3人を乗せたレイヴンは収容所を離れ、市街地上空へと移動していた。
ティアナは右手でドア上部の取っ手を握り、左手でクロスミラージュを構えて立っていた。時空管理局が運用していたJF704式ヘリと違い、キングレイヴンは兵員搭乗口にドアを取り付けていない。不安なのだ、色々と。
その隣にはヘルメットを被った兵士が座り込み、時折、建物の影などにランサーアサルトライフルで銃撃を加えていた。
「デルタ部隊へようこそ」
マーカスに水筒を手渡しした男が歓迎の挨拶を述べる。デルタ部隊の隊長、ミン・ヤン・キム中尉だ。
「どこへ向かっている?」
マーカスが尋ねた。
「エンブリー広場だ。ホフマン大佐が待ってる」
キムの答えにマーカスは露骨に顔を顰めた。
「ホフマンが?・・・やれやれ」
自身がホフマンに嫌われている事は容易に想像がつく。軍規違反が何より嫌いな頭の固い男だ。4年前、父を救うため、軍規に背いたマーカスを彼が許す事はないだろう。
「こりゃ楽しみだな」
ドムが茶化すが、彼とティアナが無断でマーカスを釈放したことは、ホフマンの怒りを更に燃え上がらせるに違いない。
―――おい。篭った声がマーカスに投げかけられる。先程までランサーを撃っていた兵士が顔を向けていた。彼の名をアンソニー・カーマインという。マーカスが振り向いたのを確認したカーマインは言葉を続けた。
「あんた、あのマーカス・フェニックスか?アスフィオ平原で戦った?」
彼の問いにマーカスはああ。という短い声で肯定する。
「わぁぉ、すげぇや!」
感嘆の声を出しながら、彼はまたランサーを撃ち始める。彼にとってマーカスはまさに伝説の存在であり、そして目指すべき目標だ。実物に会えただけでなく、共に戦えると会って彼は舞い上がっているのだろう。
だが、当のマーカスは彼と反対側へと顔を逸らし―――そこにいる1機のレイヴンと1人の人の姿を見つけながら、苦々しげに呟いた。
「―――どうだかな」
デルタ部隊を乗せたレイヴンは目標地点のエンブリー広場へ到着、無事着陸した。マーカスが降り立ち、先程見つけた人物へと近づいてゆく。軍帽を被った、やはり屈強そうな巨体の持ち主。ビクター・ホフマン大佐その人である。近づいてくるマーカスを見てホフマンは顔を顰め、腰に手を当て言い放つ。
「フェニックス!貴様のような裏切り者を我が軍に呼び戻した覚えはないぞ!」
マーカスは周辺を見渡し、言い返す。
「そうも言ってられねぇ状況のようだがな」
人類が追い詰められている事を指しているのだ。ホフマンもまた、そのことを認めないほど愚かではない。だからだろう、眉の皺をより深めながら苦々しげに言う。
「・・・下がってろ」
二人が話す間に、キムが、続けてティアナ、ドム、カーマインがレイヴンから降りてくる。マーカスを見つめながらキムはホフマンに近づく。
「中尉、いい知らせだぞ」
マーカスに背を向け、ホフマンは歩き出した。後ろに従うキム、そしてデルタの面々に聞こえるよう、語りかける。
「この戦争を一気に終結させる作戦だ。それも完全にな」
―――そりゃすげぇ。ドムが呟く。直後、女性の声が通信チャンネルを満たす。
「敵の動きを探知しました。至近距離です」
もう1機のレイヴンから、声の主である女性が姿を現した。マーカスたちとは違い、アーマーを着用しておらず、変わりにパリッとした制服を着ている。
女性はマーカスを見つけると、彼を見つめ始める。マーカスもまた見つめ返す。その顔からは投獄以来、長い間刻まれた険が薄れているように見える。またドムはそんな二人をニヤケ顔で見守り、ティアナとカーマインは顔を見合わせ、首を振った。ワケが分からない
ドラ声が響き渡り、銃撃を彼らが襲ったのは女性がマーカスから目を離し、キムとホフマンに近づこうとした瞬間だ。
「ローカストだ!」
ドムが叫ぶ。キムが女性に身を隠すよう指示する。
「行け!」
マーカスが号令をかけ、4人は積まれていた土嚢の影に身を伏せる。全員そこからランサーを突き出し、正面の階段を駆け下りるローカストを牽制する。
一瞬、銃撃が止まる。マーカスは即座に立ち上がり、1体のドローンを撃ち殺す。
キム、ホフマンもまた、土嚢にカバーする。ホフマンがキムに作戦内容を伝える。
―――――ついにライトマス爆弾が完成したのだ!
―――――あれなら、一発で奴らを一掃できるぞ!
「上だ!」
その声に反応し、4人はランサーの銃口を上げて撃つ。土嚢の背は低い。上から撃たれたら、いくら身を伏せていても命中は免れない――――。双方の銃声に混じり、かすかに断末魔が聞こえた。ホフマンの説明は続く。
―――――ただし、ターゲットのデータがなければ、発射できん!
―――――だから、レゾネイターが必要なのだ!
サクッ。何かが刺さる音が聞こえた。直後に爆発がおき、土嚢の一部を吹き飛ばす。舞い散った土が兵士達に降り注ぐ。
「サイドに気をつけろ!」
「外れた!」
―――――あれで地下トンネルの構造を探知し、奴らの巣を直撃するのだ!
ガコン、と大きな音。見ると、ティアナが手に持つ拳銃――クロスミラージュ――が空薬莢を排出していた。銃口をローカストと反対に向けたまま。マーカスは思わず愚痴をこぼす。
「ふざけやがって」
だが、彼女の頭上に7つの謎の球体が現れ、ローカストに向け光弾が発射されるのを見て、理解する。コレも魔法ってやつか。光弾を目で追うと、ドローンに誘導されながら向かっているのが見えた。
「なんだありゃ。いつものと違うぞ!?」
カーマインが声を上げる。彼もコレを見るのは初めてのようだ。光弾は3発がそれぞれ1体のドローンの胸に命中。銃弾より遥かに大きなそれはドローンを真っ二つに引き裂いた。残る4発のうち2発が命中するも、箇所は肩と脇腹でドローンを殺すには至らない。2発はカバーポイントを削るにとどまった。
「どこまでタフなんだ!」
血を噴出させ、身を隠すため動くローカストを見てマーカスが叫んだ。
―――――だが、アルファ部隊の消息が途絶えてしまった。
―――――ここエンブリー広場を最後にな。
「あと4匹!」
重傷を負ったローカストを始末し、ドムが敵の数を知らせる。ガアァァ。ドローンの断末魔がまた、今度ははっきりと聞こえた。
―――――中へ入って隊員を捜索し、レゾネイターを起動させろ!
―――――援軍の要請は?
―――――寝ぼけた事をほざくな。お前達が援軍だろうが!
―――――このエリアはネーマシストが多すぎて空からはムリだ。徒歩で進入しろ!
「・・・最悪だ」
「あと2匹!」
ドムのぼやきはマーカスの叫びと、続く銃声で掻き消された。ランサーを持ち上げ、残るローカストを始末する。
「オールクリア・・・」
―――――情報はあそこにいる少尉が随時提供してくれる。
―――――はい、大佐。ただここは危険です。早く移動してください。
―――――・・・いいな、かかれ!
レイヴンから顔を覗かせた女性、アーニャ・ストラウド少尉の要請を聞き入れ、ホフマンはレイヴンへと歩み始める。
「あー・・・いい気味だ」
立ち上がったマーカスを睨みつけながらホフマンは進路を変え、彼に近づく。
「フェニックス、今回は貴様にも全力で戦ってもらうからな」
「あんたのためじゃねぇけどな」
言い残す事はない。とばかりにホフマンはレイヴンへ再度歩き始め、デルタ部隊はキムの元に集合した。
アルファ部隊の消息が途絶えた―――・・・。その言葉を聞いた瞬間、ティアナは戦闘中にもかかわらず念話を飛ばしていた。送信相手は、スバル・ナカジマ。陸士訓練校で出会って以来、共に訓練を受け、戦闘を潜り抜けた、そして、特別救助隊に転属し、多大な活躍を挙げたばかりに、こんな事態に巻き込まれた、大切な親友。だが彼女の呼び掛けに、親友が反応する事は終になかった。
死んでいない。ただ、返信も出来ないほど、激しい攻撃に晒されているだけだ。そう思ったところで何の慰めにもならない。このセラに次元航行艦が不時着してから、1年が立つ。その間、2隻のL級と1隻のXV級に搭乗していた管理局員、総勢479名のうち、現在まで生き残っているのは102名――――。
「敵の増援部隊だ!」
マーカスの声に現実に引き戻され、キムの退避しろという指示に反射的に物陰へと飛び込む。何体かのドローンが、また階段を駆け下りてくる。が、空へと舞い上がったレイヴンが機首の機関砲で相手を粉々にする。
『今のはオレのおごりだ。がんばれよ、デルタ!』
パイロットはそう言い残すと、レイヴンを翻させ、移動を始めた。
ランサーの弾が切れたときに備え、デルタの面々はローカストが残したハンマーバーストとそのマガジンを拾う。ある程度を回収するとキムが号令をかけた。
「階段を上るんだ。アルファが待っているぞ!」
素早く階段を上りきる。もたもたして、ここで襲撃を受けたら、身を隠す物がないからだ。
「さぁ、始まるぞ。びびっちゃいねぇよな?」
ドムの挑発に、マーカスが反応した。
「まぁ、見てろって」
正面の曲がり角からローカストが飛び出てくる。グランドフォーカーダ。そう叫びながら。
だが、デルタ部隊はローカストが現れるのを想定していた。全員がランサーを目元まで持ち上げ、ノコノコとやってきたドローンを狙う。1体がすぐさま蜂の巣にされ絶命する。残りは2体。
マーカスが腰を低くした状態で走り出す。ローディーランと呼ばれるその走り方は、アーマーの重さを利用して重心を前へ移動させ、走る速度を上げると同時に、相手側から的を小さく見せ、さらに、角度をつけることで銃弾を弾きやすくする、という
ドローンの反対側についたマーカスは突き出された銃を握る手に銃撃を浴びせる。銃を取り落とすドローン。
あぁ、なるほど。彼の考えに思い至ったティアナはもう1体の隠れる場所へと撃ち込む。ちょうど、ドムと入れ替わる形だ。これで奴は身動きが出来ない。
遮蔽物の反対側へと乗り越え――ついでとばかりに蹴りを相手に浴びせ――たマーカスはランサーのマガジン付近にある装置を引く。そして大きく振りかぶり、ドローンに向け振り下ろした。
ヴィイイイイイ。ランサーの最大の特徴である、バヨネット・アダプター部に組み込まれたチェーンソーが唸り声を上げながらローカストに牙をむいた。外皮、骨、臓腑、肉、血管・・・そして大量の血。チェーンソーの刃に引き裂かれ、引っかかって体外へと撒き散らされていくそれがマーカスを赤く染める。
「ふん、血まみれだぜ。・・・毎度の事だがな」
真っ二つになったドローンと自信の体をみてマーカスはそう呟いた。
残酷な死を迎えた同胞をみて、激昂したのだろう。残る一体が体を起こす。だが既に狙っているティアナはすぐに照準を合わせ、精確に銃撃を加える。残る2人も参加し、このドローンは1体目と同じ末路を辿る。
「だぁぁ!くそ!」
因みにドムはいつまでたっても弾を押し上げないマガジンを殴りつけていた。
通路を道なりに進む一行は二つ目の階段を上った先でまたもローカストに遭遇した。彼らがいなければすぐ横の崩れかかった神殿など、いい観光スポットになるだろうに。
「ランスター、砲撃魔法を撃てるか?」
キムが目の前に展開したローカストの数を見て、ティアナに声をかける。
「ええ、もちろん」
言うが早いか、彼女はクロスミラージュを引き抜き、チャージを開始した。キムは他のデルタ部隊隊員に素早く命令する。
「カーマイン、オレと共にランスターを援護しろ。ドム、フェニックス、お前達はサイドを進め。敵を神殿側に寄らせるな!」
受けた隊員達はそれぞれの任を果たすため散開した。
ドムとマーカスは、唯一折れている柱の根元に落ちていた弾薬ボックスを見つけ、十分な弾を確保。近くに落ちていたグレネードも回収すると、一気に駆け出す。ドムが2本目、マーカスが3本目の柱に取り付き、同じ柱でキムやカーマインの銃撃から身を守るドローンに対して猛烈な攻撃を浴びせた。ひっくり返って倒れふすローカスト。
それを見たほかの相手はマーカスたちからの攻撃を防ぐポジションに移動した。頭の回る奴が居るのか、そこはキム側からの攻撃もある程度防げる場所だった。
「もう、面倒な場所に!」
もうすぐチャージが終わる、状況を確認するため顔を少し上げたティアナは、ドローンのポジションを見て、苛立ちを含ませ叫んだ。あの遮蔽物ごと、吹き飛ばしてやろうか。
だが、マーカスの通信がその考えを放棄させる。
「くそ、ローカストホールだ!」
そこからローカストが次々出てくる穴が出現したらしい。更に増えるであろう奴らに、数少ない遮蔽物で挑むのは、はっきりと無謀な行為だ。そこから身を乗り出した瞬間、蜂の巣にされるのは目に見えている。だからといってブラインドファイアでは高い命中率は望めない。弾を無駄に消費するだけだ。
「おら、さっさと立て!」
ああでもない、こうでもない。ティアナが考えをめぐらせていると、カーマインが自身が所持していた、4つのフラググレネードを放り投げた。ちょうど、固まっているローカストの真ん中に。いきなり大量のグレネードが投げ込まれた彼らはそのほとんどが危険を察知し、立ち上がって逃げ出す。その様子をみたティアナは、自分がカバーしていたものの上に乗りあがって、クロスミラージュを構えた。
突然、身をさらけ出した彼女に、ローカストたちは攻撃しようとするが、それよりも今日2度目のディバインバスターが彼らの上半身を銃ごと飲み込むほうが早かった。
ついでに先程立ち上がらなかった
キム、ティアナ、カーマインの3人は全力で前進。ドム、マーカスとほぼ並んだ位置に滑り込む。そしてランサーでブラインドファイアをした。
濃度を上げた弾幕に、残った相手はたまらず身を低くし、攻撃を止める。グレネードを手にしたマーカスはじっくりとホールを狙った。
「フラグ投下!」
声と共に投げ出されたグレネードは、見事な軌跡を描いてホールに入り、一瞬の後、爆発。爆風はドローンを粉々にし、衝撃は穴を封鎖した。増援を得られなくなり、動揺する敵に対して、デルタ部隊は情け容赦のない攻撃をしかけ、その全てを撃ち殺した。
次の建物へ繫がる橋を渡っていたデルタは橋の下に大きな穴と・・・その近くで血まみれのまま、動かない兵士を発見した。
「コントロール、こちらデルタ。アルファ部隊を発見。・・・おそらくK.I.Aだ。レゾネイターの所在は不明」
キムがコントロールに報告を入れる。アーニャからは捜索を続けるよう指示を受ける。
橋を渡りきった先の建物はドアを硬く閉ざしていた。その横の入力装置にキムが近づく。
「オレがドアを開けよう。暗証番号は知っている」
ピッピッピ・・・操作音が終わるとドアは重苦しい音を立てながらゆっくりと開いた。中から聞きなれた声がこぼれる。
―――――人間ダァ・・・・・・。
ローカストだ。だが2体しかそこにはいなかった。あっという間に体中を穴だらけにされ息絶える。
しかし、死の間際ローカストが乱射した弾丸はカーマインに直撃。不幸にも装甲の薄い内腿を貫いた。キムとティアナが駆け寄る。
「ランスター、包帯の用意をしてくれ。・・・大丈夫。すぐに動けるようになるさ」
カーマインを安心させるよう語りかけながら、腿の装甲を取り外し、キムはジェル状の物を傷口に流し込む。血液と反応して凝固し、その後体に吸収される、バイオフォームの一種だ。 溢れた分を拭い取り、包帯を受け取る。そしてバイオフォームが崩れないよう硬く巻く。その間にローカストホールが二つ出現したが、いずれもドローンが這い出る前に封鎖する事ができた。
数十秒もするとカーマインは先程の言葉通り、動けるようになった。デルタ部隊は移動を再開。建物からでて階段を駆け下りてゆく。遠目に兵士の死体が確認できるようになった時、ドムが口を開いた。
「あれがローハスじゃなきゃいいが・・・。あいつの子供、まだ2歳だぜ」
マーカスとティアナが顔を歪めた。どちらも肉親を失い、天涯孤独の身だからだろう。その辛さはよく理解している。
「・・・アルファかもしれんな」
そう言うキムの表情は、困惑と怒りが滲んでいる。
「タグまで消えちまった」
マーカスの言うように、この周辺をいくら捜索してもタグが発見できないのだ。顔を含めた全身を穴だらけにされている彼の身元を証明できるのはそれしかないというのに―――。
「あれがレゾネイターか?」
正体不明の物体を弄り回すカーマインにキムが尋ねるが、彼は否定する。
「さぁ、どうする?」
「あぁ、レゾネイターを回収するぞ」
キムはコントロールと通信を取り、マーカスとドムは内緒話、カーマインは拾った何かと格闘中・・・とあって、手持ち無沙汰になったティアナはもう一度、スバルに念話を送信する。2度、3度と繰り返して。だが、彼女はまた応えてはくれなかった。
死体に歩み寄り、その傍に膝をつく。この人が生きていれば。もしくはせめて魔導師だったなら。記録を読み取り、スバルの生存が確認できればどれほど気持ちが上向くか。
「次のターゲットはハウス・オブ・ソブリンズ、真正面だ。行くぞ」
キムの言葉が耳に入り、彼女は立ち上がる。
だが、スバルの死を確認してしまうのではないか。拭いきれないその不安が彼女の1歩を酷く重いものにしていた――――。
ゲームで負傷したNPCを復活させるあれ。あれをどう説明するか考えて時間が掛かってしまいました。
そしてローディーランへの謎のべた褒め。
今回は登場人物が前回の倍に。上手く動かせているでしょうか。
どうしてもカーマインが目立たなくなってしまう。パッと見、モブだからかも。
ラストが少し駆け足だったかもしれません。
スイマセン。8000字に収めたかったのと、徹夜テンションのせいです。