「で、なんでぼくたちはこんなところにいるんですか?」
「決まっているだろう野菜」
魔法先生たちとの会合を終え、麻帆良祭当日を迎えた犬神アンダーグラウンドサーチ。
彼らはどういうわけか麻帆良の中心である世界樹のもとに集っており、各々『必勝』の文字が書かれた鉢巻きを頭に巻いている。
「はい、これネギ君の分な?」
「あ、ありがとうございます……じゃなくて、何なんですかこれ!?」
マリーに渡された鉢巻きを、つい反射的に受け取ってしまったネギはあわててそれを地面にたたきつけツッコミを入れる。
麻帆良に来てから一年と数カ月……その時間によって鍛えられたネギの直感が彼に警鐘を鳴らしていた。なんか巻き込まれてはいけない事態に巻き込まれかけているとっ!!
「決まっているだろう野菜。麻帆良祭には優勝することによって賞金が出るイベントが多数出展されている。つまり」
しかし、ネギは気付いていなかった……。犬神のもとにいった時点で、もうこうなることは決まっていたのだと、
「僕たちの稼ぎ時だ!! これよりわが犬神アンダーグラウンドサーチは全力をもって麻帆良祭で出る賞金のすべてをかっさらうべく……どこへ行く気だ野菜?」
その言葉を聞いた瞬間脱兎のごとく逃げ出すネギの眼前に、犬神が瞬動術で現れる。
「うっ!?」
出現した犬神が放つ人殺しの威圧感に、思わず足を止めるネギ。しかし、ここで彼は止まるわけにはいかなかった。
これから始まる学園祭を楽しむため、何より自分と一緒に回ることを楽しみにしている生徒たちのために、ここで犬神に仕事を押し付けられるわけにはいかないのだから!!
だからネギは、必死に抵抗の言葉を口にした、
「こ、こんな人たちと一緒にいられるか!? 僕はひとりで祭りを回る!!」
「この状況で死亡フラグを立てたことは感心に値するな。さて、では回収してやろう」
ボグシャワッ!? という、人の顔面が出してはいけない擬音とともに天高く舞いあがるネギ。今年の流行語はここから生まれたりする、
「軽く、三回転はしとったな」
ぐるぐる回りながら空をUFOバリに空を飛ぶネギをマリーは「無駄な抵抗を……」と哀れなものを見るような眼で見つめていた。
…†…†…………†…†…
「うぅ……予定が……予定が~」
「ま、まぁ、落ち着きぃやネギ君。一応今日のネギ君のノルマは少ないんやし、そう落ち込まんでもええって!!」
マリーは予定表を片手にうなだれるネギを慰めながら、とりあえずクラスの出し物がどうなっているのか確認するために3-Aの教室へと足を向けていた。
とりあえずネギが出て賞金を取らなければならないイベントは午後から。一応犬神も気を使ってくれはしたのかネギの予定とはできるだけバッティングしないようにシフトが組まれている。
もっとも、その予定と予定の間は瞬間移動でも使えないと間に合わないほどタイトなものだったが……。一応空を飛べるネギなら何とか間に合わないこともないかな~というぐらいのシフトだ。
とにかく、ネギの朝は暇なままなわけで、
「というわけでみんな~ネギ先生つれてきたで~」
「「「でかしたマリー!!」」」
落ち込むネギを引きずってお化けやしき前に現れたマリーに、ネギを狙う女子生徒たちが歓声を上げた。
「うわ、マジで完成度高いな……。というか、普通の遊園地とほとんど遜色ないで」
さすがは無駄な廃スペック持ちたち、と自分のクラスメイト達に戦慄にするマリーをしり目に、ようやく現実へと戻ってきたネギは自分のクラスの前にできている長蛇の列を見て感嘆の声を上げた。
「すごいですね。こんなに人気が出るなんて。ちょっと意外でした」
「も~ネギ先生。そんなこといいから入って入って!! ネギ先生なら優遇しちゃうよ?」
「私は?」
「ごめん、並んできて?」
「クラスメイトも優遇してぇや!?」
3-Aメンバーの幸運娘桜子がシレッと返した言葉に突っ込みを入れるマリーに「よっ、ナイスツッコミ!!」とサムズアップをする弱小バスケ部部員裕子が笑いかける。
「まぁまぁ、それも冗談だからマリーも入った入った!」
二人はそんなやたらとノリノリの妖怪に仮装した少女たちに連れられお化け屋敷の中に入る。そして、
「「ようこそ! ドキッ!? 女の子だらけのお化け屋敷へ!!」」
「「どこのイメクラやっ!?(ですかっ!?)」」
不穏すぎるお化け屋敷の別名を聞き思わず勢いのいいツッコミを入れてしまうのだった……。
…†…†…………†…†…
何のかんのとお化け屋敷を楽しんだ挙句、自分の生徒たちに服を剥かれかけるというセクハラ恐怖体験を経験したネギ。
そのご、明日菜の胸に飛び込み発展途上の双丘をもみしだくという、とんでもハプニングが起こってしまい明日菜に殴り飛ばされるという事件はあったが、ネギは順調に学園祭午前の部を消化することに成功した。
そして、お化け屋敷で合流した裏関係者たち――明日菜、木乃香、刹那を仲間に加えたネギたちは、マリーが出場する予定の賞金がかかったツッコミ大会(お笑い研主催)へと足を運ぼうとした。
だが、
「あぅ?」
「あらら~」
突然力が抜け倒れかけた体を明日菜とともについてきていた木乃香に受け止められたことを機に、ようやく自分がかなり疲労していることに気付いた。
どうやら疲労をごまかす魔法を若干使っていたのが悪かったらしい。それによって必要以上に疲労に対して鈍感になってしまっていたようだった。
「さすがに10歳に徹夜はきつかったみたいやね~」
「まぁ、それ以外にも祭りではしゃぎすぎたゆーんもあるんやろうけど?」
「あんた全然疲れた様子見せなかったから気付かなかったじゃない。もっと自分を大切にしなさいっ!」
「あぅぅ……すいません」
心配した様子でネギを怒る明日菜と、苦笑を浮かべる木乃香に癒されはしたもののさすがにこのままではやばいということで、マリーの提案でネギは医務室を訪れることになった。
「私たちは自分の部活の出し物あるし」
「ネギ君のことよろしゅうなせっちゃん」
「お任せくださいお嬢様」
「ゆっくり休むんやで? 私の賞金のことは気にせんでええしな?」
「はい……ありがとうございます」
口々にお見舞いの言葉を告げて医務室を出て行った三人を見送り、刹那に次の用事(12:00からのプチ雑学クイズ大会)時間がきたら起こしてくれるように頼みこんだ後、ネギはゆっくりと目を閉じた。
そして、
「あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 『僕は目を閉じたと思ったらいつのまにか夜になっていた』。な……何を言っているのかわからねーと思うが、僕も何をされたのか わからなかった……。頭がどうにかなりそうだった……。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…」
「いや兄貴……それ普通に寝過しただけなんじゃ」
「…………………………………………………………」
先ほど医務室を訪れて(どうやらここの女性保険医にかわいがってもらうことが目当てだったらしい……)ネギを起こしてくれたカモからの珍しいツッコミに、ネギはしばらく固まった後、
「どどどど、どうしよう刹那さん!? 起きて!! 起きてください刹那さんってばぁあああああああああああ!?」
「んぁ、むにゃ……ね、ネギ先生ぃ……いいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
ネギにたたき起こされた刹那は、若干寝ぼけた声を上げたものの、医務室の外が真っ暗になっているのと時計を見た瞬間事態を把握した瞬間、一気に真っ青になり悲鳴を上げた。
「よ、夜の8時って!? す、すいませんネギ先生!! 起こすって、起こすって約束したのに!?」
「どどど、どうしましょう!? 今日の予定全部すっぽかしちゃいました! あんなに予定びっしりだったのに全部すっぽかすなんて……。それに、その中には犬神さんの……」
そこまでいって事態の深刻さを再認識したネギの血の気は、もう紙と見まがわんほどの白い色合いへと変化してしまう。
それはそうだろう。仮にも犬神がかなり本気を出してやる気な麻帆良祭賞金イベント全制覇。それを寝坊なんて理由ですっぽかしたなんて彼にばれたら、
「ひ、人に厳しいエコ発電で許してくれるかな?」
「兄貴、兄貴……たぶんだみ声で生コンクリート出されると思うぜ」
「「…………………………」」
カモの割とシャレにならない予想にもうネギは絶望するしかなくなる。だがそれ以上に、
「あの、先生……宮崎さんとのデートの約束は?」
「……4時」
「「……」」
勇気を出して自分を麻帆良祭めぐりに誘ってくれた、自分を好いてくれている読書好きの少女の顔を思い出し、ネギは再び泣きそうになり、
「ふふ……もうだめだ。カモくん……ちょっと人ひとり吊るされても大丈夫なくらい丈夫なロープ用意して?」
「はやまんな兄貴ぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
暗~い声音でうつろな笑みを浮かべてどこかへ行こうとするネギに飛びつき、カモは必死に思いとどまるように絶叫する。
「あ、安心してくださいネギ先生! 私にいい案があります!!」
「「だめそう!? なんかだめそう!!」」
「とりあえず片っ端からこの部屋の机の引き出しあけてタイムマシンを探しましょう!!」
「「そしてやっぱりだめだったぁあああああああああああああああ!?」」
なんだかもう混乱のあまりキャラずれどころかとんでもないことを喚き散らす三人。そんな時だった、
刹那のタイムマシンという言葉に反応し、ネギの懐に入っていた超からもらった懐中時計が、
カチッ!!
「「「?」」」
やけに耳に残る音を立てて針を動かしたかと思うと、
「あれ?」
「え?」
「なっ!?」
突然医務室の窓から日光が差し込み、賑やかな昼間の喧騒が漏れ聞こえてくる。
そして、
「それではこれより、第78回・麻帆良祭を開催します!!」
外から響き渡るアナウンスを聞き、三人は思わず顔を見合わせ、
「「「どうなってんの!?」」」
この異常事態に疑問の声を上げた。