とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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18話・修学旅行三日目 お守りの力

「い、いや~……情けないところをお見せしてしまったね。関西呪術協会へようこそネギ先生。私がここの長の近衛詠春です」

 

「え……えっと、あんま無理しなくていいですよ近衛さん……」

 

「ん~よんだ? ネギくん?」

 

「木乃香、今そんな典型的なボケやっている余裕はないから……」

 

 エヴァが一通り憂さを晴らしてから数時間後。

 

 関西呪術協会の長・近衛詠春は某明治剣客浪漫譚のラスボス的な包帯まみれの男になりながら、必死にネギを出迎えてくれた。

 

 もう見ているだけで痛々しかったので、ネギとしてはもう親書とかそんなのはいいから安静にしてほしかったのだが……さすがは大人といったところか。やせ我慢はお手の物のようだ。

 

「ささ……立ち話もなんですから早く上に、オボファ!?」

 

「長ぁああああああああああああああああ!?」

 

「あらら……お父さん」

 

 ……どうやらやせ我慢できないほどの甚大なダメージを被ったらしい。血を吐きながらぶっ倒れる詠春を見てネギは思わず顔をひきつらせながら、責めるような視線をエヴァに向けた。

 

「だ、だって私のせっかくに京都旅行が……」

 

「いや……別にエヴァちゃんは手伝わんでもよかったんやで? 犬神君に仕事頼まれたん私だけやったし」

 

「ば、ばかっ!! お前が苦労しているのに私一人で修学旅行が楽しめるわけないだろう!!」

 

「エヴァちゃん……」

 

「ふん!!」

 

「あぁ……やはりマスターとマリー様は。い、いけません……やはり非生産的すぎます」

 

 エヴァのセリフにほんわかとした笑みを浮かべるマリー。それを見て顔を真っ赤にしてそらしたエヴァは正直ネギから見てもかなりかわいかったが……。

 

「長っ!! しっかりしてください……長ぁああああああああああああああああああ!!」

 

「お父さん……はよ立って。やせ我慢気づかれるって……」

 

「ふっ……。わかっているよ木乃香。あの川を渡ればいいんだろう? あ、なんだガトウ。こんなところにいたのか……」

 

「長ぁあああああああああああああああああああ!! それきっと渡っちゃいけない類の川です!! カンバック!! カンバックです長ぁあああああああああああ!!」

 

 関西組(木乃香・刹那・詠春)をカオスワールドに叩き込んだ本人なので、あまり順当に評価できないネギだった……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 

「まぁそれはともかく……やはりサヤカ君に追手がかかっていたか」

 

 数分後。どうにか三途の川から生還を果たした詠春は、ネギ達ご一行と追いかけっこ組を本殿へと招待し盛大にもてなしていた。

 

 親書の受け渡しも大体終わり、後は楽しむだけという段取りだったのだが……ここでようやく追いかけっこ組の決着をつけることとなる。

 

「私としては、正直受け渡しは反対だ。仮にも彼女の父親は……その、なんだ……アレなのだろう?」

 

「普通にヤクザといえ……。変に気を使うと余計卑猥に聞こえる」

 

「ひ、卑猥なんかじゃありません!! ただちょっと悪いことをしているというだけで本当は心優しい人なんです!!」

 

「「心優しい奴はヤクザなんてしない……」」

 

 犬神アンダーグラウンドサーチ事務所に突貫してきたオカマヤクザの顔を思い出しながら、明日菜とマリーは、必死に父親をかばおうとするサヤカに思わず突っ込みを入れる。

 

 だが天然少女サヤカには届かなかったらしく、彼女はさらにまくしたてた。

 

「で、でもやはりヤクザは悪いことだから……何とかやめてほしくて。だから家出したんです!!」

 

「私としても彼女の意見には賛成だ。まさか娘の家出程度ですぐに看板をたたむとは思ってはいないが、きっかけ程度にはなるはずだ。一人の男が真人間に戻る可能性があるなら、私は喜んで彼女の援助を続ける」

 

 先ほどとは違い毅然とした態度でマリーとエヴァに言い切ったい詠春。エヴァはその言葉を聞き思わず舌打ちを漏らした。

 

「チッ……偽善的なセリフだな。さすがは英雄」

 

「なんとでも言ってくれエヴァンジェリン。私はこういう風にしか生きられない……」

 

 苦笑いを浮かべ返事を返した詠春を見ながら、マリーは思わず顔をひきつらせた。

 

 いやいや……私もその意見には大賛成なんやで? めっちゃ正しいこと言ったはるし、あの天然も本気で親のこと考えとるからこんな行動をとったんやろう、と。だが、今の彼女にとってそんなことは重要ではない。

 

 今の彼女にとって重要なことは……このままでは犬神からの依頼を失敗し、修学旅行から帰ったマリーに地獄の制裁が待っているということだった。

 

『一週間メシ自腹は固いやろうな……。うぅ……月末やら修学旅行やらで小遣いピンチやのに……』

 

 か、彼女にとってはこれでも十分地獄の責苦なのだ!!

 

 かといって、犬神もいない状態で大戦の英雄《サムライマスター》近衛詠春を倒せるとはマリーも思っていない。

 

 さてさて……どないしよ~。と、マリーが完全に八方塞がりな状況に頭を抱えたときだった。

 

「ふむ……では詠春殿。その信念を曲げてしまうほどの材料があれば取引に応じていただけるのですな?」

 

 どこからともなく、執事服を装備した特徴的なひげを蓄えた紳士が現れたではないか!!

 

「っ!? クラレンスさん!!」

 

「お久しぶりですマリー様。里帰りで近くを通りかかったので少し顔をのぞかせてみたら大変なことになっておりましたので、出すぎたまねかと思いましたがお助けさせていただきましょう」

 

 犬神アンダーグラウンドサーチの陰の実力者にして、随一の不思議人間。クラレンスの登場だった。

 

 

 彼は、登場すると同時に真っ白な紙袋を懐から取り出し(どう考えても懐から出るようなサイズではなかったが、余計なことでツッコミを入れると危なそうだったのでマリーは全力で無視した)詠春に近づいて行った。

 

「取引? たとえどのような条件を提示されようが私の意見は……」

 

 クラレンスの体の陰に隠れた紙袋は、マリーや木乃香達の目からは全く見えない。ただ、ガサゴソという音が聞こえたので、その紙袋から何かを取り出したのはわかった。

 

 それを見て詠春は思わず氷結し、わなわなと震えだしたではないか!!

 

「そ、それをどこで!?」

 

「な~に。あなたの部屋から出てきた猫が持ち出していましたので、紳士として見逃せなかっただけですよ。なかなかいい趣味をお持ちのようで」

 

「くっ……」

 

「さて……紳士としてこれを隠蔽するのはやぶさかではないのですが、あまり強情になられますとついうっかりこれを木乃香殿や刹那殿に見せてしまうかもしれませんな……」

 

 ぶるぶると体を震わせる詠春。その身に宿るのは怒りか、悔恨か……だが、彼の答えは最終的に決まっていた。

 

「すまないサヤカ……。君をかばえなくなった……」

 

「そんな、師匠!?」

 

「不出来な師匠を……許してくれ」

 

「ししょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 結局彼はクラレンスから紙袋をもらいうけ、サヤカを引き渡すのを選択した。

 

 泣きながらクラレンスに引きずられていくサヤカに、思わず涙を流す詠春はを見て、マリーはものすごく後味が悪かった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

が、

 

「ところでクラレンスさん? あの紙袋の中身なんやったん?」

 

「ほほほ。それは紳士の秘密ですので……」

 

 そういったクラレンスの懐から《巫女の秘密・巨乳巫女の淫靡な日常》というタイトルの本がのぞいているのを目撃したマリーは、その後味の悪さを完全に消し去ったとさ……。

 

 

 めでたし、めでたし?

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「なぁ、エヴァちゃん……これって、酒やんな?」

 

「ふはははははは!! マリー、そんなに気にするなって!! ここは治外法権だぞ?」

 

「いやいやいやいや!? どう考えても日本やろうが!? 治内法権やんか!?」

 

「マリー様……ばれなければどうということはない!!」

 

「茶々丸……ほんま一体何に影響受けたんや!?」

 

「マリーものみのみ~。え~い」

 

「あぶぶぶぶう!?」

 

 目の前でやたらとテンション高めな様子で、料理を食べたり踊ったりする自分たちの生徒を温かい瞳で見守りながらネギは、ホッっとした様子で料理を口に含んでいた。

 

 長と呼ばれたエヴァにボコボコにされた人にも聞いたが、この本山にはられた結界は麻帆良にはられたもの以上に《侵入者の排除》に主眼を置かれたものらしかった。サウザンドマスター並みの実力でもない限り突破するのはまず不可能だろう、と誇らしげに言っていた長の顔が浮かび、ネギは久しぶりに心からの安堵を覚えている。

 

 思えば修学旅行中は生徒の身の安全やら、教師の仕事やらで心休まる日はなかった。今はゆっくり羽を伸ばしても罰は当たらないのではと思ったのだ。

 

「いや~。ここにきて正解でしたね~。お茶がおいしい……」

 

「ネギ先生……ジジ臭いですよ」

 

 温かいお茶を飲みほっこりしているネギを見て、刹那は顔をひきつらせながらそうツッコミを入れた。

 

「ああ、刹那さん! 長さんとの話は終わったんですか?」

 

「ええ……。どうやらもう隠しきれないと思われていたようで、近日中に木乃香お嬢様に魔法について話すと」

 

「木乃香さんもこっちの方へ仲間入りですか……」

 

 自分と同じような複雑な事情を抱える彼女の参入は、東西問わずにかなりの影響を与えることになるだろうからあまり手放しで喜べることではないのだが、今は純粋に祝おうと思うネギ。

 

 だから彼は、今は笑顔を浮かべて「おめでとうございます」とだけ言っておいた。

 

「ええ……ですが手放しで喜べることだけでは」

 

「理解していますよ。でも……」

 

 顔に真剣な色を宿し、眉間にしわを寄せる刹那に苦笑を浮かべながら、たまには教師らしいことでも言うか~と思ったネギは、刹那にポイッとコップを投げ渡しながらお茶の入った急須を差し出す。

 

「たった一人で麻帆良に来た僕とは違って、木乃香さんには刹那さんがいるじゃないですか? 危なくなったら刹那さんが木乃香さんを守ればいいんですよ」

 

「っ……! はい……そうですね」

 

 珍しくいいこと言ったネギに少し驚きを示したあと、刹那は苦笑を浮かべてネギの隣に座り急須へとコップを差し出した。

 

「あぁ!! 桜咲さん何抜けがけしてんの!?」

 

「へっ!?」

 

 しかし、その光景を麻帆良の姦し娘どもは見逃さなかった。真っ先に気付いたパルが怒声を上げると同時に、ノリのいい朝倉や酔っぱらっているとしか思えないハイテンションな木乃香が乱入。

 

 ネギの周りが一気に混沌に包まれる中、のどかだけはオタオタとしていただけだったので友人の夕映がため息交じりに蹴りとばし、彼女の背中を押したのは余談である。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「こら、新入り、どないすんねん!! あんたがふざけた寸劇やってる間に、あいつら本山に逃げ込んでもうたやんか!?」

 

「何も僕だけのせいではないと思うんだけど……」

 

 関西呪術教会を見下ろせるとある山の巨木の枝にて、着崩れた着物を着た女性と白髪の少年が言い争いをしていた。

 

 もっとも、着物の女性が一方的に白髪の少年に食って掛かっているだけのようだが……。

 

「大体コタローもコタローやで! 何があったらあんなにへこんで再起不能になったり寸の!?」

 

「なんでも金髪の遊女に轢かれたとか」

 

「……そら、仕方ないな……」

 

 少年の報告を聞き、自分たちの計画失敗をいざなった少女の顔を思い出し思わず顔を引きつらせる着物の女性――天ヶ崎千草は、今までの怒りをひっこめてシュンとした様子で小太郎を許した。

 

 なんというか……。あれはもうトラウマになっても仕方ないとおもうねん。内心で問答無用で邪魔していったあの遊女もどきの顔を思い出し、涙を流す千草。正直少年も同じ気持ちだったので、今にも泣きそうな顔をする千草にツッコミを入れることはなかった。

 

「それで……いったいどないすんねん? こら、もう本格的に諦めるしか……」

 

「いいえ。まだ手はあります」

 

 ため息交じりに計画の打ち切りの可能性を提示する千草に、少年――フェイトは平たんな声で告げる。

 

「僕にすべてを任せてください……」

 

 その夜。関西呪術教会の守護結界が……初めて破られた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「う~。木乃香め……あれ絶対酔っぱらってたやろ?」

 

 アルコールが入ったせいか若干ふらつく体を引きずり、マリーは長い長い廊下を一人歩いていた。

 

 向かう先は台所。そこで酔い冷ましの水をもらうつもりなのだ。

 

「それにしても、木乃香もこっちくることになってんな……。犬神君が何て言うかは知らんけど、親の意向が変わったわけやし依頼失敗にはならへんやろ」

 

 多分……。学園長の度量にほんの少しだけ不安を覚えているマリーは最後に小さく付け足した。そして、もしも失敗ということにされたときの犬神の荒れようを考慮し、ほんの少しだけ、豪気功の習得を真剣に行うことを考え始める。

 

「でも、豪気功の師匠も犬神君やねんな……。もう詰んだやん私……」

 

 お先真っ暗とはこのことだ。修学旅行から帰ったらおそらく黒い笑顔を浮かべた犬神が待っていることに違いない。そんなくだらないことを考えながら、割と本気で怯えた表情をしたマリーだったが、廊下の壁に設置された一枚の引き戸が目に入りそのくらい思考を断ち切る。

 

「おお……あったあった。半分酔ってた長さんの話やったから結構信憑性低かったんやけど、ちゃんとつけたわ~」

 

 どうやら台所についたらしい。今は宴会用の料理の後片付けをしているはずなので、あまり迷惑にならないようにと、マリーはゆっくりとその引き戸に手をかけ扉を開けた。

 

「すいませ~ん。ちょっとお水を……もらえ………ます?」

 

 そして、マリーはその中の光景を見てしまう。

 

「なんや……これ?」

 

 まるで生きているかのような生々しい姿のまま固まってしまった、料理人や給仕係の石像を……。

 

「これ……まさか、石化魔法!?」

 

 その時だ。背筋に悪寒が走るのを感じ、マリーは懐からカードを取り出す。

 

出でよ(アデアット)!!」

 

「遅いよ」

 

 しかし、相手はマリーの数段上をいく使い手だった!!

 

 振りぬかれたコブシは音速を超えてでもいるのか、凄まじい衝撃波を伴いマリーの体を打ち据える!!

 

「がっ!?」

 

 廊下から吹き飛ばされ庭にたたきだされたマリーだったが、とっさに豪気功を部分的にかけ、なんとか致命傷は免れた。しかし、立ち上がるには少し休息が必要なくらいのダメージは受けていた。

 

 当然、敵がそれを待ってくれるわけがない。

 

「安川と同じ力を持っているというのはかなり面倒な戦力だからね……。ここで君の戦力を削らせてもらうよ? 安川マリー」

 

 庭を囲う漆喰の壁にたたきつけられたダメージが抜けきらぬ体を叱咤し、必死にもがきながら立ち上がろうとするマリーに向かって、敵は無慈悲に呪文を唱える。

 

「ヴィ・シュタル・リ・シュタル・ヴァンゲイト……」

 

「くっ……」

 

 せめてもの抵抗として、マリーは己がアーティファクトをふるった。犬神と契約することによって手に入れた……マリーにはいきすぎた驚異の能力を持つハリセンを。

 

「なん……」

 

「災いの眼差しで射よ……」

 

 豪気功を込められたハリセンは、まるでダイヤモンドのごとき硬度を持ちその力をいかんなく発揮する。

 

 すなわち……絶対必中属性!! 大阪人のあくなきツッコミ精神が生み出した最強の能力……《魂のツッコミは外れない》という理不尽すぎるギャグ補正が宿ったハリセンは、唸りを上げて敵に襲い掛かった。

 

「でやねぇえええええええええええええええええええええええええええええええん!!」

 

「石化の邪眼!!」

 

 障壁を無視するような形で問答無用で殴りつけられた敵。ハリセン自体はただの紙でできたレクリエーション道具でしかないが、込められた気は物質の硬度を自由自在に操る豪気功だ。その威力は甚大で、敵はまるで砲弾のように吹き飛び廊下に転がった。

 

 そして、

 

「驚いたよ……。流石安川の娘といったところか。僕に一撃入れるなんて……大したものだ」

 

 敵は口の中を切ったのか、唇の端から白い液体を流しながら自分に攻撃を叩き込んだマリーに称賛を送った。

 

「だが、それだけだ」

 

 それだけ言うと敵はすぐさま踵を返し、次の獲物を探しに行った。

 

 彼が背を向けた先には、ハリセンを振りぬいた姿で固まっているマリーの石像が転がっていた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それにしても木乃香が魔法使いだったなんてね~。

 

 そのうち……そのうち明かしますから!! そう、明日頑張りますから!! なんて、明らかに数年はずるずる引きずりそうなダメすぎるセリフを吐き、木乃香への魔法バレを拒否する刹那をたきつけて、今すぐ魔法バレをする約束を取り付けた明日菜。彼女は木乃香を伴い長い長い廊下を歩いていた。

 

 修学旅行はなんか見えないギャグ補正的な何かの力によってあまり大事には至らなかったが、今後もこんな事態がないとは言えない。だったら、木乃香にはある程度自衛の手段を身につけてもらって何も知らないうちに巻き込まれるなんてことにならないでほしい、と明日菜は考えたのだ。

 

 だからこその魔法バレ推奨なのだが……。

 

「う~ん。やっぱり十年来の友達(注・物の例えです)のしらない一面を見ると結構驚くものね……」

 

「何の話しとるん明日菜?」

 

「ああ、気にしないで!! すぐに気にならなくなるから……」

 

「明日菜がすごい不穏な言葉を発しとる……。はっ!? これはまさか親友が何らかの理由で裏切って私がNice boatになるフラグなんとちゃう!?」

 

「ふふふッ……。そうよ木乃香。私実はあなたのこと……昔っから大嫌いだったのよ!! って、何言わせんのよ!? 思わず悪役みたいなセリフいっちゃったじゃない!!」

 

「の、ノリツッコミやて? 関西人でも選ばれたコメディアン……大阪人しか使えへん伝家の宝刀を見事に使いこなすやなんて、神楽坂明日菜……恐ろしい娘!!」

 

「あの……もういいでしょうか?」

 

 そんな嬉しはずかしコメディトークを繰り広げる二人がたどりついた部屋では、刹那が顔をひきつらせながらいつ話したらいいんだろう? とタイミングを計っていたり……。

 

「ああ、ゴメンせっちゃん。まった~?」

 

「ええ……ほんと待ちましたよ?」

 

「明日菜~。せっちゃんが私に嫌味言ってイジメはる~」

 

「今回は木乃香が悪い……」

 

「あまりの四面楚歌に全私が泣いた~」

 

 閑話休題(そんなことはともかく)

 

「実は……お嬢様にお話したいことがあります」

 

「ん?」

 

 体面に正座の状態で座った刹那の態度に、木乃香は珍しく驚きを示し少しだけ真剣な顔になった。

 

 刹那の雰囲気から、彼女が大切な話をすることが理解できたからだ。

 

「それは……せっちゃんがずっと麻帆良で私のこと無視し続けていたことと関係あるん?」

 

「うっ!?」

 

「私が必死に仲直りしようとしてんのに、顔も合わせてくれへんかったことと関係あるん?」

 

「……」

 

「私が影で泣きながら『悪いことしたんやろか?』と必死に自分の行動を思い返すことになったんと関係あるん?」

 

「………………うぅ」

 

「こ、木乃香!? もうやめたげて、桜咲さんのライフはもうゼロよ!?」

 

 意外と怒っていたらしい。ニッコリとした笑顔でどす黒い気を垂れ流し、刹那を責める木乃香に明日菜はひき、刹那はもう泣きかけだった。

 

「はぁ……。まぁ、そこらへんの事情はあとで聞くとして、これだけは聞かせてせっちゃん」

 

「は、はい……なんでしょう?」

 

 次は何を言われるのだろうか? と、びくびくしながら木乃香の断罪の言葉を聞く準備をする刹那に向かって、木乃香はいまにも泣き出しそうな不安がにじみ出た笑顔で刹那に問いかける。

 

「せっちゃんは……私のことが嫌いやったから、私のことを避けてたん?」

 

「それは絶対にありません!! 私はいつでも、このちゃんとことが大好きや!!」

 

 その笑顔を見て、その痛々しい木乃香の姿を見て、刹那は自分の本音を包み隠すのも忘れ思わずそう絶叫した。

 

 その後、瞬時に頭から蒸気を噴出し顔を真っ赤にしたが。

 

「あ……」

 

「おやおや……」

 

 刹那の勢いのいい告白を聞き、木乃香は少し呆然とし明日菜はにやにやとした笑みを浮かべた。そして、

 

「うん……。それだけわかったら、私はもう何もいらんわ」

 

 目元にうれし涙を浮かべながら、明日菜ですら見たことがない安心しきった笑顔を浮かべた木乃香に刹那と明日菜は思わず言葉を失った。

 

 その笑顔があまりに輝いて見えたから。

 

 だが、

 

「無粋なのはわかっているけど、こっちも時間がないんだ……割り込ませてもらうよ?」

 

 ほんのりと温かくなった空間は、この場には絶対に現れてはいけない最強の襲撃者によって引き裂かれた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 真っ先に反応したのは刹那だった。

 

 彼女は聞こえた来た声を瞬時に自分の記憶と照らし合わせ、その主が襲撃犯の一人であることを看破。長大な野太刀を引き抜き、木乃香の目の前に瞬動で移動する。

 

「明日菜さん!!」

 

「え、うそ!? ここは安全じゃなかったの!?」

 

「え? せっちゃんいまの何!? それに明日菜もいつの間にハリセンを? 手品?」

 

 刹那の瞬間移動(テレポート)や明日菜の瞬間武装に目を見開く木乃香だったが、事態はそんな彼女の疑問に答えられる時間を与えてくれない。

 

「神鳴流剣士……月詠さんが言う通り、その年にしてはなかなかの腕前だ」

 

 その声が聞こえると同時に、敵は姿を現した。

 

 明日菜と刹那に挟まれた木乃香のすぐ後ろに!!

 

「っ!?」

 

「うそっ!?」

 

「あくまでその年にしては……だけどね」

 

 少年はそれだけ言うと、木乃香を自分が生成した水のゲートへと無理やり沈め瞬時に簒奪。追撃が行われないように、体を凄まじい速度で回転させ明日菜と刹那を同時に殴り飛ばした!!

 

「がっ!?」

 

「あっうぅ……………」

 

 気や魔力で強化されているはずの二人の体が、砲弾のように吹き飛び壁にたたきつけられる。しかも、それによって与えられたダメージは尋常ではなく、二人がすぐに戦線復帰するのは無理そうだった。

 

「バカな……いったいどんな力をしているんだ!?」

 

「安川の防御を貫けるぐらいだといっておこう……もちろん君たちの同級生ではなく、僕たちの仲間の方だ」

 

 刹那はその言葉に驚愕の表情をうかべた。自分の太刀の一撃すら平然と食らい弾き返したあの防御力を突破するだけの膂力があるだと!? と。そして、刹那は悟る……自分たちを戦闘不能に追い込んだ一撃は、少年にとってはできるだけ手加減して打ち込んだものだということを。

 

 勝てない……。本能の段階でそれを悟らされた。自分がこの少年と戦えば、まず間違いなく命を落とすと、自分の体を構成する半分の野生の血がそう警鐘を鳴らす。

 

 だが、

 

「負けるわけには……いかないんだぁあああああああああああああああああ!!」

 

 絶叫と共に無理やり立ち上がろうとする刹那に対し、少年はため息交じりに札を構える。

 

「そうか。でも負けられないことと、負けないことは……決してイコールじゃないんだよ?」

 

 少年がそう言って、札の力を発動させようとしたときだった。

 

「魔法の射手」

 

 鋭い詠唱と共に光の矢が飛来し、少年の手元にある札を消し飛ばした!!

 

「?」

 

 少年が不思議そうに振り返ると、そこには怒り心頭といった様子で杖を構え次の呪文を完成させた赤毛の少年が立っていて、

 

「僕の生徒に……何をしているっ!!」

 

 雷の暴風を、少年――フェイトに向かって解き放った!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その数分前のこと……。

 

「いや~いいお湯だったね、カモくん」

 

「兄貴にしては珍しく風呂で女の子とバッティングって事態にはならなかったしな。……チッ」

 

「カモくん聞こえているよ?」

 

 最後に暗い表情になってあからさまな舌打ちをするオコジョ妖精に苦笑を浮かべながら、ネギはのんびりと本殿の廊下を歩いていた。

 

 この山では少し遅れた桜が満開になっており、まるで優しい吹雪のようにその花びらを降らせていた。

 

 日本でしか見られない耽美の世界だよね~。その光景にちょっとした感動を覚えながら、ネギはふとその場で立ち止まりゆっくりと桜観賞に入る。

 

「あにき~。こんなところで花なんて見てないで、さっさと女の子の所へいきましょうや」

 

「カモくん……君ももうちょっとこういうった物に感動する感性を持ったら女に子にもてるかもよ?」

 

「桜ってきれいですね、兄貴! 俺心洗われる気分っす!!」

 

 桜に顔があったら間違いなくひきつらせていたであろうカモの豹変に苦笑を浮かべながら、ネギはひらひらと目の前に降ってきた桜にゆっくりと手を伸ばし、

 

「それにしても静かっすね~。桜観賞にはもってこいですけど」

 

 カモののんびりとしたつぶやきを聞き固まった。桜が手をよけてあらぬ方向へと降っていくが今はそんなこと気にしていられない。

 

 そう。静かすぎた。

 

 雰囲気から予想するに、この神社は落ち着いた日常を送りあまり物音も立てないのだろうが、それにしたって人がいれば自然と物音は発生するものだ。

 

 ましてや今この神社にはネギが連れてきてしまった3-Aのメンバーだっている。静かとは言えなくもない環境を作ることはできるかもしれないが、完全な静寂が訪れるわけがない。

 

 しかし、今この教会からは物音ひとつ聞こえなかった。

 

 そう。まるで、何もかもが固まり動かなくなってしまったかのように……。

 

「カモくん! 何か変だ!!」

 

「え? 何がですかい?」

 

 いまいち事の重大さを理解していないカモの問いかけを聞き流し、ネギは自分の武器を呼び寄せるために手を掲げ、

 

「杖よ!!」

 

 疾走を開始した。

 

 そして見つけてしまう。

 

「やぁ……ネギくん。すまない……どうやら結界を過信しすぎてしまっていたらしい」

 

 体の半分以上が石と化してしまった、関西呪術協会の長――近衛詠春を。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 結界が抜かれた。侵入者は一人。だがその一人は詠春を戦闘不能に追い込むほどの実力者。ネギくんでは絶対に勝てない。学園長に……麻帆良に救援要請を。

 

 詠春の言葉がぐるぐるネギの頭の中で回る。

 

 今の彼は魔力で強化された四肢を使い、すさまじい速度で関西呪術協会の中を疾走していた。目指すべき場所は自分の生徒がいたところ。そして、最重要保護対象である近衛木乃香がいるはずの場所だ。

 

 麻帆良への救援要請といっても、今のネギにはそのような遠距離まで届く通信術式は使えない。携帯を使おうとも思ったのだが、どうやらこちらの対策も万全なようで見事に圏外を表示していた。

 

 ならば彼が取るべき行動は一つ。ここにいる生徒たちを引き連れ、麻帆良の教員がそろっている宿へと撤退。レイジー先生や……ほんの少し不安だが、ジョニー先生の助力を借りて、何とか生徒を守りつつ麻帆良へ連絡を取るのが最善だ。

 

 だから彼はこうして走っているのだが、

 

「皆さん!!」

 

 ネギが勢い良くあけたふすまは、自分の生徒たちが止まっているはずの部屋の物。

 

しかし、そこにいたのはいつもの元気な生徒たちではなく物言わぬ石像だった。

 

「…………」

 

守れなかった生徒たちに、自分のあまりのふがいなさに……そして彼女たちの姿にかぶる、故郷の人々の姿にネギはしばらくの間絶句した後、

 

「くそっ!!」

 

 怒声を上げて近くにあった柱を殴りつけた。

 

 それだけで、何とかこらえることに成功した。

 

「兄貴……」

 

「カモくん。一刻も早くここから離れる。石化させたということは、敵はまだこちらを殺すつもりがない可能性が高い。だったら、石化させられた人たちは命の危険はないと考えることができる。でも石化してしまった彼らが砕けてしまったらもう元に直すことはできない。だったら、ここで戦闘がおこる可能性を一割でも減らしたほうが賢明だ!!」

 

 意外と冷静なネギの判断にほっとしながら、カモは石になって固まる生徒たちに頭を下げる。

 

「わりぃな……あんたたちを助けんのは、ちょっと時間がかかりそうだ」

 

「必ず助けます。待っていてください!!」

 

 ネギの声に、石像になった彼女たちはほんの少しだけ笑みを浮かべたように見えた。おそらく、カモとネギの都合のいい勘違いなのだろうが、そうでもしないとやってられなかった。

 

 

 

 そして、彼女たちを今の段階で助けることをあきらめたカモとネギは再び疾走を開始し、木乃香を探し始めた。

 

 そして彼は出会ってしまった。

 

 運命(フェイト)に。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 自分に向かって一直線に襲いかかってくる破壊の嵐を、フェイとは特に何の感慨も見せないまま見つめていた。

 

「なるほど。こちらも大した威力だ。さすがは千の呪文の息子といったところだね」

 

「!?」

 

 敵から放たれた信じられない言葉に、ネギは思わず目を見開いた。しかし、すでに放たれた魔法はそんなことでは止まらず、一気にフェイトを飲み込もうとする!!

 

「だが、所詮はこの程度。父親とは比べるべくもない」

 

 フェイトはそうつぶやくと同時に無造作に腕をふるった。その腕が通った後には、砂によって作られた魔法の射手が五つ整列している。

 

「なっ!?」

 

「西洋魔法!?」

 

 しかも、使い手はあまりいないとされる土魔法!! その存在に目を見開くネギたちをしり目に、フェイトは無造作に指をパチンと鳴らしその射手たちに命令を下す。

 

「撃ち落とせ」

 

 それだけで、たったそれだけで……ネギの雷の暴風はたった五つの魔法の射手によって食い荒らされた!!

 

「そんな!?」

 

 雷の暴風と激突するかのように食いついたそ砂の射手は、瞬く間に暴風の壁を貫き、内側から雷の暴風を破壊していく。

 

 数秒もしないうちに雷の暴風はその存在を維持できる形状を失い、雲散霧消して消え去った。

 

「将来はなかなかの人材になることは違いないけど、今の君では僕に勝つことは不可能だよ。今のを見てわかっただろう。今の僕と君とでは天と地ほどの違いがある」

 

 圧倒的な、絶望的なその光景に、ネギは思わず棒立ちになり、

 

「くっ……!!」

 

 歯を食いしばって再び杖を構えた。

 

「……まだ戦うのかい?」

 

「あいにくと……逆境に慣れていまして」

 

 そう。こんな状況は麻帆良で腐るほど味わってきた。スパルタンⅥしかり、エヴァンジェリンしかり、犬神ゲルしかり……。

 

 だが、ネギはその相手たちに知恵と努力で食らいつき何とか食いさがってくることができたのだ。

 

 この少年を出しぬけない道理が一体全体どこにある!!

 

「ふむ……。なるほど、なかなかいい師匠に恵まれたらしい」

 

 そんな風に戦意を失わないネギを見て、フェイトは何かを感じ取ったのか少しだけ感心したような声音で呟きながら、

 

「だが、わざわざ君の食いさがりに付き合う必要は感じないねネギ・スプリングフィールド。僕の目的は達成したから」

 

「!?」

 

 そう切り捨てさっさと水のゲートで転移を行い、ネギたちがいた部屋から消え去った。

 

「そんな!?」

 

「くそっ!! ぬかった……。木乃香の嬢ちゃんがもういねぇ!!」

 

 カモの絶叫にネギは思わず顔から血の気を引かせた。先程は明日菜と刹那が殴り飛ばされるのを見て思わず頭に血が昇ってしまい、確認するのが遅れてしまったが、ここにいるはずの近衛木乃香はすでにその姿をかき消してしまっていた。

 

 おそらくネギが到着する前にすでにさらわれていたのだろう。そんな事実に今更気付いた自分に舌打ちをもらしながら、ネギはあわてて壁にもたれかかって動けずにいる二人の生徒に近づいて行った。

 

「明日菜さん!! 刹那さん!! 大丈夫ですか!? 今すぐ治療しますから待っていてください……あと、この後結構無理なお願いすると思うんで、治療が終わるまではゆっくりと体を休めてくださいね!!」

 

 刹那は頭に血が上っている様子で「お嬢様……お嬢様っ」とうつろに呟いている。これは回復させたら独断専行しかねないと判断したネギは、先に明日菜へと駆け寄り彼女の治療を開始した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「こんなところにいたのかい、安川?」

 

 関西呪術協会にて、作戦の無駄を省くために脅威とすら認識できなかったネギを無視し逃走を開始したフェイトは、ともに協会に侵入したはずなのにいつの間にか姿を消していた相棒を発見し安堵の息をついた。

 

 相棒――安川父は、塀に向かって胡坐をかいて座っており無言のままある一点を見つめていた。

 

「一体どうし……」

 

 いつ何句真剣な様子の彼の姿に疑問を覚えたフェイトはとりあえず疑問を解消するために質問を飛ばそうとして、

 

「……」

 

 口を閉じた。

 

 なぜなら安川父が見つめていたのは、ネギパーティーの中では真っ先に石化されてしまった安川マリーの石像だったからだ。

 

「聞くまでもないことや思うけど……これ、お前がやったんか? フェイト」

 

「……あぁ。そうだ」

 

 すまない。そう言おうと思い安川父に近づこうとしたフェイトに、

 

「近づくな!!」

 

 安川父の怒号が飛んだ。

 

「っ……」

 

「……すまん。覚悟はしとったんや。おれは父親失格やし、いまさら何したところで娘に顔向けできひんのやから多少の敵対ぐらいはやったろやんけって、開き直った気でいたんや。でも、驚きやな……おれは意外と」

 

 人の父親しとったらしい。最後にかすれた声で漏らされたつぶやきに、フェイトは思わず息をのんだ。

 

 その声は、今までフェイトが聞いたことがないほど……弱々しかったから。

 

「今のおれはお前に何するかわからへん……。すまんなフェイト……俺はここでリタイアや」

 

「……そうか。残念だ」

 

 無表情の中に、どことなくつらそうな雰囲気をにじませながらそうつぶやいたフェイトは、水のゲートを再び開きその中に体を沈める。

 

 そして、彼の体半分ほど沈んだところで安川父は口を開いた。

 

「フェイト……最後に仲間やったよしみで一つ忠告しといたる」

 

「なんだい?」

 

「おれは、こいつがこんな目にあってもお前に手を出してまうほど怒れへんかったけど……その代わりに、烈火のごとく怒り狂うやつをおれはしっとんで。そいつが本気になったら、たぶん今のお前では勝てへんやろ……」

 

「それはいったい誰だい?」

 

 フェイトの問いかけに、安川父は振り返りながら不敵に笑う。

 

「犬神ゲルゆーガキや。そいつが出てきたら、全力で逃げることを勧めといたる」

 

「くだらない」

 

 僕が負けると思っているのか? 最後にそう言い捨てて水の中に消えたフェイトを、安川父は無言のまま見送った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「マリーさんを探しましょう!」

 

 明日菜と刹那……二人の治療を終え、刹那を落ち着かせたネギが開口一番に言った言葉がそれだった。

 

 今は少しでも戦力がほしい。だからネギは、真っ先に思い浮かんだまだ合流していない関係者の名前を挙げ二人にそう提案した。

 

あの犬神に鍛えられたマリーならこの状況でも生き残っている可能性が高い。そうなれば、少なくとも三人で戦うよりかは楽な状態で戦うことができるはずだ。

 

 だから三人は関西呪術協会内を疾走した。頼りになるもう一人の仲間を探すために。

 

 だが、ネギたちの希望は儚く崩れ去った。

 

「よぉ……遅かったな、坊主ら」

 

「そんな……」

 

「うそっ!!」

 

「マリー……さん」

 

 三人が見たのは他のクラスメイト達と同じように、命が感じられない石像となったマリーと、彼女を守るように仁王立ちしていた安川父の姿だった。

 

「あんた……まさかあんたがマリーを!」

 

「っ!! お、落ち着いてください明日菜さん!!」

 

「そ、そうです姐さん! あのおっさんは気力使いであって魔法使いじゃねぇ。石化魔法なんて高度な魔法は使えねぇよ」

 

 その光景を見て、頭に血を上らせた明日菜が大剣状態のハマノツルギを召喚し、安川父に飛びかかる。ネギとカモはあわててそれを制止し、明日菜に彼には不可能だということを言い聞かせた。

 

「ああ、そうや。ようわかったなボーズ」

 

「では、あなたはこんなところで何をしているのですか?」

 

 対照的に、安川父に対する警戒を解かないが冷静な様子の刹那の詰問に、安川父はなぜか照れるように頭をかいたあと、覚悟を決めたかのように肩をすくめて返事を返した。

 

「なぁに……俺も所詮は人の親やったゆー話や」

 

 娘こんなにされてもあいつらに協力するゆーことは……どうしてもできひんかってん。

 

 安川父から告げられた意外な言葉に、ネギと刹那は少し驚き明日菜ハッとした顔になって、ばつが悪そうに振り上げた大剣を下した。

 

「つまり……あなたはもうこの戦いに参戦はしないと?」

 

「お前たちに協力もできひんけどな。こう見えても雇われの身や。勝手に戦線離脱はしても、まだ契約切れてへんやつに牙をむくほど落ちぶれてもおらへん」

 

 傭兵仁義を通す。あくまでそういった安川父にネギと刹那は少しだけ残念そうな視線を送り、明日菜は「くそっ……ちょっとカッコイイじゃない」とちょっとした病気(オジコン)をこじらせかけていた。

 

「わかりました。それだけでも十分な収穫です……」

 

「ですがネギ先生……このままでは」

 

「戦力が足りひんやろうな。俺が言うのもなんやけど、あいつらは強いで?」

 

 今まで敵だった安川父からの忠告に、ネギは少しだけひるんだ後、

 

「それでも、木乃香さんを見捨てるなんてことはできません」

 

 しっかりと……安川父にそう答えた。

 

「はっ。そうかい……」

 

 安川父はその答えにほんの少しだけ笑うと、ネギの胸元を指差した。

 

「あきらめるな。屈するな。それができたものにだけ、未来は開かれる」

 

「……それも、誰かの名言ですか?」

 

「阿呆。これはちゃんとおれの言葉や……。応援はできひんけど、せいぜいおもろいもん見せてくれや」

 

 安川父は最後にそう言い放つと、マリーの周りに結界用の札を張り付け彼女の石像の安全を確保。それが大体終わった瞬間、瞬動によってその場から姿を消した。

 

「……行きましょう。明日菜さん、刹那さん」

 

「はい」

 

「わかっているわよ……」

 

 安川父を見送った彼らは、マリーにも同じように「必ず助けます……」と告げた後、関西呪術協会本山を飛び出した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その頃のエヴァンジェリン。

 

「うぅ~。のみすぎた~……目が回る~。はく~」

 

「マスター……お願いですから今は吐かないでください」

 

「そ、そんなこと言ったって……うっ」

 

「ちょ、マス……」

 

 オヴォロロロロロロロロロロロ……。

 

 割とシャレにならない密度の茶々丸の殺気をくらっていた……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 はぁはぁはぁ……。荒い息を吐きながら、関西呪術協会敷地内の森を一人の少女が駆け抜ける。

 

「な、なんなのですか、あの少年は……」

 

 小さな体を必死に操り、図書館探検部によって鍛えられた四肢を駆使し、つっかえつっかえでありながらも順調に森を走破していく少女の名は綾瀬夕映。フェイトの石化攻撃から唯一逃れることができた、麻帆良の一般人組の一人だ。

 

「人を石化させる攻撃……。瞬間移動じみた動き……。まるで三文ファンタジーの中に紛れ込んだみたいです……」

 

 彼女がそう言って、地面から突き出た巨大な木の根を飛び越えたときだった。

 

「んぉ?」

 

「え?」

 

 木の根の先に突然出現した巨大な何かに彼女はぶつかってしまい、その動きを止めた。

 

「ひ……ひはい」

 

 思いっきりぶつけてしまった鼻を抑える夕映に、その人影は申し訳なさそうに手を伸ばす。

 

「いや~悪い悪い嬢ちゃん。怪我ないか?」

 

「あ、はい……ご親切にどうも」

 

 夕映は彼の手を取ろうとして、そちらに視線を向け……

 

「っ!?」

 

「ん? おぉ……そういうたらおれこの姿やったな」

 

 氷結した。

 

 なぜなら、故に手を差し伸べてくれた人物は、

 

 体長三メートル弱はありそうな巨体。人ではありえない赤銅色の肌。額からはえる三本の角。耳まで裂けた巨大な口と、化物じみた鋭さを持つ両眼。右手には人では到底操れそうにない巨大な棍棒。そんな特徴を備えた、

 

 鬼だったからだ……。

 

「どうやら召喚される場所ミスってもうたらしいな……。俺は昔からそういう調整が苦手やから……」

 

「あぁ……あぁ……」

 

 独りごちるように顎に手を当てつ呟きを漏らす鬼だったが、今の夕映にそんな人間臭い彼の動作を観察している余裕はなかった。

 

 物語の中でしか見たことがない幻想種。人にあだなし害をなす、最凶の存在。

 

「まぁ、知られてもうたからにはしゃーない。悪いんやけど、死んでもらうで? 嬢ちゃん」

 

 そんな鬼に、お手軽感覚で殺気を向けられてしまった夕映にはもう、反撃する気力も逃げる気力も出すことはできなかった。

 

「安心し~。痛みはない。そんなもん感じひんくらいの速度で沈めたるから」

 

 鬼は最後に軽い口調でそう言うと、右手に持った巨大な棍棒を振り上げる。それを見た夕映は思わず目をつぶり、

 

パンッ!!

 

 森の中に響き渡った、あまりにも軽薄な破裂音を聞き再び目を開けた。

 

「やぁ……バカリーダー。大丈夫だったかい?」

 

「ニンニン。無事で何よりでござる」

 

「あら~!? 今の本物の鬼アルか!?」

 

 そして、夕映が目を開けた先に映っていたのは、

 

 かまえたスナイパーライフルから硝煙を立ち上らせる龍宮真名と、チャイナ服を着た長身の長瀬楓。そして、上半身が消し飛び粒子となって消えていく鬼を驚いたような顔で見ている古菲がいた。

 

「さて……。次の敵はいったいどこだい?」

 

 そう言った龍宮の瞳は、頼もしい……狩人の瞳をしていた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 協会より数キロはなれた森の中の小川にて。

 

「そうか……安川は脱落かいな」

 

「怒らないんだね?」

 

「むしろあいつにそんな人間味があったことに驚いてそれどころちゃうわ」

 

 木乃香を連れ去ったフェイトが安川父の脱落を千草に告げたとき、千草は若干残念そうな顔をしながらそう返事を返した。

 

 憎まれ口をたたいてはいるが、彼女としても安川父が離反したのはソコソコ堪えるものだったのだろう。計画の邪魔(足を引っ張る形で)ばかりしていた男だったがこのメンバーのはずせないムードメーカーだったのは、彼女も認めていたからだ。

 

「まぁええわ。あの場所行って儀式さえ終わったらあいつが抜けた穴もおつりがくるくらい埋められるやろ」

 

「そうどすな~」

 

 しかし、いつまでもそんな表情をしていられるほど彼女たちの状況は甘くなかった。白髪の少年が意外とつかえるという嬉しい誤算があったものの、いまだに彼らは追撃される身だ。あの少年たちが何らかの方法で麻帆良や修学旅行に付随してきている魔法関係者と連絡を取り増援をよこしてくる可能性も捨てきれない。

 

 だから千草はフルフルと首を振り、気合いを入れた様子で猿鬼を召喚。札で口と四肢を封じられた木乃香を抱えさせる。

 

 そんな千草の様子など一切気にした様子も見せず、月詠だけがこれから自身に訪れる激戦の気配を感じとり、わくわくとした様子で笑っていた。

 

「さっさといこか……殿として何人か残していくけど、誰がええやろ?」

 

 そして、千草がメンバーたちに指示を出そうとしたときだった、

 

「待ちなさい!!」

 

「そこまでです!」

 

「木乃香を返しなさいよ!!」

 

 ネギたちが追い付いてきた!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 自身の前に立ちふさがったネギパーティーの面々を見て、千草は驚くと同時に安堵の息を内心で着いた。

 

 修学旅行中に何度も対峙した三人。神楽坂明日菜、桜咲刹那、ネギ・スプリングフィールド。このメンバー以外の増援は認められへん。どうやら時間がないおもて、増援呼ぶよりも木乃香お嬢様の奪還を選んだみたいやな。

 

 いい選択だと千草は思う。だが、今の自分にとってはそちらの方が好都合だ、とも彼女は思った。

 

「天ヶ崎千草!! 明日の朝にはお前をとらえに増援部隊がやってくるぞ!! 大人しく観念しろ!!」

 

 そして刹那から告げられたその言葉に千草は一層笑みを深くした。

 

 なぜなら、彼女は言外にこう告げたからだ。『今すぐやってくる増援はいない』と。

 

 だったら千草には負ける気は全く起きない。なぜなら、この夜の数時間さえ稼げれば千草は日本全土をの魔法使いを敵に回しても圧倒できる力を手に入れることができるのだから。

 

「ははははははは!! お笑い草やな桜咲刹那。そんなんで間に合う思とんのか?」

 

「なにっ!?」

 

「どういうこと!?」

 

 額に青筋をうかべこちらに向かって剣を構える刹那を挑発しつつ、千草は一枚の札を木乃香に張り付けた。

 

「まぁええわ。そんなことより、今はアンタらの相手が優先やしな……。とりあえずは」

 

 誰を足止めに当てようか? そう思い振り返った千草の眼には、

 

「はぁはぁはぁはぁ……」

 

 何やらものすごい興奮した様子で、刀を構えている月詠の姿が目に映って……。

 

「…………………」

 

「………(フルフル)」

 

 無言のままフェイトに視線を移した千草は、いつのまにか月詠からかなりの距離をとった彼が「あきらめろ……」と言わんばかりに首を振るのを見て、大きくため息を漏らし、

 

「殿は月詠さんと……」

 

「はいっ!!」

 

「え、ちょ……さすがにそれの相手は!?」

 

 もう、明らかに性的に興奮している様子の月詠にドン引きした様子の刹那が、初めてそんな声をあげた。千草としてもなんか一人の剣士の貞操が危ない気がしないでもないのだが、『相手は敵やし……ええよな。気ぃ使ったらんで』と自己完結。結果一人の少女が新しい扉を開いてしまっても千草は何の責任ももちません。

 

「お嬢様の力でも借りよか?」

 

「っ!!」

 

 自分が何かされると分かったのだろう。猿鬼の腕の中で暴れる木乃香。しかし、相手は人外の式神だ。高々中学生の少女一人が暴れたぐらいで、その拘束を解くような柔な存在ではない。

 

「オン……」

 

 そして、それと同時に千草が唱えた呪文によって、無理やり魔力を引き出された木乃香の体がエビぞりにのけぞった!!

 

「木乃香っ!!」

 

「お嬢様!!」

 

 親友二人が悲鳴のような叫び声をあげるのに対し、赤毛の少年は冷静に状況を分析しているのか辺り一帯に出現した東方風の魔方陣に息をのんだ。

 

「これはっ!?」

 

「東洋流の召喚術だアニキ!!」

 

「気づくのが遅いわ」

 

 にやりと千草が笑うのと同時に、その魔方陣からはすさまじい数の鬼が出現し始める!!

 

「っ!? うそでしょ……」

 

「お嬢様の魔力を使って手当たり次第に呼んだのか!?」

 

 顔から血の気をひかせる三人に向かって、千草はさらに絶望的な言葉を告げる。

 

「計130体の鬼神どもや。トイレに閉じ込められた恨みで出血大サービスしたったで。感謝しーや」

 

「千草さん。警察に放り込まれたことは怒っていないのかい?」

 

「……あと百体ぐらい追加してもええやろうか?」

 

 フェイトの言葉によって額に浮かばせる青筋をさらに増やした千草は、有言実行とばかりにさらに百体の鬼を呼び出した。

 

「まぁ、月詠さんにも鬼どもにも……殺さんようにだけ(・・)はゆーといたるわ。ほな、さいなら」

 

 その言葉と同時に、木乃香を抱えた猿鬼とフェイトを伴い千草は飛翔し天へと消える。あとには、無数の鬼と狂気の剣士に囲まれたちっぽけな三人の子供だけが取り残された。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「で……これどうすんのよ!?」

 

 原作にようにパニックになることはなく、しかしそれなりの冷や汗をかく明日名の詰問を聞きネギはとりあえず時間を稼ぐために、

 

「兄貴時間がほしい!! 障壁を……」

 

「もうやっているよ!! 風花旋風(フランス・パリエース)風障壁(ウェンティ・ウェルテンティス)!!」

 

「なんや久しぶりに呼ばれたおもたら相手はおぼこい……って、きけや!?」

 

 台詞の途中で立ち上がった竜巻の障壁。それによって声を遮られてしまった鬼が「俺の……おれのターンやったのに!?」と絶叫するが、障壁に守られたネギたちには当然届くわけもなくその声はむなしく虚空へとこだました。

 

 そんな中、障壁に守られた明日菜たちは頭を寄せ集めて簡易作戦会議を行い始めた。

 

「とにかく……これからどうしましょう?」

 

「……二手に分かれんのがベストだろうな」

 

「なっ!?」

 

 カモの言葉を聞き、刹那と明日名は思わず絶句する。しかし、ネギだけはその作戦に頷いた。

 

「確かに……そのほうがまだ勝ちの目がある」

 

「どういうことですか?」

 

 鋭い視線をネギにぶつける刹那。どうやら木乃香を攫われてしまい少し気が立っているようだ。

 

「僕たちの目標は鬼の打倒ではなくの木乃香さんの救出です。端的に言ってしまえば、戦闘をする必要すら皆無です」

 

「だったら話は簡単だ。できるだけ戦闘をする手間を省いて、木乃香の嬢ちゃんをさらったやつらから木乃香の嬢ちゃんをさらい返せばいい」

 

「っ!! そうか……だから二手に!!」

 

「え、え? どういうこと?」

 

 成績が悪い明日菜だけが理解できていないようなので、今度は刹那が懇切丁寧に説明を開始する。

 

「いいですか明日菜さん。さっき言ったように私たちの目標は敵の打倒ではなくお嬢様の奪還です。だったら、この鬼たちを無視して、飛行魔法が使えるネギ先生たちは先に進み、お嬢様を追いかけていけばまだ相手のたくらみがうまくいく前にお嬢様を奪還できる可能性があります。しかし、それでは鬼の追撃を受けてしまう。だから、ここで二手に分かれて、お嬢様の奪還組と……鬼の足止め組みに分かれればまだ少しは勝ちの目があると言っているんです」

 

「え? でもそれじゃぁ……」

 

 木乃香を奪い返せるまで、この場に残った人間は鬼と戦い続けなければならない。

 

「仕方がないことです……。少ない戦力でこれだけの相手と対峙しようなんてことを考えると、これしか道は……」

 

 つらそうに言葉を吐き出すネギの姿に、明日菜は悔しそうにほぞをかんだ。

 

 言っていることはわかる。木乃香を救うためには、ネギが提案した作戦がベストなのだ。でも、足止めに残った人がこれだけの数の鬼を相手に生き残ることなんて……できるわけが、

 

「あ……」

 

 その時だった、ネギの肩に乗っかっていたカモから、そんな間の抜けた声が漏れたのは。

 

「なんなのよエロがも!!」

 

「ちょ!? この状況で罵倒とか普通にやつあたりにしか見えませんよ姐さん!! じゃなくて、兄貴!! これってどう考えても命の危機ですよね!」

 

「え? えぇ……まぁそうだけど」

 

 殺さないようにとだけは言われているらしいが、それだってどの程度守られるかわからない。見た目が凶悪な姿をしている鬼たちが殺さないように痛めつけるなんて繊細なまねができるかどうかも怪しいとネギは思っていた。本人たちが聞いたら間違いなく激怒するだろうが……。

 

「だったら、ゲルの旦那からもらった、あのお守りが使えるんじゃないか!!」

 

「「「あっ!!」」」

 

 三人が三者三様の叫び声をあげ、あわてた様子でネギがとりだしたお守りに視線を向ける。

 

「……どうなると思う?」

 

「どんな現象が起こるかわかりませんし……下手をすれば世にも恐ろしいものが襲いかかってくるらしいですが」

 

「やらないよりかは……ましでしょう!!」

 

 ネギは願いを込めながら、そのお守りに魔力を通す。

 

 どうか……この状況を逆転できる、起死回生の一手を!! と……。

 

 そしてネギの魔力が通ったお守りは、その魔力を光にしてもらしながら、

 

「高らかに謳おう!! 召喚の詩!!」

 

 装飾と思っていた太陽が、突然歌い始めた!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 祖は怪しき盗人。夜の夢。

 

 紅い大河を翻し、

 

 今宵も高らかに笑いをあげる、

 

 その笑みは決してさげすまず、決して辱めず、

 

 己が誇りを不敵に刻む、

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 鬼たちはいつまでたっても出てこない、ネギたちにしびれを切らしたように視線を交わしあっていた。

 

「つか長くね?」

 

「せっかく久々のシャバやっちゅーのに、こんな穴倉決め込まれたらなんもおもろないやん」

 

 舌打ち交じりに不満を漏らす鬼たちに向って、

 

「ほな、ひきずりだしたらええ……」

 

 にこにこ笑いながら双剣を構えた、狂気の剣士がほほ笑みかけた。

 

「せやけど嬢ちゃん……こんなでかい竜巻どうやって」

 

「神明流は退魔の剣やで鬼さんら……」

 

 狂気の剣士――月詠はくすくす笑いながら剣に気を通して行き、

 

()力で作られたもんを切るなんて造作ないわ」

 

 その双剣を振りかぶった、

 

 その時。

 

「せっかちやな眼鏡剣士……わざわざそんな面倒なことせんでも出ていったるわ!!」

 

 気によって作られた衝撃波が、竜巻の障壁を見事に粉砕しその射線上に立っていた鬼たちを消し飛ばした!!

 

「なっ!?」

 

 その射線はちょうど月詠をも貫く線を描いていたが、月詠は本能でその一撃を察知していたのか、何とか紙一重で回避に成功する。

 

 しかし、その威力はまざまざと感じ取れたのだろう。50近い鬼たちを一撃で消し飛ばしただけでは飽き足らず、背後にあった森まで根こそぎ粉砕したその攻撃を見て、月詠は目を大きく見開き、その攻撃を放った人物を凝視する。

 

「いったいどっからきはったんですか? いままで、先輩らの近くにはいはらへんかったおもうけど……?」

 

「はぁ? どっから来たやと……。そんな決まっとるやろ?」

 

 その人物は、まるで爆発するように一気に拡大霧散した竜巻の残滓をまといながら、

 

「師弟愛の力によって、はるばるハワイからやってきた……」

 

 不敵に、豪胆に、

 

「スパルタンⅥ、只今参上!!」

 

 己が名前を高らかに謳いあげる。

 

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