吾輩は幽霊である。名前は相坂さよ。名前は実はあったりした。
あだ名は《ステルスさよ》(自称)。最近立ち寄った書店で読んだ麻雀漫画の登場人物から頂いた。
現在の目標は……友達を作ることだったりする。
…†…†…………†…†…
「まぁ……どういうわけかわりとあっさり適っちゃったんですけど……」
「さよちゃ~んどうしたの? ガム食べる?」
「あ、いただき……って、幽霊ってガム食べれたんですか?」
相坂さよは60年の幽霊人生を孤独のまま過ごしてきた。生前から影が薄くあまり人に認識されない体質で、唯一まともに自分を認識して友達になってくれていたのは近衛近衛門という学園一イケメンと有名な学生だけだった。死んでしまい幽霊となってからはさらにその性質は強化されてしまったようで、この60年間誰にも気づかれずただぼーっと机に座ってすごす日々だけを過ごしてきた。
正直さびしがりやで怖がりな彼女にとって、その人生はかなり苦痛だったようで彼女はいつも自分を認識できる人間を求めてさまよっていた。
そんな時だった。彼女のクラスに赴任してきた子供の教師が、まるで自分が見えているかのような言動をとったのは。
もしかして私が見えているの? さよはその反応にわずかな希望を見出し、しばらくの間その新任教師をつけていた。
そして、今日も彼女はその新任教師――ネギに自分の存在を気付いてもらうためにこうして苦手な怖い廃校に足を踏み入れたのだが……。
「成せばなる!! なさねばらなぬ何事も!!」
「はぁ、そうですか。いただきます」
この廃学校に入った瞬間どういうわけか自分の御同輩たちに大量に囲まれてしまい、「あたらしいなかまだ~!!」と言われワッショイワッショイ御同輩たちに担がれ、こうして空き教室の一つへと案内されてしまっていた。
「いや~、にしてもこの学校以外にもご同輩がいたとは……拙者感激でござるよ」
先ほどからこちらに話しかけてくれるのは、落ち武者の幽霊のイバさん。落ち武者という特性上戦闘能力が非常に高く、この学校にやってくる拝み屋を次々に撃退する祟りのプロフェッショナルらしい。
「ごめんね~さよちゃん。今ちょっと仲間候補が三人も来たから立て込んでいて。これ終わったら四人の歓迎パーティを開こう」
そう言ってくれたのは鼻から常時鼻血を流している青年は西村さん。昔この学校で番町をしていて、不良同士の抗争によって命を落としたらしい。といっても、今は不良の雰囲気など微塵も見せない気のいいお兄ちゃんだが。
「ちょっと西村君! 雑談してないで早く持ち場ついて……そこぉ!! 吉村家の墓石はこっちじゃなくて二階だって何度言えばわかんの!! ここに置く墓石は喜代田家の墓だって言ってんでしょうが!!」
怒声を飛ばしながら何やらお化け屋敷のようなセットをほかの幽霊たちに組ませているのは、元医師の加藤さん。
なんでもこの学校が立つ前に立っていた病院で医療ミスをしてしまい、責任をとって首をくくったらしい。といっても、いまは医師の姿なんて微塵も見えない完全なドカタの現場監督だったが。
そんな風ににぎやかな幽霊たち。さよは今までの自分の幽霊人生とは明らかに違う、彼らの生活を見てほんの少しだけ羨ましく思った後、
「で、皆さん何しているんですか?」
「何って……決まっているじゃないか」
さよの質問に西村が返した、
「
とんでもない言葉に顔をひきつらせた。
…†…†…………†…†…
「昼間といっても廃校はやっぱり暗いですね犬神さん……」
「あぁ、そうだな」
割とあっさりと学校への侵入を果たした犬神とネギは、のんびりと校舎内を歩きながら幽霊がいそうな場所をしらみつぶしに回ろうと計画を立てていた。
現在の目的地は人体模型など素材が豊富な理科室。安直な学校の怪談からのイメージだ。
そのとき、ネギの隣にあった教室から、カツン! と硬い何かがぶつかる音が聞こえた。
「っ!?」
いくら魔法使いとはいえまだまだ10歳のネギ。幽霊が怖い年齢だった彼は、その物音にほんの少し震えた後、そーっと教室の扉を開き中を確認する。
「……誰も、居ないですね」
そして、やはり何もいなかった教室に安堵の息をもらしそのことを犬神に報告しようと振り向いた瞬間!
「あれ?」
そこにいたはずの犬神の姿はきれいさっぱり消えていて、
「え、ちょ……犬神、さん?」
だらだら冷や汗を流すネギがそうつぶやくのを聞き、廊下の壁に就いていた人の顔のようなシミが、にやりと不気味な笑みの形へと変形した……。
…†…†…………†…†…
「おぉ~。なんか雰囲気あるねここ」
麻帆良のパパラッチこと朝倉和美はシャッターチャンスを逃さないために、カメラを構えながらゆっくりと犬神とネギが入って行った廃校を回っていた。
どういうわけか、あの二人の姿は見失ってしまったが校舎そのものはそれほど広くない学校だ。歩いていればまた出会えるだろうと、3-A特有の楽観論を展開しつつ朝倉は意気揚々と歩を進める。
思えば修学旅行が終わってから数週間。せっかく魔法という新たな燃えるスクープに出会ったというのに、今までそれらしい事件はトンとなく彼女の記者魂はしなびかけていた。
だが、ここに来て3-Aの幽霊騒ぎ。不審な行動をとるネギと犬神……これはもうっ!!
「スクープしかあり得ないでしょう!! むしろスクープだと言いなさい!!」
やべぇ……オラわくわくすっぞ!! と、テンション高めにカメラを構える朝倉。その姿はもう今までの鬱憤を晴らさんと言わんばかりの、やる気に満ちていた。
だが、
『に…………げ……』
「え?」
正直言うと、
『逃げ……て』
「ちょ……」
本物の、
『逃げてくださいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!』
「えぇ……………」
百鬼夜行と言わんばかりの幽霊軍に追いかけられた、真っ白な幽霊少女が姿を現したら反応に困らざるえない朝倉だった。
…†…†…………†…†…
ネギは現在非常に困っていた。
犬神とはぐれてしまった。幽霊に対する対抗手段もわからない。
この状態で依頼完遂は可能かといわれると答えは否なわけで、
「う~ん」
この状態でネギが取れる手段は三つ。
① 独力で除霊
② 犬神を捜索
③ このまま帰る
「ん。③にしておきましょう。まだ死にたくありませんし。犬神さんなら一人でも除霊ぐらいしてくるでしょう」
……ネギ・スプリングフィールド。純情だった少年は、外道な少年探偵の手によってちょっとずつ磨れた性格になってきていた。
だが、
「いや~。さすがにそれは困るな~。まぁ、入口は封印したからもう出られないけどね?」
「え?」
突然聞き覚えのない声が聞こえてきて、ネギがあわてて背後を向くとそこにはっ!!
「やっ!」
「え、あ……こ、こん」
鼻血を出しているがやけに健康そうな、
「っ!?」
「あ、ようやく気付いた?」
体が透けている男子学生の幽霊が浮遊していた。
「っ……ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
全力疾走で逃げ出すネギ。それはそうだろう。彼はまだまだ10歳。幽霊が怖い年齢だった。
「いや、幽霊としては怖がられるのは本懐なんだけど……なんというか、地味に傷つくね?」
「西村君鼻血出てるし」
「きみなんて人型じゃないじゃないか?」
後ろから聞こえてくる聞きたくもない幽霊談議に再び鳥肌を立てながら、ネギは魔力によって強化された足を使って全力で逃げる。
「ま、まじでいた!! ほんとにいたぁああああああああああああああああああ!?」
いやいや幽霊とかほんとにないわ~。とか、きっと何かの感違いだろう? とか、往生しまっせ~。とか、思ったりしてすませんでした!! 全身全霊で土下座しますから今すぐここから出してくださぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!
ネギが内心でそう叫んでいることなどつゆ知らず、というか知っていたとしても反応を変えることなく、
「まぁああああああああああああああてぇ」
「逃がすかっ!!」
「やっ!」
次々に壁から染み出すように姿を現す幽霊たち。その数に際限はないのか、ネギの背後には瞬く間に百鬼夜行が築かれる!!
「犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さん犬神さぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!! たすけてぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
悲鳴をあげて全力疾走するネギの声は、果たして犬神に届くのかっ!!
…†…†…………†…†…
そのころに犬神は!!
「ん?」
キュピーンと何かを感じ取り、
「なるほど貴様らか」
床や壁や天井から次々と姿を現す幽霊たちを見て、
「いまっ……僕を呼んだのは?」
違いますっ!? 超能力的感覚で、遥かかなたにいるネギが思わずツッコミをいれたが当然犬神には届かなかった……。