とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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16話・修学旅行二日目 恐怖の夜

「落ち着け……。落ち着くんだレイジー。be COOLだ!! 大丈夫僕ならやれる!! あの鳥頭が通りそうな場所を正確のトレースし、待ち伏せ。背後から奴の後頭部に必殺の一撃を叩き込めば……。うん。そうだ。自信を持てレイジー……僕ならきっと殺れる!!」

 

「あの……同僚の方を止めに行くだけですわよね?」

 

 新田に「地獄へ行ってください……」と、同義の指示を出されたレイジーは一人ロビーで頭を抱えながら、対ジョニー用の作戦を練っていた。

 

 ……というかもう、まごうことなき殺人計画だった。

 

 うちの学校……もしかしていろんな意味でヤバイ? といまさらながら、そのことを悟った委員長こと雪広あやかは、ひきつった顔をしながらとりあえずレイジーにツッコミを入れた。

 

 マリーさん。仕事して……。と、内心で悲鳴を上げながら……。

 

「ん? ああ、委員長……いたの?」

 

「いないと色々問題あるのではないでしょうか?」

 

 一応罰則なわけですし……。という委員長のツッコミを聞いて、「ああ……」そういえば、といまさらながら委員長の状況を思い出すレイジー。

 

 そして、しばらく委員長を見つめた後……。

 

「ねぇ……委員長。マリーちゃんの居場所って知ってる?」

 

「え? マリーさんの部屋なら知っていますが……」

 

「ちょっと案内してくれない? イロイロな意味で危険人物を捕まえないと……さらにイロイロな意味でまずいんだ」

 

「『イロイロ』言いすぎな気がしますが……。ちなみにどれくらいヤバイんですの?」

 

「某魔法少女がバインドというダメ押しをかけて「すこし……頭冷やそうか?」と言って天地魔闘の構えをとっている時ぐらいヤバイ」

 

「それもうバッドエンド一直線ですわよ!?」

 

 どうやら委員長は、管理局の白い悪魔を知っているっぽかった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「いませんわね……」

 

「どこ行ったんだろうね?」

 

 というわけで、委員長の罰則を超法規的措置で解除したレイジーは、委員長の案内に従いマリーたちが止まっているはずの部屋へとやってきていた。

 

 しかし、そこにいたのは……吸血鬼のくせに何故か爆睡しているエヴァと、自動人形然とした雰囲気で服の下から伸ばしたコンセントをつないで目を閉じている茶々丸。そして、寝ているエヴァの上に正座で座り込み、何やら怪しい中継をしているテレビのほうを見ながら、目をかっぴらいたまま鼻提灯を出しているザジだけだった……(下にいるエヴァはどうやらうなされているようで「うぅ~。なぎ~やめろ~。そんな、三メートルもあるにんにく持てるわけないだろう~」とか言っていた。いったいどういう夢を見ているのか非常に気になる……)。

 

「まぁ……理由は大体予想がつくけど……」

 

 大方ネギ君と一緒に襲撃の警戒にでも当たっているんだろう。

 

 だが……。

 

「ああ……どうしよう。ホントこれ死んだかもしれない……」

 

「何度も聞きますけど、御同僚の方を止めに行くだけなんですわよね?」

 

「委員長……この夜が終わったら、この手紙をモモちゃんに……」

 

「変な死亡フラグ立てないでください!?」

 

 結局目的の人はいなかった部屋を後にしながら、二人がそんな雑談を交わしている時だった。

 

「あ……委員長さん。レイジーさん」

 

「あ」

 

「ね、ネギ先生!!」

 

 二人の目の前に、何故か目が若干死んでいるネギが現れた!!

 

「あれ? ネギ君? 君マリーちゃんと一緒に警備に出てたんじゃ?」

 

「なっ!? ま、マリーさんがネギ先生と二人っきりで……あんなことやそんなことを!?」

 

「委員長……ちょっと黙ろうか?」

 

 あと耳鼻科言ったほうがいいよ? 顔を真っ赤にして怒り狂う委員長に三白眼を向けながら、レイジーはネギと目線を合わせるように身をかがめた。

 

「で? どうしたの……はっ!? まさか、もうすでにジョニー先輩の被害を!!」

 

 ネギが涙を流しながら、壁に巨大な穴をあける弾丸から逃げ回っている光景が、はっきりと思い浮かんでしまい、レイジーは思わず真っ青になった。

 

 しかし、

 

「いいえ……」

 

 事態は、

 

「今から僕は」

 

「?」

 

 レイジーの、

 

「レイジー先生とキスをします」

 

「「は?」」

 

 度肝を抜く方向へ転がっていく……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その頃の悪役たち……。

 

「ちょ~!! 自分ら……ノンビリしてんと、コタロー風呂に入れるん手伝ってーや!!」

 

「ちょちょ……千草ねェ、シャンプーのあわ目にはいっとる!!」

 

「うっさいな! 黙って洗われときっ!! ホンマなんや臭うおもたら、一週間も風呂入ってへんとかどういう神経してんの!?」

 

「俺は狗族やから、水にぬれるんが苦手なんや!!」

 

「はいは~い。それ関係ありまへ~ん。犬でも泳ぐのが好きな奴はおるんです~」

 

「そんなん人間が勝手に思ってるだけやろ!? 泳いどる犬も実は「ちっ……勝手に水の中に放り込みよって……。餌もらえるから仕方なく泳いだるけどな、いつかしばくぞハゲ」とか思っとるわ!!」

 

「ちょ!? 犬のイメージ壊れるようなこと言うのはやめてぇや!!」

 

 風呂場からギャーギャ聞こえてくる言い争いを完全に無視しながら、休日のオッサンよろしくごろんと寝転んだ安川父は、テレビをみており……引きこもり少年っぽい雰囲気を出したフェイトは、ネットサーフィンをしていた。

 

 ここは天ヶ崎千草が借りて住んでいる小さなアパート(いまどき陰陽師では食っていけないのだった……)。1LDKとかなり狭いこの部屋に計画実行メンバーがのんびりとした感じで集合していた。

 

 今日の襲撃はお休み。イロイロとチームプレーが乱れてしまった一味の仲間意識を強めるため、お泊まり会を実施中だった。

 

 ちなみに、二刀の神明流剣士月詠は、しばらく前までは、昨日のうちに隠し撮りしていた桜咲刹那の写真を「ハァハァ」と鼻息荒く眺めていたが、

 

「ああ……あかん。もう我慢できひん……ちょっと抜いてきます」

 

 とかいって、どこかへ行ってしまった……。

 

 極力関わり合いになりたくない空気を発していたので、だれも止めることはなかったという……。

 

 まぁ、そんなこんなで修学旅行組とは違い、平和な夜を過ごしていた襲撃組。

 

 そんな時、突然安川父に向かいパソコンの電源を落としたフェイトが突然話しかけてきた。

 

「なぁ……安川」

 

「ああ? なんやフェイト?」

 

 珍しく自分から話しかけてきたフェイトに若干驚きながら、安川父は身を起こす。

 

「僕もそろそろ……苗字がいると思うんだ」

 

「? 苗字って……アーウェルンクスちゃうんかい?」

 

「違う……。あれはシリーズ名だ。あと僕はあの名前が嫌いだ……」

 

 表情を動かさないフェイトが、珍しく眉にしわを寄せてそう言ったため、真剣に嫌なのだということを安川父は理解した。

 

「ほんで?」

 

「だからちょっとネットでかっこいい苗字になりそうなやつはないかなと調べていたんだが……」

 

「お前そんなん調べてたんか……」

 

 てっきり計画のことでも調べてたんかとおもたで……。

 

 あきれきった雰囲気を出す安川父を無視し、フェイトは先ほど印刷したウィキペ〇ィア先生のあるページを安川に見せつけた。

 

「これ!! 僕の名字はこれがいい!!」

 

「どれどれ……」

 

 そして、そのページを見て、

 

 

 

 安川父は固まった……。

 

 それはとある車を解説したページで……。

 

「意味は全然違うけどなんかいいだろ!? 語呂的な何かがいいだろ!? だから僕は今日からフェイト・テスタロ……」

 

 安川父は最後まで言い切らせなかったという……。

 

「いろんなところから苦情来るから……お願いやからやめてください」

 

 こうして、フェイトの名字補完計画は夢物語として終わった……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「レイジー先生とキスをします」

 

 ネギからの衝撃の告白から数秒後……。

 

「ふ……」

 

「ふ?」

 

 かわいらしく首を傾げるネギに、背後から立ち上るヤバい感じの闘気……それを感じて恐れおののくレイジーという図が、そこにはあった。

 

「ふざけるんじゃないですわぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 委員長火山大噴火の瞬間だった。

 

「どどどどどどど、どうして、私じゃなくこんなさえない地味でさえない男にキスの申し出をしていらっしゃるのですかネギ先生!!」

 

「委員長……ちょっと後でお話があるよ?」

 

 さすがにそこまで言われて怒りを感じないレイジーではなかったが……。

 

「くっ!? ま、まさか男に……男に負けるだなんて……納得いきません!!」

 

 まぁ……委員長の気持ちもわかる。正直僕も相手がネギ君じゃなかったら、相手を正気に戻すために思いっきり殴りつけているもん……。

 

 鬼子母神どころか阿修羅のごとく怒り狂う委員長に、レイジーはやや引きながら思わず後退する。

 

「今の私は……阿修羅すら凌駕する存在です!!」

 

「自分で言っちゃったよ……」

 

「決闘ですわレイジー先生!!」

 

 ウワァアアアアアアアアアアアアアン!! と、何故か号泣しながら飛びかかってくる委員長を必死によけながら、「どうしたもんか……」とレイジーは泣きたくなった。

 

 ジョニー先輩を殺らなくちゃいけないのに……。なんで僕こんな異次元に迷い込んでんの? と……。

 

 だが、

 

「おうレイジー……巻き込まれたくなかったら伏せとけ」

 

 レイジーはまだ知らなかった……。

 

「!?」

 

 異次元どころの騒ぎではない……。

 

射程範囲内(めのとどくところ)で教師に暴行とはいい度胸だ」

 

 地獄が、すぐそばまで迫っていたということを……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その声が聞こえた瞬間のレイジーの判断は早かった!!

 

 彼は委員長を即座に抱きかかえると、無詠唱で2重3重の認識阻害を展開。

 

 自分たちが飛びのいた方向とは逆の方向へと、自分たちが逃げた風に敵に錯覚させた!!

 

 だが、敵もさるもの。

 

 レイジーたちが転がったように見えた方向に銃口を向けることなく、実際レイジーたちが飛びのいた方向へと銃口を向けてくる。

 

「くそっ!!」

 

 再び発動されるレイジーの魔法。今度は不可視の魔法障壁。

 

 認識阻害に比べるとはるかに劣る腕前ではあるが、それでも普通の魔法使いと比べると一級品といっていいほど強固なそれらが、まるで城壁のようにレイジーたちの前展開された!!

 

 これで何とかしのげるか!?

 

 レイジーが冷や汗を流しながら、床に転がった瞬間に敵の銃の引き金が引かれた!

 

 ドンっ!!

 

 腹に響く大砲のような音。それと同時に射出されるは、死の音楽を奏でる螺旋回転をする弾丸。

 

 空間に螺旋の衝撃波を刻みながら飛来するそれは……レイジーの張った障壁をやすやすと食いちぎった!!

 

「っ! まだだ!!」

 

 まだ障壁は残っている!

 

 レイジーの叫びとともに弾丸は二枚目の障壁へと食い込み……破壊。

 

 三枚目……破壊。

 五枚目……破壊。

 八枚目……破壊!!

 

 次々と粉砕されていく自分の障壁に、ダラダラと冷や汗を流しながらそれでもレイジーは弾丸から目をそらすことはなかった。

 

 そして……障壁が20枚目に到達した時、ようやく弾丸は動きを止めた。

 

「っ!!」

 

 しかし、レイジーは油断しない。彼は即座に委員長を抱えたまま床を転がり廊下の角へと転がりこみ、その身を潜ませた!!

 

 瞬間! レイジーの障壁がダメ押しとばかりに放たれた連射された三発の弾丸によって、完膚なきまでに打ち砕かれる!!

 

「ちょっ!? なんか小説が違いますわよ!?」

 

「委員長!! 今はメタなネタやっている場合じゃないから!!」

 

 しかし、その時レイジーは気づいてしまった。委員長が突然今までのふざけた(彼女はいたって真剣だったのだろうが……)雰囲気をけし、ある一点を凝視しながら固まっていることに。レイジーは氷結している委員長の表情に気付き、彼女の視線の先に目を向ける。

 

 しまった!! レイジーの脳裏をその言葉が埋め尽くした!

 

 レイジーが視線を向けた先には、何が起こったのか全く理解できずキョトンとした表情で固まるネギがいたから。

 

 いや、ネギがいただけならまだいい。問題は、レイジーが障壁を張ることによって軌道がそれてしまったあの凶悪な弾丸が、そのネギに向かって一直線に飛来していたことだ!!

 

「ネギっ……」

 

 君!! 逃げろ! レイジーがそう言い終わる前に、弾丸はネギの頭に食らいつき、

 

 パンッ! という間抜けな音を立てて、ネギの頭部をまるで風船のように内側から破裂させた。

 

「あ」

 

 委員長の声が聞こえ、あわてて彼女の視線を防いだレイジー。しかし、それはあまりに遅すぎる。

 

「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 京都の旅館に、絶望がにじみ出た少女の悲鳴が響き渡った……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「なんてシリアス展開になったはいいものの、結局あれ偽物だったみたいで」

 

「ね、ネギ先生も人騒がせですよね?」

 

 ジンワリとかいていた嫌な汗を懐から取り出したハンカチでぬぐう委員長に、ほっと安堵の息をつきながらレイジーは廊下に落ちていた一枚の紙を拾い上げた。

 

 おそらく人型だったと思われるその紙の頭部はきれいに吹き飛んでおり、無残な状態だ。これが本物のネギ君だったらと思うと、レイジーも冷や汗が止まらない。

 

 敵の襲撃から30秒ほどたった廊下で、レイジーと委員長は何とか五体満足で立っていることができていた。

 

 原因は頭を吹き飛ばされたネギ君がポンという軽い音と共に紙切れ……式神の姿になったから。それを見て敵は「!? 関西の奴等……また性懲りもなくきやがったな!!」と勘違いしてくれ、レイジーと委員長のことをすっかりと忘れどこかへ走り去ったからだ。

 

 今回ほどあの人の鳥頭に感謝したことはない。さすが鳥頭……だてに空を飛ぶために脳みそをスカスカにしたわけではないようだ。

 

 だが……。

 

「危機は去っていないんだよね……」

 

 あのとさかの鳥頭のことだ。式神の見分け方なんて微塵もわからないだろう。だったらどうするか?

 

 答えは簡単だ。ネギ君に出会ったら遠慮なく脳天をぶち抜けばいい。それで式神になったら偽物。ならなかったら本物だ。

 

 信じられないかもしれないが……あの敵はそれを遠慮なく実行するだろう。

 

 危険だ……。ダラダラ流れ出る冷や汗を止めることなくレイジーはそうつぶやく。

 

 ただでさえ敵のターゲットにはバカ騒ぎをしている3-Aメンバーも含まれているというのに、その上ネギまで守らなくてはいけなくなった。だが、そんなこと知らない敵は待ってはくれない。下手をすればこの修学旅行……惨劇の夜となって終わる。

 

 正直僕一人じゃ手に余る。桜咲さんたちにも力を借りようか? と思ったレイジーだが、考えてすぐに首を横に振り、自身の考えを否定した。

 

 無理だ。あの子たちはただでさえ戦力不足の状況でプロを相手に戦って木乃香ちゃんを守っている。年上として教師として、これ以上仕事を押し付けることはできない。だが、だったらどうする?

 

 レイジーの思考が袋小路にはまりかけたときだった。

 

「で? レイジー先生……話していただけますか?」

 

 鋭い雰囲気を伴った委員長がレイジーに声をかけてきて、

 

「先ほどの弾丸と、それを受け止めた不思議な力。そして、ネギ先生に見事に化けていたその紙人形……いったい何が起こっているのか、教えていただけますわよね?」

 

 その声を聴いた瞬間、レイジーに天啓が降り立った!!

 

「大変なんだ委員長!!」

 

 レイジーは自分の演技がばれないように細心の注意を払いながら、

 

「ネギ君が……ピンチなんだ!!」

 

 敵……ダイナマイトバカ・クレイジー・ジョニーの討伐のために、委員長を無条件で転がせる、魔法の言葉を解き放つ!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 なんというか……荒唐無稽な話だ。と、レイジーの話を聞いた雪広あやかこと、委員長はそう思う。

 

 先ほど銃撃してきた教師は実は魔法使い。そんで自分を恐怖のどん底に陥れた説教教師のレイジーも実は魔法使い。

 

 そして、ネギ先生は魔法美少年(超重要)。そして先ほど見たネギ先生の偽物は実は関西の魔法使いたちが放ったと思われる刺客で、それの見分けがつかないからあの銃撃教師がネギ先生ごと殺しかねない……と。

 

 正直に言おう。誰が信じるんだそんな話。と、委員長は思った。

 

 だから委員長は、毅然とし態度でレイジーを睨みつけ、

 

「ぜひともあの人の捕縛に協力させて下さい!!」

 

 力強く言い切った。

 

 ……いや。だってねぇ~。ネギ先生の危機って聞いたらいてもたってもいられませんもの。たとえその話が妄想臭くたって、確かに先ほど銃撃受けたし。ええ、修学旅行の平和のためにも、ネギ先生の平穏の為にもあんな危険人物には沈んでいただかなくてはいけません。

 

 そ、それに……これを機に魔法を知った私はネギ先生と急接近! フラグですわね!! わかります!!

 

 そんな下心を滲み出しながら、頬に両手をあてクネクネともだえる委員長。正直レイジーはそれを見て「人選ミスったかな……」とつぶやくが、あいにくとネギとの妄想空間に入っている委員長には届かなかった。

 

「で、いったい私は何をすればいいんですの!!」

 

「うん。とりあえず、魔方陣を敷くから僕とキスして仮契約を……」

 

「フンっ!!」

 

 レイジーの顎を雪広あやか流合気柔術・天地分断掌が襲った。

 

「ちょ……委員長。ツッコミにしてはテンションが低い……」

 

 不意打ちを食らったためかなりダメージが入ったレイジー。口の端から血を流しながら取りあえず弱々しい抗議をしてみる。

 

「まさか中学生に手を出すとは。レイジー先生変態だったのですね……」

 

「君にだけはいわれたくない……」

 

 ぎりぎりと歯ぎしりするレイジーを絶対零度の瞳で見る委員長。計画は発動前から困難を極めた……。

 

「でも……そっちの方が魔力供給楽だし、これ終わったら契約切るからそこまで過剰反応することないよ? 最悪血液でキスの代用をしてもいいし」

 

 もっとも、この血液契約は物質的なつながりだけをつなぎ、魔法で重要視される心理パスが若干甘くなるので魔力供給の効率がかなり下がるのだが、まぁ、今回は最低限の防御力と身体性能を発揮してくれればいいので、レイジーはそれで妥協することにする。

 

「いやですわ……。血液で契約を交わすなんて、なんか呪いみたいじゃないですか」

 

「……」

 

 しかし、委員長はしっかりと断った。どうすりゃいいのさ……と、レイジーは思う。

 

「ちなみにネギ先生に頼まれたらどうする?」

 

「血液だろうが、ファーストキスだろうがすべてをささげて見せますわ!!」

 

「……」

 

 レイジーはちょっとだけ泣きたくなったらしい……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「仕方がない……。論点を変えよう」

 

「どうするんですの?」

 

「力が足りないなら防御を固めればいいじゃないか!!」

 

「?」

 

 首を傾げる委員長に、レイジーは一つの魔法具を渡した。

 

「これは?」

 

「僕謹製の障壁の腕輪。これは相手の攻撃のオートで反応して数百枚単位の多重障壁を張るものなんだ。まぁ、一回限りの使い捨てだからコストパフォーマンス悪すぎて作るのやめちゃったんだけど……」

 

「そんな貴重なものを私に?」

 

 くれても大丈夫なのか? と首を傾げる委員長をさえぎるように、レイジーは手を突き出した。

 

「委員長……これを渡すということは、つまりそれだけ危険な目に合うってことなんだ」

 

「……」

 

 ゴクリ……。レイジーが今まで見せたことのない真剣な表情をしていることに気付き、委員長会思わず息をのむ。

 

「それさえあれば先輩の弾丸は何とか防げる。だから君は作戦開始と同時に全力で先輩の懐に走りこんで、先輩をさっきの合気柔術で倒すんだ!」

 

 レイジーが言う倒すとは《戦闘で敵を倒す》的な倒すではなく、引きずり倒す系の倒すだ。

 

 それによりある程度の行動を阻害さえしてくれれば、あとはレイジーが何とかできる!

 

「ほんと気を付けてね!! 殺されそうって思ったらすぐ逃げてね!! 泣いて謝ってもあの人のことだから嬉々として撃ってくるからね!! いいね!? わかった!!」

 

「あの……何度も何度も聞きますが、その人教師なんですわよね?」

 

 何度も何度も念押ししてくるレイジーの姿に、委員長は若干ひいたという……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それからしばらくして、ジョニーをフルボッコにするための罠をレイジーと一緒にはりに来た委員長は、旅館の床に取り外し可能なビニールテープで魔方陣を敷いていくレイジーを「そんなもんで魔法使えるんですか?」と胡散臭いものを見るような瞳で見ていた。

 

「それにしてもごめんね委員長……。こんなことに巻き込んで」

 

「いえ、気にしないでください。ネギ先生の為ですので」

 

「……うん。その言葉を聞くとほんとお礼を言うのが馬鹿らしくなるよね?」

 

 いったい何歳離れていると思ってるのさ? 愛に歳の差は関係ありませんわ。と、そんなバカバカしい言葉を交わしつつ、レイジーは着実に魔方陣を完成させていく。

 

「大体……皆さん犯罪者犯罪者と言われますが、私のネギ先生に対する愛は限りなくピュアな愛ですわ!! 男の汚いロリコン趣味と一緒にしないでください!!」

 

「えぇ~」

 

「なんですかその明らかに信じられないといった顔は!?」

 

 だって君、言動と行動が一致してないじゃないか……。と、レイジーは心の中で漏らす。おかげで今日自分がどんだけ苦労したと思っているんだ……と。

 

「おまけにこんなバカバカしい行事にも参加しているし……。なんなの君たち? 10歳の子供の唇を喧嘩してでも奪いあうって、バカなの? ショタコンなの?」

 

「失礼にもほどがありますわよレイジー先生!?」

 

 レイジーの言葉に縦線を入れながら、ツッコミを入れた後、

 

「わたくしはあくまでネギ先生の貞操を守るために参加したのですわ! キスなんてものはみじんも興味がありませんの!!」

 

「へ~」

 

 もう白々しいほど、信じていないレイジーの相槌が入り委員長は若干ひるむ。

 

「くっ……。それに、先ほども言ったように私のネギ先生に対する愛は限りなくピュア! プリキュア並みのピュアハートですわ!!」

 

「その例えはさすがにどうなんだろう……」

 

 いろんな業者から苦情が来そうだけど……。レイジーはそうツッコミながら魔方陣を張り終え、「確かこの辺に……」とつぶやき懐から何かを取り出す。

 

「それに、私はどちらかというと……姉? いえ……母!! みたいなポジでネギ先生を見守りたいのであって、決して異性としてどうこう言うつもりは……」

 

「委員長。ちょっとこれ見てくんないかな?」

 

「っ!?」

 

 そして、レイジーは自分の懐から取り出したものを委員長に見せつけた。

 

 それは昨夜、とあるオコジョが「コアなファンに売れるぜ……」とほくそ笑みながら盗撮していたのを、レイジーが没収した……ネギ先生の、入浴写真。

 

 

 

 数秒後。レイジーは鼻血で人が空を飛ぶ歴史的瞬間を目撃し、全財産を支払ってでもその写真を買い取ろうとする変態を何とかあしらいながら、

 

「ダメだこいつ……早く何とかしないと」と、何度もつぶやくのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 ジョニーは魔法によって強化された脚力を使い、廊下を爆走していた。

 

 今夜は獲物の多い日だ。彼は内心でそうつぶやきながら、確かに笑う。獲物を狙う肉食獣の瞳で……嗤う。

 

 バカ騒ぎしている3-Aの武力による鎮圧。そして、おそらくネギのダミーを大量に放つことによって警備を混乱させようとしている関西への反撃。

 

 どれもこれも、彼にとってはひどく簡単なことだ。というか、どうしてネギどもは苦戦しているのか理解に苦しむ。

 

 生徒が言うこと聞かないなら、見せしめに三人ほど痛い目にあわせてやればいい。敵が攻めてきたのなら、己の武器を用いて遠慮なくぶち殺せばいい。

 

 やりすぎ? そんなことはない。なぜなら彼の弾丸は、

 

「俺の弾丸は正義の弾丸。悪人にしか当たらねぇ!!」

 

 ……この場にレイジーがいたのなら「ンなわけあるかぁあああああああああああああああ!! せめてまともな術式が組めるようになってからいぇええええええええええええええええええええ!!」と絶叫したことだろう。

 

 だが、ジョニーにとってはありがたいことに、あの鬱陶しい七三分けの後輩は今彼の近くにはいない。つまり、今は彼の独壇場だ!!

 

「ハ~ッハァ~!! さ~て……どいつからぶちころしゃいいんだ?」

 

「そこまでですわ!!」

 

 ジョニーがそう叫び、勇み足気味に銃の安全装置を外した時だった。

 

 突然目の前に特徴的な簡易の転移方陣がうかびあがり、その中から一人女子生徒が飛び出してきたのは!!

 

「あぁ?」

 

 ジョニーはその人物を認識し、少しだけ眉をしかめる。

 

 こいつは確か、先ほど新田のクソジジイにつかまって正座させられていた3-Aの委員長……名前は、雪広あやかだったか?

 

 こいつ、委員長のくせに罰則から勝手に抜けだしてきたのか? いい度胸してんじゃねぇか……。俺も昔は新田相手にいろいろやったもんだぜ……。と、若干過去を懐かしみ、委員長のことを見直しつつ、

 

「しるかよ。死ね」

 

 安全装置を完全に外した銃口を平然と向け、引き金をあっさりとひく!

 

 彼にとって生徒の粛清は、もはや呼吸するのと同義。たとえその生徒に感心したとしても粛清しないということには決してならない!

 

 だが、そんなことは委員長を送り込んだ人物は百も承知だったようだ。

 

「!?」

 

 ジョニーが次に見た光景は、自分が放った弾丸に何ら怯えることもなく突っ込んできた委員長の姿だった。

 

 それと同時に、いつのまにか彼女が身に着けていたブレスレットが光り輝き、彼女の目の前に数百枚近い障壁を展開する!!

 

「っ!! レイジー……テメェか!!」

 

 その障壁を見た瞬間、《認識制御》や《多重障壁》といったいやらしい魔法で自分の粛清を妨げる後輩の顔がジョニーの顔に思い浮かぶ。

 

 そう言えば先ほどの方陣もどことなく後輩の癖が残っていたような気がする。まさかこんな素人相手に仮契約したとは思えないが、かなり強力な自作魔法具を渡していることは先ほどの障壁展開でわかる。

 

 額に青筋を浮かべ怒声を上げるジョニーだが、委員長はそんなジョニーを気に留めることなく突撃を続けた。

 

 弾丸が障壁に食いつき、先ほどと同じ光景が展開される!

 

 凶悪な破壊力と、規格外の大きさを持つ弾丸は再び魔法具の障壁を信じられない枚数食い破るが、それでも多重障壁によって相互強化されたレイジーの障壁をすべて破壊するには至らなかった。

 

 空中で止まる弾丸。それを弾き飛ばしながら前進する委員長の目の前にはまだ相当の数の障壁が残っている。

 

「ちっ」

 

 障壁に物を言わせた体当たり狙いか? ジョニーはそうあたりをつけ銃の弾倉を召喚魔法で呼び出しつつ、二歩ほど飛び跳ねるように後退する。

 

 障壁とは本来攻撃を受け止めるのではなく、ねっとりと絡みつき減衰させるためのものだ。だが、あの後輩は長年自分の弾丸を止めつづけたせいか、やたらと固い障壁を張るようになった。

 

 それを使って攻撃することにより、女子&一般人の為気力や魔力が使えない……といった、攻撃職不足を補う気なのだ。とジョニーは長年一緒にやってきた相棒の思考回路をそう読む。

 

 

 

 だが、頭脳戦においてレイジーはジョニーの何枚も上手だった!!

 

 

 

「残念でしたね先輩。捕まえましたよ!!」

 

「っ!?」

 

 突然聞こえたレイジーの声にジョニーが目を見開くのと同時に、彼が見ていた景色が一変した。

 

 ジョニーの目の前にはまだ数メートルは距離があったはずの委員長が出現しており、彼の足を払い、手刀によって体勢を崩させまるで合気道のようにジョニーの体を宙に浮かせていた。

 

 雪広あやか流合気柔術。雪月花!

 

 そして、その足元には捕縛用の方陣が敷かれておりジョニーの体を包み込もうとしている。

 

 本来ならあり得ない光景だ。不良であり、スパルタンⅥには一切歯が立たないジョニーではあるが、彼の実力は高畑や学園長といった別格を除けば、間違いなく麻帆良内上位に食い込める。

 

 そんな彼が捕縛用の術式の展開に気付かないわけも、素人の委員長の接近をここまで許すわけもないはず……本来なら。

 

 だが、それを実現させるある特殊な魔法を持つ男が彼の知り合いにはいた。

 

 その男は、あまりに認識阻害を極めすぎたためすでに無詠唱でいかなる相手でも、その認識を操り制御することができる……認識制御魔法のスペシャリスト。

 

 おそらく、その気になれば麻帆良の五本指に入れるだろうが「洗脳しているみたいでいやじゃないですか!!」と、あまりそちら方面の魔法を使わない残念なやつ!!

 

 苦労人……レイジー!!

 

「悪いですけど先輩……このまま琵琶湖まで飛ばさせてもらいますよ!! そこの水で……少し頭を冷やしてこいやぁあああああああああああああああああ!!」

 

「レイジィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ、テメェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 

 まるで地獄から響き渡ってきたかのような怒声を上げつつも、ジョニーはあっさりと捕縛魔方陣につかまり、ダメ押しとばかりにかけられた儀式転移によってはるか彼方へと飛ばされた。

 

 こうして、麻帆良の修学旅行は平和を保たれたのだった。

 

 

 

《後日談》

 

 

 

 超危険分子(ジョニー)の排除に成功し「今日から普通の修学旅行だ!!」と、レイジーが泣いて眠りについたり、

 

3-Aが新田により鎮圧され、クラス全員でロビーでの正座をさせられたり、

 

 結局ネギの唇は原作通りに宮崎のどかによって奪われ、委員長が発狂しかけたりした……

 

その翌日。

 

 朝早くに扉がノックされる音を聞き「こんな早くに……誰?」と、眠たい目をこすり、若干不機嫌そうな雰囲気を垂れ流しながらドアを開けたレイジーは、そこで信じられないものを目にした。

 

「……なんで、忘れていないの?」

 

「愛の力ですわ!!」

 

 ジョニーとの戦闘で精神的にかなり負荷をかかっていたレイジーだったが、仕事は忘れていなかったのかジョニーの撃退に成功した瞬間に、委員長に当て身を当て即座に気ぜつさせ記憶消去の魔法を施した。当たり前だ、彼はふつうの魔法先生。魔法の守秘義務ぐらいは守る。

 

 今回の雪広あやかを巻き込んだ件は、超法規的措置みたいなものでほんの少しだけ記憶消去をかける時を先延ばしただけなのだ。

 

 ただ、だからこそ、彼は委員長に変な後遺症が残らないように慎重に、かつ二度と魔法について思い出さないように入念に記憶を改ざんした。洗脳じみて嫌なため、あまり使わない十八番の《認識制御》すら駆使してまでも……だ。だというのに、

 

「せっかくネギ先生との重要な糸がつながったのに、それを逃すなど神様仏様が許してもこの雪広あやかが許しませんわ!! さぁ、レイジー先生!! 私に魔法を教えてください!! そして、強くなった私はピンチのネギ先生の前にさっそうと現れますの! 『助けに来ました! ネギ先生!!』そんな私の健気な姿を見て、ネギ先生はわたくしの虜に……あぁん。そんなネギ先生……まだそれは早いですわ」

 

 最終的にどこか遠いところに行って悶えている委員長をみて、レイジーの脳裏にこんな思考がよぎる。

 

《悪霊よりもたちの悪い存在に憑りつかれた……》と……。

 

 レイジーの明日は……オコジョか? 魔法先生か? どっちだ!!

 

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