漆黒の夜の帳に包まれた、麻帆良学園中等部。
本来なら宿直の魔法教師以外誰もいてはいけない校舎を、一人の少女が走っていた。
またまた、佐々木まき絵だった。
「な、なんで私ばっかりこんな目にぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
つい少し前に吸血鬼に追いかけられる悪夢を見たばかりだというのに、ほんとに自分は付いていない 。と、内心で愚痴りながらそれでも足を止めないまき絵。それはそうだろう。何せ彼女は現在、正体不明の物体に追いかけられているからだ。
『まってくださ~い……』
ビクリッ!! と、背後から聞こえてきた声にまき絵の肩が震え、無言のままさらに足を速く動かし始める。
『夜……学校……こわい』
背後から聞こえてくる声はだんだんと切れ切れになって薄れてくる。
に、にげきれた? と、まき絵が安堵の息をつきほんの少しだけ走る速度を緩めた時だった!!
『だから、私と一緒にいてください……』
真っ白な手がまき絵のすぐ横の壁からニョキリと伸び、まき絵の頭をかき抱く。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
得体のしれない悪寒と冷気に全身が包まれてしまうのを感じ、まき絵はあっけなく気を失った。
…†…†…………†…†…
「さて、うちの野菜は見事に試験不合格となり結局うちに残ることになったわけだが……」
「し、しかたないじゃないですか!? 何ですかあのムリゲー!? 犬神さんとガチンコでやりあえる敵と相対して、生き残ったほうを評価してくださいよ!!」
いつもの休日の犬神アンダーグラウンドサーチにて、眼鏡の奥の瞳に明らかなさげすみの色を乗せた犬神と、その犬神に睨みつけられて若干おびえながらも何とか抗弁するネギの姿があった。
修学旅行が結局あんな結果に終わってしまい、ネギの独り立ちはとりあえず見送られることとなった。
と、なると、必然的に問題になってくるのは、修学旅行前に犬神が愚痴っていたネギの生活費なわけで……。
「学園長から『あんな敵に狙われているのだからネギの護衛代をふやしてくれ』といって、多少の改善はみられたがやはりまだまだ貴様の生活費が火の車であることに変わりはない」
「はぁ……なんかすいません」
「というわけで……貴様には今まで以上に積極的に仕事を手伝ってもらう。働かざる者食うべからずだ」
「が、がんばります!!」
マリーとクラレンスは別件とのことで、現在この場にはネギと犬神しかいない。
ガッツポーズをとるネギを満足げに見詰めた後、犬神はいつの間にか設置されていたくすだまの紐へと手を伸ばした。
「では、今回野菜にやってもらう仕事を教える。今回の仕事は……これだっ!」
犬神はそういった瞬間、目も覚めるような速さでひもを引きくすだまを割った。
その中から出てくる巨大な紙。そこにはおそらくクラレンスの直筆と思われる達筆な文字でこう書かれていた。
『除☆霊!!』
「………………………………じょれい?」
探偵はどこに……。内心でもっともなツッコミを入れつつ、ネギは思わず沈黙した。
「なぜ僕たち少年探偵が除霊などするのか? おまえはそう思っているところだろう。では野菜。なぜ僕たちのところにこんな依頼が来たか、わかるか?」
犬神の質問にネギは少し考えるようなそぶりを見せた後、
「実は犬神さんが大妖怪《カネノモウジャー》という妖怪で、目には目をと言わんばかりに頼まれ……」
瞬間、ネギの額に犬神の貫手が刺さり、ネギの頭から大量の血液を噴出させる。
ぎゃー!? とのたうちまわるネギをしり目に、犬神は嘆かわしいといわんばかりに首を横に振り背中を向ける。
「当然その手のプロたちが軒並み手を挙げ、さじを投げたからだ。まったく、最近の連中はプロ意識が足りなくて困る……」
「ようするに、にっちもさっちもいかなくなって何か一周まわってしまった挙句トチ狂ってしまったため、うちに相談が来たわけですね」
「ようするな。真打登場といえ」
出血が収まった場所に涙目で絆創膏を張るネギ。正直言ってこの世界でなかったら即死級の出血だった気がするが、そこはまぁギャグ補正として自己完結。
「でも犬神さん……プロでもできなかった仕事なのに、犬神さんに達成可能なんですか? この依頼……」
心配そうに尋ねてくるネギに、犬神はしれっと一言、
「愚問だな野菜……やったことないのにわかるわけないだろう?」
思わず無言になるネギをしり目に、犬神は堂々と言い放った。
「依頼というのはな、受けてからどうするか決めるものだ!!」
「ちょっとは後先考えましょうよ……」
前途多難すぎるこの依頼に、割とマジで命の危機を感じ始めたネギは、とりあえず遺書を書いておくために自分の部屋へと戻っていた。
…†…†…………†…†…
犬神アンダーグラウンドサーチを出ていくネギと犬神を、物陰からのぞく一人の少女がいた。
白い髪に赤い瞳。なぜか数十年ほど昔の麻帆良中等部の制服を着た彼女は、ふわふわと浮きながら彼らを見つめていた。
「よ、よ~し。ネギ先生はなんだか私のこと見えるみたいだし……こ、こんどこそ!!」
そして、彼女は物陰から飛び出し二人のあとをつけていく。
ふわふわと浮いている、足のない脚をしっかりと動かしながら。
さらにその背後では、白い少女には気づかず、これまた犬神とネギのあとを追っていた一人のパパラッチの姿が見えた。
「自分のクラスが幽霊騒動が起こる中、家主の犬神と何やら怪しげなことをしに行くネギ先生……くくくっ。これは何やら、スクープの予感っ!!」
麻帆良のパパラッチと名高い少女……3‐A所属朝倉和美は不敵な笑みを浮かべながら写真を一枚とっておく。
まさかその写真の中に、真っ白の少女の影が映るとも知らずに……。
…†…†…………†…†…
そのころの3‐Aでは?
「ほんとに幽霊なんていたのか、まき絵」
「ほんとなんだって!! 私見たんだって!!」
「でも実際これだけ探してもいないわけだし……」
雇われた魔眼持ちのガンナーと退魔剣士が、いつまでたっても見つからない幽霊に業を煮やし、クラスメイト達に再び聞き込み調査を行っていたりした……。
…†…†…………†…†…
「ここ……廃校ですか? 麻帆良にしては珍しいですね?」
「もともと男女合同高等部だった校舎だ。麻帆良が大きくなるにつれて男女は分けられる形になり、新しい校舎もたった。だから古い校舎はこうして打ち捨てられたわけだが……」
そこで犬神は言葉を切り、不気味に眼もとへと影を落とす、
「本来ならこの後者は新校舎ができたときに取り壊されるはずだったのだが、そこである問題が起きた……。そう、魔法先生たちですら何ともできないある問題が」
「そ、それが今回の依頼にあった幽霊さんですか……」
「そういうことだ。この校舎もずいぶん長い間放置してあったせいか、その筋ではかなり有名な場所だぞ? その名も……」
手に持った雑誌《麻帆良の恐怖スポット 100選!!》を棒読みする犬神を見ながらネギは黙って犬神の話を聞いていく。
「自殺の聖地」
「いやな聖地があったもんですね……」
犬神のとんでもない紹介の仕方に、ネギは思わず顔をひきつらせた。
…†…†…………†…†…
――その廃坑には必然的にいじめがあり、当然としてそれで自殺をした少女がいた。
さらにその昔、その土地は病院で当然病を苦にして自殺をした人間がいて、
さらにその昔にはその土地は船上で落ち武者たちが(以下略)
さらに(以下略)
それらの悪霊怨霊スタンド、その他もろもろが合体合身パイルダーオンして、メメタァメメタァと鍛え上げられ凝着した結果、そこは訪れた人を次々と死へといざなう……
…†…†…………†…†…
「自殺の名所へと変貌していたのだっ!!(田中信夫風)」
「そういうのってなんで、断言調なんでしょうね……」
犬神の最後だけ気合いが入った説明に、なんかもういろいろとダメだろと思いつつネギは突っ込みの仕事をしておく。
「そんなありがちかつ、ありきたり話信じられるわけないじゃないですか……。麻帆良の先生たちがなんとかできなかったのもほかの理由ですって。聞いた話だと、ここの土地の利権者さんなんか学園関係者じゃないみたいですし……」
なんでも、麻帆良が立つ以前から世界樹を守ってきた一族だとかどうとか……。以前犬神とケンカしたことがあるらしく、「この世界は俺のなんだ――おれこそが最強オリ主だ!! イレギュラーは引っ込んでろ!!」とか言って犬神に襲いかかったところ、あっさり撃退。粉砕玉砕大喝采されたあげく「人に厳しいエコ発電」をすることになってしまったらしい。
「それとももしかして、犬神さんは霊とか信じている人だったり……って、それこそ愚問ですね」
どうせ信じていないからこの依頼を受けたんだろうと思ったネギは、ため息をもらしながら肩をすくめた。そんなネギに犬神は一つ頷いた後、
「あぁ、確かに愚問だな」
「え?」
「信じる信じない、いるいないの議論は僕にとっては些事にすぎない。僕にとって重要なのは『いる』と思っている人間は、金を出すということだっ!」
「すいません……議論の観点が初めから違ったんですね」
ずけっと言い放たれた犬神のセリフに、ネギは再び顔に縦線を落とした。
「さて野菜。さっさと探して、幽霊ぶっ殺して帰るぞ」
「犬神さんなら本気でやりそうで怖いんですけど……」
二人はそんな会話をしながら、一足飛びでとじられた校門を飛び越え校舎の中に消える。
しかし、二人は気付かなかった。
二人のあとを追いかけて、一人の幽霊少女と、一人のパパラッチ少女が学校に潜入してくることなど……。