激烈な戦いが繰り広げられる麻帆良武道大会。会場は今まで類をみないほどの鮮やかな戦闘、達人同士の激突に息をのみ、手に汗を握り、歓声を上げる。
会場はすでに最高潮に達し、次の戦いを今か今かと待ち望んでいる。
そんななか、とうとう奴が再び登場した!
「さぁて……皆さんお待ちかね。第二回戦のお時間です! 選手の紹介はもう不要でしょう。鮮やかな手並みで一撃のもとに敵を沈めた《
うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!! 野太い格闘男子生徒達からの声援を受けながらも、一切表情を動かさずフンと鼻を鳴らし舞台へ上がるゲル。
そしてその隣には、フードを目深にかぶり、顔を隠した胡散臭い青年が立っていた。これが犬神の対戦相手だ。
「対する相手選手は、強烈なカウンターで二回戦進出を決めたダークホース! ふざけきった名前は本名なのか、偽名なのか? すべてが謎の包まれた男……クーネル・サンダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアス!!」
これまた犬神ほどではないにしてもそこそこの声援が飛ぶ。青年は、フードからほんの少しだけ覗ける口元が小さく弧を描かせ、小さく手を振ることでその歓声に答えた。
そして舞台に上った二人は配置につき、各々試合開始の合図を待つ。
それから数秒後、
「ではっ……はじめ!」
朝倉がそう告げると同時に、二人の姿が掻き消え舞台の中央で激突した!
…†…†…………†…†…
そんな二人の様子を選手席で見ていた、ネギ、明日菜、マリーは何となくこの戦いに嫌な予感を感じていた。
長い付き合いを持つマリーだから、日常を一緒に過ごすネギだから、悪い意味で犬神のことを気にしている明日菜だから、何となくわかるこの予感。
つまり、
「マリー……何となく、何となくなんだけどね?」
「言わんでええよ明日菜。ここにいるメンバーはようわかっとるから」
「あ、やっぱり二人もおんなじような気配を?」
「お前たちいったい何を話しているんだ?」
「明日菜さん?」
「そうアル、そうアル」
どういうわけか、今まで見たこともないハイレベルな戦いを繰り広げる二人の戦いをみているにもかかわらず、どんどん三白眼になっていく三人に、エヴァンジェリン、刹那、古菲は不思議そうに首をかしげる。
そんな三人に対し、ネギたちはあわてて何でもないと言いながら内心でこう思っていた。
『『『なぜだろう? この戦い、ものすごいどっちらけた感じで終わる気がする……』』』
三人の経験からくる一種の予知は、たがうことなく的中することになった。
…†…†…………†…†…
鋭い激突を繰り返す二人。その二人が交わす高度な戦略性をはらんだ拳打や蹴撃。プロの格闘家が見たら、自分の才能のなさに思わず首をくくってしまうだろうと思われるほどに二人の戦闘は凄まじかった。
だが、彼らはその口でこんな会話を交わしていた。
「というわけで、私はネギ君のお父さんの友人で、ネギ君にお父さんのとある伝言を教えるためにこの大会に参加したのです」
割とあっさりと正体をばらしたクウネル・サンダースこと、大戦の英雄のひとり――アルビレオ・イマ。
ここで真剣に戦っては無駄に力を消費しすぎると判断したのか、彼は戦闘がはじまると同時に割とあっさりと犬神に自分の素姓を暴露してくれた。
そんな話を聞きながらも、観客を飽きさせないために戦いをするふりをし続けて話を続けるゲルとアルビレオ。なかなかエンターテイメント精神あふれる姿だ。むろんこの試合をこっそりとみている超は「本当に助かったネ……」と、あっさり大会を盛り下げてくれたサディストを睨みつけながらそう漏らしていたとかいないとか……。
とにかく、アルビレオが説明を終えたとき犬神は小さく「なるほど……」とつぶやきを漏らした。
あれ? もしかして、いけちゃったりします? と、予想よりも意外とあっさり引いてくれそうな犬神の姿に、クウネルは思わず足を止めてしまう。
その時、
「っ!?」
ゴッ!! という轟音とともに、戦車が放った砲弾と遜色ない衝撃波を放つゲルの豪殺居合拳がアルビレオの体をかすめた。
タカミチと同じように観客に気を使ってゲルが横方向にそれを打てないのが幸いした。もし、殴り付けられるように横方向に放たれていたらさすがのアルビレオも一撃食らったかもしれない。
「……なぜ?」
「なぜ? だと? わらかないのか? ならば大戦の英雄よ、貴様にひとつ教えておくことがある」
驚いた顔で立ち止まるアルビレオに合わせて犬神も一度瞬動をやめ姿を現す。
観客たちはなんだなんだと、突然戦闘をやめ話合いの体制をとる二人に首をかしげ成り行きを見守った。
「貴様の事情は分かった。貴様の言動から推察するに貴様はこう言ったことを素直に話す人物ではないだろう。そんな貴様が正直に自分の事情を話したのだ。そこにはそれ相応の誠意が含まれていることを察することができる」
犬神が珍しく他人をべた褒めするのを聞きマリーは驚き、どこか見覚えのあるフード姿の男と犬神の評価を聞きようやくアルビレオの顔を思い出したエヴァが小さく首をかしげ、
「だがしかし、貴様が見せたものは本来の誠意とは大幅に違う」
「ほう? では本来の誠意とはなんですか?」
「決まっている」
そして、会話の流れから犬神が何を言いたいのか察した二人はとりあえず物理的な突っ込みを行うべくハリセンと魔法薬を用意した。
「ずばり、誠意とは――金だ」
「「対戦相手になにいっとんのじゃぁあああああああああああああああああ!?」」
ずけっと犬神が信じられないひとことをはいた瞬間、マリーのハリセンが気円斬張りの回転をして犬神に直撃。そのメガネを吹き飛ばした後、エヴァの氷結魔法が発動。犬神を氷漬けにする。
「おやおや……」
そんな犬神の様子にアルビレオは苦笑を浮かべるが、
「……ふん。でだ」
割とあっさりと氷を砕いて出てきた犬神に今度は顔をひきつらせた。
「貴様は僕の敗北に対して金は用意できているんだろうな? 金さえ払うなら僕はいくらでも負けてやる。だがしかし、今回の大会の賞金は1000万円だ。それだけの額を用意できる保証が、貴様にあるのかっ!! 英雄!!」
なんか最後にかっこつけて主人公を問い詰める敵役みたいな雰囲気を醸し出す犬神だが、ぶっちゃけ言っていることが最低すぎてあまり人の胸を打たなかった。
そんな犬神の信じられない外道っぷりにアルビレオは、
「……犬神さん。あまり大戦の英雄をなめないでいただきたい」
「なに?」
なぜか不敵な笑みを浮かべると、
「わがサンダース家には、代々伝わる秘伝の交渉法があります!!」
そのせりふを聞いた瞬間誰もが悟った。
あ、これダメっぽいフラグだと……。
「というか貴様……サンダース家ではなく、イマ家だろう?」
「ゴロ悪いから駄目です。今の私はクウネル・サンダースですから問題ないです。と、そんなことはどうでもいいですね。ではいきますよ、サンダース家に伝わる秘伝の交渉法!!」
犬神の突っ込みそサラッと流した後、アルビレオ改めクウネル・サンダースはキリッとした顔になり、
「とりあえず賞金全額からスタートで!!」
割とあっさりと賞金を譲った……。だが、
「足りんなぁああああああああああ!!」
「「「「えぇええええええええええええええ!?」」」」
犬神はあっさりとその申し出を拒否した。まだまだ搾り取れると思ったのだろうか……なかなか強欲なせりふだった。
そんな二人の会話に驚く観客席と選手控えを完全に無視し、二人の(別の意味で)熱い戦いの火ぶたが切って落とされた!
「イチキュッパの賞金を二割プラス! ボーナス一括払いでさらに5%アップ! 今ならポイント還元がついて13%ON! さて、いくら!!」
「まず賞金がイチキュッパではないな」
「くっ……引っかかりませんでしたか」
「いや、それ以外にもおかしいところが腐るほどあるやろ!?」
マリーの盛大なツッコミをしり目に、とりあえずこの試合はもうバトルないんだろうな~と、悟った観客たちが次の試合までといわんばかりに三々五々に散っていく。
当然そんな試合に盛り上がりなんてものがあるわけもなく……。
…†…†…………†…†…
とあるPCルームにて、超と葉加瀬がPCを使い情報操作を行っていたが、
「……博士。情報操作はどうなっているネ?」
「み、見ないほうがいいですよ~」
そういいつつも葉加瀬はちゃんとPCを超に見せてくれた。
葉加瀬が見せてくれたのはとある巨大掲示板。そのコメントを見ると、
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62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
ちょ、ファンタwww
63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
いつからこの試合がガチバトルだと思っていた?
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
なん……だと!?
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
誠意とは金だキリッ(`・ω・´) 名言だよな~
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
そうだね迷言だね
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
おまえ、それ上げるならコッチだろうが っ「わがサンダース家には代々伝わる秘伝の交渉法があります!!」
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
お前ら……こいつらが消えたり現れたりしてるの完全無視なの?
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
あれ? この書き込み前にも見たような……
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
イザナミだ
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
なぜ唐突にナルト? ジャンプスレ行け。俺今スパゲッティ食べてたら歯が真っ黒になって大変なんだから!
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
>>71
イカスミだ
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
あんな超人的な戦闘を見て。こんなときどうしたらいいかわからないの……
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
>>73
アヤナミだ
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
あれって魔法じみて見えるんだけど?
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
>>75
イザナミだ
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ちょっと見ない間に超たちの情報制御を外れて、大会の異常事態がイザナミのせいになっていた……。それを見た超は、
「……」
「あ、ちゃ、超さん!? どこ行くんですか!?」
「もうヤダ……オウチカエル」
「落ち着いてください!? まだまだ試合あるんですから、これからですって!!」
なんだかいろいろな意味で心を折られかけていたという……。
…†…†…………†…†…
数分後、クウネルとの金額交渉に成功した犬神はあっさりと自主リタイアを宣言しこの大会から姿を消した。
「それにしても犬神君、ホンマにリタイアしてよかったん?」
「なにがだ?」
そして、試合が早く終わったため、あいてしまった時間を犬神とともに未解決の依頼を遂行することとなったマリーは、意趣返し交じりの皮肉を犬神に飛ばす。
「もしかしたらネギ君が勝ったかもしれへんやん? ほかにも実力者はぎょうさんおるし? あの人が勝つって決まったわけでもないやんか」
マリーのザマァといわんばかりの表情を見て、犬神はフンと鼻を鳴らし、
「それについては問題ない。あれに勝てる人間はあのメンバーの中にはいないだろう」
「え? マジで? そんな強いん?」
「僕が本気だしてようやく互角に戦えるかぐらいだな」
化け物やんか……と、つぶやいてしまったマリーの額に犬神の貫手が突き刺さった。
「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああ!?」
「それにだ」
血を吹き出しのたうちまわるマリーを、そのうちギャグ補正が何とかするだろうと完全無視し、犬神は言葉を続ける。
「もし万が一……億が一、兆が一」
「そんなにネギ君が勝つ事態があり得へんのか……」
「野菜が勝ったとしても、賞金は僕のもとに転がり
「…………………」
犬神のその不吉なせりふに、賞金を手に入れたネギが何をされるのだろうとちょっとだけ怖くなるマリー。
「僕のものは僕のもの、助手のものも僕のもの、居候のものは全ぶ僕のもの! 森羅万象、世界のあまねくすべてが僕のもの!」
「ジャイアニズム!? どこの英雄王やねん!?」
「ふん。僕は英雄王ゲルガメッシュらしいからな。このくらい言ってもばちは当たるまい」
「は? なにいってんの?」
「さて、ではまず手始めに図書館島へ行ってみようか」
「あ、ちょ、犬神君! まってぇや!!」
こうして、一人の外道が麻帆良祭へと解き放たれ、今年の祭りはさらに混迷を極めて行くことになる……。
…†…†…………†…†…
ちなみに、その頃のネギは?
「な、なにか僕の人権が完全に無視された気がぶっ!?」
「あ、ちょ、ネギ!? 大丈夫か!?」
父親とのバトルで、突然作ってしまった隙を素でつかれてしまい、割とシャレにならない魔法の直撃を食らったとか食らっていないとか……。