とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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13話・修学旅行一日目・昼間の部

ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!!

 

 やたらとけたたましい音を上げる目覚まし時計。それを億劫そうにたたき、起き上がったネギは、ベッドの中で大きく伸びをし、

 

「はぁ……早くでよ……」

 

 壁から出たくぎに掛けられているお守りを見て、大きくため息をついた。原作と違い随分とテンションの低いネギだった。

 

 いや……修学旅行そのものは楽しみなのだが、近くにいつ暴発するかわからない爆弾を抱えたまま修学旅行に行かないといけない。それはテンションも下がるだろう……。

 

「はぁ~。マリーさん。行ってきます……」

 

「もうちょいテンション上げよーや、ネギ君……」

 

 大きなため息をつきながら、いつの間にかスーツに着替えていたネギは、布で巻かれた杖を片手に、弁当を作っていたマリーに挨拶をしてさっさと事務所を出ていくのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「はぁ~。このお守り捨てちゃダメかな~。ダメなんだろうな~」

 

 新幹線が通っている麻帆良近郊の駅に向かいながら、ネギはそうつぶやきながらため息を漏らす。その肩には珍しいことにカモが乗っており、

 

『あ、安心しなよ兄貴! それが魔法の品なら魔力さえ通さなきゃ問題なしだぜ!』

 

 といって、ネギを慰めていた。

 

「ううぅ……そうだけどさぁ……」

 

 本当に京都へ行けることは楽しみなんだ……。楽しみなんだけど……。

 

「はぁ……いったいなんなんだろこのお守り? 犬神さんのことだからただの飾りってことはないんだろうけど……」

 

 まったく面倒なものを渡されたものだよ……。と、内心でぶちぶち文句を言いながらも、ネギは特に何の問題もないまま駅へと到着。まだ教師たちが集まるにも若干早い時間だったが、新人のネギが最後だったらまずいよね~。という、あからさまに一般社会人のような思考でネギはこの時間につくように目覚ましを設定していた。

 

 犬神と暮らすうちにすっかりと社会人の常識が板についてしまったネギだった。

 

 だが、

 

「遅いぞボーヤ!」

 

 ネギよりも早くにやってきていた強者が一人……。

 

「え、えっと……おはようございますエヴァさん」

 

「おはようボーヤ! 今日はいい修学旅行日和だな! まぁ、修学旅行にやってきそうな停滞前線やら雨雲は私が魔法で蹴散らしたんだが!!」

 

 何かとんでもないことをさらっと吐いて『フハハハハハハ!』と笑うのは、みなさんご存知の吸血鬼真祖エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。京都へ行くことを誰よりも楽しみにしていた、齢600の最強の魔法使いの一人……。

 

「やはり初めに行くところは清水寺か! わかっている……わかっているな今回の修学旅行委員は!! 京都語るに当たってまずは清水寺といっても過言ではないからなぁ!!」

 

 目をキラキラさせながらタガが外れたかのように笑いまくるエヴァンジェリンに、いろいろと楽しみにしていて人のことは言えないはずのネギですら若干引いてしまった。

 

「な、なんかテンション高いですね……エヴァさん」

 

「久しぶりのご旅行ですから……。おまけにお友達としてマリー様たちも一緒ですし」

 

「ああ……それで」

 

 600歳の吸血鬼もかわいいところがあるんですね~。と、何やらほのぼのとした空気でいつものように着かず離れずついていた茶々丸と、ネギがエヴァを見つめていることなどつゆ知らず、エヴァはひとしきり修学旅行のしおりを絶賛した後、

 

「で? ボーヤはいったい何を持っているんだ? やたらと濃い魔力の反応が……その物騒なお守り持ってきたのか」

 

「あぁ……はい。まぁ一応は」

 

 若干胡乱気な瞳で、ネギを見つめ、そのカバンにぶら下がっているお守りを見て顔を引きつらせる。

 

 使うタイミングを間違えれば犬神すら恐怖する世にも恐ろしい出来事が起こるお守り……。そんなもの修学旅行に持ってこられていい顔をする人間などいないだろう。

 

 エヴァは信じられないといった様子で首を振った後、お守りをネギのカバンからむしり取った。

 

「あ、ちょ!? 何するんですか!?」

 

「うるさい。せっかくの修学旅行にそんな物騒ものを持ってくるな」

 

「いくら何でもひどすぎ……」

 

 ネギはそこまで言いかけて思い出す。

 

 犬神がやってきた数々の所業を……。

 

「……とは思いませんが」

 

「だろ?」

 

「で、でも犬神さんがくれたものを捨てたなんて知れたらあとでどうなるかわかったものじゃないですよ!!」

 

「むぅ……」

 

 ネギの言葉に一理ありと思ってしまったのか、エヴァンジェリンはしばらくお守りを見つめた後。

 

「さわらぬ神にたたりなしだな……」

 

「はい。まったくもってその通りです。触らなければ全くの無害のはずですから!!」

 

 微妙な表情を浮かべながら渋々とネギにそのお守りを返すのだった。

 

 

 

 

 

「それにしてもエヴァさん、どうしてこんな早い時間にここにきているんですか?」

 

「ああ、それはマスターが昨日楽しみのあまりよく眠れず、朝早くに目が覚めてしまわれたからです」

 

「ちゃちゃまるぅうううううううううううううううううう!!」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「うわ、ネギ君早いね!? エヴァちゃんは……楽しみで眠れなかったの?」

 

「だ、黙れ!! 瀬流彦そんなんじゃないわ!!」

 

 よしよし~と言わんばかりに頭を撫でてくる魔法先生・瀬流彦先生に、顔を真っ赤にしながら彼のすねをゲシゲシと蹴りつけるエヴァを見ながら、ネギは集まってきた生徒たちの点呼を取っていた。

 

 そして、

 

「あ、明日菜さん!! それにマリーさんも!!」

 

「おはようネギ! マリーに聞いたんだけどあんたまた厄介ごと頼まれたんだって? ピンチになったら呼びなさいよ?」

 

「あ、はい! でも、一番心配なのは敵のほうではなく味方の気遣いなんですけどね……」

 

「?」

 

「犬神君がお守り渡してきてん……」

 

「ああ……。頑張りなさい。ネギ」

 

「はい……。ありがとうございます明日菜さん」

 

 同情するようなまなざしを向けてくる明日菜やマリーの視線で、ちょっと泣きそうになったのはネギだけの秘密だったりする。

 

 とにかく、これでネギのクラスは全員の人間がそろったことになる。

 

「は~い。それではみなさん乗ってくださ~い。席はしおりに載っている通りでお願いしま~す。車両を間違えないように!!」

 

「ああ……ネギ先生今日も凛々しいですわ!!」

 

「委員長はホント犯罪者臭いよね~」

 

「あらあら、あやかったら~。在学中はつかまらないでね~?」

 

「那波は意外と黒いことを言うな……」

 

「はぁ……ネギ先生で大丈夫だろうか?」

 

「肉まんひとつもらうでござるよ~」

 

「まいどありアル~」

 

「これからも御ひいきにネ」

 

「あ、お姉ちゃんそっちは違うクラスの車両です!!」

 

「ほら、今日一緒に回りませんかぐらい言ってきなさいよ?」

 

「む、むりだよ~。今日は自由行動でもないし……」

 

「まったく。では明日が勝負ということになりますね……」

 

 騒々しい会話を繰り広げながら続々と新幹線に乗っていく生徒たちを一人一人確認しながら、ネギは名簿にチェックを入れていく。

 

そして、

 

「よし……。相坂さん以外は全員集合っと。しずなせんせ~い! 3-Aそろいました~」

 

「は~い。わかりましたネギ先生」

 

 こうして……修学旅行が始まる!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「なんやなんやこの騒ぎは?」

 

 隣の車両から聞こえてくる賑やかな声たちに、新幹線の隣の車両で眠っていた帽子をかぶった金髪の男が目を覚ます。

 

 無精ひげに鋭い瞳。どことなくただならぬ雰囲気を垂れ流す男ではあったが、その服装はなぜかボロボロでかなり情けない印象を受けた。

 

 そんな男に、車内販売をしていた女性が申し訳なさそうに頭を下げ、苦笑を浮かべる。

 

「も、申し訳ありませんお客様……。現在隣の車両は麻帆良学園都市御一行様の貸切となっておりまして……」

 

「ああ……修学旅行かいな。ホナ多少はしゃぐんはしゃーないな。ええでええできにせんで。さすがに修学旅行に水差すような無粋な真似はせーへんよ」

 

 ニコニコ笑ってそういう男に、車内販売の女性はほっと息を漏らし今度は普通に微笑んだ。

 

「ありがとうございます、お客様」

 

 そういって、先ほどから生徒たちの声が聞こえる車両に車内販売に向かう女性。車両に移った際にだれかにぶつかったのか、

 

『あぶっ』という悲鳴と『す、すいません!!』と勢いよく謝る声が聞こえてくることに目を細めながら、男は少しだけ笑みをうかべて呟いた。

 

「まぁ……あのねーちゃんは無粋なことする気満々みたいやけどな」

 

 にしても麻帆良か~……。誰に聞かせるでもなく呟いた男は、新幹線の窓の外を見て思いをはせる。

 

「あのアホ娘は元気にしとるんやろか?」

 

 男の呟きは誰に聞かれることもなく消え、男の存在はある事件が起こるまで誰にも知られることはなかった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ネギ君大変やったな~」

 

「あう~。なんかいきなりついてなかったです」

 

「何へこんでんのよネギ! 修学旅行はこれからなんだからね」

 

「ん~? ネギ君なんかあったん?」

 

「な、なんでもないわよ木乃香!!」

 

「まったくボーヤは! 私の初めての修学旅行なのだぞ! そんなしみったれた顔を私に見せるな!!」

 

「え、エヴァンジェリンさん……それはさすがにちょっと……」

 

 車内販売の台車にぶつかられ、ますます今回の修学旅行に不安を感じるネギが泣きついたのは、五班と六班のメンバーがたむろしている席だった。

 

 そこにいたのは、いつもの面々。

 

 苦笑いを浮かべて頭を撫でてくれるマリー。ネギを叱咤し励ましてくれる明日菜。ほけほけした笑みでネギをいやしてくれる木乃香。へこむネギを鬱陶しそうに見つめて相変わらず辛辣な言葉を吐くエヴァンジェリンと、その後ろに影の様に待機している茶々丸(一礼してくれた)。そして、木乃香の隣に無理矢理座らせられ若干居心地が悪そうにしている刹那と、その刹那を強制的に座らせたのだと思われる一言も喋ろうとしないザジだった。

 

「あれ? ほかの5班の皆さんは?」

 

 そこでようやく三人ほど生徒が足りないことにづいたネギは、きょろきょろとあたりを見回し残り三人を探す。

 

 修学旅行しょっぱなから行方不明とか真剣に笑えない。

 

「って、あんたはどこに目がついてんのよ? 本屋ちゃんたちなら……あっちでカードゲームしているわ」

 

「カードゲーム?」

 

 ポーカーか何かでしょうか?

 

 近代の遊びに若干疎いネギがそう首をかしげてそちらに向かうと、

 

「あ、ネギ先生!! やっほ~」

 

「あ、先生もやる?」

 

「最近はやりのカードゲームです」

 

「魔法使って戦うんだよ?」

 

「へ~。魔法を……」

 

 そこには色々な班のメンバーが入り乱れて可愛らしいキャラが描かれたカラフルなカードを使って戦いを繰り広げていた。

 

 どうやら明石が出したきらきら光るカードがかなり強力なようで、相手の早乙女はだらだら冷や汗を流している……。

 

「楽しそうですね。若干冷や汗をかいている人もいますけど……」

 

「あはははは……お菓子かけてバトっているからね……下手をしたら今日の分のお菓子が全部パーに……」

 

「ほ、程々に楽しんでくださいね」

 

 どうやら先ほどの戦いで大量のお菓子を取られたらしい。早乙女の目が若干涙目だったことに気づいたネギは、苦笑交じりにそういいながらほかの場所も見回りするために次の車両へと移る。

 

「まぁ……賑やかで楽しいし、確かにそんなにヘコんでても進まないか」

 

 楽しげに修学旅行の時間を過ごす自分の生徒たちに励まされ、ネギは顔の笑みを取り戻しながらぐっと手を握りしめる。

 

「よ~し!! 僕もめいいっぱい修学旅行を楽しむぞ!!」

 

『おいおい兄貴! 楽しむのはいいけど、あんま油断しねー方がいいぜ』

 

「え? なんでさ?」

 

 どこぞのエロゲの主人公みたいな聞き方をしてくるネギに、カモは煙草を片手にニヒルに笑う。(完全にオコジョのためそんなに恰好はついていなかったが……)

 

『ジジイもゲルの旦那も言っていただろう? もしかしたら道中に妨害が入るかもしれないって! もしかしたらもう西のスパイが入り込んでいるかもしれねーぜ!!』

 

「え? スパイ!?」

 

 ネギがそう驚いた時、

 

「うわわわ!! トイレトイレ!!」

 

 一人の男がそういいながら、麻帆良の車両に飛び込んできたのは。

 

「あ、ちょ!? 今日はこの車両は貸し切りで」

 

「すまん坊主!! 漏れそうなんや!! あっちの車両のほうが近いし堪忍してや!!」

 

「あ、ちょっと!!」

 

 短い金髪を帽子からのぞかせたぼろぼろの服を着たオッサンがそういって麻帆良の車両内部に入り突っ切っていく。

 

 それを見ていた生徒の何人かはぎょっとした表情になったが、マリーだけは大きく目を見開き固まった。

 

「なっ!?」

 

 しかし、そんなマリーの様子に気づいた風もなく男はまるで瞬間移動したかのように向こう側の扉に出現した。

 

「「「「「え!?」」」」」

 

「なんだと!?」

 

「瞬動術!? 私達ですら入りも抜きもわからなかった!!」

 

 まるで幻でも魅せられているかのようなその光景に、今度こそ麻帆良の女子たちの度肝を抜かれたが、エヴァンジェリンと刹那だけは違い、瞬時に懐に入れた試験管と、近くに立てかけてあった野太刀を手に取る。

 

「お騒がせしましたぁああああああああ!!」

 

 しかし、男はそんな二人を一切気にかけず即座に車両から出ていきトイレへと全力疾走を開始したのだった。

 

「……な、なんだったんでしょうかいまの?」

 

「さ、さぁ?」

 

「……」

 

 男の様子に首を傾げるしずなとネギ。唯一何かを知ってそうなマリーは不機嫌そうに黙りこみリュックの中にツッコんであったポテチを取出し、そのうち数枚をまとめて口の中に放り込んで噛み砕いた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ふぅ~。もれるかと思ったで……」

 

 まさか、ビタミン剤と騙されて速効性の利尿剤をのまされるとは……あんの白髪依頼者何考えトンねん。

 

 トイレから出てきた帽子金髪ボロボロオッサン……略してボッサンは、そんなことを言いながら舌打ちを漏らす。

 

 これからあの麻帆良生徒ばかりの車両を通って、自分の車両に帰らなければならないことに鬱になった。

 

 いくら破天荒の彼であっても流石に二回もあの中に突っ込むのは気が引ける。

 

 それになんか見覚えのある少女……というか、であった瞬間即殺されそうな少女が中にいたし、

 

「しゃーない。屋根に登って迂回しよか」

 

 男がそう決意して、新幹線のドアを穏便にあけようと張り付いた時、

 

「まて~っ!!」

 

「ん?」

 

 先ほど車両ですれ違った赤毛の少年がどうしてこんな電車の中にいるのかわからないが、新幹線の車内を一直線に飛んでくるツバメを追いかけて走ってきた。

 

 そのツバメは何やら上等な便箋を咥えている。どうやらそれが、少年がツバメを追う理由らしかった。

 

「ふ~ん……」

 

 そのツバメが何か普通のツバメではないことを長年の経験で悟った男は、無言でそれを見つめた後、

 

「ほいっ」

 

「!!」

 

 そのツバメが彼の横を通り過ぎる瞬間に、気で強化された手を一閃。それなりの強度があるはずのツバメの体を一瞬で粉砕し、バラバラに砕いた。

 

 咥えていた存在がなくなりひらひらと宙を舞う便箋。男はそれを器用にキャッチすると、息を切らしながら追いついてきた少年に、微笑みながら便箋を渡す。

 

「うう……ありがとうございます……。って、あなたはさっきの変なおじさん!!」

 

「そうです……私が変なおじさんです! って、ちゃうわボケ!! 助けたったのになんやその態度!!」

 

 何やら本場関西のノリツッコミを喰らった気がする……。

 

「あぶぶぶぶぶぶ!! す、すいません!! ちょ、ちょっと気を張っていてうっかり本当のことを言ってしましました!!」

 

「フォローになってへんで?」

 

 ったく。最近のガキは……。と、ボッサン(確定)はそんなジジ臭い文句を言いながらもネギに便箋を返し、首を横に振った。

 

「にしても少年……こんな上等な手紙すぐにとられたらアカンで(俺なんかこんな便箋買う金すらないのに……)」

 

 そんなボッサンのセリフに、ネギはしゅんと落ち込んだ後、ため息をつく。

 

「わかっているんですけど……。これ、ちょっと重要な書類で……。これを渡されたくないって人たちに狙われちゃんているんです……」

 

 思わずそんなことを漏らしてしまった後、ネギはしまった!! といわんばかりの表情で口をふさぎ、カモは必死に動物のふりをしながらだらだらと冷や汗を流す。

 

 ゆ、油断していた!! 親書を取り戻せたからといって油断しすぎてしまった!! も、もしもこの人が関西のスパイだったら(金髪碧眼だから十中八九ありえないだろうが……)!!

 

 ネギの頭の中に大量の後悔と、悔恨の言葉が飛び回る。

 

 しかし、覆水盆に返らず。時すでに遅し。

 

 ネギが思わずこぼしてしまった言葉に、男はスッと目を細めネギを睨みつけると、

 

「重要書類って……金目のもん?」

 

「違います!!」

 

 目を¥の形にして輝かせた。

 

 しかし、親書は当然そんなものではないのでネギは即答してしまう。何となく、ネギのツッコミの瞬発力が上がったように思えるカモ。しかし、優しい彼はネギにそのことを教えることはなかった。

 

 いや、だってなんかいろいろ絶望しちゃいそうだし……。

 

 そんなことはともかく、ネギの力強いツッコミまじりの否定にボッサンは『チッ』と舌打ちを漏らしたあと、興味なさそうに立ち上がる。

 

「まぁ、そんな大事なもんなんやったらしっかり守りや少年」

 

「ええ……。それはわかっているんですけど……僕まだ素人ですし……。そんな僕に多大な期待寄せられても困るっていうか……」

 

 何とも気弱な発言をするネギ。

 

 原作でなら彼はやる気いっぱいなのだが、何せ今の彼は下手に現実が見える分自分にたいする評価もシビアだ。

 

 今の自分が一体どこまでできるのかをしっかりとわきまえて理解している。式神の存在を今まで知らなかった自分がどうして関西の魔法使いたちと渡り合っていけようか……。ネギの冷静な部分があっさりと親書を取られてしまったネギに、そう問いかけてしまっているのだ。

 

 そんなネギを見て、ボッサンはしばらく黙りこんだ後……。

 

「あきらめたらそこで試合終了やで?」

 

「!!」

 

 そのオッサンの言葉に、ネギは目を見開き、うつむいていた顔を慌ててボッサンのほうへ向ける。

 

 そこには、にやにや笑っているボッサンの顔があった。

 

「俺実は名言売りしとんねん。俺が(・・)考えた名言を一言ずつ人に教えて励ましたってんの。ちなみに一言2000円。ホンマはいまのもそうなんやけど、ここであったんも何かの縁。特別に無料で聞かせたるわ」

 

「ほ、本当ですか!! ありがとうございます!!」

 

 目をキラキラさせながらお礼を言ってくるネギに、ボッサンはさらに笑みを深くしながら大きく頷く。

 

「ちなみにほかの言葉もあるんやけど……ききたい? 次からは有料やけど」

 

「き、聞きたいです!!」

 

 コクコクと何度も頷くネギに、男は次々と自称《俺が(・・)作った名言》を吹き込んでいく。もちろん一言につき2000円ずつむしり取って。

 

 ちなみにカモは日本に来たばかりなので、日本の名言はよく知らなくこの詐欺まがいの商売の正体に気づかなかった。

 

 こうしてネギは修学旅行一日目にして2万円の金をだまし取られることになるのだが、そのことに彼が気付くのはもうちょっと先の話。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

後日談

 

ボッサンの場合。

 

「おのれ……俺に利尿剤飲ますとか何考えとんねん?」

 

 ボッサンは額に青筋を浮かべながら、新幹線の屋根の上でお茶を飲んでいた白髪の少年に詰め寄った。

 

「まぁ、そう怒らないでくれ安川。君が行ってくれたおかげで千草さんは首尾よく親書をとれたみたいだし……」

 

 白髪の少年はそんなボッサンの様子にも眉一つ動かさず、悪びれた様子もないまま言い訳を始めようとする。その時!

 

「こっらぁああああああああああ!! 安川何考えとんねん!! あんたのせいで親書奪取がパァになってもうたやんけ!!」

 

「……詳しく聞かせてもらおうか安川?」

 

「あ、あれ?」

 

 怒り心頭といった様子で、式鬼に守られながら屋根に上がってきた、車内販売の売り子に変装した千草の怒声を聞き、白髪の少年からとんでもない殺気が放出される。

 

 今まで怒っていたはずのボッサンは、今度は逆にダラダラと冷や汗を流し始め、怒られる側へとジョブチェンジを果たしたのだった。

 

 

ネギの場合。

 

 

「敵を知り己を知れば百戦あやうべからず」

 

 キリっとした顔で名言を言ってくるネギに、突然何言いだすんだ? という表情をしながら明日菜は首をかしげる。

 

「いきなりなにいってんのネギ?」

 

「えへへへへ! 実はさっき親書を取り返してくれたおじさんに教えてもらったんです!! すごいんですよそのおじさん!! 含蓄のある言葉やためになる言葉をいっぱい知っていて……。しかも、そのすべてが一言2000円という低価格で教えてもらえて……」

 

「へ~。それ凄いわねネギ。名言売りなんていたんだ……」

 

 明日菜はバカだったので、その名言の正体を知らなかった。

 

 しかし、

 

「ネギくぅん? ちょっとそのオッサンがどこに行ったか教えてもらえへん?」

 

「へ? この車両通るのは絶対嫌だから屋根伝いに三号車に戻るっていっていましたけど……」

 

「あんの腐れオヤジがぁあああああああああああ!! ネギ君になにさらしてくれとんねん!!」

 

「うわっ!? ど、どうしたんですか!? マリーさん!! 落ち着いて!!」

 

 車内中に響き渡るマリーの怒声を聞き、屋根で正座させられながら千草と白髪少年のステレオ説教を喰らっていたボッサンが悲鳴を上げて逃げ出したかどうかは、定かではない……。

 

 

桜咲刹那の場合。

 

 

「……なんで来ない」

 

 ボッサンがツバメを仕留めた車両の一つ先の車両で待ちぼうけを喰らっていたりする……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そして時は流れ……。

 

IN清水寺!!

 

「京都ぉ~!!」

 

「これが噂の……飛び降りるあれ!!」

 

「誰か飛び降りレッ!!」

 

「では拙者が……」

 

「やめんかい。せっかくの修学旅行を惨劇に変えるつもりかいな……」

 

 いつも通りテンション上げ上げなクラスのメンバーにとりあえずハリセンでの一撃を加え粛清するマリーに、明日菜は思わず苦笑をする。

 

 新幹線ではちょっとおかしかったけど、この分だとマリーは平常運行できそうね……。

 

「いえいえ。必ずしもそうなると決まったわけではありませんよマリーさん」

 

「え? そうなん!?」

 

 そんな風に明日菜が安心している目の前で、京都産の正体不明なジュースを飲んでいた綾瀬夕映が唐突に口を開いた。

 

「はい、有名な『清水の舞台から飛び降りたつもりで……』の言葉通り実際江戸時代に234件の飛び降りが記録されていますが生存率は85%と意外に高く……」

 

「うわっ!! なんか変な人がいる!?」

 

「夕映は神社仏閣マニアだからね~」

 

「「ほ~」」

 

 一般女子生徒たちがぺらぺらと紡ぎだされる夕映の豆知識に若干引いている気がする……。まぁ、知識欲旺盛な外国人二人組はかなり感心したようすで話を聞いているが。

 

 ちなみに話しかけられたマリーは……。

 

「私のツッコミが的を射てへんかったやなんて……。鬱や。死のう……」

 

「落ち着きなさいマリー!! 生存率85%っていっても残り15%は死んでいるから!!」

 

 文字通り清水の舞台から飛び降りそうになっているところを明日菜に止められていたが……。

 

 さらにエヴァンジェリンは……。

 

「わはははっはははははっはははははは!! ここが京都!! 夢にまでみた京都ぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「マスター……。落ち着いてください」

 

 茶々丸がおろおろ慌てるほどテンションが上がってしまっており、お土産が陳列されている棚ごと買い取ろうとしたり、境内の中を走り回ったりして……なんかもう手が付けられなかった。

 

「ちなみにこの先には恋占いで女性に人気の地主神社があります」

 

「「「恋占い!?」」」

 

「うむ!?」

 

 もっとも、その言葉を聞いて若干の鎮静化を見せたが……。どうやらエヴァンジェリンは、いまだにナギに未練があるようだった。

 

「さらにちなみに、そこの階段をくだると有名な音羽の滝に出ます。そこから流れる水を飲むと《学業》《健康》《縁結び》のご利益が……」

 

「縁結び!?」

 

「「「それだぁあああああああああ!!」」」

 

「ふ、ふん。まぁ興味はないがついて行ってやらんこともないぞ!!」

 

「マスター……顔が赤いですよ?」

 

「う、うるさい!!」

 

 先ほどと変わらないテンションでネギを拉致って下へと急ぐクラスメイト達に苦笑をうかべながら、明日菜は何とか復活したマリーと、いつも通りほけほけ笑っていながらも、何かを探している様子の木乃香に話しかける。

 

「縁結びね……マリーや木乃香は興味ないの?」

 

「いまんところは特におらんなぁ……。強いてあげるならネギ君?」

 

「よくよく考えてみたら五歳年下って結構な数値やと思うんやけど……」

 

「マリーは?」

 

「私は……小学校の時は親父に付き合わされて借金取りと命がけの追いかけっこしとったし……。中学はいってからは犬神君のところやしなぁ……。そういったことはあんまり?」

 

「ああ……。あんたそういう人生歩んできたものね……。犬神は……言っていて思ったけどあれはないわね」

 

「まったくもってその通りや……。というかあれを恋愛対象の一つに数えること自体人として間違っとる気がする」

 

「もう二人とも言いすぎやで? ええ人やんか犬神さん」

 

「「木乃香……眼科に行って」」

 

 そんな雑談を交わしながら三人が遅れて地主神社の境内にやってくると……

 

「えっと……ツッコミ待ち?」

 

「そんなこと言ってないで助けてくださいぃいいいいいいいいいい!!」

 

 ひーん!! と泣きながらカエルだらけの落とし穴から、委員長とまき絵を引き上げようとしているネギの姿が見られた。

 

「ま、まさかこれが関西呪術教会の妨害!?」

 

「いやいや……。もしそうやったとしたら相当真面目ちゃうで関西呪術教会……」

 

 シリアスな顔で愕然とするネギにそうツッコみを入れながら、マリーは三白眼になりながら二人の回収を手伝う。

 

「き、気を取り直して音羽の滝に行きましょうか?」

 

 そんな光景に若干顔をひきつらせながらとりあえず明日菜は先に進むことを促した。

 

 なんか今日はカエルとやたら縁があるわねと思いながら。知らぬは仏とはまさにこのことだった。

 

 そして、音羽の滝に到着した麻帆良御一行。

 

「ここが音羽の滝です」

 

「うわっ!? 結構こんどるな……」

 

「ど、どれが縁結びの滝なんですの!?」

 

「右から健康・学業・縁結びです」

 

 夕映からそう教わり一斉に左端の滝へと殺到する麻帆良生徒たち。それを見てマリーはアマゾン川に生息するあの凶悪な魚を思い出したとかいないとか……。

 

「ちなみにユエユエ……その水筒はなんなん?」

 

「音羽の滝の水を持ち帰ろうと思いまして……」

 

「一杯いくら位で売るつもりなん?」

 

「大体コップ一杯300円くらいでしょうか? 京都に行けなかったクラスの生徒の何人かにすでに予約をもらっています」

 

 意外とちゃっかりしている夕映だった。

 

 だが、

 

「ね、ねぇ……マリー。これちょっとまずくないかしら?」

 

「ふぇ!?」

 

 明日菜の震えた声を聴き、がっつり水筒に水を回収していく夕映からマリーはクラスメイト達に視線を移す。

 

 そして、

 

「なんで、水でよっぱらっとんねん!?」

 

 どこぞの駅で横になっている酔っぱらいのオッサンぽく倒れ伏すクラスメイト達がいた。

 

「ま、マリーさん!! 屋根の上にお神酒が置いてあります!! これが滝に流れ込むようになっていて……」

 

「神様の酒をなんやおもとんねん関西呪術協会!!」

 

「ちょ、どうすんのよ!?」

 

「チョイ目立たん所に押しこんどこ!! こんなんほかの先生にばれたら修学旅行中止の上に停学やで!?」

 

「わかったわ!!」

 

「了解しました」

 

「手伝いますよ!!」

 

 キュポ。

 

「とか言いつつ酒入りの水をしっかりと確保するユエユエに脱帽した!!」

 

 酔っぱらっていないメンバーが、若干困惑気味に総出で酔っぱらってしまったメンツを音羽の滝から引き離そうとした時だった。

 

「ああ? なんだ騒がしいな?」

 

「「「げっ!?」」」

 

「あ、マリーちゃん、明日菜ちゃん、ネギ君。久しぶり」

 

 生徒たちが羽目を外しすぎていないか監視に来た広域指導員の教師が回ってきてしまった!!

 

 しかもその広域指導員が、

 

「じょ、ジョニー先生……レイジー先生……なんでここに?」

 

「ああ? 初等部からの出向だクソが」

 

「手が足りないってことだったからね。『お前らむしろ麻帆良にいないほうが安全じゃね?』とばかりに送り込まれちゃって……」

 

 二人の実態を知るネギ、明日菜、マリーは真剣に思った。

 

《学園長……援軍よこすならもっとまともな人にしてぇええええええええええ!!》と、

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ああん? なんか酒くせぇな? まさか酒飲んでんじゃねーだろうな!!」

 

「ちょ、先輩!? 何嬉々として銃抜いてんですか!? 麻帆良以外じゃ使っちゃダメですって!! でもあれ? ホントになんかお酒臭い……」

 

「「「あわわわわわわわわわわわわ…………」」」

 

 なんというかもう停学の危機を通り越して命の危機だった。

 

 さすが麻帆良随一の不祥事教師……ジョニー&レイジー。京都に来てもエンジン全開だった。

 

(ちょ!? どないすんねん!? 新田やったらまだしも、ジョニー先生なんて話聞かずに発砲してくんで!?)

 

(それがシャレで済まないのがほんとシャレにならないわ!!)

 

(僕遺書書いてきます……)

 

((諦めんな!!))

 

 いろいろ絶望した顔でそんなことを言ってどこかへ行こうとするネギを、マリーと明日菜は慌てて押しとどめる。

 

 三人がそんな風に混乱の極みに至った時だった!

 

「ギャースカ騒ぐな酒がまずくなるだろうが」

 

「え!?」

 

「「あ!!」」

 

 三人に救いの手が差し伸べられた!!

 

 ジョニーとレイジーが見上げた先にいたのは、音羽の滝の屋根に上ったエヴァンジェリン。そこに胡坐をかきながら、先ほどネギが見つけた滝にお酒を流し込んでいたお神酒のタルを肘掛けにして座っているのだ。

 

「エヴァンジェリン!! テメェか酒飲んでんのは!!」

 

「別に問題ないだろう? 私の実年齢を知らんわけではあるまい。よって私は酒を飲んでもセーフ!! こんなお神酒の聖地に来たんだ。飲まんのは逆に無礼だろう!!」

 

「おう。まったくだなロリババァ。あとで俺にも一杯よこせ!!」

 

「お前にやるのはエターナルフォースブリザードしかないな……」

 

「ああん!? ンだとこら!! やんのかこら!!」

 

「ちょ、先輩!? 生徒にケンカ売らないでください!! はぁ……僕はもう何も言わないけど一応君は学生ってことになっているんだ。あんまり派手なことはしないでよ……」

 

「安心しろ。認識阻害くらいはかけてあるさ」

 

「ならいいけど……」

 

 そういってギャーギャーわめくジョニーをひずりながらレイジーは去っていく。幸いなことにそこらじゅうで寝転んでいる生徒たちには一切触れなかった。おそらくエヴァが丸ごと認識阻害をかけてくれたのだろう。

 

 魔法先生すらだまし切る認識阻害。吸血鬼真祖の面目躍如といったところだろう。

 

「た、たすかった……」

 

「オオキニ、エヴァちゃん!! 助かったわ!!」

 

「ふん。こんなことで修学旅行がふいになってしまっては困るからな。べ、別にお前たちのためとかじゃないからな!!」

 

 エヴァに抱き付くことによって感謝を示してくるマリーに顔を赤くしながら、エヴァはそっぽを向く。

 

「あれがツンデレというやつですね!! 犬神さんに聞きました!!」

 

「あ、あれがツンデレ……。高畑先生にも通じるかしら?」

 

「マスター。ツンデレ乙」

 

「凍りつけぇええええええええええええええ!!」

 

 がっつりその光景を見られて、あとで散々いじられることをエヴァンジェリンはまだ知らない……。

 

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