とある外道の少年探偵   作:過労死志願

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7話・桜通りのエターナルロリータ

「はぁはぁはぁはぁはぁ!!」

 

 出席番号16番、佐々木まき絵は夜の闇を駆ける。

 

「なに……なに? なに!? あれは!!」

 

 運動部に所属していて体力は一般人以上に保有しているはずの彼女が荒い息で、そうつぶやく。敵はかなりの強者のようだ。

 

 麻帆良を闇が包む中、彼女と追跡者の戦いは続く。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 夜の闇の中。麻帆良の建物の屋根に立った一人の老人がその光景を見ていた。

 

 いま、少女が足をもつらせて倒れてしまったところであり、襲撃者は彼女の身に覆いかぶさろうとしている。

 

「ふむ……」

 

 老人はそうつぶやくと、スッとその場から姿をけし、

 

「失礼。逢引にしてはいささか強引が過ぎるかとおもいますが?」

 

「!!」

 

 襲撃者に襲われていた佐々木まき絵の目の前に出現! 襲撃者を蹴り飛ばし彼女から引き離した!!

 

「マスター!?」

 

 襲撃者の後ろに備えていたロボットのような耳をした少女が襲撃者に駆け寄っていく。

 

「安心しろ。障壁のおかげで大事ない!!」

 

 襲撃者はそういうと同時に、マントから顔をだし鋭い目つきで介入してきた老人をにらみつけた。

 

「確か……あの外道のところの執事だったか? 金が絡まないと貴様らは動かないんじゃなかったのか?」

 

「あいにくと、あなたのやろうとしていることは現在面倒を見ているネギ様に深く関係しそうなことだったので、主人から介入しろと言われております」

 

 老人……クラレンスはそう答えながら、おびえ切っていたまき絵の首筋に手刀を叩き込み、その意識を刈り取る。

 

「あと、学園長からあなたのクラスメイトへの魔法ばれを極力阻止するようにも言われているので」

 

 クラレンスはそっけなく答えながら、まき絵をやさしく横たえ自分の執事服の上着を重ねる。その動きの一つ一つは完璧に洗練されており、優雅に、美しく、気品あふれるしぐさであった。それだけで勉強になると襲撃者の従者である絡繰茶々丸は感心しながらも、主を守るために前に出る。

 

「やめておけ、茶々丸。お前ではこいつには勝てない」

 

しかし、彼女の主はそういって彼女を端にどけた。そんな主に言葉に茶々丸は驚愕する。

 

 自分は主を守るために作られた戦闘用ガイドノイドだ。一通りの武術はAIにインプットされているし、たとえ拳銃一丁でも一流の魔法使いとそこそこ渡り合える程度の実力は持っているのだ。

 

 しかし、そんな彼女にも勝てないと彼女の主は言った。つまりこの老人が一流以上……全盛期の彼女の主と並び立つほどの強者ということを示している。

 

「なるほど、あなた直々にお相手していただけるとは……。光栄の極みではありますが、はたして力の大部分を封じられたあなたに、私を倒せますかな?」

 

「無理だろうな。正直勝てる気は全くしない。あの合気鉄扇術の爺といい、お前といい、日本には面倒な気力使いが多すぎる……だから」

 

 瞬間、彼の目の前に立っていた襲撃者は蜃気楼のように掻き消え、そしていつの間にかクラレンスの後ろへとやってきていた彼女はクラレンスの背中に氷の魔法を叩き込んだ!!

 

「多少の不意打ちぐらいは許してもらおう。この計画……失敗するわけにはいかんのだ!!」

 

 氷の魔法によって立ち込める白い煙。その中から響き渡る声には必死さがにじみ出ていた。しかし、

 

「いやはや、おみごと。すっかり騙されてしまいましたよ」

 

「「!!」」

 

 クラレンスはいつの間にか茶々丸の後ろに立っておりパチパチと手をたたいている。まるで襲撃者の努力をあざ笑うかのように……。

 

「しかし、不意打ちは我々(しのび)の専門分野にございます。次からは違う方法をとることをお勧めいたします」

 

「き、貴様!? いったいどうやって!!」

 

 確かに手ごたえはあったはずだ!! と、襲撃者が慌てて魔法を叩き込んだ場所に目を向ける。いつの間にか白い煙が晴れており、氷漬けになった何かが姿を現していた。

 

 それを見て襲撃者は絶句してしまう。

 

 そこで氷漬けになっていたのは…………………………………………!!

 

まるで神の手によって作られたかのごとく、クラレンスに精密に似せられた、等身大の木像だった!!

 

「って、なんだこの無駄なクオリティ!? 普通に丸太とかでよくないか!? なんで木像!?」

 

「マスター……今はそれどころでは」

 

「くぅ!?」

 

 突っ込みどころ満載なクラレンスの忍術に翻弄された襲撃者を、慌てて駆け寄ってきた茶々丸がいさめる。襲撃者は歯噛みしながらも懐からフラスコを取出し、地面へと叩き付けた。

 

「今日のところはこれで勘弁してやる!! 覚えていろよ!!」

 

 たたきつけられたフラスコからは凄まじい量の煙が飛び出しクラレンスの視界を奪う。そして煙が晴れた後にはもう誰もいなかった……。

 

「いやはや、やはり彼女は素晴らしいまでの……」

 

 クランレスはそういったところで口をつぐみ、横たわっている佐々木まき絵へと歩み寄った。

 

どんな小さな痕跡も残すのは危ない。彼女を寮に送り届けてこそ彼の任務は完成されるのだ。と、内心で『絶対にクラスの連中に悟らせるような痕跡を残すな』というゲルの指示を思い出しながら、クラレンスはまき絵の体を抱え上げた。

 

 クラレンスは最後に襲撃者が消えたところを見て、一言……言葉を呟く。

 

「素晴らしいまでの三流悪役でしたな。あんな捨て台詞いまどき子供向けの特撮でも聞けませんぞ」

 

 いいものを見た。と何故か満足げな彼に、遠視を使って様子を見ていた襲撃者が、ブチコロス!! といって舞い戻ろうとするのを茶々丸が必死に押さえ込んでいたらしいが、そんなこと、彼は知らない……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「三年A組!!」

 

「「「「「「ネギ先生ーっ♡」」」」」」

 

「朝からみんな元気やなぁ」

 

「アホなだけだ」

 

「千雨………………」

 

 新学期のさわやかな朝から、怒りと呆れが入り混じった辛辣なセリフを吐く親友に、若干顔をひきつらせながらマリーは苦笑をうかべた。

 

 あれからいろいろあり、今日から三年生。前学期の様々な事件の後、ネギの格闘の指導に六重がやってきたり、たま~に明日菜が泊まりにやってきたりと、犬神アンダーグラウンドサーチは賑やかな生活を送っていた。

 

 そして、何とか無事進級で来た明日菜とマリーは、正式雇用されたネギのもとでふたたび学生生活を送ることとなった。

 

「千雨ええかげん慣れたらええのに。そんな悪いクラスでもないやろ?」

 

「うっせ。私は常識なしな奴らが嫌いなんだよ」

 

「あはははははははは……」

 

 微妙に否定できないどころか、魔法使いがいるこの学園で常識を求めるのがむしろ難しいことなのだが、千雨は一般人なのでそんなことは言えない。

 

 なので、マリーはあいまいに笑ってごまかすことしかできなかった。

 

「大体、ガキが先生なんてありえねーよ。労基法はどこ行った?」

 

「いやまぁなぁ……でも最近はやっとこさ仕事に慣れてきたんか、かなり先生らしくなって来とる……」

 

「今すぐ服を脱いでください!!」

 

「「…………………………」」

 

 そんな二人に聞こえてきたとんでもないセリフに、マリーと千雨は半眼になり、

 

「先生らしく?」

 

「ごめん千雨。言いたいことわかるけどチョイ待っといて」

 

 明らかな嘲笑を浮かべる千雨にそう答えて、マリーは即座に教壇までダッシュ!! ネギの顔面にハリセンを叩き込み彼のメガネを吹き飛ばす!!

 

「おのれは何処のセクハラ教師やぁあああああああああああああああ!!」

 

「ヒデフッ!?」

 

 美しく弧を描いて吹っ飛んでいくネギを見て、クラスメイト達は思わず拍手を送った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「さくら通りの吸血鬼?」

 

 さて、先ほどのネギのセリフが身体測定を受けるためだと知ったマリーたちは、速やかに気絶してしまったネギを追い出し(ちょっと強く殴りすぎてしまったかもしれないとマリーは若干後悔した)、マリーたちは服を脱いでいた。

 

 そんな時に聞こえてきたのが佐々木まき絵の夢の話である。

 

「なんか、私は寮に帰るに桜通りを歩いいたんだけどね、突然ぼろくて黒い布を羽織った小さな陰に襲われたの……。そしたら、突然現れたすっごいおひげの御爺さんが助けてくれてねぇ」

 

「ゆ、夢やんなぁ?」

 

 まき絵が手で示したひげの形に、あまりに思い当たりすぎる自分の知り合いを思い出しながら、マリーはとりあえずそう尋ねてみた。

 

「うん。夢だよ~。だって私目を覚ました時には寮についていたもん。どうやって帰ったかがどうしても思い出せないんだけどねぇ」

 

「……」

 

 もうバリバリ本当の話臭いまき絵のセリフに、マリーは思わず顔をひきつらせた。彼女の脳裏には、気絶したまき絵をかかえながら窓から寮へと侵入する老紳士の姿が鮮明に浮かんでしまっていた。

 

「最近有名やんなぁ。吸血鬼のうわさ」

 

 と、とにかく話題をそらさな……。万が一にもその老人がその老人が自分の知り合いだと気付かれたくないマリーは、そう言って無理矢理話題を変える。

 

「まき絵もその話聞いたからそんな夢を見たんじゃないか?」

 

「う~ん。そうかも~」

 

 友人のアキラと亜子にそう言われて苦笑いを浮かべるまき絵。そして、まき絵が測定のためにその場を離れると同時に、マリーは近くに控えていたエヴァンジェリンを急襲。念のため確認を取りに行く。

 

「なぁなぁエヴァちゃん。桜通りの吸血鬼ってエヴァちゃんちゃうよな?」

 

「……だったらどうした?」

 

 あれ、なんか若干機嫌悪い?

 

 なぜだか親の仇でも見るような視線で自分を睨みつけてくるエヴァに驚きながら、マリーはそれでもめげずに話しかけてみる。

 

「いや、別にどーもせぇへんけど、ネギ君になんかするんやったらやめといたほうがええで? 犬神君が黙ってへんやろうし……」

 

 マリーの真剣に心配した表情をみて、エヴァはため息をつく。

 

 これはどうも知らないな……。と言う自分にだけしかわからない安堵を込めて、だ。

 

一応友人とは言えマリーも犬神の一味の一人ではあるので、何らかの妨害をしてくるかと警戒していたのだが、この口ぶりだと犬神とあのむかつく執事が動いていることは知らないようだ。

 

 そう結論付けたエヴァは友人と戦わなくていいという事実に安堵し、そしてそんな感情を抱く自分を『弱くなったな』と嗤いながら警戒を解き、いつもの口調でマリーに話しかけた。

 

「ふん。別にその程度ならどうとでもなるな。忘れたのか安川。私は伝説の吸血鬼だぞ!!」

 

「封印されてるんちゃうんかい!?」

 

「その封印ももうしばらくでとける……」

 

「????」

 

 マリーはしばらくキョトンとした顔をしていたが、

 

「ああ!! 封印解く方法を学園長が見つけてくれたんやな!! よかったやん。これでようやく卒業やな!!」

 

「あぁ……うん。まぁ、なぁ?」

 

 ちょっとだけ言葉を濁してしまうエヴァに気づかず、マリーはにこにこと笑いながらエヴァの肩をたたいた。

 

「ああ、でも封印解けても卒業するまでは麻帆良にいてや。一緒に修学旅行にいこうや」

 

「ああ、わかっているよ」

 

 若干顔を赤らめながらそう答えるエヴァにマリーは満足げに頷いた後、身体測定へと向かった。

 

「よろしかったのですか?」

 

「ふん。いまさら友をだますことに罪悪感を覚えるような柔い精神は持っていない」

 

 背後に控えていた茶々丸にそう聞かれて、エヴァンジェリンは鼻を鳴らす。そして、冷たい声音で茶々丸に守備を訪ねた。

 

「そちらはどうだ?」

 

「博士に頼んで軍事研の方からミサイルランチャーなどの重火器を譲り受けました。迎撃の準備は万全です」

 

「そうか……」

 

 エヴァはその答えに満足げに頷き、不敵な笑みを口元に浮かべる。

 

「犬神ゲル。今宵も邪魔をしに来るというのなら、いいだろう。完膚なきまでに貴様をたたきつぶす」

 

 戦争だ……。エヴァのその小さな呟きはクラスメイト達の騒がしい喧騒にかき消された。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

「吸血鬼だと?」

 

「そうです!!」

 

 その晩の犬神アンダーグラウンドサーチにて。夕食を食べ終えたネギは、自分の教え子たちから吸血鬼のうわさを聞き燃えに燃えていた。

 

「生徒の安全を守るためにもパトロールをするべきだと思いませんか!!」

 

「思わないな」

 

 しかし、その熱意は犬神の一言によってわずか数秒で粉々に打ち砕かれた!!

 

「……………………………即答!?」

 

 返答に0,1秒もかかっていない犬神の言葉にネギは一瞬フリーズしてしまったが、そこは慣れれば何とやら。何とかツッコミを返すことに成功する。

 

「ふん。やるようになったではないか」

 

「いやそんなことで感心されても困るんですけど……。僕犬神さんから教えられたことってツッコミのことしかないですよね? ツッコミスキルだけがガンガン上がっていっているような気がしますよ!?」

 

「世の中に一番必要な技術がスキルアップしてよかったじゃないか?」

 

「ツッコミがですか!?」

 

 マリーバリのツッコミを披露しながら犬神に食って掛かるネギ。物覚えはええのは才能なんやろうけど……才能の果てしない無駄遣いやなぁ。と、若干呆れながら食器を洗い終わったマリーはその会話に参加した。

 

「ネギ君。ネギ君。思いっきり話ずれとるで?」

 

「はっ!? そ、そうでした!! どうして吸血鬼退治しないんですか!!」

 

 マリーにそういわれてなんとか自分を取り戻すネギ。そして犬神はいつものようにメガネを光らせながらネギにこう返した。

 

「きまっているだろう……金にならないからだ!!」

 

「力強い返事ありがとうございます……」

 

 いや、もうわかっていましたけど……。と、若干へこみながらそれでもネギは食い下がる。

 

「でも犬神さん。もしかしたらマリーさんが襲われるかもしれないし、犬神さんも危なくて夜に依頼こなすことができなくなりますよ?」

 

「ネギ……」

 

 しかし、犬神はいたって平然とした表情でネギの肩に手を置き、傲然と言い放った。

 

「正直……超・どうでもいい」

 

「超……!?」

 

 いつぞやのセリフと丸かぶりな犬神答えに愕然とするネギを後目に、犬神は肩をすくめながら玄関へと歩いていった。

 

「正直吸血鬼が暴れようが、超・知ったこっちゃないし、超☆どうでもいい。学園長の話では今のところ死者も出ていないようだし、実害もない。だったらちょっと大きめの蚊に噛まれたと思って割り切ればいいではないか」

 

「いや、蚊と吸血鬼はだいぶ違う思うんやけど?」

 

 というマリーのツッコミを意に介さずに犬神は玄関で靴をはき外出の準備をする。

 

「行くぞ。クラレンス」

 

「御意」

 

「あれ、どっかいくん?」

 

 そういって玄関のドアを開けた犬神と宙からにじみ出るように出現したクラレンスに、マリーはそう尋ねた。今夜は依頼が入っておらずのんびりとする予定だったと思うのだが……。

 

「少し用事があってな。人探しをする予定だ」

 

「ほな、私もついて行って手伝おか?」

 

「あ、だったら僕も。ついでに見回りもしたいですし!!」

 

 それを聞いて一応は好意で手伝いを申し出る居候と探偵助手。

 

 しかし、

 

「別についてきてもいいが……」

 

 犬神はそんな二人の行為の申し出にたいし、眼鏡をきらりと輝かせながら、

 

「僕はこの依頼の間始終不機嫌だぞ?」

 

 一言……限りなく物騒な色を込めて言い返した。

 

「え……」

 

「始終?」

 

「始めから終わりまでだ」

 

 その言葉にマリーとネギは顔を見合わせ、

 

 

 

 

 数分後。

 

 

 

 

「「あはっ♡いってらっしゃーい」」

 

 ヒメを伴い笑顔で犬神を見送った。

 

「八つ当たりとかされとーないし!!」

 

「まったくですね!!」

 

「軟弱な奴らめ……」

 

「行ってまいります。ペコリーニョ」

 

「「ニョ!?」」

 

 クラレンスの不思議なお辞儀にツッコミを入れる、ネギとヒメ。

 

そんな二人を完全に無視して、犬神たちは麻帆良の闇へと足を踏み出した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「く、くそ!? な、なんなんだいったい!! ただの噂じゃなかったのかよ!!」

 

「ふふふふ。そう思っている奴がいるからこそ私の獲物は減らないんだ。現代人の鈍さに感謝だな」

 

 エヴァはそういいながら一人の男性を追跡していた。今夜の獲物は彼である。本当ならネギのクラスの人間を襲いわざとネギに気づかせるという手法を取りたかったのだが、昨日の一件でその方法では犬神がやってくるということは理解した。

 

 だから彼女は実験を開始した。

 

 ネギの周りの人間以外を襲うに当たり、あいつはきちんとやってくるのか?

 

 来ないなら、少し手間はかかるがまだネギを自分のもとに誘導することは十分にできる。だが、あいつが昨日から私の行動のすべてを封じるつもりなら……。

 

「戦争するつもりだよ。犬神ゲル」

 

「ふん」

 

 そして、奴はやってきた。昨日のひげ紳士を伴った奴は、建物の屋根に立ちはるかな高みからエヴァを見下ろしていた。

 

 エヴァはそんな彼らの気配に気づき、不敵な笑みを浮かべながら犬神を見上げる。

 

「来てしまったか……。犬神ゲル。今夜、お前の命は尽きることになるぞ」

 

 重火器を無数に構えて戦闘態勢を取る茶々丸。エヴァもマントから無数のフラスコと試験管を取出し犬神に向かって構えを取った。

 

 だが……。

 

「おい、そこの幼女。邪魔だ。どけ」

 

 犬神の口からはとんでもない言葉が発せられるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 エヴァは犬神の暴言にしばらく唖然としながら固まった後、

 

「はぁ!?」

 

 思わず間抜けな声を上げる。しかし、そんな彼女を放置して状況はどんどん進んでいった。

 

「ちくしょう!! 噂じゃなかったのか!? お前みたいな怪物が襲ってくるなんて聞いてねぇぞ!?」

 

「怪物とは失敬だな。僕のようなかわいい少年を捕まえて……」

 

「ちょ、ちょっと待て!! お前私たちにビビって逃げていたんじゃないのか!?」

 

 犬神を見てちょっと人間がしてはいけないような、恐怖にゆがみきった顔をする男に、エヴァは慌てて話しかけたが、

 

「え……あ? だれだよ、お嬢ちゃん? 子供がこんな時間に起きていちゃだめだぜ?」

 

 気づかれてすらいなかった……。ちょっとだけへこむエヴァを茶々丸が慰める。

 

「はるかな遠くから僕の気配を察知したその手腕には感心するが、だがしかし……逃げられるとでも思っていたのか?」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 泡を食って再び逃走を開始する男。結構速い逃げ足。おそらく一般人ながらも、足に気を集めて身体強化をする方法を体得した武道の達人なのだろう。

 

が、

 

「クラレンス」

 

「御意」

 

 この二人から逃げられるわけもなく……。即座に瞬動を駆使し屋根の上から消えたクラレンスが男の目の前に出現し、ゲルはその後ろの道をふさぐよう瞬動で移動した。

 

「おい……無視か? 完全無視か?」

 

「マスター。彼らは全く聞いていません」

 

 なんだか取り残されてしまった茶々丸とエヴァを無視して。

 

「逃げ切れると……思われたことがすでに不快で腹立たしい」

 

 男を追い詰めながら静かな怒りをはらんだ声音でそうつぶやく犬神に、男の顔はさらにひきつり、

 

「僕は僕の仕事を果たした。あなたにも、自分の義務を果たしてもらおうか?」

 

 犬神の人殺しの視線を受けて、その恐怖は臨界に達した。

 

「あわわわわわわわわわわわわわわ……」

 

 もうめったに聞けないような典型的な慌てふためいた声を上げる男。そんな二人の様子を見て、

 

「なぁ、茶々丸。、マリーを騙してまでこの場に臨んだ私の覚悟はどうなるんだ?」

 

「マスター。気を確かに」

 

 色々と理不尽な状況にエヴァは嘆く。

 

「というかお前たちは何しに来たんだ? そいつは私の獲物なんだが?」

 

 とりあえず状況把握がしたかったため犬神にそう尋ねるエヴァ。すると犬神はどす黒い怒気をにじませながらこう答えた。

 

「こいつは僕の元依頼者だ」

 

「元?」

 

「成功報酬を払わずに僕から逃げ出そうとした身の程知らずな……元依頼者だ」

 

「あぁ……なるほど」

 

 男の命をドブに捨てるような行為に、若干呆れながらエヴァは素直に身を引いた。

 

 金がらみの話で犬神にケンカを売るほどエヴァは考えなしではなかった。犬神は金の話が絡むと20倍界王拳を使えるようになる男である。

 

「いや、マジで勘弁してください!! 依頼料はきちんと払いますから!!」

 

 最終的に男は泣きながら土下座した。生まれて初めて見る男の本気の土下座にエヴァは若干引いてしまうが、犬神はいたって冷たい瞳で男を睨みつけ続ける。

 

「逃げたくせに?」

 

 キュピーン!! 犬神の目が深紅に輝き、魔法世界の怪物みたいな殺気を放ち始める。

 

 当然男は恐怖におびえガタガタと震え始めるが、ここで口を閉ざしたら終わると本能的に理解しているのか口だけはクルクルとよくまわりながら言い訳を紡いでいた。

 

「いや、なんというか!? 今不況だし、株でミスっちゃったりパチンコで大負けしたりしちゃって……」

 

「いや、完全に自業自得だろそれ!?」

 

 訂正。言い訳どころか、思わずエヴァがツッコミを入れてしまうほどボロが出まくりだった。

 

「僕には……」

 

 そして、犬神は男の言い訳をさえぎり、どす黒い言葉を解き放つ!!

 

「嫌いな人種が七億ほどいるんだが」

 

「七億!?」

 

「人類の大半が嫌いではないか!?」

 

 男とエヴァのツッコミを無視して犬神は話を続ける。

 

「その最たるものが……貧乏人と、けち臭い金持ちと……」

 

 そして、目元に影が入りその向こうから、狼のような人殺しの視線が男に対して向けられた!!

 

「謝罪で自ら、許しを請うものだ」

 

 そして決め台詞。

 

「ドあつかましいわ!!」

 

「ごもっとも!?」

 

「うをぉ!?」

 

 男はそういいながら飛び上がり、何故かエヴァすらも飛び上がった。というかさっきから空間を埋め尽くす殺気が尋常ではない。全盛期の自分ですら出せたかもわからないドス黒い殺気にエヴァは思わず顔を引きつらせる。

 

「だがお前にとっては幸いなことに、僕は私情で仕事はしない」

 

「常に私情でしているだろうが!!」

 

 主に金のために。

 

 エヴァのツッコミを華麗にスルーし、犬神はクラレンスに命じて男を引きずっていかせる。

 

「金がないなら別のもので返してもらう。よかったな。この世には金銭以外にも労働で支払う対価があって」

 

「な、内臓系は嫌ぁあああああああああああああああああああああ!?」

 

 うすら寒い笑みを浮かべて、どこぞのヤクザも真っ青な言葉をまき散らす犬神に、男は泣きながら悲鳴を上げた。

 

「失礼な。うちはそんな闇金テイストではない」

 

「おまえ、自分の顔見たことがあるか?」

 

 そこで犬神はようやくエヴァのほうを向き一言。

 

「あれ? いたのか?」

 

「ずっといたよ!!」

 

 ようやく本題である。

 

 

 

 

ちなみに、

 

「あの男はどこに連れて行ったんだ?」

 

「なぁに。ちょっとうちの地下室に連れて行っただけだ」

 

「地下室? ものすごい内臓系の臭いがするんだが?」

 

「だからうちは闇金ではないといったはずだ。地下室にあるのはただの……」

 

「ただの?」

 

「人力発電機だ」

 

「……そういえばマリーが言っていたな。うちの生活費では電気代だけが見たことないって……」

 

「うちはほら? エコ発電だから」

 

「ずいぶんと人に厳しいエコだな……」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「それで? お前はいったい何がしたいんだ?」

 

「私の目的はただ一つ。この呪いの解呪だ」

 

 夜の闇の中、犬神とエヴァンジェリンが殺気交じりの視線を交換していた。

 

 犬神はひどく鬱陶しそうに。エヴァはかなりの怒気をはらんで。

 

「それは困るな。大方あの《千の呪文》の血族のあいつの血を使って魔力を回復したうえで、力任せに粉砕しようという考えなのだろう?」

 

「察しがいいな」

 

「エターナルロリの考えることなどすべてお見落としだ」

 

「どっちなんだ!! あと、その呼び方はやめろ!! 好きどこうなったわけじゃないんだよ!!」

 

 エヴァの魂の叫びを聞きながら、茶々丸は犬神にいじられるエヴァンジェリンを記録していく。

 

 殺気はあっても緊迫感はかなり欠けていた……。

 

「まったく最近の吸血鬼はこれだから困る。昔の吸血鬼はトマトジュースを飲んで血液の代わりにしたんだぞ。昔の先達たちを見習い仲良くやっていこうとは思わんのか?」

 

「そんなギャグ漫画の住人達と一緒にするな!! あと、私に呪いをかけた奴の息子じゃなかったら、私だってもう少し友好的に接してやったわ!!」

 

「できないことは口にするな」

 

「最初から全否定!?」

 

「マスター。話がずれています」

 

「くぅ!?」

 

 犬神のイジリマシンガントークにちょっとだけ載せられてしまったエヴァは悔しそうに歯噛みをする。そのすがたはまるで、

 

「そう。一昔前の魔女っ娘物の敵役みたいな……」

 

「お前たちは、どうしても私のこと三流悪役にしたいのかぁああああああああああああああああああああああ!?」

 

 エヴァの絶叫が夜の麻帆良に響き渡った。

 

 

 数分後。

 

 

「まったく。突然叫びだしおって。ご近所迷惑だと思わんのか?」

 

「だれの……ぜいだ……」

 

「マスター。のど飴です」

 

 色々と叫びすぎてしまい、のどを嗄らしてしまったエヴァは肩で息をしながら座り込み、茶々丸にかいがいしく世話をしてもらっている。

 

「それで、お前はいったいどうしてほしい? ギャグ補正でそろそろのども治っただろう?」

 

「コマ割りがないから不可能だ、バカ……。私とボーヤを戦わせろ。私が勝ったら奴の血を吸わせろ。その代り私が負けたらあのボーヤの修行を手伝ってやる」

 

「却下だ」

 

 犬神はそういうとさっさと踵を返して、自分の事務所へと戻ろうとした。

 

「一応聞いておくが……なぜだ?」

 

「僕の依頼はあいつを育てて一人前にすることだ。おまけに昨日のお前の行動を見る限り、お前は自分のクラスメイトを使ってあいつを追い詰めようとしているのだろう? だったらそれは看過できん。あのクラスへの魔法ばれの阻止も依頼の中に含まれているからな」

 

「そうか……。なら……」

 

 戦争だ。

 

 エヴァがそうつぶやき、背中を向けている犬神に向かってフラスコを構える。犬神もそれに反応したのかぴたりと歩みを止めエヴァのほうを振り向いた。

 

「初めに言っておくぞ。現状僕は確かにクランレスには勝てないが、負けもしない。昨日あいつとの交戦をひかえた貴様らが僕に勝てると思うのか?」

 

「貴様こそ。私たちが今日の間に何の対策も講じていないとでも思ったのか?」

 

 エヴァと犬神の魔力と気が高まりあいぶつかり合う。ぎしぎしと空間が歪みあたりに暴風が吹き荒れ始める。

 

 そして!!

 

「あの、犬神様」

 

「……………………なんだ。茶々丸とやら」

 

「おい茶々丸!?」

 

 二人の戦闘をさえぎるように、茶々丸が二人の間に入り犬神に話しかけた。

 

「安心してくださいマスター。私に妙案があります」

 

「妙案だと?」

 

「犬神様のデータはすべて今日の間にインプットしておきました。おそらくはネギ先生との戦闘を許可していただけるかと……」

 

「はぁ? そんなことができるのか!?」

 

 エヴァの言葉に深く頷き、茶々丸は犬神に向かってこう言い放った。

 

「犬神様。ネギ先生と戦わせていただけるなら、それなりの報酬をお支払いします」

 

「茶々丸……。いくらそいつが金の亡者でもさすがにそれは……」

 

 無理だろう? エヴァがそう言ってため息をつきかけたとき、

 

「さて、具体的な話をお伺いしましょうか」

 

「おちたぁあああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 まさかまさかの陥落だった。ちなみに、犬神の目は『¥』になっている。

 

「なんだったんだ。私の苦労と覚悟はいったいなんだったんだ」

 

「ああ、マスターがあんなに面白い感じに…………………」

 

 思いっきりへこんだエヴァンジェリンを茶々丸が無表情のまま記録し『ますたーの成長記録』というファイルに保存されたことをエヴァンジェリンは知らない。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「というわけで、吸血鬼退治をして来い」

 

「「エェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

 

 

 やたら鬱陶しい絶叫をあげるネギとマリー。犬神はその声を聴きながら紅茶を一口。そして一言つぶやいた。

 

「うん。今日もなかなかの紅茶だったぞ」

 

「おほめにあずかり光栄です」

 

「では次の依頼の話に移ろうか?」

 

「御意」

 

「いや、説明せぇや!!」

 

 サラッと二人の反応をスルーした犬神に向かって、マリーが見事なハリセン投擲を行う。そして気円斬張りの回転をしたハリセンは犬神へとクリーンヒットし、犬神のメガネを吹き飛ばした!!

 

「ふっ……。腕を上げたな安川」

 

「いや、どこの漫画のまねしとんねん!? 全然にあってへんよ!?」

 

「むっ。失敬な奴だな。そこはかとなく湧き出ているだろう? 僕の……お金が大好きだというオーラが!!」

 

「そんなん湧き出さんでええわボケ!!」

 

 マリーの喉を嗄らしてまでの魂のツッコミにようやく満足したのか、犬神は地面に転がったメガネの回収しそこについた埃を吹き払った。

 

「さて、次の依頼の話だ」

 

「満足したんちゃうんかい!!」

 

 もう話が進まなかった……。

 

「あ、あの……犬神さん? 吸血鬼にあったんですか!?」

 

 閑話休題がようやく終わり、まともに話すことになった犬神一行の会議はネギの第一声から始まった。

 

「無論だ。コンビニでトマトジュースを買っているところに出会ってな。最近はカゴメの野菜ジュースにはまっているといっていたな」

 

「ま、マジですか!!」

 

「大マジだ」

 

「思いっきり嘘っぱちやんか!!」

 

 話を進める!!

 

「ほんで、その吸血鬼さんはいったい誰やったん? やっぱり外部からの侵入者とか?」

 

「いや。あの封印された吸血だったよ」

 

 至って平然と、きっぱりという犬神に、マリーは思いっきり縦線を入れる。無論犬神はマリーがエヴァンジェリンと友人なのを知っているわけで……。

 

「いやいや……そこは躊躇おうや!? 仮にも私の友達が私を騙してまでなんかしたがってんねんで!! おしえんの少しはためらうやろ!?」

 

「何を言っている? そんなもの躊躇って何になる。奴がここ最近の騒動を起こしていたのは事実だし、お前に隠したところで結果が変わるわけでもない。だったら教えることを躊躇う理由がどこにある?」

 

「うっ」

 

 至って正論。犬神の言葉にやや面をくらいマリーはひるんだ。

 

当然と言えば当然のことだった。本当に外部から吸血鬼が入り込んでいるなら麻帆良の魔法先生や魔法生徒が黙っていないだろう。なにより深夜にあのダイナマイトバカの大砲級拳銃の轟音が響き渡っているはずだ。それがないということは、つまりは内部犯。それも学園長が手綱をとれないほどの実力者だということ……。

 

「はぁ……。まぁ、薄々感づいとったけども……。『お前に真実を知る覚悟があるか?』とか、そういうセリフがあってもよかったやん?」

 

 若干ふてくされたマリー。犬神との間に緊張が走り若干のシリアスさが、

 

「KOKUGO?」

 

 し、シリアスさが……

 

「NO!! 誰が古き良き日本を学べゆーた!?」

 

 シリアスさが……出るわけがなかった。

 

 まぁ、そんなこんなでエヴァがマリーをだましたことは平然と流されてしまったが、そんなことはどうでもいい、というかよく知らないうちに命の危機を迎えた少年は見事に置いてけぼりを食らったわけで……。

 

「いやいや!! 二人とも何の話をしてるんですか!! と、とにかくその吸血鬼さんを捕まえたらいいんですよね!? どんな人なんですか?」

 

「ん? なぁに。ただの闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)だ」

 

「実家に帰らせてもらいます」

 

「あきらめんのはやっ!?」

 

 どこから取り出したのか風呂敷を担いでどこかに行こうとするネギに容赦ないハリセンの一撃。犬神アンダーグラウンドサーチに来てから自分では逆立ちしたって勝てない存在がいると知ったネギ。そのため世界の広さをいち早く知ったはいいが、あきらめ癖がついてしまっていた……。

 

「いやいやいや!! 無理ですって!! 勝てないですって!! 死んじゃいますって!! 相手はあの《闇の福音》ですよ!!」

 

「なんや、エヴァちゃんって、そんな強いん?」

 

 実はマリー、エヴァの本当の実力……というか全盛期の実力というものを全く知らなかった。もともと魔法使いとは若干縁遠い父を持つ彼女。しかも、その裏にかかわっている父親も旧世界の戦場ばかり渡り歩いていたため、魔法使いたちの常識にはかなり疎かった。

 

 そのため闇の福音といわれても《だーくえんじぇる?》としか聞こえないのだ。

 

「まぁ、そうだな。全盛期なら僕も少々苦戦するかもしれないといった程度の相手だ」

 

「いや、めっちゃ強いやんか!! え、うそ、あの子そんな強かったん!?」

 

 驚愕の事実に愕然とするマリーに犬神は黒い笑みを浮かべた、

 

「まぁ、ようするに……お前が友人を名乗るなど、三億年早いほど高みいる存在だということだな」

 

 サクッ!?

 

 マリーに七万のダメージが入った!!

 

 物理的ダメージを伴った口撃を食らい額から血を流し倒れるマリー。そんな彼女にネギは泣きながら縋り付いた。

 

「だ、大丈夫ですかマリーさん!? 気をしっかり持ってください!!」

 

「まぁ、そんな冗談はともかく」

 

「冗談では済まない感じのダメージですけど!?」

 

 閑話休題……?

 

「でさぁ、犬神君。なんでまたネギ君がエヴァちゃんと戦わなあかんの? しかもエヴァちゃんって犬神君と同じくらい強いんやろ? そんなんネギ君が負けるに決まってるやん」

 

 そんな相手にネギをぶつけるなんて、ネギを育てるように言われた犬神としては最悪の選択肢のはずだ。現にクラレンスさんが通りかかって証言してくれたが、今まではちゃんと邪魔をしていたようだし……。

 

 そんな風に考えたマリーの当然と言えば当然の疑問。だがしかし、その尋ねた本人のマリーはすでに答えがわかっているらしい。いつの間にかハリセンを持って、入念にストレッチを始めている。そんなマリーをしり目に犬神はいつものように眼鏡を輝かせて一言、

 

「そんなもの……あのエターナルロリから金が入るからに決まっているからに決まっているからだろう!!」

 

「やっぱりかぁ!!」

 

 もうある程度予想していたとはいえ、すがすがしく言い切った犬神にマリーのツッコミが決まる!! もうテンプレといっていい展開にちょっと苦笑をうかべながら、ネギはため息をついた。

 

「犬神君……君はもうちょっと人情とか、優しさとかを覚えるべきやで?」

 

「SINZYOU?」

 

「NO!! なんでエンターテイナーやねん!!」

 

「あ、あの……僕は結局どうすればいいのでしょうか?」

 

 もういつまでたっても話が進まない二人の掛け合いに、ネギはちょっと泣きそうになりながらそう尋ねた。当然である。このまま無駄な時間が過ぎていく内も、闇の福音が襲いかかってくるかもしれないのだ。その恐怖はひとしおだろう。

 

「ああ、安心しろ。契約で奴との戦いは次の満月。大停電の日と決められている。それまで奴はお前に指一本触れないし僕が触れさせない」

 

「そ、そうですか……」

 

 ようやく安心できる要素ができたことに安堵の息を漏らしながらネギはため息をついた。これで次の満月の晩までは安心だと……。

 

 だが……。

 

「でも犬神君。このままやとどっちかの依頼が履行できひんで? ネギ君負けたらただではすまへんやろうし、ネギ君守ったらエヴァちゃんとの契約履行できひんし……」

 

「安川。僕を誰だと思っている。僕はプロフェッショナルだ。無論どちらの依頼も完遂する」

 

「どうやって?」

 

「なぁに。要はネギが負けなければいい」

 

 その言葉と同時に、犬神はネギの両肩にポンと手を置いた。

 

「僕が次の満月までにお前を死ぬほど鍛えてやろう。次の満月の晩大停電によって奴の力のほとんどが元に戻るが、すべてが戻るわけではない。僕が全力で鍛えれば何とか奴と張り合えるようにはなれるだろう……」

 

 声音はいつもと変わらずとても平坦。しかし、その眼は「失敗は許さん」といわんばかりに殺気が込められ、ネギを睥睨していた。

 

「さぁ。特訓は今晩からだネギ・スプリングフィールド。お前に地獄を見せてやろう」

 

 こののちネギはこう語ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吸血鬼に殺されたほうがましでした……と。

 

 

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