祭りでにぎわう学園祭二日目の夜の麻帆良学園の裏路地を、一人の少年が足早に駆け抜けていた。
少年の名は夜神・E・天魔。何の因果か前世で死んだとき神に出会い、さまざまな特典を与えられここネギまへと飛ばされたいわゆる――オリ主だ。
…†…†…………†…†…
転生した当時の天魔は清く正しく美しく、オリ主の在り方として最も素晴らしい――原作ヒロイン大量ハーレムを狙う勘違いバカだった。
転生特典で「絶世の美貌」なんてものを貰っているからなおのこと性質が悪い。天魔は転生した瞬間にひどくモテモテで、この世の春といわんばかりの第二の人生を謳歌していた。
だが、
『なんで俺に惚れないんだよ!』
『はぁ? 何その自意識過剰なセリフ? 死ねば?』
当時彼が住んでいた町で最も可愛いといわれていた同い年の少女だけはどうしても振り向かせることができなかった。
天魔はそれが悔しくて悔しくて、必死になって自分を磨いた。彼女に振り向いてもらえるように体と特典でもらった能力を鍛え、ナンパな行いは鳴りをひそめた。
当初は持っていた男女に対する扱いの差は徐々に平等に近づいていき、神にもらったチート能力によってもともとカリスマも高かった彼は瞬く間に町中から頼りにされる男に育っていた。
だが、それでも彼女は振り向いてくれなかった。
そんな彼女を振り向かせるために必死に努力をし続けとうとう17歳になった天魔に、ある日一人の友人がつぶやいた。
『お前、あいつのことホント好きだよな~。あんだけ報われない恋しているっていうのに……尊敬するわ』
天魔はそこでようやく自分が彼女に抱いている感情が、彼女の鼻を明かしてやりたい対抗心ではなく、ただ彼女に振り向いてほしいだけの恋なのだと気付いた。
それから数週間後、天魔は勇気を出して彼女に告白した。
彼女はひどく驚いた様子でその告白を聞いた後、泣きそうな顔で返事を返した。
『ごめん……なさい。私はね……もうすぐ消えるの』
『っ!?』
彼女は未来を見る力を持っていた。そして幼少のころから彼女はとある未来を見続けていた。17歳になった自分が、白い閃光に貫かれ花弁になって消える光景を。
『本当は私にない未来を持っているあなたが羨ましかったの……私よりも長く生きられるあなたが妬ましかったの。本当は私、あなたに好きになってもらえるような女じゃないの』
泣きながらそう告白する彼女を、天魔は思わず抱きしめた。
そして驚き慌てふためく彼女に、天魔は固い誓いを交わす。
『ふざけるな。こんなところでお前が死ぬか。お前は俺が惚れた女だ。だれよりも強くて……優しい女だ。そんな女がこんなところで死んでいいわけないだろう!!』
それでも、もし……お前を予知どおりに殺そうとするやつがいるのなら。と少年はそこで言葉を切り、強く少女を抱きしめた。
『俺がお前を、守ってやる!!』
その時、少女は初めて天魔に対して嫌悪以外の表情を見せた。
それは情けなく崩れた泣き顔だったが、その泣き顔は天魔にとっては何よりも美しいものに思えた。
だが、
『
その数日後。とある森で正体不明の敵に襲われた天魔は敗れ、少女は予知の通りあっさりその身を貫かれて消えていった。
『あ、あぁ……』
『ごめんね、天魔……きちんと守られてあげられなくて』
地に倒れ伏した情けない天魔に向かって、消え行く彼女は儚い笑みを浮かべて謝罪を告げる。そして、
『大好きだったよ……』
『っ……!!』
それを遺言に、彼女は世界から消滅した。
『恋人だったのか? だが落ち込むことはない人間の少年。所詮はただのまがい物。厄介な能力を持っていたので消えてもらったが、気に病むことはない。あれは本来実在しない存在なのだから』
そう告げながら姿を現すのは原作で敵の幹部だった、黒いローブの男――デュナミス。
そんな彼の姿を見て、あの白い一撃が何だったのか天魔は悟る。そして、
『完全なる世界……』
『っ!? 貴様……なぜその名を!?』
驚くデュナミスを無視して、天魔は先ほどデュナミスからの一撃をくらいもうボロボロな自分の体に魔力を通す。
激痛が走る。全身に無理な負荷をかけて無理やり動かしているせいか? このまま動き続ければ遠からず自分の体は動かなくなると天魔は本能的に悟る。
だがそれでも、彼には戦わないといけない理由があった。だから、
『
『くっ……なんだこの魔力は!!』
彼は己の全身全霊をかけて、デュナミスへと戦いを挑んだ。
…†…†…………†…†…
数ヵ月後。彼の姿は学園国家アリアドネーにあった。
彼はここで、あの時デュナミスに殺されかけていた自分を救ってくれた師匠とともに魔法の訓練を重ねていた。
『……もう俺が教えることはなさそうだな』
『師匠……ありがとうございます』
そしてその日は、師匠からの旅立ちの日――師匠から免許皆伝をもらっていた天魔は今日から、本格的な
『正直復讐なんてやめて俺の後を継げと言ってやりたいが……お前はもう止まれないんだろう?』
『……すいません』
『いいさ。弟子の生き方に口出しできるほど、できた人間じゃねぇしな』
無精ヒゲをジョリジョリとこすり、煙草をふかした白衣を着るメガネの角付きおっさんは苦笑とともに煙を吐き出す。
『餞別だ。持っていけ……』
『なっ!? 師匠……これは!』
『出所は聞くなよ?』
師匠が渡してくれた地図はいまだに水面下で《完全なる世界》とつながっていると思われる組織たち。
ぱっと見ただけで数千近くあるその情報にはメガロメセンブリアの判とともに『超重要機密』の文字が躍っている。
『応援も何もしてやれねぇダメな師匠の、せめてもの手向けだ。復讐が終わるかあきらめるかしたら、また俺のところにそれを返しに来い』
『……ありがとうございます。師匠』
天魔は泣きながら深々と頭を下げ、師匠に別れを告げた。
それから数時間後、天魔がいなくなった師匠の研究室には一人の男が立ち寄ってきていた。
『いったか』
『ガチでお前のこと恨んでいるっぽかったぞ? いいのか?』
『いいも悪いもない。私は仕事をしただけだ』
『かっ……それもそうだな』
だからこそ、あいつの復讐は無駄なんだけどな……と、師匠は煙草をふかしながらメガネをはずす。
『さて、次はどの街を消せばいい?』
『……頼りにしているぞ?
その呼び方、俺に似合わないからやめろって言っただろう……。と、師匠は真紅に燃える瞳をメガネの下からさらした。
…†…†…………†…†…
『どうして!? どうしてなんですか師匠!! どうしてこんなことに……』
『どうしてか? はっ……きまってんだろう』
原作知識を頼りに、フェイトをとらえようと京都を訪れた天魔。そんな彼の前に立ちふさがったのは、真紅のローブに仮面をつけた不気味な魔法使いだった。
天魔は持てる力のすべてを使い真紅の魔法使いと対峙。辛くも打ち倒しその胸に
だが仮面の下の男の顔は……彼をここまで育ててくれた、師匠の顔で。
『俺はお前の敵だったんだよ……それ以外にここで戦う理由があるのか?』
『じゃぁ、じゃぁ……全部偽物だったんですか。俺があなたと共に過ごした日々も、あなたが俺に与えてくれた優しさも……全部、全部ウソだったというんですかっ!!』
『あぁ……あれな』
泣きわめきながら問いをぶつける自分の弟子のほほに、死にかけた彼は優しげな微笑みを浮かべて触れる。
『うそじゃねぇ……うそじゃねぇんだよ……。あの時は本当に楽しかった』
『っ!!』
『ほんと……なんでこんなことになっちまったんだろうな? あのままお前が俺の研究室にいて、俺もこんなできそこないの体じゃなくて、ちゃんとした人間の体で、普通の学者とその弟子として毎日を過ごして……』
いつものように、騒がしくとも、楽しい日々が送れたら、
『俺はそれだけで、満足だったのに……』
『うぁ……』
『まったく……強くなったなぁ……天魔。うれしいぞ』
最後にそう言って彼の師匠はこと切れた。
そしてそんな彼の死を洗い流すかのように京都に突発的集中豪雨が訪れた。
師匠の体は、まるで師匠の存在が最初からなかったかのように光の粒子となって消え雨の中に溶ける。
騒がしい雨音が天魔の嘆きの慟哭をかき消してくれる。
だから天魔は泣き続けた。もう何が悪で何が正義なのかわからない、どうしようもない胸のもやもやが晴れるまで……。
…†…†…………†…†…
師匠の信じられない秘密を知った天魔は、まるで死人のような顔で天魔は麻帆良にたどり着いた。
だが今までのように何かをしようという気は起きなかった。
ただ惰性で、原作に関係ある場所へと足を向けてしまっただけだった。
そんな彼に、一人の少女が話しかけてきた。
「ちょっと、お兄さんどうしたの? 大丈夫?」
「……あ?」
突然かけられた声に天魔は顔を上げる。
そこにいたのは、
「どうしたの? 死んだ魚みたいな目してるよ?」
原作では元気印が目立っていた、ラッキー少女こと椎名桜子だった。
「そう……義理のお父さんが」
「あぁ……」
いろいろと限界が来ていた天魔は、ついつい椎名の優しさに甘えてしまい今までのことを話してしまった。
まぁ、さすがに魔法やら人死にやらのことは言えなかったので大体のところをあいまいにぼかしたが、話の概要ぐらいは伝わったと思われる。
そんな話を聞いた椎名は、
「でも、最後にお父さんは笑っていたんだよね?」
「あぁ……」
「そのなくなった恋人さんも?」
「まぁ……一応」
「だったらさ……」
あなたはその人たちに向かって、胸を張ってもいいんじゃないかな?
椎名のその言葉に、天魔は大きく目を見開いた。
「いつか死ぬって思っていたその女の人はきっとあなたが守ってくれるって言って、安心したと思うし……あなたのお父さんはあなたみたいな子供ができて本当に良かったって思っていたと思う」
「……なんで、おまえがそんなことわかるんだ?」
「わかるよ。……だって」
そこで桜子は言葉を切ると、
「今日そこのクレープ屋さんがクレープを二割引きで売ってくれていたんだよ!」
「……はぁ?」
意味がわからない。そう首をかしげる天魔に苦笑を浮かべた後、椎名は続けた。
「こんな小さなことだって私は幸運だって思える。だったら、あなたに出会えて、あなたに守ってもらえて……あなたに父と慕ってもらえた人たちは、もっと幸運だったて思うにきまってるじゃない」
「……」
桜子のその言葉に天魔は唖然とした後、
「あぁ……そうだな。そうだったら、いいな」
「えぇ!? ちょ、どど……どうしたの!? 私なんか変なこと言った!?」
救われた気がして、情けなくも涙をこぼしてしまった。
…†…†…………†…†…
そして、時は戻り。麻帆良学園祭。
ネギに危機を知らせるためにここ麻帆良を訪れた彼は、完全なる世界の追撃を受けていた。
敵はデュナミス。彼の恋人を殺した怨敵。
「どうやらここまでのようだな少年」
「……そうみたいだな根暗野郎」
少年はとうとう裏路地の一角へと追い詰められてしまう。左右後ろは巨大な壁。前方にある出口の十字路にはデュナミスと彼の影魔法で作り出された数体の悪魔が立ちふさがっている。
「私もお前も……この戦いで大切なものを失いすぎた。いいかげん決着をつけよう……夜神」
「もとよりそのつもりだ。かかってこいよ、クソ野郎」
天魔は、疲れきった声で提案してくるデュナミスに答えを返し、袖口から二本の隠しナイフをとりだし両手で構える。
「……あいつの戦闘法か」
「あぁ、そして今は俺の戦闘法だ!」
「まったく……あいつは貴様に肩入れしすぎた。貴様の命を助ける代わりに、引退したはずだったあいつがまた戦場に引きずり出されたんだ」
いつもどおりな平たんな声音。だが長年彼を恨み続けていた天魔にはわかる。その声に若干の憎しみがこもっていることが。
「俺のことが憎いのかよ?」
「貴様は私が憎くないとでも?」
「あぁ、憎いよ……でも、俺はもうそれだけでは戦わないって決めたんだ」
「なに?」
デュナミスの疑問の声に、天魔は不敵な笑みを浮かべる。
「俺の両肩には、今まで俺を支えてくれたすべての人たちの思いが込められている」
恋人だった少女、アリアドネーで出会った人々、敵だったけど自分を愛してくれた師匠……。そのすべてが天魔の脳裏によぎり、決意を固めさせる。
「そんな人たちの思いが俺を支えてくれている。だからそんな人たちを消させないために、デュナミス……俺は何度でも、お前の前に立ちふさがることを決めた」
「……私を倒しても」
「無駄だって言うんだろう! だろうな……お前のボスはお前みたいなやつをいくらでも作り出せるんだから!」
「っ!?」
なぜそれを知っている!? と、デュナミスの口が動きかける。だがその前に、
「だとしてもかまわない。あんたみたいなやつがいくらでも現れるんなら、おれが何度でもたたきつぶす。お前の黒幕があきらめないなら、今度はそいつを叩き潰す。いいかよく聞け……」
そこで天魔は大きく息を吸い、
「俺が生きている限り、あの人たちを犠牲にするお前たちの計画は絶対叩き潰す!」
天魔はそういうと同時に駆け出しデュナミスに向かって突撃する。デュナミスもそれに即応し悪魔たちを前に出し詠唱を開始した。
熱い激戦の火ぶたが切って落とされる!
そう……この物語は、
「デュナミスゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
「ヤガミィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
運命に翻弄された、一人の転生者の物語……。
「ん?」
ではない。
「ね」
「こ?」
瞬間、二人の目の前を一匹の黒ネコが通り過ぎ、
「邪魔だ。どけっ」
「ぶっ!?」
天魔はまるでダンプカーにひかれたかのような衝撃を伴うひざ蹴りをくらい、何者かに轢かれる。
白目をむいて気を失う天魔。それを踏みつけネコの追撃を行う少年少女……。
そう、この物語は、
「犬神君犬神君!! いま私らものすごいフラグへし折った気がすんねんけど!?」
「些事を気にかけるな安川! 僕らの大事(捕獲依頼されたペットの猫)は目の前にある!!」
麻帆良学園都市でひたすら金を稼ぐことに執着した……とある外道の少年探偵の物語!!
…†…†…………†…†…
後日談というか今回のオチ。
『あの……デュナミス様。これどうします?』
「……ころ、す?」
『いや、さすがにそれはどうかと……空気読めてませんって』
気絶した天魔を困ったように見下ろすデュナミスと使い魔たちが、ひそひそと相談し合っていたとかいないとか……。
この後このオリ主がどうなったとか……聞かれても困る!!
犬神ゲルの原作を参考にさせてもらったネタ作品です。
いつから……このストーリーがシリアスなものだと思っていた!!
さて、次回はいよいよ学園祭最終日!!