とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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12話・修学旅行前

「ふふ~ふふ~♪」

 

「なんやネギ君? えらいご機嫌やな?」

 

「あ、わかります~?」

 

「そんだけ浮かれきっていたら誰だってわかるわよ……」

 

 ある麻帆良の昼下がり……。

 

 Ⅵと犬神の激闘を見届けた日の次の週。麻帆良の街並みをスキップせんばかりの勢いで歩いているネギに、一緒に昼食をとろうとついてきていた明日菜とマリーはそう尋ねた。

 

 彼女たちが訪れているのは女子中等部内部にあるとある喫茶店。ここはマンモス校である女子中等部の学食がパンクしてしまった時に使えるように設置されたもので、ちょっとおしゃれな気分で昼食をとりたい生徒たちがたむろする、オープン喫茶である。

 

 今日のように雲一つない快晴だと、ここで優雅に昼食をしゃれ込む生徒たちも少なくはない。

 

 たとえば……

 

「あ」

 

「あ……」

 

 エヴァンジェリンのようなプライドが高めで、やたらと優雅さを重視するような生徒たちがよく来ていたりする。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「こんなところで会うなんて奇遇ですねエヴァさん!!」

 

「エヴァンジェリンだ、ボーヤ」

 

「マリー様にはエヴァでいいとおっしゃられていたではないですか」

 

「黙れ、ボケロボ……」

 

 久しぶりに出会ったエヴァに、にこにこ笑いながら同席の許可を求めるネギを一睨みしたエヴァだったが、後ろにマリーがいることを確認するとあっさりと許可をくれた。

 

 そんなエヴァにネギはにこにこと笑いかけて、マリーがよく使う愛称で呼んでみたが、エヴァからはすげなく断られる。まぁ、エヴァはそのあとすぐにお供のごとく連れていた茶々丸に茶化され顔を真っ赤にしていたが。

 

「あ、そういえばエヴァちゃん。今思い出したんだけど~」

 

「な、なんだ?」

 

 そんな風にあいさつを済ませた後、コーヒを傍らに(ネギはミルクティーだったが)昼食をとっていた時だった。

 

 ほかのメンツより早めに昼食を取り終えた明日菜がにやにや笑いながらエヴァに話しかけたのは。

 

「エヴァちゃん……ネギのお父さんのことが好きだったんでしょ? どこに惚れたの?」

 

「ぶふぅっ!?」

 

 明日菜のとんでもない言葉に、エヴァは飲んでいたコーヒー(角砂糖大量混入物)を盛大に吐き出した後、ひきつった顔をするマリーを睨みつけ、『僕も聞きたいです!!』と言わんばかりの表情で目を輝かせるネギの襟首をつかみ締め上げた。

 

「だいたい……お前たちがあそこであんな魔道具を使わなければ!!」

 

「マスター落ち着いて!!」

 

「ちょ!? ネギ!? 大丈夫!?」

 

 顔を真っ赤にしてそんなことを叫ぶエヴァと、青い顔で泡をブクブクと吐き始めるネギに茶々丸と明日菜があわてて止めに入った。

 

「はぁ……。だが、奴は死んだ。十年前にな」

 

 そして、ひとしきり騒いだ後、落ち着いたエヴァは何やら黄昏た表情になりながらため息をつく。

 

 会いたいと待ち望み、呪いをかけられてなお心のどこかで慕っていた男が死んだと言われているのだ。彼女の気持ちをまだ十数年しか生きていないマリーや明日菜は推し量ることはできなかった。

 

 だが、

 

「まぁ……そんなへこむことないって。よーあることやん」

 

「そうよ。男なんて星の数ほどいるんだから」

 

「お前たち……本当に中学生か?」

 

 とりあえずは励まさなければならないということは敏感に察知したようで、マリーと明日菜は口々にとんでもない言葉を発した。どこぞの昼ドラにでてきそうなセリフで、エヴァが若干ひいていたが。

 

 そんな風に女子勢が雑談に興じる中、ネギだけが首をかしげてひとこと、

 

「え? 父さんならまだ生きていると思いますよ?」

 

「「「へ?」」」

 

 とんでもない爆弾を投下した。

 

「お、おい!? それは本当かボーヤ!!」

 

「ちょ、生きているんならなんでもっと早くにエヴァちゃんに教えてあげなかったのよ!!」

 

 そんな風にあっさりと落された爆弾に、明日菜とエヴァが泡を食ってネギに掴みかかる。マリーもその言葉には若干驚きを示しており、目を丸くしていた。

 

 サウザンドマスター死亡説は十年前から根強く流れており、あのクラレンスですら死んだことを疑っていなかったのだから。

 

「い、今も生きている確証はないんですけど……少なくとも十年前には死んでいないはずです。だって、僕は……サウザンドマスター――父さんに会ったことがあるんですから!!」

 

「!?」

 

 ネギのとんでも発言に、エヴァは少しのあいだ固まり、

 

「そ、そうか……生きていたか」

 

 マリーですら見たことがない、泣き笑いのような美しい笑みを浮かべた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その数分後。学園への帰り道、

 

「わはははははは!! そうかそうか!! 奴が生きていたか!! まぁ、殺しても死なんような奴だとは思っていたよ!!」

 

「エヴァちゃん……その笑い方はちょっと」

 

 まるでどこかの覇王のような笑い方をする(もしくは魔王)エヴァに『女の子なんやから』と、マリーは自重を促す。

 

 そんな彼女たちの後ろを歩いている明日菜と茶々丸は、ニヤニヤ笑いながら、

 

「うれしそうね」

 

「はい。あのようなマスターを見るのは久しぶりです」

 

 エヴァのことを指差して、茶々丸のハードに映像を保存していたりする。むろんうれしさの境地にいるエヴァはそのことに気付いていない。

 

「すくなくとも僕は生きていると信じています。だから僕は立派な魔法使いになって父さんを探し出したいんですけど……なにぶん手がかりがこの杖だけでして」

 

 そんな風に笑うエヴァに、ネギも苦笑を浮かべながら自分の杖を示してみた。それを見てエヴァはようやくそれがサウザンドマスターの形見だと気付き、目元の涙をぬぐう。それは笑いによって出たものか、うれし泣きの物なのかはネギにはわからなかったが、少なくともマイナスなものではないので特に何も言うことはなかった。

 

「まぁ、だとするなら今回の修学旅行はまさしく渡りに船だろう。ボーヤ」

 

「え? なんでです?」

 

「うちのクラスの修学旅行先は十中八九京都だろう?」

 

 委員長がお前に気を遣うだろうからな……。エヴァのその言葉を無視して、ネギはキラッと目を輝かせた!!

 

「はいっ!! そうなんです!! 正確な行き先は次の時間のクラス会議で決めますけど、目的地はハワイか京都だけですから半分の確率で京都!! いいですよね、京都!! 日本最大の古美術・歴史建造物の宝庫!! 古都京都!! 一度でいいから行ってみたかったんですよ!!」

 

 目を輝かせながらどこから取り出したのかも不明な大量のパンフレットを空中に広げ、京都に対する熱い思いを語りだすネギ。

 

 マリーや明日菜はその光景に若干ひくが、エヴァだけは違ったようで、

 

「バカか貴様は!! 確かに京都は日本の和の精神の本家であり建築物の美麗さみやびやかさは他国の歴史的建築物にも引けを取らんが、それだけではない!! まず挙げられるのはそこ特有のみやびやかさを重視する文化だ!! 舞妓や伝統芸能も根強く残っており、そういったやつらには気品がある。そのほかにも京都独特の食文化や、宝石のような和菓子たち!! それを語れぬようで京都好きを名乗ろうなど片腹痛いわ!!」

 

「むっ!! え、エヴァさんやりますね!!」

 

 一息にそう語り『ドヤァ』とばかりに胸を張ってくるエヴァに何やら戦慄するネギ。ツッコミをいれようかどうしようか迷ってハリセンを待機させているマリーが後ろにいるのが印象的だ。

 

「ふっ!! だてに十年間麻帆良に閉じ込められていないわ!! 京都は、私の『いつか行きたい場所ランキング!!』の、堂々の第一位だぞ!!」

 

「ゆーててさびしくならへんの? エヴァちゃん」

 

「ちょっと……」

 

 マリーの半眼のツッコミに、エヴァは若干顔を赤く染めて目をそらした後、逆切れ気味にネギを怒鳴った。

 

「い、今はそんな話はしていないだろうボーヤ!! 京都にはサウザンドマスターとは縁が深いある男が住んでいるからそいつを尋ねたらいいだろう!! しかもそいつが管理している建物の中にはあいつの隠れ家があるからな!!」

 

「え!? 父さんの知り合いに、隠れ家!? そんなものまであるんですか!?」

 

「京都は日本有数の霊地やからな~。そこの居を構える魔法使いも多いらしいで?」

 

 まぁ、あそこは関西……陰陽師の管轄やから、西洋魔法使いはめったに入れへんねんけど……。

 

 マリーの不穏なつぶやきは聞こえなかったのか、ネギはさらに意味合いを増した京都観光に思いをはせ、一人空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 そのご、やっぱり修学旅行の行き先は京都に決まったり、近右衛門から『京都いきたいんだったら親書もって行ってね~。ついでに組織間の関係も円滑にしておいて~』なんて無茶ブリをされたりしたのだが、割愛!!

 

 なぜなら、それ以上の問題がネギたちの帰った事務所で起こっていたからだ。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「はぁ~。親書どうしましょう……」

 

『大丈夫!! 兄貴ならきっとやれますって!!』

 

 そんなこんなで、帰宅したマリーとネギ。ネギの肩には最近ようやく出番が出てきたカモがのっており、勢いに任せて学園長からの依頼を受けてしまってへこんでいるネギを元気づけていた。

 

「でも僕が使われるのって正直『英雄の息子』っていうネームバリューが使えるからなんだよ? 西洋魔法使いの父さんの栄光が一体どこまで通じるものなのか……」

 

「ネギ君……最近シビアになったな」

 

 そんな風に落ち込むネギにひきつった顔でツッコミを入れながら、マリーは犬神アンダーグラウンドサーチの玄関のドアを開ける。

 

「おかえりなさいませ。マリー様、ネギ様」

 

「おかえり……マリー。ネギ」

 

「ただいまクラレンスさん、ヒメちゃ~ん!!」

 

「あはははは……ただいま」

 

「ネギなにかあったの?」

 

「うん……。口は災いのもとっていうのを実感しているところ」

 

「?」

 

 そんな風にへこむネギを不思議そうに見るヒメ。そんな彼女たちをほほえましそうに見つめながらマリーはクラレンスに重要案件を尋ねてみる。

 

「犬神君の修学旅行ってどこなん? いや、まず間違いなくネギ君と同じ京都行くんやろうけど」

 

 近右衛門の親書配達の依頼もそれを見越して出された可能性が高い。なにせ犬神はネギが一人前になるまで身の安全を保障する義務がある。ネギが京都に行くなら必ずついていくだろうし、ついて行かなければならない。そこまで勘定に入れると、ネギを親書の配達人にするのはあながち間違った判断ともいえない。

 

 なにせ護衛についていくのがAAA越えの化物なのだから……。

 

 直接犬神に依頼せずにネギに依頼したのは、その制約を使ってただで犬神を動かそうという近右衛門の姑息な策だろう。最近麻帆良はスパルタンⅥやら、彼と犬神の激闘やらで金が羽をつけてとんでいっているらしいから……。

 

 だが、

 

「何を言っている安川」

 

 そんなマリーや近右衛門の予想を裏切り、リビングから出てきた犬神はとんでもない爆弾を投下した!!

 

「僕はワイハーに行くに決まっているだろう?」

 

「「え?」」

 

 その瞬間、マリーたちが一瞬で凍りつきその場に沈黙が降り立った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「何を言っている安川。僕はワイハーに行くに決まっているだろう?」

 

「「え?」」

 

 相変わらずの無表情のまま、ゲルはとんでもない事実を暴露した。瞬間的に氷結し動きを止めるマリーとネギ。

 

 そして、数秒後、先に復活したのはマリーだった。

 

「ちょ!? ハワイって……どういうことなん犬神君!?」

 

「安川……僕はな……ワイハーでワイハーまんじゅうを食べてみたいのだ」

 

「ないで!? ハワイ饅頭なんてないで、犬神君!?」

 

「では、フラダンスを習いに行きたいのだ?」

 

「『では』ゆーた!? しかも語尾が疑問形!?」

 

「ふっ……正直に言おう。僕はキラウエアを爆発させに行きたいのだ!!」

 

「犬神君やったらできそうで怖いわ!?」

 

「リア充……爆発しろ!!」

 

「違うもんが爆発しとるやろ!?」

 

「ちょ……犬神さん京都についてきてくれないんですか!?」

 

 悪ふざけたっぷりに、ボケを連続して放つ犬神に、マリーは勢いよくツッコミを入れる。そんな二人を見てようやく復活したネギは、少し顔色を悪くしながら犬神に食って掛かった。

 

「そ、そんな!? 困ります~。僕今回の修学旅行で関西に親書を届けないといけなくなって……犬神さんの護衛がほしいんですよ~!!」

 

 ネギの必死な懇願に、犬神は特に表情を動かすことなくコーヒーが入ったカップを傾け、中に入っていたコーヒーを飲み干す。そして、

 

「さて……次の依頼の話だが」

 

「待て待て待て待てぇええええええええええええ!! いや、事情くらい説明してーや、犬神君!? 犬神君はネギ君が一人前になるまで面倒を見る必要があるねんで!?」

 

「では一つ聞こう安川……現状この麻帆良で今のネギに勝てる魔法生徒は何人いる?」

 

「え?」

 

 マリーはそう問われて、思わず考え込む。

 

 現在のネギの戦力は……瞬動術をはじめ、戦いの歌による身体強化によってのクラスがBB。魔法の射手の威力がA。中級呪文保有数33。大呪文保有数3。そのすべてがⅥに、戦闘に必要と言われネギが取りあえず習得したすべてだ。

 

 実際戦闘で使えるかどうかと聞かれれば否。だが、その実力はすでに一般魔法生徒を大きく上回っているといっても過言ではないはずだ。

 

「犬神君……六重君……猫谷君……ぎりぎりで高音先輩かいな?」

 

「僕の評価も大体そんな感じだ。連合の評価に換算すると魔法生徒としては破格のBBBといったところだろう。もう野菜の実力は一人前と言っても差し支えない」

 

「せ、せやけど……ネギ君は英雄の息子なんやから、それなりに危険な敵と戦うときも来るんちゃうん? それに、お父さん探すんやったらせめて戦時中の《千の呪文》くらいまで育てるんが筋ちゃうの?」

 

「それこそ『知ったことか』だな」

 

 ゲルは所長席に座りながら、某補完計画の首謀者のような腕の組み方をしてマリーとネギを見つめる。

 

「碇ゲ○ドウかいな!?」

 

「僕への依頼はあくまで野菜を一人前にすること。一人前の実力が付いたのなら、あとはどうなろうと知ったことではない」

 

 犬神の底冷えするような冷たい言葉に、ネギは思わず顔を引きつらせる。まさかこんなところで切り離されるとは……予想外も甚だしい。

 

「え……ということは、僕ここから出て行かないといけないんですか?」

 

「一人前になったらな。幸い神楽坂が面倒を見るといってきているから、衣食住は困らんだろう?」

 

「ちょ、犬神君!! いくらなんでもそれは冷たすぎるやんか!!」

 

 その言葉には、さすがのマリーも表情を変え、犬神を睨みつけた。

 

 いくら鬼畜外道の犬神であっても、さすがに依頼を途中で放棄するようなまねをするとは思わなかった。

 

 そう言わんばかりのマリーの表情に、犬神は少しだけため息をつきながら、組んでいた腕を解いた。

 

「何も今すぐにとは言わん。それに……そのことはまだ決定していない。それを決めるための修学旅行だ」

 

「ふぇ?」

 

「どういうことですか?」

 

 首をかしげるマリーとネギに、

 

「わたくしが説明しましょう!!」

 

「「!?」」

 

 今まで黙ってコーヒーをついでいたクラレンスが、瞬動でも使ったかのようにネギたちの前に転移してきた。。

 

「って、こわっ!?」

 

「クラレンスさん!! 移動のしかたが心臓に悪いです!!」

 

 抱き合ってガタガタと震えるマリーとネギの言葉はオールスルーし、クラレンスは懐から巨大なホワイトボードを取出し手早く図を描いていく。

 

「いや……明らかにおかしい描写があったやん!?」

 

「クラレンスの懐は四次元ポケット……私入ったことある」

 

「マジで、ヒメちゃん!?」

 

 ネコ型ロボットもびっくりな事実が明らかになったところで、図を書き終わったクラレンスは説明を開始した。

 

「今回の修学旅行は、ネギ様が一人前になられたか確かめるためのテストの役割を兼ねております。試験官は魔法先生二名を用意しております。無論ネギ様が知らない魔法先生ですので、協力を求めることはできません。本人たちにも決して正体を明かさないように近右衛門様から厳重注意が行われています」

 

「!!」

 

 突然言われたとんでもない事実に、ネギは目を見開く。

 

 マリーもその話を聞いてようやく事態が呑み込めたのか、『いつから計画しとったんよ?』という雰囲気を含んだ視線をゲルに飛ばした。

 

「合格条件は、ネギ様が『クラスのメンバーに魔法ばれしないこと』『関西からの妨害をはねのけること』『無事に親書を送り届けること』でございます。なお、試験官に含まれていない関係者の方になら救援を求めることは可能です」

 

「つまり……私、明日菜、タツミー、桜咲さんやったら救援を求めてもオッケーゆーこと?」

 

「さようで」

 

 その言葉を聞いて、ネギは思わず安堵の息をついた。さすがに一人でやれと言われたらネギは完全に白旗を上げるしかなかっただろう。

 

「でも、試験が親書渡しって結構厳しない? 仮にも仲の悪い組織同士の仲取り持つんやし……」

 

「勘違いするなよ、安川。この親書渡しは、本来は『初めてのお使い』程度の難易度しかもたん」

 

「「へっ!?」」

 

 犬神から発せられた信じられない事実に、マリーとネギの目が点になった。そんなマリーを見かねたのか、クラレンスがさらに補足を入れてくれる。

 

「現在の関西呪術教会の長は近右衛門殿の娘様の婿……つまりは義理の息子殿である近衛詠春殿でございます。婿養子である彼は元魔法世界の英雄……赤き翼に所属しておりネギ様の父上であらせられる《千の呪文》――ナギ・スプリングフィールド殿と旧知の仲にございます。よほどのことがない限り、ネギ様は手厚く歓迎されることでしょう。事前に連絡もいっていますし」

 

「そうなんですか!?」

 

「何より関西呪術教会は現在詠春殿を中心にまとまっております。反抗勢力などもはやスズメの涙。ゲリラやテロといったまねができるチームは皆無といっていいでしょう。つまり、関西呪術教会の反抗勢力の妨害があったとしても、せいぜい悪質な悪戯程度が関の山だと思われます」

 

 クランレスの冷静な分析に、ネギは思わずため息をつきながら、膝をついた。

 

 さっきまでの気苦労はいったいなんだったんですか? 

 

 ネギの脳裏に、今までへこみまくっていた自分が浮かび上がり、ちょっとだけうつろな笑みを浮かべる。

 

「まぁ、一人前と認められるにはやや軽めな試験だが、麻帆良の連中もお前がエターナルロリと戦っているところを見ているからな。実力面からみれば申し分ないことは周知の事実だ。だからこそのこのタイミングでの試験の実施が決定された」

 

「ゲル様がわざわざ遠くへと修学旅行に行かれるのは、いざというときに安易にゲル様を頼らないようにするためにございます」

 

「そうやったんか……」

 

 クランレスの説明が終了し、マリーとネギは納得した風に頷く。そして、

 

 だったら初めからそう言ってよ……。とばかりに、恨めしげな視線を犬神に向けた。

 

「まぁ、ワイハーに行きたかったというのは本当だがな」

 

「……火山の話は冗談やんな」

 

「さて……」

 

「話そらさんとって!?」

 

 そんないつも通りに犬神とマリーの掛け合いに、ネギは少し笑みを浮かべた。そんなネギをしり目に、所長席のデスクの引き出しの中から何かを取り出した犬神は、それをネギに向かって投げつける。

 

「ほれ、野菜。餞別だ」

 

「はい?」

 

 キラキラと光り何かが放物線を描いて飛び、ネギが拡げた手のひらに収まる。

 

 その物体を掴み取ったネギは、自分の手に収まった物体――銀製のペンダントで、三つの五芒星が書かれている――を見つめて首をかしげた。

 

「なんですか? これ?」

 

「お守りみたいなものだ。持っておけ」

 

 犬神がそう言うと同時に、マリーが恐れおののいた様子でそのお守りを見つめた。

 

「い、犬神君がタダで物を……しかも、神を信じてへんくせにお守りやって!?」

 

「安川……僕が神を信じていないといついった」

 

「いや、言ってへんけど普段の言動からしてそうやんか? 神をも畏れぬ所業しとるやん?」

 

「安川……ここで僕の座右の銘を教えてやろう。『神の沙汰も金次第』」

 

「神すら金で動かす気かいな自分!?」

 

 そんな風にいつもの漫才モードに戻った二人をしり目に、ネギはゲルから渡されたお守りを握り締め、目を閉じる。

 

 右も左もわからなかった自分に、自分を利用しようとしている大きな力があることや、それに対抗できるように力をつけること、社会の厳しさを教えてくれた犬神アンダーグラウンドでの生活を思い出しながら。

 

「……」

 

 ああ、思い出せば……

 

「………………………」

 

 ……ろくなことがなかったな~。

 

 反面教師にであうわ、三十代モラトリアムを捕獲しなければいけないわ、見たくもない浮気現場の調査に向かわされるわ、たきつけられて怒り狂った最強の吸血鬼と戦わされるわ……。

 

 でも、まぁ……。

 

「楽しい生活だったんですけどね~」

 

「ネギ?」

 

 そんなネギの様子を不審に思ったのか、心配そうな声でヒメが話しかけてきてくれた。

 

「どうしたの?」

 

「……べつに」

 

 そんなヒメの頭にポンと手を置き、ネギはにっこりとほほ笑んだ後、

 

「犬神さん!!」

 

 大きな声で、マリーのハリセンを食らっている犬神に話しかけた。

 

「……なんだ? 野菜?」

 

 マリーの一撃によって吹き飛んだ眼鏡を拾いながら、犬神はそう返す。その目には鋭い光が宿っており、ネギの一挙手一投足をじっと見つめていた。

 

「今までありがとうございました!! 試験……絶対合格して見せます!!」

 

 ネギはそう言って、元気良く頭を下げた。

 

 ほぼ直角。最大級の礼。

 

 それを送ってくるネギを、犬神はしばらく無感動な目で見た後、

 

「ああ……がんばってこい」

 

 いつものようにそっけなく、そう言葉を返すのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ホンマにいってええんやろか?」

 

「何がだ?」

 

 ネギの最終試験が言い渡された数日後。とある国際空港にて、金髪をヘアバンドでまとめた少年と、メガネをかけた鋭い瞳を持つ少年がキャリーバックを傍らに置きだべっていた。

 

 彼らの周りにはいかにも「これからハワイ行きます!!」浮かれきった雰囲気を垂れ流す男子中学生たちがたむろしており、ハワイでの予定を立てている。

 

 そう。このメンバーは麻帆良の男子中等部の修学旅行メンバー。女子中等部がいまだに旅行の準備をしているのに対して、彼らは行き先がハワイということもあり、女子中学校よりも早めの出発となっている。

 

「いや……京都って色々と不穏なうわさがある所やん? そんなところにネギ一人で行かせてえーもんかいなとおもて……」

 

 金髪ヘアバンドの少年……スパルタンⅥこと六重は、少し心配そうな表情をしながら、自分のことを師匠としたってくれる少年のことを思い出す。

 

 彼としては、いくら近衛詠春の守りがあるといっても、10歳の弟子を一人敵地に放り込むのは忍びないと思っていたりするのだが、

 

「何をくだらないことを……。それにやつは一人じゃない。安川も神楽坂もいるし、何よりあの桜咲刹那もいる……いざとなれば封印状態とはいえエターナルロリも参戦できるのだ。これ以上の盤石な布陣はないだろうが」

 

 ネギの家主であるメガネをかけた鋭い目をした少年……犬神はいたって平然とした様子で、そう吐き捨て視線を手に持っていたハワイのパンフレットから一切外すことはなかった。

 

「なにより……」

 

「なにより?」

 

「ぶっちゃけ、そろそろあいつの生活費が学園長からもらえる報酬に届きそうだからな。いい加減ほかのところに移ってもらわないと困ると思ったのだ……」

 

「きみゆーやつは……」

 

 そんな犬神のあんまりな態度に、ドン引きする六重。そして彼の隣に座っていた毛先が遊んだ髪を持つ、蝶ネクタイをつけた少年探偵然とした恰好をする少年も、思わず顔を引きつらせる。

 

「君はホントに相変わらずだね……」

 

「何か言ったかイエダニ君?」

 

「僕の名前は猫谷だがね!! といか、君の口癖師匠にまで移ってしまったじゃないか!? どうしてくれる!!」

 

 犬神の呼びかけにクワッと怒声を上げながら立ち上がったのは、麻帆良の魔法生徒一の実力を持つといわれる猫谷コースケ。原作者が猫田一にしようと思ったけど猫田一金五郎がもういたのでやめてしまったいわくつきのキャラクターである。

 

「なんか勝手にいわくつきにされた気がするが……」

 

「何を言っているんだネコダニ君」

 

「ダニじゃなくて谷!!」

 

「些細な違いだ」

 

「その些細の違いが、僕が人間かどうかの分水嶺なのだが!?」

 

 犬神との会話の間は顔に縦線入れまくりの彼だが、実は本当に実力があり、炎属性魔法最強の《燃える天空》の完全制御をこの年ではたしていたり、図書館島の地下に住むある変態を師事して重力魔術を覚えていたりするのだが……。

 

「くそっ!! ハワイで吠え面かかせてやるからな!! じっちゃんの……猫田一家始まって以来の天才と呼ばれながら謎の失踪をとげたじっちゃんの・息子なのにパッとしなくてコンプレックスの塊で、でも乗り越えようとしてじっちゃんを探しに行ったきり音信不通の父さんを・心配しつつも僕を見守ってくれてそれでもやっぱり心労で倒れてしまい、現在入院中の……母さんの名にかけてぇえええええええええええ!!」

 

 泣きながら空港のどこかへ走り去っていくネコダニを、犬神は見送ることもせず、ずっとパンフレットを見たままスルーした。

 

 彼は優秀である。……優秀なのだが犬神がかかわると本当に残念なキャラになってしまうのだった。いや、むしろ彼を残念なキャラにしてしまう犬神を称賛するべきなのだろうか……。

 

「あれ? 猫谷君の名に懸けてオールスルー? ああ……マリーちゃんがおらへんからか。ホナ代わりに俺が……。長っ!! つーかご家族大丈夫!? 修学旅行きとってええん!?」

 

 そして最後に、六重のツッコミが空しく響き渡った……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そして、男子中学生たちが空港で集まっているころの麻帆良では……。

 

「あわわわわわわわわわわ……」

 

「おい……マリー。ボーヤはいったいどうしたんだ?」

 

「いや……チョイ犬神君に危険物持たされてもーてな」

 

「?」

 

 犬神アンダーグラウンドサーチ事務所内部にて、犬神がいなくなったと聞き嬉々として遊びに来たエヴァと顔に縦線を入れたマリーが、布団をかぶったままブルブル震えるネギを見つめていた。

 

「危険物?」

 

「あれあれ……」

 

 マリーが指差した先にエヴァが視線を向けると、そこには、なんか見ただけで人をムカつかせる顔を持った太陽とその下に三つも五芒星が刻まれたペンダントがかけてあった。

 

「なんだあれは?」

 

「エヴァちゃんもしらんの? なんや魔法使いのお守りらしいけど……」

 

「知らんな……」

 

 首をかしげてその不審物を見つめるマリーとエヴァをしり目に、布団にこもって出てこないネギはそのお守りについて犬神から説明を受けた時のことを思い出していた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ところでそのお守りのことだが、それは僕がある依頼主から無償で巻き上げた高価なお守りだ。命の危機に陥った時にこれを使え」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「ふむ。あと、修学旅行から帰ったら7万6500円払えよ」

 

「やっぱりお金とるんですか!?」

 

「当たりまえだ。この僕が無償で誰かに品物を送るわけがないだろう!!」

 

「そんな力強く言われましても!?」

 

 いつもの犬神アンダーグラウンドサーチでの光景。しかし、犬神はいつもと違い片手にキャリーケースと、アロハシャツを着ていた……。

 

 この格好を見たら十人中十人が「あ、この人ハワイ行くんだな……」と、わかる恰好をした犬神は出かける前にネギに渡したお守りの説明をしている。

 

 その説明を聞いたネギは、昨日渡されたお守りを見て首をかしげる。

 

 そのお守りにはきっちりと魔力が通っており、それなりに強力な魔法の品だということはわかった。だが、犬神が渡してくれたムカつく半笑い顔がついた太陽の下に三つの五芒星がついているお守りなど、ネギは聞いたことも見たこともなかった。

 

「あと野菜……これはちょっとした忠告だが……」

 

「はい?」

 

 犬神はそういうと、お守りをひっくり返したり回してみたり、光にかざしてみたり、挙句の果てには火であぶってみたりして正体を割り出そうとしているネギに向かって、鋭い眼光を飛ばした。

 

「もし命の危険でもないのにそのお守りを使ったら……お前は世にも恐ろしい目に合うことになる……」

 

「よ、世にも恐ろしい目……」

 

 こ、怖いものなしの犬神さんがそんなこと言うなんて……。

 

 ネギはそう思いながら恐れおののく。

 

「い、いったいどんな目に合うんですか?」

 

 そして、冷や汗交じりにそう尋ねたネギに向かって犬神は眼鏡を光らせながら一言……。

 

「まったく……野菜ぃ……そんな恐ろしいこと僕の口から言わせるな」

 

 そう答えた犬神の目は、完全に人殺しの目だったという……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「しゅ、修学旅行まで絶対にあれに触れないようにしないと……。もし間違えて発動してしまったら……僕は、っ僕はぁあああああああああああ!!」

 

「なぁ、マリー」

 

「なんやエヴァちゃん……」

 

 そんな風にガタガタ震えるネギを見たエヴァは三白眼で、壁に刺さったくぎに掛けられたペンダント型のお守りを見つめた。

 

「あれ……もうお守りっていうか、呪いの品じゃないか?」

 

「エヴァちゃん……私も思ってたんやけど、それはゆーたらアカン……」

 

 何とも言えない空気のもと、二人はとりあえず修学旅行の準備のために明日菜や木乃香も誘ってショッピングへ行く相談をするのだった。

 

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