「神と、月と、ロケットと」   作:saboten21

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 やってしまった。二次創作()です。
 ポケモンという取っ付きやすい題材で書いてみると、オリジナルより遥かに書きやすくモチベーションが全く落ちないことに驚いています。やはり好きな題材って大事だなぁ、と今回思い知らされた次第です。
 連載と銘打ってますが続きがあるかは未定。未定みてーな感じですが是非みてーいってくださいな。
 注意点として、ポケモンの知識がある程度ある前提で話を進めていきます。ご了承下さい。


chapter1

 「――では、最終段階となります。こちらの書類にサインをして頂ければ」

 机越しに相見えているのは、若さを残しながらも数々の事務作業をこなしてきたのであろうことが伺える女性、例えるならまさに、“おとなのおねえさん”であった。僕はその書類に手を伸ばし、癖の残る、それはお世辞にも綺麗とは言えない字体で自らの本名を書き記す。これは僕がそれに完全に同意したことを意味する、証明である。僕は無言で、それを女性に差し出したのだった。

 「ありがとうございます。これであなたは晴れて、“ロケット団”の一員ということになりました。ようこそ、ロケット団へ」

 僕は一礼し、部屋を後にした。

 

 ――とあるビルの最上階。一人掛けの、シックでありながらも荘厳な椅子に腰掛けるのは、良く手入れのされたスーツに身を包む中年の男性であった。しかし、その椅子に座ることを許されるには、あまりにも若すぎることを、その後ろ姿を見つめながら話を続ける秘書が感じていることは間違いないのだろう。

 聞けば要用なことを投げかけているのだが、その男性は決して後ろを向かず、否、後ろを向いて、扉とは真反対の方向にある大きなウィンドウのどこかを眺めている。彼は、話の内容に返答をすることはなかったが、何かを思いついたように口を開く。

 「彼はどうだ?」

 報告の途中であった。あまりに突飛な返答に秘書は戸惑いを隠せない様子ではあったものの、そこでそれが何の意味を指し示しているのかを尋ねてしまえば、自分がどうなるかということを分かっているのだろう。彼女は、自分が思いつく中で最大の適した答えを探し出し、話を続けた。

 「ええ、ついこの間、入団されたそうですよ」

 彼女の答えに、彼は笑んだ。そして、彼の膝で蹲る、白く染まった毛並みの良い“猫のような生物”もそれに応えるように、啼いた。

 

 ポケットモンスター、縮めてポケモン。この世界の不思議な不思議な生き物。その歴史、生態、特徴なども未だに研究が進んでいないが、とても賢く、人と共存し繁栄した生物である。それぞれがとても特殊な“とくせい”を持っていて、既存の動物とは一線を画した存在ではあるのが、人間には力があった。いや、与えられたのだろうか。それも定かではないが、その力を言葉として表すのならそう、科学力ということになる。

 モンスターボールという高機能な機械にポケモンを入れることにより、そのポケモンにとっていちばん居心地の良い住処となりリラックスさせることや、そのポケモンの知能を急激に高めることができる。他にもポケモンの自然治癒力を急激に高めること、細胞の成長を促すことなどが確認されている。皮肉にも、洗脳、または兵器などとも評されることのあるこのモンスターボールであるが、何故規制されないのか。それは人にとってポケモンという生物がただただ強すぎたのだ。戦車も無力、最新鋭の航空機による爆撃も効かず、果てには核爆弾をも受け付けない体を持ったそれに対抗するのは、それこそ皮肉にも、ポケモンそのものであった。

 ポケモンとポケモンを戦わせる。倫理を犯しているのではないかという行為にも関わらず、認められなければいけない理由があった。しかし人間にとって好都合だったのは、それが人間に匹敵してもおかしくはない知能を持っていたことだろう。知能と力を持った生物を従わせることができるのなら、これまでとは変わらないピラミッドを構築することができる。だが、そうはならなかった。

 度重なる爆撃により焦土と化した地を復興したのは、人であり、ポケモンでもあった。小さなきっかけで人に懐いたポケモンは人と協力しあい、家族のように振る舞い、そして人を救った。力を持った生物、またはエイリアンともとれる存在の大繁殖により窮地に陥った人間は、その生物と争う道を消すことで、既存の科学力を別のベクトルへ向けることになったことは、今の世界が存在するきっかけであり、理由であったことは想像に難くない。今やポケモンバトルというスポーツ、競技が当たり前のように行われる中、ピラミッドの歪みは果たして人類にとって――。

 

 というのは、“トレーナーズ・スクール”でも比較的早い段階で習う程度の常識、歴史ではあるが、そんな内容の文章がロケット団入隊審査の書類に記されていたのは、ロケット団に入る際に行う必要がある、規約に由来する。その一、“ロケット団に入隊する際に自分の所持するポケモンを全て逃がさなければいけない”という規約が第一なのは、恐らく大多数のトレーナーが怖れる行為であり、ロケット団が忌み嫌われる理由の一つだからなのであろう。

 しかし僕はそれを躊躇わなかった。人道を踏み外しているつもりはないし、それなりに逃がしたポケモンとは仲良くやっていたつもりだ。でも、僕にはそのポケモン達が心から笑っていたのを見たことがなかった。ポケモンにも、個性があるし、好みがある。ただ僕がそれに当てはまらなかっただけなんだろう、と思っただけだ。と、眠い目を擦り改めて書類に目を通していると“あさのひざし”が零れるカーテンと、無機質な音を奏でる目覚まし時計が僕に起きろと告げる。今日は正式にロケット団としての活動が始まる日、僕は生まれてから十七の歳を迎えた。

 朝起きてすることはパソコンを覗くこと。これは僕が社会的に駄目な人間なんだということを指している構図ではなくて、ロケット団の任務は高度なロックのかけられた通信を通して自宅のパソコンに送られる。例え家族でもこれを見られてはならないし、見せてはならないけれど、僕の親は随分前に他界しているからそれはあまり関係のない話か。

 パソコンに一件のメッセージ。

 「入団、おめでとうございます。規定通り、ポケモンを一匹支給しますので、ロケット団カロス支部の方へお越し下さい」

 と、件名。本文を適当に読み流し、ページを閉じる。基本的に全てのポケモンを逃がしてしまうと、野生のポケモンに襲われたときなど危険な為、大体どこの地方でもポケモンを無所持で歩くことは禁止されている。その為、ロケット団でも入隊後に支給される制度がある、とのことらしい。

 僕としても丸腰で歩くのはあまり気が進まないし、早い所カロス支部に向かわなければ。と、整容しようと鏡を見る。――寝癖だらけだ。

 ボサボサのやや長めの黒髪を整え、若干幼さの残る顔を洗い、お気に入りの洋服に身を包むとロケット団員を証明するバッジをポケットにいれる。身分証明書ではないが、これがないと支部や本部で行動することができない。相変わらず髪がツンツン跳ねているが、まあいいか。

 ポケモンがいないまま歩いて警察に見つかった場合とてもめんどうくさいことになるので、とりあえず僕はタクシーで移動することにしたのは、親からの遺産が有り余っていることに由来する。電車でも良かったけど、草むらのあるところは歩けないから、ね。

 家の前にタクシーを呼び、支部の近くにある建物を適当に伝えて運んでもらうことにした。

 

 「――到着したよ。えーと、十四万五千円になるが、ぼっちゃん、払えるかい?」

 だいぶ大きな桁になってしまったが、逮捕された場合を考えると安いものだ。まあ、これから活動することによって逮捕されるリスクはどんどん増えていってしまうわけだけど。始まる前から終わってしまっては元も子もない。

 「カード払いで」

 僕がブラックカードを見せると運転手さんの目がぎょっとしたような気がしたが、そこは“ミアレシティ”のタクシー会社、慣れているのだろう。潔く精算を終えると、僕は頭を下げタクシーを見送り、支部へ向かうのだった。

 幸い街中に草むらはなく、ずっと地面を見つめ歩いていた為トレーナーと出会わなかったのは大変良かったが、傍から見てどう映っていたのだろうと考えると、多少不安は隠せない。

 十五分程歩いただろうか、支部とはいえとても大きなビルである。ここに来るのは書類を提出しに来たとき以来だろう。回転ドア、エスカレーターに導かれ、ポケモンを支給する部署へと歩みを運ぶ。何度か来たとはいえ、ここは流石大きなビル。何回か迷いかけた末“マップ”を頼りに見つけると、新入団員であろう人達が列を作り、並んでいた。やはりというか、当然というか自分より年配の人が多い印象を受けたが、その中に一人、僕と同い年ぐらいの女の子がいることに気づく。金と茶の間ぐらいの長髪に、“マルマイン”の髪飾り。冷房の風ですらなびいてしまいそうなその煌びやかな髪は視線を誘い、ついついまじまじと見てしまったようで、それに気づいたらしい彼女は振り返り、僕を見る。一瞬ではあったが、僕と同じく年齢相応の幼さを残しながらもまるで西洋人のように整ったパーツで構成された顔は、なんだか僕が見てはいけなかったような気がして恥ずかしくなり、僕は慌てて視線を逸らした。なんであんな子がロケット団に? という疑問が即座に浮かんだが、僕も年齢的には人のことを言えた質ではないと思い、考えないようにした。ただ、自分と同じぐらいの歳をした人がロケット団にいる、というのは少なからず僕に安心感を与えたようで、無意識ではあるが支給されるポケモンが少しだけ楽しみになっていた。

 列は意外にも滞らず進み、特に待たされることはなく自分の番が来る。

 「No.18403番の方ですね、えーと……あれっ?」

 止まることなく進んでいた列は、僕を境に急に静止することになる。なにか不具合でもあったのだろうか、書類に記入ミスでもしていたのかと思い、途端に不安になる。

 「あ、ごめんなさい、こちらですね。なんか、ボールが一つだけ違っていたみたいで。予備のポケモンがいますので、そちらをお渡ししておきますね」

 どうやら僕のミスではなかったらしく、つい安心した表情が出てしまう。“おとなのおねえさん”の丁寧且つ迅速な対応で、無事僕の番を終え、僕は部屋を出てモンスターボールの中身を確認することにした。ドアを出ようとしたその瞬間――。

 「ねえねえ、君なんていうの?」

 驚かされたわけでもないのだが、僕は“ゆうれい”にでも出くわしたかのように驚き、飛び上がり声の方を向く。その声の主は、先ほどの茶髪の女の子であった。

 「えっ、ああごめん、僕はイズモっていうんだ。君は?」

 一応僕も男の端くれ。声の主が先ほどの女の子だと分かった僕は急いで冷静さを取り戻し平穏を装う。これも男の性なのか。

 「わたしはシキっていうの。見た感じ同じぐらいの歳かな? よろしくね」

 全く話しかけられるなんて想像すらしていなかった僕は、もう既に言葉が詰まりかけている。せっかく同い年ぐらいの人と仲良くなるチャンス、ここでみすみす逃す訳にはいかない……いかないのだけど、考えれば考えるほど次の話題が泡のように消えてしまう。――そうだ。

 「よろしく、そういえばシキさんはどんなポケモンもらったの?」

 ふと気になっていたことを思い出し、早速話題を振っていく。でも実際に団員によって配られるポケモンが違うのか、気になるところではあったし好都合かもしれない。

 「えーとね、わたしはキノココだったよ! コラッタとかしかいないのかと思ってたから、ちょっと意外だったなぁ。イズモくんは?」

 キノココ……確かにコラッタよりは幾分かマシだけど、森のある場所ならどこにでもいるような生息数の多いポケモンだ。やはりというか、実際にコラッタなどを貰っている団員も多いのだろう。それより、自分のポケモンも気になるところ。僕はモンスターボールの中身を見ようとしたが、焦りからか誤って中にいるポケモンを出現させるスイッチを押してしまう。機構が起動し、勢いづいてボールが開くと、赤い光とともに包まれ姿を現す。

 「あ、チョロネコだ! かわいいのもらったんだねー!」

 現れたのは、紫の毛並みに包まれた猫のようなポケモン、“チョロネコ”であった。鎌のような尻尾と吊り上がった目が特徴的で、こちらも生息数は多いものの、どこか愛くるしい風貌から女性に人気のポケモンだ。

 そしてチョロネコは僕を見上げると、本物の猫顔負けの脚力で僕の肩に飛び乗ってきたのだった。どうやら、僕を親として認識したらしい。

 「チョロネコだったのか、育てたことないや……よろしく」

 チョロネコは、僕に返事をするように顔を舐める。ざらざらしていて、少し痛かったが、今の僕にはなんとなく心地良い気がした。

 「じゃあ、またどこかで会ったらよろしくね。同期だし、任務が被ることもあると思うからさー」

 「うん、こちらこそ」

 「あ、そうそう、ここで支給されるポケモンって皆他のトレーナーが孵化したタマゴのあまりなんだって。だから皆レベルは低いみたい。育てたら今度対戦でもしようよ! またねー」

 ポケギアに連絡先を交換したのち、彼女はそういうと去っていった。まさか知り合いができるなんて、と感慨に耽りながら僕もロケット団カロス支部を後にした。しかし、孵化したタマゴの余りを使っているのか、そこら辺にいるようなポケモンを密猟して不必要なものだけ支給という形で処理していたのかと思っていたけど、少し意外だ。

 その内、上手く昇進して行ければいずれ内部のことも分かっていくだろう。僕の野望を達成するには、どうしてもここの力が必要だ。一刻も早く、ボスと対談できる地位へ昇らなければ――。

 僕は、チョロネコと共に帰路へつくのだった。

 

 ――遮光カーテンより漏れる朝日。必要以上の音量で僕を呼ぶ目覚まし時計と共に、今日はチョロネコも僕を起こす一員と化していた。

 朝九時に任務が配信される為、規則正しい生活が送れるようになったのは喜ぶべきか、否か。とにもかくにも起きないと始まらない為、眠い目を擦りつつ、肩へ乗るチョロネコを尻目に僕はパソコンを起動する。本来、下っ端にはほとんど仕事が与えられるものではないし、与えられたとしてもまさに小悪党が行うような内容ばかりなのだが、分かっていてもまだ団員に成り立ての僕は期待してしまう。

 しかし、僕が予想していた事柄とは裏腹に、届いていたメールは僕の予想の遥か外へと誘った。

 「黒い……メール?」

 僕が戸惑いを隠せない原因、それは規約五の、“任務はメールでそれぞれ個別に配信するものとする。なお、白、青、赤の順に報酬が上がり、最重要の任務は黒い背景に白字の文を添えたメールにて配信する。”というものに由来する。僕の記憶が確かならば、このメールは最重要任務であり、それこそ幹部クラスの役職に就いたものしか配信されないはずなのだが……。誤送信も考慮したが、団員ナンバーは一致しているし、そもそもこんな重要なメールを誤って送ってしまえば信用が薄れてしまう。改めて規約を読み直してみても、間違いは見られない。

 僕は恐る恐る、本文を見ることにした。

 「No.18403 イズモに告ぐ。シャラシティへ向かい、シャラジムを制圧せよ。そして、ジムリーダーよりメガバングルを奪い、ロケット団カロス支部へ運び届けることを今回の任務とする。期限は、十六日の午後六時である。迅速に行動せよ」

 ――青々とした空が広がる今日。秋の涼しい風が窓の隙間より入り込み、僕の頬を撫でる。今日は、十五日。タイムリミットは、あと三十三時間。

 

 

 ――To be continued.

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