凶悪な蹴撃がネギの体を吹き飛ばす。
「!?」
ネギはその不意打ちと同じ行為に驚きながらもなんとか対処。杖でその攻撃を受け止め、綺麗に着地することに成功した。
「?!?!?!?!?!?!?!?!」
「戦闘中にあからさまな隙を見せたらアカンで坊主。本当やったら今ので一回死亡や」
そういって天空に飛び上がるⅥを見て、ネギは憤りを感じた。
不意打ち。それもかなり汚い方法で……だ。《立派な魔法使い》を目指すネギにとっては到底許すことのできない行為だ。
そのためネギは杖を構えながらも、なおも呪文を唱えようともせず怒りの声をⅥにぶつけた!
「ひ、卑怯ですよⅥさん!! 人が礼をしている時に攻撃…………ヘブッ!?」
しかし、Ⅵはそんなことに気を使う人物では当然なく、ネギの怒声を無視してその顔に見事な飛び蹴りをヒットさせた!
「って、はぁ!?」
吹っ飛んでいくネギを見て思わず固まるⅥ。それはそうだろう。今の不意打ちで戦闘態勢になったと思ったら、いまだ言葉で説得しようなどと試みている人物なんてⅥの記憶の中には誰一人としていない。この学園の先生や生徒ですらそんなことはしないのだ。
想像以上のネギの甘さに愕然としつつ、Ⅵは傍らで控えて観戦していたヒメに半眼を向ける。
「なぁ、姫ちゃん。お前は参戦せぇへんの? 正直こんなガキ相手にしてもあんまり価値無い思うんやけど?」
「私の仕事は観戦すること。ネギが危なくなったら助けること。だから今はいい。まだネギは危なくないから」
「そら俺が手加減しとるからや。俺が本気出してこいつと戦ったら二分で百回殺せんで?」
「うう……話はちゃんと最後まで……」
そういって立ち上がるネギに、Ⅵはため息をついて瞬動を行う。
「へ!?」
このままではまともな喧嘩はできないと判断したⅥはまずはネギの甘さを抜くことにした。
ネギの目前へと瞬間移動したⅥはその額に強烈なデコピンを叩き込む。
ただのデコピンのはずなのに、まるでプロ野球のピッチャーが投げた硬球の直撃を受けたかのようにのけぞるネギ。そうして姿勢を崩したネギの足払いをかけネギの体全体を空宙に浮かべた後、
「どっせぇいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「うわぁあああああああああああああああああああああああああ!?」
力任せにネギの体を天空へと放り投げた。
「ええやろ、ネギ君。お前の話を聞いたろ。ただし俺に一撃入れることができたらやけどなぁ」
Ⅵはそういって虚空瞬動を行い天空へと飛び出す。そして、杖を使い何とか落下を免れたネギの前に出現し再びデコピンで弾き飛ばした!!
…†…†…………†…†…
そんな光景を時計塔で見ていたマリーは、顔に縦線を入れながら三白眼を犬神に向ける。
「なぁ……犬神君」
「なんだ、安川」
「ネギ君一方的にタコなぐりにされてるんやけど?」
「当然だ。ネギは近接戦闘の手段を持たない魔法使い。Ⅵは一流の魔法使いですら苦戦する近接戦闘のプロフェッショナルだ。勝てる要素がどこにある」
「ほななんでネギ君Ⅵにぶつけたんよ!? 明日菜にばれたら怒られんの私なんやで!?」
そういって顔に縦線をいれて、表情をひきつらせるマリーに犬神は眼鏡をきらりと輝かせてどや顔で答えた。
「安川。奴は痩せても枯れても天才少年だ……この意味は分かるか?」
「ん?」
マリーは突然そんなことを言ってくる犬神に首をかしげた。
「要するに……奴は神様に愛されているといいたいのだ。そう、まるで某めだかな箱が定義する《主人公》のようにな」
「……ほんまかいな」
マリーたちの雑談をしり目に天空で展開される一方的な戦いは続く。
…†…†…………†…†…
「はぁはぁはぁはぁ……」
ネギは杖の上で荒い呼吸をしていた。
はやい……。早すぎる。
Ⅵの足元には高速回転する車輪が二つ。おそらくは気を高速回転させて空に浮いているのだろう。そうすることによって作られた足場を使い、まるで地面にいる時と同じように瞬動を使う。速度だけでいうのなら、間違いなくタカミチすら超えるだろうという速度で、だ。
「ど、どうして話を……」
「坊主。お前に話すことを許した覚えはないで?」
瞬間。再びネギの目前に現れたⅥはその額にデコピンを叩き込み杖からネギをたたき落とす。
「くっ!? 杖よ!!」
さすがにこの短い詠唱の魔法は成功し、ネギの杖は彼の手に収まった。だが、
「虚空瞬動もできひんのかいな?」
「!?」
瞬間! 落下するネギの目前に現れたⅥが、今までのデコピンとは違う膨大な量の気が込められた左手を振りかぶっていた。
「これでも出力は低めや。死にはせぇへんやろ。うけてみぃ!!」
「!?」
そして、ふり抜かれた左手からはすさまじい気が放出され巨大な衝撃となりネギを打った!!
「Ⅵ!! 適当に右パンチ!!」
「ひ、左手じゃないですか!!」
律儀にツッコミを入れるネギを無視して、Ⅵのはなった衝撃はネギの体を強打、その体を地面に勢い良くたたきつけようとした。
「八卦・巽・開。帝国式防御気弾。《柔法・気円》」
その時、今まで傍観を決め込んでいたヒメが動いた。その両手には気が握られておりそれを凄まじい勢いで落ちてくるネギに向かって投擲する。
「ふぇぇ!? ちょ、姫ちゃん!?」
「安心してネギ。痛くはない……はず」
自分に向かっての攻撃だと勘違いしたネギが悲鳴を上げるがヒメは特に気にした様子もなく、指を鳴らす。
瞬間!! その気弾はパンという音ともに見事に破裂し、気で生成された細い網に変化した!!
「ほぉ。便利そうな技やなぁ」
一足先に虚空瞬動で降り立ったスパルタンⅥは、その光景を見て口笛を吹く。
「まわれ」
そのⅥの言葉を無視して姫はさらに指示をだし、天空に展開された網を回転。ネギの落下エネルギーを回転エネルギーに変換しつつその勢いを完全に殺す。
そして、それによってようやく呪文を唱える余裕ができたネギは杖を使い空中に浮き何とか怪我のないまま地面に降り立った。
「今のは、危なかった……」
「なんや? 文句でもあるんかいな?」
「別に」
無表情のままⅥにそういう姫を見て、若干悪いとは思っていたのかⅥは目をそらしながらそううそぶく。しかし姫は特に言及する様子もなく、のんびりとネギのそばに歩いていき荒い息をしているネギの肩に手を置いた。
「ネギ。帰るよ。今回はネギの負け」
誰が見てもそうだっただろう。万人が納得するだろう圧倒的な敗北。犬神の目論見とは若干違ったが、まぁそれでもいいだろう。これでネギも少しは実戦に対しての認識が変わったはずだ。
姫はそう判断し、あとのことは犬神に任せて疲れ切ったネギを回収しようとした。
だが、
「そ、そんな!! 納得できないよ!!」
ネギの口からは、想定外すぎる言葉が吐き出された。
「はぁ?」
自分の勝利にいちゃもんがつけられ、明らかに機嫌が悪くなるⅥ。対するネギも一歩も引かないという姿勢でⅥに立ち向かう。
「あんな不意打ちから始まって詠唱もさせてくれない戦いなんて卑怯じゃないですか!! やり直しをしてください」
「ネギ、それはさすがに……」
ネギのあんまりといった態度にヒメは声だけ不快感を表す。どのような戦いだろうが勝負は勝負。負けは負けだ。おまけにⅥはかなり手加減していた。本当なら初回からあの右パンチ(笑)を使ってネギを圧倒することもできただろうに、彼は始終威力の低いデコピンを使ってくれていたのだ。お礼を言う必要ならあるだろうが、文句を言う筋合いはまるでない。
ヒメはため息をつきながら、いくら大人びていても所詮は十歳だなと、自分のことは盛大に棚上げしつつため息をつきつつネギをいさめようと口を開きかけた。
だが、その前に、
パンッ!!
鋭い音ともに、いつのまにか瞬動を使いネギの目前にやってきていたⅥのビンタが、ネギに向かって飛でいた。
今までのデコピンとは違う気が込められた本気の一撃に、ネギはその体を吹き飛ばされる。
「!?」
そのまま建物に叩き付けられ、その衝撃で息が詰まるネギ。そのまま尻餅をつくような形で地面に落ちたネギは、何が起こったのか理解できず泣きそうになりながら目を白黒させる。そんな彼に向かってⅥは今まで聞いたこともないような低い声でネギを怒鳴りつけた。
「オンマエ、何勝手なことぬかしとんのじゃ、コラ!!」
「ひっ!?」
青筋を浮かべ、鬼神のごとき気をまき散らしながら近づいてくるⅥに、ネギは悲鳴を上げて尻餅をついたまま無様に後ずさる。しかし、彼の後ろは彼がたたきつけられた壁でありそれ以上後ろに下がることは不可能だ。
ネギの顔に、絶望が浮かんだ。
「卑怯や? 不意打ちや? そんなもんでいちゃもんつける気か!! ふざけんなや!! 喧嘩にルールもクソもあるおもとんのか、クソガキ!!」
そういいながらⅥはネギの襟首をつかみ持ち上げる。ネギは真っ青になりながらガタガタと震え、Ⅵの怒りの表情を見つめていた。
「喧嘩するときに相手が『今から殴りますけどええですか?』とか『不意打ちするから頑張ってよけてや~』とか言うおもとんのか!! 笑わせんのも大概にせぇや!! 喧嘩はいつもどんな時でも真剣勝負なんや!! ましてや裏の世界に入っとる魔法使いや気力使いにとっては、命を懸けた戦いゆうんも少なくない!! そんな中でお前がゆうような礼儀正しい戦いができるおもとるんか!!」
Ⅵは幼いころから戦場に立っていた。そして才覚をあらわし常勝無敗と畏れられた彼だったが、彼が生まれたときから最強だったかと問われれば彼の答えは否だっただろう。
彼は血反吐を吐くような訓練をしてこの強さを手に入れた。才能はある方だったらしいがそんな些末なことは戦場でなんの意味も持たない。才能があるということはつまり「訓練しないと強くなれない」ということなのだから。ガキであろうとなんであろうと、強くなければ生き残れない。弱さは悪である。それこそが戦場の本質だった。
そんな中で育ってきたⅥにとって戦いとは神聖なものだし、どんな手段を使ってでも勝つということは当然のことだった。それを、ネギのような甘い理想論が真っ向から否定した挙句、まけたくせに偉そうにも抗議をしてきたのだ。彼の怒りはひとしおだろう。
「お前の言葉は軽いんや、ネギ・スプリングフィールド!! お前が何を目指しとるんかは知らんし、何をしたいんかもしらん!! せやけどなぁ、オノレがやったことは許されへん!! 人の戦いバカにした挙句、卑怯やなんやゆうて負けを認めへんやと!? オノレいったいなに様のつもりや!! 英雄の息子やったら何してもええとおもとんのか!!」
そしてⅥはネギに向かってこういった。
「あぁ、すまん。英雄の息子やからかいな。お前の故郷はさぞ何やっても笑って許してくれるやさしい大人たちがそろっとったんやろ」
そういって、ネギから手を離したⅥは、バカに仕切った嘲笑を浮かべてつばを吐いた後、ネギに背を向ける。そして、
「はっ。反吐がでんで」
ネギの故郷を嗤った。
瞬間、ネギの頭の中から恐怖が消え去り、すさまじい怒りの炎が燃え上がる。
思い出されるのはあの雪の日。自分の故郷の住人達が永久石化され動かなくなった地獄の一夜……。自分を守るために石像となってしまった、一人の老人の姿。
「あやまれ……」
「ああ?」
「ネギ?」
ネギから発せられた言葉に、Ⅵとヒメは不思議そうに視線を向けた。しかし、そんなことはもうネギにとってはどうでもいい。
怒りで濁った思考の中、ただ一つだけ紡ぎだされたその言葉を、痛む体に鞭打ちながら立ち上がったネギは、明確な殺意を込めてⅥにたたきつける。
「スタンおじいちゃんや……みんなに、謝れぇえええええええええええええええええええ!!」
瞬間!! ネギの体から荒まじい魔力がこぼれだし、ネギの体を包み込んだ!!
「な!!」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
怒声を上げて殴りかかってくるネギのコブシを、Ⅵは気を込めた両腕で何とかガードする。
しかし、ネギの魔力は父親譲りのバカ魔力だ。その威力は今までの比ではない!!
「うをぉ!?」
気を込めた両腕の防御を軽々と無視して、衝撃をぶつけてくるネギのコブシ。Ⅵは当然車にはねられたかのように吹き飛んだが、大してダメージは入っていないのか空中で姿勢を取り戻し、軽やかに着地する。
「はっ……。ええ顔になったやないか!! ネギ・スプリングフィィイイイイルドォオオオオオオオオ!!」
そして、愉悦の笑みを浮かべたⅥは暴走状態にあるネギへ向かって跳躍、再び戦い始めるのだった。
…†…†…………†…†…
ネギは意識を失った状態で暴れ続ける。
魔法の射手。白き雷。雷の暴風。風精召喚。武装解除。ネギが使えるおおよその魔法のすべてがⅥに向かって飛来した!!
「はぁ!! なめんなっ!!」
しかし、Ⅵもこの程度ではやられない。ナギ譲りのバカ魔力によって作り上げられた、通常の威力よりもかなり高い威力を誇るネギの魔法を、両手から射出される気弾によってことごとく撃ち落していく!!
「Ⅵ!! 千烈拳!!」
空中で花開く殺傷能力抜群の花火たち!!
ヒメはその光景を見て慌てて虚空瞬動を使いネギのところへと飛んできた。足元にはⅥと同じように車輪がついておりそれがヒメの飛行を補助している。
「ネギ、おちついて」
ヒメがそういって捕縛用の気弾を放つが、
「……………………!!」
ネギは全身を覆ったバカ魔力でその気弾を消滅させる!! ヒメの気弾に込められた気をネギの魔力が上回ったのだ!!
「……鬱陶しい」
自分の気弾がはじかれたことに若干機嫌が悪くなったヒメは、その両手に膨大な気をためていく。明らかに殺傷目的の高密度の気であったが、今のネギにはこれくらいしても大丈夫だろうとタカをくくって、ヒメは容赦なくその気弾を放とうとした!!
「って、ヒメちゃんあかんよ、そんなことしたら!?」
「!?」
しかし、ヒメの攻撃は後ろから伸びてきた手に両手をつかまれることによって止められた。
「ふむ。僕は別にかまわないが?」
「犬神君余計なこと言わんとって!?」
ヒメの後ろに立っていたのはⅥたちと同じような方法で飛行を行う、犬神とマリーだった。黒い笑みを浮かべながら『殺れ』といわんばかりに首をかき切るしぐさをする犬神に、マリーの怒声が飛来する。
「ああ!! 犬神君!? なんや俺と勝負しに来てくれたんか!!」
そんな犬神たちを見て、ネギとの戦闘を一時中止しこちらに駆け寄ってくるⅥに犬神は少しだけ微笑み、
「話しかけるな、コソ泥が。その程度のガキと拮抗した戦いしかできないようなしょぼいレベルの泥棒など……相手をする価値もない」
グサッ!?
犬神の言葉が容赦なくⅥの脳天を貫き、Ⅵの動きを一瞬停滞させる。
当然それを見逃すような状態のネギではなく、Ⅵの懐に入り込んだネギは雷の暴風を至近距離でぶちこんだ!!
「うっぎゃぁああああああああああああああああああ!?」
天高く飛んでいくⅥを見てゲルは再び毒を吐く。
「ライバルなどと思ったことはないが……残念だ」
Ⅵ関連で学園長からの依頼がなくなるからやろうなぁ……。犬神の言葉に隠された真意を正確に悟りながら、マリーは特に何も言わずにヒメに説教を続ける。
「あのなぁヒメちゃん。あんな状況で殺傷能力の高い技使ったらアカンよ。ネギ君怪我したらどうすんの? 友達傷つけたりしたらあとあと後悔すんのは自分なんやで?」
「帝国での暴走した人を止める方法はあれだった」
「暗殺者時代のことは忘れてぇや!?」
ツッコミを入れてもよかったのだが、実は今は犬神にとある作戦が決行中だった。不用意に口を挟んで失敗すると、あとで犬神が怖いので今は自重する。
そして、作戦は実を結んだ。
「ちょ、ちょっとまったりぃいいいいいいいいいいいなぁあああああああああああ!!」
天高く飛んだはずのⅥがいつの間にかこちらに戻ってきておりネギの懐を強襲!! ネギの胸に片手を当て、その旨に爪を突き立てひねりを加えながらネギを吹き飛ばす!!
「Ⅵ破裏剣掌!!」
すさまじい回転を加えられたネギはまるで砲弾のように吹き飛び、時計塔の中にめり込む!! ラカンのオリジナルとは違い、幼く体の小さいⅥのそれは単体ではそれほどの力を発揮しない。そのため敵を遠くに吹き飛ばした後、固いものに叩き付けることで破壊力を底上げしている。
「ちょっと弱者の気分をシミュレートしていただけや!! こっからはバリッバリの全開であの餓鬼叩き潰したるさかいにそこで待っとけや!!」
「いや、六重君!? その前にやりすぎ!!」
マリーの必死なツッコミには耳を貸さずにⅥはネギがめり込んだ時計塔へと飛んでいく。犬神はそれを見てクイッとメガネを上げボソリとつぶやいた。
「犬神ゲル必殺。Ⅵころがし」
なかなかよく転がる。フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。
そんなことを考えながらどす黒い笑みを浮かべる犬神の笑みに内臓にダメージが来たマリーは口元から血を流しながら一応突っ込んだ。
「……なんやもう、ホンマ最低やな、犬神君」
「マリー。いまに始まったことじゃない」
「いや、それはわかってんねんけど……言わずにはいられへんねん」
先ほどまで説教していたヒメに慰められながら、マリーは諦観の涙を流した。
実は犬神たちがこの戦いに介入してきたのには理由がある。一つは戦いの邪魔をしそうになっていたヒメの確保。もう一つはⅥが持久戦にもちこみそうだったのでさっさと片を付けさせるべく、Ⅵをたきつけるためだった。
「夜更かしは美容に悪いからな。何より僕がそろそろ眠い」
「って、そんな理由やったんかい!?」
いまさら介入に理由を聞かされたマリーが愕然とする中、Ⅵとネギの戦いは終幕を迎えていた。
…†…†…………†…†…
許さない許さない許さない許さない許さない!! 許さないぞ!! スパルタンⅥ!!
凄まじい怒りの感情に飲み込まれながら魔力を暴走させるネギ。しかし、Ⅵは仮にも常勝無敗。あのジャック・ラカンの弟子である。犬神にたきつけられたためネギの戦いを早々に決めなくてはならなくなった彼にはもはや一分の隙もない。
「おもろい戦いになりそうやったんやけどな……。まぁ、暴走した奴に勝ったところでおもろくもなんともないか」
Ⅵは最後にそういうと、右手に全身の気を収束させていく。
「スパルタンシックスゥウウウウウウうううううううううううううううううう!!」
「はぁっ!! 動きが直線的すぎるわ、ガキンチョ!!」
Ⅵは最後にそういうと、容赦なく右手を振りぬきこぶし型の気弾を飛ばした!! その規模は今までの比ではなく、気弾はネギを容赦なく打ち据えた後、後ろにあった時計塔やその他の建物すら粉砕し地面に巨大なクレータを作り上げる!!
「Ⅵインパクトぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
最後にそう名前を叫ぶと同時に気弾は大規模な爆発を起こしネギを飲み込む。そして……。
「まぁ、加減はしたったし、死んでへんやろ」
Ⅵはそういってクレータに背を向ける。クレーター中央にはボロボロになったネギが横たわっていた……。
ネギ・スプリングフィールドVSスパルタンⅥ……勝者、スパルタンⅥ!!
…†…†…………†…†…
……そのはずだった。
「まだ…………だ…………………」
Ⅵが完全に油断して背を向けている時、ネギはヨロヨロと、しかし確かに立ち上がった!!
「負けるわけには……いかないんだ!!」
ネギの体はボロボロだった。魔力の暴走によって魔力は限界まで消費され、体に至っては骨折や筋肉の断絶を起こしているかもしれない。顔も悲惨なくらいに腫れ上がっており、見るに堪えないほどの無残な状態になっていた。
立っていることすら奇跡……そんな状態でありながら、ネギはそれでも歩みを止めなかった。
自分のための戦いだったら今のネギはここまで食い下がることはしなかっただろう。彼はまだ十歳なのだ。負けて当然だし、重症といっていいほどの怪我を負わされているのだから泣いたっていい。諦めたっていい。しかし、彼は立ち上がった。この戦いはもはや彼のためなどではなくバカにされた故郷の人たちのためなのだから……。
「あやまれ……」
「な!?」
ネギはボロボロで魔力も微弱だった。しかし、今回はそれが功を奏した。ネギが弱り切っていたため気配は薄くなってしまい、ネギがⅥのすぐ後ろに近づくまでⅥはネギの存在に気づくことができなかったのだから。
「謝ってくださいよぉ……」
しかし、ネギの体には力が残されていなかった。最後の一撃の足しになればとネギは右手に魔力を込めてⅥの体を弱々しい拳で叩いた。
そして、この時事故という名の奇跡が起こった。
ネギが使える魔法は何も戦闘用の魔法ばかりではない。彼が使える基礎的な魔法の中には精神に働きかける魔法がある。何か使える魔法をもうろうとした意識の中で取捨選択してしまったネギは間違えて拳にその魔法をかけてしまった。
読心術という魔法を……。
…†…†…………†…†…
ネギは夢を見ていた。
煙が立ち上る血なまぐさい空間。真っ赤な夕日に無数の銃声がこだましている。
「トウジ……何をしている」
「いや殺してもうた人の弔いを……」
そんな中ネギは一人の少年を見ていた。軍服を着たネギぐらいの金髪の少年。その手には刃渡りが異常に長いサバイバルナイフと拳銃が握られており、軍服は鮮血に汚れていた。
「なぁ、中隊長。なんで俺はこんなことせなあかんのかいなぁ」
「ここが戦場だからだ」
少年の言葉に無精ひげを生やした軍人はそう答える。彼は何もかもに疲れたといった表情をしながら少年の頭をクシャクシャと撫でた。
「何を考えているのかは知らんが、この程度のことで迷うなよトウジ。戦いなんて所詮は薄汚いものに過ぎない。特に戦場ではそうだ。不意打ち、だまし討ち、ブラフにハッタリ。あらゆる手段を使わないと俺たちはここでは生き残れない」
「せやから戦いは汚くとも、その行為を恥じるなやろ? 自分の大切なもんを守るために戦っとるんやから、それを恥じるのは戦って殺してきた……そして守ってきた相手への冒涜やと……耳たこになるぐらい聞いたで」
「だったらそんな迷いにまみれた言葉を吐くな。次死ぬのはお前かもしれないんだからな」
最後にその言葉を聞いて、ネギは目を覚ました。
…†…†…………†…†…
「大丈夫?」
「……ヒメちゃん」
ネギが目を覚ますとそこは犬神アンダーグラウンドサーチの中だった。
「Ⅵさんは?」
「もう帰った。ネギが眠りこけてからもう一日たっている」
「そう……」
ネギはそういって首だけを動かし窓の外を見つめる。ネギの全身には包帯がまるでミイラもかくやといわんばかりにまかれており、首以外動かせないのだ。
「Ⅵさんに悪いこと言ったな……」
あの夢はおそらくⅥの過去なのだろう。そして、あんな過去を持っていた彼が、自分の言葉に何を感じたのかネギは大体わかっていた。読心術のおかげで理解できていた。
それはあれだけ怒るのも無理ないよねぇ……。と苦笑交じりにつぶやくネギに、ヒメはボソリと声をかけた。
「ネギ。Ⅵから伝言」
「なに?」
まさか、あれだけ怒っていたⅥから伝言とは……。ネギは少し不安になりながらも姫の話を黙って聞く。
「あなたの過去を見たって」
「!!」
「『雪の日……大変やったな。まぁ、俺もいいすぎたわ。悪かった』だって」
「……………………………………………………………………………」
ネギはしばらく絶句していた。おそらく朦朧とした意識の中で読心術を使ったため、本来一方通行のはずの読心術が変質し、両方の記憶を交換してしまったのだろう。
あの雪の日の記憶を見られてしまい、若干慌てるネギにヒメはのんびりと話しかける。
「ネギ……負けちゃったね」
「……うん」
「でもⅥもゲルには勝てないんだよ?」
「世界にはまだまだ上がいるってことだね……」
二人の間に沈黙が流れる。ヒメは黙ってネギを見守り、ネギは黙って何かを考えていた。
そして、
「ヒメちゃん。僕……強くなるよ。Ⅵさんに負けないぐらいに。そしていろいろと学ぶ。本当の正義はなんなのか。何が正しくて何が間違っているのか」
「………………………」
「今回Ⅵさんは間違ったことは何一つ言っていなかった。でも、僕は僕が今まで信じてきたことのすべてが間違いだったとはどうしても思えないよ」
「…………………」
「だから僕。もっといろいろな人の話を聞いて勉強して、よく考えて、Ⅵさんみたいな自分の正義を見つけてみせる」
「そう」
ヒメはそれだけ言うと、ネギの目を覆うように、暗器を隠すためにわざと長くしている服の袖をネギの顔にかぶせる。
「私もまだ自分の正義見つけていないの。育ちが悪かったから、いまだに自分が道具だって感覚が抜け切れていないんだ」
「僕としてはヒメちゃんの過去が気になるよ……」
ヒメはそのネギのツッコミをスルーして話を続ける。
「だから、ネギと一緒に探すよ、自分の正義」
「………………………うん」
ヒメの言葉を聞き、ネギは少しだけ微笑んだ。ようやく、すべてのスタートに立てた気がする。そう思いながら。
「でも今は寝ないとね……」
「そうだね」
ネギは最後にそう言って笑うと小さく寝息を立て始めるのだった。
…†…†…………†…†…
「ふぉ……。これはいったいどういうことじゃ?」
「どういうこともこーいうこともあらへん!! 俺も一枚かませろユーてんねん」
その頃の学園長室では学園長と、ヘアバンドを巻き趣味の悪いグラサンをかけた金髪の少年が話をしていた。これが六重トウジの昼の姿である。
「あんなおもろそうなガキほっとけるかい。格闘に関しては俺がみっちり鍛えたるわ」
「まぁ、君が彼の師匠をしてくれるならそれに越したことはないが……」
近右衛門は何かを伺うように、来客用の机でコーヒーをすすっている犬神に目を向けた。
「もちろんこちらとしては、何ら問題はありません。こちらの報酬が減らなければですが」
「俺は依頼料なんていらんで。俺が育てたいおもただけやからな」
ふむ。だとしたら出費はゼロじゃしな。プラスマイナスでいうと+じゃろうし……………問題ないかの?
最後にそう考え納得した近右衛門は、六重にしっかりと頭を下げた。
「ネギ君をよろしく頼むぞ。六重殿」
「おう!!まかしときぃ!!」
こうして、ネギに一人目の師匠がつくのだった。