戦闘からは考えられない下策だった!!

 

 その速さは尋常ではないが、思いっきり直線的な軌道を描きながら移動をするしかないこの縮地。本来長距離移動に使われるこれは、戦闘ではかなり不向き。

 

 当然Ⅵがそんなあからさまな失敗を見逃すわけがない!!

 

「はぁっ!! 油断したな犬神君!! その技使ったんは初めて見るから、新しく覚えた技見せたくてはしゃいでもうたんか!?」

 

 にやっと笑うⅥに、ゲルは少しだけ表情を動かし、気を足に貯め車輪状に変換しようとした。だが、そんな隙を見逃すⅥではない!!

 

「Ⅵ!! 千烈拳!!」

 

 無数に飛ぶ気弾! 千もの弾幕!! 

 

 一発一発が砲弾級の威力を持つⅥの気弾に、犬神の体は殴打されあっけなく墜落する!!

 

「あれ? 今メッチャええの入りませんでしたか?」

 

 あっけなく落ちていく犬神を見て、ちょっと拍子抜けしながら驚くⅥ。

 

 だが、そんな中でも彼の体は動く!! 当たり前だ!! 今までどれだけ犬神に負けてきたと思っている!! 犬神が落ちた程度で油断はしない!!

 

 Ⅵは落ちていく犬神を追うようにダイブし、高笑いを上げる。

 

「来た。ついにこの時が来てもうたらしいで犬神君!! テンションあがってきた~!! 今日こそ俺様勝たせてもらうで!! ワハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 落下中に二、三度居合コブシと気弾を交わしながら、Ⅵとゲルは落ちていく。

 

 そして、気力を足に貯め落下速度を若干犬神よりも早くしていたⅥは先に地面へと着地し、左手で《適当に右パンチ》(残念なことに一応技名認定)をぶっ放す!!

 

「ちっ」

 

 それを見て始終一貫して無表情だった犬神は、初めて面倒くさそうな顔になり舌打ちをした後、虚空瞬動を発動。大陸弾道弾のような威力を持った怪物気弾をあっさりとよけ、くるくる回転しながら地面へと着地する。

 

 場所は、狭いどこかのバルコニー。その下には用水路が流れており、小さな橋がいくつか架かっている。

 

「ふっ……流石は俺のライバル。俺とここまで互角に戦ったんはお前だけや」

 

「今まで全敗しているくせに?」

 

「そんな過去の話は忘れました」

 

 都合のいい記憶力を披露しつつ、Ⅵはにやりと笑う。

 

「なぜならいまおれは……勝ちつつあるからです!!」

 

 Ⅵはそう言いながら、不意を打つように瞬動し攻撃してきたゲルをあっさりとよけ、バルコニーから飛び降り、用水路にかかった小さな橋に降り立った!!

 

(やっぱり……。さっきの気弾がきいとるみたいやな。動きにいつものキレがないで犬神君!!)

 

 それは長年戦ってきたⅥだからこそ気づいた違和感。犬神の瞬動の入りがほんのわずかだが雑になっているし、コブシに振り方が0,001秒ほど遅い。

 

 普通なら気づかないであろうその差違に、達人であるⅥは気づいた。

 

 そして、その遅れが達人同士の戦いでは致命傷であることも、彼は知っている!

 

「どないしたん犬神君? こーへんのやったら逃げさせてもらうで!!」

 

 そして、Ⅵはバルコニーに立つ犬神を自分のそばに招きよせるために安い挑発で犬神をからかう。

 

 より確実に、より的確に……犬神の攻撃をよけ、カウンターを当てるために!!

 

 万全の状態の犬神だったら、それは不可能だったのかもしれない。だが、今の犬神ならそれは十分可能だと彼は踏んでいた。

 

 そして、

 

「今回は俺の勝ちみたいやな!! ハッハッハッハッ!! どんなもんや☆」

 

 やたらとうっとうしい笑い声をあげるⅥを無視して、犬神はバルコニーから飛び降り、シックスの背後にあった橋の欄干に着地!! 鋼鉄製のそれをゆがませながら、『フーッ』と残心を行い、

 

「はっ」

 

「……」

 

 最後の攻撃をⅥと交わす!!

 

 普段より若干遅い犬神の裏拳をⅥはやすやすとかわし、

 

「もろたで……」

 

 技後硬直に陥っている犬神に向かって、渾身の右ハイキックを叩き込んだ!!

 

「ウィーナァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! 俺様っ!!」

 

 英雄によって鍛えられた強力なⅥの蹴りに、犬神はあっけなく吹っ飛び、用水路にたたき落とされた。

 

 そして、Ⅵは用水路に流れる浅い川の中に倒れふし、起き上がってくることはなかった……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「す、すごい……師匠。犬神さんに勝つなんて……」

 

 そのころネギたちは、ゲルたちが建物の影に隠れてしまったため、エヴァが作ってくれた遠視魔法越しにその光景を見ていた。

 

 その後ろには戦いの様子が気になったのか、ネギに対する魔法隠匿など二の次でやってきている龍宮や桜咲もいる。

 

「というか、お前たち学園長の命令でぼーやに対する接触はできるだけ遠慮しろと言われているんじゃなかったのか?」

 

「うっ……。仕方ないじゃないですか。気になったんですから」

 

「エヴァンジェリンこの映像録画とかしてないか? 一般生徒に売ったらかなりの値段で売りさばけそうなんだが……」

 

「アカンよタツミー!! 魔法隠匿はどないしたん!?」

 

「銃士というのは金がかかるものなんだよマリー。弾薬代とか、弾丸代とか、新しい銃とか、甘いものとか、中学生なのに大人料金とられるとか……あとタツミーゆうな」

 

「最後の二つは明らかに不要やったよな、タツミー?」

 

 あくまで呼び方を変えないマリーにため息をつきつつ、龍宮は至って平然とした様子で水筒を取出し紅茶をみんなに配っているクラレンスを見つめた。

 

「それで? 宜しいのかなクラレンス殿。あなたの主がやられてしまいましたが」

 

「問題ありません」

 

「ああ……そうやな」

 

 しかし、そんなことを聞かれてもいたって普通の様子で返事を返すクラレンスとマリーに、周りの人々は首をかしげた。

 

「なんだ? ずいぶんと落ち着いているなマリー」

 

 エヴァの疑問の声に、マリーは苦笑いを浮かべ、

 

「やって、犬神君が……」

 

 タダ(・・)で負けるわけあらへんやん。

 

 マリーのその言葉はⅥには届かず、浮かれきった彼は何も知らないままに倒れた犬神に近づいていくのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ふふっ……。ついに……ついに勝ってしまったですよ。あの犬神君に」

 

 にやけきった顔でそうつぶやきながら、Ⅵは倒れ伏した犬神を見下ろす。

 

 そして、

 

「やられ続けて幾星霜……っ!! 初勝利!! 長かった!! だがようやく呪縛はとかれ、ここから新たなる怪盗スパルタンⅥ伝説の幕が……」

 

 そんな風にⅥが調子に乗っているときだった、

 

「だが、盗みは失敗しているがな」

 

「へっ?」

 

 さっき倒したはずの声が聞こえ、思わずⅥが固まる。と同時に……

 

 ガチャン。

 

「あり?」

 

「おまけにつかまっちゃうしね」

 

 Ⅵがやたらと金属質な音を聞いて振り返ってみると、そこには眼鏡をかけた七三という存在感が薄めな青年……レイジーが立っていて。

 

 そう言えばこいつあのダイナマイト教師(バカ)のそばにいーひんかったなー。地味やし気づかんかったわ~。いまさらながらに思い出して……

 

 自分の腕にかかった気力封印の呪文が書かれた手錠をじっと見つめる。

 

「……NO!?」

 

 そこでようやく自分が捕まってしまったことに気付いた、Ⅵは思わずそう絶叫した。

 

「と……いうことだ。僕の勝ちだな。スパルタンⅥ」

 

「なっ!? 俺の戦慄の右ハイくらったのに何で立てんねん!?」

 

「弱ったのが芝居だったからに決まっているだろう」

 

「!?!?!?!?!?!!?」

 

 なんかもう哀れなくらい目を白黒させるⅥがさすがにかわいそうになったのか、レイジーが苦笑交じりに解説を開始した。

 

「君が来る前に犬神君から連絡があってね。君をここにおびき寄せるから適当に人員ここに配置しておけって言われてね。まぁ、さすがに犬神君が吹っ飛んできたときは驚いたけど」

 

「お前とまともにやると無制限一本勝負でなかなか決着がつかんからな。わざとやられてみたんだが案の定逃げなかったな。スキ丸出しだ」

 

「くぅ~っ!!」

 

 悔しそうに口をへの字に曲げるⅥを、犬神は『フンっ』と鼻で笑う。

 

「ま……泥棒のくせに自己顕示欲が強い怪盗の性質(サガ)が敗因と言えば敗因だな」

 

「はっ」

 

 ここまで言われてはもはや悔しがることもできないのか、Ⅵはいつもの不敵な表情に戻り、肩をすくめた。

 

「ホンで? どないすんねん犬神君。できれば逃がしてほしいんやけど?」

 

「御免こうむる。いちおうそいつらからも(・・・)も依頼をもらっていてな。おとなしくお前を引き渡す」

 

「そういうこと。じゃ、ついてきてほしいかな? 六重君」

 

 犬神とレイジーの言葉に、Ⅵは思わず顔を引きつらせる。

 

「それはやめてほしーわ、レイジー……。お前の相棒のおっさんバイオレンスすぎるし、刀子女史からかいすぎとるから、必ずシバかれる思うねん。せやからまぁ……」

 

 Ⅵは最後にそう言うと、機で強化されていないただの身体能力で両足を跳ね上げ、

 

「へっ?」

 

 後ろに立っていたレイジーをカニばさみすると、そのまま体を大きく前回転させレイジーの体をひっこ抜くように宙に跳ね上げた!!

 

「ぎゃぁあああああああ!?」

 

 そして、そのままⅥの体を支点に大きく回転したレイジーは、そのまま顔面から地面にたたきつけられ悲惨な悲鳴を上げる。

 

「今日はこの辺で勘弁したるわ!! 覚えとけ!!」

 

 そして典型的な捨て台詞を残し、気が使えないはずなのにとんでもない速さで逃げ去っていくⅥを見送る犬神たち。

 

「……あの、犬神君。彼を追ってくれたりしないかな?」

 

 顔面から地面に思いっきり叩きつけられてしまい、鼻血やら何やらで悲惨な状況なったレイジーは顔を上げ、犬神に頼んでみるが、

 

「御免こうむる。僕への依頼はⅥの捕獲だ。捕獲の後逃げられたのはそちらの落ち度。僕の依頼はお前がⅥに手錠をかけたことで完遂されている」

 

「ですよね~」

 

 もういっそすがすがしいほど、犬神らしい理論によって叩き潰された自分の願いに、レイジーはうつろな笑みを浮かべながら意識を失うのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そのあんまりと言えばあんまりな終わり方に、遠視魔法を見ていた面々はしばらく固まった後、

 

「ふぅーっ。今日は遅いし……もう寝るか茶々丸」

 

「はい、マスター」

 

 吸血鬼らしからぬことをつぶやきながらエヴァたちは消え。

 

「ほな、事務所かえろか。ネギ君ヒメちゃん」

 

「「は~い」」

 

 なんかもういろいろ疲れた、といわんばかりの表情で呆然としていた二人の少年少女をうながし、マリーはさっさと帰っていく。

 

「では、また次回」

 

 クラレンスはそう言って空中に溶け込むように消えていき、残った桜咲と龍宮の二人は、

 

「龍宮」

 

「なんだ? 刹那」

 

「わたしは……『犬神さんみたいに強い人になって、お嬢様を守りたい』と、思ってこの戦いの観戦に来たのだが……」

 

 桜咲はそこで一拍おき、

 

「ああいう人には……なりたくないな」

 

「それはとてもいいことだと思うよ」

 

 そんな風に若干黄昏ている彼女たちは、しばらくその場を動けなかったという。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

後日談というか今回のオチ。

 

「おかしい……何度考えてもおかしい」

 

「どうしたの、ネギ?」

 

 Ⅵとの激闘が終わった翌日。事務所の応接室で一枚の依頼書を見つめながらウンウンうなるネギに、ヒメと遊びに来ていた明日菜が話しかけた。

 

「あ! 明日菜さんにヒメちゃん。いや……実は昨日師匠と犬神さんが対決したんでそれの観戦をしてきたんですけどね?」

 

 ネギはカクカクシカジカと明日菜に説明をした後に、麻帆良からのⅥ捕獲以来の書類を指差した。

 

「犬神さんがこの依頼を受けたときは師匠の挑戦状をうけとった後だったんですよ。でも、犬神さんはやたらと師匠の捕獲に乗り気でした。金の亡者の犬神さんがどうしてあんなに乗り気だったんだろうと思って……」

 

「金の亡者ってあんた……」

 

「ネギもだいぶ口が悪くなった……」

 

 やっぱり私たちのところで預かるべきかしら? ネギのあんまりな言い方に、若干顔をひきつらせて再びネギの身元保護を思案する明日菜を横に、ヒメとネギは首をかしげていた。そんなとき、

 

「なんや……そんなことかいな?」

 

 そう言ってマリーが巨大な箱を持って応接室に入ってきた。

 

「あ、マリーさん」

 

「そういうたら説明してへんかったな~。クラレンスさんよろしゅう」

 

「かしこまりましたマリー様」

 

「「うわっ!?」」

 

 まるで空間からにじみ出るように現れたクランレスに驚く明日菜とネギをしり目に、クランレスはいつものように説明を開始する。

 

「スパルタンⅥからの挑戦状ですが、実はあれは仕事の依頼状なのですよ」

 

「「はぁっ!?」」

 

 クランレスから聞かされたとんでもない事実に、なにも知らなかった明日菜とネギは思わず固まる。

 

 ちなみにヒメはそんなこともうどうでもいいといわんばかりに、マリーの背中に飛びつきおぶさられていた。

 

「Ⅵ様がゲルさまに挑戦をされ始めた当初、ゲルさまがあまりにⅥ様からの挑戦を無視しまくられたため、ついには『自分を捕まえてくれ……』と依頼料入りに挑戦状が送られてくるようになったのです。実は今回も封筒の中に報酬の入ったコインロッカーの鍵が同封されており『もはや本末転倒やん!!』と突っ込むことこそ愚の骨頂といった感じで、にんともかんともやれやれな状況なのですよ」

 

「あいつほんとにバカだったのね……」

 

「師匠……」

 

 あんまりといえばあんまりな事実に、顔に縦線入れまくりにネギたちにマリーが担いだ箱の陰から出てきた犬神が、箱を指差しながら声をかけてくる。

 

「おい、喜べ野菜。今回の報酬はやけにレアな魔法宝具類だ。風の結界で覆われて姿が見えない剣まであるぞ」

 

「いやそれって、麻帆良から盗まれた宝具じゃないですか!?」

 

「というかその剣、絶対にこの世界にあっちゃいけないものでしょう!?」

 

 ネギと明日菜のツッコミを無視しつつ、報酬をもらった犬神はひとこと、

 

「労働の汗というのは……素晴らしいな。クラレンス」

 

「御意に」

 

 クラレンスの右手にはいつの間にかつけられていた、やけに高級な装飾を施された指輪型の宝具が輝いており……

 

「「「いや……おかしいやろうがぁあああああああああああああ!?」」」

 

 マリー、明日菜、ネギのツッコミが、犬神アンダーグラウンドサーチの事務所に響き渡るのだった。

 

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