とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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閑話・13番疑惑

 ヘルマン襲撃フラグが主人公たちの預かり知らぬところでへし折られてから数日がたった。マリーとネギが学校での用事を終え、犬神アンダーグランドサーチに帰ってきたときのことだ。

 

 犬神アンダーグラウンドサーチに珍しいお客様が来ていた。

 

「あれ? タツミー?」

 

「龍宮さん?」

 

「やぁ、マリー。ネギ先生。お邪魔させてもらっているよ?」

 

 玄関でクラレンスに出迎えられた二人は、いつものように応接室へと一応足を運び、犬神に帰ってきたことを告げようとした。そんな二人を出迎えたのは、いつものように犬神ではなく、褐色の肌を持つ、どう見ても自分と同い年には見えない体をした(スタイル的な意味でも身長的な意味でも)、ニヒルでクールなスナイパー。

 

マリーの同級生にして、ネギの教え子である龍宮真名が犬神アンダーグラウンドサーチに客として訪れていた。

 

「タツミーが犬神君に依頼って……めずらしいやん? たいがいの厄介事やったら自分で何とかできるやろタツミー?」

 

 マリーが驚いているように龍宮は裏の世界で名の知れたガンマンだ。戦争ランクの厄介事でも生き残ることに主眼を置けば鼻歌交じりに切り抜けてくる実力を持っている。ネギもその片鱗を修学旅行で十分に見ているうえに、師匠であるⅥからは「あれは遠距離戦闘でやりあったらおれでも苦戦するレベル」と教えてもらっているので、マリーと一緒に不思議そうに首をかしげていた。

 

 そんな二人の態度に龍宮は苦笑を浮かべながら、クラレンスが出してくれた紅茶を口に含んだ。

 

「あいにくと今回の厄介事は人手が必要でな。こうして金で雇える絶対安心な傭兵を求めているわけさ」

 

「そういうわけだ安川。仕事が入った」

 

 龍宮が返答を返すと同時に犬神から一枚の書類がマリーに向かって投げられる。マリーは不意打ち気味に渡されたそれをあわててそれをキャッチし、その内容に目を通した。

 

「ん? この人って……」

 

 そこには書類上の年齢よりも若く見える幼児体型で童顔の、スーツを着たかわいらしい先生が、アイスを至福といった様子でなめている写真が載っていた。

 

「今回の依頼は初等部教師――十三階(じゅうさんがい)百々(もも)の監視と、過去の割り出しだ」

 

 そこには、レイジーが熱烈アタックを繰り返している初等部新任教師のモモの姿が映っていた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「え? モモちゃんの過去?」

 

「はい。なんか聞いたはりません?」

 

 いくら鍛えているとは言っても、探偵としてはまだまだ半人前のマリーとネギは、モモの監視任務から外れモモの過去を調べるために、初等部教師たちに聞き込み調査に来ていた。

 

「モモちゃんの過去か~。知りたいのはやまやまなんだけど、彼女来たばっかりだしさすがに知らないな~」

 

「毎日フラれているしね。ぷぷっ」

 

 隣に座っていたリリィが、レイジーに向かってあからさまな嘲笑をもらす。それを聞いたレイジーの顔が一瞬ヒクリとひきつったが、もう慣れたこと何度か深呼吸した後、なんとか自分を落ち着かせて反撃に移る。

 

「そういうリリィ先輩は何か知っているんですか?」

 

「当り前よ。あんたみたいな下心があるやつと違って、私はほら……聖人君子的美女だから? モモちゃんも安心していろいろ話してくれるわよ?」

 

「どの口が言ってんですか!?」

 

 我慢しきれなかったレイジーの突っ込みに内心で同意しつつも、マリーとネギの視線はリリィへと移した。

 

「で、どんな感じなんですか?」

 

「そうね~。とりあえず過去を話す前の基礎知識として、狙撃が信じられないくらい上手いわね」

 

「それ教師に必要なスキルですか?」

 

 真っ先に挙げられた彼女の意外な特技に、ネギは思わず顔をひきつらせた。だが、

 

「そこはまぁ……ここの魔法先生だし?」

 

 もとより戦闘能力をかわれて集められた教師だっている。モモはその点きちんと教員免許を持っているのでまだましな方だろう。

 

「ほら~うちのジョニーとか見たら大体わかるでしょう? あいつ教員免許持ってないけど戦闘能力一点張りでうちに入ってきたからね?」

 

「あぁ……それはよくわかります。あれ? そう言えばジョニー先生は、今日はどちらに? 首輪外れていますけど大丈夫なんですか?」

 

「ネギ君……その首輪(・・)って僕のことじゃないよね? ねぇ? ねぇ!?」

 

 顔をひきつらせながら、何度も何度も訪ねてくるレイジーが若干怖かったので、マリーはネギから彼を遠ざけながらリリィに話の続きを促す。

 

「んで、なんで狙撃がうまいのかっていうと……彼女、ここに来る前NGO団体《四音階の組み鈴(カンパヌラエ・テトラコルドネス)》に所属していた凄腕スナイパーなのよ。当時は名前を明かさず裏で暗躍しながら、紛争の原因になった人物の狙撃を専門としていたらしいわ」

 

 ニヤリと笑いながら、リリィが次々と信じられない過去を暴露するのを聞き、ネギとマリーは思わず顔を見合わせた。

 

「あら? 信じていない顔ね?」

 

「いや……でも」

 

「いくらなんでもそれは信じられないというか……」

 

 マリーもネギも仕事で何回かすれ違ったことはあるが、モモは初等部の不良教師どもの清涼剤みたいに平凡な先生で、仕事も熱心に行い生徒たちからの人気も高い。そんな人が、紛争地域で暗殺を生業にしていたといわれても……。

 

「正直納得できません……」

 

 その気持ちはレイジーも同じだったのか、彼も三白眼を向けながらリリィに疑いの視線を向ける。

 

 リリィはそんな三人をまるで掌で踊るピエロを見るかのような笑みで見つめながら、

 

「まぁ、そこらへんはあんた達の近くにいる元四音階の組み鈴(カンパヌラエ・テトラコルドネス)にでも聞けばいいわ。大方その子の依頼であなたたちも動いているんでしょうしね?」

 

 すべてが透けて見えるといわんばかりの得体のしれない笑みでそうのたまった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「あの人は本当に油断ならないな……。そうだ、私は四音階の組み鈴(カンパヌラエ・テトラコルドネス)に所属していたことがある。モモ先生の調査を依頼したのも、そこでいろいろと恩があった人物だと思ったからだ」

 

 龍宮の返事を聞いたマリーとネギは思わず目を見開き、数キロ先の公園でたまたま出会った自分の生徒たちと雑談しているモモへと視線を向けた。

 

 リリィから胡散臭いながらも情報を手にすることができた二人は、一応報告をしにモモを監視している龍宮のもとへと訪れたのだが、

 

 彼女の返事は信じられないことにリリィの情報を裏付けるものだった。

 

「え? え? まじで? マジでモモ先生スナイパーやったん!?」

 

「といっても確証はない。だからこうして監視している……」

 

 にわかには信じがたいその事態に若干テンパってしまっているマリーに、龍宮は苦笑をうかべる。

 

「あの人は、『狙撃手は顔がばれては活動しにくい』といいって、活動中はずっと仮面で顔を隠していたからな。おまけに本名の方も伏せて活動している徹底っぷり。四音階の組み鈴(カンパヌラエ・テトラコルドネス)は当時13人の狙撃手を抱えていたから、本人はそのコードネームを使って《13番(サーティーン)》と名乗っていたが」

 

 こんなところで教師をしているなんて、私も声を聴くまでは正直信じられなかったよ。と、龍宮は苦笑をうかべつつモモを移したスコープから目をそらさなかった。

 

「でも、なんで今になってそんな人探そうとおもたんよタツミー?」

 

 話を聞く限りずいぶんと昔のことのようだし、いまさらそんな過去を掘り返されたところでモモは喜ばないと思う。マリーはそう思い龍宮の真意を尋ねた。

 

「……一つは、お礼を言いたいから、かな? あの人は私に狙撃を教えてくれた恩人だ。あの人の指導がなければ、恐らく私はあの戦場で生き残れなかった。そしてもう一つ」

 

 龍宮はそこで言葉を切り、一枚のカードを胸の谷間から取り出した。

 

「それっ!? パクティオーカードですか!?」

 

 そのカードを見てネギは驚きの声を上げ、マリーもぽかんと口を開けたが、

 

「あれ? でもそれ普通のパクティオーカードと……」

 

「あぁ。違うよ。なぜならこれは……死んだ人物と結んだカードだからな」

 

 極端に装飾が減ったそのカードを見て、マリーが首をかしげた瞬間、龍宮から物騒な言葉が飛び出し二人はぎょっとした。

 

 龍宮はそんな二人の反応をしり目に何かを懐かしむようにそんカードをなでる。

 

 そこにはあくまで顔を見せないようにするためか、完全に背中を向けた小柄な人物が巨大な対物(アンチマテリアル)ライフルを背負う姿が描かれていた。

 

 その人物が来たジャケットの背中には、XⅢ(じゅうさんばん)の文字が堂々と書かれており、それがその人物にとってどれほど誇りだったかを示しているように思えた。

 

「私はこのカードを、あの人の返さないとならない」

 

 同じ人物を契約者として選んだ、恋敵として。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ねぇねぇ、13番(サーティーン)

 

「なに、アルカナ?」

 

 当時はまだアルカナと呼ばれていたマナ。まだ四音階の組み鈴(カンパヌラエ・テトラコルドネス)にはいってそれ程日が経っていなかった彼女は、前線に出ることなく、13番(サーティーン)のもとで狙撃の訓練に励んでいた。

 

彼女を拾った魔法使いは「本当は女の子にこんなことしてほしくないんだけど……」と何度も訓練をやめるようにアルカナを説得しようとしていたが、それは13番(サーティーン)が突っぱねていた。半魔族である以上いずれは必要になってくる技術だと。

 

そんな彼女が狙撃の練習に使っていたライフルをばらして整備している13番(サーティーン)に、マナは確かこう話しかけたはずだ。

 

「なんで13番(サーティーン)の名前は№13なの? 本名じゃないんでしょ?」

 

 不思議そうにパクティオーカードを掲げて尋ねてくるアルカナに、仮面をかぶった13番は確かに苦笑をうかべた気がした。

 

 不気味な目も鼻も口もない不気味な白い仮面をかぶった彼女。とはいえ、この仮面は魔法世界(ムンドゥス・マギクス)で買った高品質なものだそうで、外の光景はしっかり見えているらしい。それどころか、狙撃に必要な《スコープ機能》や《風力観測機能》までついている優れもので、我ながらいい買い物をしたと13番(サーティーン)は自慢気に語っていた。

 

「それはね、私が私の名前は常に13番(サーティーン)であれと思っているからよ」

 

「……よくわかんないんだけど?」

 

 子供に早かったかしら? と、13番(サーティーン)がつぶやくのを耳ざとく聞きつけたアルカナは思いっきり頬を膨らませる。そんな彼女のしぐさに微笑ましいといわんばかりの笑い声を漏らしながら、彼女はアルカナの頭に手を置きさらさらと流れる黒髪を優しくなでてくれた。

 

「私にとっては、このコードネームは偽名以上の意味を持つのよ、アルカナ」

 

 人を殺して人を守る。邪道すぎる正義の体現者。自分たちはどこまでいっても薄汚い人殺しだ。だが、

 

「一発の弾丸でしか、変えられない世界もあるわ」

 

 この時の13番(サーティーン)の言葉はどういうわけか当時のアルカナの心に響いた。そして、

 

「それに本名を愛している人しか知らないっていうのは、なんかロマンチックじゃない?」

 

 次に13番(サーティーン)が自慢げに語った言葉は本気でうらやましかった。

 

「わ、私もそんな風になれる? なれる!?」

 

「う~ん。アルカナはもうちょっと大きくなってからかな~。いろいろと」

 

「さ、13番(サーティーン)だってペタンコのくせに!!」

 

「わ、私は他に魅力があるから大丈夫なの!!」

 

 そんな風に騒がしく喧嘩をした時間も、アルカナであったマナには宝石のように輝くまぶしい時間だった。

 

 だが、彼女はその数年後戦場を去ってしまった。アルカナを拾ってくれた魔法使いであり、彼女が仮契約を結んだ相手が死んだことによって。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「どういうわけか、私を拾ってくれた魔法使いの形見の中にあの人の契約カードが入っていてな。いつか返そういつか返そうと思ってずっと持っていたんだ」

 

過去を話してくれた龍宮の顔を見て、マリーとネギはバツが悪そうにお互いの顔を見合わせた。

 

 なぜなら話してくれた龍宮の顔には、いつものクールでニヒル笑顔は浮かんでおらず、どことなく悲しみの色さえうかべた切なげな笑みにを浮かばせていたから。

 

「きっと……きっと、モモさんが13番(サーティーン)ですよ」

 

 励ます言葉も思いつかず、苦し紛れにネギが言った言葉。

 

 しかし、龍宮はそれを聞きほんの少しだけ目を丸くした後、

 

「あぁ……そうだといいな」

 

 そういって、ほんの少しだけいつもの笑みに近い笑顔を浮かべてくれた。だが、

 

「クライアント。報告だ」

 

 その願いは、学園長方面からモモの過去をさかのぼっていた犬神の手によって、

 

「彼女は白だ。ただの狙撃がうまいだけの大学生だったよ」

 

 あまりにもあっけなく、否定された。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ふ~ん。やっぱり気付いちゃいましたか?」

 

 ばいば~い!! と、元気よく手を振って走り去っていく自分の生徒たちに手を振りながら、学園長から伝わってくる念話(テレパス)にモモは小さく苦笑をうかべた。

 

「アルカナは昔から賢い子でしたから。声聞かれた瞬間に危ないかな? とは思っていましたよ。まぁ、確信を持つにいたったソースは大方愉快犯のリリィ先輩でしょうけど……」

 

『一応、君との契約通り、リリィには警告を。犬神君に協力を依頼し隠蔽工作を行っておいたが……よかったのかの?』

 

 彼女の過去に関しては麻帆良内でも特S級の秘匿事項だった。犬神にも彼女が学園に来たときに、素性隠匿の依頼を受けてもらっている。犬神はその依頼を守るために、今回の龍宮の依頼をウソの報告をすることで終わらせた。

 

彼女はあまりに戦場で人を殺しすぎたから、もしも彼女の正体が割れてしまったら狙ってくる人物はそれこそ100や1000では効かない。

 

 狙撃手でありながら最も大きな戦果をもたらし続けた怪物。四音階の組み鈴(カンパヌラエ・テトラコルドネス)13番(サーティーン)

 

 彼女が首領暗殺(ヘッドショット)を行ったことで、数百の紛争が終わり……数万人近い敵が死んだ。彼女はそういう伝説を残す狙撃手だった。

 

 だから本来ならこんなところで教師をすべき人物ではない。軍をやめたとしても彼女は厳重に保護され四音階の組鈴(カンパヌラエ・テトラコルドネス)の幹部として名を馳せるべき人物だったはずだ。だが、

 

「戦場に絶望してしまった兵士は、戦場で戦う兵士の上に立つべきではありませんから……」

 

 そう言ったモモの脳裏によぎるのは、自分のスコープの中で死んでいったあの男。自分が愛して、アルカナが慕った正義の味方を目指した男の最後……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 あの時彼女は彼を救えた。自分の仕事を放りだし、彼が戦っていた敵の頭を打ち抜けば確かに彼を救えた。

 

 だが、彼女がその時狙っていたのは彼女が戦っていた紛争地域を裏で操り、多額の金を手に入れていた武器商人。その商人はひどく慎重で、その場で暗殺を失敗してしまえば、次にチャンスが訪れるのは数十年後といわれている怪物だった。

 

 だから、狙撃を失敗するわけにはいかなかった。

 

 彼女は彼を助けなかった……。

 

 そして、商人の頭を撃ち抜き戦場を混乱させたあと、モモは彼のもとに訪れた。全身に弾痕や炎属性魔法による火傷をおいながら、彼はモモの接近に気付くと確かに笑みを浮かべながら、

 

『よくやった……かっこよかったぞ』といったのだ。微塵も自分を恨んでいない発言だった。間接的に自分を殺した相手に、恨み言ひとつ言わずに死んでいった。

 

狂っていると思ってしまった。モモは確かにその時、自分が誇りに思っていた立場をそう思ってしまった。

 

 愛した男を殺したのに、その男に怒鳴られすらしなかった戦場を。愛した男を見殺しにしたのに、よくやったと仲間たちがほめたたえるその戦場を。彼女は確かに、狂っていると思ってしまった。

 

 もう銃は……握れなかった。

 

 そんなモモの様子に気付いたのか、狙撃隊を指揮していた隊長は悲しそうな目でモモを見て、

 

「状況は終わった。捨て置け……13番(サーティーン)。撤収だ」

 

「sir...」

 

 モモはいつものように忠実の返事を返しながら、懐から取り出したパクティオーカードを取出し彼の胸へと置いた。

 

 彼が死んだことによりずいぶんと質素になったカード。自分はそれすら、持つ資格はないんだと思いながら……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「あの子は私みたいに弱くないですから……。私のような亡霊に、いつまでも係っているのは可愛そうです」

 

 モモはそう言って、龍宮が自分を監視している方へと視線を向ける。狙撃手として鍛え上げられた彼女の瞳は、ピタリと龍宮の姿をとらえ犬神の報告を受けて落胆している龍宮をしっかりと確認した。

 

「老兵はたださるのみ……ですよね。学園長」

 

『あぁ……そうじゃな』

 

 学園長も思うところがあったのか、モモの言葉に同意して念話による通信を切った。

 

 モモはそれを確認した後、近くにあったベンチへと座り空を仰ぐ。

 

「うん。見ているコウキ? 私は結局あの戦場に何も残せなかったけど、あなたが残した(アルカナ)は今も立派に育っているよ?」

 

 愛した人の願いをかなえられず、すべてから逃げてしまった狙撃手は、せめて未来に何かを託そうと今日も人を導く仕事を続ける。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 後日談。というか……。

 

「元気だしーなタツミー。きっとそのうち見つかるって! 世間は狭いいうし」

 

「そうですよ龍宮さん! そんなに落ち込まないでください!!」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 龍宮の調査が空振りに終わった翌日、さすがにかなり期待していたため落胆が隠しきれていない龍宮の隣では、事情を知るマリーとネギがステレオ放送で彼女を励ましていた。

 

 あの後諦め悪く、情報をくれたリリィにも確認を取りに行ったのだが、

 

「え? あんな与太話マジで信じたの?」

 

 といわれ、とどめを刺された。あの時あの先生を殴らなかった忍耐力を褒めてほしいとマリーは思う。

 

 というわけで現在龍宮は落ち込んでいた。いくら励ましても少しだけある影が消えない龍宮の姿を見て、マリーはしばらく熟考した後、

 

「せや、落ち込んだ時はなんかパーッとおいしいもんでも食べに行こうや!! なんやったら私が奢んで?」

 

「ほう? それはあんみつでもいいのかな?」

 

「詳しく話を聞かせていただきましょう?」

 

「あれ?」

 

 しかし、マリーの話に食いついたのは龍宮だけではなかった。どういうわけか先ほどまでいなかった刹那が龍宮の隣に立っており、キリリッとした表情で乗っかってきたのだ。

 

「え、え?」

 

「せっちゃん、突然走り出してどないしたん?」

 

「あ、お嬢様! 今マリーさんが食事をおごってくれるという話をしていまして……」

 

「え、ちょ!?」

 

「なになに? マリーにしては珍しく太っ腹じゃない?」

 

 しかも、どこからともなくやってきた木乃香と明日菜が合流してきてからはもう大変だった。

 

「飯がただで食えると聞いて……」

 

「マリーと一緒にご飯が食えると聞いて!」

 

「マリー様が太っ腹すぎると聞きまして……」

 

「ちょっとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 あれよあれよと集まってくる3-Aメンバーたち。お前ら登校はどうした? と言われそうな勢いで集まってくる。

 

「宴会ならウチを使えばいいネ! 超包子はいつでも宴会受付中ヨ~!!」

 

 ――うちならあんみつも出せますよ?

 

「さてマリー。まさかここまでお膳立てされて、いまさらダメとは言わないよな?」

 

 ニタリという擬音がぴったりな、いつもにニヒルな笑みを浮かべる龍宮にマリーはしばらくプルプルと震えた後、

 

「や、やったらぁあああああああああああああああああああ!! 全員分奢ったらええんやろうがぁあああああああああああああああ!!」

 

「「「「「キャ――――――!! マリーふとっぱら――――――!!」」」」

 

 わっしょいわっしょいと、やけっぱち気味のマリーを胴上げする3-Aメンバーズ。千雨や夕映辺りはアホくさ……といわんばかりに傍観しているが、一応宴会には参加する所存らしく自分たちの手帳を開いて予定を確認していた。

 

 その傍らでネギが、

 

「ちょ、みなさん! 迷惑ですから! 学校に遅刻しますからアブブブブブ!?」

 

 と必死に諌めようとしているが弾き飛ばされて、あまり効果をなしていない。

 

 そんないつもの風景に、龍宮は珍しく声を上げて笑った。そんな彼女の隣を、一人の小柄な女性教師が通り過ぎる。

 

 そして、

 

「おおきくなったわね。アルカナ」

 

「!?」

 

 龍宮があわててあたりを見廻しても、その教師は人々の雑踏に紛れて見つからなかった。

 

 だが、龍宮はその言葉を言ったのは誰なのかを悟り、

 

「はい。あなたのおかげです」

 

 と、言って小さく頭を下げた。

 




 前回は悪ふざけが過ぎたので、今回は少しシリアスなお話。

 主人公はゲル君ではなく、龍宮隊長と初等部の良心モモ先生になっております。

 モモ先生の過去については、犬神ゲル原作二巻にでてきた裏(?)設定。この設定は原作犬神ゲルとは一切合財関係ありませんのでご了承ください。
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