地獄を撃ち抜く、ランスターの弾丸   作:山原手長黄金虫

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Act1 -Chapter2-

 腰を落とし、銃を目線の高さまで上げ、敵に照準が合った瞬間引き金を引く。6発の弾丸が放たれると射撃が止まる。

 照準の先で青白い肌をした人間によく似た姿が大量の血を噴出しながら悲鳴を上げて倒れる。ローカストで最もよく見られる存在、<ドローン>だ。

・・・・・・――クリア。

 横で倒れた石柱の影に窮屈そうに身を屈めたドムに敵を全て倒した事を知らせる。ゆっくりと立ち上がったドムは辺りを満足そうに見回し・・・一つの扉に近づいた。

 そっ、と扉を開ける。中からはカシャカシャと金網の上を歩くような音と、下卑た声が聞こえてくる。どうやら小型のローカスト、<レッチ>が屯しているようだ。

 レッチ共を追い払うよう、ハンマーバーストの引き金を引く。また6発が放たれ、それ以降弾は出なくなる。弾切れではない。この銃は名前の通りバースト射撃を得意とするのだ。一旦引き金を元に戻し、また引く。ガタガタと慌てたような足音、レッチは逃げだしたらしい。

 ドムが中に侵入するのを見届けながら悠々とリロードする。まだマガジンには何発か残っているようだが、ぎっしりと弾の詰ったマガジンのほうが安心できるのだ。

 

「ジャック、ドアを焼き切れ!」

 

 ドムの声に続いてバチバチと音がする。サポートロボットであるジャックが命令通りドアを焼いたのだろう。

 サポート以外でもあなたも負けていないわよ。腰元のホルスターに納まったクロスミラージュが自分の存在をアピールするように光りだしたのを見て、ティアナは声をかける。

 機動六課に配属された折に支給された『自分専用のデバイス』であるクロスミラージュは、惑星セラに次元航行艦が不時着した後、現在まで至る1年間の劣悪な環境下でも壊れる事なくティアナを支えている。とはいえ声を発することが出来ないなど細かな不具合は増え続けているが・・・。

 突然ティアナは身体を強張らせる。中庭に誘き寄せたローカストが二つの脱出ルートの一つである独房エリア、つまり建物内部に入ってきたのだ。――あぁ、これで近道は敵だらけになった。だがまだ看守棟側には敵はいない。ドムにそのことを知らせるため扉をくぐると、3つの鋼鉄製のドアの一つからドムともう一人の男性――囚人番号:098356-GX――の会話が零れてきた。

 

―――――何しに来た?

 

―――――助けに来た。ほら、装備だ。

 

―――――こんなことをしでかして、タダじゃ済まんぞ。

 

―――――心配するな、状況が変わったんだ。・・・・・・さあ行こう。

 

―――――他の囚人たちはどうする?置き去りには出来んぞ。

 

―――――誰もいないさ。ホフマンが全員釈放した。

 

―――――なるほどな。

 

 ドアに近づいたのか、声が鮮明に聞こえる。

 

「これで晴れて復帰だな」

 

「・・・・・・ふん」

 

 面白くなさそうな声を漏らしながら、ドムと共に小部屋から出てきた男は、ドムとほとんど変わらない、つまり筋骨隆々な体格で、頭に黒いバンダナを巻いていた。

 彼がCOGで伝説的な兵士と謳われるマーカス・フェニックスその人だ。

 行くぞ。ドムが声をかけると二人は入り口に、つまりティアナの近くまで小走りで近づいてきた。彼女はドムに向かって、現状を知らせる。

 

「マーカス、お前はどっちを行く?」

 

――あなたが決めてよ。少しうめき声を上げながらティアナはマーカスのほうを見やる。この人、絶対独房エリアを突っ切る方を選ぶでしょ。

 

「独房エリアを突っ切ろう。・・・・・・ひと暴れしてやるさ」

 

 そら見ろ。ご丁寧に宣言までしてくれちゃって。肩を落としながら扉を再度潜り抜け広い部屋へ出る。後ろでぶちかまそうぜ!とうれしそうに言うドムには後で何かしら復讐してやろう・・・・・・。

 ドム、次いでマーカスと広間へ出てくる。ドムは指に手を当てキングレイヴンに通信する。その脇でマーカスはティアナに声をかける。

 

―――――64、こちらデルタ2、そちらへ向かっている。オーバー

 

「名前は?」

 

「ティアナ。ティアナ・ランスターよ」

 

「マーカスだ。・・・・・・随分と若いが新兵か?」

 

―――――『了解。脱出を開始する』

 

「COGに配属された、という意味なら新兵と言われてもおかしくはないわね」

 

「・・・・・・どういうことだ?この4年間にCOG以外の組織が出来でもしたのか」

 

―――――『64、スタンバイ。FOX1、FOX1』

 

「いいえ、私たちは―――・・・・・・」

 

 その言葉は最後まで語られなかった。キング(K)レイヴン(R)64が放ったミサイルが天窓に直撃。ガラスの破片が降り注ぎ、3人は腕で頭をかばう。

 

「64、デルタ2だ、攻撃をやめろ!こっちはまだ中にいるんだぞ!オーバー」

 

『―――了解。・・・・・・攻撃中止だ。至急移動しろ』

 プロペラ音を響かせてKR64は上空から退避する。

「おまえを拾いに来たなんて、上にバレたらやばいことになる。・・・・・・さあ、行こうぜ」

 残る2人も頷き、3人は移動を開始する。途中の扉をマーカスが蹴破ると・・・・・・

 

「うわっ」

 

「やれやれ」

 

 ティアナが驚きの声を、マーカスは呆れ声を漏らす。扉の先には骨と僅かな肉だけの人間の死体が吊るされていたのだ。

 

「ここの収容所はいったいどうなってんだ?」

 

 死体を怪訝そうな顔で見ていたドムが、ここの()住人だったマーカスに尋ねる。

 

「知らない方がいい」

 

 なんだよそれ。言葉には出さないがティアナもドムもそう思わずにはいられなかった。

 

 先にある独房エリアへの渡り廊下を歩いていると、突如として爆発音が響き渡った。

 

『地上部隊が激しい攻撃を受けている。そこら中、敵だらけだ!』

 

 誰かの悲鳴にも似た声が通信チャンネルに入る。

 

『了解、援軍を要請する。オーバー』

 

『・・・了解、侵入するぞ』

 

 断続的に続く爆発。キングレイヴンが地上に展開している部隊を援護しているのだろう。

そんな中、デルタ部隊の3人は爆発音に紛れて聞こえる声を捉えた。

「マーカス、ティアナ、タワーだ!」

 ドムの叫びと同じくして正面から2体のドローンが現れる。先頭のドローンは渡り廊下の真上を飛行するキングレイヴンに目をむけ、目の前の人間に気付いていなかった。デルタの3人はハンマーバーストをその1体に向ける。

 後ろからの注意を聞いてドローンは慌てて身を隠そうとするがマーカスの素早い射撃で仰け反ってしまい行動は封じられる。そしてそこにドム、ティアナも加えた集中砲火によって上半身から血を噴きながらばったり倒れる。

 残る1体は腰だめでハンマーバーストを乱射しながら廊下の3分の1ほどのところにある石材へ進む。3人はそれぞれ近くのカバーポイントに隠れ、弾に当たらないようティアナは身を縮める。マーカスとドムは返礼とばかりに銃だけを器用に敵に向け、撃ち返す。

 リロードのためかジャムを起こしたのか、ドローンからの攻撃が止むとティアナはカバーしていた石材から身を乗り出し、ドローンが身を隠す廊下の幅一杯に広がる石材へ駆け出した。足音で接近を気取られないよう残る2人はマガジンに入っている弾全てを撃ち切るまで乱射した。

 ドローンの反対側にしゃがみこんだティアナは、相手が後ろの2人へ攻撃するまで音を立てずに待つ。予想通り射撃を開始したドローン。だが銃からのマズルフラッシュはティアナにとって格好の目印となった。

 ティアナはおもむろに銃を突き出し――ゲェ、という声が聞こえた――敵に弾丸を浴びせる。至近距離でモロに食らったドローンはハンマーバーストを取り落とす。ティアナは立ち上がり目の前にある顔目掛け撃つ。照準の先で相手がもんどりうって倒れた。

 

「64、こちらデルタ2。そちらへ向かっている。オーバー」

 

『了解、救出のためエリアを一掃する』

 

 レイヴンが機体をひるがえし、中庭へ向かう。ローカストがいるのだろう、ドアガンが火を噴いていた。三人は皆、ハンマーバーストのマガジンを交換し、先へと急ぐ。

 廊下を渡りきり独房エリアに入ろうとした3人を弾幕が襲う。いくつかが命中したが重く厚いCOGアーマーはこれを弾き、誰も怪我を負わなかった。

 だが衝撃は身体を貫いた。マーカスとドムは無理矢理に歩を進め、カバーポイントに飛び込む。体格に劣るティアナは大きくふらつき足を止めてしまった。これを好機と見たのだろう、待ち構えていた3体のドローンはティアナに照準を合わせ、猛烈に撃ちはじめた。

 マーカス、ドム、そしてティアナ自身もこれに反応できなかったが、ただ一つ、クロスミラージュだけは反応できた。主の魔力を使い、魔法シールドを展開したのだ。ティアナの前に張られたシールドは弾丸を受け止め、ドローンたちを大いに狼狽させた。

 マーカスもまた目の前の光景に目を見開いたが、ドムは気にすることなくドローンに向けて攻撃した。3体のうち1体を倒し、もう1体にもいくらかの弾丸を浴びせる。血を流しながらそいつは倒れた石柱に身を隠した。残る1体は奥の部屋で体勢を立て直そうとしていた。

 

「マーカス、グレネードを使え!」

 

 ドムの指摘にマーカスは、はっと気付き、腰元にかけていたモーニングスターのような形状をしたフラググレネードを手に取った。先端部をグルグルと回し、その勢いを使って投擲する。狙うのは奥にいるドローン。

 

「吹っ飛ばせ!」

 

 投げ込まれたグレネードはドローンの傍に落下。ピピピッと電子音がしたと思えば爆発する。逃げ場のないところにいたドローンはどうする事も出来ず、体をバラバラにされて絶命した。

 

「さっきの奴は!?」

 

マーカスが叫ぶ。先程ドムが撃つも倒しきれなかった相手のことを探しているのだ。すると苦しそうな息遣いが聞こえた。2人はお互いを確認し、次いでティアナを見るが彼女もまたきょろきょろと辺りを見回していた。―――先程の攻撃でローカストは戦闘不能なほどの傷を負ったようだ。ティアナが口を開く。

 

「アイツへのとどめは私が貰うけど、文句はないわね?」

 

 2人から反論はなかった。ティアナはホルスターからクロスミラージュを引き抜き、モード2<ダガーモード>へと切り替える。拳銃と同じ形をしたその先からオレンジ色の光る刃が現れた。

息も絶え絶え、武器を構える事も出来ないローカストにティアナは無言のまま近づく。

 

「タ、助ケテクレ・・・」

 

 搾り出すような命乞いを聞いても今の彼女の心は揺れなかった。以前の自分―――六課所属時代はもちろん、それより以前、兄の遺志を継ぐ思いで、視野が狭かった頃ですら、瀕死の相手に手を下そうとすることは・・・ない、だろう。

 ローカストの顎を蹴り上げ、あらわになった首筋にダガーを叩き込む。非殺傷設定を解除されたそれは、首の半分以上を容易く切り裂いた。

 やっぱり変わっちゃったんだなぁ。物思いに耽りそうになるが、ドムの言葉で現実に引き戻される。

 

「もう大丈夫だろう。弾薬を補給しようぜ」

 

 確認すると、ほとんどのマガジンを使い切っていた。ドローンの死体からマガジンをいくつか拾い、そのうちの一つをそれまでのマガジンと交換する。

 

「あー、それで・・・」

 

 同じく弾薬を補給したマーカスがティアナを見つめながら、ドムに対し尋ねる。

 

「さっきの()()は・・・いったいなんだ?」

 

 先程のシールドのことだろう。その目には理解不能なものに対する不信感が見てとれる。少しの間躊躇ったドムだが、観念したのだろう。口を開いた。

 

「魔法だよ、あいつは『魔法使い』なのさ」

 

 ―――『魔導師』です。ティアナが口を挟むが、マーカスにとってはどちらでもほとんど変わらない。

 

「いつからこの世界はファンタジーに様変わりしたんだ」

 

 そう呟くマーカスは酷く呆れたような顔をしていた。

 

「後で説明してやるよ。それより・・・」

 

ドムは中庭へと続くドアを見やる。ジジジッと音を立て、ドアが焼かれていた。

 

「ドアを突破してくるみたいだ。身を隠せ、退避しろ!」

 

 三人はそれぞれ素早くカバーポジションにつく。ティアナはちらりとドアの様子を確認する。まだ3分の1を焼ききった程度だ。ここは一つ、お披露目と行きますか―――クロスミラージュを構えチャージを開始、魔方陣が展開される。もう一度ドアの様子を見る。もうほとんどを焼ききったところだ。2人の仲間に声をかける。

 

「砲撃魔法を撃つわ。援護をお願い!」

 

 終にドア焼き切られる。ドムが注意を飛ばす。―――準備はいいか?くるぞ!

 爆発が起こり、ドアが吹き飛ぶ。咆哮を上げながらドローンがなだれ込む。しかしその前には既にチャージを終え、その銃口を相手に向けるティアナの姿。その脳裏にはかつての教官であり、自身が尊敬する女性があった。

 その姿に感謝と・・・彼女の『主砲』たるこの魔法で、多くの命を奪う事への謝罪を秘め、ティアナは叫ぶ。その技の名を。

 

「ディバイン―――・・・バスターッッ!」

 

 瞬間、オレンジの奔流が放たれ、入り込んだローカストを飲み込む。奔流はとどまる事を知らず、壁を破壊し、外で射線上にいた不運なドローンをも巻き込んで直進し続けた。

 

「すげぇな」

 

ドムが素直に驚きの声を上げながら、レイヴンに報告する。

 

―――――デルタ1、こちらデルタ2.こっちは準備OKだ。オーバー

 

「あぁ・・・、確かに」

 

 マーカスもドムの声に同意を示す。すぐ後ろにいる少女が『ケンタウロス』装輪装甲車のキャノン砲のような威力の砲撃を放ったのだ。驚くな、と言う方がムリだろう。

 デルタ1から了解の返答がくると同時に2人は中庭に駆け出す。少し遅れてデバイスをライフルに持ち替えたティアナも中庭に出てきた。

 

『敵だぞ!すぐそこだ!オーバー』

 

 レイヴンからの注意がチャンネル内に響く。先程の砲撃で難を免れたドローンたちが体勢を立て直し、攻撃を開始した。

 

『見えた、進入するぞ』

 

 1機のレイヴンが中庭上空に現れ、ドアガンや機首のチェーンガンで三人を援護する。3人もまたハンマーバーストを撃ちまくった。二方向から撃たれたローカストは次々と体を蜂の巣にされ死んでいく。

 

『右2キロからさらに接近中!制圧してくれ!オーバー』

 

 中庭上空を飛行するレイヴン―――KR61―――がもう1機のレイヴンに援護を求める。だが、

 

『ダメだ!ここからじゃ1匹しか対処できない!そっちでなんとかしてくれ!』

 

 そちらは位置が悪いのか、上手く対処できないらしい。自身で何とかするよう言い返す。

 

『ムリだ!こちらも激しい攻撃を受けている!』

 

 待機してくれ―――地上にいるデルタに呼びかける。だが3人はドローンから銃撃を受けその言葉に反応できない。61は回収のため速度を落とし、少しずつ高度を落とす

 

『来るぞ!さあ、早く!』

 

しかし61は任務を果たせなかった。飛行型ローカスト <ネーマシスト>が61にその硬い頭部をぶつけたのだ。火花が飛び散りネーマシストを覆う黒いガスが爆発する。

 

―――――『ああ、くそ!』

 

―――――『こちら61、くらっちまった!』

 

―――――『制御不能・・・』

 

 大きく回転しながら高度を下げたレイヴンは地面に不時着。エンジンを火が襲ったのだろう、大きな爆発を起こし、通信が途絶える。

 

「ちくしょう!」

 

 ドムが悔しそうな声を上げた。ティアナもレイヴンが落ちた方角を見つめる。自分達が早くローカストを片付けていれば・・・そんな考えが2人の頭をよぎる。

 

「悔やむのは後だ!目の前を切り抜けるのを優先しろ!」

 

 マーカスが叱咤する。受けた2人は歯を食いしばって弾丸を相手に叩き込み続けた。

 上空では64が61の任務を引き継ぐため中庭に進入する。

 

『61がやられた!61がやられたぞ!』

 

『ミッション中止。繰り返す、ミッション中止だ!』

 

―――――『デルタ部隊を回収する!』

 

 その報告とほぼ同時に、マーカスがブラインドファイアで最後のドローンを仕留める。

レイヴンはゆっくりと旋回しながら着陸地点へ降り立とうとする。

 

『・・・デルタ、地下で何か動いているぞ。オーバー』

 

 64のパイロットから通信が入る。

 

『こっちからも見えるぞ。なんだ、あれは?』

 

 こちらはドアガンナーの通信だ。

 見当もつかん。そんなレイヴン乗組員たちとは別にデルタの面々も異変を感じていた。地面が大きく揺れ、ゴゴゴという地鳴りも聞こえ始める。しかも地鳴りはどんどん大きくなっているのだ。

 

「マーカス、ティアナ!レイヴンまで走れ!早く!」

 

 道を塞ぐよう落ちているトタン板を蹴り倒しながらドムが叫ぶ。

 

「行け行け行け!」

 

 3人は同時に走り出す。その後ろでは地面が盛り上がり、1匹の巨大な生物が姿を現そうとしていた。振り下ろされる爪を掻い潜り3人はレイヴンに飛び乗る。飛び乗った事を確認したレイヴンパイロットはエンジンの回転を最大に上げ、急速に上昇する。

 地表には異形の怪物が咆哮を挙げていた―――。




2話目です。文字数は安定していたほうがいいのでしょうか。
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