とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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20話・修学旅行三日目 降臨☆満を持して!!

「し、師匠一人で大丈夫でしょうか!?」

 

「安心しなさい……あいつバカだけど強いから」

 

「助けてもらった人に言うセリフじゃありませんよ、明日菜さん!?」

 

 シックスの適当に右パンチ(しかし使うのは左手……いい加減改名したほうがいいとネギは思う)の砲撃にまぎれるように、鬼の壁を瞬動によって突破したネギパーティ。彼らは、Ⅵが竜巻の中に現れた瞬間に言っていた言葉を思い出していた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

『いや~。まさかほんまに呼ばれるとは思てへんかったわ……。犬神君もこの《召喚の楽符》を渡したんを『ちょっと過保護すぎたか?』って後悔するぐらい楽な任務のはずやったんやろ? せやのに何でこんなことになっとんの?』

 

 不思議そうに首をかしげるⅥに、突然の強力すぎる味方の登場に唖然としていた3人は、泡を食って今までの経緯の説明を開始した。

 

『は~ん。仮にも麻帆良以上の結界に守られとる呪術教会の結界を抜くような奴が、突然関西の反乱勢力に力かしたいうんは、なんかきな臭いな……。まぁ、そこら辺調べるんは本拠地の人に任せよか。とりあえずは……お説教やな』

 

 事情を聴き終わったⅥは、苦笑をうかべながら肩を竦めて自分を呼び出したお守りをトントンとたたいた。

 

『お前な……そんな大事になっとるんやったらもっと早くにこれ使えや。そうしたら、木乃香の嬢ちゃんさらわれることすらなかった思うで?』

 

『え? そ、そんなこと言われてもこれがなんなのか僕聞いていませんよ!!』

 

 ネギが不満交じりの抗議の声を上げるのを聞き、Ⅵは驚いたように口をぽかんとあけ、

 

『あ~。犬神君の仕業やな……。あの金の亡者にしては珍しくハワイ旅行を純粋に楽しんどったみたいやし……。大方召喚されて邪魔されんのがいややったんやろ』

 

『『え? 何そのホラー? 犬神さんが旅行楽しむなんて……幻覚でも見ていたんじゃないんですか?』』

 

 声を合わせて同時にそういったネギと明日菜のシンクロした意見に、Ⅵは思わず顔をひきつらせながら話を続けた。

 

『このお守りは最近アリアドーネで開発された最新の召喚魔法具や。まだカタログにも載ってへん、機密品なんやで?』

 

『なんでそんなもの犬神さんが……。あぁ、やっぱりいいです。どうせ黒い理由があるんでしょう?』

 

『……ほんでな』

 

『『否定しないんだ!?』』

 

 ネギの鋭い指摘にⅥは一瞬だけ言葉をとぎらせた後、何事もなかったかのように説明を続ける。

 

『この魔法具の特徴的なところは……《状況にぴったり合った援軍を、使用者の知り合いの中からオートで選別》することや。つまり、今回の場合は少数で大多数の足止めが可能なユニット……つまり、お前がしっとる中で一騎当千の強さを誇る最強の俺様が呼ばれたわけやねん!!』

 

 ドヤァ……。と言わんばかりの表情で、鼻を膨らませながら胸を張るⅥに苦笑をうかべなたあと、ネギは真剣な表情になってⅥに問いかける。

 

『ですが師匠、今回の鬼は200近くいるんですよ? 師匠一人ではやはり無理が……。僕たちの中で誰かひとり、残していった方がいいんじゃ?』

 

 しかし、ネギの提案をⅥはネギの目の前でストップと言わんばかりに手を広げることで無理やり断ち切る。

 

『阿呆……。聞いた話やと、その白髪は間違いなく別格の実力者や。そんな相手とケンカすんのにみすみす戦力減らすような提案すんな』

 

 それにな……。そうつなげたⅥは不敵に笑いながら、体中に気を満たし戦闘態勢を整えていく。

 

『自分に心配されるほど俺はまだ落ちぶれてへんで? 鬼二百やって? はっ。俺倒したいんやったらその100倍は用意せぇへんと話にならへんな』

 

 その言葉と同時に、全盛期のエヴァンジェリンを彷彿とさせるほどの(もっとも彼女の場合は魔力だったが)気を左手に貯めはじめたⅥを見て、ネギたちは唖然とした後、あわてて進撃の用意を開始した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 自分の砲撃にうまくまぎれて敵の追撃を開始し始めた弟子たちの背中を見送った後、Ⅵは気や殺気でネギたちを追わないように牽制した鬼たちへと視線を戻す。

 

 何より注意すべきは鬼とちゃうけどな……。内心でそうこぼしながら、さらにⅥは視線を移し自分に向かって剣を構える双剣の退魔士へと焦点を当てた。

 

 興奮している。それも信じられないほどに……。

 

 やたらとエロく見えてしまうのは彼女が美人だからなのだろうか? だとしたらなかなか不憫なビジュアルであるといわせてもらうが、Ⅵだけはその興奮の理由を正確に見抜いている。

 

 強い奴と戦える。命のやり取りができる。こいつはそれを恐れることなく……むしろ歓喜へと変えることができる人種だ。しかも、戦闘狂などという生易しい言葉など、突き抜けてしまうほど壊れてしまった……

 

「俺とおんなじ……奴やな?」

 

「あはっ……。同族にこんなところで会えるやなんて思ってもいませんでしたわ~」

 

 白銀の刃を陶酔したような表情をしながら、口から出した赤い舌でぺろりとなめる剣士月詠。その笑みは明らかに壊れきった笑みであるのに、Ⅵは畏れることも、気持ち悪がることもなかった。

 

「はっ……メインデッシュを変えてくれたようで何よりや。あんな未完成品より、俺の方がうまそうやろ?」

 

 Ⅵは……月詠以上の歓喜の笑みをその顔に浮かべていたのだから!!

 

「俺らも忘れてもらったら困るでニィちゃん」

 

「鬼の底力みせたるわ」

 

 そう言って一斉に武器を構える鬼たちも、彼女との戦いを行うことと比べるとずいぶんと安っぽいものに感じる。

 

 だからⅥは肩をすくめただけで、鬼たちに対する返事を終わらせた。

 

「剣士以外やったらかまへんで。適当に狩れや」

 

 代わりに彼は見えない誰かにそう言い放ち、瞬動で月詠に対して突進を仕掛ける!!

 

 それと同時に『かなわないな……』という声が聞こえたかと思うと、信じられない精密さで降り注いだ無数の弾丸が、Ⅵに飛びかかろうとしていた鬼たちに風穴を開けた!!

 

「なんや!?」「術式処理された弾丸やと!?」「狙撃や! 撃ち手探し出せ!!」と、弾丸によって倒れた同胞たちに驚きながらも、冷静に対処を開始する鬼たちをしり目にⅥのコブシと月詠の剣が交錯する!!

 

「世界最強――ジャック・ラカンが弟子、スパルタンⅥこと……六重トウジや」

 

「神鳴流異端剣士。掃討双刀……月詠言います。以後よしなに」

 

 たがいに名乗るはおのれの称号。古臭いかもしれないが、二人にとっては大事なことだ。なぜなら、

 

「「今から自分を倒す相手の名前を、知らんゆーのは寝覚めが悪いやろ!!」」

 

 圧倒的な密度の気と、鋭い刃物のような気が激突する! それによって辺り一帯には爆風が吹き荒れ、周囲を固めていた鬼たちごと森の木々を薙ぎ払った!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 Ⅵによって辛くも駒を進めることができたネギたちだったが、敵もさるもの……。どうやら足止めの策など二重三重に用意していたらしかった。

 

「よぉネギ……。まっとったで。昼間のリベンジマッチといこうや」

 

「コタロー君……」

 

 木乃香を媒体に儀式を行うと思われる巨大な湖が見下ろせる丘の上。そこには無数の黒い狼たちをはべらせた、獣人の少年が立っていた。

 

「昼間みたいな失態はおかさへんで……。あのへんな戦車みたいなねーちゃんももうおらへんみたいやし、お前の助けは素人に毛が生えた程度のねーちゃんと、あの白髪と戦ったダメージが抜けきってへん神鳴流剣士だけや。俺が本気だしたら十分にあしらえる」

 

 その言葉と同時に、コタローは着ていた学ランを脱ぎ捨て即座に獣化を開始する。

 

「せやけどもう油断はしーひん。あんな横やりが入って勝負が中断されるのはもういややしな……最初から最後までクライマックスで行かせてもらうで」

 

「コタロー君……君、電王見ていたんだね……」

 

「俺としてはクウガの方が好きやけどな!!」

 

 そう言って無数の犬神とともに突撃をしてくるコタローに対し、ネギはシビアな瞳で非情な選択を下す。

 

「ゴメン。コタロー君……僕だって君と白黒つけたい気持ちはある。だけど今はだめだ……今は、僕の生徒の命がかかっているんだ!!」

 

 だから、君に時間を割いている余裕はない! 残念そうにそう、しかししっかりとした声でそう言いなはったネギは、再びお守りに魔力を通した。

 

 Ⅵの言を信じるならば、この召喚符は刻まれた星の数だけ――このお守りの場合は三回――の召喚を可能とする。

 

 使える回数はあと二回。だがネギは、最後にだれが来るのは誰なのか大まかに予想はついていたため、あえてこの場でこの札を切った。

 

 あの人が来てくれるなら、もうほかの援軍などいらないのだから。いまは、少しでも時間を短縮するために、このお守りを使い捨てさせてもらう!!

 

 ネギの非常な言葉に答え、再び太陽が口を開く。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 祖は暗殺の姫君。暗き瞳もつ姫よ。

 

 その身に宿すは千の凶器、

 

 壊れきった心は、無垢なままに、

 

 ただ殺戮の為だけに動かん……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 瞬間。コタローの背後から圧倒的な殺気がわきだし、コタローの動きを一瞬で止めた。

 

「召喚文が不本意だけど……」

 

 本能が警告を漏らした。逃げろ逃げろと泣き叫んだ。だからコタローは……。

 

「っ!?」

 

 今までの人生で最も素早い速度で回避行動を開始。背後の殺気の主から逃げるために、全力の瞬動でネギたちを飛び越えて着地する。

 

 逃げた? 自分が!? 無意識のうちに行った大げさすぎる回避アクションに、愕然とするコタロー。そして、

 

 ジャキンと、禍々しい音を立てて、コタローの首があった場所で口を閉じた大ばさみを見てコタローは滝のような冷や汗を流す。

 

 ほんの少しでも回避が遅れていれば、自分の首は飛んでいた。それくらいの予想がつく程度には彼は冷静さを保っていた。

 

「元・世界最大の暗殺者組織《帝国》……皇帝(カイザー)が娘。安川姫」

 

 その大ばさみの持ち主は、冷厳な瞳でコタローを睨みつけながらネギにひらひらと手を振った。

 

「ネギ……助けに来たよ」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ネギ……次何をするべきかは、わかってる?」

 

「え……それ以前に何でヒメちゃん!?」

 

 てっきりクラレンスあたりが来るものと予想していたネギは、予想すらしていなかった援軍の登場にコタロー以上に度肝を抜かれた!

 

「……私じゃ、だめ?」

 

「ダメっ!!」

 

 チッ……。と舌打ちを漏らし、眼をそむけるヒメ。マリーなら無条件で許してくれるようになる愛らしい瞳をネギに向けたヒメだったが、残念なことにその瞳は年上(ゲルを除く)のみに効果を発するものであって同年代のネギにはどうも通用しないらしかった。

 

「出番がなかったから……」

 

「メタな発言はやめて!!」

 

「私にも活躍の場があっていいと思った……」

 

「それもメタだから……」

 

「このままだと某吸血鬼の天敵さんみたいになってしまう……」

 

「姫神さんを馬鹿にしてるの!?」

 

 某科学と魔術が交差しちゃった世界で、不遇な扱いを受ける初期ヒロインの一人の顔を思い出しながら怒声を上げるネギに、ヒメは軽く肩を竦めた後ほんの少しだけ真剣な色がにじみ出た言葉を一つだけ告げる。

 

「安心してネギ。この程度の相手……クラレンスが来る必要もない」

 

 そのセリフに反応したのは、当然のごとくネギではなくコタローだった。

 

「はっ……タメの嬢ちゃんが、不意打ちきめられたからってずいぶんいきがってくれるやんけ!!」

 

 額に青筋を浮かべながら、先ほどの恐怖はどこへやら……瞬動を駆使し無数の狗神を従えながら、コタローは突撃を開始。凄まじい速度でヒメへと近づき、至近距離で気力全開のコブシを叩き込まんとする!!

 

 だが、

 

「八卦・坤・開。帝国式歩法術影弄(かげろう)

 

 コタローのコブシが突き刺さった瞬間、ヒメの体がまるで幻のように掻き消え、

 

「なっ!?」

 

「暗殺者相手に何度も後ろを取られるなんて……関心しない」

 

 再び背後に現れたヒメの大バサミによる挟撃がコタローに向かって襲い掛かった。

 

 今度は肩を狙った斬撃。致命傷はギリギリ回避できるだろうが、格闘家の彼にとって片腕を失うことは死亡することに等しい。

 

「がぁあああああああああああああ!?」

 

 技後硬直で動かない体から気を噴出させることにより無理やり体勢を入れ替え、何とかその攻撃を回避するコタロー。

 

 しかし、ヒメはそんな無様な回避しかできなかったコタローを追撃することはなかった。まるでいつでも殺せるといわんばかりに……。

 

「わかったでしょうネギ? 心配する必要なんて皆無」

 

「……わかった、ヒメちゃん。無理しないでね?」

 

 ネギはそういうと、明日菜と刹那を伴い急ぎ儀式場へと向かう。コタローは彼らを止めることはなかった。

 

 先ほどの攻防で明らかに格上とわかったヒメ相手にそんな余裕を見せることはできなかったし、なにより……。

 

「じょーとーやないか……」

 

 自分を侮られたことに……そして何より、侮られるような態度をとってしまった自分に激しく腹が立ったから。だから!!

 

「ほんまは女に本気出すンはポリシーに反するんやけど……すまんな。全力で叩きのめす!!」

 

「無理。暗殺者を名乗る相手にそんな甘いポリシーを語りかけている時点で、貴方は戦士失格……」

 

 女だろうが男だろうが、子供だろうが老人だろうが、私たち暗殺者は差別しない……。等しくただ殺す。

 

 ヒメはへらへら笑いながらも暗殺者としては一流だった(人格面はゴミ屑以外の何物でもなかったが)父親からの唯一の教訓を思い出しながら大バサミを構える。

 

「私は育ちが悪いから……ついうっかり殺してしまっても、文句はいわないでほしい」

 

 そしてヒメは手刀にした手を前に構え……

 

「八卦・巽・開。帝国式攻撃気弾《豪法・無音針》」

 

 まるで何かを投げつけるようにその手をふるった。

 

 ……自分の真横の茂みへと。

 

「は?」

 

 何しとるんや? とコタローは首をかしげるが、

 

「おっと?」

 

「きゃっ!?」

 

 茂みの中から軽い驚きの声と、少女らしい甲高い悲鳴を上げて二人の人物が飛び出してくるのを見て驚愕の表情をうかべる。

 

「まさか気づかれてしまうとは……うかつでござった。流石は帝国創始者皇帝(カイザー)のご令嬢といったところでござるか?」

 

「その動き……甲賀忍者? 時代遅れの(こっとうひん)がこんなところに何の用?」

 

「う~ん。拙者意外と寛大なつもりでござったが、どうやらそうでもないみたいでござる……」

 

 少し怒ったでござるよ? 細い瞳をほんの少しだけ見開きながら、抱え上げていた少女を下ろしたチャイナ服の長身の女性――もとい、少女……長瀬楓は手元に、手品のように素早くクナイと手裏剣を出現させながら、ヒメとコタローに対峙した。

 

「一応あれは拙者たちの担任でござってな。ピンチとあっては、みすみす見逃すわけにもいかなかったので援軍に参ったのでござるが……」

 

「じゃぁ仲間?」

 

 それは悪いことをした。あとでマリーに怒られる……。そんな風にどこか外れた心配をしているヒメに向かって、

 

「いいや……そうではござらん」

 

 楓はとんでもない速さでクナイを投げつけた!!

 

「っ?」

 

 姫はその攻撃にほんの少しだけ驚いた様子で、目を見開きつつ再び袖口から飛び出させた大バサミでその一撃を迎撃。あっさりと弾き飛ばした!!

 

「……何のつもり?」

 

「いや、拙者たちはネギ坊主の味方ではあっても、そっちに味方にはなりえないということでござる」

 

 楓はそう言いながらホケホケした笑みをひっこめ、鋭い眼光が宿った瞳で姫を睨みつける。

 

「《帝国》は依頼さえあればどんな対象でも殺す凶悪な暗殺者集団でござる。その殺しに貴賎はない……といえば綺麗に聞こえるでござるが、ようは金さえもらえればどんな奴でも殺す無差別殺人集団でござる。そんな輩を束ねていた皇帝の娘を……たとえネギ坊主本人が《友人》と言っていたからと言って、みすみす見逃すほど忍びは甘くないでござるよ……」

 

 そう言いながら、クナイを構える楓に対し「どうやら勘違いされているようだ……」とようやく気付いたヒメは若干困ったように一言、

 

「どうすれば、危なくないと思ってくれる?」

 

 しかし、その質問の返答はそっけなく、

 

「そうでござるな……とりあえずは」

 

 冷たいものだった。

 

「拙者を無傷でとらえて見せたなら、考えないでもないでござる」

 

 その言葉と共に、楓の体が無数に分かれた!! いや、無数に出現した!!

 

「「っ!?」」

 

 忍術の固有技能……影分身。その威容に驚愕のあまり氷結したヒメとコタローに、楓はいつものようなのんびりとした笑みに戻りながら名乗りを上げる。

 

「甲賀中忍・長瀬楓……足止めと、試し。時間が惜しいので両方同時にやるでござるよ。まとめてかかってくるがいい」

 

 今ここに、バトルジャンキーと暗殺者……そして忍者のバトルロイヤルが幕を開ける。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 巨大な湖の湖上にて、明らかに奉られていることが分かる注連縄がまかれた巨岩につながる桟橋の上に立ちながら、フェイトと千草はこの地に眠るある鬼神の封印を解くための儀式を始めていた。

 

 朗々と響きわたる千草の祝詞。それに合わせるように木乃香の体から次々と引き出される魔力が辺りを照らしだし、どこか神聖な雰囲気をその場に満たしていた。

 

 さて……日本最大の鬼神とされるリョウメンスクナノカミ。その力は一体どの程度のものか?

 

 フェイトは自分のマスターに出された指令の遂行具合をまとめながら、小さく嘆息をもらした。

 

英雄の息子ネギの実力は大体見れた。あの年にしてはかなりの使い手だが、脅威を覚える程度のものではない。あれは放置しておいても自分たちの計画を阻止することはできないだろう。あとは、スクナの実力を見て使えそうなら奪い取るだけ……。使えないなら使えないで、墓所につながる世界樹を擁する麻帆良に大打撃を与え、計画に割り込みされる可能性を少しでも防げるはずだ。

 

 計算高い打算が脳内を飛び回る中、フェイトは自然体にしか見えないリラックスした体勢で千草が行っている儀式をぼんやりと眺めていた。

 

 しかし、

 

「ここは神聖な場だよ? 不意打ちというのは少々無粋じゃないかな?」

 

「「!?」」

 

 ひどく落ち着いた声音とともに、フェイトは突然自分が立っていた桟橋をふみならした。 いや、そのような生易しい光景ではない。フェイトはたったそれだけの行動で、数百人の人間は乗ることができる桟橋を踏み抜いたのだ。

 

 飛び散る木片はまるで散弾のような速度と殺傷能力を持ったまま桟橋の下へと飛来。そこに隠れるように、杖に乗り超低空飛行で飛行していたネギを容赦なく打ちすえかける!

 

「風花・風障壁!!」

 

 しかし、ネギもその程度の予測は働かせていたのか、自分の前方にトラックの衝突すらはじき返す強力な障壁を展開。木片の散弾をはじき返した後、フェイトが踏み砕いたことにより空いてしまった、桟橋の大きな穴から杖に乗ったまま飛び出した。

 

「桟橋の陰に隠れて奇襲をかけようというのはいい判断だったよ、ネギ・スプリングフィールド。だが、そういった行動は敵の索敵能力がどの程度なのかを知ってからやるべきだった……」

 

 だからそんな失敗を犯す。言外にそう言い捨て、フェイトは無詠唱で冥府の石柱を呼び出し天高く舞い上がったネギに狙いを定める。だが、

 

「残念だったねフェイト!!」

 

 本命は僕じゃない!! ネギがそういうと同時に放った一枚のカードにフェイトは目を見開いた!!

 

「召喚! 神楽坂明日菜!!」

 

「でりゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 少女らしくない勇ましい歓声を上げながら、カードを中心に展開した魔法陣から飛び出す一人の少女。その手にはハマノツルギ。切りつけた魔法を一切合財無効化する、退魔の剣。それを構えた少女は、一直線に儀式場に向かって落下していく。

 

 儀式そのものを破壊して中断させるつもりか!? やってくれた、と内心で舌打ち交じりに賞賛を送りながらフェイトは即座に動く!

 

「っ! あんた……やっぱり」

 

「本気を出していなかったんだと? そんなの、当り前だろう」

 

 ネギや自分よりも鋭く、そして精密な瞬動で目の前に出現するフェイトに明日菜は悔しさ交じりの視線を向けるがフェイトはいたって平然とした顔で、その体を殴りつけた!

 

「がっ!!」

 

 砲弾のように吹き飛び桟橋にたたきつけられる明日菜。それを見たネギはあわてて呪文を唱え、桟橋に手をたたきつけた。

 

「風花旋風・風障壁!!」

 

 それと同時に突発的に発生する巨大竜巻の目くらまし。障壁というよりこちらの視界を奪って体勢を立て直すのが目的といったところか?

 

 幼いなら幼いなりに、足りない戦力を補うためのこざかしい戦い。フェイトはそんな戦い方をするネギにほんの少しだけ感心した感情を向けながら、

 

石化の邪眼(カコン・オンマ・ペトローセオース)

 

 その戦略を容赦ない力技でたたきつぶした!!

 

 閃く閃光が風を吹き飛ばし、桟橋を石化粉砕。すさまじい轟音を立てながらネギたちがいると思われる場所を大きくなぎ払う。

 

「……」

 

 風の代わりに今度は、自分が石化した桟橋が落ちる水しぶきで視界を奪われてしまったフェイト。しまった、やりすぎた……。と、内心ほんの少しだけ自分の自重のなさを責めながら、のんびりとネギたちが出てくるのを待つことにしようと、フェイトが桟橋の腰をおろしかけた時だった!!

 

「っ!!」

 

「?」

 

 背後から上がる千草の声にならない怒声。それに、思わず振り返ったフェイトは今度こそ目を大きく見開いた!

 

「返してもらいます!!」

 

「……せっちゃん?」

 

 そこには、まるで天使のような純白の羽を広げ、近衛木乃香を儀式場から引き剥がした桜崎刹那の姿がそこにあったからだ。

 

「くそっ……」

 

 珍しく表情を動かし刹那に向かってあわてて魔法を発動させようとするフェイト。しかし、

 

「させないよ」

 

「っ!!」

 

 自身の背中に向かって放たれた雷の暴風を即座に感知した彼は、その射線上に千草がいるのも確認し、舌打ち交じりに詠唱していた魔法を破棄。無詠唱で強化された障壁を展開しその攻撃を受け止める。

 

「ネギ・スプリングフィールドっ!!」

 

「引っかかったね……」

 

 右腕に閃光がかすったのか、わずかに手を石化させながらも、不敵な笑みを浮かべたネギが明日菜に肩を貸されながらフェイトに向かって対峙した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 時は数分前にさかのぼり……。

 

「どうしましょう……儀式始まっちゃっています……」

 

「それもかなり進んでいます。もう一刻の猶予もないです」

 

 湖の様子を、湾岸の茂みで観察していたネギパーティーの面々は、自分たちが予想していたよりも進んでしまっていた事態に焦りを覚えながらも、このまま戦ったとしても勝てないということはきちんと理解していたのか、ほんの少しの小休止を兼ねた作戦会議へと入った。

 

「戦ったらまず勝てません。これはもう自明の理ですよね?」

 

「だとしたら木乃香嬢ちゃんの奪還が最優先だが、ただでさえ格上の相手を出し抜くのは至難の業だ」

 

「……どちらにしても、僕たちはただの凡才だ。考えつける策には限度がある」

 

 初めからネギが告げたあきらめ宣言に、明日菜と刹那は目をむいた。

 

「ちょ、何いってんのよネギ!? あんただけが頼りなんだからね!! 私たち成績あんまりよくないんだから!!」

 

「そうですよネギ先生!! 私は剣術ばっかりであんまり勉強していないし、明日菜さんに至っては最底辺のバカレンジャーじゃないですか!!」

 

「うん。そんな誇らしげに言われても困りますよ二人とも? 学校帰ったら補修開きますからきっちり参加するように」

 

 なぜ!? と言わんばかりに愕然とした表情を浮かべる二人に嘆息をもらした後、ネギは三本の指を立てて、

 

「ここは古典に頼りましょう。古今東西三段オチはあらゆるものの基本ですから」

 

 そういって、即席で作り上げた策を二人に告げた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「やってくれたね……。自分自身という大切なユニットをはじめに不意打ちさせることによって、不意打ちという要素を考えさせないようにする。僕たちはしっかりとした戦力を足止めにつかったから、まさか全員で来ているとは思っていないことも逆手に取ったね。次に魔法無効化の剣を持つ彼女を不意打ち用のコマとしてさらに切り捨てる。そうすることによって、不意打ちで使える駒は彼女一つだと錯覚させ、さらにさっきの切り札発言をすることによって僕たちにその一撃が渾身の攻撃だと誤認させた。そいうすることによって僕の警備が緩んだすきに……」

 

「刹那さんに木乃香さんの奪還を頼んだんですよ……。どういうわけか君は、僕に対してかなりの警戒心を抱いているみたいだったからね」

 

 あれだけの戦力を呼び出したのにまだ鬼を追加させたり、足止め役として月詠やコタローを各地に配置したフェイトの態度をネギは不思議に思っていた。自分で言うのもなんだが、自分達はまだまだ未熟だ。今のフェイトならまず間違いなく片手であしらう程度のことはしてくるだろう。

 

 だが、フェイトはあくまで過剰なほどの防衛網をしき、ネギたちの来訪を警戒した。まるで、それだけの戦力差を覆す何かを、ネギたちのだれかが持っていると警戒しているかのように。

 

「実際誰を警戒しているのかはかけだったんだけど、この中で一番ネームバリューが大きいのは《英雄の息子》である僕だ。だから初めの囮は僕にして、一気に警戒度を釣り上げたんだけど……どうやら正解だったみたいだね」

 

 不敵に笑いながら、そう告げるネギを見てフェイトはネギの評価を改める。

 

 父親のようなめちゃくちゃさはないが……これはこれで十分脅威となりえる存在だと。

 

「それにしても……桜崎さんにあんなかくし芸があったなんて」

 

「明日菜さん……せめて隠し玉っていってください」

 

「あの羽いつモフモフできるのかしら?」

 

「明日菜さん……モフモフの前の僕がガチガチになりそうです」

 

「え……ガチムチ?」

 

「……………………泣いていいですか?」

 

 一瞬自分の感覚が狂ったかと思ってしまうほど情けないやりとりをしているが、とにかく彼は脅威になるとフェイトは思った。

 

「認識を改めようネギ・スプリングフィールド。君はれっきとした脅威だ……だからここで」

 

 完全にたたきつぶす。

 

 フェイトがそう言って魔力をためるのを見て、ネギは不敵な笑みのまま。

 

「だが断る!」

 

 それだけ言い放つと、ネギはすでに魔力を装填したお守りをフェイトに向かって投げつける。

 

「あいにくと……勝てない勝負は命がかかっていない時だけにやれって、師匠に言われているんだ!!」

 

 そして、お守りは歌いだした。ネギが知る中で、この少年に対抗できる知り合いを呼び出すために!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

ザ・外道!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「僕だけ手を抜きすぎじゃないか、これ?」

 

 そして、お守りが作り出した召喚陣から出てきた人物は苛立ちあふれる声とともに投げ捨てられたお守りを踏み砕き(結構貴重なものではなかったのか?)じろりとネギを睨みつけた。

 

「い、犬神さん……」

 

 感極まったネギが、その人物の名前を呼びながら涙を流した。そんなネギを見て人物は、

 

「ああ……野菜。一ついいか?」

 

「は、はい!!」

 

 優しげな声をかけネギに近づき、

 

「よくも僕のハワイ旅行を邪魔してくれたな?」

 

「あれ!? この状況での第一声がそれ!? って、へぶっ!?」

 

 とんでもない気が込められた右ストレートによって、ネギの顔面を打ち抜いた!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 いきなり助っ人にぶんなぐられて、顔面を大きく陥没させながら吹き飛ぶネギを見てフェイトは思わず氷結する。

 

 え? と発言するような形で中途半端に開いた口が何とも間抜けな雰囲気を醸し出していた。

 

「……ネギぃいいいいいいいいいいいい!?」

 

 あわてて吹っ飛んだネギのもとへ走っていく明日菜。そして、ぐったりと倒れ伏すネギの体を抱え上げた後、

 

「だめだわ!?」

 

「一撃で!?」

 

 文字通り白目をむいて気絶しているネギを見て、そう絶叫を上げた。意味不明すぎる事態に思わず声を上げるフェイト。そんな彼らの寸劇を無視しながら犬神はマイペースに語りを始める。

 

「まったく貴様というやつは……。飼い犬に手をかまれるとはまさにこのことだな。いつも仕事ばかりしていたからたまには事務所全員の休暇も兼ねた長期の学校行事に参加するのも悪くないとふと思ってしまい、久しぶりに年相応に楽しんでいた僕の青春を叩き潰すのに足る正当な理由があったと?」

 

「ネギが死んだわ!!」

 

 そんな犬神の質問にネギが答えられないと告げる明日菜に対し、犬神は『うむ』と一つ頷いた後、

 

「この人でなし!!」

 

「自分で言うのか!?」

 

「馬鹿者。外国人の貴様にはわからんかもしれんが、これは日本の様式美だ。実際ネギが死んだわけではない」

 

 そういう犬神の背後では、必死の形相をした明日菜がネギに対して人工呼吸をしていたりするのだが、

 

「……」

 

 フェイトの必死の訴えがこもった視線を真正面から受け止めながら、犬神はその視線を封殺した。この男、確信犯だ。

 

「さて、見たところ貴様がこの状況にネギたちを追い込んだ主犯に見えるのだが……」

 

 犬神はそれだけ言うとフェイトをジロッと睨み付け、

 

「ふむ。なるほど……確かにこれはネギの手に余るか?」

 

 ある程度フェイトの実力を見破った。その言葉に表情の変化が乏しかったフェイトの顔が驚きの顔に代わる。

 

 まさか底が見破られたと思ってはいないが、少なくとも本気を出していない……また、本気を出せばネギを圧倒する程度の実力があることは見破られている。

 

 犬神の冷徹な態度のほんの少し気圧されながら、フェイトはコブシを構え体にインストールされている拳法の構えをとる。

 

「犬神ゲル……だったかな? 確か僕の調べでは現在ハワイに行っている、外道少年探偵で、金がかかっていないと動かないと聞いてるんだけど?」

 

「その金がかかっているからこうして動いている。クライアントは麻帆良の学園長で、僕は契約期間中に起るそこの野菜の脅威の排除を依頼されている。当然、今回のことも見過ごすことはできない」

 

 面倒なカードを切ってくれるじゃないか、麻帆良。

 

 遥か東で拠点を構えるタヌキジジイの写真を思い出しながら、フェイトは内心で舌打ちを漏らした。

 

「ならば引いてはくれないかな? 君が麻帆良に出された報酬の三倍……いや、四倍だそう」

 

「ちょ!?」

 

 背後で人工呼吸していた明日菜が思わず恐怖にひきつった声を上げる。大方ゲルが平然とその話に乗っかると思ったのだろう。

 

 ゲルは殺気がこもったどす黒い視線を明日菜に向かって飛ばした後(明日菜は冷や汗をかきながらネギの人工呼吸に戻った)、鼻を鳴らしてその話を蹴り飛ばす。

 

「僕が麻帆良から払われる予定の報酬は3000万だ。早々ホイホイと出せるわけがない……」

 

「手持ちは12000万だ。ギリギリだがかまわないかい?」

 

「わが命に代えても、クライアント」

 

「やっぱ裏切るんじゃないのぉおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 明日菜の魂のツッコミ。しかしゲルには届かない。彼の両目は完全に《¥》の形になっており、文字通り金に目が眩んでしまっていた。

 

 閑話休題(バカな冗談は置いといて)

 

「とまぁ、そんな冗談はさておいて……」

 

「ホントに冗談なんでしょうね!?」

 

「当たり前だ。こんなところで野菜を売ったら麻帆良で依頼が入らなくなるだろう」

 

「ネギに対する情とかではないのは分かっていたけど、せめて契約は破らないのがプロフェッショナルだとか言ってよ!?」

 

 真剣とかいてマジと読む。そんな目をした犬神がさらりと告げた裏切らない理由に、明日菜は思わず怒声を上げる。

 

「ふむ。ところでうちの助手はどうした? こんなことになっているのに来ていないとは職務怠慢だな。いろいろとオハナシしないといけないことがあるからつれてこい」

 

 そんないつもの空気へと周囲が変わり始めたときだった。ゲルがふとした様子で思い出した風に告げたその質問に、空気が一気に凍りついた。

 

「……どうした?」

 

 不思議そうに首をかしげる犬神。明日菜は似合わない動作をする犬神からダラダラと冷や汗を流しながら目をそらす。

 

 犬神は次に刹那へと視線を戻すが、こちらも同じように目をそらした。どうでもいいがスカートで空を飛ぶのはどうなのだろう? と、刹那痴女説を心の片隅の止めながらゲルは再びフェイトへと視線を戻し、

 

「あぁ。彼女なら申し訳ないけど、石化魔法で行動不能になってもらったよ」

 

 ほかのメンバーが「うわっ……こいつ言いやがった!?」と、ある意味度胸があるフェイトの行動を驚きと恐怖と共に、ほんの少しの関心を込めた吐息でほめたたえる中、

 

「………………………」

 

 犬神だけは……先ほどのふざけきった殺気とはまるで違う、鬼気と言っていいほどの凄絶な殺気をフェイトにぶつけた。

 

「……あぁ、そうか。よくわかった」

 

 ネギへの人工呼吸をつづけて、何とか呼吸を再開させた明日菜の肌が泡立つ。刹那の腕に抱かれた木乃香は本能的に強く刹那を抱きついた。直感的に……ここから先はかなり凄惨な戦いになると悟ったのだろう。

 

「神楽坂……桜咲。その役立たず二人を連れてさっさと逃げろ。仕事の邪魔だ」

 

 そして犬神はそれだけ告げると、全身の気を高速回転させ瞬く間に戦闘態勢を整える。

 

「悪いが……お前たちに気を使う戦いができそうにない」

 

 そう言って、ポケットに手を入れながら半身の構えをとる犬神に、事態がようやく呑み込めたフェイトはあわてて転送のゲートを千草の足元に出現させる。

 

「っ!? なんや新入り? いったいどうなってるんや!?」

 

「千草さん……悪いけどここは逃げてください」

 

 あなたをかばいながら彼を抑えきる自信がない。フェイトが言外にそう告げるのを聞き、千草は驚愕に目を見開き……水のゲートの中へと消える。

 

「……理由を聞かせてもらおうか?」

 

 そして、それを見届けたフェイトはそれだけ言うと、冷や汗を流しながら犬神へと振り返り質問をぶつけた。

 

 彼の背後では翼を広げた刹那がネギや明日菜を回収し、はるか彼方へと飛び去って行こうとしているが、今のフェイトにそれを止められる余裕はない。

 

 目の前に、信じられないほど凶悪な殺気を垂れ流す敵が立っているからだ。

 

「理由? 決まっているだろう」

 

 犬神はそんなフェイトに簡潔な事実を告げる。

 

安川(あれ)は僕の所有物だ。生涯最低賃金で働かせる代わりに、生涯守り通すと命にかけて誓った」

 

 それは、自分の命を救ってくれた安川父との契約。安川マリーの身の安全を一生涯守り続けるという、命を懸けたたがわぬ契約。

 

 犬神ゲルは外道である。だが、それ以前に彼はプロフェッショナルでもあった。

 

「受けた仕事は決して失敗しないのが僕の流儀だ。話を聞くにおそらく永久石化ではないのだろうが……だからと言って」

 

 そこで犬神は瞬動を使い、不意打ち気味にフェイトの前へと出現した!!

 

「っ!!」

 

 見えないほどの速度でポケットから打ち出される両のコブシ。フェイトはそれを大きく身をのけぞらせることで何とかかわすが、それが生み出した光景に思わず顔をひきつらせた。

 

 ゴッ!!

 

そんな形容しがたい轟音と共に、フェイトの背後にあった湖が……裂けたのだ。さながら十戒が如く巨大な二つの滝となった湖。その光景はどこかで見たことがあった……。

 

 あれはたしか、自分の主が見せてくれた先の大戦での光景。一人の英雄が使いこなし、たった一人で軍勢を蹂躙した究極武術。

 

「豪殺・居合拳!!」

 

「僕の所有物(モノ)に触れた罪を……ただで見逃すわけにはいかない」

 

 それだけ告げると犬神は大きく身をのけぞらせて回避をおこなったために姿勢が崩れているフェイトに向かって、気によって信じられない威力まで昇華された蹴撃を叩き込む!!

 

「がはっ!?」

 

 人間の攻撃とは思えない、砲撃の着弾でもうけたのではないかと錯覚してしまう衝撃と轟音。それが自身の体から発せられたとフェイトが認識した瞬間、彼の体は天高く打ち上げられていた。

 

「僕の機嫌を損ねるバカは……」

 

 犬神は自分が引き起こした信じられない光景を、鼻を鳴らして淡白に見詰めた後、

 

「僕に蹴られて死ぬがいい」

 

 宙をうかぶフェイトに向かって気力を使った高速跳躍を行い、追い打ちをかける!!

 

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