とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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14話・修学旅行一日目 夜の部

「修学旅行初日から命の危機に陥るなんていったい何の冗談ですか?」

 

「まぁ、その命の危機の原因は身内やけどな……」

 

「楽しい修学旅行になると思う?」

 

「血と絶叫の修学旅行になる可能性と五分五分ですね……」

 

 修学旅行初日の夕方。嵐山の旅館にて。そこらじゅうから麻帆良生徒たちの騒がしい歓声が聞こえてくる中、ロビーに集まってヒソヒソと対談を開始したネギ、マリー、明日菜、桜咲の四人は早速拳銃を抜こうとしていたダイナマイトバカの顔を思い出しながら大きくため息をついた。

 

 酔っぱらった生徒たちをスネークも真っ青なスニーキングで、何とかバスに押し込むことに成功したマリーたちは、こうして無事に旅館につくことができた。

 

 その際、ストーカーじみた手際で木乃香を付け回していた(一応念のために言うが……護衛のため)桜咲をレイジーたちが問い詰めたり、その際ジョニーが拳銃を引きぬき『死ねストーカー』とばかりに発砲したためあたり一帯から観光客がいなくなったり(桜咲は間一髪で止めに入ったレイジーのおかげで無事だった)、その不祥事を聞きつけた新田が砂利の上にレイジーとジョニーを正座させて3時間ほど説教したり(よく聞くと新田はジョニーの学生時代の先生だったとか……)、まぁ、いろいろあったどころか下手をすれば大惨事間違いなしのこともあったが、マリーたち()無事に旅館につけたので一応無事だったことにしておく。

 

「それにしても桜咲さんが魔法関係者だったなんて驚いたわ……」

 

「私も……明日菜さんがエヴァンジェリンさんとネギ先生の戦いに出てきたときは新手のギャグかと思いましたよ?」

 

「私ってそんなに違和感あったの!?」

 

 刹那からさらっとはかれた辛辣な言葉に、明日菜はギョッとしながら顔を引きつらせる。

 

「それにしても昼間のアレ……関西の差し金なんでしょうか?」

 

「間違いありません……。まぁ、やる気あんのかといいたくなるような気の抜けるものばかりでしたけど……」

 

 さすがに昼間の間に調査しておいたのか、ネギの疑問には断言する形で桜咲が答えてくれた。その手には札が握られており、そこから吐き出される墨によって空中に無数のデータが刻まれている。

 

「新幹線でのカエルや、落とし穴のカエルは同じ式鬼で同じ術者が使ったものと思われます。酒に関してはさすがに何とも言えませんが……設置されたのは大体昨日の深夜。私たちがやってくるタイミングに合わせて栓が抜けるように細工がしてありました。残留魔力も残っていたのでおそらく式鬼を使ってあそこに運び上げたものだと思われます」

 

「ほ、ほ~」

 

 桜咲から告げられる数々の情報に、ネギは思わず感心の吐息を漏らした。そんなネギの様子に苦笑をうかべながら、マリーは札を掲げた刹那の手を取る。

 

「せつなんは頼りになるな~」

 

「せ、せつ!?」

 

「ほ~んと。ネギとは大違いね~」

 

「あぶぶぶぶ!? あ、明日菜さん!! 自覚しているんですからこれ以上言わないでくださいよ!!」

 

『あにき……。その発言は情けなさマックスだぜ?』

 

 一気ににぎやかになるメンツにやや面を喰らいながらも、刹那は若干頬をほころばせた。そういえば……麻帆良に来てこんな会話をしたのは、一緒に仕事をした時に友人になった龍宮以来……

 

『刹那~。この前の仕事の報酬にあんみつをおごってくれる約束だったよな?』

 

『べ、別にかまわないが……あ、あんまり食べすぎるなよ?』

 

『はははは! 刹那何を言っているんだ? ただでおごってもらえるのにどうして手加減する必要がある?』

 

『……』

 

『それに……あんみつは別腹だ!!』

 

『……………………………………』

 

 結局、その月の仕送りは龍宮のあんみつ代で消えてしまったり……。

 

「ああ……あいつが友人かどうかはかなり微妙だな……」

 

「ど、どうしたんですか刹那さん!? いきなり黒い笑みを浮かべて!?」

 

「いえ……。気にしないでくださいネギ先生。ちょっと嫌な思い出を思い出してしまっただけです……」

 

 フフフフフフフ……。と、漆黒の怒気を垂れ流しながら笑う刹那に、ネギ・アス・マリートリオは抱き合いながらぶるぶると震えるしかなかった。

 

閑話休題。

 

「ま、まぁ、そんなに心配する必要もないっちゃないですよね~。犬神さんが言っていたみたいに、今のところ反抗勢力攻撃は悪戯じみたものが多いですし」

 

「ああ、そう言われたらそうやな?」

 

 修学旅行前に受けた犬神の説明を思い出しながら、ネギとマリーは拍子抜けだね~といわんばかりの笑みを交換した。

 

 まぁ、楽しい修学旅行に水を差されるのは若干業腹ではあるが、実力行使に出られて命の危機の陥るよりかはずいぶんとましだ。親書を届けてしまえば攻撃も収まるだろうし……あと少しの辛抱だと、マリーとネギは考えていた。(ちなみに明日菜は事情を少ししか知らないためとりあえず二人に合わせて笑っているだけだったりする)

 

「まぁ、関西呪術教会の長もがんばっていますしね。そうそう簡単に大規模な邪魔なんて入りませんよ。ですが……」

 

「ですが?」

 

 そんな二人の雰囲気に水を差したのは、若干緊張した面持ちであたりを見回した刹那だった。

 

「ある人物を誘拐されてしまったら、こちらの優位性は一気にひっくり返されます」

 

「あ、ある人物!?」

 

「そ、そんな人がおるんかいな!?」

 

「え、え? ナニ? どこに話が飛んだの!?」

 

 そんな重要人物がいることを今更教えられたネギとマリーは思わず唾をのみ、さっきまでの会話でさえついていくのがギリギリだった明日菜が若干混乱する。

 

「ネギ先生は学園長から聞いていませんか? お孫さんのこと?」

 

「あ! こ、木乃香さんのことですか!? 生物の不思議として教科書に載りそうな!!」

 

「ネギ先生!? この半年でいったいあなたに何があったんですか!?」

 

 ネギの口から吐き出された意外すぎる学園長ディスに少々おののきながら、刹那は気を取り直して話を続ける。

 

「ま、まぁその木乃香お嬢様に関してなんですが……」

 

「「「お嬢様?」」」

 

「!?」

 

 刹那が吐き出した少々普段の木乃香には似合わない敬称に首をかしげる3人を見て、刹那は慌てて口をふさぎかけ……

 

「はい……そうです」

 

 いやいや今更でしょう? どうせ説明するんだし……と思い直したのか、そのまま話を続ける。

 

「木乃香お嬢様は実は関西呪術教会の長の実子。日本で有数の霊力……すなわち魔力を持つ大魔法使いの原石なんです……」

 

「「「……」」」

 

 刹那から告げられたその事実に、3人はしばらく固まった後……。

 

「「「ああ……そういえば犬神さん(くん)がそんなこと言っていたような」」」

 

「あの人何処まで知っているんですか!?」

 

 単に自分たちが忘れていただけということをもいだし、テヘへペロ? といわんばかりに舌を出した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「それにしても木乃香がね~。そんな風には見えないんだけど?」

 

「むしろ魔法使いに見える人を探すほうが難しない?」

 

「……確かに!! なるほど、なかなか斬新な真理ね!!」

 

「明日菜……ホンマ残念な頭しとんな」

 

「ちょ!? いきなり人のことけなすのはやめてよ!?」

 

 深夜。風呂上りに再び集合し刹那から木乃香護衛のために一通りの関西呪術師の戦闘方法のレクチャーを受けた後、マリーと明日菜は木乃香がいる部屋に帰ってきた。

 

 基本的に寝ている間の警護は明日菜に任せてくれることになった。経験値不足のため少々不安が残るが、班員でもないメンバーがそこの部屋で寝るわけにもいかない。刹那やマリーにとってはかなり苦渋の決断だったらしい。

 

「ホンマに気を付けるんやで明日菜? 危なくなったらすぐ叫びや? 関西のほうも魔法の隠匿義務あるさかいに、ほかの班員が起きてくれたらさすがに強硬手段はとらへんやろうし……」

 

「もう……マリーは心配性ね! 大丈夫よ! ちゃんとやるから!! それに私だってエヴァンジェリンさんと戦う時に一通りの訓練受けたのよ?」

 

 心配そうに何度も段取りの確認を取ってくるマリーに苦笑をうかべながら、明日菜は自分の部屋に入るために廊下と部屋を隔てているドアを開ける。

 

「それに、うちの班員は夜まで騒ぐって息巻いていたからそんなにすぐには寝ない……」

 

 わよ。といいかけた明日菜の目の前には、夕映によって配られた酒入り音羽の滝の水を飲んで酔いつぶれているバカ4人が映って……。

 

「……」

 

「……メッチャ爆睡しとるけど?」

 

「……何でよ……なんで私を飲み会に誘ってくれなかったの!?」

 

「明日菜!? 最近ちょっとおかしいで!?」

 

 犬神のせいか何だか知らないが若干壊れつつある明日菜にツッコミを入れつつ、教師が見回りに来た時に不具合がないように酒の痕跡を始末するマリー。

 

「はぁ……。めっちゃ深い眠りについとるみたいヤシ……コラ今日の援護を期待するんは難しそうやな」

 

「マリー……一緒に寝てくれたりしない?」

 

「あいにく私も命が惜しいねん」

 

 瀬流彦先生がこっそり教えてくれた情報によると、今日の見回りはジョニー先生とレイジー先生みたいヤシ……。

 

 すでに立っていた死亡フラグに絶望しながら、マリーは大きくため息を漏らした。

 

「ま、まぁ……今回も悪戯程度で済むかもしれへんし、そんな心配することもないやろ?」

 

「そ、そうね!! 大体女子中学生一人さらうのにそんなガチンコで来るとも思えないしね!!」

 

 楽観的な意見を並べて、ハハハハハ! とわざとらしい笑みを浮かべるマリーと明日菜。それがどれだけむなしい行為かということを彼女たちは気づいているのだろうか?

 

「あ、ちょ……ごめん明日菜。チョイトイレ行きたくなったからちょっとトイレかしてくれへん?」

 

 まぁ、そんな二人の楽観的な意見を無視して、

 

「いいわよ~。というかできるだけ長くいて」

 

「まぁ、見回りがくるまではそうするわ」

 

 長い長い、

 

「さってと~。トイレトイレ~」

 

「入っとりますえ~」

 

 修学旅行の夜が始まる!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「入っとりますえ~」

 

「……」

 

 マリーがトイレに入ろうと、そのドアを開けたとき、中からそれはそれは大きなお猿さんが……

 

「ふんっ!!」

 

 すさまじい轟音を立て、マリー気によって強化されたマリーの手によって閉められるトイレのドア。

 

「あっれ~。アカンな~。今日は色々あったから疲れとるんやろうか? 変な幻覚が見えたんやけど……」

 

 まったく……うちのクラスの連中は。修学旅行やからってはしゃぎすぎやねん。おかげでウチに精神疾患の疑いがかかっとるやないの……。さてさて……。時間もええ感じにたったし、次あけたらあの幻覚は消えとるやろ。と、軽い現実逃避を終えた後、マリーは深呼吸しながら再びトイレのドアを開けた。

 

「はいっとりますえ~。って、なんでさっきは勢いよくしめたんや!? ってかあんた誰や? 関西弁が聞こえてきたからお嬢様が来るおもてせっかくセッティングを……」

 

「ふんっ!?」

 

 再び勢いよく閉められるドア。中からサルが何か言ってくるが、マリーは全力で無視する。

 

「マリー? さっきから何はしゃいでいるの? トイレにゴキブリでも出た?」

 

「私もトイレ行きたいのですが……」

 

「そうやねん……かなり大きめやから、明日菜バ〇サン買ってきてくれへん? 中にいるゴキブリ窒息死させたるから」

 

『人のことゴキブリ扱いってどういう神経しとんねん最近のガキは!? だいたい、ここはホラーものの《ドア開けたら怪物がおってそれに食われる》っていうシーンのテンプレートやろ!? 何でその怪物閉じ込めとんねん!! 空気読みーや!!』

 

「なんで不審者にそんなこと言われなあかんの!?」

 

 トイレの内側からバンバンドアをたたいてくる不審者にそうツッコみを入れながら、マリーは敵……猿がトイレから出ないように全力でドアおをさえこむ。

 

「え? え? なに? ゴキブリじゃないの?」

 

「あいにく私はゴキブリぐらいではビビらへんねん……。もっとグロテスクなもんを見たことあるしな。具体的には犬神君の被害者とか……」

 

「もうそれグロテスクうんぬん以前に死体よね?」

 

「あ、安心し!! 今まで犬神君は殺人罪では(・・)捕まったことないんやで!!」

 

「ちょっと待ちなさい!? それ以外はあるってことじゃないでしょうね!?」

 

 そんな雑談を交わしながら、マリーは明日菜にアイコンタクトを飛ばす。『多分木乃香を狙いに来た敵や!!』と。

 

 明日菜はその視線に頷き、

 

「バルサンよりゴキジ〇ットのほうがよくない?」

 

「あれ!? 通じてへん!?」

 

『ちょ、そんな雑談してんとだしてや……。トイレって密室やから地味に蒸し暑い……』

 

「その着ぐるみ脱ぎーや!?」

 

 ギャンギャンわめきながらどんどんトイレのドアをたたいてくる不審者の声を聴きながら、夕映はそのドアを抑えているマリーに視線を移す。

 

「不審者?」

 

「「……」」

 

 一瞬にして静寂を余儀なくされる明日菜とマリー。

 

 し、しまった!? 夕映一般人だった!!

 

 いまさらながらそのことに気づいた二人はだらだらと冷や汗を流す。その空気を察したのかトイレの中に閉じ込めた巨大猿も行動をやめて黙り込んだ。

 

 そういうたら犬神君がユーとったな……関西も魔法隠匿には協力しとるって。

 

 マリーはそこまで考えたとき、ある名案を思いついてしまった!!

 

「そ、そうやねん!! どっから入り込んだんかは知らんけど、トイレの中に猿の着ぐるみ着た不審者がはいっとって……」

 

「『なっ!?』」

 

 中の不審者と明日菜が同時に驚愕の声を上げるが、夕映はそんなことには気づかなかったようで不審者と聞いて顔色を変えただけだった。

 

「た、大変です!! すぐに先生たちを呼ばないと!!」

 

「そうやねん夕映~。せやからちょっとひとっ走りして先生呼んできてくれへん? 私はここでドア抑えて、明日菜は部屋のみんなを避難させるし。あ、ちなみに呼んでくる先生はネギ先生やのーて新田先生呼んできて。こういった事態ではネギ先生よりそっちのほうが頼りになるやろ?」

 

「……で、でも、そんな危険な役をマリーに押し付けるわけには!!」

 

「安心し……だてにあのクラスのストッパーやっとるわけやないねん。必ず……防ぎ切って見せるから!!」

 

「マリー……」

 

 何やら悲痛な表情で、覚悟の決まった笑みを浮かべるマリーを夕映が涙目で見つめる。

 その後ろで明日菜が冷や汗をだらだら流しているのが印象的だった……。

 

「わかったです。きっと……きっと先生呼んできますからぁああああああああ!!」

 

 夕映はそういって部屋の外へ飛び出していった。彼女が走りすぎた後には光り輝くナミダのしずくが飛び散り、さながら「走れメロス」のようだったという……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ふ~。これで一安心やな!!」

 

 ええ仕事したわ~。といわんばかりにドアを抑えながら汗をぬぐうという高等技能を披露するマリー。

 

「『シャレにならへん!?』」

 

「いややな~明日菜。関西弁になってんで?」

 

「どうでもいいわよそんなこと!? どーすんのよ!? どう考えても魔法バレの危機でしょ!? おまけに呼んでくる先生一般人の新田に限定って何考えてんのよ!?」

 

『なっ!? 来る教師も一般人なん!?』

 

 中のサルが慌てふためくのを聞きながらマリーは人の悪い笑みを浮かべながら、全身に気を巡らし更にきつくドアを抑え込む。

 

「明日菜よー考えてみ? 一応関西も魔法隠匿はしとんねんで? つまりこのままこいつの対応を一般人に押し付けてまえば、こいつは普通の不審者として警察いき……」

 

「はっ!? なるほどそういうことね!! つまり私たちは自分たちの手を汚すことなく、これからの不安要素を排除することができると!!」

 

「そのとーりや!! ふははははは! これで私らは簡単に勝てる! 勝利の女神も爆笑しとんで!!」

 

『またんかぃいいいいいいいいいいいいい!?』

 

 合点がいったわ!! とばかりに目を輝かせる明日菜の同意を聞き、猿はトイレの中でさらに慌てふためいた。

 

『ちょ、ちょっと待ったりーな!? え? え? マジで? マジでこのまま私警察に突き出されるん!?』

 

「「え?」」

 

『うわっ!? 腹立つ!! 「いまさらなにいってんのこいつ」っていう雰囲気がはっきりと読み取れたことが腹立つ!!』

 

 バンバンドアをたたきながら、猿からの必死の抵抗。

 

『いやいや、ここは木乃香お嬢様誘拐された挙句、敵と火花を散らす攻防戦をした後あえなく奪還失敗! 『木乃香……いま助けに行くからね!!』エンドで終了ちゃうんかい!? それがテンプレートやろうが!?』

 

「敵にテンプレ語られた!?」

 

「しかも地味に自分の都合がええようにテンプレ改ざんしとるし!?」

 

 というかさっきからなんなんこの女? テンプレ好き?

 

 マリーはそんなことを考えながらギャンギャンわめいてくる女の言葉を無視。さっさと決着をつけるべく明日菜に指示を出した。

 

「とりあえずさっき言ったように部屋のみんな外に出しといて!! エヴァちゃんや刹那ちゃんの部屋に放り込んどいたらあとは二人が何とかしてくれるやろ?」

 

「了解!!」

 

 明日菜は元気良くマリーに敬礼した後、『なんかあっさりと片が付きそうね~』とニコニコ笑顔で部屋の中へ入っていく。

 

 そして……。

 

「「あ……」」

 

 いつの間にか部屋の中に侵入して木乃香をぐるぐる巻きに縛りつけたうえ、肩に担いで、窓から部屋の外に逃げようとしていた金髪無精ひげのオッサンを目撃した。

 

「え、えっと……」

 

 あまりに突発すぎる事態に固まる明日菜を見つめて、オッサンはしばらくばつが悪そうに頬をかいた後、

 

「ほな……」

 

 シュビッ!! と、開いた手で一礼をかますととんでもない勢いで夜の空へとその身を躍らせた!!

 

「し、し……」

 

 明日菜はその光景をしばらく呆然と見た後、

 

「し、し……しまったぁああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 油断していた自分を内心でののしりながら、宿中に響き渡る声でそう叫ぶのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 木乃香を守るためにパトロールに出ていたネギは、カモが登場してない間の苦労話を聞きながら渡月橋を歩いていた。

 

「へ~。カモクンも大変だったんだね~」

 

『そうなんだぜ~。だから俺の出番がなかった原因は、決して俺の存在を作者が忘れていたわけでも、俺の存在がこの小説的にいらなかったわけでもねーんだぜ!!』

 

「何を、カモ君、君が何を言ってるのか分かんないよ。カモ君」

 

『いきなりエヴァネタはさむのやめてくれねーか、兄貴……』

 

 いや、何か今言わないといけない気がして……。

 

 ネギが大いに首をかしげながらカモに『電波が飛んできたんだよ』と弁明しているときだった。ネギの頭上を、何かの影が横ぎった!

 

「ん?」

 

「なんだ?」

 

 カモとネギが頭上を見上げると、そこには金髪に無精ひげを生やしたうさん臭いオッサンと、気絶していると思われる、彼の肩に担がれた浴衣姿の少女がいた。

 

 ちなみに少女の浴衣は風圧にあおられて翻っており、彼女がはいているパンツが丸見えになっていたりして、

 

『うほっ!? いいパンツ!!』

 

「カモ君!? そこに反応している場合じゃないと思うよ!?」

 

 二拝二拍手一拝をして拝み倒すカモにツッコミを入れながら、ネギは明らかに見たことある二人組を見て慌てて明日菜に電話をかける!

 

『もしもし、ネギ!?』

 

「あ、明日菜さん!! 木乃香さん無事ですか!?」

 

『そ、それが変なおっさんにさらわれちゃって!!』

 

 遥か彼方から、「そうです私が変なおじさんです! って、何言わせんね~ん!!」と、ネギの耳に聞こえてきた気がするが全力で無視する。

 

「ついさっき僕の頭上を通り過ぎていきました!! すぐに追いかけます!!」

 

『うん! わかったわ! 私とマリーは桜咲さんや瀬流彦先生に連絡入れてから追いかける! だから……ネギ、木乃香をお願い!!』

 

「任せて下さい!!」

 

 友を守れなかった悔しさから、泣き声まじりになっている明日菜の声に、ネギは呪文を唱えその身に魔力の鎧をまとう。

 

戦いの歌(カントゥス・ベラークス)!!」

 

 そして、夜の追いかけっこが始まる。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「おぉ? まさかついてくる奴がおるとはな……」

 

 跳ねるように、踊るように、リズミカルなステップ音を無数に刻みながら、夜の京都を跳ね回り舞踏を繰り広げるボッサンは、先ほどからつかず離れずの距離を保ちながら追跡してくる小さな足音に気づき思わず口笛をならす。

 

「しかもこの足音から相手はガキかいな……。こんなできるガキ見たんわ中東の戦場で六重ゆうガキ見た時以来やで」

 

 まぁ、むざむざ追いつかせたるつもりはないけどな。

 

 ボッサンは不敵な笑みを浮かべながらさらに加速するために、足に気を回し脚力を跳ね上げる!

 

 だが、

 

「 吹きすさべ 南洋の嵐!!」

 

「!?」

 

 ボッサンの目の前に突如、ガラス張りの建物の影から出てきた杖に乗った少年が現れる!

 

 右手に装填されているのは、破壊こそ絶対の力といわんばかりに火力を重視する西洋魔法!

 

「おいおい!」

 

 ボッサンの顔がその光景を見て思わずひきつる。

 

 しかし、少年は詠唱を止めることなく、情け容赦なく魔法を解き放った!!

 

雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!!」

 

 轟音を立て、破壊をまき散らしながら、《雷の暴風》は男を直撃する! 強力な破壊力を有する中規模魔法を食らった男の体は、まるで木の葉のように吹き飛ばされタイル張りの階段へと叩きつけられた!

 

 その際木乃香は空中に投げ出されており、杖に乗った少年……ネギは難なくその体を掴み取り救出を成功させる。

 

「いや~意外とうまくいったな兄貴!」

 

「風精にダミーやらせるっていうのはちょっと初めてだったからうまくいくかどうかはわからなかったけど、よかった……成功して」

 

 ネギが視線を巡らせた先には、ネギの靴を履いたネギにそっくりな風の精霊がブンブン手を振りながら消えていく。

 

 風の中位精霊を使って自分の複製を作り出す魔法。ネギはそれを使ってわざと足音を演出し、敵に自分が後ろから迫っていると錯覚させたのだ。

 

 そして、本当のネギは杖に乗り無音で空中を高速移動。敵が来ると思われるポイントに回り込んで呪文詠唱を終了させ、敵を迎え撃った。

 

 Ⅵによる教育を受けたネギにとってこの程度の作戦はできて当たり前のことになっている。

 

「さぁ……旅館に帰ろうかカモ君。あ、途中で明日菜さんたち拾っていかないと……」

 

 ボッサンを倒したことにより、安心した雰囲気を流しながらボッサンが吹っ飛んだ地面から背を向けるネギ。

 

 だが、

 

「おい……チョイまてや」

 

「『!?』」

 

 後ろからボッサンの声が響き渡り、ネギが驚きながらふりむく!! そして……

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 電車にのりネギがたどりついたといっていた京都駅にやってきた明日菜、刹那は目の前で繰り広げられる光景を信じられないものを見るような目で見つめていた。

 

「ネギ……」

 

「あははははは……ごめんなさい明日菜さん」

 

 そこには、

 

「負けちゃいました~!!」

 

 ネギの父親の形見の杖を取り上げ天高く掲げるボッサンと、ピョンピョン飛び跳ねながら必死に杖を取り返そうとするネギの姿があった。

 

「「も、萌え~」」

 

「マリーさん!? 明日菜さん!? いっている場合じゃないでしょう!?」

 

 若干壊れた二人のセリフに刹那が突っ込みを入れるなか、声に反応してふりむいたボッサンは、

 

「ゲッ!?」

 

 マリーの顔に視線を合わせると同時に、顔を思いっきりひきつらせる。

 

「あ……マリー。久しぶりやな」

 

「ああ、久しぶりやな……」

 

 そして二人はにこやかな笑顔であいさつを交わした後、

 

「友達さらってどうすんの? とか、私を身売りするとか何考えトンねん? とか、そのかっこうを見る限り相変わらず借金取りから逃げ回っているみたいやな……とか、言いたいことは腐るほどあるけど、まぁ今はええわ。いまはとりあえず……」

 

 マリーは手元に出現させたカードから、いつものハリセンを出現させ一言……つぶやく。

 

「死ぬ覚悟はできとるんやろうな? クサレオヤジ……」

 

「いきなり父親殺害宣言!?」

 

 こうしてマリーは、自分を犬神アンダーグラウンドサーチに売り払ったダメおやじと再び対面することになるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

そのころ……麻帆良生徒が泊まる宿では。

 

「あ、先生こっちです!! って、あれ? マリーさんは?」

 

「あ、木乃香がどっかいっちゃって、明日菜と一緒に探してくるって」

 

「ゆえ~はやく~」

 

 夕映が新田先生を連れて帰ってきたトイレの前には、無理やり起こされたせいか、若干頭が痛そうなパルとのどかが座っており、トイレのドアを抑えていた。

 

「君がうちの生徒を襲おうとした不審者かね?」

 

「あ、いえ……これにはその……なんというか深い事情がありまして……」

 

「問答無用だ。夕映君。ジョニー先生を呼んできてくれ」

 

「わかったDEATH!!」

 

「あれ!? なんか語尾が不穏になった気がすんねんけど!? 私一体どうなるん!?」

 

 そして、修学旅行を襲撃した怪異・猿女は地獄を見ることが決定したのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「お、お父さんですか!?」

 

 ボッサンに必死にとびかかりながら杖を取り返そうとしていたネギは、マリーの言葉に目を見開いた。

 

 ボッサンはそんなネギの様子をみて、苦笑交じりに天高く上げていた杖をおろし、頬をかく。

 

「ああ……まぁ、そういうことや」

 

「そ、そんな……どうしてマリーさんのお父さんがこんなことを!!」

 

「いや……ネギ君。娘売り飛ばすような男に常識求めるほうが間違っとんで?」

 

「……」

 

 『父と娘……因縁の対決!! なにが……いったいなにが、彼らを引き裂いてしまったのか!?』というテロップが脳内に流れるネギに向かって飛来したマリーのツッコミが、そんなシリアス風味な空気を引き裂いた。

 

「ああ……そういえば言っていたわね。犬神に無理やり売り払ったって……」

 

「なんてクズやろうなんですか!!」

 

「あれ? なんやろう……知らん所で俺の株価が暴落しとる気がする……」

 

「もともと売り払えるような株持ってへんくせになにユーてんねん!!」

 

 女子中学生二人から向けられた絶対零度の瞳に、ボッサンことマリーの父親は若干黄昏た空気を醸し出すが、マリーの辛辣なツッコミが入り「それもそうやな~ハハハハハハ!!」と力強い笑みを浮かべながら元の雰囲気に戻る。どうやらかなり強靭な精神力の持ち主のようだ。

 

「ほんで……マリー。俺ちょっとこの子さらうことが今回の仕事やさかいに、邪魔されるとちょっちこまんねんけど……」

 

「ふざけんといてや、クソオヤジ。その子は私の友達やねんから、さらわれたんを「ハイそうですか」って見逃すわけないやろ?」

 

 ハリセンを構えながらマリーが吐き出したもっともな言葉に、安川父は、苦笑をうかべながら肩をすくめる。

 

「マリー……仮にも俺はお前の父親やで? 信頼してーや。この子は絶対に悪いようにはしーひんから!!」

 

 そして、キリッとした顔になり力溢れるかっこいいセリフを言ってくれた安川父。その姿は歴戦の傭兵を語るにふさわしいもので、体からは覇気が流れ出ている気がする。彼の本当の姿を知らない人間が見たらついうっかり信頼してしまいそうなほど彼の姿は決まっていた。(ちなみに、ネギと明日菜はだまされた)。

 

が、

 

「娘売り飛ばすような男にいまさら信頼があるおもてんのか!!」

 

「オウ、シット!!」

 

 マリーの的確なツッコミによって、その覇気はあっさりと雲散霧消し、明日菜とネギから再び冷たい視線が向けられる結果に終わった。

 

「それに……どうせその仕事を受けたんも借金がらみやろ!! いったいいくら肩代わりしてもらえることになってん!!」

 

「……」

 

 大きく顔をそむけ、マリーから目をそらす安川父。どうやら図星だったらしい……。

 

「ふむ……ホナシャーないわ」

 

 そして、安川父は視線をそらしながら肩を竦めた後、

 

「そーい!!」

 

「ぎゃあああああああああああああああああ!?」

 

 ネギの杖を気で強化された腕を用い全力投球! ネギの杖はお星さまになってどこかに行った……。

 

「そんな、ひどいですぅううううううううううう!!」

 

「いや……魔法使いの戦力削るんは当然やんか……。はよ取りにいかへんと、誰かに拾われてどっかいってまうで?」

 

「あうあうあうあ……」

 

 杖を拾いに行きたい。でも生徒を助けないと。でも杖のない僕じゃこの人には勝てないし……。

 

 そんな風に思考が堂々巡りになり混乱するネギ。

 

 明日菜はそんなネギを見て、大きくため息を漏らしながら声を張り上げる。

 

「ネギ!! 早く杖とってきなさい!!」

 

「え? で、でも……」

 

 明日菜の言葉に目を丸すクスネギに向かって、明日菜は元気よくサムズアップする。

 

「だてにエヴァンジェリンちゃんと戦ったわけじゃないのよ!! マリーも桜咲さんもいるし……ここは私たちが何とかするから!!」

 

 信頼している明日菜の力強い言葉に、ネギは一瞬の逡巡のあと、

 

「わかりました! 杖を見つけたらすぐに戻ってきます!!」

 

 ネギ今の自分に使えるせい一杯の身体強化を足に施し、その杖が飛んでいった方向へと駆けて行った。

 

 そんなネギを見送った後、明日菜は最近Ⅵとの修行中に出せるようになった大剣を、刹那は長大な野太刀を取出し安川父に向かって切っ先を向ける。

 

「おお……なんや。物騒なモン持ってるやんか……。まぁ、それでもガキに負けるつもりはあらへんけど」

 

 安川父はそんな二人の様子に口笛を鳴らしつつ、位置関係的には彼の背中の後ろになっている段の頂上に、気絶したまま倒れている木乃香を親指で指差す。

 

「あの子を奪還できたらお嬢ちゃんたちの勝ちや。まぁ、こっちも仕事やさかいにて加減はしーひんけど? かまへん?」

 

「上等よ!!」

 

「お嬢様を守るのが……私の使命です。邪魔をするというのなら、押しとおります!!」

 

 明日菜はネギからオートで供給される魔力を、刹那は長年の研鑽で手に入れた気を、体中にはりめぐらせて力に変える。

 

 マリーも二人と同じように気を体中に張り巡らせて戦闘態勢をとるが、その視線はほかの二人よりも険しかった。

 

 その表情の理由は、別に父親がにくいからではない。いや、それもあるが、

 

「明日菜……セツナン……。気を付けてや。うちのおやじは一見ちゃらんぽらんやけど……」

 

 そこでマリーは言葉を切り、少し意外そうな顔をしてマリーを見ていた二人にこう告げる。

 

「あの犬神君に格闘術を教え込んだ、歴戦の傭兵や。戦闘経験だけやったら私らのはるか上を……」

 

「あんたが犬神を生み出した悪の権化かァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「うわっ!? なんやこの嬢ちゃん!? メッチャキレとんねんけど!?」

 

 そして、明日菜は普段の犬神への恨みも相まってか、とんでもない勢いで安川父に切りかかった!

 

「「……」」

 

 桜咲とマリーはそんな光景に思わず絶句した後、

 

「ちょ!? 明日菜!! 人の話は最後まできーてーや!?」

 

「ちょ、明日菜さん!! 先走りすぎです!!」

 

 慌てて明日菜に追従した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 明日菜は魔力で強化された両足を凄まじい速度で動かしながら、階段を駆け上る。

 

 目指す先には明日菜の剣幕に若干ビビった雰囲気を出す安川父。その姿勢は歴戦の傭兵とは思えないほど無防備で隙だらけだった。

 

 本当にこの人が犬神に格闘技教えたの?

 

 犬神の一切隙を見せない美しすぎる姿勢でとられた構えを思い出しながら、明日菜は大きく大剣を振りかぶった。

 

 一応峰だし……思いっきりブッ叩いても問題ないわよね!!

 

 どんな超人でも巨大な鉄の塊である大剣でぶん殴られたら怪我では済まないと思うのだが、明日菜との模擬戦を行っているのは、Ⅵ・犬神といった超人越えの規格外たちだ。明日菜の脳裏からはそんな常識はとうの昔に消え去っている。

 

 そのため明日菜は遠慮も容赦もすることなく、安川父の頭部に向かって全力で大剣を振り下ろした!

 

 ゴイン!! そんな間の抜けた音とともに、安川父の頭部に大剣が直撃。ちょっとした揺れがその付近を襲う。

 

 そして、

 

「え!?」

 

 安川父に直撃した大剣……ハマノツルギが安川父の頭部を直撃した中央から砕かれ、へし折れた! それを見て明日菜は大きく目を見開く。

 

「ああ……マリーから聞いたことない? 《豪気功》ゆーてな。俺の気力運用はちょっと特殊やねん。体や気を流し込んだ物質を硬化させる気力運用なんやけど……。さてここで質問や、お嬢ちゃん。ターミネーターに対して木製の椅子を力いっぱい叩き付けたらどうなるやろ~か?」

 

 木製の椅子はターミネーターの耐久度に耐えられず壊れる……。

 

「正解。まぁ、今の現象はそれとおんなじ現象やと思ってくれてええよ?」

 

「……どんだけ固いのよ!?」

 

「計ったことはないけど、ダイヤモンドの億倍ぐらい?」

 

 安川父が提示したでたらめな数値に明日菜は思わず顔を引きつらせる。

 

「ほな、まぁ……一人退場ゆーことで」

 

「!!」

 

 そして、そんな明日菜のスキを安川父は見逃さなかった。予備動作が全く分からない、信じられない速度で振るわれた安川父の回し蹴り!! 明日菜はその姿にゲルの姿をかぶせてしまう。

 

……やっぱり、この人があのクサレ外道の師匠だわ。

 

 自分のこめかみに向かって振るわれた、ダイヤモンドの億倍固いといわれる足によって行われた回し蹴り。

 

 詰んだ……。

 

 明日菜は瞬時にそう判断し、思わず目を閉じる!

 

 だが、

 

「なんでやねぇえええええええええええええええん!!」

 

「秘剣・百花繚乱!!」

 

 瞬動で二人の間に無理やり割りこんだマリーがハリセンをふるい、刹那が安川父の頭に向かって遠慮容赦ない連続斬撃を叩き込む!!

 

「お?」

 

 刹那の攻撃はとんでもない硬度を持つ安川父にはあまり通じなかったようだが、それでも若干ひるませることには成功。その隙をついて、マリーが父親と同じように豪気功を流し込んだハリセンで彼の足を迎撃し、弾き飛ばした!

 

「!?」

 

 そこで明日菜は……信じられない光景を目にする!!

 

「イッタ!? 脛しばかれたし普通にイッタ!!」

 

「ものすごい隙だらけですね……」

 

「あたり前やん。このクソオヤジがしばらくの間クールキャラになれとった方が間違っとんねん……」

 

 どうやら豪気功が流し込まれた攻撃によって安川父にダメージが入ったようだ。足を抱えて激痛にのた打ち回る安川父をしり目に、刹那は半眼になりながら呆然としている明日菜を回収、マリーは父親の頭部に向かって遠慮なくハリセンをふるう!

 

「って!? のわぁああああああああああああああああ!? いやいや……マリー。ここはお父さん見逃してくれるところやない?」

 

 もう殺意が限界まで含有されたその一撃を察知し、慌てて階段を転がり落ち回避する安川父。その顔は限界まで血の気が引いており、マリーが放った一撃が一体どれほどの恐怖を安川父に与えたのかを物語っている。

 

「安心しーやクソオヤジ。私の豪気はまだ練りが甘いせいで、あんた殺すところまで至ってへんみたいやし……。しこたま殴られても死ぬ可能性はないで?」

 

「い、いや……確かに攻撃は通じひんけど殴られたらそこそこ痛い……」

 

「あんたに捨てられた私の心のほうがよっぽど痛かったし……甘んじて受け入れてーや。クソ」

 

「親父すらぬけっ……ブヘラッ!?」

 

 傭兵時代の安川だったら激痛ぐらいでギャーギャー騒ぐことはしなかったのだろうが、あいにくと今の彼は傭兵でもなんでもなく借金にまみれた小汚いオッサンだ。前線を退いてしばらくたっていたので痛みに対する耐性が下がっているうえに、自分に制裁を加えているにはもう罪悪感しかいだけない捨ててしまった娘……。

 

 彼が反撃することは……なかったらしい。

 

「うわ……」

 

「ま、マリーさん……怒るとあんなに怖いんですね……」

 

 悲鳴を上げながら『助けて!!』という父親の声を無視して、淡々と豪気功を流し込んだハリセンをふるい続けるマリーに明日菜と桜咲は戦慄し冷や汗を流したという……。

 

 ちなみに……

 

「う~ん。う~ん。鬼が……鬼がおる~」

 

 マリーが安川父を殴りつける音が響き渡るたびに、階段の上にいた木乃香が寝返りを打ち、うんうん言いながらうなされていたらしい……。 

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

後日談。

 

・マリーたちが戦っている時の、宿屋のとある一室……。

 

「はっ!? 安川……まさか、暗黒面に落ちたのか!?」

 

「アナキン・スカイウォーカーですね。わかります」

 

 一人の吸血鬼とガイドノイドがそんな会話を交わしていたとかいないとか……。

 

 

 

・戦いの後のマリーたち。

 

「それにしても木乃香無事でよかったな~」

 

「「イエス・アイマム」」

 

「ネギ君も杖見つかったみたいやし……」

 

「「イエス・アイマム」」

 

「……なぁ、二人とも……」

 

「「い、イエス・アイマム!!」」

 

 なんかもう顔を引きつらせながら、うなされる木乃香を抱えガタガタ震える二人を見て、マリーは大きなため息をつく。

 

「まずは……お話から始めよか?」

 

「そ、それは某魔法少女みたく……『すこし……頭冷やそうか?』てきな?」

 

「ちゃうわ!?」

 

「も、もしくは……同魔法少女のSLB的なあれですか!?」

 

「そんなんうてへんし!! ていうかセツナン何でしっとんの!?」

 

 結局二人の態度は宿に到着するまで治らなかったという……。

 

 

 

・戦いの後……戦場にて。

 

「安川……」

 

 なかなか帰ってこない仲間を迎えに来た白髪の少年は、そこで今回の計画で最も信頼している人物が倒れているのを発見した。

 

 その男……安川父はどういうわけか頭に無数のたんこぶをつけ、それでたんこぶタワーを建設しながら気絶しており、その背中には油性ペンで書いたと思われる大きな文字で落書きがされていた。

 

『私は可愛い可愛い、美人すぎて目がくらんでしまうような娘を捨ててしまった悪い子です。とても反省しています』

 

 背中に書かれた文字を読み、めったに動かなかった少年の顔に明らかな縦線が入る。

 

「……今ほど、君をこの計画に誘ったことを後悔したことはないよ、安川」

 

「うわぁ……誰がここまでやらはったんやろ~。さすがの私もこもまではしませんわ~」

 

 白髪の少年についてきた眼鏡の二刀流少女のドン引きした声をバックに、夜は静かに更けていった。

 

 

 

・京都市内警察署にて。

 

「あんまり頑固だとこっちもそれ相応の態度をとらないといけなくなるよ? あ、かつ丼食べる?」

 

「いや……せやからちょっと言えへんていうかなんて言うか……。ていうかかつ丼はさっきももらいました……」

 

「まぁ、君が認めたくないのもわかるけどさ……。あ、かつ丼食べる?」

 

「いや……せやからもらったって」

 

「ふ~ん……。かつ丼食べる?」

 

「って、さっきからなんやねんあんた!? そんなに私にかつ丼食べさせたいんか!? かつ丼食べたら何でも話すおもとんのか!?」

 

「ああまぁ……それは……かつ丼食べる?」

 

「誰かァアアアアアアアアアアアア!! チェンジィイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!! もしくは通訳呼んでぇえええええええええええええええ!!」

 

 おそらく今回の話で一番不憫だった、硝煙くさいボロボロの原作キャラが捕まっていた……。

 

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