とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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21話・終わる騒動

 ゴッ!!

 

 あれからずいぶんと離れたというのにいまだに巨大な激戦の音が響き渡ってくる湖を振り返り、翼を広げた刹那は思わず冷や汗を流した。

 

「まだ決着がついていないって……あの白い少年、犬神さんと戦りあえているのか!?」

 

 信じられない実力だった。下手をすれば大戦の英雄たちに匹敵するほどの実力を持つ(後で聞いたが下手をしなくても持っていたらしい……)犬神と拮抗することができるほどの実力。正直あのまま犬神を呼ばないまま戦っていたら勝てたかどうか首をかしげざる得ないと刹那は思う。

 

「刹那さん……大丈夫? 重くない?」

 

「な、なんともないですよ~」

 

「せっちゃん……顔ひきつってる」

 

 そして、自分の両足に石になりかけているネギを抱えてつかまっている明日菜の質問に刹那はさらに顔をひきつらせた。正直に言うのは失礼なので控えたが……かなり重い。

 

 別に明日菜が重いとかそういうわけではなく、彼女が抱えているネギが重たくなっていっているのだ。それはそうだろ。ネギの体は人体から石になりつつある。重くなるのは当たり前。そこに人間二人を抱えて、なれない翼での飛行……。明らかに刹那の積載量を超えていた。だが弱音を吐くわけにもいかなかった。一刻も早くあの戦場を離れ木乃香を安全な場所に、ネギを治療できる場所に連れていくためには自分の翼による飛行が必要不可欠なのだから。

 

リアル子泣き爺を背負った気分を味わいながら、刹那はやせ我慢交じりに笑みを浮かべて。

 

「大丈夫ですよお嬢様……。この呪われた翼で誰かを救うことができるのなら……」

 

 刹那がそう言った時だった。

 

「せっちゃんのあほ!!」

 

「え? お、お嬢様!?」

 

 突然の木乃香による罵倒を受け刹那は目をむき慌てふためいた。

 

 な、なんか嫌われるこというてもうた!? と、混乱のあまり素の口調に戻って内心慌てふためく刹那。そんな刹那に対して、木乃香は目に強い光を宿し刹那のほほを両手で挟んだ。

 

「なんでそんなこと言うんよ。私はせっちゃんのこと大好きや。やから、そんな自分を不幸にするようなことは言わんとってぇや!」

 

 刹那は、木乃香の怒りの原因がわかりほんの少し安堵の息をもらす。しかし、いくら木乃香の言葉であっても幼少時代に刻まれたトラウマはそう簡単に氷解するものでもなく、彼女は苦笑交じりにあきらめの言葉をもらした。

 

「で、でもお嬢様……私の翼は呪われた翼です。白い翼は不幸を呼ぶと……だから私は故郷にいられなくなって」

 

「せっちゃん……」

 

 諦観の笑みを浮かべる刹那に、木乃香はさらに言葉を重ねた。

 

「そんなことあらへんよ。その翼……白くてきれいで、まるで天子様みたいで――私はせっちゃんのこと、もっと好きになったよ?」

 

 木乃香のその言葉に、刹那は大きく目を見開き……先ほど言われた言葉が信じられずさらに木乃香の瞳を見つめ、

 

「ん?」

 

 その瞳に一点の曇りも偽装もないことに気付いた後、

 

「このちゃん……」

 

「なに? せっちゃん?」

 

「……………………」

 

 のどを詰まらせながら、声を震わせながら、

 

「ありがとう……。私のことを好きでいてくれて」

 

「うん。せっちゃんもありがとうな? 私のことを助けてくれて……」

 

 涙を流しながら、ようやく今までのお礼を言うことに成功したのだった……。

 

 

 

 

ちなみに、

 

「あの……わたしもいるんだけど? って聞いてないか」

 

「あの……僕も死にかけているんですけど?」

 

「あれ? ネギ起きたの?」

 

「はい……」

 

「体大丈夫? どんどん石になっていっているけど」

 

「むしろ犬神さんに殴られたときのほうが痛いです……」

 

「うん。まぁ、それは仕方ないからとりあえず置いておくとして……」

 

「そうですね、置いておくとして……」

 

「「…………………………よそでやって?」」

 

 先ほどのほのぼのとした空気とは若干違う桃色の空気を放ち始めた頭上の二人に、せっかく仲直りしたんだから我慢して見守ってやろうと二人は耐えたが、やっぱりできずに思わずそうツッコミを入れた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「甲賀流……多重影分身からの朧十字!!」

 

「八卦・坤・開。帝国式歩法術・幻影身からの――巽・開。帝国式攻撃気弾《薄刃蜉蝣(ウスバカゲロウ)》」

 

「くっ……狗神っ!!」

 

 四人の楓の分身による四方向同時攻撃を宙に飛ぶことで何とかかわした後、コタローと近接戦闘を繰り広げていたはずのヒメがまるで幻のように消え去る。

 

コタローがあわててあたりを見廻すと、ヒメの体はいつコタローの真後ろ20メートルほどの場所に再出現しており勢いよく手をふるっていた。コタローはそこから放たれる刃物のように鋭く、薄くとがれ、暗殺技術らしく無音で飛んでくる二枚の気刃かろうじて気づくことができ、狗神で何とか粉砕する。というか、

 

「おぃいいいいいいいいいいい!? バトルロイヤルちゃうかったんかい!? お前ら思いっきり俺一人狙って来とるやろ!?」

 

 そうなのだ……。戦闘が始まってから数分がたつが、ヒメと楓はいまだに戦うそぶりを見せずただひたすらコタローだけを狙い撃ちにしてきていた。はじめのうちは「狙いがそろっただけかいな?」と楽観的に考えていたコタローだったが、さすがにここまで来ると疑念の声を上げざる得ない。

 

「え? 何を言っているでござるか?」

 

「バトルロイヤルでは複数人で組んで強い相手一人をたたくのが鉄則。だから敵だろうが一時的に手を組む必要がある」

 

「いやいやいやいやいや!? 自分で言うんもあれやけど、お前ら俺より強いやろうがぁああああああああああ! 一人でも十分勝てるやろ!?」

 

 そう。原作で圧勝した楓は言うに及ばず、ヒメに至っては初めのあいさつ代わりの攻撃を回避することすらコタローにとっては命がけだった。

 

 そんな二人を相手取って、たった一人で立ち回らないといけないとか何の悪い冗談だとコタローは思う。

 

「ハハハっ!! コタロー殿。バトルロイヤルでは弱者は真っ先に狩られるものでござる」

 

「たまたま狙いが一緒なだけ。結託しているとか失礼なことを言うのはやめてほしい……」

 

「さっきと言ってることが全然ちゃ……うぶっ!?」

 

 というわけで、万に一つの奇跡も起こらないままコタローはあっさりと二人の波状攻撃の前に散り、きれいに弧を描きながら吹っ飛んだあと地面にバタリ。返事がないただの屍となってしまった……。

 

「ふっ……またつまらぬ物を倒してしまった」

 

「必殺完了」

 

 実は仲いいんじゃないだろうか? と錯覚してしまうほど見事な決めポーズをとる二人。だが、やはり二人は敵だったようで……。

 

「では、決着をつけるとするでござる」

 

「望むところ」

 

 ひとしきりポーズをとって満足した二人は、即座に顔を引き締め互いに相対した。

 

 先ほどのコタロー戦とは一線を画した、濃密な殺気と闘気がぶつかり合う。

 

「……無傷で拙者をとらえる気はござらんな?」

 

「仕方がない……。あなたは強すぎる」

 

「そういった考えが危険だからネギ坊主の隣にはいてほしくないのでござるよ暗殺者」

 

 人を傷つけることを、殺すことを、仕方ないと割り切り平然と行う人種。忍も人のことを言えた義理ではない職業だが、今は現代。殺しがものをいう時代は過ぎ去ったはずだ……。だったら、

 

「ここで更生させてやるでござる暗殺者。全力をもってかかってくるでござる」

 

「もとよりそのつもり」

 

 互いの体に気を満たし、ヒメは無音かつ透明な気を、楓は鋭く変幻自在な気を練り上げあたりに放出する。

 

 決戦の準備はできた。後はどちらかが初めの動作をおこなうことで、勝負の火ぶたはあっさりと落とされる。それを理解している二人は、慎重に体重をベストなものへと変更しながらジリジリと気をぶつけ合い、

 

 

 

 

 ヒメが数ミリ足をずらしわずかな地面の擦過音を響かせた瞬間!!

 

 

「ひめちゃ~ん。無事~」

 

「よゆ~。楓お姉ちゃんに手伝ってもらった」

 

「馬鹿レッドではござらんか? 無事でござったか?」

 

「え!? なんで楓ちゃんいるのよ!?」

 

 空から刹那たちが飛来してくるのを確認し、まるで先ほどまでの空気がウソだったかのように殺気と闘気を霧散させた。

 

 さすがにネギたちの目の前で、裏に近い戦いを見せる気は二人にはなかった。人を知られないうちに殺すことに特化した、現代暗殺者と日本の古流暗殺者の戦い。その戦いは、一般人に見せるには余りに凄惨すぎる。

 

 そのため、彼女たちの決着は結局次回に持ち越しとなる。それがどんな問題を麻帆良に持ち込むことになるのかは……彼女たちはまだ知らなかった。

 

 ただ一つ言えることは、

 

「ところで……コタローどうしたの? なんかリンチ受けたみたいにぐったりしているけど」

 

「「さぁ?」」

 

 今回一番不幸だったのは、コタローだったということだろう。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 無数の気弾と飛ぶ剣戟が宙を舞い、高速で衝突を繰り返す二人。

 

 二人の顔には歓喜の笑みが張り付いており、凶悪な殺気と純粋な闘気を辺り一帯にばらまきながら、殺傷性の高い輪舞は続く。

 

「あいや~。あれすごいアルな~。鍛えているつもりだったけど飛んだ勘違いだったアル」

 

 鬼の掃討をあらかた終えた龍宮と古菲は、味方であるはずの鬼すら巻き込む苛烈な戦闘の観戦にまわっていた。

 

「いやいや、あれランクになられるとさすがの私もてこずるからやめてほしいんだが……。というかあの月詠という少女はよくⅥの動きについて言ってるよ、うん」

 

「マナはあの二人とやりあうなら勝てるアルか?」

 

「厳しいな……。いろいろ小細工して特殊な弾丸があって五分五分ってところだろうか?」

 

 それほどまでに激突している二人の近接戦はランクが高かった。苦手な距離のないガンナーを自負する龍宮ではあったが、さすがにあそこまで近接戦闘に特化した相手と戦うとなるとかなりの苦戦を強いられるだろう。

 

「だが、もうそろそろ決着だな」

 

「ん? そうアルか? いい勝負しているように見えるが……」

 

「確かに技術的な実力では拮抗しているが……」

 

 武器が悪かったな……。龍宮がそう漏らした瞬間に、シックスの拳が月詠の剣を殴り折った。

 

「あやや~。案外あっけない結末どしたな~」

 

「そうやな……。次はちゃんとした剣で戦えることを望むで、月詠ちゃん」

 

「はい……」

 

 ごちそうさまでした。満足げな笑みを浮かべ、とろけるような微笑みを浮かべて礼をした月詠の体に、Ⅵの巨大な気弾が叩き込まれる。

 

「Ⅵ――インパクトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 巨大な光柱と見まがわんばかりの気弾。相手が敗北を認めたからといって容赦はしない。敵である限り確実につぶす。それがⅥの戦い方であり信念だ。月詠もそれを理解しているだろう。だから彼女は何も言わず、その気弾を無防備に受け地面にたたきつけられた。

 

 激震と爆発。気弾はそれをとんでもない規模で発生させ、観戦していた龍宮と古菲は思わず自分の顔をかばうように腕を突き出してしまう。

 

 そして衝撃が収まったころには、

 

「はぁ~さいこうや~」

 

 とろけきった顔でボロボロになった月詠が気絶していた。戦闘のせいで服はボロボロになっており肌がかなりの面積露出している……そんな状態でそんな顔をしているとなると、その……。

 

「エロいな」

 

「エロいあるな~」

 

 同性から見てもそう感じられたのか、二人は思わず顔を赤らめて月詠から目をそらした。唯一の救いは彼女の体があまり起伏に富んでいないことなのだろうが、そういう趣向の方から見れば垂涎の光景となることだろう。

 

「いや~。久しぶりに思いっきり戦ったわ~。まぁ、さすがに犬神君と比べたら……って、なんや、その目は?」

 

 とりあえず二人は空から降りてきたスパルタンⅥに向かって冷たい視線を送り、

 

「この女の敵」

 

「ど変態」

 

「ちょ、せっかく弟子のために頑張った師匠に向かって言うセリフがそれかいな!?」

 

 抗議の声を上げるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

石化の邪眼(カコン・オンマ・ペトローセオース)!!」

 

「ふん……」

 

 そんな風に各所で決着がついたころ、湖に残った最強二人はいまだに激突を続けていた。

 

 押されているのはフェイト。曼荼羅状に配置された魔法障壁によって通常の魔導師とは比べ物にならないほどの防御力を有している彼だったが、犬神の攻撃はそんな障壁など当然と言わんばかりにぶち抜きかれに直接ダメージを与えてくる。

 

 そのため、フェイトは現在ずいぶんとダメージを負っていた。おまけにその機動速度は豪気功でも使っているのか、信じられないくらい鋭く早く、フェイトが放つ攻撃をやすやすとかわした。

 

 豪瞬動。マリーが使った豪気功の反発力を使い瞬動以上の速さを出す高速移動術。

 

 マリーはいまだに使いなれておらずその加速に振り回されたが犬神は違う。かれは、豪瞬動を見事に使いこなし、入りも抜きもフェイトにすら悟らせない安川父しかできなかった完全なそれを披露していた。

 

 その光景を見たフェイトは思わず舌打ちを漏らす。安川が言っていた厄介な人間というのはこいつか……と。

 

 これだったらあの金髪の少女に危害を与えなかったほうがまだましだった、と自分の失策を悔やみながら、今更そんな事を言っても仕方がないと分かっている彼は、犬神が攻撃をかわした際の隙を突き、一気の天へと駆け上がる。

 

「逃がすと思って……」

 

「逃げるわけじゃないさ」

 

 その行為を見てフェイトが逃げを打ったともったのか、犬神は拳に気力をため気弾放出の用意をとるが、フェイトは突然宙で止まりクルリと犬神のほうへと向きなおった。

 

「ただ、魔法使いはやはり遠距離で戦うのが本領だからね」

 

 犬神がその言葉にピクリと眉を動かし、豪瞬動を持って加速。足に気力の車輪を顕現させフェイトと同じように宙へと舞いあがろうとする。だが、

 

「遅いね」

 

 冥府の石柱(ホ・モノリートス・キオーン・トゥ・ハイドゥ)!!

 

 フェイトが発動させた無詠唱の魔法が、空間をひずませ巨大な六角形の石柱を無数に出現させ、湖に向かって降り注がせる。

 

「さぁ、これをさばけるかな? 犬神ゲル」

 

 まるでどこかの悪役のようなセリフを吐くフェイトを、犬神はじっと見つめた後。

 

「ふん。なんだその程度か……」

 

「っ!!」

 

 フェイトの魔法を鼻で笑い、足に出現させた気力の車輪をかき消した。

 

 そして湖の上に立った犬神は初めに襲いかかってきた石柱の一本を悠然とよけると、

 

「ふっ」

 

 小さく鋭い呼吸音とともに、湖につきたち直立した石柱を駆け上がり始めた!

 

「っ、そうくるか……だがっ!!」

 

 石柱の表面を爆走し、天へと座する自分へと進撃を開始した犬神を見て、フェイトは驚きの声を上げながらも冷静に、出現したほかの石柱たちへと指示を出す。

 

 それにって針の穴を通すかのように犬神を狙う軌道へと落下の方向を変える石柱。しかし、犬神はそれをものともせず、次々とよけてはその上に乗り爆走を続けた。

 

 二本目は上体をのけぞらして、眼前を通り過ぎ去ったあとにその底へと飛び移りさらなる跳躍。

 

 三本目と四本目はほぼ犬神の進行方向をふさぐ形で襲いかかってきたが、気によって強化された拳を振るい瞬時に粉砕。それによってできた破片を足場に軽やかに宙を登っていく。

 

 最後の五本目は、破片を足場に飛び回る犬神の体をとらえきれずあっさり外れただの足場として犬神に利用される情けない結果となって終わった。

 

 まるで地上にいるかのように、相手の攻撃すら足場にして優雅に宙を舞う犬神。その姿にフェイトは舌を巻きながら、

 

「だがこれで最後だ」

 

 五本目の石柱の頂点へとたどり着いた犬神に、

 

千刃黒耀剣(ミッレ・グラディー・オブシディアーニー)

 

 大質量の黒剣の弾幕を放出した。

 

「終わりだ、犬神ゲル……その狭い足場で、これをさばききることはできない」

 

 もしできるのなら……君の実力は英雄クラスだ。

 

 フェイトが内心でそう告げた瞬間。

 

「ふぅー」

 

 犬神は黙って自分の拳をズボンのポケットへと収め、そして、

 

「豪気功・気弾・居合拳複合技……」

 

 不吉な言葉を小さく漏らし、

 

「七条星槍・豪殺拳」

 

 そっけなく言葉が吐かれると同時に、巨大な七つの閃光が一つへと束ねられ巨大な光柱となり漆黒の剣へと襲いかかった。

 

 居合拳によって加速され、豪気功によって鋼のごとく硬度にいたったが気弾。その威力はまるで隕石がごとく、漆黒の剣戟たちを瞬く間に蹂躙していく。

 

「なっ!?」

 

 唖然とするフェイトの頬をその気弾の熱量がかすめる。ジュッ、という不吉な音を立てた頬にフェイトはあわててその光柱から距離をとり、

 

「……君は化け物か?」

 

 ばらばらと降り注ぐ黒い剣の破片を、いつの間にか気力の車輪を再出させ空を飛びながら、うっとうしそうに打ち払っている犬神を見てそうつぶやく。

 

「化け物? 僕みたいなかわいい少年を捕まえて失礼なことをいう奴だ……」

 

 しかし、犬神はそんな言葉にすらほんの少し不機嫌になっただけのリアクションしか見せず、

 

「僕はただプロフェッショナルだ」

 

 自分がやったことがどれほど常識はずれなことをかをしっかりと認識しながらも、ふてぶてしくそう言い放った。

 

 そんな犬神の態度に、フェイトは苦々しいものを感じながら、

 

「仕方がない……この勝負、君の勝ちであずけよう。君に勝てるような装備も今は持っていないしね」

 

「なにを……」

 

 突然のフェイトの敗北宣言に、犬神は眉をひそめ逃げるつもりかと思い再び拳をポケットに入れる。

 

 技の初速はこの居合拳のほうが早い。フェイトが逃げようとしても必殺の一撃を叩き込む自信が犬神にはあった。

 

 だが、

 

「っ!」

 

 犬神は気づいた、空中で自分が足蹴にした石柱や岩の破片が、無数に湖の中へと飛び散りす凄まじい飛沫を跳ね上げていることに。

 

「まさか」

 

 犬神がある可能性に気づき、保険とばかりに居合拳を放つが、遅い。

 

 跳ね上がった水のしぶきはまるで天へと駆け上る雨のようになりながら、犬神たちへと到達し居合拳の軌道をずらした。それにまぎれてフェイトは水のゲートの魔法を発動。瞬時に転移を行い犬神の視界から消える。

 

『僕の名前はフェイト……覚えておいてくれ犬神ゲル。この借りは必ず返す』

 

 最後のそう言い残し、水が再び落下を開始し犬神の視界から消えた時にはフェイトの姿はそこにはなかった。

 

 犬神はそれを見て周囲にフェイトの魔力がないか探ってみるが、あいにくと発見はできない。犬神はその事実に小さく舌打ちを漏らした後、

 

「mission failed……」

 

 ずいぶんと久しぶりだな……と、苛立たしげにそうつぶやいた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 薄暗い森の中、千草は一人汗をかきながらその中を走っていた。

 

「くそっ! くそっ!! くそっ!!!」

 

 口汚く誰かを罵りながら森の中を走る千草。

 

 成功すると思ってい計画。人格面にやや問題はあったが、頼もしかった仲間たち。それをめちゃくちゃにした学生と+α。いろいろなことが彼女の脳裏をよぎり、彼女の罵声を止めさせようとしない。

 

「ぜったい……絶対あきらめへん! 関東の奴らに、必ず一泡吹かせたるんや!!」

 

「それは少し困りますな」

 

「っ!?」

 

 しかし、千草が決意も新たにそうつぶやいた瞬間、突然背後から声が聞こえてきた。千草が恐る恐る背後を振り向くとそこには、

 

「すこし、眠っていていただきましょう」

 

 特徴的なヒゲが……。

 

 

 

 そこで彼女は意識を失い、目を覚ますと……。

 

「あ、かつ丼食べる?」

 

 見慣れた刑事の顔があった……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「イダダダダダダダ!? ちょ、あすなさんイタイイタイ!!」

 

「文句言わずにさっさと治療受ける!!」

 

 マリーが目を覚ましたのは、戦いが終わってから数時間後のこと。隣の部屋から聞こえてきたネギの悲鳴が原因だった。

 

「いったい……なんや?」

 

 うめき声交じりに体を起こしたマリーは、

 

「…………………………………」

 

 そこで絶対零度の視線を自分に向ける、犬神の姿を発見した。

 

「え?」

 

 なんでここに? なんでいるん? わいはーは? キラウエアは無事? そんな疑問が脳裏をよぎるが現実逃避以外の何物でもない。

 

 当然そんな現実逃避は長くは続かないわけで、

 

「安川……」

 

「はいっ……」

 

 ぞっとするような、冷たい声で犬神が自分の名前を呼ぶのを聞きマリーは号泣しながら正座する。

 

 そこでマリーは犬神から簡潔な今夜の事件の説明を受けた後、

 

「どうやら相当な数のクラスメイトに魔法がばれたようだ……」

 

 説教タイムへと突入した。

 

「そうなん……でもそれは今夜の出来事やし、話聞く限り石化しとった私にはあんまり関係ないかなって……」

 

「ほぅ? つまり貴様は朝倉のことは知らないと?」

 

「……………………………」

 

 いっそひと思いに殺せっ……。マリーはぎりぎりとかかってくる犬神からの重圧に耐えながら、必死に歯をくいしばった。

 

「まったく、情けないにもほどがあるな。仮にも僕の会社の人間がこれほど役立たずな馬鹿だったとは……。助手の助手のほうがまだ活躍したぞ?」

 

「…………………………………」

 

 黙って犬神の小言を耐えるマリー。そんな彼女の姿を見て、犬神は小さくため息をついた後、

 

「はぁ、まぁ……お前がこうして無事に目を覚ましてくれてよかったよ」

 

「え?」

 

 普段の犬神からは考えられないくらいやさしい声音で、マリーにそう言ってくれた。

 

「え、え? 犬神君?」

 

「ん、なんだ?」

 

「もしかして……心配してくれたん?」

 

 マリーの質問に犬神は小さく首を傾げた後、

 

「当り前だろう? 何を言っているのだ貴様は。お前は僕の大切な助手だぞ?」

 

 犬神がそっけなくいてくれた言葉に、マリーはしばらく唖然とした後、

 

「あ、あはははは……。そっか、うん。おおきにな」

 

 小さくはにかみながら、恥ずかしげにほほをかいた。その顔はとてもうれしげで、そしてとても、

 

「それにお前が起きなければいったい誰がこの請求書の金を払うと思っているのだ?」

 

「え?」

 

 と、とても、

 

「せ、請求書って……」

 

「お前の石化治療費に決まっているだろう?」

 

「え、え……関西のほうが持ってくれるんと」

 

「あいにくあちらも財政難らしくてな。仕事を失敗した護衛に出す金はないそうだ……」

 

 と、と、とても……。

 

「とりあえず……三週間飯抜きから始めてみようか、安川」

 

「…………………………………………………………」

 

 とても真っ黒な、絶望に染まっていたという……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 後日談。というか、今回のオチ。

 

 翌朝、マリーの石化は刹那とネギと契約した木乃香のアーティファクトによって治されたと分かったマリーが、怒り狂いながらハリセン片手に犬神を追い回す光景が見られた。

 

 ネギと明日菜は現在詠春に連れられナギの隠れ家へ向かっている。一応そこにはエヴァも同行していた。どうも恋している相手の住処が気になるらしい。

 

 木乃香と刹那は今まで一緒にいられなかった時間を埋めるかのように、関西呪術協会内を一緒に回っている。めったに帰ってこない地元の思い出の場所巡りでもしているのだろう。

 

 ただ、今朝がたになって刹那がネギを教会の裏へと連れていくのを見たマリーは気になってこっそりあとをつけてみたのだが、

 

『ネギ先生……。今回は非常事態でしたから、お嬢様との仮契約を許しましたが、これを機にお嬢様と仲良くなって、男女関係的な意味で仲良くなろうとしているのなら……』

 

 そこで刹那はぞっとするような低い声でネギを、

 

『それ相応の覚悟をしてから望んでくださいね?』

 

 脅していた……。どうやらこの世界の刹那のネギに対する好感度は、木乃香に対して仮契約を許すほど高くなかったようだった……。

 

 そんな風に思い思いの修学旅行最終実を過ごした彼らは、ようやく日常(?)の象徴である彼らのクラスメイトと合流する。

 

 そして、

 

「それではみなさん! お家に帰るまでが修学旅行ですよ!!」

 

「「「「「「「は~い!!」」」」」」」

 

 修学旅行は、終わりを迎えた。

 




これにて修学旅行編終了!

 再び世界はネタへと走る!!
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