「スナイパーだ!」
キムが敵の位置を指差す。ロングショットを抱えたまま、慌てて逃げるドローン。あのライフルは1発撃つたびにリロードする必要があるからだ。
そして、彼と入れ替わるようナッシャー ショットガンやハンマーバーストを携えたドローンが突撃を開始した。
「来るぞ!」
キムの叫び声。デルタ部隊は武器を手に取り、射撃体勢を整えた。
階段を駆け上がるドローンたちに銃撃を叩き込む。
ハンマーバーストを持つドローンたちは被弾を恐れず、立ったまま応射を開始。ナッシャーを持ったドローンは身を伏せ、デルタに接近する機会をうかがう。
応射を受けた彼らは、物陰に身を隠し弾丸から身を守る。ドローンの装備するアーマーより遥かに高い強度をもつCOGアーマーだが、装着する人間はローカストより劣る。1発でも貫通すれば、それだけで危険だ。ランサーを突き出し、弾をばら撒く。
ティアナは弾切れになったランサーに弾を込めようと腰に手を伸ばす。咄嗟に考えが浮かび、マガジンではなくクロスミラージュを取った。
カートリッジを3つロード。これでこちらのマガジンも使い切ったことになる。自身の頭上に十数個のスフィアが形成され、そこから光弾が発射された。射撃魔法の基本、シュートバレットだ。
その制御をクロスミラージュに任せ、自身は更にハンマーバーストを手に取り、立ち上がる。突如として量を増やした敵の攻撃に、近づこうとしたドローンたちは足を止めていた。そこをティアナは的確に狙っていく。
硬く閉じられていた最後の扉が内側から開けられ、中から敵が姿を現したのは、外にいる敵をほぼ倒しきったときだった。クロスミラージュはスフィアに余った圧縮魔力の弾丸をそちらに向け・・・数発を放ったところで途切れる。
だが、その攻撃は彼らが建物から出ることを拒んだ。ドム、マーカスがその中へ突入する。しばらくの間、銃声が鳴り響きそして途絶えた。ドムが敵を制圧した事を伝える。
「コントロール、こちらデルタ。応答せよ」
キムが通信をするが、通信機からはノイズしか聞こえない。
「ふん」
「軍の備品ってのはいつもこれだ」
舌打ちをするキムとは対照的に、2人はどこか諦めたような表情を浮かべた。
地面に横たわる死体をティアナが見つめる。
「カーマイン・・・・・・」
彼に3人の兄弟がいることはよく耳にしていた。特に長男はこの戦争中、多くの戦果を上げた英雄だと誇らしげに語っていたのを、今でも覚えている。
キムから許可をとり、首にかけられた識別タグを引き取る。
彼の死が軍高官からも『名誉』である事を願おう。歯車の形をしたそれを納めながら彼女はそう思った。
キムが暗証番号を打ち込み、ドアが開け放たれる。奥から銃声と何者かの声が聞こえた。
―――――イェイ!さぁかかって来やがれベイビー!
―――――たまんねえな!
「アルファを見つけたようだな」
マーカスが言う。しかも、まだ生きているようだ。行け。キムの号令をかけるとデルタは奥へと進みだした。
「上で派手にやらかしてるみたいだな」
階段を上がる途中でドムがそちらを睨みながら口を開いた。上がりきると彼らは銃を構え、敵を探す。しかしそこには、敵もそしてアルファ部隊の兵士すらいなかった。―――いや、更にその先の階下から、また声が聞こえる。
―――――二度とツラを見せるなよ!
「なんてこった。たった1人かよ!」
下の様子を覗き込んでキムが驚きの声を上げる。そこには1人の兵士が100kg以上のドローンを掲げ、地面に叩きつける光景があった。
頭を粉々にされた仲間を見て、他のドローンたちは怯えたように下がりだす。
「こいつは今日のハイライトだな!」
放り投げた死体が逃げた敵に当たるのを見てアルファ部隊隊員が叫んだ。その声は階上のデルタにまではっきりと聞こえるほど大きい。
「奴を死なせるな。周りの敵を全部倒せ!」
デルタ部隊は上からローカストに向けて猛然と撃ち始める。
上を取ったデルタからの精確な射撃と、下で暴れまわるアルファの存在もあって、彼を襲っていたローカストは一瞬のうちに皆殺しにされた。
アルファと合流するため、階段を下りるデルタ。彼らの姿を見てアルファの兵士はまた大声を上げる。
「イェイ!やったぜベイビー!」
その様子に少し頭を抑えるキム。ホフマンほどではないが彼も規律などにはうるさい。
「名前と所属は?」
「オーガスタス・コール二等兵。アルファ部隊です」
彼・・・・・・コールの名を聞いてドムが驚きの声を上げる。
「コール?あのコールか?」
ああそうだ。そう言うコールにキムは訊ねた。
「他の隊員はどうした?」
少し腕を上げ、ある方向を指しながらコールは答える。
「無名戦士の墓から動けません」
「・・・我々はデルタ部隊、レゾネイターの回収に来た」
「そしてお前らを救出しにな」
その言葉にコールは嬉しそうな表情を浮かべた。
「助かった!ずっとヘリを待ってたんだが、無線がイカレちまったん・・・・・・です」
キムが上官であることを一瞬だが忘れたのだろう。慌てて付け足す。ついでに額に指を当て敬礼もしていた。
「そうらしいな」
その様子がおかしかったのか、笑いながらドムが言うが、彼は途端に真剣な顔になる。
「シーダーだ。奴らが通信を妨害している」
シーダー。ローカストの一種だ。口のような器官から黒い煙とネーマシストを吐き出す。
このエリアの通信の不具合と上空を制している大量のネーマシストはそいつがいたからだろう。
「だったら、そのシーダーを片付けるのが最優先だな」
「もっともだ。至急コントロールとの通信を回復させる。今すぐにだ」
デルタとコールを見るキム。誰からも反論の声はない。軽く頷くと彼は歩きだした。
「あの・・・・・・、少しいいかしら?」
キムを追いかけ歩く傍ら、ティアナはコールに近づき声をかけた。
「ああ、なんだいお嬢さん?」
「ティアナよ、そう呼んで。・・・・・・スバル・ナカジマは生きている?」
自身の名を告げた後、彼女は本題を切り出す。親友がどうなっているのか、彼なら知っているはずだ。
「スバルかい?オレがアルファといた時は生きていたよ。・・・・・・大丈夫だ。きっと今でも生きているさ」
彼の答えに酷く複雑な表情を浮かべたティアナ。その表情を晴らすため、彼は彼女を慰める。ありがと。そんな彼の気配りに感謝の意を示すと。
「いつも観てたぜ!」
先を行くドムがこちらを振り向きながら言った。
「あー、なんのことだい?」
「スラッシュボールのゲームさ。クーガーズの83番、コールトレインのプレイをよ!」
合点がいったとばかりにコールは頷くとニヒルな笑みを浮かべて言い切る。
「そりゃーそうだろ!オレのプレイはみんなが観たがるんだ!」
―――――ほらマーカス!ディビジョンプレーオフん時の、あの40ヤードラインだ!
「・・・・・・スラッシュボール?」
盛り上がる空気についていけない彼女はちょうど、その空気を作った当事者であるコールに尋ねた。
―――――ああ、お前には20ドル貸しだったよな。
「そうか、管理局の連中は観た事がないんだったな」
そう呟くとコールはティアナにスラッシュボールの説明を始めた。自分が現役だった頃の活躍も合わせながら。
―――――戦争が終わったら払ってやるよ。
元スラッシュボールの名プレイヤー、コールが参入した事で明るくなった雰囲気は、ドアをくぐって廊下へ入った際に聞こえた、異質な音によって霧散した。
「何だ、今のは?」
その先にちらりと写った姿をみてマーカスが口を開く。辺りを静寂が包む。
「気をつけろよ」
コールに注意されるまでもなく、デルタ部隊は警戒態勢に入った。
「ここで待て。・・・・・・ジャック、出て来い。ドアを開けろ」
空中の一部が歪むとそこから小さなロボットが出てきた。ジャックだ。
キュイ、キュポ。簡易AIがキムの言葉を理解すると、その細く垂れ下がった手の先から高温のビームを照射し、ドアを焼き始めた。ジジジジッ、しばらくその小さな音だけが響く。
突然金切り声のような雄叫びが辺りを満たし、幾つかのガラスが砕ける音がする。音の発生源を見ると、そこにいたのは小さく、不恰好な存在。
「レッチだ!」
キムの叫び。小さなローカストたちは幾つかの個体が天井に張り付いたまま襲ってきた。
レッチは鋭い爪を使って相手を引っかき、天井への張り付きなどトリッキーな動きを見せるが、他のローカストに比べると非常に弱く、単体では脅威にはならない。
だが、彼らはとにかく群れる。距離があるうちに徹底的に減らさないと、非常に危険だ。接近されると小さいため狙いにくく、あれよあれよという間にズタズタにされてしまうだろう。
デルタが廊下に出たあたりに出現したレッチは半数以上がたどり着く前に撃ち殺された。
だが彼らの後ろにあるホールからレッチが飛び出た事で状況は一変する。そちらへの対処に終われ、廊下側のレッチへの攻撃が疎かになる。
その隙にレッチたちは一気に進み、遂にデルタで一番後方にいたコールと接触した。振るわれた爪がコールの二の腕に襲い掛かる。
「ハッ!そんなんじゃこのコールトレインは止められねぇぜ!」
しかし、強靭なコールの肉体は爪ごときでは怯まず、逆に近づいたレッチたちのことごとくを殴り殺し、絞め殺した。
コールを無視し、更に奥の隊員へ襲い掛かろうとした奴らはティアナとキムによって次々と殺された。
ホールから出たレッチはマーカス、ドム、によって逐一駆逐された。狭い入り口からは毎回1~2体ずつしか出れないためだった。
レッチを全滅させるのに時間はかからなかった。彼らはしばらく休みながら、ジャックがドアを開けるのを見つめていた。
ジャックがドアを開けたのは、レッチが全滅して少し経ってからだった。次の部屋へ突入すると、外で何かがものを吐き出す音と・・・強烈な悪臭がデルタの鼻を突いた。
「うわ、なんだこの臭い」
ドムが苦言を漏らす。ティアナとマーカス、コールも続いた。
「ああひっどい。勘弁してよ、これ。」
「まずいな。こいつは確かにかなり臭うぞ」
「シーダーだ。奴らは臭ぇぞー、マジで臭ぇぞ」
顔を顰めながらも臭いに対して苦言を漏らさなかったキムだが、部隊に対して苦言を漏らした。
「いいかげんにしないか。ここは戦場だぞ!集中しろ!」
そこの2人!キムは自身の部下であるデルタの3人のうちマーカスとドムを指差し命令した。
「こっちに来て武器を回収しろ。俺が命令するまで使うなよ」
命じられた2人は落ちていたレーザーポインタを拾った。衛星兵器ドーンハンマーの狙いをつけるための道具だ。
外へ出たデルタ一行。キムが跳ね橋を下ろすハンドルを全身を使って回す。彼らの視界の奥では巨大な嘴が蠢いていた。シーダーだ。
橋が下りきると、対岸にローカストが見えた。そしてホールも。
「引き金を引け。そのポイントに衛星が狙いをつけるようになっている」
ポインタを持つ2人はドローンの足元に照準を合わせる。
ポ、ポ、と少し間をおいて上空からイミュルシオンが叩きつけられる。超高圧、超高温のそれはドローンたちを1匹も残すことなく焼き尽くした。
その後、動く事のできない哀れなシーダーも、手の出しようがない衛星軌道からの攻撃を受け、身の危険を察したのか、よたよたとその嘴を引っ込めた。
「楽勝だぜ!」
「こいつでかたっぱしからぶっ放せばいい!」
「これは屋外でしか使えない。それも衛星が頭上にあるときだけだ」
浮かれ調子になる彼らをキムが一喝する。
「今はついていたってわけね」
「急ごうぜ!アルファが待っている」
ティアナの指摘に彼は頷くと、コントロールとの通信を試みた。
「コントロール、こちらデルタ。応答せよ」
しかし、無線からはノイズが聞こえるだけだ。耳を澄ませると、先程と同じ何かを吐き出す音が聞こえた。
「まだダメだ。他にもシーダーがいるようだな。行こう」
奥の部屋へ踏み込むと中央が吹き抜けのフロアのようだった。吹き抜けの底にシーダーが陣取っている。左右からはレッチの叫び声が響き、正面にはドローンの姿。
「まずレッチから片付ける。ドムとコールは左へ。オレとフェニックスは右だ。ランスター、吐き出されたネーマシストを始末しろ」
幸い、レッチは左右それぞれに数体しかおらず、素早く一掃された。
そのまま彼らは突き進み、ドローンを挟み撃ちにする。そいつも片付けると、ポインタの先をシーダーに向けた。
降り注ぐイミュルシオンに焼かれるシーダー。数秒も照射されると、大きな断末魔の叫びとともに絶命した。
「オールクリア」
周囲を見渡したキムが呟く。コールが急かすよう口を開く。
「おい、早いとこアルファを助けようぜ!」
階段を下り、シーダーの死骸へ近づくデルタ。キムは再度連絡を取った。
「コントロール、こちらデルタ。応答せよ!」
『なんとか聞こえるけど、シグナルがかなり弱いわ』
今度はコントロールからの反応があった。
「それについては今対応中だ。これからアルファ救出に向かう」
『デルタ、こちら24。アルファは一緒か?合流地点の安全は確保できてるか?こちらは、燃料切れ間近だ。オーバー』
付近を飛行し、救出の時を今か今かと待っているKR24から連絡が入る。彼の燃料は心もとないらしい。
「ダメだ。24、待機しろ!」
行け、コール。キムの声にコールが反応し先導を始めた。
聖堂のような部屋へ入ると、奥から現れた1体のドローンと4体のレッチに襲われたが、彼らは慌てずこれに対処。さらに歩みを進める。
ローカストが現れた奥の部屋に入るとキムが口を開いた。
「何だ、これは!?」
柱の一つに一人の兵士がもたれかかっていた。その体は不自然にかけている。・・・レッチに喰われたのだ。
傍へと駆け寄ったコールが悔しげな声を上げる。
「くそっ、ローハスだ」
「・・・・・・これじゃ収容所にいたほうがマシだったかもしれねぇな」
まだ2歳の彼の子供を考えれば、そう考えてしまうのも仕方ないのかもしれない。そこにいる全員が彼に向け敬礼をする。
「行くぞ」
「ホフマンの『作戦』とやらと、レゾネイターか。どういうことだ?」
「地下ネットワークのマッピング装置だ。敵の中枢を叩くためのな!」
「なるほど」
アルファ部隊の救出とレゾネイターの回収。それを使って、ローカストの本拠地に爆弾を叩き込み、この作戦を完了させることを目標として、デルタ部隊は移動を再開した――――。
コール初登場。なんだか凄く筆の進みが良かった気がします。
どいつもこいつもガチムチなGoW勢の中でも、特にムキムキなコール。
仲間想いで、一直線な彼が大好きです。
GoW3では号泣しましたよ。直後に吹き出しましたが。