人形少女と召喚術師   作:モグモグラ

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episode1

「‥‥あなたはエルフ?」

タバサの後をついて行き部屋に入って早々に質問された。

エルフって、とんがり耳のか? 亜人の一種で精霊魔法に長けた。

「いや。俺はエルフではない」

 会ったことはないが、ハーフエルフも、元のとこにいたな。 俺がそうかと聞かれれば違うので、そう答えた。

「‥‥なら、さっきやった魔法は何?」

魔法? ああ。召喚術か。てか、魔力を察知できるとはな。思ったより腕が立つのか?

「魔法じゃない。あれは召喚術だ」

 元は魔法の一部だという説もあるが、分類は別物だ。

「魔獣を異界から呼んで使役する技術だ」

 

▼▲▼

 

(召喚術?)

タバサは使い魔の少年の返答にさらなる疑問を抱いた。

東方にはそんなものが有るのだろうか? もしそうなら‥‥心を治すようなものもあるのかもしれない。タバサは期待を胸に質問する。

「……他にどんなものが使えるの?」

「一応、一通りの治術の心得はある。それと、精神操作系も得意だ」

「! ‥‥なら、心を壊された人は治せる?」

治療と精神操作が得意というなら、その逆の事もできるのではないか、とタバサは期待を胸に抱いた。

「心を壊された‥‥か。薬物によるものか、魔術によるものかで変わるが、可能だ」

考え込んだ後、彼はそう答えた。

 

▼▲▼

 

召喚術に驚いてたようだが、精神操作に関しては特に大きく反応した。そこまで派手な分野ではないんだけど、こっちでは珍しいのだろうか?

「さてと‥‥主人。俺は何処で寝ればいい?」

やりたいことがあるからまだ寝る気はないが、事前に聞いておく。

「‥‥タバサでいい」

ああそうか。じゃあタバサと呼ぶことにしよう。

「‥‥ここで寝て」

そう言ってタバサが指さしたのは、シングルベッド。なるほど、彼女は小柄だし、俺も寝ても狭くは‥‥って違うそうじゃない。

 部屋に並んだ本棚から、教養があると思ったが、そういうことに鈍いのか?

「床で寝かせてもらうよ」

「でも、夜はまだ寒い。風邪をひく」

「大丈夫だ。それなりに色んな土地を回ったつもりだ。体の丈夫さには自信がある」

それに俺の着ているコートは魔術と科学の融合技術で造られた全環境適応型の素材で出来ている。凍てつく海の中でも平気で活動出来るし、マグマだって平気だ。前者はよくあったが、後者の経験は一度もない。

「‥‥‥‥分かった」

 納得してくれたようで、そう言ったタバサはおもむろにマントを外した。

(何をするんだ?)

 訝しげな顔をしていると、タバサと目が合った。

「……着替えるから、外にいて。終わったら呼ぶ」

「了解した」

部屋の外に出て、後ろ手にドアを閉める。

「ああ、そうか。寝るときは着替えるな」

 失念してた。

 まあ、いいと、首を振る。前準備をしておこう。

「《我、命ず。諜報者、来たれよ》」

 召喚術を使う。すると、廊下に魔方陣が浮かび上がり、その魔方陣の中央に、子どもほどの背丈の黒い男の姿が現れる。

「何の御用で?」

 しわがれたような声でこちらを見上げ、たずねる男。その顔は、人のものではない。戌のような面だ。

「誰にも気づかれずに、こっちの情報を集めろ」

「へい」

 男は頷き、すぅと溶けるように姿を消した。それを見送る。

「じゃあどうして俺はやってこれたんだよ!」

「そんなの知らないわよ!」

 男女の口論らしいのが聞こえた。ここは女子寮みたいだが、どこかに男を連れ込んでいる奴でもいるのか? 俺も男だけど。

(‥‥もしかしてあの桃髪のとこか?)

 あっちも人間を召喚してたし、その可能性が高い。にしてもだ。音量を考えるべきだろう。

耳を抑えていると、タバサから入室の許可が出た。

部屋に入ると、ベッドの上にパジャマとナイトキャップを被ったタバサがいた。手には毛布を持っていた。

「‥‥冷えるから」

「ああ、助かる」

そう言い、毛布を手渡してきたので受け取る。

毛布にくるまり、部屋の隅に横になる。じきに部屋が暗くなり、寝息が聞こえてきた。 それを確認し、静かに起き上がる。

「さて」

 音を立てずに部屋を出る。 

 向かう先は、自分が呼び出された広場。人に見られない場所で口笛を吹く。

 地響きが鳴り、土が大きく盛り上がる。

「よーしよし」

 土の中から現れたのは、横の長さだけで、5メートルある巨大なワーム。体の大半は地面の下だ。

 そいつは、うれしそうに巨体をこすりつけてきた。

「自由にしててくれ。ただし、人に見られたり、人を襲うのはよせ」

 そう言うと、了承の意を示し再び地面に潜っていった。地面も元通りとなった。見届けて、部屋へ戻る。

 昼間に、脅し用に呼び出して、放置してたけど、機嫌を損ねていなくて良かった。

 

▼▲▼

 

目を開く。

どうやら朝になったようだ。

「‥‥やっぱり夢ではないな」

その事実を確認してから体を起こして、小さくあくびをする。

目をベッドに向けるとタバサが起きている気配はしない。

まだ早朝だしな。起こさないようにするか。

音を立てずに毛布をたたみ、部屋の隅に置く。

懐中時計を取り出し、竜頭を押す。

「どうなることやら」

写真に小さく微笑んだ後に蓋を閉める。

 

▼▲▼

 

彼が起きる気配で目を覚ましたタバサは、気づかれないように、少年の方を盗み見た。

毛布を片付けた彼は懐から出した物‥‥懐中時計に小さく微笑んだ。昨日は一切浮かべなかった笑顔だ。

 しばらくしてから少年は懐中時計を懐に戻した。

「さてと‥‥。そろそろ起こすべきなのか?」

小さくつぶやくのが聞こえた。私を起こすべきか考えているようだ。

寝たふりが気づかれる前に自然な様子で起きる。

「ああ。起きたか」

呟いた彼は、タバサが着替えることを察して部屋を出た。

 

▼▲▼

 

自分の主であるタバサの支度が終わるのを部屋の外で待つ。

(ここは異世界だし、俺が違う世界の住人というのは極力黙っておいた方が良いか?)

 頭がおかしいやつと思われるならまだいい。未知の技術を得ようとする輩に干渉される危険性がある。むやみに言いふらすべきじゃないな。

「極力、のんびり出来れば良いが」

叶わないだろうなと、考える。今まで平和とは縁遠い人生を送ってきたせいだろう。

そうしてると、支度を終えたタバサが部屋から出てきた。

(‥‥そんなに珍しいのか?)

タバサと廊下を歩いていると、すれ違った生徒達がヒソヒソと話している。生憎、俺は耳がいいから会話が聞こえるんだが、俺に関して話してるようだ。

使い魔が人というのはかなりレアらしいな。

「ところで、俺は何処で朝食を摂ればいい?」

とりあえず害意は無さそうなので無視してタバサに尋ねる。

「食堂は生徒と教員しか使えない。大丈夫。着いてきて」

タバサに連れられた先は食堂の裏にある厨房だった。朝食時だから今が一番忙しい時だろう。

コックが料理を作り、メイドたちができた料理を次々と配膳していく。手の空いた若いコックを見つけたタバサは何かを伝える。するとコックは厨房に引っ込み、しばらくすると40過ぎの太ったコックが出てきた。他より仕立てのいいコック服からすると彼はここの責任者なのだろう。

「なんでしょうか、貴族さま……って、タバサの嬢ちゃんか」

最初は険しい表情をしていたが、タバサの顔を見ると警戒を解いた。

「彼にご飯を食べさせてあげて欲しい」

「誰なんですかい? こいつは」

「わたしの使い魔。平民」

 ここに来るまでの話し合いでそう言う事にしてある。

「へぇ、ミス・ヴァリエールだけじゃなく嬢ちゃんも平民を召喚したのかい! 驚いたな。 おい坊主、名前はなんていうんだ?」

 ミス・ヴァリエールというのは、あの桃髪のことだろう。

「そういえば聞いてない」

 今更だな。内心で苦笑しながら口を開く。

「俺は零。よろしくおねがいする」

「おう、俺はこの学院の厨房を仕切っているマルトーってもんだ。同じ平民のよしみだ。 賄いでいいなら腹いっぱい食わせてやる」

「それは助かる」

 頭を下げる。

「食べ終わったら食堂に来て」

「分かった」

 タバサが食堂のほうへ向かった。

「彼女‥‥タバサとは仲が良さそうだな」

 厨房に入りながらマルトー氏へ言う。

「ああ、他の貴族連中は俺たちの作った料理を残すやつばかりでな。やれ野菜が嫌いだのダイエット中だのってな。あの料理は俺たち平民には手が届かないごちそうばかりだってのによ」

 マルトー氏が苦虫を噛み潰した顔をする。

 自分の料理の腕に自信があるからこそなのだろう。

「でもあの嬢ちゃんは俺たちの作った料理を残さず全部食べてくれる。あんなに小さな体だってのによ。それにな、時々俺たちに礼を言いに来てくれるんだ。長くここの厨房を任されているが初めての経験だったぜ。貴族ってのは威張りくさったやつしか見たことがなかったからよ。そら、坊主、 おかわりはいっぱいあるからたくさん食えよ!」

 タバサは見た目の割りに食べるようだ。

「しかし、どこに行こうとも貴族というのは変わらないな」

 我が儘で他人の苦労を理解してない。それが俺の貴族に対する評価だ。

 だが、彼の話を聴く限り、タバサは俺の知ってる貴族連中とは違うみたいだな。それには安心だ。

 席についた俺の前に、顔を綻ばせながらマルトー氏が木椀に入ったシチューを出してくれた。おいしそうな香りが食欲を刺激する。

「いただきます」

 食材とそれを作った料理人への感謝を込めて、言ってからスプーンで一口。

「美味い」

 賄いとはいえ、使ってる食材は一流だからか、料理人の腕が良いのか、その両方だからか、このシチューは今まで食べて事がないほどの美味だ。

 驚いて声を上げるとマルトー氏が得意そうな顔を浮かべていた。

「だろ? お前分かってんな」

 ダハハと笑いながら肩を叩いてきた。

「お? 細っこいと思ってたが意外とがっしりしてるじゃねえか。お前ここに来る前は何してたんだ?」

「ちょっと前までは傭兵として各地を転々と、最近は故郷でのんびりしてたよ」

 若干、うそを交えて答える。傭兵は事実だが、会って間もない相手に何もかも話す必要はない。

「その歳でか!?」

「まあ、生き方を選べるほどに恵まれていなかったからな」

 初めて武器を握ったときを思い出し、小さく苦笑する。

「後に他の生き方を出来ると知るまでは、常に傷だらけだったっけ」

「他の生き方ってのは?」

「戦い以外の道だよ。それを教えてくれたやつが居たんだ」

 僅かに声のトーンが落ちる。

「居た、ってことはつまり……」

「まあ、考えている通りだよ」

 そいつはもう死んだ。コートの中の懐中時計に手を当てる。

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