とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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15話・修学旅行二日目苦労人レイジーの修学旅行

 修学旅行二日目……。

 

 ボロっボロになったスーツを着たままレイジーは目を覚ました。

 

「んあ……」

 

 体中に走る鈍い痛み。まぁ、これはいつもどおりなので無視するが、問題なのは彼の腹部にやたらと重たいものが乗っかっている気がすることだ。

 

 宿のカーテンから差し込む光をまぶしく思いながら、レイジーは腹部に乗った重たいものをはねのけ勢いよく起き上がる!

 

「いったいなんだ……って、聞くまでもないか」

 

 レイジーがそういいながら暗い笑みを浮かべ、自分の隣へと視線を向けると、そこには!!

 

 寝る時でも眼帯を外そうとはしない、トサカ頭の不良教師が豪かいな寝相で眠りこけていた。

 

 彼の名前はジョニー。レイジーの胃に穴をあけてくれそうな……彼の人生で最悪な部類に入る仕事の上司……。

 

「はぁ……今日は……平和にすんだらいいな」

 

 まぁ、そんな希望は当然通らないわけで……

 

 今日も今日とて、苦労人レイジーのデンジャラスな日常が幕を開ける。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「生徒に拳銃を向けたのを止めること3回。近場にいた犯罪者を殺しかけたのを止めること10回。職質受けること25回……」

 

「そんでレイジー先生そんなボロボロになっとんねな~」

 

 奈良公園に設置された休憩用のベンチに座りながら、ぐったりとうなだれるレイジー。その隣にはマリーがパックジュースをすすりながら座っており、レイジーの愚痴を聞いていた。

 

「そういうマリーちゃんは、ほかの班員のところに行かなくていいの?」

 

「ああ? ええねんええねん!! 今回はむしろあんまネギ君に近づかん方がええから」

 

「??」

 

 マリーがひらひら手を振りながら言い切る姿を見て、レイジーは思わず首をかしげた。

 

 ネギは犬神アンダーグラウンドサーチの最重要保護対象だったはずだ。それからわざわざ離れたほうがいい事態なんていったい何があったんだろう? と。

 

 もっとも、マリーがネギから離れたのは別に大した理由ではなく、いつの間にかネギがフラグを立てていた宮崎のどかに気を使っただけなのだが……。

 

 閑話休題。

 

「ほんで、そっちはネギ君の援護体制大丈夫なん? 昨日は結局こーへんかったけど?」

 

「ああ……。昨日はマリーちゃんたちが捕まえた不審者を新田先生に任されてね……。まさか放っておくわけにもいかなかったし」

 

「ああ……。確かにあのお猿のオネーちゃん色々やってきそうやったしな……」

 

「いや……。ジョニー先輩が彼女を撃ち殺さないように見ていないといけなくて……」

 

「……」

 

 思わず沈黙を余儀なくされるマリーから、とてつもない同情の空気が流れてくるのを感じ、レイジーは思わず目元を抑える。

 

 何となく心の汗が流れそうで……。

 

 そんな時だった……。

 

「おいレイジー!! 3-A委員長からタレこみだ!! 教師が生徒と不純異性交遊してんだと!! 見つけ出してぶち殺すぞ!!」

 

「ちょ!? 先輩!! こんな一般の往来でなにいってんですか!!」

 

 トイレから帰ってきたジョニーが拳銃片手にそんなことを叫んでくるのを聞き、レイジーは慌てて個人用の認識阻害をかける。

 

 これでクレイジーなジョニーの発言はほかの人々に認識されなくなった。レイジーはため息まじりに腰を上げ、愚痴を聞いてくれたマリーに一礼をする。

 

「じゃぁね!! マリーちゃん!! 僕ちょっと先輩を止めてくるから!!」

 

 レイジーがそう片手をあげマリーから離れようよしたその時だった、

 

 ガッ!! という音がなりそうな勢いで、マリーがレイジーの袖をつかみ彼の進行を阻む!!

 

「え? え? なに!?」

 

 あまりに勢いよく止められる偽たため、腕の骨がゴキュッ! とちょっとやばそうな音を立てたが、レイジーはもうその程度の痛みには慣れたので、とやかく騒いだりしない。

 

 むしろマリーがレイジーを強引に止めたことの方が問題だった。

 

 マリーは基本的に荒っぽいことをしないから、うちの怪物のような止め方はめったにしないのに……。

 

 レイジーがそう思いマリーを見つめていると、

 

「なぁ……先生。ちょっと話したい事実があるんやけど……」

 

 マリーは青い顔をしながら、ひきつった笑みをレイジーに向けてきた。

 

「多分……その不純異性交遊の相手、ネギ君と本屋ちゃんやねん……」

 

「いっ!?」

 

 

 数分後。幼い少年と生徒の青春を守るため、マリーとレイジーが泣きながらジョニーと戦う光景が京都中で見られたとか見られていないとか……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 メガネをかけた七三分けの青年と、金髪を後ろでまとめた女子中学生が、泣きながら殺傷能力100%の弾丸の雨をよけまくり、トサカの不良教師と戦う光景を見て某有名コーヒーチェーン店でコーヒを飲んでいた白髪の少年は思わずこう漏らした。

 

「ふむ……ハリウッドの撮影かな?」

 

「いや……どう考えても阿鼻叫喚の地獄に落ちいっとんねんけど……」

 

 車に巨大な風穴があき爆発する。それを見た青年と少女が泣きながら、呆然としているその車の持ち主に土下座するのを見て、少年のブレイクタイムに付き合っていたオッサンは思わず顔を引きつらせるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 げっそり……。

 

 その表現がこれほど似合う男はほかにいないだろう。そう思ってしまうほどやつれてしまったレイジーが、ふらふらと旅館の中を歩いていた。

 

 今日も今日とてジョニーの尻拭いをさせられた彼。何とか無事に帰ってきたはいいものの、心も体もボロボロになってしまったレイジー。

 

 今日はマリーが付き合ってくれたからまだましだったものの、そうでなければレイジーの胃袋は今頃巨大な穴をあけ、彼は病院に運びこまれることになっただろう。

 

「もういっそのこと本気でそうなったほうがいいかも……。辞表だしても出しても主任に揉み消されるし……」

 

 グラサンをかけた『玉虫色? 最高じゃないか!!』といってくる、無責任すぎるあのバカの顔を思い出しながらレイジーはフフフと絶望がにじみ出た笑顔を浮かべる。

 

 その時、

 

「むぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「?」

 

 突然廊下から響き渡ってきた苦悩の声に、レイジーは眉をしかめながらその声の方向へと歩き出す。

 

 大方また3-Aが騒いでいるんだろう。まったくあのクラスは……。

 

 おかげで僕が今日一体どれだけ胃に負荷をかけたと……。

 

 若干恨みがましい思考に陥りながら廊下の角を曲がり、苦悩の声が響いてきた方向に顔を出す。

 

 そこでは……

 

「だれも僕に告っったりなんか……」

 

「え!? こ、告った!?」

 

「え——!? それホントネギ君!? だ、だれからされたの!?」

 

 なにやらうっかり口を滑らせてしまったネギが、3-Aのメンバー複数に問い詰められているところだった。

 

「またネギ君の告白騒動か……」

 

 昼間にもそれに巻き込まれてしまった記憶を思い出し、レイジーの体から大量の怒気が噴出される。

 

 そりゃネギ君には教師っていう立場があるんだから、それ自体はあまりほめられたことじゃないけど……仮にも彼は10歳。ましてやいろいろいわくがあって、無理やり教師という立場をとらされたに過ぎない子供だ。多少の青春ぐらいは目をつぶろうというのが麻帆良教員たちの総意だ。

 

 だが、どうやら彼の教え子の何人かはそうではないらしい。

 

「反応から見ると……どうやらその筆頭はあの委員長みたいだね」

 

 黒い笑顔を浮かべながら、レイジーは慌てふためく委員長に近づいて行った。

 

 そして、

 

「委員長?」

 

「あ、レイジー先生!! 聞いてください!! 教師と生徒の淫行が……」

 

「ああ……。うん。今朝のタレこみも君だったんだね? もうそれはいいからちょっとこっちに来ようか?」

 

「あ、あれ!? 何で首根っこ掴まれているんですの!?」

 

「大体噂には聞いていたけど君ちょっと犯罪者臭がするから……。そこらへんも踏まえてちょっとOHANASIしようか?」

 

「発音が不穏な気がします!?」

 

「大丈夫大丈夫……。これは教育的指導だから。決して僕の私怨とか憂さ晴らしとか関係ないから? ホントダヨ?」

 

「れ、レイジー先生!? なんか黒いです!! ちょ、あなたたちも助けて……って、なんで目をそらすんですかぁあああああああああああああ!?」

 

 先ほど委員長とネギ君の相手が誰なのか騒いでいた面々は、ガタガタ震えながら目をそらし、どす黒い気をまき散らすレイジーの被害を受けないように脱兎のごとく逃げ出した。

 

 そして彼に引きずられていく委員長に、無言のまま十字を切った後、黙祷を捧げるのだった。

 

 そんな光景を廊下の影から見ていた明日菜と刹那は、

 

「れ、レイジー先生……色々たまっていたのね」

「ふ、普段怒らない人が怒るとあんなに怖いんですね」

「こ、今度からレイジー先生はあんまり怒らせないようにしようね……」

「はい……」

 

 お互いに血の気の引いた顔で視線を交わしながら大きく頷いた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

『燃えたよ……。まっ白に……燃えつきた…。まっ白な灰に…』

 

 レイジーの説教を喰らい、廊下でがっくりとうなだれ正座をさせられている委員長の背中にはそう書いてあった。

 

 そんな彼女に『反省中』の看板を掛けたレイジーは、先ほどより少しましになった顔色でふたたび旅館を巡回する。

 

 昨日の襲撃の件もあるので、この巡回の手を抜くわけにはいかない。

 

 要所要所で得意魔法である認識阻害の発展系魔法をかけながら、小さな神殿を作り上げていくレイジー。それによってこの旅館は、麻帆良にかけられた認識阻害と同じ効果を持つ力に覆われていく。

 

 ジョニー先輩のしりぬぐいをするために、この魔法だけはぐんぐんスキルが上がっていったからな……。

 

 この魔法の腕が上がった理由を思い出し、目元に心の汗を浮かべるレイジー。実は認識操作系の魔法を操らせれば麻帆良にかなうものがいないほどの実力を持つ彼だったが、彼の魔法が使われるのはいつもジョニーが起こした不祥事の後始末の時だったため、その真の実力はあまり正確に認識されていなかったりする。

 

 それはともかく……。

 

 こうして宿全体に認識阻害の神殿の設置をすることに成功したレイジーは、一息つきながら近くの自販機でコーヒーを買おうと、その足を玄関近くに設置してあった自販機コーナーへと向ける。

 

「あれ?」

 

 しかし、レイジーがたどりついた自販機コーナーの中にはお気に入りの銘柄のコーヒーが置いていなかった。

 

「困ったな……。僕あれじゃないとちょっと落ち着かないのに」

 

 別にコーヒーにそこまで入れ込みがあるわけでもないが、やっぱりストレスをため込んだ胃のためにもいつも愛飲しているコーヒーを彼は飲みたかった。

 

 レイジーはしばらく自販機の前で悩んだ後、

 

「あ、そうだ。旅館の前にもコーヒーがあったよね?」

 

 旅館内の自販機より若干高いが、たかだか10円20円の差だ。財布に深刻な打撃は与えないだろう。

 

「だったら……」

 

 そう思いレイジーは玄関へと足を向け、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見てしまった。

 

「……」

 

 猫をかばい、魔法を使うことによってワゴン車を吹き飛ばすネギと……。

 

「…………………」

 

 それを玄関の陰に隠れながらしっかりと激写している朝倉の姿を……。

 

 レイジーはその光景を見てしばらく固まった後……。

 

「あっれ~。おっかし~な~。疲れて幻覚でも見ているんだろうか? ははははは。あのネギ君があんなにあっさりと魔法バレするわけないしね。うん。きっとこれは悪い夢なんだよはハハハハハ」

 

 もうストレスが限界に来たのか、虚ろな笑みを浮かべながら現実逃避するレイジー。

 

 その後彼は、もう疲れたといわんばかりに部屋にこもり布団の中にもぐりこんだ。

 

 壊れきった笑みを浮かべるレイジーの精神状態が不安になったのか、廊下に放置されていた委員長が『だ、大丈夫ですか?』と声をかけてくるがそんな言葉はもうレイジーには届かない。

 

 こうして、ネギの魔法バレはレイジーの胸の内に秘されてしまう。

 

 そのため、この後起こった馬鹿騒ぎを麻帆良魔法関係者たちは止めることができなかった……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 ドタドタっ!!

 

 レイジーは廊下に面しているドアから聞こえた騒音で、現実逃避の眠りから目覚める。

 

 いったいなんだといいながら、彼が手に取った時計が示す時間は午後11時。

 

「あ……見回りの時間忘れてた」

 

 彼の担当時間はちょうど11時15分からだったので遅刻というわけではないが、それでもかなり危なかった。

 

「だめだな~……。いくらストレスがたまっているからって仕事はちゃんとしないと」

 

 新田先生恐しね~。学生時代から全く変わらない新田の怒声に苦笑をうかべながら、スーツのシワを魔法で整えていくレイジー。スーツのまま布団に入ったせいかかなりしわが寄っていたが、魔力を持ったレイジーの手がスーツをなでると瞬く間にそのシワは消えていく。全国のサラリーマンが見たら泣いて伝授してくれと頼みこむほどの便利さだ。

 

 そうして身だしなみを整えたレイジーは、自分の部屋から顔出し廊下で繰り広げられている……

 

「………………」

 

「「「「「「…………………あ」」」」」」

 

 3-A六人によるバトルロワイヤルを目撃した。

 

 枕と浴衣で武装した3-Aの生徒六人。長瀬楓、古菲、明石裕奈、佐々木まき絵、長谷川千雨……そして、

 

「れ、レイジー先生……」

 

 夕方の説教地獄を思い出したのか、顔を青くして固まる雪広あやか。

 

 レイジーはその6人を見て少しの間固まった後、

 

「……何しているんだい君たちは?」

 

 若干呆れをにじませた声色で6人を詰問した。

 

 その時だった!!

 

「逃げるアル、楓!!」

 

「あいあい~」

 

 古菲が突然レイジーに枕を投げつけて逃走!! それに楓が続く!!

 

「あちょ!?」

 

「まき絵!! 私たちも逃げるよ!!」

 

「うん!!」

 

 そして枕によってレイジーの視界が奪われたのを見て、これ幸いと裕奈とまき絵も逃走していった。

 

「は、長谷川さん私たちも……ってすでにいないですの!?」

 

 委員長も自分の相棒に声をかけて逃げようとしたみたいだが、どうやらとっくの昔に見捨てられていたらしい。

 

 ツッコミまじりの悲鳴を上げる委員長。しかし、それが致命的な隙になった!!

 

「……とりあえず、君だけでも話を聞こうか?」

 

 当然のごとく、逃げ遅れた委員長はあっさりとレイジーにお縄を頂戴され、首根っこをつかまれながらロビーへと引きずられていくのだった。

 

「ひぃっ!! 説教はいやぁああああああアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ちょ!? 悲鳴あげないでよ!? 僕が変な人に思われちゃうじゃないか!!」

 

 そんな悲痛な悲鳴を残して……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「というわけなんですが……」

 

「まったく! 3-Aのバカ娘どもは!!」

 

 ヒーンとロビーで泣きながら正座させられている委員長の悲鳴をBGMに、レイジーと新田は顔を突き合わせて3-Aが何かをやらかしているとあたりをつけ作戦会議に入っていた。

 

「とりあえず今手が空いている先生たちに協力してもらって、3-Aの子たちを捕まえてきます」

 

「あ、だったら僕も行きますよ新田先生。一応この時間帯は僕が巡回する予定の時間ですし」

 

 ため息まじりに立ち上がる新田を見て、レイジーも思わず立ち上がる。いくら社会人となり教師になったとしても、学生時代さんざん怒られた新田にレイジーはいまも頭が上がらなかった。

 

 げにおそろしきは学生時代のトラウマだね~。と、ややひきつった笑みを浮かべて新田に対して腰が低くなってしまう自分を自嘲するレイジー。そしてその顔は、

 

「いや……レイジー君、君には」

 

 新田のとんでもない一言によって……

 

「話を聞いて3-A鎮圧に向かった……ジョニー先生の捕獲をしてもらいたい」

 

 さらにひきつるのだった……。

 

 楽しい楽しい修学旅行の夜が、血も凍るような恐怖の夜へと変貌した瞬間だった。

 

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