ヱヴァンゲリヲン異聞譚   作:沖田十三郎

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序 2

●S‐4 神奈川県 足柄下群 旧箱根町付近

 

 駅舎を出て暫く歩いてみても、やはりどこにも人影はなく、どころか気配もない。

 歩いても歩いても歩いても、まったく人影というヤツが見えない。

 これはどうした事だろうか。

 両の手をポッケに突っ込んで、制服姿のまま無人の街を歩いているとまるで異世界にでも紛れ込んだかのような感じすらする。

 幾ら人口の三分の一が一気に消えたからと言って、ここ(・・)の人口が激減する理由にはならないだろう。

 ―――となれば考えられる理由は限られてくる。

 できれば当たってほしくはない可能性だったから、先刻(さっき)から続けている現実逃避の一環から確認することそれ自体を最終手段として歩き続けた。

 

◆          ◆          ◆

 

「しっかし、本当に人影一つないね。図書館で見た廃墟図鑑に心ときめかせていた彼女等の気分も、こうして見ればわからないではないかな。これは少し、そう、少しだけ心躍る光景じゃないかね?」

 口笛の一つでも吹きたい気分だと、吹けもしないのにそんな事を考えながら呟く。無論その呟きを拾うものはなく、風と一緒に吹かれて消えた。

 人がいないだけで街はこれ程の静寂に沈むものなのか、図鑑からでは得られない感覚を遊びながら、さすがに危機感を覚えて公衆電話を探しながら歩いていて、自分の足音意外は無音と言い切ってもいいくらい音というものがない空間を楽しんだ。

 (けれども)、それは間違い(ウソ)だ。

 風の音、鳥の鳴き声、そんな自然界に身を置くオトは聞こえてくる。聴こえないのは人工音だ。

 耳に痛いほどの音の凪。

 立ち止まるとそこは異世界だ。歩きながらのそれは楽しかった。立ち止まって感じるこの孤独感は面白い。

 普段、こんな情景を目にする事はほとんどないからだろう、或いは単に自分があまり人を好かないからだろうか。

 ―――ともあれ。

「このままでは埒が明かない」

 いい加減歩いても歩いても探しても探しても公衆電話が見つからないのには、多少の焦りがある。

 面白くはあるし楽しくもあるが、幾らなんでも奇妙さに可笑しさは感じているのだから、状況の確認くらいはしたいものである。

 

 そうして通りを右に曲がると、古ぼけたタバコ屋の横に緑の塗装も剥げかかった公衆電話。

 しかし、手に取って受話器を耳に押し当てれば判で押したように同じことを述べるばかり。

 すなわち―――

「―――・―――現在、特別非常事態宣言発令中の為、全ての回線は不通となっております。」

 にべも無しとはこの事で、これでは外部と連絡を取る手段も断たれたようなものだ。

「――ふぅ」

 歩き疲れた余波か、はたまた折角見つけた公衆電話が使い物にならないと分かったがための徒労感か。

 ともあれこのままで埒が明ない―――と云うより所作も無し。

 

 なすすべもなく天を見上げると

 潮騒の鳴き声がする。

 熱気降る空気はしんと静まり返り、空行く鴎の声だけがやけに大きく聞こえた。

 手元の写真にはやけに扇情的な差出人の姿。

 

 じりじりとアスファルトを焼く陽の光は、しかしアスファルトを焼くほどの力はなく、もって向こう―――空気を揺らめかしてぼやかせる程度のものでしかなかった。

 ぼやける霞の向こうに、一瞬、酷く情欲をそそる少女の幻影が見えた―――気がした。

 しかし瞬き一つを隔て失われたその影は、きっと幻視だったに違いない。

 つまり、普段どおりだ。

 

「まったく、困ったものだね。」

 漏らすようにしてこぼれた言葉からはさしたる感情は伺えない。

 敢えて言うなら苦笑の響きがあった。

 視線を手元に落とし、写真を目にして口元を可笑しそうに歪めた。

「いやはや、随分とわがままなボディをした御仁のようだが、はてさて。この分では合流は難しかろうね。」

 受話器を本体に掛けながら「仕方ない、シェルターに行くか」と漏らす。

 先ほどから首の裏がちりちりと煩い。

 学校でいじめっ子(羽虫)にたかられる時も、嵌められて教師(張子)説教さ(無駄に時間を食わさ)れた時も、何時も何時もその寸前にはこういう感覚があったのだ。

「どうせ、碌でもない事なんだろうさ。貴様の手による悲劇(グランギニョル)なんざ、想像するまでもない」

吐き捨てるように(こぼ)し、(きびす)を返そうとした――――その瞬間。

 

 風があった。

 暴力的な風だ。

 両側(りょうそく)を建物で囲われ、道の曲がりは徒歩で行くには幾分かある。

 目前には曲がり角があり、その先には幾つかの背丈のある影がある。

 それは山稜と青空を背景として人工物の持つ冷たい美しさを演出していた。

 

 だがそんな物は無価値だと言わんばかりに、今その空間の()には戦闘ヘリがこちらへと後退してきた。

 問題は後退している前面に何があるのかという事だが、信じられない事に宙をゆく黒い人型の巨影が来た。

「やれやれ。ホラー染みた人無し世界の次は怪獣ものかね?聴いていた東京と比べると随分とご機嫌じゃないか。エンタメに力を入れる姿勢には大いに共感するが、幾らなんでもこれは大時代的だ」

 そう呟くも、自覚せずにはいられない。

 今僕の口角は歪んでいる筈だ。

 非日常。

 そこに憧れを抱くのは、僕らの年代では普遍的な衝動だろう。

 

●S‐5 近接航空支援用垂直離着陸対地攻撃機 YAGR‐3B

 「目標に、全弾命中!」

 

●S‐6 神奈川県 足柄下群 旧箱根町付近 タバコ屋前

 建物を回り込むようにして泳いだミサイル群は一発も外れることなく巨影へと吸い込まれる。

 先ほどよりも幾分か自分と近い位置でのそれは、やはり先ほどと同じように暴力的な風の(いなな)きをこちらへと運ぶだろう。

 軽い僕は吹き飛ばされてしまうかもしれない。

けれど。

「――いやいやいや、これは悪くないね」

 

●S‐7 神奈川県 足柄下群 旧箱根町付近

「あちゃー、こりはちょ~っちマズいわね・・・」

 そんな呟きもなんのその、ハンドルをグィィンと曲げて車体はピシャッと道に沿い、眼前×タバコ屋の前×風に髪をなびかせて佇む人影=目的の人物を視界に収め、闘争を目的とした殺意そのもの(N2ミサイル)の余波を防ぐべく彼の前へと愛車を滑り込ませた。

 




公衆電話から流れてくる自動音声が間違っているので後でDVDで確認して修正します。

2016.2.1
誤字(気付いた分まで)
公衆電話の自動音声
修正致しました。
DVDを確認した所、描写が足りない事に気が付いたので(シーン)単位で追加描写致しました。

2016.2.2
ミサトさんの口調が間違っていたので修正致しました。
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