楽天家な忍者 作:茶釜
「ってわけだってばよ」
「ふむ……」
木の葉隠れの里にそびえ立つ一際大きな建物。火影邸の中。三代目火影の執務室、通称火影室には現在一人の少年が訪れていた。
普段であればおつきの忍が室内にいるはずだが、今は三代目火影の命により席を外している。それは少年の報告を受けるためであった。
「まさかミズキがの……」
少年が告げた内容はミズキより告げられた話であった。少年が力を欲している事を感じ取ったのだろう……その様子に封印の書と呼ばれる禁書に記されている忍術を身に付ければ誰よりも強くなると唆されたのだ。
少年が力を欲しているのは確かではあるが、たかだか禁書を一つ読み解くだけで最強になれるのであれば苦労はしない。しかし、ナルトはミズキの提案に乗った。
まず、何故ミズキがナルトに封印の書を持ちださせようとしたのか、甲斐甲斐しくナルトの悩みを解決するための筈がない。つまりはミズキには違う思惑があること。いや、わかりきっていた
「多分、狙いは封印の書だってばよ」
それは明確だった。ナルトに盗み出させ、それを奪うのだろう。封印の書には禁術が数多く記されている。それらは様々な問題を抱えた忍術であり、使いこなせれば大きな力を得ることは出来るだろう……
「ナルトに声をかけたのは始末できると踏んでかの」
三代目火影は頭にかぶっている傘帽子の縁を掴み、ため息を吐いた。
ミズキがナルトをターゲットにした理由としては、第一にアカデミー生だということだろう。中忍であるミズキにとってアカデミー生などまず始末できないことはない。更にナルトであれば例えいなくなろうとも大半の里の者は何も思わないと踏んでのことだろう。
「まあ、取り敢えず、俺が囮になってミズキ先生を捕まえるってばよ」
「うむ。手助けは不要かの?」
「爺ちゃんは心配症だなぁ。ある程度なら俺でも大丈夫!なんとかなるってばよ」
ニシシと笑みを浮かべる少年の姿に三代目火影は再度ため息を吐く。
この少年はアカデミー生という枠には収まりきっていない力を持っている。幼少期より鍛錬に明け暮れ。影分身という術の特性を利用して膨大な修行時間を行っている。
更に三忍の一人、自来也を師とし、強力な忍術も会得しているのだ。
本人の素質も十分にあり、なんといってもその身に宿す尾獣の力を制御下においた少年は上忍をも凌駕しているのかもしれない。
ミズキも中忍では上位の実力を持っているが……目の前の少年には敵うとは三代目火影には到底思えなかった……
◇
日も落ち、満月が部屋の中を照りつける中、イルカは特に何をするでもなく自宅で寝転がっていた。
今年のアカデミー生は一度目の卒業試験で全員合格という快挙を成した。その中にはあのうずまきナルトも含まれている。木ノ葉隠れの里を壊滅まで追い込んだ化物、九尾の妖狐をその身に宿した少年。里の者からは疎まれていながらもまっすぐと生きてきた少年にイルカは言い知れぬ感情を抱いていた。
初めは同情だったのかもしれない。両親の温もりを知らず、周りに頼る事も出来ない少年。それが在りし日の自分のように思えて仕方がなかった。
だからこそ、イルカは目をかけ、歩み寄っていたのだ。
ごろりと寝返りをうち、思考の海に沈む。
イルカはナルトに接しているうちにナルトと自分が違うものだと実感した。イルカは両親のいない寂しさを失敗して目立つことで周りに注目され埋めていた。どれだけ惨めでも、どれだけ悲しくても、一人でいるよりは良かったからだ。
しかし、ナルトはそうではない。イルカとは違う意味でナルトは目立った。アカデミーでの実技ではトップの成績を収め、座学でも上位には入っている。イルカでは到底成し得なかった事がナルトには出来ていた。
過去、何度自分が優秀な成績で目立ちたいと思ったかは数えたことはなかった。そうすれば認めてもらえれると思えていたからだ。
だけど、それでもナルトは独りだった。
公園で誰かと遊んでいる姿を見たことがなかった。アカデミーで組み手をする時は最後まで余っていた。
それでもナルトは笑っていた。何でもないようにナルトは振舞っていたのだ。
そして、ある日、うちは一族がうちはサスケを除いて殺された事件が起こった。その事件の後、暫くうちはサスケはアカデミーには顔を出さなかった。無理も無いことだろう。両親だけでなく、知り合い達も皆殺されたのだ。他ならぬ実の兄によって……
アカデミーでもサスケに関して慎重に扱うように指示があった。うちは一族最後の生き残りだからなのだろう。
いざサスケがアカデミーに来てからは驚いたな。サスケの隣にはナルトがいたのだ。
成績上位の二人。いままで特に仲よさげに話している姿は無かったのだが、その日から二人でいる所をよく見るようになった。
サスケも思ったより暗い顔をしておらず、ナルトがサスケを元気づけたのだとすぐに解った。
「何で、ナルトはあんなに強いんだろうな……」
イルカは、ナルトに一種の嫉妬を抱いていたのかもしれない……
イルカはそのまま瞼を閉じ、微睡みに身を委ねようとした時であった。
突然自宅の扉をだれかにドスンドスンと力強く叩かれた。直ぐ様飛び起きて玄関の扉を開いたイルカは、ミズキが立っているのを確認すると、何かあったのかと声をかけた。
「火影様の所へ集まって下さい!どうやらナルトくんが、いたずらで封印の書を持ちだしたらしくて……!」
「!!」
その言葉は俄には信じ難いものであった。何故ナルトがそんなことをするのかと見当もつかない。他の人へ知らせに行くと言って立ち去ったミズキを見送りイルカは直ぐ様忍装束に着替え、火影邸へと向かった。
「封印の書を盗みだしたなど、いたずらではすまされません!火影様!!」
何人もの忍が火影邸に押しかける中。三代目火影は周囲を見渡し、声をかける。
「初代火影様が封印した危険な巻物じゃ。使い方によっては恐ろしい事態にもなり得る。急いでナルトを探すのじゃ!しかし、決して殺してはならんぞ!」
「何故です!!」
「ナルトを刺激し、封印が不安定になるのはまずいということじゃ!」
「………なるほど!了解しました!」
「では、頼むぞ!」
「「「はっ!!」」」
◇
「見つけたぞ!ナルト!」
木ノ葉隠れの里内の郊外の森にてイルカはナルトを見つけていた。
月明かりが木漏れ日のように照らす中、ナルトは背中に大きな巻物を身につけ、座り込んで空を見上げていた。
「なんだ、見つかっちまったか」
いつもと変わらぬ笑みを浮かべたままイルカを一瞥したナルトは頭を掻きながら立ち上がる。
イルカはナルトの目の前に着地し、鋭い目つきでナルトを睨んだ。
「お前は何をやったのか解っているのか?」
「一応ね。と言っても、まさか見つかるとは思わなかったってばよ」
「今直ぐその書を火影様に返すんだ。今なら処罰も軽く済むかもしれない」
イルカの真剣な目つきにも関わらずナルトはヘラヘラと笑みを浮かべたままであった。
「お前は、何故その巻物を盗みだしたんだ……お前はそんなことするようなやつじゃないだろ?」
その言葉を聞き、ナルトの笑みは消えた。
「………」
「ど、どうしたんだ?ナルト」
ただ、無表情。何を考えているのかが解らないその顔はいつもとは違い不気味さを醸し出している。
ちらりと、ナルトが視線をずらした。その目が映す場所はイルカの後方。木の枝に注視されていた……
「イルカ先生」
「な、なんだ」
「ちょっと下がっててくれってばよ」
イルカが理解できぬままナルトは歩き出す。
数歩、イルカの横を歩いて通り過ぎ、視線の先の相手と対峙した。
「よくここが解ったな、イルカ」
そこにいたのはミズキだった。忍装束を身にまとい、大きな手裏剣を背につけている。
「み、ミズキ?」
イルカはその異様な空気に困惑するだけであった。
ミズキがここに来たのは問題ない。だが、今の発言から察するにミズキはナルトの居場所を既に知っていたということになる。
「ナルト、巻物を渡せ」
ミズキがナルトを見下ろしながら呟いた。
その眼は……酷く冷たく、人を見るような眼ではない。
ナルトは息を吐くと巻物を背中から外すと、イルカへと渡した。
「な、ナルト?」
「ちょっと預かっておいてくれってばよ」
数歩歩く。その顔に表情はなく、ただミズキをみつめている。
「どういうつもりだ?」
「折角俺も忍者になったことだし、ミズキ先生に揉んでもらおうかと思っただけだってばよ」
「はっ!何を言い出すかと思えば」
イルカにナルトの表情は見えない。だが、ピリピリとした空気を感じ取ることは出来た。
もしも、この場においてチャクラを視覚化、及び感じ取ることが出来る者がいれば、ナルトのチャクラ総量に戦慄していたのかもしれない。
「化け狐が忍になれるはずがないだろ!」
「ミズキ!!」
木ノ葉隠れの里において禁忌とされる言葉。九尾襲来事件より掟として定められていたもの。
それはうずまきナルトに九尾が封印されていると言うことを口にだすことであった。
「それで?早く構えろよ」
しかし、ナルトは歯牙にもかけない。
「お前の頭では理解できなかったのか?お前はな、ナルト。木の葉を壊滅に追い込んだ化け狐なんだよ!」
「…………」
「イルカだってお前を憎んでるはずだ!なんたって両親をお前に殺されたんだからな!」
「やめろ!!ミズキ!!」
一瞬ナルトの視線がイルカへと向けられた。その瞳にのせる感情は困惑ではない。
ただ、贖罪を背負った者の瞳であった。
「その封印の書はお前を封印させるものだ!早くイルカから取り返さないと封印されちまうぞ?」
「…………封印、ね」
ナルトの視線は既にイルカを向いていない。ただただ、ミズキを見つめている。
青色の瞳にミズキは言い知れぬ恐怖を感じたじろいた。
そして、そんな自分に気がつくと、目の前のナルト相手に畏怖を抱いてしまったことに苛つきを覚える。
「なんだ?その眼は」
「………」
ナルトは応えない。それに更に苛立ちを覚え、ミズキは背中の風魔手裏剣を手に持ち、振りかぶった。
「何見てやがるんだよぉ!化け狐風情が!!」
激昂し、手裏剣を投擲する。
「避けろ!!ナルト!」
空気を切り裂き、回転しながら飛来する手裏剣にまともに当たれば唯では済まない。ましてやアカデミー生という子供なら更に危険になる。
ナルトは、ゆらりと右腕を曲げ、握った状態の拳を左肩に当てるように上げた。
避ける素振りすら見せないナルトにミズキはニタリと頬を歪ませ嘲笑う。
しかし、ナルトが腕をふるった瞬間、その表情が固まった。
バギっと、鈍い音が聞こえた後、直ぐ様金属を叩きつけたような音が響いた。
一瞬、何が起こったのかを理解することは出来なかった。あり得ないことではないが、唯のアカデミー生にこんな芸当ができるはずがない。
ただ腕をふるっただけ。それだけで飛来する手裏剣を拳打し、その方向をねじ曲げた。
それだけではない。地面に落ちた風魔手裏剣を見てみれば刃の一枚が砕けてしまっている。ただの腕力では到底考えられない結果。子供が鉄を殴って粉砕するなど考えられない。
「それで?次は何を見せてくるんだってばよ」
ミズキはナルトの言葉に頭に血がのぼる。目の前の下忍ですらない子供が自分に何を言ってるのだ、と怒りに顔の筋肉が痙攣する。
しかし、直ぐ様頭を冷やした。目の前の子供は子供である以前に化物なのだと自分に言い聞かせ、冷静さを取り戻した。
忍として冷静さを欠くのは悪手である。自分にできる事で結果をもぎ取らなければならないのだ。
必要ないと感じ、傀儡は用意していない。既に木の葉隠れの里外にある隠れ家に荷物は移動させてしまっている。
風魔手裏剣は残り一枚だけある。クナイは20、手裏剣は30ある。ナルトの背後にいるイルカも始末しなければならないことを考えれば忍具の無駄撃ちは悪手である。更に言えば大掛かりな忍術も今現在ナルトを捜索している忍達に気取られるため使用できない。
ならば、とミズキは周囲に木の葉をちらつかせ、印を結ぶ。
独学で覚えた幻術。これならば化け狐ですら無力化出来る。イルカもこちらを凝視していたため、容易に引っかかってくれる筈だ……
ナルトが話さなくなったのを確認し、イルカを仕留めるためにミズキは枝から跳躍した。
「
しかし、突然地面から飛び出してきた金色の鎖が身体に巻きつき、地面へとたたきつけられる。
グハッと息を吐き出し、こちらを見つめているナルトをギラリと睨みつけた。
「何故だ!何故幻術が効かない!」
「知らねえのか?人柱力に幻術は効かないって」
その言葉の意味を理解できない。人柱力という言葉をミズキは知らない。それは尾獣をその身に宿した人間のことを指すのだが、木の葉において九尾の件は秘匿事項となっており、必然的に人柱力という言葉も木の葉の中では聞かない言葉となっていた。
そして、肝心の幻術が効かないということだが、厳密に言ってしまえば人柱力だから効かない訳ではない。尾獣と和解、若しくは従えた人柱力だからこそ効かないのだ。
幻術は自身のチャクラの流れを乱すことで解除することが出来る。それを本人だけで行うのは困難ではあるが、他の者にチャクラを流し込んでもらえば容易に解けるのだ。
そして、九喇嘛と和解しているナルトだからこそ、幻術にかかっても九喇嘛がチャクラを乱し、すぐに解くことが出来る。
「それに何だよ!この鎖は!!」
「…………」
ナルトは応えない。ミズキの身体を地面に縛り付けている金色の鎖。それは封印術の一種であった。
今は既に滅んだ一族。うずまき一族が得意とした封印術の一つ。世界中に散らばった者の中には使える者もいるかもしれないが、それでも見たことはない者が大半であるだろう。
ナルトが何故封印術を使えるのかを知っているのは3人だけ。木の葉の里ではナルトの両親の事すら知れ渡っていないのだから結びつけることが出来ないのだ。
うずまきクシナが使用していた封印術をナルトが覚えていることなど、誰が解るだろうか。
ナルトの親を知っていようと、封印術を伝授されるはずがないと思っている者達にとって、それはあり得ないということ。ナルトが生まれた直後にクシナと四代目火影は死んだのだ。うずまき一族の封印術を覚えている者はその時点で木の葉から存在していない。
ナルトが封印術を使用できることが知れ渡れば何が起こるのか。まず疑われるのは封印術に関して記した巻物が存在することだろう。そんなもの存在しないのだが、もしそう思われてしまえば木の葉の忍、それも四代目火影を知る者達から疑念が広がるかもしれない。
それを避けるべく、三代目火影はナルトの封印術に関して公言することを避けたのだ。
「くそ!くそ!離せ化け狐!ぶっ殺してやる!」
ミズキが喚いているのを一瞥しナルトは鎖金の縛りをきつくした。
もう話す言葉などはない。後は気絶させ三代目火影へと受け渡すだけ。
ミズキの意識が途切れたのを確認するとナルトは背後にいるイルカへと歩き出す。
ナルトが近づいても無反応な所を見るとミズキの幻術にかかってしまっているようであった。
ため息を吐きたい気持ちに襲われたが、それを飲み込み、ナルトはイルカの幻術を解いて、イルカとミズキと共に火影室へと”跳んだ”