とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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5話・怪盗・スパルタンⅥ!!

 麻帆良の静かな夜の闇の中、一人の少年が閃光のようにその闇を駆け抜ける。

 

「待ちなさい!! 六重!!」

 

「刀子……今の彼はスパルタンⅥだ……」

 

「はっはぁ!! 刀子女史、そんなのんびり歩いとったら俺には追いつかれへんで!!」

 

 何やらやたらと目立つ特徴的なセットをされた逆立った金髪に、目元を隠す真紅のマスク。少年の速さによってたなびく真紅のマフラーが夜の闇を鮮やかに彩る。

 

「そこまでだ、スパルタンⅥ!! 今日という今日は……」

 

「ぶち殺してやるから覚悟しやがれぇえええええええええええええ!!」

 

「ちょ、先輩!?」

 

 その先に現れたのはこの学校の魔法先生。レイジーとジョニー。一応広域指導員にその名を連ねているが、この学園都市にいる魔法先生や魔法生徒からは過激思想を持つということでつまはじきものにされている凸凹コンビである。

 

「死ね!!」

 

「いや、殺しちゃダメですって!! スパルタンⅥは僕たち魔法先生や魔法生徒の質を上げるためにわざわざ泥棒を働いて……」

 

「わかりやすい説明おおきにレイジー!!」

 

 明らかに殺傷能力が尋常ではなさそうな、通常の拳銃に三倍の大きさはある拳銃を軽々と振り回しスパルタンⅥに焦点を当てるジョニーに、慌ててレイジーは飛びついた。

 

 ちなみにジョニーは自分に逆らう生徒は皆殺しにしようとするという悪癖を持っているため相方のレイジーはかなりの苦労を強いられていた。

 

「お~い。れいじ~。きいつけや」

 

「へ?」

 

 そんな風に二人がもめていた時だった。突然かけられたスパルタンⅥからの注意にレイジーはジョニーから目を離してそちらを振り返った。

 

 するとそこにはスパルタンⅥの靴が見えて……。

 

「「へぶっ!?」」

 

 その足に顔面を踏み抜かれたレイジーとジョニーはそんな悲鳴を上げて地面にたたき伏せられる。対するスパルタンⅥは二人の顔面を踏み台に大きく跳躍。気で強化された脚力を利用し、近くに建っていた時計塔の頂上へ一足飛びに跳躍した!!

 

「ははは!! 今回も俺の勝ちやな魔法生徒先生の諸君!! ほな、このお宝は成功報酬としてきっちりもらっていくさかいに、うらまんといてや~」

 

 そういって彼は煙をまき散らし、それに紛れて姿を消す。その様子に肩で息をしていた刀子は地団太を踏みながら悔しがり、神多羅木は苦笑交じりにたばこをふかす。

 

 そして、

 

「てめぇのせいで逃げられちまったじゃねぇか!!」

 

「あんたがそんな物騒な拳銃振り回すからでしょうが!!」

 

 凸凹コンビの二人はスパルタンⅥを取り逃がした責任を擦り付け合い、醜い喧嘩を展開するのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 学園長室にて、その様子を遠視の魔法で見ていた近右衛門と高畑は、苦笑交じりに遠視の魔法を切った。

 

「さて今回も逃げられてしもうたのぉ」

 

「六重君は身体能力だけなら僕に匹敵する子ですからね。ラカンさん推薦の天才児というのはだてではないようで…………」

 

「ふぉふぉふぉ。さすがにあのジャック・ラカンに育てられた戦災孤児といったところかの。しかし、いつまでも中学生に負け続けるというのはのぉ。いい加減うちの損害もシャレならんし、何とかならんものか?」

 

 怪盗スパルタンⅥこと六重トウジは魔法使いではなく、気の運用のプロフェッショナルだ。つまりバリバリの前衛型格闘家である。

 

 中東の紛争地帯で活躍していた軍人の両親のもとで生まれた彼は、幼いころに両親を亡くし、米軍の育児施設で育てられた。その頃からメキメキと才覚を発揮し十歳のころには前線に出てあまたの敵を屠ってきたらしい。

 

 だが、そんな彼もその当時はまだ常識の枠内にはまっている強さしか持っておらず、彼が所属していた部隊がゲリラたちの奇襲を受けてしまい全滅。たった一人で死にかけながら紛争地帯をさまよっていたところを、たまたま観光に来ていたジャックラカンに拾われたのだ。

 

 ラカンは彼を育てているうちに彼の中に眠る膨大な《気》に気づき、ある程度稽古をつけないと逆に危ないと判断。彼の技術のいくつかをトウジに授けた。もともと才能があった彼はメキメキと実力を上げてき、現在の実力は本国ことメガロメセンブリアでの格付けでAA+。タカミチと同格と認定されている猛者となった。

 

 実際その実力は異常の一言に尽き、優秀な魔法使いたちがそろっているこの麻帆良での戦績はたった一人との戦いを除き無敗。まさに天才の名の体現者といっても過言ではないだろう。

 

「それを見込んで、麻帆良にある秘宝級の魔法具を条件付きの報酬として魔法先生や生徒の訓練につきあってもらっておるのじゃが……」

 

 その条件とは『魔法先生や魔法生徒によって厳重に守られた魔法具をみごと盗みだすことができれば、その秘法の所有権を譲る』というもの。麻帆良にいるあの外道探偵のことを思い出した近衛門が『変わった少年探偵がおるのじゃから、変わった怪盗がいてもいいんじゃね?』と面白半分で提示した条件だったのだが、六重はそれをのんだ。

 

 そして今に至り……彼が盗み出した麻帆良の秘宝は49個。そのすべての防衛線において魔法先生や生徒たちは彼に一撃を入れることもできていない。むろん演習という側面があるため同格のタカミチが出陣していないための結果だが……。

 

「そういえばラカンさん、六重君がルパンやら怪人二十面相が大好きだって言っていましたからね……。スタイルは全く違いますが……」

 

「ふむ。とにかくこのままでは麻帆良にある秘宝はすべてなくなってしまうわい。仕方ない、あの子に助力を頼むかのう」

 

 近右衛門はそういうと机の上に置いてあった電話の受話器を取りあるところに電話をかけるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「おはようクラレンスさん」

 

「おはようございますマリー様。朝練頑張ってください」

 

 犬神アンダーグラウンドサーチの朝は早い。早朝に起きたマリーはまず朝練として、気の修練と走り込みを行う。それをしておかないと、なんだか落ち着かないのだ。

 

「おはようマリー」

 

「ああ、明日菜。おはよう! 明日菜が仕事中に休憩とか珍しいな?」

 

 そんな風に早朝訓練をしているマリーは、体力づくりをするため麻帆良中を走り回る。そのため、早朝から新聞配達のバイトをしている明日菜と出会うことも珍しいことではなかった。

 

だが今回はいつもとはパターンが違っていた。いつもマリーが休憩にやってくる公園のベンチに明日菜が座っていたのだ。どうやら、マリーがここに来るのを知っていた明日菜が、ここでマリーと会うために待ち構えていたようだ。

 

「まぁ……ね。で? ネギは元気にしている。休みの間は……」

 

「ああ、なるほど。それでこんなところで待ってたんやな? 元気やで。でも明日菜、あんたがネギ君のことここまで気にするやなんて意外やな。子供は嫌いなんやなかったん?」

 

「あんな劣悪な環境にいるんだから心配しないほうがどうかしているわよ!!」

 

「……」

 

 微妙に否定できない明日菜のセリフにマリーは顔を引きつらせるしかなかった。まぁオカマのヤクザが殴り込みに来るような場所に子供がいれば誰だって心配するだろう。

 

「で? どうなのよ?」

 

「ちゃんとネギくん専用の部屋があるさかいに安心し。うちは無駄に空き部屋が多いさかいなぁ。なんやったら今度泊まりに来る?」

 

「ああ? いいの。お願いするわ。ゲルのやつ信用できないし」

 

「あとそうやなぁ……昨日ネギ君が犬神君の依頼手伝ったんやけど……」

 

「へ、へんな依頼じゃないでしょうね!!」

 

「ああ……まぁ、うん。それはええやんか」

 

「ちょっとはっきり答えなさいよ!?」

 

 まさか三十代にもなって自分探しの旅に行っている人の捕獲だなんて言えるわけもなく、マリーは言葉を濁すことで明日菜の追及を回避、ちょっとだけうつろな笑みを浮かべて話を逸らしたが、そんなマリーに嫌な予感を覚えたのか明日菜はあわてて食い下がった。

 

 そんな明日菜の必死な様子に、「しゃーないな」と言わんばかりにマリーは肩を竦めた後、

 

「まぁ……ツッコミのスキルは上がったはずやわ」

 

「あんたのところの事務所って探偵事務所じゃなかったの?」

 

 普通に探偵の仕事をしていれば上がるはずのないスキルの成長を聞き、明日菜は若干顔に縦線を入れるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「また派手にやったみたいやなぁ……六重君」

 

 朝練から帰ってきたマリーはクランレスが作ってくれた朝食を食べながら、明日菜にもらった朝刊の記事に目を通す。ちなみにほかのメンバーはもう食事を終えており、犬神はソファで本を読み、ネギと姫は仲良く一緒に食器を洗っている。

 

 クラレンスは朝に来客があるということで今は席を外していた。

 

『怪異? 空を飛ぶ少年を私は見た!?』

 

 麻帆良新聞の一面トップを飾ったその記事を見てマリーは顔をひきつらせた。

 

 そこには、月を背景に(みょーんという擬音が聞こえてきそうな)大跳躍をかまし、ばっちりと証拠写真を抑えられている裏の関係者が写っていた。

 

 六重トウジ。犬神ゲルのクラスメイト兼自称永遠のライバルである。

 

「昨日はうるさかったからな……。おおかたあのダイナマイトバカが暴れていたんだろう。だったらあいつとの訓練ということは容易に想像できるはずだ」

 

 犬神はそういってメガネをクイッとあげる。

 

「ってか、犬神君気になったりせぇへんの? 一応クラスメイトやろ」

 

「え!? この人犬神さんのクラスメイトなんですか!?」

 

 マリーの言葉に驚いた顔をするのは食器洗いを終えたネギである。昨日三十代モラトリアムを捕獲したネギは、ちょっとだけ現実より美化されていた犬神を現実に沿って正しく評価するようになり、マリーと同じようにツッコミの技術を習得していた。

 

 つまりこの会社に慣れ始めていた。それがいいことなのかどうかは正直微妙なところだが……。

 

「ああ。裏の関係者で英雄の弟子らしいで」

 

「で、英雄の弟子!? す、すごそうな人ですね!!」

 

「まぁ、英雄の息子のお前がそんなにたいしたことないからな。あまり期待しないほうがいいぞ」

 

「あう……」

 

 さらっとはかれた犬神の毒舌に落ち込むネギ。そんなネギを気遣ってか姫はポンポンとその頭を撫でた。

 

「姫ちゃんとネギ君は仲ええよな? どないしたん」

 

 いつの間にか仲良くなっていた二人にマリーは少し笑いながら話しかけた。

 

「ネギの父親はダメ親。何となく共感ができる」

 

「だ、だから一応尊敬しているんだからそういうこと言うのはやめてよ!! た、確かに父さんは父親としては失格かもしれないけど、すごい人だったんだから!!」

 

「はいはい」

 

 顔を真っ赤にして反論してくるネギを軽くかわす姫。ネギはそんな姫に頬を膨らませて頭に置かれた手を引き離す。

 

「そ、そんなこと言いながら姫ちゃんだってほんとうはお父さんのこと好きだったんじゃないの?」

 

「え? 嫌いだったよ。存在自体がうざい人だったから……父のように慕っていた人はいたけど」

 

「実の娘にそんなこと言われるなんてどんな父親だったの!?」

 

 さらっと吐かれた毒舌にネギは愕然とした。この事務所……肉親に対する評価がシビアすぎる。

 

 そんな時だった。事務所のインターホンが鳴らされゲルが玄関に視線を向ける。

 

「来たか」

 

「どないしたん、犬神君?」

 

「依頼だ、安川。助手その二と野菜を連れて執務室へ来い。ああ、その前に東側の壁を見に行けそろそろ奴からの依頼も来るはずだ」

 

「奴? ……ああ、また矢文かいな」

 

 何やら納得した様子で朝食を掻き込んだマリーは、姫を背中に背負いネギの手を取る。

 

「二人ともいくで。依頼文回収に」

 

「なんのですか?」

 

「ん? この子がそろそろ犬神君に依頼を出す頃やさかいな。それの回収」

 

 そういって新聞を指差すマリーを見てネギは不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 ネギが玄関に到着した時、小刀と通常の拳銃の三倍はあると思われる化物銃を交差させ睨み合っているクラレンスと、トサカヘアーの巨大な、眼帯男が立っていた。

 

「えっと……?」

 

「相変わらずデンジャラスやなぁジョニー先生は」

 

 その光景にフリーズしてしまったネギを放置し、マリーは拳銃を持った男に話しかけた。

 

「はん。安川か。相変わらずこのしみったれた事務所に雇われてんのか?」

 

「いってええことと悪いことがあんでジョニー先生。そんでクランレスさんは何しとんの?」

 

「ドアの外に殺気を感じましたので、一応の警告を」

 

 無論この拳銃男は昨日スパルタンⅥに敗北した凸凹コンビのジョニーである。その後ろにはデンジャラスすぎる二人の応酬にドン引きしているレイジーがいる。

 

「はぁ。ほんで何しに来たんよ、先生方二人は?」

 

「わかってんだろうが。あのクソやろうに用がある」

 

 そうこたえクラレンスに案内されて中に入っていくジョニーをポカンと見送った後、復活したネギは慌ててマリーに話しかけた。

 

「い、いいんですか!? あんな悪そうな人中に入れて」

 

「ネギく~ん。落ち着いて。あれでも一応うちの教師やで」

 

 若干顔をひきつらせてそう答えたマリーにネギはさらに目を丸くしてジョニーが消えた廊下とマリーに視線を往復させる。

 

「え? 先生?」

 

「ジョニーとレイジーは初等部教師。ジョニーは体育。レイジーはクラス担任をしている」

 

「うそでしょう!?」

 

 姫の追加説明にネギはさらに驚きの表情を見せた。

 

 言いたいことはわかるけど、いろいろと遠慮がなくなってきたなぁネギ君。もう何のオブラートにも包まずに信じられないといった顔をするネギに苦笑をうかべながら、マリーは矢文が刺さっているであろう事務所の裏手へあるいていく。

 

「ああ、やっぱり来とったわ」

 

「それなんですかマリーさん?」

 

 コンクリの壁に見ごとに突き刺さり、穴をあけている矢を見てマリーはため息をつきながらそれに気を流し引き抜く。そうでもしないと深く刺さりすぎて抜けないのだ。

 

「見ての通りのもんや。でも真っ先に見るんは犬神君やから勝手に見たらあかんで」

 

 マリーがそういいながらネギに渡した矢文には豪快な文字で、

 

『果たし状!!』

 

 と書かれていた……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ふむ安川たちが返ってきたな。さて、用件を聞こうか?」

 

 マリーが矢文を持って帰ってきたのを確認し犬神はソファーに不遜な態度ですわっているジョニーに話しかけた。

 

「はぁん? 用件? んなもん決まってんだろうが、犬神。今日は警告に来てやったんだ」

 

「警告?」

 

「ちょ? 先輩!?」

 

 そういって拳銃に手をかけるジョニーにレイジーは慌てて立ち上がった。本当は昨日の夜に学園長が頼んだ依頼の書類契約をしに来たのだが、そんなことはダイナマイトバカ・ジョニーの頭に中からはきれいさっぱり消えているようだ。

 

「あのコソ泥は俺が殺す。テメェは手ぇだすな。余計な首を突っ込んで来たら殺すぞ?」

 

「殺す!?」

 

 ジョニーの殺す発言はいつものことなのだが、不慣れなネギはいちいち反応してしまう。レイジーはそのたびにペコペコと頭を下げていた。

 

「先輩!! いつも言っていますが殺さないでください!?」

 

 そして、いつものようにジョニーを怒鳴りつけるが、ジョニーは聞く耳持たんと言わんばかりに鼻クソをほじくっていた。

 

「ふむ。別に貴様が依頼をけるというのであれば僕は別にかまわない。だが、こちらも別口で依頼が入っていてな。今回のスパルタンⅥの件は独自にかかわらせてもらうつもりだ」

 

 しかし、その犬神の言葉は聞き捨てならなかったのかジョニーは鼻クソをほじるのをやめ眉を吊り上げた。

 

「ああ? また果たし状か? ったく。来てるいのはわかっていたがよぉ……。いい加減気づけよクソガキ。てめぇのせいであいつの活動はここ最近活発になっていやがる。お前の負ける前は月一だった襲撃が今じゃ週三位増えていやがるんだ。あのバカ、俺たちとの戦闘をお前に勝つための特訓だと考えてやがる。この落とし前をどうつけるつもりだ」

 

 そういってジョニーが取り出した一枚の紙には大きな文字でこう書かれていた。

 

『今度こそ犬神君に勝ったんねん!!』

 

 そしてその後ろには小さな文字で、

 

『PS・図書館の魔法書一冊。なんかテキトーにパクらせてもらいます』

 

 明らかに本題とPSが逆な手紙にネギは唖然とすることしかできなかった。

 

「こんなバカな予告状まで出しやがって、おちょくっているとしか思えねぇ」

 

「ふん。ジョニー。そのバカな予告状は貴様が昨日の夜にあいつを捕まえておけばなかったはずのものだ」

 

「ぐ!?」

 

 ジョニーの言い分をひとしきり聞いた後、犬神は特に興味もないといった表情でジョニーに向かって毒を投げつける。

 

「そのザマで手を出すなとは……片腹痛いわ」

 

「…………………!!」

 

 その言葉がまるで物質的な威力でも持っているかのようにジョニーの頭を殴りつけ、ジョニーの沸点の低い怒りの琴線に触れた。

 

「殺す。すぐ殺す! ぶっ殺す!!」

 

「落ちついてください先輩!!」

 

「あの……マリーさん」

 

「ん、なんや?」

 

 なんかもういろいろキレてしまい、拳銃を片手にブツブツ不穏な言葉を呟くジョニー。そして、彼の暴走を何とか止めるために必死になってしがみつくレイジーを見ながら、ネギはマリーに話しかけた。

 

「僕……あんな大人には絶対になりません」

 

「それはとてもいいことだと思うよ、ネギ」

 

 この学園のネギの教師は……ほとんどが反面教師だった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「にしても犬神君。ほんまよかったん?」

 

「何がだ?」

 

「いや、ネギ君達だけで捕獲に向かわせてよかったんかって聞いてんねんけど……」

 

 そういいながらマリーと犬神は、夜のとばりに包まれた、麻帆良一高い時計塔の屋根から図書館島のほうを双眼鏡でのぞいていた。

 

 図書館島から少し離れた大通りではネギと姫が待機しており、スパルタンⅥを待ち構えている。

 

「いざとなれば助手その二が何とかするだろう。それに奴にはキチンとクラレンスに伝言を頼んだ。『僕と戦いたいならまずはネギ・スプリングフィールドを倒せ』と。なにどちらにせよ逃げられることはない。あいつは僕との戦いに勝つことが目的だからな。野菜を抜けたとしても僕と一戦交えるまで逃げることはしないだろう」

 

「いや、それはわかってんねんけど……」

 

 そんな会話をしながら釈然としない表情でマリーは双眼鏡を下し犬神のほうを見つめた。

 

「わざわざネギ君をぶつける必要があったんかいな? いつもはこんな面倒なことせんとⅥ殴り飛ばしてしまいやん」

 

 そう。犬神は基本的にいつもからんでくるⅥこと六重のことをめんどうな奴と認識している。そのため彼の依頼はきちんと受けて相手をするが、ネギをぶつけてラスボスとして居座るなどという面倒なことはせずじかに出向いて殴り飛ばして終わらせるのだ。

 

 しかし、今回に限ってそれをしようとはしない……。

 

 なんでや? 内心でそう首をかしげながら、マリーはとりあえず自分が真っ先に考えられる理由を口にしてみる。

 

「ネギ君関連で何かするつもりかいな?」

 

 いぶかしげなマリーの視線に、犬神は覗いていた双眼鏡をおろし、メガネを上げる。

 

「安川。僕たちのネギに関する依頼は奴を一人前に育て上げることだ。そしてその中で最も面倒なのが奴に施すべき戦闘訓練」

 

「ああ、英雄の息子やもんなぁ……。いろいろ厄介ごともありそうやし、確かに自衛の手段ぐらいもっといたほうがええやろうけど」

 

「それを僕たちが教えられるかといえば答えは否だ。僕は誰かに戦闘技術を教えるということに関しては、酷く不向きだからな」

 

「ああ、まぁ犬神君は練習せんでも大半の格闘術はできるさかいなぁ。技の習得過程なんて人に教えることはできひんやろうけど……。ほなだれに?」

 

 そこまでいったときにマリーはようやく犬神の狙いに気づいたのか、若干呆れた表情で犬神を見つめ返した。

 

「もしかして……」

 

「ああ、奴に押し付けるぞ」

 

 その言葉が紡がれた時、図書館島の方向から大きな銃声が響き渡った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そして、その頃図書館棟の地下では……。

 

「師匠……本当に僕は行かなくていいのですか?」

 

「ええ。君はまだまだ先でしょう。君の同級生が面白いことを考えているみたいですし、しばらくはらラカンの弟子にお任せしましょう」

 

 そういってフードをかぶった人物は優雅に紅茶を口に含む。

 

「さて、修行を再開しましょうかイエダニ君」

 

「僕の名前は猫谷(ネコダニ)です!!」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「はぁ……今日もたいしたことなかったなぁ。ええかげんデス眼鏡が出てくるかと思ったんやけど」

 

 人を撲殺できそうな巨大な本を片手に夜の闇を跳躍しながら、まんまと図書館から本を盗み終えたスパルタンⅥは、優雅に大通りに降り立った。

 

 この逃走劇はいささか張り合いがなさ過ぎた。こんな調子で犬神に勝てる力を手にすることができるのかとⅥはため息をつく。

 

 この秘宝の所有権譲渡の契約を取り付けた当初は「あの狸の学園長に一泡ふかしたったで!」と喜んでいたスパルタンⅥだったが、ある戦いで敗北してしまってからは貪欲に、訓練のために、この行事に臨んでいた。

 

 少年探偵犬神ゲル。彼の無敗歴に師匠以外で唯一泥をつけた男。その男に勝つためにⅥは日夜泥棒に入り、魔法先生たちと戦うことによって実践式訓練を積んでいるのだった。しかし、その訓練が今は問題だった。

 

 弱すぎる。この学園の魔法先生や生徒のすべてが彼の実力を大きく下回っている。そんな相手と何千何万回戦おうが結果は同じで、まったく訓練になっている気がしなかった。エヴァンジェリンあたりが出てくればあるいは? と思いはするのだが『バカの相手は嫌いだ』の一言で見事に撃沈。同格のタカミチが出てきてくれれば御の字なのだがどうやら彼も自分の相手をしてくれる気はないらしい。

 

 正直訓練の相手がいなくて伸び悩んでしまっているのが今のスパルタンⅥの現状だった。

 

「まぁ、今はええか」

 

 なかなか面白そうなやつと喧嘩ができそうやし。

 

 口元に凶悪な笑みを浮かべながらスパルタンⅥは長い杖をかまえて自分と対峙する真面目そうな顔をした一人の少年に目を向ける。

 

「お前か小僧? 英雄の息子いうんは。犬神君から話は聞いてるで」

 

「ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします」

 

「はっまじめなやっちゃなぁ。ええか一つ教えといたるわ」

 

 スパルタンⅥはそういうと、目礼をしているネギに向かって一気に駆け出し蹴りを放つ!!

 

「!?」

 

 まさか礼の途中に襲い掛かってくるとは思っていなかったのだろう。ネギが慌てて杖を構えるがその反応ではあまりに遅い。

 

「はぁ!!」

 

 しかし、スパルタンⅥはわざと蹴りの速度を遅くし、ネギの杖による防御を間に合わせる。そしてその防御の上から強力な蹴りを叩き込みネギの小さな体を吹き飛ばした!!

 

「?!?!?!?!?!?!?!?!」

 

「戦闘中にあからさまな隙を見せたらアカンで坊主。本当やったら今ので一回死亡や」

 

 スパルタンⅥはそう笑うと、大きく夜空へと跳躍! ネギとの戦闘を開始するのだった。 

 

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