試合が始まる少し前。ピットでは機体の最終調整とペア同士のブリーフィングの時間が与えられた。
学年別トーナメントは外部からの来賓も来る。学園側も、下手な試合を見せたくはないだろうからな。
「邪魔をしなければ、それでいい」
俺とは離れた場所から、ラウラ・ボーデヴィッヒが冷たい口調でこちらに一声かける。
今は一応、味方同士のはずだ。俺のISも奴の専用機と一緒にドイツ軍からのスタッフに点検してもらっている。
「それはこちらの台詞だ。貴様の目的は、織斑一夏だろ?」
「…………」
「俺はシャルル・デュノアに用がある。一夏ならくれてやるが、こちらの邪魔をすれば貴様を潰す」
ペアの相手とはいえ、ラウラ・ボーデヴィッヒのことは気に入らないままだ。あの時は負けたとはいえ、コイツが弱者だという認識を改めるつもりはない。
ラウラ・ボーデヴィッヒも俺のことは好いていないらしく、フンと鼻を鳴らすだけだ。
「……何故一夏を狙う? 奴に何の恨みがある?」
「貴様に言う必要はない」
他人には冷徹な態度を取り続けるラウラ・ボーデヴィッヒだが、一夏への執着は異常と呼べるほどだ。
「第二回モンド・グロッソ、織斑千冬、織斑一夏誘拐事件」
「っ!」
「貴様と関係しているのはこの辺だろう? 一夏から聞いた」
奴との戦闘後、一夏にもラウラ・ボーデヴィッヒから因縁を付けられる理由はないかと聞いてみたのだ。その結果、過去に起きたとある事件が浮上してきた。
第二回IS世界大会"モンド・グロッソ"。その決勝戦に織斑千冬は進出していた。"世界最強"二連覇を賭けた試合だったが、同時に一夏が謎の組織に誘拐されるという事件が起きた。
最終的に、織斑千冬は一夏を救うために試合を捨て、ドイツ軍の協力を得て救出に成功した。そして、協力の条件として織斑千冬は一時期、ドイツ軍の教官をすることになった。
これだけのピースが揃えば、ラウラ・ボーデヴィッヒが一夏を恨む理由なんて簡単に察せる。本人の言葉から聞くつもりだったが。
「単なる逆恨み。それも全く関係のない第三者である、一教え子の醜い──」
「貴様に何が分かる!」
俺が推測を並べていると、ラウラ・ボーデヴィッヒは激昂しながらナイフを俺の首筋に当てていた。
微動だにしなかった視線が僅かに震えている。コイツにとって、織斑千冬はそこまで心を掻き乱す存在なのか。
「あの人は、私の全てだ! 完璧な理想形なんだ! それを汚す、織斑一夏の存在を私は決して許さない!」
「……ああ、そうかよ」
長い沈黙の後、落ち着いたらしいラウラ・ボーデヴィッヒはナイフをしまい、俺から離れる。
この女の考えがようやく分かった。こいつは織斑千冬への憧れからか、その姿を自分に重ねているんだ。そして、そこに残る
自分の意志なんてなく、織斑千冬になりたいだけの追っかけファン。それが力の誇示のためだけにセシリアと鈴を痛め付けた。
ああ、くだらねぇ。
「蒼騎さん、点検が終わりました」
「変なところを弄ってないだろうな?」
「勿論ですよ。さ、わが国の大事な代表候補生をよろしくお願いします」
一足先にアリーナへ進むラウラ・ボーデヴィッヒの背中をつまらなそうに見つめ、俺はイヤーカフスを受け取って後に続いた。
一夏の奴、折角鍛えてやったんだ。こんな弱い奴なんか蹴散らしてしまえよ。
「……こちら整備班。ええ、蒼騎凌斗のISにも取り付けました。どちらかが発動すれば、もう片方も強制的に発動します」
◇◆◇
アリーナの中央に集まる4機のIS。その全てが違う色、違う国によって作られた機体だ。
「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けた」
「そいつはこっちも同じだぜ」
ドイツ製の黒いIS、"シュヴァルツェア・レーゲン"を身に纏った少女──ラウラ・ボーデヴィッヒが目の前にいる日本製の白いIS、"白式"を操る男──織斑一夏へ向けて口を開く。
対する一夏も、ラウラ・ボーデヴィッヒには好戦的な口調で返す。
「決着を付けるぞ、シャルル・デュノア」
「凌斗……」
一夏の隣、オレンジ色のフランス製IS"ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ"を使うシャルル・デュノアへと宣戦布告するのが、シアンカラーのイギリス製IS"シアン・バロン"に乗る俺──蒼騎凌斗だ。
まずは、何よりも気に入らなかったフランス人形との決着を付ける!
「叩きのめす」
試合開始の合図と共に、一夏とラウラ・ボーデヴィッヒが同じ言葉を発する。
その直後、一夏は
「開幕直後の先制攻撃か。が、貴様の動きは読みやすい」
しかし、折角の奇襲も失敗してしまえば無意味だ。特に、一夏は戦い慣れしていないことと武装が雪片弐型しかないことから、動きが単純化している。
ラウラ・ボーデヴィッヒは前方に停止結界を貼ることで簡単に一夏を捕えてしまっていた。これが一対一なら、この時点で一夏の負けが確定しただろう。
「呆気ないな、ここで死ね」
「させないよ」
レールカノンが動けない一夏の頭に狙いを定めていると、その上を飛び越えたシャルル・デュノアがアサルトカノン"ガルム"の
そう、これは二対二のタッグマッチだ。一夏が先制攻撃によって囮になり、シャルル・デュノアがその隙を突く。俺達が事前に組んだ作戦通りの展開になった。
「くっ!」
「逃がさないよ!」
射撃によってレールカノンの照準が狂い、ラウラ・ボーデヴィッヒが距離を取ったことで一夏も解放される。
間髪入れず、シャルル・デュノアは左腕にアサルトライフルを呼び出し、畳み掛ける為に突撃姿勢へと移行する。
シャルル・デュノアの専用機はこの中では唯一の第二世代ISのカスタム機で、単純な機体性能なら恐らく一番下だろう。
それを補って余りある戦闘力を引き出しているのが、
様々な種類の重火器を、戦闘を行いながら次々に呼び出す。シャルル・デュノアの器用さと判断力があってこそのものであり、機体の特性と使用者の技能が見事に噛み合ったが故の恩恵である。
「貴様の相手は俺だ!」
その大量の重火器も、接近戦に持ち込めば然程怖くはないがな。
一夏が囮を務めることを読んでいた俺もまた、ラウラ・ボーデヴィッヒを囮に使わせてもらった。おかげでシャルル・デュノアを俺の距離に引きずり込むことが出来た。
俺はスペリオルランサーでアサルトカノンを突き刺し、一夏とラウラ・ボーデヴィッヒから距離を離すべくシャルル・デュノアを引っ張りながら移動した。
「凌斗!」
「無駄だ!」
シャルル・デュノアが向けて来たアサルトライフルを蹴り落とし、俺はそのまま慣性に従って奴を投げ飛ばした。
だが、二丁の銃を失ったところで、シャルル・デュノアにはあまり効果はない。すぐに次の銃を取り出しながら俺へ発砲してくる。
「チッ」
俺はスペリオルランサーを地面に突き刺し、無理矢理方向転換することで発砲を回避。
移動しながら次に呼び出したヒュドラの弦を引く。どうせ近寄らせてはくれないだろうからな、矢で対抗してやるさ。
「シャルル!」
「何処を見ている!」
シャルルが引き離されたことで、孤立する一夏。なんとか合流しようとするも、ラウラ・ボーデヴィッヒのワイヤーブレードがそれを阻む。
一夏はラウラ・ボーデヴィッヒの攻撃をかわしつつ、一人で隙を伺いながら戦うことになった。
これもまた、訓練の中に入れておいた事例通りとなったのだがな。
「凌斗、まさかこうなることを読んで!」
「仮に貴様等と当った時に、一夏に邪魔をされたくなかったからな!」
一夏にはあらかじめ、シャルル抜きでも戦えるよう相手の攻撃を
勿論、これは対ラウラ・ボーデヴィッヒの為の策でもあった。AICで動きを封じる奴に、接近戦はあまりにも不利。なら、発射速度の遅いレールカノンはまだしも素早く相手を翻弄できる6本のワイヤーブレードをかわしながら隙を作らせた方が無難だ。
そして今、一夏は訓練通りワイヤーブレードを見切り、雪片で捌きながら対抗して見せている。素人同然の剣道小僧からは確実な進歩が感じられてた。
そうでなくては、俺とシャルル・デュノアが戦いに集中できないからな。
「そんなに僕が、デュノアが憎いの!?」
シャルル・デュノアが叫びながら二丁のショットガン"レイン・オブ・サタディ"を放つ。
が、俺のシアン・バロンは基本装備だったBT兵器を全て外し、身軽になった機体だ。素早くジグザグに動く回り、ショットガンの連射を回避した。
「ああ、憎い! 貴様のことも、デュノア社のことも!」
デュノア社はどちらかと言えば、憎いに決まっている。下らない理由だと笑う奴もいるだろう。祖父の果樹園を、唯一の生き甲斐を奪っただけ。その後の死因に深く関わっているわけではない。
それでも、俺や祖父の想いを権力で握り潰したデュノア社が自分の弱さの象徴のように思えた。だから、心の奥底では怨んでいた。
シャルル・デュノアについてもだ。自分に対するスパイなんて、許せるはずがない。裏切り者を、一夏のようにすんなりと許し、受け入れられるほどの聖人君子じゃないんだ。
「だがそんなこと、今はどうでもいい!!」
そう、今の俺の怒りの矛先はデュノア社でもコイツのスパイ行為でもなかった。
ヒュドラの弧にエネルギーを込めて振るい、シャルル・デュノアのショットガンを破壊する。
このまま奴がどんな銃器を取り出そうと、一撃だけは喰らわせる!
しかし、シャルル・デュノアが取り出したのは近接ブレード"ブレッド・スライサー"だった。ブレードによってヒュドラの攻撃は防がれてしまい、火花が俺達の間を舞う。
「お前は誰だ!」
「えっ」
俺から投げかけられた質問に、一瞬戸惑うシャルル。
その隙を見逃さなかった俺は弧でブレッド・スライサーごと奴の腕を押さえながら、ヒュドラの弦を素早く引いて離す。
光の矢を真っ向から受けたシャルル・デュノアは衝撃で吹っ飛ばされるが、すぐに体制を持ち直した。
「お前は誰だと聞いているんだ!」
すぐに距離を詰め、俺はもう一度問いかける。
「僕は──」
「デュノア社の操り人形か!? フランスの代表候補生か!? 俺達の仲間か!? 母親を失った憐れな子供か!?」
奴には色んな側面があった。だが、そのどれもが目の前にいる
高速切替で銃器を呼び出しては切り捨てられ、シャルル・デュノアは二重の意味で追い詰められていく。ISバトルでも、精神面でも。
「自分が何をしたいのか、どう生きたいのか! 自分の道くらい自分で選べ!」
「だって、僕には居場所が」
「そんなもの、自分で作れ!」
俺がコイツに一番抱えていた怒り。それは自分の道を諦め、決めようとすらしなかった虚ろな態度にあった。
命令だから仕方ない。自分には居場所がないから、選択肢なんてない。逃げの言葉ばかりで、自分の意思をまるで感じさせないシャルルに苛立ちを募らせていた。
俺は右手にヒュドラ、左手には新たに呼び出したレイピア"スーパーノヴァ"を握り、判断力を失って両腕の盾で防ぐことしか出来なくなったシャルル・デュノアを斬りつけていく。
「俺はまだ! お前自身がどうしたいのかを聞いてない! 命令だからだとか、選択肢がないだとか、そんな弱い言葉で逃げるな!」
スーパーノヴァを投げ捨て、ヒュドラの弦を目一杯引きエネルギーを充填する。そのまま、動揺のあまり隙だらけのシャルル・デュノアへ巨大な光の矢をぶつけてやった。
まだエネルギーは余力を残しているようだが、倒れたままのシャルルの瞳は高速切替を使いこなせるほど落ち着いてなどいなかった。
「じゃあ、どうすればよかったのさ。僕は、僕の存在は誰にも必要とされてないのに!」
「簡単だ。そんな連中、斬り捨ててしまえばよかったんだ」
「そんな、簡単なものじゃ……」
「簡単なんだよ。数回しか話さない、そんなに会ったこともない。自分のことを道具扱いするような奴、親だと思い続ける方がどうかしている」
傍に突き刺さっていたスペリオルランサーを引き抜き、俺は淡々とシャルルに向かって言い放つ。
問題なんて、常に自分がどうしたいかなんだ。俺が転生することを選んだのも、世界最強のIS操縦者になると決めたのも、全て俺がそう生きた末の
「さぁ、言ってみろ。お前の言葉で、お前がどうしたいか。その先の障害を排除することぐらいなら手伝ってやる」
お前がスパイとして生きるというのなら、全力で相手になってやる。デュノア社と決別したいというのなら、その追手から守ってやる。ただの女として亡き母を慈しみたいのなら、その墓前に花を添えてやる。
弱者の願いに答えてやるのも、強者の務めだ。
「……本当? 僕は、選んでもいいの?」
「シャルル・デュノアがそうありたいと、願うならな」
ずっとそう伝えたかったのかもしれない。お前の人生なんだから、自分で行く道を選んでもいいんだと。
いつからこう怒りっぽくなってしまったんだろうな。前世でも、現世の"蒼騎凌斗"でもこんな性格ではなかったというのに。
シャルルは涙を流しながら、ゆっくりと立ち上がる。
が、その空気を壊すかのように、俺達の間へ巨大な流れ弾が撃ち込まれた。
「シャルル!」
シャルルを庇うように倒れ込み、俺は砲撃を回避する。今のは、恐らくシュヴァルツェア・レーゲンのレールカノン。
会場の反対側を見ると、未だに攻撃をかわしながら戦う一夏と、周囲のことなど意に介さずに一夏をつけ狙うラウラ・ボーデヴィッヒが鬼ごっこの真っ最中だった。
「……言ったはずだな、ラウラ・ボーデヴィッヒ。邪魔をすれば、貴様を潰すと!」
まるでやかんの中身が沸騰するように、頭に血が上る。
俺はヒュドラを手で一回転させる流れで構え直し、弦のグリップを力強く引く。エネルギーチャージを告げるシグナルが赤に変わった。狙いは──シュヴァルツェア・レーゲン。
「一夏、零落白夜の準備をしろ」
「りょ、凌斗?」
プライベートチャネルで一夏に指示しながら、俺はグリップを握る指をそっと離した。
引き絞られた弦は元の位置に戻り、弧の中央にある
「何っ!?」
矢はシュヴァルツェア・レーゲンの黒い装甲に当たり、エネルギーが炸裂する。
予想外の攻撃を受け、ラウラ・ボーデヴィッヒが憤怒の籠った眼差しを俺に向ける。
「この裏切り者がっ!」
「ラウラァァァァァァッ!!」
余所見は禁物だ。
俺に気を取られたラウラ・ボーデヴィッヒへ、一夏が叫び向かって行く。
「甘いっ!」
しかし、ラウラ・ボーデヴィッヒも目の前に敵がいるのに注意を逸らすほど馬鹿ではない。
一夏の声がした方向へ腕を伸ばし、AICによる停止結界を張り巡らせた。あとは動けなくなった一夏をレールカノンで打ち抜くだけだ。
「お前がな!」
一夏が素直に引っかかっていればの話だが。
停止結界の中に一夏の姿はなく、代わりにいたのはアサルトライフルの弾丸だった。
加えて、結界の範囲外からも同じアサルトライフルからの射撃が放たれ、ラウラ・ボーデヴィッヒを襲う。
予想外の事態に、ラウラ・ボーデヴィッヒは混乱する。一体何が起こったのか、その答えはすぐに出た。
一夏が使っているのは、元はシャルルが使っていた銃だった。他人の武装でも使用許可さえ下りていれば使用可能になる。
ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡに搭載されている重火器は通常の倍近い。その内のいくつかを戦闘中、一夏に貸し与えることなんて容易いことだ。
これこそ、白式の武装が雪片弐型のみだと思い込んだラウラ・ボーデヴィッヒを欺く、一夏とシャルルの最後の奇策だったのだ。
「この死にぞこないがぁぁぁぁ!」
吠えるラウラ・ボーデヴィッヒだが、何もかもが遅い。
既に間合いを取られ、零落白夜も発動済み。もし、パートナーの俺にでも頼み込めば、助けてやらんこともなかったのにな。
「はああああああっ!!」
雪片弐型の一閃が遂にラウラ・ボーデヴィッヒを斬り裂く。
「バカ、な……私が……」
ラウラ・ボーデヴィッヒが手を伸ばす。まるで力を求めるように。
そんな願いとは裏腹に、黒いISは解除する兆候をみせた。
◇◆◇
「いよいよですね」
「ああ」
来賓の席に座るドイツ軍の男達が満足そうに微笑む。
自国のISが負ける瞬間だというのに嬉しそうだと感じる様子に、誰もが不思議に思うだろう。最も、周囲は試合に夢中になっているのでこの男達のことなんて気にも留めていないのだが。
「"VTシステム"が発動する」
男の台詞に応じるかのように、アリーナでは二ヶ所で異変が起こり始めていた。
◇◆◇
「ああああああっ!!」
敗れ去ったと思われたラウラ・ボーデヴィッヒが叫び出す。更に、解除しかかっていたシュヴァルツェア・レーゲンからも眩い雷が走った。
その衝撃で一夏が吹き飛ばされる。同時に、零落白夜も役目を終えたように消えてしまった。
「な、なんだ……?」
次の瞬間、奇妙な光景に目を疑った。
シュヴァルツェア・レーゲンがドロドロの蝋燭のように溶け出し、ラウラ・ボーデヴィッヒを包み込んだのだ。
浮遊部位も、レールカノンも、自慢だった武装やラウラ・ボーデヴィッヒ自身が身に纏っていたISスーツすら形を失い、ぐちゃぐちゃに混ざり合っていく。
やがて泥の塊は一つの形状を高速で作り出していった。ボディラインはラウラ・ボーデヴィッヒのものだが、腕や足の装甲はシュヴァルツェア・レーゲンのものではない。更に奇怪なのは、頭を覆うフルフェイスアーマー。目の部分は赤いセンサーが光っている。
「
全身を黒く染めた姿に、俺は先月戦った無人機の存在を思い出す。姿形は似ても似つかないが。そして、今回は中に人間がいる。先月のようになりふり構わず攻撃する、ということは出来なさそうだな。
「ぐっ、あ、あああああああっ!!」
が、異変はこれだけでは済まなかった。
何故か、ダメージをそこまで受けていない俺の方にも同様の現象が起きそうになっていたのだ。
「凌斗!」
「がああああっ! こ、これは……!」
一瞬で悟った。アイツ等の仕業だ。
試合前、ドイツ軍が変なものを仕込んだに違いない。もっと警戒していれば……!
「シャル、ル……逃げろ……!!」
頭の中に、何かが入り込んでくる。不気味で、ドス黒くて、違和感しか感じないもの。
衝撃に吹き飛ばされるシャルルの姿を見つめ、俺の意識は暗い海底に沈むかのように何かに飲まれていった。
◇◆◇
『願うか? 汝、自らの変革を望むか? より強い力を欲するか?』
意識を飲み込んだ何かが語り掛けて来る。
強い力……あぁ、そうだな。欲しい。最強の力が欲しい。
けど、それはテメーに頼まなくたって、俺は必ず手に入れてやる。
『何のために』
何?
『何故戦う?』
俺が戦う理由?
そんなもの……あれ、何だったっけか?
頭の中を色んな記憶が駆け巡っていく。
シャルルの正体が発覚したこと。
ラウラ・ボーデヴィッヒがセシリアと鈴を倒したこと。
学園へ無人機が攻め込んだこと。
セシリアと決闘すること。
『デュノア社』
そして、祖父の果樹園を潰された時のこと。
『デュノア社が憎い』
俺は、祖父の笑顔を守ってやれなかった。権力に屈するしかなかったのは、俺も同じだった。
『憎め』
だから、俺は力が欲しかった。
『憎め』
そうだ。
『憎め』