とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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42話・過去の清算

 裏路地という狭い空間で、無数の閃光が入り乱れる。

 

 手裏剣型の気弾。気をまとったチャイナ。鋭くとがれた投擲ナイフ。

 

 それらが放つ閃光によって、鮮やかに彩られた裏路地。だがその美しさとは裏腹に、そこはまさしく、

 

「ぐっ!?」

 

「古菲!」

 

「よそ見をしている暇があるの?」

 

 戦場だった。

 

 再び自分に向かって吹き飛ばされてくる古菲をあわてて受け止めた楓に対し、ノゾミは容赦ない追撃を加えてくる。

 

「《薄刃蜉蝣》」

 

「……楓」

 

「っ!!」

 

 気を失いかけている古菲の警告に、楓は瞬時に反応し虚空瞬動。軽やかに天へと舞い上がる。

 

 その直後、無音の刃が、二人が今までいた場所を引き裂いた。

 

「あら、うまくよけたわね」

 

 まずいでござるな……。思った以上にこの御仁……つよい!! と、余裕あふれる上から目線で、見事に自分の攻撃をよけた楓をほめるノゾミの姿に、楓は思わず冷や汗を流した。

 

 たしかに、世界最高の暗殺者という呼び声はだてではなかったらしい。犬神やⅥたちのような派手な攻撃技はないが、姫が何度も使っていた帝国の基礎的気力運用法や、瞬動に使う気の調整。身のこなしや投擲ナイフさばきなど、基礎的な技術の水準が他の戦闘者と比べると、段違いなまでに高い。

 

 そのことからわかることは、

 

「あなたは……いったいどれほどの努力をしてきたのでござるか!?」

 

「え? さぁ……帝国に入ってからは訓練していない時間以外があまりなかったから、正直どのくらいといわれても形容しようがないわね」

 

 寝る時であっても食事の時であっても、訓練する方法はいくらでもあるんだから。と、ノゾミは告げた。そして、

 

「それに、私には兄さんみたいな才能がないからね。そのくらいしていかないとあの人の隣にはいられ……いや、まぁ、兄さんは無理やりにでも私の隣にいようとするでしょうけど、あんな変態兄貴にそんな気を使わせるなんて、私のプライドが許さなかったの」

 

「なぜ……そこまでできるあなたが!」

 

 暗殺者なんてやっているでござる!? と、楓は思わずそう叫んだ。

 

 武芸者として、一人の戦士として――ここまで自分を磨き上げることができた彼女が、なぜそんな薄汚れた仕事を続けているのか? と。

 

 そんな楓の必死な問いかけに、ノゾミは思わず苦笑を浮かべ、

 

「私たちね……親を二回殺しているの」

 

「!?」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 初めての殺人は孤児だった彼女を引き取った、里親だったという。

 

 その里親は人間としては最低の部類の人物で、まだ幼かったノゾミに性的暴行を働こうとして、孤児院から彼女を引き取ったのだそうだ。

 

 それを知った彼女の兄――サディストは、ノゾミが襲われかけている光景を目撃し、その里親を近所で拾ってきた金属バットで殴打。気絶させてノゾミを取り返したらしい。

 

 だが、その里親はしつこく彼らを追ってきたので、

 

――殺した。何のためらいも覚えなかったという。今度はノゾミも協力し、近くに落ちていたガラスの破片でその里親をめった切りにしたらしい。

 

 そうして、ことをいたしてしまい、物言わぬ死体に変わった里親に前に途方に暮れた様子で、どうしよう? うなだれている二人の前に現れたのが、

 

『死体に……子供? 死体あさりの類か?』

 

 全身に傷を負ったロングコートをまとうグラサンの巨漢――処刑人ジルドレが通りかかった。

 

 とりあえず金を奪おうと彼に襲い掛かった二人は、割とあっさりジルドレの手によって返り討ちに会い、事情を洗いざらい吐かされた。

 

『なるほど、クズだな』

 

 そして、事情を聴き終わったジルドレは、ノゾミたちと彼に殺された里親をそう評した後、

 

『行く場所がないならおれについてくるか? もっとも、俺がいる場所もお前らと変わらん屑の集まりだが』

 

『?』

 

『おじさん……いったいどこに連れて行ってくれるの?』

 

『《帝国》――俺たち、暗殺者たちの暗殺者による暗殺組織だ』

 

 その時、ジルドレは彼らの新しい親となった……だが。

 

『やぁ、ジルドレ! 見て見て! あんたの言うように俺らちゃんと殺したよ?』

 

『あんたが言うように仕事を選ばず、黙ってこなした。《帝国》のトップ――皇帝(カイザー)を殺したよ? だからほら』

 

 ほめてちょうだいよ? と、告げた兄弟に帰ってきたのは……殺意が混じった、ジルドレの鉄拳だった。

 

 

 それから数か月後、帝国のクーデターに参加した暗殺者たちを殺して回るジルドレの暗殺依頼が、仲間の暗殺者からだされた。だからノゾミたちは、

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ジルドレを殺したのよ……」

 

「っ……」

 

 ノゾミの凄絶な過去に、楓は思わず絶句する。

 

 そんな楓にたいし、ノゾミはどこか壊れた笑みを浮かべながらナイフを構えた。

 

「わからないでしょう? あなたたちは、全然私の気持ちがわからないでしょう? 私もおんなじよ……。あなたたちのような日向で生きてきた人間の気持ちがわからない。どうして暗殺者がダメな職業なのかわからない。私たちにとってはもう、人殺しは立派なライフワークよ。それをよりうまくより確実のこなすため、修行を続けることのどこがいけないことなの?」

 

 言ってみなさい。たぶん理解はできないけど……。と、不気味に笑いながらこちらに近づいてくるノゾミに、楓は動けなかった。

 

 気圧されてしまっていた。戦う気力が奪い取られてしまっていた。

 

 だってそうだろう? こんな人の形をした化け物相手に――

 

「いったい、どうやって戦いを成立させろと……!?」

 

 超はなんて無茶な依頼をしたのだと楓は思った。この人間に人を殺すな? 馬鹿な依頼だ……。殺すこと以外でしか問題の解決にしか当たれないこの人物が、そんな言葉を理解しているとは到底思えなかった。

 

 だから楓は動けず、

 

「いいの? 死んじゃうわよ?」

 

「「っ!?」」

 

 やすやすと、ノゾミの接近を許してしまう。そして、

 

「そう、諦めたのね。じゃぁ、死になさい?」

 

「くっ!!」

 

 楓の動体視力ですら認識できないほどの速度で振るわれたナイフが、彼女の頸動脈へと一直線に伸び、

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんが、人の弟子を勝手に殺すのはやめていただきたい」

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 楓の視界を、漆黒の燕尾服が覆い隠してくれた。

 

「あな……たは!?」

 

「最近楓殿の稽古をつけることになりましてな。一応師匠となったからには、弟子が殺されかけているところを黙ってみているわけにはいきますまい」

 

 その燕尾服の主は、どことなく優雅さを感じさせる深い声音で苦笑をうかべ、

 

「わが師匠――セバス・張に怒られてしまいます」

 

「セバス・張!? 名にそのパチモン黒執――じっ!?」

 

 瞬間、ノゾミの背後に現れていた燕尾服の主――クラレンスの分身が瞬時に現れ、ノゾミの意識を、首トンの一撃で刈り取る。

 

 首を手刀でたたいて意識を刈り取るあれである……。

 

 いや、あれ、ファンタジー格闘技であって、実際にやろうと思ったらそれこそ首をもぐほどの腕力が必要などという本末転倒な技なのでござるが。

 

 なんでできんだ……。と、割と真剣に引く楓を振り返り、

 

「ご無事でしたか、楓殿」

 

 犬神アンダーグラウンドサーチ最後の職員が、ようやく再登場を果たした。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 アルカナは、自分が見定めた敵がいる場所へと次々と時間跳躍弾を送り込む。

 

 もはや遠慮はしない。出し惜しみもしない。全力全開の、彼女の持てる技術すべてを使った狙撃銃の速射攻撃。

 

 しかし、敵は最強のスナイパー。そんなアルカナの速射にもすぐに反応し針を通すような弾丸送りによって、彼女の速射弾を空中で次々と打ち落とす。

 

 だが、

 

「その迎撃は、私の考えが正しいことを示しているんだろう――13番!!」

 

 先ほどまでは十発に五発は見逃されていたアルカナの弾丸が、今やそのすべてが迎撃されている。

 

 それはすなわち、アルカナの弾丸が着弾するとまずい位置に、13番がいるということ!!

 

「あなたがいる位置は、麻帆良初等部の屋上で正しかったんだ!」

 

『どうして……わかったんですか?』

 

 インカム越しに聞こえてくる声にはまだ感情の乱れは見えない。まだまだ余裕があるということだろう……さすがは私の自慢の師匠だ。と、アルカナは少しだけ誇らしげに笑いながら、引き金を引き、言葉を続ける。

 

「さっきの転移符を使った転移弾。あの中の一発が私の弾丸を撃ち落としたことですべてがわかったんだ。あなたはプロにして一流の狙撃主だ。そしてプロゆえに、無駄な弾丸は使わない。そんなあなたが、今まで戦い続けて大体の実力がわかった私に対して、確実によけられるとわかっているのに転移弾を送りつけるなんて……らしくない。そこで私は気づいたんだ。あなた他の目的は、私を転移弾で仕留めることではなく、そう見せかけることによって自分に直撃する弾丸を事故に見せかけて排除し、さらに私が割り出してしまった居場所をごまかそうとしたんだと!」

 

 アルカナの鋭い洞察と、13番にたいする不動の信頼によって成り立ったその推論。答え合わせとして13番から帰ってきたのは、

 

「っ!?」

 

 アルカナのほほをかすめるように放たれた、一発の弾丸だった。

 

『油断していたわアルカナ……。本当に立派になって。だから私も答えてあげる。ここからは稽古なんかじゃない――全力であなたを倒させてもらうわよ?』

 

 アルカナは、その言葉に思わず打ち震える。

 

 だが、その震えは初等部校舎から漂ってくる、針を通すような細い――しかし、濃密な殺気におびえたのではない。

 

 それは、ようやく自分が自分の師匠に認められたということを自覚した、

 

「ははっ……!!」

 

 歓喜の笑み!!

 

「わかってる、わかってるよ13番! 私も、全力で、あなたに敵対してみせる!!」

 

 瞬間、アルカナは居場所が分かった狙撃手を打倒するため、最後の切り札を切る!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 13番はスコープの中から突然消失したアルカナの姿に、思わず舌打ちを漏らした。

 

 そして、

 

「転移符。弾丸用じゃなくて自分用ね!」

 

「私は若いからな。あなたみたいに大人買いはできない。でも、少ないなら少ないなりに、使いようはあるんだ」

 

「うそをつきなさいよ……この若作り」

 

「年のことは言うなといったはずだが!?」

 

 怒声交じりに背後から聞こえてくる声に、振り向くような愚行は侵さなかった。

 

 13番は即座に持っていたライフルを捨て身軽になり、瞬動。その場から瞬時に飛び退く。

 

 そんな彼女の後を追うように、

 

「相変わらずいい勘をしている!」

 

 漆黒の繭が連続して生み出され、屋上の一角を飲み干した。

 

 撃ち手は――決まっているわね。と、なんとかその眉たちの追撃から逃げ切った13番は、童顔に似合わない獣のような笑みを浮かべながら、弾丸を放った主に目を向ける。

 

 両手にオートマチック銃を握った、懐かしくもあり、別人のように育った驚きもある――元弟子。アルカナの姿へ、

 

「ようやく、追いついたぞ」

 

 仮面はもう……かぶっていないんだな。そう言って笑うアルカナ――龍宮真名に、13番――十三階百々は答える。

 

「えぇ、教師をするのに、あの仮面は必要ないから」

 

 懐かしむように告げた龍宮の質問に返したのは、もう昔とは違うという決別の言葉。だが、それでも真名は嬉しそうだった。

 

 長い間……隠れちゃっていたからね。と、そんな真名の姿に百々は思わず苦笑を浮かべた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 過去の清算はいつかするべきだったと百々は思ってはいない。自分みたいな薄汚れた女は、彼女に見つからないまま一生を過ごしていたほうがいいと思った。だが、今回の事件で自分は真名の担当を学園長に命じられてしまった。

 

 いったいどうして? 百々はこの配置を聞いたときは烈火のごとく怒り学園長に食って掛かっていた。

 

 守ってくれるのではなかったのか? と、隠し通してくれるのではなかったのか? と。

 

 だが、そんな彼女の叱責に帰ってきたのは、

 

『百々先生。教師とは生徒を導く立場にいる者のことじゃ。決して、生徒から逃げ回るような人間を、教師とは呼ばん』

 

 学園長からの目が覚めるような痛烈な叱責だった。

 

『初等部の学生たちから聞いておるぞ? 君はいつも優しくて、いつも頼りになる憧れの先生じゃと。じゃがな、その生徒たちの大半はこうも語っておったのじゃ。自分たちを見てくれている気がしない……と。まるで遠くにいる誰かの背中をいつも見つめているようじゃと』

 

 そんな学園長の言葉と、生徒たちの思ったままの言葉に、百々は愕然とした。

 

『確かに君の過去は重い。わしらにはどうすることもできん。だからわしらは君の存在を隠し、臭いものにふたをするような対応したできんかった。じゃがの、今の麻帆良は違うのじゃ……君の過去を清算できる存在が、確かにこの学園都市には存在しておる』

 

 そして、そんな学園長の発言を聞き真っ先に思い浮かんだのが、

 

『アル……カナ?』

 

『……百々先生。これはネギ君と同じように、わしから君に出す――教師になるための最終課題じゃ』

 

 思わずといっていい様子でつぶやいた百々の様子に、学園長は今までの厳しい詰問するかのような表情をけし、微笑んだ。

 

『自分の過去に――決着をつけてくるといい』

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そんな学園長の言葉を思い出し、百々は自分の眼前に立つ真名に告げる。

 

「アルカナ……私はね。もう戦場(あそこ)で戦える気がしなかった」

 

「知っている。部隊長に聞いたよ」

 

「私はね……あの人を殺してしまったの」

 

「知っている。あの人の死んだ状況から見て、あなたがそう思っていることも推察できた……」

 

「そう。じゃあ質問するわね……アルカナ」

 

 そんな私を探し出して、あなたはいったい何がしたいの? と、百々は魂を絞られるかのような葛藤の中で、真名にそう質問する。

 

 恨みを晴らしたい――という線は絶対にない。それは、狙撃手としての師匠だからこそ彼女が一番理解していた。そういう風には、アルカナは絶対に考えないと。

 

 狙撃手となるには優しすぎる少女だったから……彼女は決して、自分を恨んだりすることができないだろうと、百々は知っていた。

 

 だったらどうして、あなたは私をこうまでして追いかけるの?

 

 そんな百々の問いかけに、

 

「そんなの、決まっている」

 

 真名は答えた。

 

「あなたに返さなきゃいけないものがあるからだ」

 

 そして彼女は両手に持つ二丁拳銃を百々に向け、

 

「あなたに、伝えたいことがあるからだ!」

 

 引き金を引いた。

 

 瞬動によってその軌道から逃れる百々。しかし、真名も瞬動を行い完全に百々が射線から逃れることを許さない。

 

「やめておけ13番! ここは私に苦手な距離はない。対するあなたは狙撃専門(・・・・)の銃撃者。この距離で私に勝てる手段を、あなたは持っていないだろう!!」

 

 だからこそ、真名はこの距離までやってきたのだ。ロングレンジでは決して勝てない大先輩を打倒するために、銃撃者としての恥も外聞もかなぐり捨てて、彼女の姿が、呼吸が聞こえる距離までやってきた。

 

 いい判断よ、アルカナ。そんな真名のせりふを聞き、百々は思わず笑みを浮かべる。

 

 本当に、いい子に育ったわ……と。だが、

 

「舐めないで。小娘風情が」

 

「っ!?」

 

 瞬間だった、真名のほほをかすめ、一発の弾丸が彼女の後ろにあった落下防止用のフェンスに激突したのは。

 

 そして、その着弾点を起点に、

 

「っ!? これはっ」

 

 漆黒の繭が出現する!

 

「時間跳躍弾!?」

 

「大変だったわよ? あんまり激しい衝撃を与えると暴発しちゃうから、ぎりぎり暴発しない程度の衝撃を、弾丸が生み出す衝撃波を使って与え続けて弾丸の勢いを殺し、私のところに落とすのは」

 

「っ!?」

 

 信じられないといわんばかりの顔でこちらを見つめる真名の姿に、百々は思わず舌を出して笑った。

 

 現役時代は弾丸が足りなくなったときは、よくこの方法で補給したものだ、と。そして、

 

「それに真名、忘れていない。確かに私は狙撃専門の銃撃者だけど」

 

 あなたに護身用として羅漢銭を教えたのは、わたしなのよ? と、百々が告げた言葉に、真名はさらに目をむいた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 やられた。と、真名は思った。

 

 まさかこの距離まで詰めたにもかかわらず、まだそんな強力な反撃手段を持っているなんて! 相変わらず抜け目のない……。

 

 やはり敵が一枚も二枚も上手だ。勝てる要素が瞬く間に無くなった。と、真名は現状を確認するかのように手元へと一瞬目を向ける。

 

 持っている銃は速度に定評があるオートマチック銃だが、達人による羅漢銭の射撃速度は優にその三倍に至る。

 

 当然だ、銃が射撃を行うには、構えて照準して引き金を引く、という動作がいくつも必要だが、羅漢銭は敵を見て指で弾丸をはじくというワンアクションで射撃を済ませる。

 

 いかに早打ちの達人であろうとも、羅漢銭の射撃速度を凌駕するのは物理的に不可能なのだ。

 

 だからこそ、真名はこの羅漢銭で古菲との高速連続格闘を制することができたわけだが……。

 

「くっ!」

 

 この場でその情報は、真名の危機的状況を的確に表しただけだ。

 

 だが、

 

「負けるわけにはいかないんだよ!!」

 

 真名はそれでも抵抗する意思を消さなかった。

 

「ごめんね、アルカナ。あなたの事情を受け止めてあげられる勇気が、まだ私にはないの」

 

 だが、百々はそんな真名の主張を泣きそうな顔になりながら粉砕した。

 

「だから、ごめんね。さようなら」

 

 そして、百々は羅漢銭を放つ。弾丸は先頭の最中に奪い取った時間跳躍弾。

 

 よけられるような攻撃ではない。自分の銃撃では間に合わない。それを悟った真名は、瞬時に両手の拳銃を捨て、

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 懐から取り出した物体を、決死の覚悟で百々に投げつけ、

 

「っ!!」

 

 時間跳躍弾が、自分の体に着弾したのを感じた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 漆黒の繭が、真名を包み込むのを見て百々は思わず泣き笑いのような顔でそれを見つめた。

 

「ごめんね、アルカナ……情けない師匠で、本当にごめん」

 

 今の自分は謝ることしかできないから。結局逃げてしまい、学園長の課題をこなせなかった自分は、もうこの学園都市を去るしかないから。だから百々は、必死に真名に向かって謝罪を繰り返そうとして、

 

「謝るな!!」

 

「っ!」

 

 繭から聞こえる真名の叱責に、思わず息をのんだ。

 

「何様のつもりだあなたは。この勝負の勝者にでもなったつもりか!」

 

「え……で、でも!!」

 

「この戦いは……私の勝ちだ!」

 

 そういって、繭越しに真名が指差したところへ、百々は視線を向ける。

 

「……あっ」

 

「わかったか? 私はちゃんと、あなたに返すべきものを返したぞ!」

 

 そこには、彼女が最後に投擲した一枚のカードが、百々のズボンのすそに突き刺ささり、彼女をそこに縫いとめていた。

 

「いいか、それは……コウキの形見の品の中に《13番へ》と、書かれて残されていたものだ! あんたのために用意されていたものなんだ!」

 

「……なにを」

 

「よく見てやってくれ!!」

 

 真名の必死の呼びかけに、百々はおぼつかない手つきでそのカードを掴み取り、

 

「っ」

 

 驚きとともに悟った。

 

「この……カードは」

 

「あぁ。あんたと結ぶために作られた……本契約のカードだったんだ!!」

 

 そのパクティオーカードは、仮契約を本契約にするための契約カード。それが示す意味は、

 

「コウキは、一生あんたと一緒にいるって……あの戦いが終わったら、そういうつもりだったんだよ!!」

 

「……」

 

「そんなコウキが、あんたに向かって恨み言を言わなかった理由がわかるか!!」

 

「……!!」

 

「自分がいなくなった後も……あんたに幸せになってほしかったからだよ!!」

 

「うぅ……!!」

 

 百々は思わず座り込んでしまった。

 

 百々は思わずうつむいてしまった……だってそうだろう。

 

 

 こんな情けない泣き顔……弟子の前じゃ見せられない!! そんな気持ちでいっぱいの百々に対し、真名は小さく笑いながら話しかけた。

 

「こんど、墓参りに来てやってくれ……。コウキの墓はあいつの実家だった龍宮神社で管理しているんだ。そして、言ってやってくれ」

 

 黒い繭はどんどん小さくなっていく。だが、真名の声には焦りは見えなかった。

 

 もう、言いたいことは言えたから。伝えたいことは伝えたから……そして、それを相手はちゃんと受け取ってくれたから。真名の声は、それを悟っているものの声で、

 

「あなたは今、とても幸せだと……」

 

「うん……きっといく」

 

 涙でにじむ視界と、ふるえる情けない声だったが……百々はなんとか、そう答えることに成功した。

 

 それを満足げに見つめた真名は、

 

「あぁ、まってるよ」

 

 そういって、3時間後の世界へととんだ。

 




 ネタがない……だと!?

 狙撃手組め、こんなシリアスな話を俺に書かせていったい何をする気だ!?
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