IS ~Identity Seeker~   作:雲色の銀

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第10話 学園最強は粗暴な戦闘狂を見定めるか

「今ここでお前をぶっ倒せば、俺が最強ってことでいいんだな?」

 

 腕に部分展開したシアン・バロンが持つスペリオルランサー。その穂先を、俺は目の前にいる女子──IS学園生徒会長、更識楯無──に向けていた。

 学園最強がわざわざこんなところまで会いに来てくれるなんてな。

 

「ええ。いいわよ」

 

 更識楯無は余裕の態度を崩さないまま、ニッコリと微笑んでいる。眼前に槍を突き付けられているにも関わらず、だ。

 

「君に倒せるのならね」

 

 余裕──いや、それどころか恐れを微塵も感じさせない。

 なるほど。俺はすぐに納得して、部分展開を解いた。目の前の人物がIS学園最強を伊達や酔狂で名乗っているわけではないと分かったのだ。

 

「あら、いいの? 目ぐらいは取れたかもしれないのに」

「ご冗談。俺も誰彼問わず、すぐに噛み付くほど愚かじゃない」

 

 俺が今すぐ倒すべきなのは、同学年の代表候補生。その遥か上にいるこの人を、今の俺が倒せるわけがない。

 大人しく引いたことが分かると、目の前にいた更識楯無は液体となって床に落ちた。

 

「へぇ、意外と頭が回るのね。安心したわ」

 

 そして、俺の後方にある柱の陰から、ISを起動させていた更識楯無が現れた。

 彼女のISの能力が、水で分身を作ると言うことか。実体のない分身だから、ランスを突き付けられても平然としていたのか。

 そんなことまで出来るなんて……やはり、強さの次元が違う。

 

「それで、生徒会長が俺になんの用だ? ただの御挨拶ってことじゃないだろうに」

 

 ISを解除して、さっきの偽物と同様に扇子を広げて蠱惑的に笑う更識楯無に、俺は用件を聞く。

 新入生への挨拶なんて時期でもないし、わざわざあんな分身を用意もしないだろう。

 

「生徒会長としてじゃなくて、個人的に貴方がどんな人か見ておきたかったの」

「何故?」

「最近、血の気の多い男が妹の周りをうろついている、だなんて聞いたらやっぱり気になるでしょう?」

 

 俺に弟も妹もいないから分からん。

 それより、妹って……もしかして簪のことか? 更識なんて苗字の奴、他に聞かないしな。

 

「簪とは、そういう仲じゃない」

「けど、整備室では二人きりで仲良く話してるそうじゃない」

「装備のことを教わっているだけだ」

「ふーん……」

 

 何処か含みのありそうな表情でこっちを見る更識楯無に、俺はさっきまで感じていた不気味さがスッと消えていくのを感じた。不快感はより増していったが。

 本当に妹の身辺調査のためだけに接触してきたようだ。

 

「それだけか?」

「……ええ。貴方のことも、一応信用に値すると思えるようになったし」

「そんなに簡単に信用していいのか?」

「最初は粗暴な戦闘狂って聞いてたけど、意外と理性的なところもあるみたいだしね」

 

 意外と、は余計だ。

 なんて思っていると、更識楯無は改めて俺に向き合って頭を下げてきた。

 

「妹をお願いします!」

 

 ……あ?

 俺は更識楯無の言っていることがよく分からなかった。お願いします、っていうのはどういうことだ? なんで今、コイツにそんなことを言われなきゃいけないんだ?

 あれこれ考えを巡らせていると、ある答えに行きついた。

 

「……アンタ、ISは自作か?」

「え? ええ。なんで分かったの?」

 

 そりゃ、分かるさ。簪の並々ならない、専用機を自作すると言う執念を見ればな。

 けど、そのことについては更識楯無には言わないでおいた。こんなところでバラせば、それは簪の影の努力を踏み躙ることになる。

 

「……くだらねぇ」

「ちょ、ちょっと!」

 

 俺は考えを改めることにした。生徒会長はどうやら暇な時期もあるらしい。こんなくだらねぇ用件でわざわざ俺に会いに来るなんてな。

 ボソッと呟いて立ち去ろうとすると、更識楯無に呼び止められる。なんだよ、夕飯まで自室で休ませろよ。

 

「妹のことについて──」

「んなもん、お前に頼まれなくとも見ている」

「──え?」

 

 身内が心配なのはよく分かった。

 けど、それを本人に言わず俺のところに来たということは、姉妹間の仲が拗れているということだ。簪が異様なまでに力を渇望しているのも、ここまで強くて何でもできる姉がいるからなんだろう。

 だが、妹のコンプレックスを更識楯無は知らない。だからこそ、親しそうな俺に簪のことを頼もうとしたんだろう?

 

「簪は一人で足掻いている最中だ。力を望んで、己を欲して、たった一人で頑張っている。そんな簪の強さを邪魔することだけは、俺が絶対に許さん」

 

 余計な介入をしようとしていた更識楯無に対し、俺は敵意を剥き出しにして睨みつける。

 そして、何も言えないアイツを残し、俺は自室に帰った。

 

「……よかった。彼なら、大丈夫そうね」

 

 一人になった更識楯無は、怒るどころか安堵の笑みを浮かべていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「機体の方は概ね完成ってとこか?」

 

 対抗戦まであと数日、というところでようやくIS本体が完成というところまで来た。

 まぁ、放置されていたとはいえ、基部や装甲部の殆どは組み立てられた状態だったし、俺がやったことと言えば資材運びと整理ぐらいだ。コードの打ち込みなんかは簪が全て終わらせてしまった。

 ……役に立ったのかどうかは分からんが、とりあえずクラス対抗戦までには間に合いそうでよかった。

 

「武装が……まだ……。それに……稼働データも取れてないから……今のままじゃ実戦は無理……」

 

 しかし、簪は残念そうに首を振りながら言った。

 俺達が完成させたのは本体のみ。武装は勿論、それらの最適化、稼働データや調整など、ここからが勝負どころらしい。

 つまり、対抗戦に打鉄弐式は間に合わない。

 

「そう、か」

「うん……分かってたから……最初から打鉄で出るつもりだった……」

 

 間に合わないことは簪も分かってたらしい。けど、本当はコイツで戦いたかっただろう。

 

「そういや、打鉄弐式の武装って?」

「……マルチ・ロックオン・システムによる高性能誘導ミサイル……あと、荷電粒子砲も……」

 

 へぇ、打鉄とは違って豪快な装備が多いな。

 簪に渡された資料を眺めながら、俺は目の前のISからミサイルがドカドカ打ち出される光景を思い浮かべた。……使い方次第じゃ、えげつないな。

 そして、荷電粒子砲についても目をやる。

 

「……この荷電粒子砲っての。コイツの稼働データが欲しいのか?」

「……うん。あるの……?」

「いや、まだな」

 

 マルチ・ロックオン・システムなんてモンは無理でも、コイツなら。

 

「かーんちゃーん~!」

 

 そこへ、聞き覚えのある間延びした声がした。ぱたぱたと足音も聞こえ、振り向くとダボダボの余った袖を振る女子がこちらにやってきた。

 布仏本音。俺のクラスメイトの中でも、異様なくらいのんびりした女子だ。一夏からは"のほほんさん"と呼ばれているが……名前を知った上での渾名だよな?

 

「おおっ、あおっちがなんでいるのー? 裏切り~?」

「何故そうなる。ちょっと手伝ってただけだ」

 

 四組の代表を一組の俺が手伝っていれば、確かに裏切り行為になるかもしれんな。

 けど、それとこれとは話は別だ。白式の情報も売ってないし。

 

「かんちゃーん~、私もお手伝いに来たよ~?」

「本音……」

 

 のほほんとした本音の姿を見た途端、簪の表情が若干曇った。

 コイツ等、知り合いだったのか? 本音は親しい人間に対しては変な仇名を付けて回っているし……簪だから"かんちゃん"ってお前……。

 

「どうせまた……姉さんから言われて、来たんでしょう……?」

「え~? 違うよー。私はっ、かんちゃんの専属メイドだからー、お手伝いするのは当然なんだよー。えへんっ!」

 

 簪の疑いの目に、本音は制服の上からでも分かるデカい胸を張って堂々と答える。

 姉──更識楯無が接触してきたことについて、結局俺は何も言っていない。言ったところでなにかが変わる訳でもないしな。

 それより、専属メイド……だと……?

 

「本音、お前メイドだったのか……?」

「そうだよ~? うちはむかーしから、代々更識家のお手伝いさんなんだよ~」

 

 更識家と布仏家……双方とも、聞いたことのない家柄だが、それなりの大きさと歴史がありそうだ。

 が、それを考慮しても、目の前の少女がお手伝いだなんて思えない。家事、出来るのか?

 

「月曜から木曜まで、暮らしを見つめる布仏本音です!」

「見つめてないだろ。俺がいることを知らなかったんだから」

「はっ!? そ、そうだったー!」

 

 オーバーリアクションすらのんびりで、わざとやってるとしか思えない。

 しかし、それが場を和ませるための能力だとしたら大したものだ。本音を前にして戦意を向けられる奴なんていなさそうだ。

 

「さてと、どこからやっちゃうー? 機体のシステム最適化しようか~? それとも火器管制システムのサポ~?」

「火器管制システムは、私じゃないと無理……。制動システムも私がやるから……本音は……」

「シールドエネルギーの調整だねー。りょうかいっ!」

「き、聞いて……。装甲のチェック、して……」

「えへへ、わかりましたぁ!」

 

 その証拠に、すっかり毒気を抜かれた簪は本音に仕事をやることになった。って、装甲のチェックは俺の仕事じゃなかったのか。

 仕方ない。武装のデータ取りの為にも、シアン・バロンに合いそうな装備を探すとするか。

 

「あおっちはすごいよねー」

「あ? なにが」

 

 仕事をしようとすると、本音が簪に聞こえないように話しかけてくる。

 

「だって~、私が手伝うって言っても、中々手伝わせてくれなかったんだもんー。あおっちに先越されちゃった~」

 

 俺は簪と最初に出会った時の態度を思い出す。

 簪と本音は昔からの仲だと言っていたが、そんな幼馴染にも手伝わせなかったのに俺は手伝っていた。それがすごいことだ、と本音は言いたかったのだ。

 ……そいつはどうかな。俺はほぼ無理矢理手伝わせるよう、アイツに言っただけだ。それも、自分の興味のためだけに。

 

「……そう思うなら、今までの分までもっとアイツを支えてやれよ。本音」

「もっちろんっ!」

 

 バッサバッサと袖を振って答える本音。勢い余って俺の顔に当たってるが……もういい。指摘する気にもならん。

 こうして、その日から3人で作業をすることが多くなった。クラス内では、何故か俺だけが裏切り者扱いだったが。どういうことだ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 そして、迎えた対抗戦当日。

 第二アリーナで行われる一夏と凰鈴音の試合に、客席は満員。通路すら、立ち見する生徒で埋め尽くされた。会場に入れなかった生徒や関係者達も、リアルタイムモニターで見ているとなると、どれほどこの試合に皆が注目しているのかが分かる。

 片や代表候補生。もう片方は世界的有名になった、男性IS操縦者ともなれば、当然の結果ではあるが。

 

「……見に行かなくて、いいの……?」

 

 簪が不安そうに尋ねて来る。俺は整備室で簪の乗る打鉄の調整を見てやっていた。

 勿論、見るだけで手伝いはしないが。弐式の作業ならまだしも、試合に使う量産機なら俺の出る幕はない。自分のクラスの為に手を施したと思われるのも心外だしな。

 

「今回の戦いは、半分以上がアイツの抱える問題だ。わざわざ窮屈な会場やピットに出向いてまで見るようなモンじゃない」

 

 凰鈴音と俺が戦う時に、参考程度に眺めるかもしれんが。

 アイツの修羅場については応援する気も出歯亀する気もない。

 すると、簪は視線を俺から横に逸らす。

 

 

「……なにか?」

 

 

 その先にいたのは、セシリアだった。何故か、今日に限っては整備室にまで付いてきたのだ。

 

「お前、一夏の師匠役だろ。ピットで──」

 

 ──見ててやれよ。そう言いかけたところでギロッとすごい剣幕で睨まれたので、口を閉じる。

 なんでここまで機嫌が悪いのか。今の俺には理解出来ない。

 

わたくしの(・・・・・)クラスの方と一緒にいて、何かご不満でも?」

「いえ……不思議に思っただけです」

 

 自分のクラスであることをやけに強調し、セシリアは簪に敵意を剥き出しにする。対する簪は、少し気圧されてはいるが、セシリア相手に引くこともなかった。

 ……ひょっとして、これはアレか? セシリアの奴、嫉妬でもしてるのか?

 

「オイ、セシリア」

「なんですの? 裏切り者の──」

「俺はちゃんとお前のことも見てるぞ」

「──凌斗さ……んっ!?」

 

 最近、簪ばかりに構っていたからな。けど、セシリアのこともちゃんと見てるぞ。

 そのことを告げると、セシリアは急に顔を真っ赤にした。

 

「…………」

 

 だが、今度は何故か簪の視線がキツくなったような気がする。

 女っていうのは、そんなに独占欲が強いのか?

 

「そ、その……見ている、というのは……?」

「ん? ライバルとしてだが」

「……そうですわね。次の模擬戦でボロボロにして差し上げますわ」

「おう、楽しみにしてる」

 

 恥ずかしそうに指をツンツンしてるかと思えば、最後には冷たく睨んで宣戦布告までしてきた。

 表情がコロコロ変わって面白い奴だ。その理由は全く分からんが。

 そして、簪は何故だかホッと安心している様子だった。本当に、最近の女子の思考は分かんねぇな。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 第二アリーナでは負けた方が勝った方の言うことを何でも聞く、という裏ルールの下で、一夏と凰鈴音が対決している。

 一夏としては、頑なに怒る幼馴染の心を開く為に絶対負けられない試合でもあった。

 そのために、姉の千冬から"瞬時加速(イグニッション・ブースト)"という切り札を習ったほどだ。

 

「本気で行くからな」

 

 真剣に相手を見つめ、加速体勢に入る一夏。瞬時加速は爆発的な加速力を得る代わりに直線的にしか動けず、この奇襲は一回しか使えない。

 加えて、白式の単一仕様能力"零落白夜"はバリヤーを無効化して、相手に直接ダメージを与える最大の攻撃技だが、反面エネルギーの消費がとんでもなく、こちらも一回こっきりしか使えない。

 つまり、外したら一夏の勝利はない。

 

 そんな一か八かの状況の、遥か上空では、全身灰色の装甲で覆われた謎のISが出現していた。

 見た目は両手が異様な程大きく、つま先よりも下に伸びているほど長い。更に、頭と肩が一体化していて首が存在しない。そんな異質なデザインのISは、真下に存在するIS学園のアリーナ目掛けて、今にも襲撃をする準備を整えていた。

 

 

「よう、そこのIS」

 

 

 ふと、誰かに呼びかけられる。謎のISは学園を襲撃する前に、その声の主の方を見た。

 青いISが二機、こちらを見ている。一方は槍を構え、もう一方は後方でライフルの銃口を向けている。

 

「今、下じゃ一生懸命戦ってる奴等がいるんだ。それを邪魔するなら──」

 

 槍を構えている方──つまり、俺が喋る。

 一夏達が必死に戦っているところに無粋な横槍を入れるのは、例えどこの誰であろうと俺が決して許さない。

 

「──その前に、俺達と殺ろうぜ」

 

 今、対抗戦とは別の戦いの火蓋が切られた。

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